第三話「“男らしく”……“初めらしく”行こう」










《Side ユラ》





暗闇の中に響く微かな音。

外の雨の音だ。

それ以外は、何も聞こえない。

……此処はどこだろう。

周りを見渡すが、暗くてよく見えない。



しばらく時間が経つと、目が暗闇に慣れたのか一本の柱が見えた。

近づいて調べると、古い木造の柱であった。

そこには、規則的に付いたいくつかの傷があり、その横には何か書いてある。

近づいて調べる……[ユラ 12歳]っと書かれていた。

その瞬間、思い出す。

そう……そうだ……

……ここは、かつて住んでいた自分の家だ。

この柱の傷は、両親が俺の成長の記録を刻んだモノだ。

……しかし、何故ここに俺は居るのか……

……だめだ、皆目見当も付かない。



突然、激しい音と共に雷が落ちた。

一瞬だが、暗闇の中を光が切り裂く。

見た……嫌、見えてしまった。

廊下には、大量の赤い液体が付着しており、それは壁などにも飛び散っていた。

俺には、これが何だか判る。

まちがいなく、これは“血”だ。

壁の血に、近づいて触れてみると……まだ、乾いてない。

……っということは、まだ付着してから時間は余り経っていないことになる。

周りを良く探してみる……っとやっぱりあった。

引きずったような血痕が、廊下の奥に続いている。

これだけの血液が飛び散っているのに、この血の持ち主が近くにいないのはおかしい。

そう思って調べたら、思った通り引きずった跡が残っていた。

考えられるのは二通り……

この血の持ち主が傷で動けない身体を這って移動したか、第三者が持ち主の身体を引きずって移動したか、そのどちらかである。

とにかく、この跡を辿ってみる。





……着いたのは、居間の前だった。



突如、俺の頭の中に警鐘が鳴り響く。

ハイッテハイケナイ、オモイダスナ、ソノサキノムコウハジゴク、イクナ、イクナ、イクナ、イクナ、イクナ……

しかし、自分の意志とは逆に居間への戸に手を掛けていた。


………戸を開く。


赤い

全てが朱い


世界の全てが真っ赤に染まる
 




「………っっっっっ!?」
悲鳴にならない声を上げて、俺は飛び起きた。

「ハァ……ハァ……なっ、なにが……」



周囲を見回すと、ベッドの上でラピス達がまだ眠っている。

その無垢な寝顔を見て、今までの光景は全て夢だということに気づく。

ここは自室と言うには広く、テレビとタンス、仕事用のノートPC、必要最低限の物がある部屋。

そう、これが現在の俺にとっての現実。

部屋の窓のカーテンの隙間からは、日の光が差し込んでいた。





あの夢はいったい何だ。

前の世界の夢なんて、この一年間まったく見なかったのに……何故、急に……

あの夢の内容は、断片的でうまく思い出せない……でも……


――“全てが真っ赤に染まった世界”


このことが、強く頭の中に残っている。

あの日、俺の身にいったい何が起きた。

それを知りたくて、何度もあの日のことを思いだそうとしたが、全く判らない。

けれど、今日みた夢のおかげで少しだが情報を引き出せた。

一年間という時間をかけて……

全てを思い出すまで、いったいどれ位の時間が必要になる。

知りたい、俺はあの時……あの場所で……何をした。

気持ちだけが焦る……っが、それと同時に不安もある。

あの光景は自分自身が作ったのではないかと……

“記憶がない” っということは確証がない……だから、どうしても悪い方向に推測してしまう。

まるで、今の俺は闇の中を手探りで自分自身を探している感じだ。



……今は、余り深く考えないようにしよう。

そうしないと、おかしくなりそうだ。



両手で頬を叩いて気持ちを入れ替える。

よしっ、早朝鍛錬に行きますか。





マンションから二キロほど行ったところに、人がいない広場がある。

そこで毎朝、俺は鍛錬をしている。

現在の時刻は午前5時、広場に人の気配は全くない。

俺は鍛錬を開始した。



まずは、自然体をとって氣を開放する。

人には“チャクラ”と言うものが7ヵ所ある。



第一チャクラ“ムラダーラ(尾てい骨)”、第二チャクラ“スワディスターナ(丹田)”、第三チャクラ“マニプラ(鳩尾)”

第四チャクラ“アナハタ(胸)”、第五チャクラ“ヴィシュダ(咽喉部)”、第六チャクラ“アジャニュー(眉間)”

