第五話「早すぎる『さよなら』ではなく、『始まりの一歩』」











《Side ユラ》





現在、ナデシコは第四防衛ラインを突破中である。

連合も飽きもせず、ミサイルを撃ち込んでくる……効かないのにね。

無論、向こうもそれを承知している。

単なる嫌がらせに、金の使い過ぎだ。


「ハァ、もったいねぇ……」


現在、俺はある場所に向かっている。

そこは……





光も無く、淀んだ空気が支配する冷たい監獄。

まだ作られたばかりで新しい筈なのだが、何故かそう感じてしまう。

そして、そこには複数の人の気配と息遣いだけが在った。


「あんた、何しに来たの」


キノコ……っではなくて、ムネタケ元副提督のところだった。


「ちょっと様子を……ご気分は如何ですか?」

「フン、縛られて気分が良い筈ないでしょう。
 ……変態じゃあるまいし」


こちらを睨みつけて、皮肉を言ってくる。

どうやら、人を見下すのは好きだが、その逆は嫌いらしい。

……別に、見下しているつもりは無いのに。


「そりゃ、ごもっともで……」


俺は俺で、顔の表情を崩さず淡々と答える。



「……っで、ここに来た目的は何?」


そう、俺も目的も無くここに来たわけでは無い。

歴史改変の第一歩を踏み出すために、ここを訪れたのだ。


「まさか、アタシ達をからかいに来たのかしら」

「いえ、貴方達にとって良い話です」

「良い話?」


ムネタケは訳が分からないといった感じの顔をする。

部下の兵も、互いに顔を見合わせて俺の言葉の意味を考える。


「そうです。
 ……そちらの方、縄を切ろうとしなくてもいいですよ」


先程の会話中に、顔を俯いて目を合わそうとしなかった人に話しかける。

いくらなんでもバレバレだ。

……でも、これで事を進めやすくなったな。



「アタシ達を逃がしてくれるという事かしら?」


気づかれて部下達の顔が青くなる中で、ムネタケ一人が動じる事なく答える。

驚いたことに、ヤツの瞳に動揺の色が見られない。

どうやら、父親の名前だけでこの階級に就いた訳ではなさそうだ。


「ハイ、格納庫に脱出艇を用意してあります」

「どういうつもり?」


あまりに都合のいい話に、ムネタケは警戒する。


「簡単な事ですよ。
 これ以上、不穏分子であるあなた方がいると何があるか分かりませんから」


こういう頭の切れるタイプは、隠さずにストレートに言った方が良い。

変に隠すと、かえって警戒を強めてしまう。


「邪魔になるかもしれない障害は排除する……っと言う事かしら?」

「そうとって貰っても構いません」


ムネタケは、少し思案顔する。

さあ、どう出る……


「いいわ、案内して頂戴」


その言葉を聞き、全員の縄を解く。





――格納庫に向かう途中



「そういえば……アンタ何で口調が違うのよ?」

「営業用です。
 このような交渉の時に使っていまして……」

「あのプロスペクターのマネってわけね」

「ハイ」


……っというか、師匠なんだよね。





格納庫に着くと、用意しておいた脱出艇の前に連れて行く。


「皆さん、早く乗ってください。
 ハッチは、ワタシが開けますから……」


そう言うと、我先にと入っていく兵士達。

このような場面こそ、冷静にならなくてはいけないのに……連合宇宙軍はちゃんと訓練させているのか?



「ちょっと……」


その中で、ムネタケが脱出艇の出入り口で止まり、こちらに話しかけてきた。


「これは、アンタの独断なの?」

「いえ、プロスさんとゴートさんからは許可は頂いております」

「そう……礼は言わないわ。
 アタシは、正しい事をしたのだから」


ほんの少しだけ右手を口元に持ってきて思案した後、ムネタケはこう言ってきた。



あの出来事は連合の総意であり、まちがっているのはこちらの方だと奴は言っている。

しかし、俺には関係ない。

目的地の火星には、これからの未来を決める重要なファクターがある。

ならば、その邪魔をする連合軍の総意は俺の障害でしかない。

そんなものは俺が潰すっ!!



