Fate/BattleRoyal
48部分:第四十三幕

第四十三幕


 水族館の正面玄関で始まった大乱戦は傍目から見ればイリヤや凛、アンシェル達の連合が圧倒的に優勢であった。襲いかかる古代南東欧の甲冑に身を包んだ兵士達は確かに人外の存在で一人一人の技量と練度、連携は寄せ集まっただけに過ぎない死徒の群れとは比べ物にならない質であったが、精々が下級のサーヴァント・クラス。ここに集った名のある百戦錬磨を誇る英霊達の敵ではなかった。
ヘラクレスはイリヤを肩に抱きながらもその勢いはまるで暴風雨に等しく通った傍から鮮血と肉塊が弾け飛ぶ!さながら重装甲車に踏み潰されたが如しの有様だった…!
「うわぁー!ヘラクレスすごーい!!」
イリヤはヘラクレスの肩に抱きつき彼の言いつけ通り眼を瞑りながらも身体に伝わってくる疾走感に興奮した声を出す。
「イリヤ、口を閉じていなさい。舌を噛むぞ」
ヘラクレスは抱き抱えたイリヤに配慮しながら加減して疾走するが、それでもその速度は並みのサーヴァントでは到底追いきれぬ物だった…!
「まったく、私のマスターもあの子くらいの度胸と覇気があって欲しいものです…。『騎英の手綱(ベルレフォーン)』!!」
メドゥーサも未だに白眼を剥いているマックを背に愚痴りながらもペガサスを駈り真名開放による突貫でヘラクレスに負けず劣らず敵の軍勢を秒単位で削り取る。
エイダのセイバーは多勢に無勢の戦況の中にあっても端麗な面貌を微動だにせず汗一滴すら掻かない涼しげな面持ちでマスターである彼女の前を一歩たりとも動かず黄金の柄と真紅の刀身が際立つ大剣を振るって迫り来る敵を一刀の元に斬り伏せる。敵は多方向から攻めるが、セイバーは臨機応変に対応し絶技と化した冴え渡る苛烈な剣戟で如何なる者も寄せ付けない…!何人かの兵士達が長槍による突き技や遠方からの弓矢を繰り出すも、それらはセイバーの身に直撃した途端に力を無くし、かすり傷一つ付ける事すら叶わなかった!エイダもその後ろで的確な支援を行ってセイバーを補助している。
「この浅井備前守長政!主には一歩たりとて近付かせぬ!!」
長政は蒼と金で形作られた馬上槍を縦横無尽に振るい敵兵を薙ぎ倒していく。しかも長政が槍を振るえば振るう程に長政自身が加速し敵兵は何れも彼を捕捉するどころか視認すらできない!一方で義景は星羅と刻羅の前に仁王立ちしたまま長政の後方から長弓を番え迷いなく矢を矢継ぎ早に放つ。その弓技は絶技と言うほどの技術ではないが、それでも堅実且つ精錬された紛う事なき一流の技だった。その正確な矢は一射で二人の兵を諸共に射抜いて確実に敵兵を間引いていく…!
「す、すごい…!」
刻羅は感嘆の声を出すが、矢を番えながら義景は否定する。
「いや、私程度の腕など腐る程いるさ。それ以上の者もな…!」
そう言って一度に二矢を番えて放ち四人の兵を討ち取る。その様を信長は自らもウェポンとして具現した『国友筒』を敵兵に次々とぶち込みながら賛辞する。
「ほお、戦の“い”の字も知らん引き籠もりと思ったが…やれば、中々できるものではないか!」
義景は憮然とした表情で弓を引きながら答える。
「引き籠もりは余計ぞ…。と言うより戦場で無駄話などそなたにしてはらしくないな」
すると、信長は後ろから襲いかかった兵に振り返りもせず短刀を投擲して眼を抉り抜く。
「なに気にするでない。これは“余裕”というものだ。とは言え…そろそろこの雑兵共にも飽いた。早々に決着(ケリ)を着けるとしようか…!」
信長は瞳孔を開いたかと思うと全身から夥しい蒼白い焔を迸らせる。
「おわっ!?な、何だ、ありゃあ!?」
今になってマックは正気に返り信長を包むように燃える蒼白い焔を凝視する。
「マスター、やっと現実に帰ってきましたか…。それはそうとあれは恐らく魔力放出の能力でしょう。しかも昨日のサーヴァントと同じく唯の炎ではありませんね」
メドゥーサは呆れたような声でマスターの疑問に答え推量を述べる。それを信長は破顔して肯く。
「然り…!これは言わば冥土の残り火、『天魔波旬の魔焔』よ!そらっ!!」
信長は腰の茶色の拵えが柄に施された太刀を抜き放ちそれと共に蒼白い炎が刀身から弾かれるように無数の火の玉となって敵兵に降り注ぎ逃げる間は愚か払う間すら与えずに燃え散らす!!だが、それだけに飽き足らず信長は魔力放出による加速により火の玉から逃れようと慌てて退いた敵兵の真後ろに移動する。
敵兵達は思わずギョッとしかけるが、その間もなく―――!
「遅い―――」
信長はそう言って国友筒を撃ち放った。放たれた弾は魔力放出の魔焔で包まれており弾が敵兵が轟く雪崩に吸い込まれたかと思うと瞬く間に複数の敵兵は大砲に吹き飛ばされたかのようにまとめて四散した。更にそれだけでは終わらず魔焔で龍を象るとそれで周囲の敵を渦巻き状に焼き払ってしまった…!!
「相も変わらずお見事―――」
長政は感嘆の眼で義兄の武勇に眼を瞠る一方で義景は若干面白くなさそうな声で吐き捨てる。
「相も変わらず派手好みな事だ…。しかし羽目を外し過ぎではないか?そのように魔力放出を好き放題に酷使していればそなたのマスターとて…」
だが、その指摘とは裏腹に信長のマスターである和樹は全く堪えた様子はないどころかサーヴァントに負けず劣らず獅子奮迅ともいうべき活躍をしていた。彼は二丁拳銃を巧みに操り敵兵の急所を的確に射抜いて信長達へ的確な援護をしているのみならず近づいた敵兵に蹴りを入れて吹き飛ばした上にすかさず撃ち抜くという芸当を難なくこなしていた。おまけに彼が放った弾丸に穿たれた敵は貫かれるのみならず瞬く間に爆散した。それも信長と同じ蒼い魔焔に包まれて。流石に一撃で複数の敵を倒す程の威力はないが、士気を挫くには充分過ぎる一撃だった。
「俺のマスターが…何だ?」
唖然とした義景に対し信長は得意満面な笑みを浮かべてみせる。
「あわわわ…!お、お姉ちゃん、あのお兄さん凄いね…!!」
刻羅は和樹を憧憬が篭った眼差しを注ぎ、星羅も生唾を呑み込んで肯く。
「ええ…。あれだけの魔力放出を使われたら並みの魔術師なら指一本すら動かせない程の負担でしょうね。仮に一流の魔術師だったとしてもまず一切の魔術行使は不可能と見ていいでしょうよ…!それが―――」
星羅の言葉を引き取るようにエイダもセイバーの支援をしながら思考し推察していた。