そして、第七チャクラ“サハスララ(頭頂部)”、以上の7つだ。



効果は、チャクラを開放して氣を輪廻(りんね)することで氣は高密度になり、さらに量や威力も上がる。

簡単に言うと、ホースから垂れ流れる水の口を詰まんで出る状態みたいなものだ。

氣をより効果的に使う方法として、ご先祖様が取り入れた。

今の俺は、その内の第一〜第五まで開放している。

前の世界では、第六チャクラまで開放できていたので、僅かな時間でここまで開放できた。

第六チャクラも、もうすぐ開放されるだろう。

ただっ……第七は前の世界でも、まだ届いていなかったので、開放できるか判らない。

だが、俺は運がいい。

チャクラは、身体が成長している時が開放しやすい。

成長が止まって身体が完成してしまうと、今のバランスを変えない様に身体が拒否してしまう。

開放は出来るが、出来たとしても第一〜第三、良くても第四までだ。

現在の俺の肉体年齢は16歳……成長期である。

この一、二年が勝負どころになるだろう。

この機会を逃さず、全てのチャクラを開放しなければ。





「……第六チャクラには、まだ届かないか」


さっきまで、氣を第六チャクラの“アジャニュー(眉間)”に集中させたが、まだ開放できなかった。

でもコツは、前の世界で掴んでいるので焦る必要はない。

……問題は、その先の第七チャクラだな。





次の鍛錬に移る。

人型に切った紙をポケットから出し、そこに自分の指を切って血を付ける。

そして、氣を送り込む……すると、目の前に自分とそっくりな姿になっていた。

これは、“影法師(かげほうし)”っと言って、自分の分身を作り出す術だ。

俺は、毎日こいつと実戦的な組み手をしている。

オリジナルよりは少し劣るが、俺と組み手ができるレベルの奴がいないから仕方がない。

以前、ネルガルのSS(シークレットサービス)の人達と組み手をしたら、何人か病院送りにしてしまったのが原因。

あの後、エリナさんとプロスさんに3時間も説教された。

正直、あの時の事は思い出したくない。

それ以来、組み手の相手はこいつだ。

蛇足だが、あの後SSの人達から指導役をお願いされ、月に2・3回だが講師として顔を出している。

そろそろ始めよう。



互いに構える。

第一〜第三まで開放して、氣を廻す。

……先に動いたのは影法師。

右足の上段蹴りを放ってくるが左腕でガードし、空いている右手で掌底を叩き込む。

だが、それを頭を後ろに少しずらすだけでかわされる。

直ぐに俺は胸に蹴りを打ち込み、後方へ吹っ飛ばした。
影法師は地面を滑るが、素早く立ち上がり体勢を立て直す。

次は……こちらから攻める。

間合いを詰めて正拳突きを放つ。

両手をクロスさせて防ぐ影法師だが、氣を纏わせた突きは一撃でガードを崩す。

その隙を狙って左を突くが、上半身を前に倒してかわされた。

そのまま、懐に入られ拳を下から顎へと突き上げてきた。

少し首を後ろにずらしてかわし、カウンターで膝蹴りを打つ……っが素早くバックステップをしてかわされた。

互いの距離がひらく。

……影法師から氣の高まりを感じる。


水刃連舞(すいじんれんぶ)か……」


影法師の周りに水の刃が現れる。

その数15、右手が前に振られるのを合図に、俺に向かって一斉に襲い掛かる。

第四チャクラ開放。


疾風(はやて)


その名の通り、氣によって疾風の様な早さを得る。

向かってくる水刃を全て避けつつ、影法師との距離を詰める。

およそ10m程の所で、さらに加速し目の前に辿り着く。

一瞬の出来事で、向こうも俺の存在に気づいていない。


「っ!?」


ようやく、俺に気づくが……遅い。


双氣掌(そうきしょう)」


両手に集束させた氣を胸に叩き込む。

影法師の身体が宙を舞い、数秒後に地面に落ちる。

すると、影法師の身体が元の紙に戻った。



この術は、作った者が命令するか、一定のダメージを受けると元に戻る。

ダメージの量は、術者の力量次第で変わる。

通常の状態に戻ってクールダウンを始める。

息は上がってはいないが、体内の氣のせいで体温が少し上がっているからである。





「前の自分に、だいぶ近づけたな」

この身体になって一年か……

ナデシコ出航までの一年という限られた時間の中で、何とか此処まで来られた。

幸運だったのは、この身体が異常とも言える位に身体能力が高かった事だ。

調べて貰った人が言うには、体内のナノマシンの影響であることが解った。

身体が華奢なので、鍛え上げるのに時間が掛かると思ったが、おかげで軽く鍛えるだけで良かった。

問題は、氣の使い方であった。

精神は同じでも、身体が違うのでゼロから身体に覚えさせなければいけない。

だが、思っていたよりもこの身体は覚えが早く、すぐに使えるようになった。

チャクラの開放も、このおかげで早い段階で入る事ができた。

あとは、鍛錬と組み手を続けて“自分”を“身体”に馴染ませていった。

……っと思い出に浸るのはこれ位にして、最後にマンションまでロードワークをして早朝鍛錬は終了だ。





自宅に戻ると、シャワーを浴びて汗を流す。

洗う時いつも思うのだが、この髪は鬱陶しい。

以前のことだが、髪を短くしようと床屋に行こうとしたら……何故かみんなに止められた。
エリナさんに理由を聞いたら、「そんなに綺麗な髪を切ったら、勿体ないでしょう」っと言われたのだ。

しかし、男が髪を綺麗と言われても嬉しくない。

それ以来、何故か髪を切るときエリナさんの許可がいるようになった。

もちろん、抗議はしたのだが……あの時の眼光は凄まじく、あっさりと白旗を揚げた。



シャワーを終え、着替えて髪型をセットする。

背中の半ば程で、髪を三つ編みにするのが、俺のいつもの髪型だ。

ラピス達と暮らしていると、俺が毎朝ラピス達の髪をセットしているから、嫌でも髪のセットが上手くなってしまう。

おかげで、長髪の洗い方やセットの仕方、トリートメントのやり方なども覚えさせられた。

ちなみに、全てエリナさん直伝だ。

セットを終えたら、次は朝食の準備にかかる。





いつもは和食なのだが、食パンを買っておいたので今日は洋食にする。

パンをオーブンでトーストにして、フライパンを火にかけて油を引きハムを焼く。

適度に焼いたら、玉子を落としてハムエッグにする。

フライパンに蓋をして、一、二分で火を消して蒸らす。

その間に、サラダを作る。
洗ったトマトにきゅうり、レタスを切ったあとに器に盛り付けて完成。

昨日の夜に作っておいた、フルーツミックスのヨーグルト和えを冷蔵庫からテーブルに移す。

ハムエッグができたので、5つに分けてテーブルに用意しておいた皿に移す。

トーストも焼き上がり、準備完了。

さて、起こしに行きますか。





ベッドの上では、ラピス達が気持ち良さそうに眠っている。

部屋のカーテンを開けて、日の光を入れ……


「みんな、起きろ〜〜〜〜〜っ!!!」


……っと言って起きればいつも苦労しない。

「「「ZZZZZZZ」」」


「起きんか〜〜〜〜っ!!!」


「まだ寝る〜〜」

「睡眠は人には必要不可欠、だから……ZZZZ」

「あと少し〜〜」


まったく、この娘達はちなみに、上からラピス、パール、エルの順番である。

仕方が無い、恒例の“ヤツ”いきますか。


「一番早く、顔を洗って食卓に着いた者にご褒美として……頭撫でをプレゼント


最後だけ、ボソっと言うのがポイントだ。

三人は布団から素早く飛び出して、洗面所に向かう。


「ラピス、パジャマ引っ張らないでよぉ〜」

「エルだって、足踏まないでよ」


ラピスとエルが、洗面台で不毛な争いを繰り広げる。

ハァ……しかし、どうしてあそこまで争うかな?

