アイシクルタウンより北―――山岳地帯。
険しい山道。
町よりも深く積もった雪。
滅多な事では、誰も足を踏み入れないだろう。
そんな場所に、集団の姿がある。
武装した集団が、雪山を闊歩していた。
寒さに備え、かなりの重装備の様だ。
武器は大型のライフルを持った者が6人。
剣や斧といった得物を持った者が4人。
計10名が、付近を見回している。
一体、こんな場所で何をしているのか―――。
「ったく、誰も来ないっての。こんな場所に研究所作らなくても……」
「文句言うな。上の連中の耳に入ったら、首が飛ばされるぞ」
「しかし、何の研究してんのかな?デュークにとって、重要度の高いものって言っていたけど」
どうやら、この連中はデュークのテロリスト達。
彼らの発言からすると、この近くに何らかの研究施設が建造されている様だ。
不審な人物を発見したら、捕らえるなり始末なりの仕事を行う―――それが彼らの仕事なのだろう。
だが、その中の1人が言う事も一理ある。
こんな場所に来る人間はそうそう居ない。
遭難の危険性もあるからだ。
何よりも、武装したテロリスト達が闊歩しているのだ。
誰も来るワケ―――。
「―――おい!何か、向こうから来るぞ!!」
「何!?人か!」
“何か”がこちらに向かって来ている。
身構えるデューク兵達。
のっしのっしとやって来たのは―――白熊。
二足歩行の白熊だった。
―――時が止まった。
白熊の姿を視界に捉えたデューク兵達は唖然としていた。
何だ、アレは―――と。
熊……なのか?
いやいや、熊が二足歩行でやって来る筈がない。
よく見ると、作り物―――着ぐるみっぽいし。
白熊は呆然としている連中など、意に介さず歩いていく。
はっと我を取り戻したデューク兵達が、白熊に武器を向ける。
「止まれ、そこの不審者!何者だ!!」
白熊が歩みを止める。
ギギギと、連中の方へ振り返った。
怪しさ爆発だ。
デューク兵の中には、こんな思考を持つ者も居るだろう。
うわぁ、こんなの相手にしたくないって考えの奴が(笑)。
「私は通りすがりの白熊―――人呼んでホワイトベアー。それ以上でも以下でもない、何か問題でもあるかね?」
「大アリだ、ボケェェェェェェ!何処の世界に喋る二足歩行の白熊が居るんじゃぁぁぁぁあああああ!!」
イケメンボイスで語る白熊―――ホワイトベアー。
至極真っ当なツッコミを入れるデューク兵。
その光景を少し離れた場所から見ている2人組がいた。
シオンとクライスだ。
デュークの動向と、アスターの安否を探る為にやって来たのだが……。
「……何だ、アレは?我々以外にデュークの動向を調べる奴が居たのか?……かなりのアホみたいだが」
クライスはげんなりした様子で見ていた。
誰だって、あんなアホは相手にしたくない。
というか、何故に白熊?
ここは北極ではないのだが……。
それはそうと、シオンの様子がおかしい。
じっと、白熊を見つめている。
流石は赤髪。
相手の奇怪な格好に惑わされず、冷静に状況を分析―――。
「おのれ、白熊……!ツッコミを入れて貰えるなどけしからん……ッ!!しかし、ああいう手もあるのか。これは今後の役に立つかもしれな―――」
「何を分析しとるんだ、お前はァァァァァァァァァ!!」
クライスの拳骨が、赤髪の頭に叩き込まれる。
ぷくーっと、たんこぶが1つ出来る。
……本当に何をしているのだ。
こんな時も、ツッコミへの探究心を失わない赤髪。
つーか、こんな時くらい捨てろよ。
「ん?あそこに誰かいるぞ!」
「おい、見つかったぞ。クライスさんが大声出すから」
「俺とした事が……とにかく迎撃だ!!」
走り出す2人。
武器を構えるデューク兵達。
銃から意力の弾丸が発射される。
クライスが腰のサーベルを抜く。
刀身に纏う意力。
横に薙ぐと、敵の弾丸が消失した。
切り払われたのだ、彼のサーベルに。
次々に飛んでくる弾丸。
向かう先は―――赤髪。
弾丸が命中する。
2発、3発、4発―――蜂の巣にされる赤髪。
どしゃりと音を立てて、雪の上に倒れた。
「よし、1人は片付けた!もう1人を―――」
「誰を片付けたんだ?」
「―――!?」
背後から感じる殺気。
振り返ろうとして、意識が飛ぶデューク兵。
背後に居た、もう1人の赤髪の回し蹴りが後頭部に直撃。
成す術もなく倒れた。
どよめく、デューク兵達。
何が起きた?