あの拳銃の弾は恐らくルーン魔術を応用したものね。それと若干呪術も組み込まれているのかしら…。何より、あれだけ強大なサーヴァントが魔力放出なんて明らかに燃費が最悪に等しいスキルを酷使しているにも拘らず当然のように魔術を行使しているなんて―――!

エイダとて自らも一廉の魔術師であると言う自負はあるが、この少年と同じ事が出来るのかと問われれば否と答えざるを得ない。あの少年の魔力量は底無しだとでも言うのだろうか!?

道三も蝮を象った長槍で敵を屠りながら興味深そうに和樹を見てカルナに言う。
「ほお…成る程。うつけ殿が絶賛するわけよな。のう、お主もそう思わぬか?お主のマスターもこれくらいの甲斐性があれば、お主とて不自由をしなかったものを…なあ『施しの英雄』よ」
一方、当のカルナは雷神の大槍による神域の槍捌きと魔力放出による炎を巧みに組み合わせて信長に負けず劣らず敵の軍勢を削り取っている。それが一段落終わった所で道三の問いに何時も通りの感情のない冷たい淡白な声で答える。
「要らぬ杞憂だ戦国の毒蛇よ、我がマスターは十二分に優秀だ。不自由など元より感じてはいない。寧ろそれ以上は我が主への侮辱と受け取らせて貰う」
斯く言う、このカルナも信長に負けず劣らずにマスター泣かせと言って過言ない魔力喰いのサーヴァントだ。常時展開している彼を不死身たらしめる黄金の鎧に加え得物である雷神(インドラ)の神槍、宝具すら溶解させかねない炎の魔力放出と正に魔力消費量が馬鹿にならない要素のオンパレードだ。如何に今回の戦争に置ける聖杯のバックアップが甚大とは言え、これらを最大限に行使していては幾らマスターが優秀だった所でとても保つものではない。
幸い伯斗はカルナが言った通り一流の魔術師に輪を掛けて優秀である為、ある程度の無理は利くが、流石に無尽蔵というわけにはいかない。それ故、カルナは信長と比べて魔力放出を加減と節約で以て行使している。道三としては、それを踏まえての指摘だったのだが、カルナは余計な世話だと冷たく一蹴する。それに対し道三は手をヒラヒラとさせて嘆息を付く。
「相も変わらず大したマスターへの忠義立て大義よな…っ!」
そう言って彼も自身の背後に忍び寄った敵に自らの槍を瞬時に逆さへと持ち替えて刺し貫く。
「ランサー、もっと真面目にやれ。戦闘中だぞ」
「青二才の分際で興を殺ぐような事を言うでないわ。小娘のセイバーと殺り合って以来の戦場ぞ?少しは遊ばせい」
マスターであるアルベールの叱責を道三は軽く受け流して老獪な槍術を以て向かって来る兵達を切り伏せる。