たかが、頭を撫でるくらいで……不思議だ。

洗面台でまだ争う二人……っと、パールだけが抜け出して来て椅子に座る。

洗面台はあの状態だし、顔を見ると洗った形跡がある。


「どこで洗ってきたんだ?」

「お風呂場の蛇口」

「その手があったか」


パールは、浴槽に備え付けてある蛇口を使ったのだ。

普段は、風呂のお湯を水で埋める時に使う事(入れるのは全自動)が無いのだが……

風呂場の蛇口で顔を洗う美少女………シュールな光景だ。

だが、こう言う機転は三人の中ではパ−ルが一番である。


「結果的にはOKでしょう」

「まあな」

一応、今日の勝者なので頭を撫でてやる。


「ん〜〜♪」

 
本当に嬉しそうだな。

実は、こういう事をするのが、いつの間にかクセになっていたりする。

だって、子犬の様な目をして見上げてくるからなこいつ等……あの目は一種の兵器だ。

……っと、していたら他の二人も終わったみたいだな。


「「「あぁぁぁぁっ、ずる〜〜〜〜い!!!」」」


出てきた第一声がコレか……

「何言っているの、私はちゃんとやるべき事はやったわよ」

「「「えっ?」」」


「本当に?」っと言った感じで俺を見てくる。


「変則的ではあったが、条件は満たしている」

「そういうこと。
 早くみんなも座ったら?」


不満いっぱいな顔をしていたが、お腹が減っていのか渋々と席に着く。

俺も、撫でるのをやめて席に着く。


「それじゃあ、いたただきます」

「「「いただきます」」」


俺の掛け声で、食事が始まる。





「「「ごちそうさまでした」」」
「おそまつさま」

食べ終わったら後片付けだ。

みんな、自分の食器は自分で台所のシンクに持ってくる。

食器は俺がスポンジで洗い、パールが水で洗剤を落とす。

その後、ラピスが洗い終わった食器を拭き、エルが食器棚に戻す。

この順番は決まっているわけではなく、その日によって役割が違う。

この一連の動きも、俺が教えたものだ。

最初はギコチなかったが、感情が豊かになるに連れて今の様にできるようになった。



片づけが終り、ラピス達を着替えさせて、我が家の朝の一幕が終わる。

今の時刻は午前8時。

さて、みんなを連れて出勤だ。





現在、自家用車でネルガルに向かっている。

免許は、ネルガルで仕事を始めた時に取るように言われ、約二週間の講習で取る事ができた。

車の方は、取った後に直ぐ購入した。

本社まで約15分……歩いても良いのだが、ラピス達の安全面を考えて車での移動にした。

……と、浸っている間に着いたようだ。





ロビーでラピス達を先に来ていたエリナさんに預けてから、仕事に移る。

だが今日は、いつもと違って午後からナデシコの乗員と交渉があるため、それまで仕事が無い。

チラリと時計を見る、まだ時間があるな。

どうしよう……エステのシミュレーターで暇を潰すか。

俺は、その場を後にした。





《Side ゴート》





今、俺の前に二百インチはある巨大なスクリーンに木星兵器や敗退する連合宇宙軍が次々と映し出される。

本社の大会議室に呼ばれたのは初めてであった。

会議室には、ネルガルの重役達がずらりと勢揃いしている。

ミスターに連れて来られたが、いったい何が始まるというのだ。

投影されたスクリーンに合わせて、ミスターが話し始める。


「第一次火星会戦敗退から一年余り。
 既に火星と月は完全に敵の勢力下……地球も時間の問題に過ぎない」


どうやら、唐突に始まった戦争に関する事みたいだが……


「質問があります」

「何かなゴート君?」

「要するに私に何をしろと」

重役達は、ほんの少しの沈黙の後、俺に言ってきた。


「<スキャパレリプロジェクト>……聞いた事があるだろう?」

「我々の中でも従軍経験のある君を推薦する者が多くてね……」

「私をですか?
 ……それは、軍需計画なのですか?」


質問をしたが、重役達の変わりにミスターが答えた。


「まあ、それはともかく、今度の職場はおなごが多いよ〜。
 ……っで、ボーナスも出ると……ひい・ふう・みい・よう・これ位♪」


つまり、これ以上は聞くなと言う事か……

ふと、疑問が出る。


「一つ聞いて良いですか?」

「何だね?」

「それって、税抜きですか?」

「「「「・・・・・・・・」」」」

会議室が沈黙した……何か変な事を聞いたか。





「まずは、人材が必要ですな」

「人材?」


まだ、プロジェクトの詳細を俺は知らない。

一言、人材と言われても、どのような人材か解らない。

ミスターが、メガネを光らせてこちらを見る。


「そう、人材。
 それも最高に優れた……多少人格に問題があってもね」


そう言って、ミスターは本社の前に移動する。





そこで我々を待っていたのは、ユラ・マルスだった。

彼とは、SSの訓練で一、二回だが顔を合わせたことがある。


「プロスさん、時間ピッタシですね」

「サラリーマンの常識ですよ」

二人は、軽い世間話をしている……こちらに視線が向いた。


「こうやって話すのは初めてですね。
 ユラ・マルスです。
 プロスさんと同じプロジェクトの参加者です」


そう言って、彼は右手を差し出してきた。

俺も右手を出して握手を交わす。


「ゴート・ホーリーだ。
 よろしく頼む」


彼はエステバリスのテストパイロットが本業だが、SSとしても一流の腕を持っている事で有名だ。





彼を始めて見たのは、SSの者達との実戦的な組み手をしている時だ。

最初は、“このような少女”と彼等は組み手をするのかっと思った。

だが、組み手が始まるとその考えは吹き飛んだ。

圧倒的な強さでSS全員を倒してしまった。

その時に感じた驚きと興奮は、今でも忘れていない。

後で聞いたが、“少女”ではなく“少年”だと知って、更に驚いた。

彼が開く講習に、最初の一回だけだが参加した事がある。

これには、ほとんどのSSが参加していた。

格闘戦、銃撃戦、市街地での戦闘戦、護衛中の対処法など、どれも素晴らしかった。

講習の最後は、狡猾な戦法や卑怯な手段、逃げ方についてだった。

この世界は、こういう事が必要になる時がある……だがSSの者達の中には、嫌悪感を持った奴が何人か居た。



話が終わると最後に、彼はこう言った。


「俺が、今教えた事はあくまで補助的なものとして考えてください。

 このような事を教えたのは、皆さんがこのような状況に陥った時の対処法を学んで貰いたいからです。

 そうすれば、事前にそうならないように、手段が講じられるはずです。

 それから逃げ方ですが、任務中は何があるかわかりません。