“交渉の時は、仮面をかぶり自分を偽る”……これが師(プロスさん)から最初に教えられた。

相手に自身を知られてはいけない、感情で動いてはこちらの負けになる。

そのために、自分を偽る仮面・・・自身とは違う自分をかぶるのだ。

ヤツの言葉で、仮面が少し剥がれ“我”が出そうになるが、必死に押し殺す。


「……そうですか」


この時、俺は人形のような感情のない表情をして答えていただろう。





ムネタケが入ったのを確認すると、コミュニケで中枢コンピューターAI(後のオモイカネ)に守秘回線でアクセスする。


『何か御用ですか?』


目の前にウィンドウが現れる。


「今から脱出艇が出るのでハッチを開けてくれ。
 この事は、誰にも知られないようにログはすぐ消去……この会話も含めてだ」

『了解』

「すまない、嫌な事させて……」



あらゆる事から学習するオモイカネにとって記憶は大切な物。

例え、それがこのような汚れた裏の光景でもだ。

その大切な物を俺は“消せ”と言っている。

だから彼に、恨まれても仕方が無いと思う……


『いえ、お気になさらないで下さい』


その言葉に、俺は救われた気がした。

表情こそないが、表示された字は俺のことを気遣ってくれている事を感じる。





ハッチが開放されると同時に、脱出艇は急発進した。

見送りながらそっと呟く。


「これで、ヤマダが死ぬ事は無くなったな………」


今の俺はどんな表情しているのだろうか。

笑っているのか、それとも安堵しているのか分からない。

でも、これだけは解る……



この瞬間、俺は歴史を変えた。





《Side ラピス》





私はさっきまで、凄い光景を見ていた。

連合軍の総司令にユリカが宣戦布告をしたのだ。

こんな事をするのは、“バカ”か“大物”のどちらかである。

私は“大物”だと思う。

何故なら、ビックバリアを無理矢理突破して火星に行く口実ができたのだから。

まあ、軍が敵に回ったけどね。



ユリカを見ていると天然っぽいと思うけど、意外に頭の回転が早い。

そうでなければ、首席なんてとれる筈が無い。

臨機応変にその場に合った戦術を最速で導き出し、最善の手段を使って戦闘に勝利する。

まさに、天才なのだ。

そこは尊敬しても良いと思う……けれど、あの「アキトは私の王子様」が無ければねえ……

あれさえ無ければ、立派な艦長なのに勿体ない。

でも、それが無いとユリカではないと思うし……人間って、難しいな。

私の悩みの原因である張本人は、自分の王子様に着物姿を見せに行っている。



「ねえ、ルリ」

「何ですか、ラピス?」

「人って、難しい生き物だよねえ〜」

「は、はぁ……」


ルリは、どう答えていいのか分からずオロオロとする。

> 私も、バカな事を聞いたと後悔した。


「ごめん、今の事は忘れて……」

「えっと……ラピス?」

「何でもないから」

「そうですか」


少し不満な顔をしていたが、すぐに切り替えて仕事に戻ってくれた。

それから、会話なくなる。





数十分後。



退屈、何か話のネタないかな?

第三防衛ラインまで、凄く暇なんだよねぇ〜

ここにいるミナトもメグミも、暇潰しに雑誌を読んでいる。

ルリも艦の制御と並行して何かしてるし、パールも……

……あれ、いないっ!?



パールは何処に行ったんだろう。


「ルリ、パール知らない?」

「いえ、私は知りません……ミナトさん、分かりますか?」


読んでいた雑誌の手を止めて、目線を上げて考え込む。


「え〜と……私も知らないわよ。
 メグちゃんは知っている?」

「パールちゃんなら、さっき休憩を取って来るって……」

「行き先は?」

「そこまでは、ちょっと……」


私がパールの行き先を考えていると・・・


「探してみましょうか?」

「ううん、自分でやってみる」


ルリの申し出を断り、自分でアクセスして艦内を検索する。





………いた。

展望室か……お昼寝でもしているのかな?

だったらやめよ……あれっ、傍に誰かいるみたい?

私はその人物が誰か調べてみる。

……パっ、パール……アンタは……





「なに一人でうらやましい事してるのよぉぉぉぉぉっ!!!」


思わず大声を上げてしまい、周囲の三人を驚かせてしまった。


「ラっ、ラピス……どうしたんですか!?」


ルリが、やや遠慮気味に聞いてくる。

そんなのは気にせずに素早くルリの両手を掴み、祈るような形に持ってきて目を見つめる。


「先に、謝っておくね。
 ルリ、私は急に用事できたからしばらく仕事をお願い」

「えっと、それは……いったい……」

「展望室……いえ、戦場が私を呼んでいるの」

「えっ?」


それだけ告げると、私は猛スピードでブリッジを後にした。


敵は展望室に在り。





ラピスが去った後。


「どうしたのかしらね」

「さあ?」

「展望室の映像を出してみましょうか?」

「それじゃあお願いね」

「ハイ……モニターに出します」

「あらっ」

「わあ……」

「……??
 これは、どういう事でしょうか」

「ラピラピはこれを見て嫉妬したのよ。
 ルリルリ、分かる?」

「いえ、よく分かりません……って言うかルリルリって……」

「私が考えた愛称よ……気に入ってくれた?」

「そう呼ばれるのは別に構いません」

「そう、良かったわ♪」

「その呼び方、かわいいですね」

「そうでしょう、メグちゃん」

「あっ、あの……」






「ハァ……ハァ……っ」


私は展望室の入り口にいる。

全速力で走ってきたから息が切れていた。

運動は苦手だが、あの二人を一分一秒でも一緒にさせてたまるか。


「スウゥゥ……ハア〜〜〜ァ」


深呼吸して体全体に酸素を行き渡らせる。
準備完了……いざ戦場へ……
目の前の扉が横にスライドする。


「二人だけでお昼寝なんてずるぅぅぅいっ!!!」


「うお!?」

「きゃっ!?」


私の声で飛び起きるユラとパール。

さっき居場所を検索した時に見た映像が、ユラの腕枕で寝ているパールの姿だった。

それを見て、すぐに私は妨害行動に移った。

フフッ、二人きりなんてさせないんだからっ!!





「何か用かしら、ラ・ピ・ス」


パールがゆっくりと起き上がり、私に話しかけてきた。

表面上は笑っているけど、内心は怒りの業火で燃え狂っているのだろう。


「別に用は無いけど、二人がお昼寝しているのを見て来ちゃった♪」


その怒りを感じつつも、私は平然と笑顔で返す。


「そう……でもね、いきなり起こす事はないんじゃない。
(訳:せっかくの私の至福の時間を邪魔して・・・この桃色洗濯板)」

「ごめんね、羨ましくてつい……
(訳:抜け駆けは許さないよ……若白髪)」

「しょうがないわね……許してあげるわ。
(訳:だっ、誰が若白髪よ、これは白髪じゃなくて白銀よ、洗濯板)」

「ありがとう、パール。
(訳:洗濯板、洗濯板ってうるさいわよ、将来はアンタより大きくなるんだから)」

「これからは気をつけてね。
(訳:フンっ、そんな事ありえないわね)」

「うん。
(訳:いつか必ず、追い越してやるんだから)」


私たち以外の人が見たら仲の良い姉妹の姿に見えるだろうが、内心はこのように争っている。

これこそ、恋する少女だけが可能とするアイコンタクトによる内なる心の会話だ。

現在、これをできるのは私たち二人とエルだけ。

そして、今もニコニコと笑いながら、互いに牽制しあっている。



「あのさあ二人とも、そんな所に立ってないで一緒に昼寝しないか?」


のほほんっと誘ってくるユラの言葉。

それを聞いた私たちは……


「「うん、する〜〜」」


あっさりと争うのをやめて一緒に寝転がる。

私が右で、パールが左の腕枕で眠りにつく……

ああっ、幸せ……でも、二人きりだともっと良いんだけどな。

でもまあ、今回はこれでいいよね。





ユラ争奪戦INナデシコ

ラピス VS パール

結果 第三者(ユラ)の介入により引き分け





コミュニケから着信音が鳴り、私たちは目を覚ます。


『そろそろ、第三防衛ラインに入るので三人とも所定の位置についてください』


メグミから休憩時間の終りを告げる連絡が入る。


「了解、すぐに行きます」

『はい、それでは……』


通信が切れ、ユラは体を起こして自分の状態を確かめるように身体を動かす。


「それじゃあ行きますか」

「ユラ、がんばってね」

「油断しないでよ」

「ああ、お前達もな」


そう言って、ユラは私たちの頭を撫でる。

いつもの事だけど、撫でられると気持ちよくて身体が宙に浮いた感じになる。

もう胸の中が嬉しさと幸せでいっぱいっ!!