「ヒュー♪どいつもこいつも伝承に違わずやりなさる事で…さて俺達も負けてはいられなえよな?」
ナヒは口笛を吹きながらも闘志溢れる声で構え孫策も肯く。
「応よ…!こっちだって大英雄の看板しょってからな。そうそうこいつらだけにいい格好はさせられねえよなああああああああああッ!!」
そう咆哮するや否や孫策は長剣とトンファーを抜き弾丸の如く疾駆して自分達を囲む軍勢の中へ特攻し血と肉塊の雨を降らせた。
「まったく、孫策殿にも困ったものだ…。マスターの存在を忘れてはいまいか?」
的盧を駈りながら双剣を抜いてマスター達が乗っているニコラウスのソリに群がるように襲い来る軍勢を迎撃していた劉備は一人特攻した孫策に対し嘆息を付いていた。
「なあにこんな奴ら俺達だけで充分だぜ。確かに死徒よりはちったあマシだが、この程度本物の英霊の足元にも及びやしねえ…!」
ナヒは豪快且つ繊細なそれでいて極めて鋭い拳打と蹴り技を繰り出して敵を何れも一撃で沈めながら吐き捨てる。
「Ho Ho Ho Ho Ho,まったくじゃのう」
ニコラウスも朗らかな笑い声を上げながらもソリに上空から飛び掛らんとした敵を魔力放出による吹雪で瞬時に凍結させて弾き飛ばすなど随所で活躍している。
ソリにいる凛達は身を低くしながら自分のサーヴァント達を含む皆の活躍に眼を瞬かせていた。
「凛ちゃん、サンタさん達すいごいね…!」
コトネの言葉に凛も肯く他なかった。
「うん…!お父様から『アサシン』は戦闘向きのサーヴァントじゃないって教えられていたけど、ナヒはそんなの関係なしに強い…!!」
凛は迫り来る敵をアサシンらしからぬ洗練された武によって一撃で屠る自身のサーヴァントを憧憬にも似た視線で見ている。
その中で不意に愛歌が首を傾げて言う。
「あれ?あの“アンシェル”っておじさん…」
愛歌の言葉に凛達もアンシェルを見て呆気に取られた。とは言えそれは凛達だけに及ばずこの場にいるマスターやサーヴァント全員が我が眼を疑った。
なんとアンシェルは戦闘の只中で折りたたみ式の円卓テーブルと椅子を広げてお茶に興じていたのだ…!?
「ふむ…。やはりセイロンティーはスワラエリアに限るな。これぞ紅茶の芸術だ」
アンシェルは感慨深い顔でカップを啜り満足気な声でのたまう。そして次の瞬間に響いたのは当然…。
『なあにをやってんだあああああああああああああああああッ(やってんのよおおおおおおおおおおおおおおッ)!!あんたはああああああああああああああああああああッ!!!』
憤怒の咆哮だった…。
「いえ。私は何時如何なる時もティータイムは欠かせぬ性分でしてね。これをやらねば一日が始まらない」
然も当然のように答えるアンシェルに星羅は喰ってかかる。
「もう夕方よ!この唐変木ッ!!あんた…今のこの状況が見えない程眼が腐ってんの!?それとも空気もまるで読めねえKYなのかッ!?ああん!!」
「お、お姉ちゃん…」
刻羅は口汚く罵る姉を宥めるように声を掛ける。
「く、クライアント…!あんたこんな時に何を…!?」
普段は冷静なアルベールすらも上擦った声で焦るが、彼のパートナーである道三は何でもないような声で言う。
「放っておけ小僧。ここは戦場ぞ。今は眼前の敵に集中せい」
「だな…」
「然り」
伯斗とカルナも道三の言に肯き構わず得物を振るう。
「お、お前らなあ〜〜〜〜」
アルベールは呆れるやら怒れるやらで何とも言えない声を出す。
「うわぁー、まるでやる気が感じられねえよ…」
マックは呆れ切った声を出しメドゥーサも肯く。
「ええ…。彼は一体何をしに来たのでしょうか?」
「ふう…。噂には聞いていたけれど、随分と困った方のようね」
エイダが溜息をつくとセイバーは少し呆れたような声を出す。
「いや、エイダ…。そういう問題か?」
一方、最も怒り狂っていたのは信長だった…。
「貴様…!話す暇がないなどとのたまわって置きながら戦場で悠々と茶に興じるとはいい度胸よのう?それ程までにその脳天撃ち抜かれたいか…!?であるならば是非も無しよッ!!」
そう言って『国友筒』の銃口を魔焔を迸らせながらアンシェルに向ける。
「の、信長公―――ッ!!早まらないで―――ッ!!」
和樹はサーヴァントの乱心に顔を青ざめて絶叫する。
一方、当のアンシェルは優雅な笑みを絶やす事なく言う。
「まあまあ、そう殺気立たずに―――ん?」
だが、その直後に茶を愉しむ彼の背後から兵達が剣や槍を振り上げた!それを見た凛は思わず叫ぶ。
「危な―――!!」

ガキンッ!!

しかし、それは杞憂に終わった。アンシェルは手にしていたティーカップを頭上に掲げると円状の結界を布いて斬撃を防いだのだ…!!
そして、斬りかかった兵達はそれにギョッとする間もなくその身体は瞬く間に細かい肉片へと変わっていた。無論、それを為したのは、太陽のような金髪を靡かせた白銀の騎士だ。
「この程度の不浄、私や主には通りません」
ガウェインは悠然とした佇まいで断言する。
「す、凄い…!!」
凛はゴクリと生唾を呑み込みナヒも剣呑な瞳に畏怖を宿している。
「あの野郎…剣筋が殆ど見えやしなかった…!!しかも傷一つ負ってねえばかりか汗一つも掻いちゃいねえと来やがる」
「へっ!流石は円卓の騎士第二位の猛者ってか」
孫策ですらも引き攣った笑みを浮かべている。
「いや。太陽の騎士もそうだが、あのアンシェルという御仁も中々どころか相当な魔術師と見受ける。座したままあれ程高密度な結界を構築するなど…!!」
劉備もアンシェルの技量を冷静に分析して驚嘆していた。
「ふん!大言を吐くだけの器量はあるようだな…」
信長もぶっきらぼうな声音ながら国友筒をアンシェルから逸らして言外に賛辞を送る。
「恐縮です」
当の本人も引き続き紅茶を飲みながら応じる。