 不測の事態に備えようとも、時にトラブルに巻き込まれて撤退が必要になることもあるだろうと思います。

 そういった場合の緊急回避や撤退の方法を学んでおけば死亡する確率は大きく減るはずです。

 ……最後になりますが。

 皆さん、生き延びることを諦めないで下さい。

 絶体絶命の状況に陥っても、生きる事を諦めないでください。

 生命は一つしかありません。

 だから、自分のことを粗末に扱わないでください。

 ……今日は、ありがとうございました」


彼は、深々と頭を下げる。

その瞬間、拍手が巻き起こる。

俺も、周りも、立ち上がって拍手をしていた。





話を戻そう。

彼については謎も多いが、信頼できる者だ。


「自己紹介も終わったことですし、そろそろ行きましょうか」

「そうですね。
 あっちに俺の車がありますから、そっちの方に」


彼の案内で、ミスターと共に車に向かう。





《Side ユラ》





最初に来たのは、アニメと同じウリバタケ・セイヤさんの所だった。

ゴートさんが、店のシャッターを上げると同時に、プロスさんが声をかける。


「はい、ごめん下さい」

「ゲゲ〜〜っっっ!?
 あ、あのこれは違うんです。
 そ、その〜〜」


 うわ、アニメのまんまだよ……ん、確かこの後……

『コンニチハ、ワタシリリー』

リリーちゃんからロケット花火が一斉に放たれる。

ま、拙いっ!!

素早く前に出て……

光鎧障壁(こうがいしょうへき)」


俺たち三人の前に、薄い光の膜が現れ花火から身を守る。

あっ、奥さんと息子さんは……もう避難している。

長年付き合っているだけあって流石に行動が早い。

フウっ……さて、花火が全て治まったので交渉を……

……っていつの間にかプロスさんが、ウリバタケさんと交渉しているし!?

ハァ、相変わらず素早いな。


「俺をメカニックに!?」

「違法改造屋だが、良い腕前だ」

「是非とも、うちの……」

「よし行こう、すぐ行こう、パッと行こう」

「しかし、条件面の確認とか、契約書とか……」

「いいの、いいの。
 アイツと別れられるなら地獄でも良い」


後ろで、奥さん達が呆れているよ。



「ところで、あの娘も乗るのか?」

「そうですが……何か?」(プロスには、“娘”ではなく“子”と聞こえた)by天の声

「嫌、何でもねえ。
 戦場で生まれる美少女とのラブロマンス、萌える、萌えるぞぉぉぉぉぉぉ



〔ゾクゾクッ〕

何か、悪寒が……

それと同時に、「俺は、男だっ!!!」っと叫びたい気分になるのは何故?





次は、ハルカ・ミナトさんの会社だ。

現在、秘書室に居た彼女と交渉中なのだが、時々であるが俺の方に視線が向く。

交渉が終わったようだ……っと彼女がこちらにやって来る。


「これから、あなたと同じ職場で働くことになるわね。
 ハルカ・ミナトよ、よろしくね♪」

「ユラ・マルスです。
 こちらこそよろしく」


ミナトさんと握手を交わす。


「あっちで合流したら、お姉さんがかわいい服をコーディネートしてあげるからね」

「へっ!?
 あの、そ、それはどういう意味ですか?」

「せっかく、こんなにかわいいのに……男性用のスーツ姿なんて勿体ないわよ?」


か、勘違いされている。


「俺……男です」

「やだ、冗談でしょう」

「マジです。
“本気”と書いて、マジっと読む位の本当です」

「ほ、本当なの!?」


……っと言って、ミナトさんはプロスさん達を見る。

二人は、同時に頷いて答えを返す。


「あ、あははははははっ……ごめんなさい。
 余りにもかわいいから、つい……」


ミナトさんの乾いた笑いが響く。


「普通、このスーツを着ているから判ると思いますけど?」

「そういう趣味なのかと思ったから……」

「……勘弁してください。」

「そ、そろそろ、社長室の方に参りませんか?」


プロスさんに促されて、移動を始めた。

このあとの流れは、アニメの通りだった。





今、俺はアフレコの現場に来ている。

生アフレコの現場か……俺の夢が一つ叶ったな。

一度で良いから来てみたかったんだよ。

収録中の声が聞こえてくる。


「さぁ、戦いましょう!!!」

「よぉーし行くぞ!!!」

「「おー!!!」」


監督のOKが出るまで待つ……


「はい、OK!!」

「「「お疲れ様でしたー」」」


監督に頼み、メグミさんを呼んで貰う。


「メグミちゃん、お客さん。
 ネルガルの人だって」


俺達に、視線が向けられる。

こちらに来て貰うと、プロスさんがすぐに交渉を始めた。



……ここのみなさんから、今のうちにサイン貰おうっと♪
結構人気あるからな、このアニメ。





《Side ルリ》





今、私は備え付けの端末から電子世界に接続して、そこから入る情報を処理している。

その様子を記録するため、私の身体には幾つものコードが取り付けられている。

これが私の日常だ。

ふと、目を開ける。

隣の記録室で、養父母と誰かが何か話をしている。

眼鏡を掛けたちょび髭の男性、そしてもの凄く大きい男性の2人だ。

眼鏡の男性が、持っていたジュラルミンケースを開けて中を養父母に見せる。

……中には、金塊が入っていた。

その光景を見て私は理解する。

私の次の引き取り先はこの人達の所か……っと思い、気にせず再び目を瞑り作業を続ける。





誰か入ってきたので、気になり再び目を開ける。

目の前に、私と同じ瞳の色をした、銀色の髪の人が立っていた。


「初めまして、ホシノ・ルリさん。
 俺の名前はユラ、ユラ・マルス。
 ちなみに、だからね」


その人は、ヤケに男と言う事を強調して私に言ってきます。



私は、先程から気になる事があるので質問することにしました。


「マルスさん、あの……」

「俺の事は“ユラ”でいいよ、その代わり“ルリちゃん”って、呼ばせて貰えるかな?」

「構いません。
 ……あの、ユラさん質問してもいいですか?」

「んっ、なんだい?」

「……あなたは、マシンチャイルドですか?」

「一応、そうだけど。」

「それはおかしいと思います。
 公式では、10歳を越えたマシンチャイルドは私だけの筈です」

「何事も、裏は存在するということさ」


私はその言葉を聴き、端末にアクセスして彼のことを検索してみました……


「無駄だよ、ルリちゃん。
 俺の生まれた研究所は、データと一緒に消しておいたから検索しても見つからないよ。
 見つけたとしても、ネルガルにある社員データしかないよ」


私の動きは、この人に読まれている!?