………頭から手が離れる。

名残惜しいけど、時間も迫っているから仕方が無い。


「いってくる」

「「いってらっしゃい……」」


そう言って、ユラは小走りで出て行った。


「ラピス、私たちも行くわよっ!!」

「うんっ、急ごうかっ!!」


私たちも展望室を後にした。





《Side ユラ》





『機影を確認しました、デルフィニウムです。
 機数は9、現状のままだと180秒後に交戦状態に入ります』


アサルトピット内に、ルリちゃんからの報告が入る。


『フィールドの外でデルフィニウム部隊を迎撃します。
 エステバリス、発進お願いします』

「了か……」


『ちょっと待てぇぇぇぇぇっ!!!』


ユリカさんの指示が出たので出撃しようとしたが、いきなり熱血バカが割り込んできた。

目の前をいっぱいに広がったウィンドウを見て、ユリカさんがキョトンとしている。


『あっ、ヤマダさん』


『ダイゴウジ・ガイだぁぁぁぁっ!!!』


『……っで、どうしたんですか?』

『良くぞ聞いてくれた。
 エースパイロットの俺の実力を見せるため、俺一人で出撃する』

『はあ……』

『……っと言うわけで、ダイゴウジ・ガイ……いくぜ』

『あっ、ちょっと……』


ユリカさんの制止を聞かず、言いたい事だけを言って出撃するヤマダ。





それと入れ違いで、ウリバタケのコミュニケが入る。

『おいブリッジっ!!
 ヤマダの奴、何も持たずに出てっちまったぞっ!!』


『『『ええっ〜〜〜っ!!?』』』


『ふっ、心配無用っ!!』


こいつ、タイミングが良すぎる……こっちの様子を窺っていたんじゃないか?


『博士っ、スペースガンガー重武装タイプを出してくれっ!!』


『前も言ったが、誰が博士だっ!!!
 ……それに、ウチにはスペースだか何だか知らんが、んっなモンは積んでねえぞ』


すると、ウリバタケさんの隣にいた整備員が……


『それって、1−Bタイプの事じゃないですか?』

『おうっ、それそれ』

『最初からそう言えっ!!
 ……っで、こいつをどうするんだ?』


「付き合いきれない」と言った顔をしながら言葉を返す。


『いいか、敵はこっちが丸腰だという事で油断している。
そこで引きつけて空中でスペースガンガーに合体、敵を一気にぶち倒すって寸法さぁ。
名付けてガンガー・クロス・オペレーション
くぅ〜、イカスぅ〜っ!!』


下手くそな絵まで付けて、解説するヤマダは悦に浸っている。





「オイっ、それ絶対に失敗するぞ」

『なっ、なんだとぉぉぉっ!?』


そのまま、俺は指摘を続ける。


「あのなあ……空中で換装すると言う事は、無人の重戦フレームを戦闘空域に射出するという事だろ?
 そんな事したら、敵の格好の的だぞ。
 撃墜されて、金が無駄になるからやめておけ。
 まあ、もう一機が囮になっている間に換装すると言うことなら、何とか為るかもしれないが……
 おまえ、一機しか出てないから無理だな」