『ほう…!中々にやるものではないか』

突如、響く声に全員がハッとなり声の出処を探すが声の主の姿は視認できなかった。それもそのはず、声は遠く水族館の入口の向こうから響いているものだった。一方で声は更に言う。
『流石は古今東西に名を轟かせた豪傑揃い…このようなサーヴァントの為り損ない共では相手にもならんか。まあ…当然だろうがな』
その声はこの上もなく傲岸で聞く者にある種の生理的な悪寒を感じさせた。
「コソコソと姿も見せず高みの見物気分という訳か?この俺を前にして、その傲岸高く付くぞ…!」
信長が凄むと声は怯むどころかますます愉快気に笑う。
『ククククッ!そちらこそ(おれ)を前にしてガンを飛ばしてくるとは命知らずもいい所ぞ。まあ良い。なかなか面白い物を見せてくれた礼だ、特と赦す。だが、座興はこれまで。さあ、貴様らも英雄としての気概があるならば舞台に上がって来るがいい。(おれ)は貴様らが言った通り高みに座してそなたらを待とう…』
そう言った切り、声は途絶え生き残った兵達も水族館の入口へと吸い込まれるように消えた。だが、入口からは変わらず圧倒的に禍々しい威圧感が噴出していた…!!
「どうする?」
凛はソリの中で皆に尋ね正哉が代表して意見する。
「はっきり言って危険過ぎるよ。水族館はもうこいつらの根城になっていると思った方がいい」
それに凛も肯く。
「そうね…。魔術師なら自分に有利な工房を構築するのはセオリーだってお父様も言っていたし…」
「ああ。もし連中にキャスターのサーヴァントがいるなら尚更だな…」
ナヒも眉を顰めながら推論を口にする。
「あっ!お兄ちゃん、みんな!あ、あれ…!?」
愛歌が悲鳴に近い声で指差すのを見て皆がその方角を見ると途端に絶句した。倒した敵兵の骸が消滅の残滓を迸らせているのだが、問題はそこではない。その残滓が消える傍から代わりに現代相応の黒いスーツを着込んだ人間の骸が現れたのだ!それを見たエイダは事態をすぐさま察する。
「どうやら兵士の亡霊を生身の人間に憑依させる事で下級サーヴァントクラスの戦闘力を付与させていたようね…」
「つまり、此奴らは使い捨ての駒という訳か…」
義景は複雑そうな声音で吐き捨てる。
「まあ、儂らの時代では常道だがのう」
それに対し道三は特に含む所はない声音で言う。
「へっ!俺は気に入らねえ…!」
孫策は顔に不快さを隠しもせずに吐き捨てる。劉備やエイダのセイバーもそれは同様なのか、明らかに顔を顰めている。
その中でアンシェルは言った。
「行きましょう」
その言葉に皆は一斉に彼を見る。一方でアルベールはアンシェルに諫言する。
「クライアント、ハッキリ言うがそれはお勧めできない。これは…明らかに罠だ」
だが、アンシェルは何時になく決然とした声で言い放つ。
「だからこそだよ。“虎穴に入らずんば虎徹を得ず”後手に回るだけでは王手には届かない」
「この身は元より貴方の剣。行く先が冥界で在ろうともお供仕りましょう」
ガウェインは一切の異論を述べず恭しく主命を拝命する。
「確かに一理はあるわね…」
星羅は顎に手を当て一考しながらもアンシェルの案に肯く。
「主よ。某は些か無謀に思えまするが…」
長政は懸念を口にするが、不意に信長は入口へと迷う事なく歩を進める。
「の、信長公!?」
和樹が戸惑った声を上げるが、信長は構わず言う。
「言われるまでもなくここは進むまでよ。それに俺の感が言うておる。ここには良くも悪くも何かがあるとな…」
「確かに…それは私も同感よ」
エイダも瞳に決意を宿し隣のセイバーも肯く。
「…ヘラクレス、マック、メドゥーサ、イリヤ達も行こう」
イリヤも歩を進める事を決意する。
「君が望むのなら私は従うまでだ」
無論、ヘラクレスはにべもなく了承する。
「ええー?あ、明らかに罠臭くねえ?」
マックは顔をあからさまに引き攣らせる。
「マスター、私もそれは同感ですが、あなたも少しはイリヤスフィールの度胸を見習った方が良いかと」
メドゥーサはマスターへ手厳しい一言を投げ掛ける。
「そうね…!ここで足踏みしたってしょうがないわ!みんな、私達も行きましょう!!」
「「「おー!」」」
凛達もイリヤに便乗し星羅もそれに続いた。
「決まりね。それじゃあ行くわよ!野郎共ッ!!」
「お姉ちゃん…。海賊の親分じゃないんだから…」
刻羅も呆れながらも肯く。
「やれやれ…長政よ。そなたも気苦労が絶えぬな」
義景が諦観の溜息を着くと長政も疲れた顔で肯く。
「はい…。まったくでございます…」
その肩をナヒがポンと叩く。
「俺もあんたと似たり寄ったりなマスターに呼ばれちまった身だ。ま、取り敢えずは元気出せよ「聞こえてるわよ!ナヒ!!」へいへい…」