どうして……


「“どうして”って、顔をしているね」


また読まれてしまう。


「簡単だよ。
 君の性格を考えれば、真っ先にそうすると予測できたからさ。
 後は……顔に結構でてるよ」


そんな筈は無い。

性格の事は調べれば解るが、私はほとんど表情を変えないので顔には出ていない筈。


「俺は、人の顔を読むのが得意なんだ」


これで3回目……


「そんなに解りやすいのでしょうか」

「俺が、変なだけだよ」

「納得できません」

「そう言われてもな……っと、そろそろ時間か」


ユラさんの視線の先に、先程の2人の内の眼鏡の人が腕時計を指していました。


「それじゃあルリちゃん、これからよろしくね」

「はい、よろしくお願いします」


そう言って、ユラさんは帰って行きました。





後で養父母に聞きましたが、眼鏡の人はプロスペクターさん、大きい人はゴートさんと言うそうです。

それよりも、私はユラさんに興味を持ちました。

今までに、私の周りにはいなかったタイプの人です。

きっと、私の探究心を充たしてくれるでしょう。

あの人とは、同じ職場……好都合ですね。

クスッ……ユラさん、あなたを徹底的に調べさせて貰います。





その頃・・・・


「ハックシュン」

「おや、風邪ですかユラさん?」

「いえ・・・・なんだろう?」





《Side ユラ》





あれから、数日が経ち、ナデシコの出航に向けての準備が着々と進められていた。

交渉の方も問題なく終り、乗員の人達も今頃はナデシコに向かっているだろう。

プロスさんから貰った連絡によると、ほとんどの乗員がもう着いているらしい。

ちなみに、プロスさんとゴートさんはもう既に佐世保のドックに着いている。

本社から離れた技術開発部の格納庫で、自分専用エステバリスの最終調整の真っ最中。



このエステは、ナデシコ本編でずっと使われていた物をベースにして、専用にカスタマイズした機体。

大きな変更点として、この機体は空、陸、宇宙の活動を可能としている。

そのため、大型のスラスターウイングを背面部に取り付け、高出力のジェネレーター(現時点で小型化された最高の物)に交換。

そして、装甲も先に挙げた二つに耐える物に変えられたのである。

また、各所に姿勢制御用のスラスターも増やした。

だが、この機体はパイロットを無視した作りに成っており、凄まじいGが襲い掛かるため、常人の操縦は不可能である。

まさに、“普通の身体ではない”俺専用の機体だ。

武装はワイヤードフィスト、イミディエットナイフ、ラピッドライフルを標準装備。

追加として、長剣状のブレードとハンドガンタイプの銃を二丁を腰元に常備している。

ちなみに、ブレードはウイングの中に収納出来るようになっている。

あと、この機体は二つの換装用フレームがある。





二つのフレームは、さっき述べた機体をベースにしてある。



まずは、高機動フレーム。



高性能ブースター二基をウイングと同じ背面に装着し、装甲を耐久値ギリギリまで削っての軽量化。

近接戦闘用に腕部に強化ガントレットを常備。

そして、ディストーションフィールド(以降DF)武器化計画の“試作型 対艦用両手剣 アンサラー”を装備している。

この武器は「DFを武器化できないか?」の、発案で始まったこの計画。

フィールドアタック以外に、DFを使った攻撃方法を増やそうと思い、意見を言ったら即採用された。

それで開発されたのが、このアンサラーである。

刃の部分に、DFを纏わせて攻撃力を大幅に増大させるのだが、従来のエステでは出力不足で纏わせる事が不可能。

それを解決したのが、俺のエステである。

出力が通常のエステより上のため、この武器が使用可能なのだ。

さらに、この武器は中心から分ける事で、“二刀片刃剣 フラガラッハ”にすることができる。

普段は、この状態で肩部に取り付けられている。

あと、この剣の名前の由来はケルト神話に登場する“光神 ルー”の使う魔剣から来ている。

“フラガラッハ”は“アンサラー”の英名で、同じ剣の事を指している。



防御力を減らし、その機動力と加速力で攻撃を避け、接近戦に特化した機体。

これをコンセプトにしたフレームだ。





次に、重甲フレームだ。

ウイングがなく機動力は落ちるが、硬い装甲と多数の火器を持つ。

背部と腰部にレールガンを二丁ずつ装備、肩部のアーマーと脚部に多数のミサイルを搭載。

胸部には、ガトリングガンを搭載。

あと、120mmカノン砲を両手に装備できることができる。

重装甲で防御面の強化、実弾の火器を多数持った火力、遠・中距離に特化した機体。

高機動フレームとは、正反対のコンセプトにしたフレームである。





ちなみに、パーソナルカラーは銀色。

シルバーメタリックではなく、鈍く光る銀色だ。





作業が終わった。

機体のソフトウェアの調整とプログラムのチェックをしたが、どこにも問題はなかった。

IFSコネクターから手を離し、アサルトピットから飛び降りる。

格納庫には、俺以外に誰も居ない。

それもそうだよな……今の時間は午前2時。

今日中に終わらせなくてはいけなかったので、泊まり込みで残業していた。

明日の朝には、此処を発ってナデシコに空輸されるだろう。

俺は、それに便乗することになっている。

今日の朝にアカツキ達には挨拶を済ませた……後は明日に備えるだけだ。



実は、ナデシコの事を含めてラピス達にはこの事を話していない。

今後、どういうことが起こるか解っていたとしても、危険が無いとは言い切れない。

それに、話せばあいつ等は絶対に付いて来る。

だから、何も言わずにここを発つことにしたのだ。

悪いとは思うが、仕方が無い……

はっきり言って、これから俺がやろうとする事は自己満足の世界だ。

だから、彼女達を俺のエゴで巻き込むわけにはいかない。

……そろそろ部屋で仮眠をとるか。

誰も居ない格納庫に、俺の歩く音が鳴り響く……それが、やけに耳に残った。





《Side ???》





格納庫の扉を開いて中に入る。