どうして、赤髪が2人も―――。
はっとなって、蜂の巣にした筈の赤髪の方に目を配る。
―――いない。
蜂の巣にした筈の赤髪が。
血の痕跡すら無い。
つまり、初めから―――。
「お前等が撃ったのは、俺の分身だ」
走る赤髪―――が、唐突に姿が消える。
いや、消えたのではない。
あまりに速過ぎて、連中の目には映らないのだ。
だが、連中には赤髪が消えた様にしか見えず混乱する。
鈍い音が聞こえた。
デューク兵の1人が白目を剥く。
赤髪が目の前に出現し、鳩尾に拳を叩き込んでいた。
「ディアス、飛べ!」
クライスの掛け声。
後方へと跳躍する赤髪。
遠心力を掛けて、横一閃にサーベルを薙ぐ。
白い光の波―――意力による剣圧波が飛んでいく。
迫り来る剣圧波に、必死で攻撃するデューク兵達。
だが、意力の弾丸は剣圧波に触れると霧散する。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
剣圧波はデューク兵達を吹っ飛ばした。
宙に舞うテロリスト共。
数秒ほどの空の旅を終え、大地に着地する。
着地というには程遠い。
連中の大半は気絶しているのだ。
下に雪が積もっていたのはある意味で幸いだったかもしれない。
何もない平地だったら、打ち所が悪ければ死んでいた可能性もある。
「あらかた片付いたが……!」
背後に気配が。
1人だけまだ残っていた。
銃をこちらに向け、引き金を―――。
「ベァアアアアアアアアアア!!」
「うぼわっ!?」
引けなかった。
あの白熊が、デューク兵を殴り飛ばしたのだ。
こんなんにやられるのか―――そう思いながら気絶しただろうテロリスト。
いや、別に心が読めるワケじゃないが。
何故か、そう思わずにいられないシオンとクライスだった。
「危ないところだったな、諸君。怪我は無いかね?」
「あ、ああ。大丈夫だが……君は何者だ?」
「私は通りすがりの白熊―――人呼んでホワイトベアー。それ以上でも以下でもない、では機会があればまた会おう!!」
手を振りながら去っていく白熊こと、ホワイトベアー。
唖然と見送る2人。
結局、アレは何だったのだろう。
どうやら敵では無い様だが……。
「追いかけなくていいのか?」
「確かに怪しいが……追う気も起きん。それよりも、こいつらを縛り上げておこう。ディアス、お前は周辺の調査を頼む。こいつらが本当にデュークのテロリスト共なら、何か理由がある筈だ」
クライスの言葉に従い、周囲に目を配る。
こんな人の気の少ない山岳地帯だ。
隠れ家として使うのは、至極当然。
アイシクルタウンを襲ったデューク。
その中に科学者が居たという話。
なら、導き出される答えは1つ。
何らかの研究施設に他ならない。
人の来ない場所に作る研究所。
明らかに、非道な実験を行っているとしか考えられない。
そして、そこにアスターが連れて行かれたのなら……。
「―――あれか」
ここから4キロか5キロほど離れた小山。
近くでないと発見出来そうにないが、小さな割れ目が見える。
そこから意力を感じた。
1つではない―――複数。
さほど強くないものと、かなり強いものの2種類の意力を感じ取った。
だが、違和感も感じた。
強い意力の方―――これはおそらくアスターとやらだろう。
実力があるセイバーの意力は、常人とは比べ物にならない強さだ。
しかし、今感じている意力はそれだけでは無い様な―――漠然とした不安を感じさせる。
やはり、もう手遅れだったのか……?
あの異形に成り果ててしまったのか。
「ディアス、見つけたのか?」
「ああ、あの小山の裂け目だ。あそこから意力を複数感じる」
「本当か……?」
クライスは驚いていた。
彼は20年以上もセイバーとして第一線で活躍するベテランだ。
その彼でも、数キロも離れた先の意力を感知する事は出来ない。
彼の意力の感知範囲は400メートルほどが限界。
数キロも離れた遠方を感知出来るセイバーは数えるほどしか知らない。
アークシティのセイバーの中では、スナイパーであるアイザックぐらいなものだ。
目の前の赤髪は明らかに常軌を逸した感知能力を持っている。
「間違いない。ただ―――覚悟だけはしておくべきだろう」
覚悟という言葉。
それはつまり―――いや、やめよう。
分かっていた事だ。
アスターが、もう人間では無くなっている可能性は考慮している。
だからこそ、腹を括る必要がある。
「行くぞ、デュークの外道共に鉄槌を下しに」
「了解した」
静かなる怒り。
それを纏った男が2人。
敵の本拠地へ向かって駆け出した。
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