こうして一同は魔窟と化した水族館の中へと足を踏み入れたわけだが…。

「ド真っ暗…だな」
マックは懐中電灯で照らして進む。そう館内はどこも電源が落ちており灯りを自前で用意しなければ進めない有様だったのだ。
そんな中、イリヤは凛達の傍まで来て自己紹介を始めた。
「そう言えば私の名前言ってなかったね。私、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン!長いからイリヤでいいよ!」
すると、凛は驚いて眼を見開く。
「アインツベルンってお父様が戦ってる魔術師の名前じゃない!?」
「お父様?」
イリヤがオウム返しに聞くと凛は少し気不味そうに答える。
「うん…。私は遠坂凛っていうの。私のお父様はこの戦争に参加しているの。ひょっとして、あなたのお父さんも?」
「そうだよ。イリヤのお父さんの切嗣もこの戦争にお母様と一緒に参加してるの」
そこへ星羅と刻羅が来て話に加わる。
「ふ〜ん。あんた達が冬木の聖杯戦争を始めた御三家の一族ってわけ?こんな所で巡り会うとは正に灯台下暗しって奴ね。と言うか、あんた達みたいな子供まで駆り出されるなんて…天下の御三家も人手不足なのかしら?」
凛は少しムッとなって答える。
「何よ。そういうあんた達だって子供じゃないのよ。あんた達こそなんでこの戦争に?」
「まあ、あたし達も色々あってね。けど、今はお互い止めときましょう。話が長くなるし場合が場合だしね…。ただこっちも自己紹介くらいはしておくわ。あたしは黎宮塚(れいぐうづか)星羅(せいら)。こっちは双子の弟の刻羅(ときら)よ」
「と、刻羅って言います。よ、よろしく」
刻羅は腰が低い挨拶を返すが、すぐさま星羅の叱咤が入る。
「シャッキとしなさい!舐められるような態度を取らない!」
「だっ、だって…」
一方、コトネ達も名乗り始めた。
「わ、私は山村コトネ。凛ちゃんの友達なの。よろしくね」
次に正哉が名乗る。
「僕は吉野正哉。死徒って吸血鬼から凛ちゃん達に助けられる形で参加したんだ。こっちは妹の愛歌」
「うん!愛歌だよ」
愛歌は兄の後ろに抱きつきながら名乗った。
「ええ。こちらこそよろしく。それじゃあお近づきの印として一献どうかしら?」
星羅はどこから出したのか一本のワインボトルを出して来た。
「それなーに?」
イリヤが首を傾げて聞くと凛が口を開く。
「それ確かお父様がよく飲んでる物じゃないかしら…」
凛の言葉に星羅は肯いて得意気に言う。
「ま、大抵の大人は嗜んでる物である事は確かね。私も親父の影響で飲み始めてドはまりしてるの。これは言わば大人の証よ。それであなた達もどうかしら?刻羅、グラス人数分!」
「え?で、でも…「キムチ…」ヒィィィィィッ!わ、分かった!」
と、刻羅はリュックから小さいグラスを人数分取り出す。星羅はそれを魔術で浮かせボトルのワインを注いでイリヤと凛達に渡した。
「さあ、これで一先ずの共闘の盃としましょう。これ結構な銘柄なんだから精々じっくり味わいなさい」
「うん。分かったー(ヒョイ)え、ヘラクレス?」
イリヤがいの一番にグラスに口を付けようとするのをヘラクレスがグラスを取り上げて防いだ。
「イリヤ、これはまだ君が口にする事は能わぬ」
「だな。ガキはジュースでも飲んでろよ」
ナヒも凛からグラスを取り上げて自分が飲み干した。
「お!これなかなかイケるじゃねえか」
一方、孫策は愛歌から取り上げたワインをナヒ同様口にしてご満悦だった。
「孫策殿…。飲んでいる場合ではなかろうに…」
劉備は正哉から自主的にグラスを手渡されながら孫策に呆れる。
「あら?毒なんて無粋な物は入ってないわよ」
星羅は泰然とのたまう。
「そう言う問題ではなかろう!?君達はまだ未成年者じゃろうに!!」
ニコラウスはズバリ問題の論点を指摘する。一方、コトネも自主的にグラスをニコラウスに渡していた。
しかし、星羅はそのような指摘など毛程も感じてはおらずドヤ顔でのたまう。
「ふっ、ワインに国境線も年齢線もありゃしないのよ」
「「「「「いや!年齢線はあるだろッ(あるじゃろッ)(あるであろうッ)!!」」」」」
無論一斉に突っ込まれた…。
「はっ、そんなものこそ大人が作った詰まらないルールでしかないじゃない。ワインはねえ、私の聖書(バイブル)なのよ。これがなかったらあたしは明日にも死ぬわ…(ドゴンッ!)ふぎゃ!?」
尚も意に介さぬ星羅にエイダが拳骨を頭上に落とした。
「何を寝ぼけた事を言っているの。その年で飲酒なんてしていたら、それこそ今にも身体を壊すでしょうに…」
エイダは普段は柔和な顔を顰めて諌める。
「まったくだな。と言うよりも貴公らサーヴァントでありながら何故諫めぬのだ?」
エイダのセイバーは星羅達のサーヴァントである長政と義景に矛を向けると長政はこの上もなく不本意な表情を浮かべ義景はと言うと諦観の嘆息を付いている。一同は怪訝な顔になるが、やがて長政が徐に口を開いた。
「…如何に某が諌めたくとも…某に掛けられた令呪がそれを赦しませぬぅ…!くぅ…!!」
遂には無念に忍び泣いた。
「私も同様の身だ。我がマスターは姉に脅され令呪を行使した」
「キムチいやだ〜〜〜ッ!!」
そんな長政の横で義景はなんの気もない声で答え刻羅は恐怖の絶叫を上げていた…。
「あなたって子は…!貴重な令呪をそんな事に消費したの?」
エイダは呆れが混じった叱声を上げる。
一方の星羅は相も変わらず憮然としている。
「ふん。元はと言えばランサーが悪いのよ。召喚された分際で私の至福の一時を邪魔しようとするから」
『それが当然だろうがッ(でしょうがッ)(であろうッ)!!!』
またも一斉突っ込みが入ると星羅はますます煩わしそうに眉を顰め嘆息を付く。
「ふぅー、まだ世界のセンスがあたしについてこれてないようね…」
「お姉ちゃん…それ多分物凄い勘違いだと思うよ…」
何気に刻羅からの突っ込みが入る。

ズガアアアアアアアアアアアアアアンッ!!