私達は、中央のハンガーに固定されているエステバリスを目指す。

備え付けの監視モニターが私たちを追尾して撮っている。

大丈夫、モニターの映像はダミーに摩り替えてある。

バレないうちに早く目的の所へ……

ハンガーを上がって、開放したアサルトピットの中に2人で潜り込む。


「もう少し、そっちに詰めてよ」

「無茶言わないで、こっちも限界」

「太ったんじゃない?」


私はからかい半分に言った。


「ちょっと胸がね……」

「・・・・・・・・・・」


か、返された。

それも、かなり倍増して……くっ、悔しい〜っ。

「まだまだね」

「く、口で勝ったからって、いい気にならないでよ!!」

「胸でも勝ったわ」


こっ、殺す、マジ殺す、「必殺」っと書いて必ず殺す。

私が襲いかかろうとしたら……


「しぃぃぃぃ……騒ぐと見つかるわよ」


うっ、そうだったわ。

危ない、危ない……ここは我慢……我慢よ。


「それじゃあ、ハッチ閉めるわよ」


そう言うとハッチが閉まり、暗くなったのでペンライトを点ける。


「その明かり、大丈夫なの?」

「うん、2時間で消えるから心配しないよ」

「そう……じゃあ、もう寝るわ」

「おやすみ」


私達は眠りについた。

ユラ……私達を出し抜こうなんて、考えが甘いよぉ〜♪





《Side ユラ》





輸送機は、佐世保まで残り一時間までの所まで来ていた。


「空の旅か……
 主任さん、スチュワーデスの一人や二人つけてくれたって良いと思いません?」

「そりゃあ、贅沢ってもんだぜ坊主」

「それもそうですね……しかし、暇ですね」

「それなら、もう一勝負しねえか?」

「財布の中身……カラでしょう。
 生活厳しいクセに」

「うっ」


さっきまで、主任さんとのポーカー勝負で、俺が今ある全財産を巻き上げてしまったのだ。

生活費を稼ごうとして挑んできた様だが……見事に返り討ちにあったわけだ。

つい30分前まで、真っ白な灰になっていたのに……


「立ち直りが早いことで……」

「俺は、過去を振り返られない主義だ」

「学習能力が無いってことですね。
 だから、こんなに負けたんですよ」

「がはっ!!」


また、真っ白になる……合掌。




「すっ、すいません!!
 ちょっと、こちらに来て貰えますかっ!!」


パイロットが慌てた感じで俺達を呼ぶ。


「どうしたんですか?」

「さ、佐世保に木星蜥蜴が……」


パイロットから通信機を奪い取る。

通信機から、軍の増援要請が聞こえてきた。


「………拙いな」


歴史道理に木星蜥蜴が襲撃して来たようだ……どうする。

輸送機のスピードでは確実に間に合わない。

……だとすると……やっぱ、これしかないよな。


「主任さん、エステのバッテリーは満タンですよね?」

「応、ちゃんとやっておいたぜ。
 だけど坊主、いったいどうす……る……まさかっ!?」

「そうです。
 エステで直接現地に向かいます」

「でっ、でもよぉ……」

「このままでは、確実に間に合いません。
 大丈夫、俺のエステのスピードなら……それに、これなら輸送機が襲われる事は無い筈」


そう、このまま向かえば確実に奴等の的になってしまう。

この人達を、戦闘空域に行かせる訳にはいかない。


「……わかった。  すぐに準備しろっ!!」

「了解」


俺は操縦席から駆け足で出て行く。




ピット内に入り、電源を入れる。

シートの周りの機器が一斉に動きだす。

目の前のウィンドウに起動プログラムの概要が表示され、次々と作業が進む……起動完了。

コネクターに手を置くと、カメラアイが力強い輝きを放つ。

エステをハッチの前に移動させるのと同時に、主任さんから通信が入る。


『坊主……お前には、今まで負けたカリがある。
 俺が、それを返すまで……死ぬんじゃねえぞ、わかったな!!!


主任さん……ありがとうございます。


「必ず、生きて戻ります。  ……っで、次の勝負の内容は?」

『麻雀だ。
 メンツはこっちで集めとくから。』

「また、スッカラカンにしてあげますよ」

「へっ、こっちのセリフだぜ」


互いの口元が笑う。

『ハッチ開放』


目の前に蒼い空の景色が広がる。

「ユラ・マルス、発進します」

エステバリスがハッチから飛び出し、その翼を大きく広げ目的地に向かって空を翔る。





「急がないと……」

「何で?」

「そりゃあ、ナデシコが危ないからさ」

「だったら、もう少しスピード上げれば?」

「それもそうだな。  サンキュー、パール」

「どういたしまして♪」

「ユラ、私には何も言ってくれないの?」

「だって、ラピスは……って、なんでおまえらがここにいるっ!?」


狭いアサルトピット内に、俺の声が響く。



「ユラ……私たちを置いていこうとしたでしょう」

「ナンノコトカナデスカ、ラピスサン」

「とぼけても無駄よ、ユラ。
 私たち全員、会長室の前に昨日の朝いたのよ」

「なっ!?」


パールの口から出た言葉に驚く。


「もう、全部バレてますか?」

「「当然」」

ふっ、不覚……まさか、あの場に居たとは………

んっ、ちょっと待てよ。

「二人とも、エルはどうしたんだ?」

「ジャンケンで負けたから留守番」

「私たちの体型だと、ピット内に隠れられるのはせいぜい二人位だから……」


ラピスとパールの説明に納得。

流石に、4人も入らないよな。

……っと、そんな事に納得している場合じゃない。

今からでも遅くはない、二人を説得して戻ってもらおう。


「黙って出てきたことは謝る。
 だけど・・・・・」

「解ってる。
“私たちを巻き込みたく無かった”……そうでしょう?」


ラピス……解っているならどうして。

「でもね、ユラ。
 私たちは、あなたと離れる事が一番辛いの」



その言葉で、自分の愚かさに気づく。

なんて、俺は馬鹿なんだろう……

目の前にいる彼女たちを悲しませて、何が“みんなが笑える未来”っにしたいだっ!!

こんな少女に言われるまで、自分の間違いに気づかなかった。



……何時に間にか、俺は自惚れていた。

“これから起こる未来を知っている”