『『『『『・・・・・・』』』』』


場が完全に沈黙する。





『あの〜、もしかして作戦失敗ですか?』

『ええいっ、心配無用ぉぉぅぅぅっ!!』


首を傾けるユリカさんの言葉に答えるが、その語尾は裏返っている。

ヤマダのエステが、スラスターを全開にしてデルフィニウム隊に突っ込む。

その左手にはフィールドを纏い、下から突き上げる。


『ガァァァイ・スゥゥパァァ・ナッパァァァァッ!!!』


DFの拳が、デルフィニウムの一機に突き刺さる。

爆発と共に、機体は燃え上がる。





『『『『『おおぉ〜〜っ』』』』』


ブリッジ歓声が上がる。

アイツは、ああ見えても一流のパイロットである。

だが、その性格や行動の所為で、そのように認識されてなかった。

「人格に多少の問題があっても、腕は一流」を基準にスカウトしたのだから、これ位の実力が無くては困る。

ナデシコクルーも、少しは認識を改めようと思った……っが、彼は俺たちの期待を裏切らなかった。





先制攻撃としては良かったが、誰の援護も無く突撃するのは余りにも無謀な行動。

案の定、すぐに残っていたデルフィニウム部隊に包囲されてしまった。


『ヤマダ機、完全に囲まれました』

「ルリちゃん、冷静な報告ありがとう。
 ついでに、アキトを呼び出してくれ」

『ユラ、既に連絡済よ』

『……助かるよ、パール』


アサルトピット内のモニターには、両手を腰に当て、踏ん反り返っているヤマダ機が映っていた。

………頭が痛くなってきた。





衛星軌道上でにらみ合うデルフィニウム隊とナデシコ。

そのちょっとした膠着状態の中、ナデシコのブリッジの大型モニターが開いた。


『ジュン君っ!?』

『君の行動は契約違反だ』


忘れられていた副長、アオイ・ジュンである。

その目元はヘルメットで覆われて伺うことは出来ないが、付き合いの古いユリカさんには一目で分かったようだ。


『ユリカ、これ以上は行かせない。
 ナデシコを地球へ戻すんだ』

『ジュン君……どうして』

『これ以上進めば、ナデシコは第3次防衛ラインの主力と戦うことになる。
 コレが最後のチャンスなんだ。
 僕は力ずくでも、君を連れ戻してみせる』



ジュンの言っている事に嘘はない。

このまま地球圏を脱出すれば、ナデシコは連合軍に完全な敵として認識されるだろう。

そうなれば、もう地球圏に居場所はない。

しかし、ジュンの真摯な呼びかけに、ユリカさんは静かに首を振った。


『ごめんジュン君。
 私、ここから動けない』

『僕と戦うって言うのかいっ!?』

『此処が私の場所なのっ!!
 ミスマル家の長女でもお父様の娘でもない、私が私でいられる場所は此処だけなの』

ユリカさんの決意がジュンに、そして俺たちにも伝わる。





『そんなにあいつがいいのか……』


今の言葉で引いてくれると淡い期待をしたが、彼にはショックが大きかったようだ。


『どうしてもと行くと言うのなら
まず、こいつを破壊するっ!!』


捕まって身動きの取れないヤマダのエステに、ジュンのデルフィニウムのライフルが向けられる。


『ジュン君っ!?』


『やめろぉぉぉぉぉっ!!!』


その引き金が引かれる事はなかった。

一機のエステが、ヤマダを捕らえていたデルフィニウムを吹き飛ばしたのだ。





『アキトっ!!!』


俺は俺で、吹き飛ばされたヤマダのエステを受け止める。


『くっ!?
 君か、テンカワ・アキト』

『やめろよ、こんな事……俺たちこの前まで仲間だったんだろう。』


『あくまで立ち塞がるというなら……
 僕と戦え、テンカワ・アキトっ!!!


『えっ!?』

『一対一の戦いだ……
 僕が負ければデルフィニウム部隊は撤退させる』

『行け、アキトっ!!
 それでこそ男の戦いだっ!!』

「ヤマダ、少し黙ってろ。
 ……っでだ、実際どうするんだアキト」


明らかに迷っている顔をするアキト。

……しょうがないな。





『俺は戦いたくない』

「そうか……でも、相手は諦めてくれそうに無いぞ」


ジュンのデルフィニウムに目を向けながら答える。


『それでも、俺は……』

「だったら、止めに行け」

『へっ?』

「これ以上、アイツにバカな真似させたくないだろう?
だから、戦うのではなく止めに行くんだ。
戦い=(イコール)破壊じゃないだろう」

『そうだな……ユラ、ありがとう』

「よしっ……じゃあ行って来い」

『応っ!!』


向かって行くアキトの顔に迷いは無かった。

あれなら、大丈夫だろう。





「おい、ガイ……」

『だから……って、今ちゃんと……』


突然、そう呼んだので驚愕の表情を浮かべる。

「とりあえず、残りの部隊を抑えるぞ……いいな?」

『……おっ、おう、任せとけっ!!
 男のタイマンの邪魔はさせねえぜ』


こいつ、急に調子が戻りやがったぞ。

さっきまで、「敵に捕まるとは一生の不覚」っとかで、かなり落ち込んでいた筈なのに……

余程、俺に「ガイ」と呼ばれたのが嬉しかったのか?