『!?』
劈くような爆音が聞こえたと同時に館内は大きく軋んで揺れ始めた…!
「どうやら早速おっ始めてるようだな…!」
ナヒは警戒を強める。
「ふん、是非も無し。参るぞ!!」
信長は魔力放出で加速し一気呵成に直感の赴くままに館内を駆ける。
「ちょっ!信長公!?」
和樹は慌てて信長の後を追う。
「相も変わらず我先に駆け出す男よ…」
義景は呆れたように息をつく傍で長政は懐かし気な笑みを浮かべる。
「それが義兄上という人です」
「うむ。まったく以てその通りよ」
道三も得意気な笑みで同意する。
「それよか俺達も出遅れねえように早く行こうぜ!」
孫策はそう言いながら信長の後に続く。
「それも道理ですね。ガウェイン」
アンシェルも肯きガウェインに目線で命じる。
「御意のままに」
ガウェインも肯いて疾駆する。
「よし!私達も行くわよ!!」
凛の言葉にコトネや正哉と愛歌、イリヤも加わって声を上げて共に駆け出す。
「おーッ!!」
「さて、刻羅!あたし達も行くわよ!!他の連中に遅れる訳にはいかないわ!!」
「う、うん!」
無論、星羅と刻羅の姉弟もそれに続く。
「待て、イリヤ!」
「やれやれ、本当に骨が折れるマスターだぜ…」
ヘラクレスやナヒらサーヴァントも子供達の後を追う。
「皆、元気だなあ…(バシッ!)いてっ!」
マックは呑気にそう言うが、後頭部にメドゥーサのチョップを受ける。
「何を呑気な事を言っているんですか?私達も追いますよマスター!」
「ええ、そうね」
エイダも肯きセイバーは彼女を抱き抱えながら疾駆する。





時は少しばかり遡り、エミヤの固有結界『無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)』の世界では…。

「チッ!鬱陶しいんだよッ!!」
鷹山は次から次へと剣を壊されては抜き壊されては抜くと言った戦い方を続けるエミヤを相手に拳と蹴りを以て応酬する。
「何度も言っているが、こんな模造品を山のようにして何度ぶつけようが無駄だ!俺の肉体に傷を付けるにゃ本物(いちりゅう)の宝具ならまだしもこんな模造品(さんりゅうひん)じゃ話になんねんだよおおおおおおおおおッ!!」
鷹山は咆哮しながら周囲に突き刺さる刀剣の山を手刀の余波で叩き壊す!だが、それでもエミヤの眼から光が消える事はなかった。
「言ったはずだ、塵も積もれば山だとな。鶴翼三連…叩き込む!」
エミヤは干将・莫耶を疾走しながらクロスさせて投擲し無論鷹山はそれを拳で難なく砕くが、その時には既にエミヤは新たな干将・莫耶を投影し終えていた。
「なっ!?」
これには流石の鷹山もギョッと眼を剥くが、その間すら与えず二回目の干将・莫耶が投擲された!流石にこれは迎撃が間に合わず鷹山は初めて防御の姿勢でそれを受ける!

チッ!成程な…。干将・莫耶の互いに引き合う性質を利用しての連続攻撃…!下級サーヴァントにしては工夫してんじゃねえ…ッゥ!!?

鷹山は防御したと同時に回転の速い頭でエミヤの技を見抜くが、それと同時にエミヤも三回目の投影を済ませた上に上空から斬りかかって来たのだ!しかも、その干将・莫耶はオーバーエッジへと強化された上で投影されていた…!!エミヤは容赦なくそれを鷹山の胴目掛けて袈裟斬りに斬った!!

ブシュゥゥゥゥゥッ!!!

「ぐぅぅッ!!」
初めての鮮血。遂にエミヤの剣は鷹山の鋼の肉体に傷を付けたのだ!だが、それだけでは終わらずエミヤは更に畳み掛ける。
「―――『赤原猟犬(フルンディング)』」
漆黒の長弓を投影し斬り付けた傷口目掛けて魔弾を矢継ぎ早に放った。
「あがぁぁぁぁぁああッ!!」
如何に鋼を誇る肉体でも流石に深手を負った傷への攻撃は堪えるのか獣のような唸り声を上げ鷹山は何時になく血走った眼光をサングラス越しにエミヤへと浴びせる。しかし、エミヤは意にも介さず次に投影したのは―――何と呂布の方天画戟だった。それをバーサーカーと戦闘を続けていた呂布自身も驚愕に眼を剥く。
「あ、あれは我の―――!!」
「―――投影、開始(トレース、オン)
エミヤは戟を『赤原猟犬(フルンディング)』に番えながら詠唱する。
「―――投影、装填(トリガー、オフ)
矢として番えられた戟が赤い閃光に包まれ臨界点を超える―――。
全工程投影完了(セット)―――『是・軍神五兵(ゴッド・フォース・ブレイドワークス)』」
赤い閃光がコンマ0,1秒と経たずに鷹山がいた箇所を走り抜け辺りに爆煙が土埃が立ち上がる。
「やりましたか…!?」
フランは希望的観測を声に混じえて問うが、エミヤは首を横に振った。
「いや、どうやら届かなかったらしい…」
それを裏付けるように禍々しい轟音と共に爆煙と土埃が薙ぎ払われた…!!
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――ッ!!!」
そこには鷹山の前に立ち漆黒の鎧に身を包んだ凶獣が双剣を手に咆哮していた。
「バーサーカー!い、いつの間に…!?」
フランが戦くように呟くのをエミヤは苦笑して答える。
「愚問だマスター。直前で奴が令呪を用いて転移させたに決まっている」
とは言え…とエミヤは戦慄を湛えた眼で鷹山のバーサーカーを見る。

あのバーサーカー、ステータスこそ隠蔽されているが、それでも破格の強大さを感じる。だが、今の砲撃を諸に喰らって流石に無傷で済むはずがない。恐らく当たる直前に得物の双剣で砲撃の軌道を瞬時に逸したのだろう。しかし、そんな1ミリの穴に極小の針を通すが如き芸当は幾ら生前にどれだけの武勇を誇ろうともバーサーカーなどでは到底不可能のはずだ…!あのギリシャ最強のバーサーカー(ヘラクレス)でさえ例外ではなかった…!にも拘らず、あのサーヴァントは一体―――!?