それで、自分は一人で何でもできると勘違いしていた。

その結果、周りを見ず自分勝手に行動して、ラピス達を悲しませてしまった。

……二人を連れて行こう。

例え、何かあったとしても俺が彼女たちを守れば良いじゃないか。

そのために、この力を手にしたのだ。

ラピス達に感謝しないと、危うく俺は間違った方向に進む所だった。


「ラピス、パール。
 飛ばすからしっかりと掴まっていろ」


了承の意味も込めて二人に言う。

「うん」

「OK」

そう言うと、二人は俺にしがみついてくる。



「帰ってきたら、留守番のエルに謝らないと……」

「大丈夫。
 エルからの伝言があるよ」

「えっ?」

「えっとね……“帰ったら、買い物に付き合ってもらうからね……もちろん、費用はそっち持ちぃ〜♪”
 だってさ……きっと大変だよ」

「それ位で許してくれるなら平気だよ。
 伝言……確かに受け取ったよ、ラピス」

俺は礼の意味を込めてラピスの頭を撫でてやる。


「はう〜〜」


もし、ラピスに犬のような尻尾があったら……きっと、それを嬉しそうに振っているだろう。

もう完全にクセになっているな俺……
「さて……行くぞ」

二人に負担をかけないように、Gキャンセラーが働くギリギリの速度で、ナデシコに向かう。





《Side アキト》





ちくしょうっ…ちくしょうっ…ちくしょうぉぉっ!!!
 何で、こんな事になったんだ」


俺の後ろには、火星を襲ったあの木星蜥蜴の兵器群が追いかけて来ていた。

今、俺はピンク色のロボットの中で操縦している。





ここまでの経緯を思い出す。

雪谷食堂をクビになって、行く当ても無くただ自転車で走っていた

そうしたら、一台の車が俺の前を通り過ぎた後に、そのトランクから旅行用のスーツケースが飛んできた。

避ける事も出来ずに当たってしまう。

……思えば、ここから巻き込まれていたんだよな。



そのあと、車から同じ年齢位の娘が降りてきて、俺に何度も謝った。

スーツケースの中身が飛び散ってしまったので、入れるのを手伝う。

あの娘が去った後、忘れ物が落ちているのに気がつく。

それを拾い上げて確認する……!?

そこには、幼い時の俺と幼馴染のミスマル・ユリカとの写真だった。

俺はすぐに追いかけた。

あいつなら、俺の両親の死について何か知っているかもしれない。

その事を確かめるため、後を追って港に向かった。





そこで俺を待っていたのは、新しい就職先の機動戦艦ナデシコだった。

軍のドックに着いてすぐに警備の人達に捕まって、どこかの部屋に連れて行かれた。

あの時……そのまま帰されていれば、違った結果になったのかもしれない。





連れて行かれた部屋で、プロスペクターさんと言う人に会い……事情を話したら、コックとして採用された。

それで、今後生活する戦艦の中を回っていたら、変な動きをしたロボットがいる格納庫に着いた。

呆然と見ていたら、突然ロボットが倒れてパイロットの人がケガをした。

医務室に運ばれていく光景をボ〜っと眺めていたら……その人に頼まれて、コックピットに彼の宝物を取りに行く事になった。

まさか、宝物がゲキガンガーの人形だったとは、このとき思ってもみなかった。

懐かしくて人形をみていたら、艦内に警報が鳴り響く。

ヤツ等が来たんだとすぐに解った。

“こんな所で死にたくない”っと思い、目の前のロボットに乗って逃げ出す。

外に続くエレベーターに乗っている最中に通信が入り、色々と話していたら囮にされてしまった。

……みんな、俺の話を全然聞いていなかったな。





外に出たら、既にヤツ等に囲まれていた。

通信で誰かが、何か言っているみたいだが聞こえない。

今の俺はそれどころではない。

ヤツ等の赤いカメラアイに見つめられる。

その瞬間、火星での事がフラッシュバックする。


――息が上手く出来ない……身体も震えている。


――怖い……こわいこわい…コワイコワイコワイコワイコワイ。


――あっアアアァァァァァっ!!!


その時ふと、ユリカの言葉が浮かび上がる。


「ナデシコと私たちの命はあなたに……」


気がついたら、ロボットをジャンプさせて、足のローラーで道を疾走していた。





それで今に至る。

こんな所で死ねない、両親の死の真相……コックになる夢……だから……だからっっっっっ。


死んでたまるかっ!!!


「いいかげんにしろぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」


気がついたら、振り返ってヤツ等の一体に攻撃していた。


「ゲキガンパンチみたいだ」


飛んでいったパンチが戻ってきて、思わず呟く。


「ならっ」


飛び上がり、空中の敵にも同じ方法で次々と攻撃していく。


「あの時……」


火星にいた時、今みたいな力があれば……アイちゃんやみんなを……

コックピットに、アラーム音が鳴る。

メインモニターに目を向けると、無数のミサイルがこちらに来ていた。

思考に浸ってしまい、その一瞬で集中力を切ってしまった。

さらに、空中にいるので上手く動けない。

だめだ、避けられない……


「うあああああぁぁぁっ!!!」


もう駄目だと思い、目を瞑る。



………衝撃が来ない!?

目を開けると、俺の目の前に……銀に輝く鋼鉄の天使が飛んでいた。






二つのロボットが地面に降りる。

敵は、銀色のロボットの突然の出現に戸惑っているようだ。

ウインドウが開いて、銀色の髪をした綺麗な娘が話しかけてくる。


『そこのエステバリスのパイロット……大丈夫か?』

「あっ、はい」

『良かった……  ブリッジ、作戦内容と残存兵力を教えてくれ』


すると、ユリカがすぐに通信を入れる。

こちらにも、聞こえるようにウインドウが出ている。


『艦長のミスマル・ユリカです。
 本作戦は、ナデシコの浮上まで囮になって時間を稼いでください。
 それと、アキトの援護をお願いします』

『了解。
 ルリちゃん、残存兵力のデータは?』

『今そちらに送りました』

『サンキュー、ルリちゃん。
 えっと……アキトでいいか?』


再び、こちらに質問してくる。


「えっ……あ、あのそれで良いっス」


何で別の意味で緊張しているんだ俺ぇぇぇっ!!


『緊張するなって言う方が無理か……
 とりあえず、予備のライフルを渡しておく』


差し出されたライフルを受け取る。


『照準は、機械が勝手に合せてくれるから、合ったら撃て。
 そして、撃ったら逃げる。
 これを繰り返してくれ、ヒットアンドウェイの要領だ……解るよな?』

「だ、大丈夫っス」

『よし、下の敵は任せた。
 俺は上のヤツを引き受ける。
 安心しろ、下の方も援護するから……』


通信を終え、空へ飛翔する銀色のロボット。

俺も敵と向かい合う。

言われた通りに、撃っては逃げ、撃っては逃げ、これを繰り返す。

……空中では凄い事になっている。

近づいてくる敵はナイフで倒し、後ろに後退しつつ遠くにいる奴はライフルで確実に落としている。

ミサイルで攻撃しても、着弾する前に一つのミサイルを撃ち、融爆させて防ぐ。

ロボットは全く無駄がない動きをしている。

そして時折、下の敵に向けて撃ってくる。

それらは全て、ミサイルを発射しようとしたヤツだ。

それが、ミサイルと一緒に周りを巻き込んで爆発する。

悔しいが助かる。

今の俺には、ミサイルを避けきる自信がない。





あとどれ位、時間を稼げばいい。
残り3分かよっ!?