ただ単に、言う事を聞かせるためにそう言ったのだが……





アラーム音がピット内に鳴り響く。


【 敵機を確認 】

【 距離 600m 】

【 数は7機 】

【 有効射程範囲まで残り 400m 】


俺の周りに、次々と情報が表示される。


「戦闘開始」


それと同時に、俺は駆け出した。





デルフィニウムから一斉にミサイルが放たれ、腰に収納してある二丁のハンドガンで迎撃する。

撃った3ヶ所のミサイルが、周りのミサイルを巻き込んで爆発。

ほんの一瞬、暗い宇宙がまぶしくなる。

それによって、互いに姿を見失ってしまう。





俺は、ミサイルの爆発前の敵の位置とその後の行動パターンを頭に入れて、現在の位置を予測する。

一、二秒で見当をつけて、2時の方向に向かった。


――見つけたぞ


デルフィニウム一機が、視界が晴れるのをジッと待っていた。

……っと同時に、ブレードで両腕と下半身を切り裂き戦闘不能にする。

向こうには、何が起こったか理解できていないだろう。

ここまでの所要時間は僅か17秒。





デルフィニウム部隊は、突然現れた俺に一瞬だけ戸惑う……っが、すぐに近くの三機がライフルで迎撃してきた。

スラスターを吹かし、部隊を中心に時計の反対まわりに動き、攻撃を避ける。

敵もライフルを撃ちながらその場を軸にして回転しながら攻撃を続けてくる。

相手は近づけないと思っているようだが……なめるなよ。

回避運動を中断、急旋回しスラスターを全開にして敵に突っ込んでいく。





ライフルで迎撃してくるデルフィニウム三機だが……


「効かねえよっ!!」


弾は全てDFによって弾かれる。

俺は回避運動と同時に、フィールドの高速度攻撃に必要なスピードを稼いだのだ。

さらに、前面部に意図的に集束させたDFにそんな攻撃は皆無だ。

効果がないと解り慌てて回避しようとするが、二機だけが避けきれずボディの部分に損傷を受け戦闘不能に陥る。

突き抜けたその場で180°回転。

避けたデルフィニウムに、照準を合わせてハンドガンで三回発砲。

狙い通りに頭部、左腕、右手を打ち抜く。

コックピットを撃てば完全に沈黙するのだが、後々連合軍とネルガルは手を組むため悪い印象を与える訳にはいかない。

まあ、個人的にも余り人殺しをしたくないしな。





【 警告 後方に敵機が接近中 】


おっと、今は戦闘中……余計な事を考えている場合じゃないな。

後ろへ振り向いてハンドガンを構える。



【 本機体と敵機との距離 700 】


――照準をオートからマニュアルに……



【 距離 650 】


――集中力が爆発的に高まり、頭の中がクリアになっていくのが解る。



【 距離 580 】


――周りに障害は無い、ヤツと俺だけだ



【 距離 550 】


――不意に、アサルトピット内のモニター越しではなく、自分の瞳で相手を見ている錯覚に陥る。



【 距離 520 】


――ターゲット……ロック


指先に力を入れて引き金を引いた。



“マズルフラッシュ”と呼ばれる射撃時に噴き出す炎が闇を切り裂くのと同時に、世界の全てがスローになる。

銃口から弾が出て行くのが視認できる……俺の頭がおかしくなったのでは無い。

爆発的に高まった集中力が、今の現象を起こしているのだ。

前の世界でもそうだったが、このような状態は何度もなった事があるので、今更驚く事はない。





弾は吸い込まれるようにデルフィニウムの頭部に命中した。


【距離 500 敵機の頭部破壊に成功】


ふう……ヤマダの方を見てくるかな。





ヤマダの所に着くと、デルフィニウム二機が戦闘不能になっていた。


『どうだ、ユラ。
 俺に任せればこんなもんよ』


器用にも、またエステで踏ん反り返って言ってきた。


「それ位は出来て当たり前だ」

『何!?
 ……そこまで言うのなら、俺の武勇伝を交えて説明を……』

「しなくていい」


冷たく言い放つ俺の言葉に、明らかに落胆の色を出すヤマダ。


「ハァっ……アキト様子を見に行くぞ」

『おっ、おい……待ってくれ』


さて、アニメ通りならたぶん……





『バッカヤロォォォォォッ!!!』


アキトのエステの右拳が、ジュンのデルフィニウムの頭部を殴りつける。


『やるじゃねか、アキトっ!!!
 男と男の戦いは、こうでなくちゃなぁっ!!!』


丁度、いい所で来たみたいだな。


『こんな風に、好きな女と戦う正義の味方になりたかったのかよ、おまえはっ!!』


目元を覆っていたヘルメットの一部が割れて、左頬を押さえているジュン。


『好きな女だからこそ、地球の敵なるのが……耐えられないじゃないかっ!!』


ジュンのデルフィニウムから、小型のミサイルが次々と発射される。



それを後退しながら避けるアキトだが……途中で機体が止まる。

調子に乗って追いかけたヤマダ機もだ。


『あれ?
 えっ、えっえええええっ!!』


アキトの周りに表示されるウィンドウ。


【残念 エネルギー切れです】


それを見て愕然とするアキト。


『こっちもエネルギー切れだ〜』


ヤマダも同じ様な表情で通信をいれる。


「アホか、おまえらはっ!?
 エネルギーラインの有効範囲外を飛び続けるからそうなるんだ。
 有効範囲の事を知らない訳無いよな、説明書は渡してあるしな」


二人とも、一応目は通したがすっかり忘れていたって感じだな。


『あれっ、ジュンは?』

『おい、あれをみろっ!?』


そこには、両手を広げ自らナデシコの盾に為ろうとしているジュンのデルフィニウムの姿だった。

すぐに、俺は先の方を見ると、第二防衛ラインの大型ミサイルがこちらに接近していた。





『あの野郎、ミサイルの盾にっ!!?』

『ジュン君っ!?』

『やめろぉぉぉぉっ!!』


あのままだと、ナデシコが追いつく前に……ちっ、こうなったら……


「アキトっ、ガイっ!!」

『えっ?』

『何だ?』


「どりゃぁぁぁぁっ!!!」


掛け声と共に、俺は二人のエステに蹴りを入れる。


『『どわぁぁぁぁっ!?』』


二機は回転しながら、エネルギー供給ラインまで飛んでいく。


「二人とも、それなら動けるな。
 そこのバカを早く回収しろ」

『『……おっ、応』』


よしっ、指示通り回収したな……それじゃあ俺も……


『ユラ、大変よっ!!』

「どうしたんだ、パールっ!?」

『このままだと、ナデシコが撃沈するわ』

「なんだとっ!!」


別のウィンドウからウリバタケのコミュニケが繋がる。


『相転移エンジンの稼働率が予定値まで上がってねえんだ。
 これだとビックバリアを突破できねえ』


どういう事だ、こんな展開は無い筈だ。

いったい……そうか、俺が歴史に干渉したから修正力が働いたのか。

クソっ……いいだろう、おまえからの喧嘩を買ってやるよっ!!