一方、鷹山は狂ったように笑っていた。
「へ、へへへ…ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!弱兵如きがこの俺に傷を付けやがるかッ!!いいねェ!快い…!いいぜぇッ!!戦争ってえのはこうでなくちゃならねえッ!!それでこそこの仕事を引き受けた意味があるってもんだッ!!!」
深手を負いながらも尚も冷めやらぬ戦意と殺意を迸らせる鷹山にエミヤは冷や汗を流す。
「けど、やられぱなっしってえのも面白くはねえよなあああああああああああッ!!バーサーカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」
「…ッ!!■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆――――ッ!!!!」
バーサーカーから圧倒的なまでの憎悪と悪意が凝縮された轟音と魔力が一気に放出されその場にいる者達を畏怖させた…!
「宝具を開帳しろ…!!」
鷹山は残忍さを帯びた声音で命じた。途端にバーサーカーは双剣を腰の鞘に納め鋭利となった手の爪で自らの心臓の箇所…胸を切開した…ッ!!当然ながらエミヤとフランは元より呂布でさえも度肝を抜く。
「あ、あ奴、血迷ったか…!?」
と、思わず呂布が呟くのも無理はなかったが、それでもエミヤは敢えて言った。
「元よりバーサーカーなのだから当然だろう?呂奉先よ」
「むっ!貴様、我の真名を…!?」
呂布が半ば驚くとエミヤは何という事はないという声で言った。
「無論得物を見た時から気づいていたさ。昔から構造把握だけは長けているのでね。いや、それ以前にお前の宝具(えもの)は余りにも有名な代物だ。気づかない方がどうかしているだろう。第一、気づいていなければ曲がりなりにも投影などできはすまい。だが、それよりも来るぞ…!」
その言葉通りバーサーカーは切開した胸から漆黒へと染まった十字が刻まれた大剣を取り出し上段へと構えた。途端に大剣から凄まじいまでの闇の魔力が噴出した。それを見たエミヤは顔を歪める。

拙い…!あれは紛いもなくAランク相当の反転した聖剣だ。『熾天覆う七つの円環(ローアイアス)』ではまず防げん…止むを得ないか―――。

エミヤは全神経を集中して投影を開始する。
「―――投影、開始(トレース、オン)
そうして投影したのは一振りの黄金の剣だった。エミヤはそれを横薙ぎで構える。それを見たフランには分かった。それは今までの投影の中でも絶技に相当するものだと…!
一方、鷹山もそれを察したのか口を開く。
「おいおい、弱兵の分際でそれ大丈夫か?その剣は幾ら何でもテメエにとってはオーバー・スペックだろうがよ」
それに対しエミヤは苦笑して答える。
「だろうな―――これは禁じ手の中の禁じ手だ。この身が永久に到達する事が叶わぬ王の剣―――!心して受け止めろッ!!」
鷹山はニンマリと笑い咆哮する。
「ああ…!やっぱ面白れぇ!!そうでなくっちゃだよなああああああああああああああああああああああああッ!!」
「◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆―――ッ!!!」
バーサーカーは咆哮と共に真名を解放した反転の聖剣を振り下ろし凝縮された闇の波動をエミヤ達へと放った―――!!
一方、エミヤも少年の日から憧れ届かなかった彼の王の聖剣を以てそれを迎える―――!
「―――『永久に遥か黄金の剣(エクスカリバー・イマージュ)』―――ッ!!!」
黄金の斬撃が振り抜かれ闇の波動と衝突する。その瞬間全てが爆ぜた―――!!

ズガアアアアアアアアアアアアンッ!!


それが終わった後、『無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)』の世界は既に消え元の館内へと戻っていた。そこには相も変わらず悠然と鷹山とバーサーカーが立っており彼らの眼下には――――。

「エミヤさん!!」
エミヤが膝を付いていた。息も切れ切れで立ち上がる事も出来ない程疲労が困憊していた。
「事ここに至って無茶な投影が祟ったな。呂奉先の方天画戟に彼の騎士王の聖剣…幾ら何でも背伸びし過ぎだろうがよ。馬鹿か、オメエ?ま、俺流に言わせりゃ最高の馬鹿野郎って意味なわけだが…」
それは鷹山にしてみれば最大級の賛辞だったが、エミヤは吐き捨てたように言う。
「生憎だが、殺戮狂の賛辞を受け取る趣味など私にはないんでね…。“糞喰らえ”とでも返させて貰おう…!」
だが、当の鷹山は怒るどころかますます狂喜に満ちた笑みを広げた。
「おお…!いいねえ、ますます気に入ったぜ、オメエ。ただ、そこまで啖呵を吐いたなら第2ラウンドを殺る覚悟はあるよなあああああああああッ!!!」
鷹山は一直線に、それも迅速にエミヤとの間合いを詰めて来た!
「ッゥ!?」
だが、エミヤには今更アイアスを投影するだけの余力も時間も残されてはいなかった…!鷹山もそれを知ってか知らずか高速の手刀をエミヤの霊格目掛けて叩き込もうとする―――!!


ガキィンッ!!

しかし、それを第三者が阻む。そして、エミヤはその第三者を驚愕に見開いた眼で凝視していた。何故なら―――。

「ば、バーサーカー(ヘラクレス)っ!?」
エミヤは己の眼前で鷹山の手刀をよく見知った斧剣で堰止める巌のような巨人に対し呆然とした声で呟く。一方、巨人――ヘラクレスはエミヤが聞いた事もない極めて理知的で厳かな声で答える。
「それは嘗ての名だ。アーチャー。今この身は貴公と同クラスのサーヴァントであるが故に」
その答えに驚く間もなく更に彼を驚嘆させる一声が轟く。
「ヘラクレスー!あっ!お、お前は…!」
一方、ヘラクレスに続いて駆けつけたイリヤは鷹山の姿を視認し怯えと敵意が入り混じった声を上げ後から追ってきたマックとメドゥーサも剣呑な声を出す。
「て、手前は…!?」
「早速会敵しようとは…。ここで年貢の納時と行きたいものです」
「イリヤ…っ!!な、何故、彼女がここに…!?それにあれはライダー(メドゥーサ)か?一体、どういう組み合わせだ…!?」
エミヤは混乱して思わず疑問の数々を口走ってしまう。それを当然フランは怪訝な顔でエミヤを見る。
「エミヤさん…?」
だが、彼の混乱はそれでは終わらなかった。続いて凛達がサーヴァントを従えて駆け付けたのだ。
「イリヤー!大丈夫ー!?」
イリヤに向かって走るツインテールのどこか見覚えがある少女を見てエミヤは眼を白黒させる。

あ、あれは…っ!もも、もしかしなくても凛かッ!?なんだって彼女まで…!?今日と言う日は一体どうなっている…!?どこの悪趣味な神父が主催した同窓会だっ!?