短い時間が、やけに長く感じる……とにかく、逃げる事だけを考えて海岸線を疾走する。
すると突然、道がなくなり目の前には視界いっぱいに海が広がっていた。

立ち止まって慌てていると、銀色のロボットからの通信がすぐに入る。


『海に向かって飛べ』

「はっ!?」

『いいから、飛ぶんだ』


その言葉を信じて海に向かって飛ぶ。



驚いた事に、飛んだ先の海からナデシコが浮上してきた。


『おまたせ、アキト』

「ずいぶんと早かったな」

『あなたのために急いできたの』
どうでもいいが、とにかく助かった。


『敵、有効射程範囲内にほとんど入ってる』

『目標、敵まとめてぜ〜〜んぶ、撃てぇぇっ!!』


黒い光が、木星蜥蜴の兵器を飲み込む。





朝日が昇る。
俺の長い夜が、やっと終わった。

ブリッジで、何か騒ぐ声が聞こえる。



……っと通信が入る。

『さっすが、アキト。  やっぱり、私の王子様だね』


誰が王子様だ……とにかく用件を言わないと……


「かっ、勘違いするなよユリカ……事と次第によってはおまえをこっ…こ…こっ……」

『恋人、交際、婚約ぅぅぅっ!!
 やだ、そんな……まだ早すぎるよ〜〜』


「違うぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」


頼むから、俺の話を聞いてくれ。


『ユラさん』


プロスペクターさんが、銀色のロボットに乗っている娘に通信を入れる。

“ユラ”って言うんだあの娘。


『いつもより、動きが鈍かったのですが……どうかしましたか?』

あっ、あれで動きが鈍いのかよ。


『じっ、実は……わっ、ちょっと二人とも!?』

『やっほ〜〜プロス』

『どうも、プロスさん』


桃色の髪の娘と銀色が少し入った白い髪の娘が、ウインドウに顔を出した。


『ラ、ラピスさんに、パールさん!?
 な、何故ここに?』

『『ユラに付いてきた(の)』』

『すいません。
 バレちゃいました』

すまなそうな顔をして、頬を掻くユラちゃん。

唖然とするプロスペクターさん。

ハアっとタメ息をつく、そして……


『わかりました。  サブオペレーターとして登録しておきます』

『お手数お掛けします、プロスさん』


何か色々と事情がありそうだな。
それはともかく………


「ユ、ユリカ、とにかく俺はおまえに……」

『大好き』

「そうじゃなくて」

『大大だ〜い好き』


「人の話を聞け〜〜〜っ!!!」

『バカばっか』

『楽しくなりそうだなラピス、パール』

『『うん』』





こうして、俺はナデシコに乗る事になった。

ここでちゃんとやっていけるかな………心配だ。

ユリカのヤツは、俺にとってトラブルメーカーだからな。

これから何が起こりそうか想像してみる。
           ・
           ・
           ・
           ・

結論

テンカワ・アキトは……ただいまちょっぴり後悔しております。










第四話に続く










楽屋裏劇場



以降は

二式(クイック二式) ラ(ラピス) パ(パール) エル(エメラルド)





ラ「えいっ」

エル「はいっ」

二式「グエェェェっ……何するんだ二人とも!?
   バットと木刀で頭を叩くなんて……」

エル「私の出番」

ラ「胸の大きさ」

ラ・エル「「理由は分かるでしょう?」」

二式「あれは、話の上で仕方なく……」

ラ「エルのは分かるけど、私のはどうなの?」

二式「コンプレックスで皆様に笑いを………スイマセン、デスカラバットヲオロシテクダサイ」

パ「クスッ、負け犬たちの遠吠えね……」

ラ「パっ、パール……フンっ、別に羨ましくないもん」

エル「私は羨ましいよぉ〜〜
   出番が欲しい……」

パ「クスクスッ……ああっ、楽しい……でも、私はこれで満足しないわ。
  目指せっ、ユリカさん級の大きさよ。
  そうすれば、ユラも………」

ラ「本編では我慢したけど……もう限界っっ!!!」

エル「パールを亡き者にすれば出番に空きが……GO・GOだよぉ〜」

パ「負け犬風情が……返り討ちにしてあげるわっ!!!」

二式「パールの手に斧が……」

ラ「いざっっ!!!」

エル「尋常にっっ!!!」

ラ・エル・パ「勝負っっっ!!!」

二式「え〜と……これ以上〔ドコン〕話ができなくなり〔チュドォーン〕た。
   それ〔バキィっ〕またの機会に……ギャァァァっ、こっちクンな……」










あとがき





どうも、クイック二式です。

やっと、本編に合流できました。

少し設定について……

チャクラの設定は、ナルトを読んで思い浮かびました。

一話しか読んでないので内容はわかりませんが、これは使えると思いました。

でも、そのままでは芸がないと思いYahooで検索したら79612件もありました。

そこから詳しい事を調べて自分の独自の解釈で使いました。

今回は、軽く戦闘シーンも書きましたが……いかがでしたか?

皆様、どうかこの話の感想をお願いします。

次回は、ちょっと楽しい話になるので是非読んでください。

それでは、これからもよろしくお願いします。




感想

クイック二式さんまさかあなたも…(汗) 

のんびり作家が忘れられるに十分ですね。

私も頑張ってるんですよう…(汗)

貴方の頑張るはゲームを頑張るだけでしょう? 最近7人の妹をクリアしたばかりじゃな いですか…萌ゲーばっかやっていると世間に顔向けできなくなりますよ?

グハァ!!

それにしてもユラさん凄いですね、 木連式柔に匹敵する戦闘能力を持っているように見えます。

うん、見た感じ多分木連式柔より格闘戦は強いと思う、投げや関節技はどうか分らないけど…

それから皆さんともいい感じで知り 合いになってますね…この調子で私の敵を排除して欲しい物です♪

…多分排除されるのは君じゃないかな?

どういうことです!? 興味がある だけですよ!! 私はアキトさんと…

だから、平行世界だし。

うう…それもそうですね、ユラさん 良い人ですし…平行世界の私、頑張ってくださいね!私はアキトさんとラブラブですけど!

いつラブラブになったんだ…(汗)

押して頂けると作者の励みになりますm(__)m

クイック二式さんへの感想はこ ちらの方に。



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