「ウリバタケさん、急いで高機動フレームとバッテリーの準備をしてください」

『おまえ、何する……』


「説明は後でしますっ!!!」


『……わかった、すぐ用意するから早く戻って来いっ!!』

「了解」


やれるだけの事をやってみるさ。






《Side パール》





「相転移エンジン臨界ポイントまで、一万三千キロメートル」

「ミサイル、尚も接近中」


ルリとラピスが、現在の状況を淡々と報告する。


「ユラ機、アキト機、ヤマダ機を回収、副長も一緒です」


私も二人と同じ様に自分の仕事を続ける。


「……パールちゃん、バリア衛星の突破に必要な出力までどれ位?」


ユリカさんが、沈痛な表情で聞いてくる。


「予定出力の、73.8%まで上昇しています。
 現状のまま、第二防衛ラインを突破しても予定の八割までしか行きません」


ミサイル攻撃を防ぐのに、出力をDFに多少は割かないといけない。

しかし、それだとビックバリアを突破できない。



状況は最悪……でも、私は不安を感じていない。

だって、あの人がいるから……





「艦長、格納庫のユラ機より通信です」

「ルリちゃん、こっちに回して」

「ハイ」


ほらね、ユラが絶対に何とかしてくれるんだから。


『艦長、今から大型ミサイルを落としてくる。
 ………出撃許可を貰いたい』


ユリカさんの表情が変わる。


「そんなの無茶だよ。
 ミサイルとディストーション・フィールドの板挟みになるんだよ。
 いくら、ユラ君が一流のパイロットでも危険過ぎるよ」


ナデシコのディストーション・フィールドに接触したらアウト。

勿論、ミサイルの直撃を貰えば即アウト。

その状況で回避行動をしつつミサイルを破壊するっと言っている。

普通の人なら私は無謀と言うだろう、でも……


「大丈夫ですよ、艦長」

「そうそう、ユラなら絶対にできるから」


私とラピスがユリカさんにそう言った。





ユラは言った事は必ず成功して、私たちの所に帰って来た。

「不安や心配じゃないの」っと聞かれたら、「無い」とは言い切れない。

……でも、私たちはそれ以上にユラの事を信じている。

だから、今回も必ず帰って来てくれる。



「「そうよね(だよね)、ユラっ!!」」


ユラは、恥ずかしそうに頬を掻いて……


『……二人の期待に応えるとしますかっ!!』


……っと、少し微笑んで答えを返してくれた。


「……わかりました。
 その代わり、必ずナデシコに戻ってきてね」

『了解』


コミュニケが切れる。





『ユリカ……あのさあ……』


ユラと入れ替わりでアキトさんがコミュニケを入れてくる。


「大丈夫だよ、アキト。
 ユラ君の事……信じてみようよっ!!」

『………ああっ、そうだなっ!!』


互いに笑顔で答えを返しあう二人。

ハァ、この二人は……


「イチャつくなら、後にしてね」


ラピスのツッコミに、ユリカさんは妄想に入り、アキトさんは顔を真っ赤にして何か言ってくる。

……グ・ジョッブよ。

ラピスに向けて、親指を立てる。

「まあね」(アイコンタクトで会話)と言って、同じ様に親指を立てる。


「バカばっか」





『ユラ・マルス、出撃する』


ユラの機体が再び重力カタパルトを駆け抜ける。
そして、飛び出すのと同時に凄まじいスピードでミサイルに向かう。


「さっきと比べて、凄い速さねえ」

「……っと言うか、速過ぎません?」


ユラの機体のスピードを見て感想を言う、ミナトさんとメグミさん。


『当たり前だ。
 あの機体は、乗り手を無視していやがる』


突然のコミュニケで登場するウリバタケさん。


「それって、どういうことですか?」

『艦長、ユラの機体は普通のパイロットだとパワーとスピードが強すぎて操縦し切れねえ。
 普段、何気なく取っている回避運動や旋回にもの凄えGがパイロットに掛かるんだよ」

「ちょっと、Gキャンセラーはどうなっているのよ!?」


そう言うミナトさんの声はいつもより少し荒れている気がする。

きっと、操舵手なだけにそのことについて詳しいのね。


『キャンセラーは作動しているが、アイツの出すGをキャンセルし切れないんだよ。
 加えて、今回換装したのがあの機体専用の高機動フレーム。
 さっきまでのフレームとは段違いのスピードと加速度で、掛かるGも恐ろしい事になってる。
 俺も仕様書を見た時、アイツに聞いたんだよ、“誰が、こんな欠陥機を設計したんだ”ってなあ……
 そうしたら、“自分でやりました”だとさ……俺は、唖然と同時に悲しくなったぜ。
 俺の半分も生きていねえガキが、自分の異常性を認めているんだぜ。
 プロスさんよお、俺はアイツが過去に何が遭ったかは聞かねえつもりだ。
 ……だが、“自分をもう少し大切しろ”って言うからな……何はずかしこと言ってんだ俺は……』