などと場違い且つテンパった方向へと思考する。

だが、彼以外にも目くじらを立てる者がいた。…呂奉先である。
「劉備…っ!!」
呂布は剣呑な視線を劉備に浴びせ劉備もまた彼を信じ難い眼で見ている。
「呂布か…っ!」
その隣で孫策は呂布を物珍しそうに見ている。
「へえ、あんたが『人中の呂布』か。噂に違わねえ武が漂ってんじゃねえか」

一方で鷹山もイリヤを見て笑う。
「よお久しぶりって奴だな、アインツベルンのメスガキ。ちゃあんと親父とお袋が殺される前に俺の所へ殺られに来たか。感心♪感心♪」
その物言いにイリヤは「ひぃ…!?」と怯える仕草をする。
それに対し鷹山の手刀と鍔迫り合いをしているヘラクレスは怒気と殺気を噴出させて鷹山に言う。
「何度も言わせるな。そのような事この私が居る限りは絶対にさせぬと言ったはずだ…ッ!!」
そして、鷹山を後方へと弾き飛ばす。鷹山は上手く受け身を取り着地する。そこへ胤王も現れ鷹山に言う。
「どうやら貴殿もなかなかに手こずってお出でのようだ…」
「ああ!面白くて堪んねえ!!」
鷹山はそう言って舌で拳を舐める。
「とは言え、この数は貴殿一人では些か不利…。拙僧も参じるとしよう」
と、胤王も拳法の構えを取る。
「へっ、好きにしな。お!」
鷹山が眼を見張るとイリヤ達の傍にセイバーに抱き抱えられたエイダや星羅達姉弟、和樹と信長、アンシェル達も合流した。
「彼らがこの騒動の…」
「みたいだな」
エイダの推察にセイバーが肯く。
「ガウェイン、警戒を」
「はっ!」
アンシェルの命にガウェインは既に太陽の聖剣を抜いている。
「ほお…。サーヴァントもそうだが、あのマスターも相当な武人と見た。しかしあの不愉快な声の主はおらぬようだな『不愉快は余計ぞ』む!」
信長の言葉に呼応して、そのサーヴァントはとうとう姿を現した。
胤王の隣に黄金の粒子が収束して壮年の男性の姿になる。下半身を白の甲冑で覆い裸である上半身を多くの黄金の装飾物で彩り十本の指には豪奢な指輪が嵌められている、サンディブロンドのロングに顎鬚は砂金のような輝きを放ち顔立ちにしても恐らくは美丈夫と言って差し支えはないだろう。だが、それはある種の残忍さと陰惨さがありありと現れた美貌だった…。更に紫の双眸には止めどない貪欲さが滾っている…!
(おれ)はサーヴァント・ライダー。さて…改めて申し渡すが、先の座興誠に大儀であった。幾星霜振りに大いに愉しませてもろうたぞ」
その声は聞く者に本能的且つ生理的な嫌悪を抱かせた。
「へっ、別にテメエなんぞを楽しませる為にやったわけじゃねえよ」
ナヒは吐き捨てるように言い放つ。孫策も同意するように鼻を鳴らす。
「まったくだぜ。その上、てめえのその上から目線な物言い、袁術の野郎を思い出させて反吐が出る…!」
「ふん、つくづくこの(おれ)に対し無遠慮な連中よな。まあ良い。特と赦そう。どうせ今宵は宴となるのだからな」
ライダーがそう言い放つと館内の各通路から先程とは比べ物にならぬ古代南東欧の軍勢が躍り出てエミヤやイリヤ達を瞬く間に包囲した。
「っ!…まだ兵力を温存していたのか…ッ!」
義景は口惜しそうに言うのをライダーは嘲笑うように言った。
「当然だ。先程は“座興”と言ったであろう?ここから先は―――本当の戦だ!!」
そう宣言して号令を発しようとした瞬間に誰もが予想だにしない事態が起こった。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――――ッ!!!」
『!!??』
鷹山のバーサーカーが突如として轟音と魔力を周囲目掛けて放出し始めたのだ。
「おい!どうした、バーサーカー!?」
鷹山は突如自分のコントロール下を離れたサーヴァントに何時になく焦った声を出す。
「鷹山殿…!これは…?」
「チッ!狂戦士風情が興を削ぎおって…ッ!」
胤王も怪訝な顔で鷹山に詰問しライダーに至っては不機嫌に鼻を鳴らす。

そして、当のバーサーカーの視線は―――ガウェインを捉えていた…!

「!?」
ガウェインもそれを肌身で感じたのか瞬時に臨戦態勢を取る。
「どうした、太陽の騎士?」
カルナの問いにガウェインは何時になく冷や汗を掻いて答える。
「あの者の殺気…この私に向けられています」
「なんじゃと?それはどういう―――「…wain…!」む!」
道三の問いかけを遮るようにバーサーカーが唸った。
「■■■■■■…ッ!Gaa…!Ga…Ga…Gawainnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnn―――ッ!!!」
バーサーカーは狂化によって跳ね上げられた跳躍力で跳び上がり双剣を引き抜いてガウェイン目掛けて特攻した―――!



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