顔を赤く染めて頭を掻くウリバタケさん。





「全然、はずかしくないですよ」とユリカさん

「そうよ、立派よ」とミナトさん

「私、感動しました」とメグミさん

『俺もですよ、ウリバタケさん』とアキトさん

『はがぁせ〜、オレは、オレは……ちきしょう涙でよく見えねえぇ〜』とヤマダさん

「人は見かけによらないとは、この事だな」とゴートさん

「ウリバタケさん、彼のことをよろしくお願いします」とプロスさん





「ねえ、ラピス」

「そうだね、パール」

ここは、ユラを……そして私たちの事を受け入れてくれた。

「お二人とも、よかったですね」

「「ルリ?」」


突然、そう言われたので戸惑う。


「だって、顔が微笑んでいますよ」


そうかもしれない……だって、うれしいから……でも……


「そう言う、ルリだってっ!!」

「そっ、そうですか!?」

「ラピスの言うとおりよ。
 それに、顔が真っ赤よ」


そう言ったらルリがさらに赤くなる。


「……バカ」


ここのみんなは、私たちを人として見てくれる……きっと、ルリも私たちと同じ気持ちなんだろうな。





「は〜〜い皆さん、そろそろ持ち場に戻りましょうっ!!」


ユリカさんの掛け声で、それぞれの作業に戻る。


「ラピスちゃん、ユラ君のエステの映像をお願い」

「んっ、わかった」





《Side ユリカ》





正面の大型のモニターには、今まさにミサイル群に接触するユラ君のエステの姿が映った。

私は思わず目を逸らしてしまう。

私自身、この判断が良かったのか分からない。

地球連合大学を首席で卒業、戦略シミュレーションで無敗の逸材と言われる……だけど……

まだ、実戦では新米である私にはこの状況を打破する方法が思い浮かぶ筈が無く。

結果、彼の提案に縋ってしまった。





これは、仮想ではなく現実……私の判断の一つ一つに人の命が懸かっている。

不安、辛さ、恐怖、責任といった感情が私を締め付ける。

私はこの先、このプレッシャーに耐えなくてはいけない。



……ううん、弱気になっちゃだめ。

私は、ユラ君を「信じる」って言ったのだから、最後まで信じないと。

モニターに映る銀色のエステバリスに再び目をやる。





――そして、始まった。



私の目の前のモニターには、今までの常識を覆す光景が映し出されていた。

最低限度の動きと出力で、木の葉の様な舞で回避しつつも、迫り来るミサイルを、装備したライフルで撃ち落とす。

また、ライフルを撃ちつつも反対方向にあるミサイルに近距離まで近づき、DFを集束させた拳で撃墜する。

攻撃の方法はヒット・アンド・ウェイを基本とした動きだ。

標的を撃ち落しに成功したら、その場をすぐに離れ次の目標を狙う……単純な動きだが、一般のパイロットとは明らかに違う点がある。

普通は照準に数秒はとるのに対して……ユラ君にはそれがない。

まるで、ミサイルの位置を全て把握しているかのように、次の目標を狙う時にタイムラグが無いのだ。

そう思っている間にも、ユラ君は次々と漆黒の宇宙に紅蓮の華を咲かせる。





エステバリスの操縦を知らない私でも、この動きの凄さが理解できる。

パイロットの集中力、体力が高く、状況判断が早くなければこんな動きは出来ない。

機体のスピードも違う。

速度や加速力が、アキトのエステバリスと全然比べ物にならない。

高機動フレームと名づけられた意味がよく解る。

そして、この機体の力を100%引き出すユラ君が、どれだけ凄いパイロットなのか改めて認識させられた。





「ミサイル、7割方撃墜」

「相転移エンジンの臨界ポイントまで、残り8000キロメートル」

「ディストーション・フィールドの出力は安定しています」


ラピスちゃん、ルリちゃん、パールちゃんの順番に報告が入る。

私は私で、ナデシコの指揮をしないと。



「ウリバタケさん、エンジンの方は?」

『順調に上昇中……これならいけそうだ』

「わかりました。
 ミナトさん、進路はそのままでお願いします」

「りょうか〜い」

「ルリちゃん、臨界ポイントまであとどれ位?」

「残り6000キロメートルを切りました」

「ありがとう。
 ラピスちゃん、ユラ君の機体のバッテリーの残量と損傷は?」

「損傷は今の所はないよ……バッテリーはまだ大丈夫」

「損傷なしか……すごいね。
 メグミさん、整備班にユラ君のエステバリスをいつでも受け入れられるように、通達をお願い」

「はい、格納庫の整備班に通達……」


とりあえず、やれるだけの事はやった……あとは、ユラ君からの連絡を待とう。





突如、ユラ君のエステが止まる。

まさか、故障っ!?

しかし、私の考えとは裏腹にエステが左肩に装着された片刃剣を持ち出す。

両手で持った剣の切っ先が後ろに来る様に左側で溜めの構えを取る。


―――剣から光が溢れだす。


それは、刀身に留まらずにドンドン伸びていく………

ようやく治まり、“ソレ”が姿を現した。

光が形成したのは、250mの超巨大な剣。

そして、迫り来るミサイル群に向けて……


――――ー閃


剣に薙ぎ払われたミサイルが、次々と爆発する。





「ミサイル、全弾の撃墜を確認」

「臨界ポイントまで、残り1500キロメートル」


ラピスちゃんから、ユラ君がミサイルを全て撃墜したと報告が入る。

それと同時に……


『ナデシコ、こちらユラ。
 これより帰艦する』


その連絡が入った瞬間、ブリッジで歓声が湧くのが分かる。

作業を忘れてみんな一緒に喜び合う……


「臨界ポイントまで、残り1000キロメートル」

「相転移エンジンの出力、90%を超えました」

「ユラ機、回収までの所要時間32秒」


ルリちゃん達の報告がブリッジを我に帰らせ、皆が素早く作業に戻った。





「ユラ機、回収しました」とパールちゃん。

「臨界ポイントまで。残り600……400……200……高度二万キロメートル」とルリちゃん。

「相転移エンジン、臨界点に到達」とラピスちゃん

「ディストーション・フィールド、最大へ」とメグミさん。

『きたきたぁぁっ、エンジン回ってきたぞぉぉっ!!』とウリバタケさん。


格納庫から機関部に移動したウリバタケさんが歓声を上げる。


「バリアに接触します。
 総員、対衝撃体勢をとってください」





最大まで出力を上げた、ナデシコのディストーション・フィールドがビックバリアに突っ込む。

ビックバリア維持しているを核融合炉とナデシコの相転移エンジンとでは、出力が違いすぎる。

ほんの僅かな時間だけの拮抗の後、バリア衛星の爆発と共に虚空へと散ってゆく。

煌めきの軌跡を残して、ナデシコは星の海へと舞い上がった。





――私たちが目指す地は・・・・


「それでは、火星へ向けてしゅっぱーっつぅ!!!」





ナデシコは蒼い惑星(ホシ)を後にした。







おまけ





アキト(以下“ア”)「無事に最後の防衛ラインを突破したみたいだな」

ジュン(以下“ジュ”)「そうみたいだね……ユリカになんて言えばいいかな?」

ヤマ「ダイゴウジ・ガイだ!!」 〈失礼……では、改めて〉

ガイ(以下“ガ”)「男だったらビシッ……っと言えばいいんだよ」

ジュ「ビシッ……って具体的にどんな感じに?」

ガ「そっ、それはおまえ……ビシッ……っとだ」

ア「返答になってないぞ」

ガ「ぐっ……おっ、ユラが出てくるぜ」

ア・ジュ≪話をそらしたな≫

ユラ(以下“ユ”)「みんな、おつかれさん」

ア「おつかれさんって……一番疲れているのはユラだろ」

ガ「……だな、あれだけ動き回ったしな」

ユ「そうでもないぞ。
  まあ、多少の疲労感はあるが、まだ動き回れるぞ」

ア・ガ・ジュ「「「嘘だろ」」」

ユ「いんや、マジ」

ア「凄いな……」

ユ「そうか?
  トレーニングを積めば、これくらいできるようになるぞ」

ジュ「そうなのか……でも、僕は無理だな」

ガ「努力と根性でそれ位できる!!!」

ユ「暑苦しい……そういえば、暑いな……」

そう言いながら髪留めのゴムを外し三つ編みを梳くと、ウェーブが少し掛かった美しい髪が銀色の軌跡を作り宙を舞う。

ア・ガ・ジュ「「「・・・・・・・(真っ赤)」」」

ユ「これで多少は涼しくなる……んっ、どうしたんだ?
  ……何故か整備班の人達も手が止まってる……いったい、何が?」

10分後、ウリバタケが来るまで止まったままだったという。





一方、ブリッジでは……

パール「フフフ、コレクションがまた増えたわ」

ラピス「仄かに汗ばんで上気する顔と、三つ編みを梳いて髪を掻き揚げた時にチラリと見せたうなじ。
    その決定的瞬間を……ゲットだぜっ!!」

ルリ≪知らないふり、知らないふり……でも、ちょっと見たいです≫










第六話へ










楽屋裏劇場



以降は

二式(クイック二式) ユ(ユラ) ラ(ラピス) パ(パール) エル(エメラルド)
 




ラ「前回の楽屋裏は、酷い目に遭ったよ」

パ「そうね……せめてもう少し手加減して欲しかったわ」

エル「うぅ〜っ……まだ、身体が痛いよぉ〜」

二式「おまえらは、まだマシだっ!!
   俺なんか、全弾喰らったんだぞ」

エル「ならなんで、無傷なのぉっ!!」

二式「秘密はこれだっ!!」

パ「こっ、これはっ!?」

二式「そう……伝説と言われた……」

ラ「賢者の石……これが、不死身の秘密なの?」

二式「不死身っとはいかないけど……耐久力と回復力、さらに再生力は滅茶苦茶上がる。
   さすがに、前回はこれが無かったら危なかった……」

ラ「なんか、時期ネタの気がするんだけど……」

エル「そうだねぇ〜……夏に映画が公開されるし……」

パ「確かに……あれっ、ユラは?」

二式「アイツなら……ほらっ、あそこ……」

ユ「ルーミィさん、俺はホモではありません。
  ノーマルで、女の子が好きです。
  別に誘惑していません……単なる偶然なので、お怒りを静めてください……」

二式「よっぽど、怖かったんだろうな……天に向けて祈りを贈っているよ」

パ「ユっ、ユラ……」

ラ・エル「「ユラぁぁ〜〜」」

二式「ああっ、三人ともあっちに行っちゃったよ。
   とりあえず、正気に戻るまで俺だけで進めよう。
   ユラの顔の設定について……

   ユラは基が日本人。
   この世界に来た時、身体は変わったが顔立ちは何故か今までと同じ。
   ただし、銀髪と金色の瞳になったので、以前より神秘的になった。
   簡単に言うと、ヴァルキリープロファイルのレナス風で東洋系が若干強いハーフ見たいな感じ。
   ……っと、こんな感じです。
   上手く表現できなくてすみません、これが俺の限界です」

ユ「何やってたんだ?」

二式「おっ、戻ったか……なに、お前の顔の設定についてね」

ユ「そうか……疑問があるのだが、何で顔立ちは変わっていないんだ?」

二式「それは、話が進んでいけば解るぞ」

エル「何を話しているのぉ〜」

ユ「んっ、何ちょっとな……」

ラ「ふ〜ん……まあ。聞かないでおいてあげる」

パ「それより、ユラ……身体は大丈夫?」

ユ「一応……一般人より頑丈にできているしな……しかし、凄まじかった(汗)」

ラ「それだけ、アキトの事が好きなんでしょう……“あっち”の私もそうみたいだし……」

二式「“あっち”も“こっち”も、アキトは女難が付きまとっているな。
   個人的には、ルーミィちゃんを応援するぞ」

エル「“こっち”はどうなるの?」

二式「考え中だっ!!」

パ「何で冷や汗が……ああっ、下手な事を言ったら……また、来るからね」

二式「その通りだ………………セーフみたいだな」

ユ「今回は、無事に終えたな……」










あとがき





戦闘シーンを書くのが難しいです。

うまく表現できるように、ナデシコをもう一度見直したんですが……

これが、いまの自分の精一杯の表現です。

もっと精進しなければ。



話は変わります。

ついに、実力の一部を見せたユラ。

これから徐々に、彼の実力と機体の力を書いていくつもりです。

少しネタバレですが……

実は、彼の目的のモノは“遺跡”ではないんですよね。

彼は火星で何を手に入れるのでしょうか?



それと、前回の話にはサブタイトルがありました。

題名は、「戦う、メイド・ツインズ」……です。



今回も私のを読んで頂きありがとうございます。

WEB拍手をくれた皆様、本当にありがとうございます。

拍手の一つ一つが凄く励みになります。

これからもよろしくお願いします。

それでは、またの機会に……




感想

黒い鳩、聞きたいんだけど、何で今回はルリ休みなの?

あ〜ちょっとハワイの方に行ってもらった。一応旅券なんかも渡したしね。どうも、クイック二式さん勘違いしてるみたいだし…ちゃん付けで既に死ねるから ね…(汗)

出してしまった者の性と言うか、今後は気をつけてください(滝汗)

代わりが私?

んっ、まあそういう事、あっちでも出てるみたいだしね。

ユラの事好きみたいだけ ど、まあ私は私…なのかな?

ある意味別人かもね、ユラ君に救われたのが早かったから、トラウマも無いし。

ふ〜ん、確かにそんな感じ かも…でも、ヒロインになれないのは同じ!?(怒)

いや! 別にウチはヒロイン決めてないから!(滝汗) 

別にいい、今回は許してあ げる…だって貸し五つ貯まったもん♪

あう、もしかして…(汗)

ふふふ…アキト待っててね〜♪

ははは…(汗) まあ、それより感想だね。

今回はユラ君がムネタケを放す場面とTVにおけるアキトVSジュン、そしてユラの活躍と続く訳ですね。

で、最後はいつもながらユラ君可愛いですね♪ 色々面白くなるのではないでしょうか…

ねっ、ね、黒い鳩。

ん? どうしたんだ?

ルリ本当にハワイに行った の?

へ?

あのホモ男は!! またアキトさんを誘惑してますね!!

二式…貴方も当然分ってますよね…私をちゃん付けで呼んだ人間の末路を!!


あううう…クイック二式さん…ご愁傷様です(泣)

押して頂けると作者の励みになりますm(__)m

クイック二式さんへの感想はこ ちらの方に。



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