セイバーギルド・アークシティ支部。

黒服を着た者達が集っていた。

死者に対し、喪に服する為に。

集まったのはギルドのセイバー全員。

支部長ルカ・バルドー。

受付嬢のラン・カルディア。

そして、今回の死者の親しかった人物達。

亡くなったのはアスター・ラインバッツ。

まだ20歳にも満たない、早過ぎる死だった。

その死を惜しむ声が聞こえる。

誰もが、彼の努力と才能に一目置いていた。

とりわけ辛いのは、やはり死を看取ったクライスだろう。

アスターがセイバーに入るキッカケとなったのは彼だ。

彼が入った当初は、憧れだけで勤まる仕事ではないと厳しく接していた。

セイバーの厳しさを知れば、嫌になって辞めるだろうと考えたのだ。

だが、アスターはその厳しさを糧に成長した。

無論、挫折しそうな時もあっただろうし、苦悩した事もあっただろう。

彼はそんな逆境を乗り越えて来た。

このままいけば、彼は優れたセイバーとして名を馳せただろう。

―――もう、それは叶う事の無い夢物語に過ぎないが。

アスターの入った棺が運ばれていく。

行き先は街の郊外にある墓地。

そこが、彼が永遠に眠る場所となる。

何時もの白のロングコートではなく、黒い喪服に身を包み込んだシオン。

隣にはアイザックの姿がある。

スナイパーである彼は、何時も冷静さを心掛けていた。

そんな彼から怒気を感じる。

仲間を失った喪失感以上に、仲間を死に追いやった者達に対して。

即ち―――デュークへの怒り。

「……何故、アスターが死ななければならなかったんだ。しかも、心と身体まで弄ばれて」

その気持ちは、誰もが同じだった。

セイバーとして、人を救う為に守る為に戦った彼が、実験動物の様な扱いを受けた上に尊敬していたクライスと戦わされた。

自分の意志と無関係に。

ただ、操られる機械人形の様にだ。

人間の尊厳や誇りを消された操り人形。

誰だって、そんな物にはなりたくない。

ましてや、尊敬する人間を傷付けさせるなど、悪趣味を通り越して吐き気すら感じる。

「すまん、こんな事になって」

「アスターの事は本当の残念だったが……君とクライスさんが無事に戻れたのは幸いだった。襲撃した研究所から何か連中に関する手掛かりは見つかったのか?」

「これといった物は見つからなかった。おそらくは逃げ出そうとした連中が乗っていた飛行船にあらかた積み込まれていたんだろうが……灰になって調査のしようがない」

脱出した飛行船は、文字通り消滅した。

研究所の遥か後方から飛んで来た意力の閃光によって。

あれから数日。

シオンとクライスは現地に留まって、研究所を改めて調査した。

しかし、やはり何も成果を上げる事は出来ず。

アスターの遺体を伴って、アークシティへと帰還したのだ。

「しかし、遠方からの意力の閃光か……一体、何者の仕業だろうか」

「デュークの敵対勢力の可能性は?」

「考えられるな。犯罪組織同士の睨み合いは珍しくも無い。デュークの行き過ぎた破壊活動を敵視している組織は少なくない」

デュークの目的は秩序の破壊。

ゆえに、大量虐殺や町の殲滅などの過激な行動が多い。

犯罪組織の中には、その行動を疎ましく思う勢力もいる。

世の中の情勢など歯牙にも欠けず、利益を得る為に活動する様な犯罪組織も存在するのだ。

何もかも破壊する―――すなわち、無になる。

利益というには、人や町が存在しなければ生み出されない。

損得勘定で動く人間が、デュークを排除したいのは理解出来る。

だが―――果たしてそうなのか?

現場に居たからこそ、シオンは肌で感じたのだ。

あの意力の閃光は並大抵のものではない。

明らかに、自分を凌駕する膨大な意力だった。

もし、あれが“人間”が放ったものだとすれば、デュークよりもそちらの方が脅威ではないだろうか?

実を言うと、シオンは研究所の調査を終えて帰る前にあの閃光が飛んで来た場所を特定しようとした。

飛んで来た方向を計算し、辿り着いたのは研究所から10キロ以上も離れた山の頂上。

おそらくはその場所から飛んで来たと予測される。

しかし、どの様な方法で?

凄まじい破壊力を有し、尚且つ正確無比に命中させる必要があるのだ。

どちらも両立しなければ意味が無い。

外れれば、周囲の山に命中―――雪崩が発生して大惨事という洒落にならない事態になった可能性もあるのだ。

人間にそんな芸当が出来るとは、到底思えないのだが……。

ここまで思い至って、頭に閃いた事柄がある。

あれが“狙撃”の類とは考えられないだろうか。

こんな事を考えるのは、頭がおかしいと笑われるかもしれないが。

丁度、隣に狙撃のプロが居るから聞いてみるのもいいかもしれない。

「アイザック、俺が見た意力の閃光なんだが……もし、アレが狙撃だとしたら、あんたなら命中させられるか?10キロ以上も離れた標的を」

「難しいな、私の最大射的距離は9キロが限界だ。やろうと思えば、出来なくも無いが命中率は50%にも満たないだろうな」

それを聞いて、赤髪は目を丸くした。

スナイパーは遠距離射撃が仕事である。

目の前の男が正にそれを専門としている。

だが、アイザックの狙撃能力はいささか人間離れしている様な気がするが……。

「まぁ……出来そうな男を1人だけ知っている」

「本当か?」

「ああ、私の古い友人だ。もう10年以上も会っていない―――生きているか、死んでいるかも分からない」

「すまない、気に障ってしまったか」

「気にする事は無い、昔の事だ。とにかく、その男だったら出来るかもしれないという事だ」

「そうか……」

やがて、街を出て墓地へ到着する。

新しい墓石。

その前にぽっかりと大きく開いた穴。

アスターが眠る場所だ。

棺がその中へと入っていく。

その上から土を被せる役目はクライス。

誰にも譲れなかった。

彼に止めを刺したのは自分だ。

だから。最後までやり遂げる。

自分を慕ってセイバーになり、命を失った後輩への手向けとして。

大きなスコップを手に取り、土を被せていく。

無言のまま、ただ黙々と。

土に埋もれていく棺。

直に見えなくなった。

最後の土を被せ、その場から離れる。

全員が黙祷する。

若くして旅立った、1人の若者に哀悼の意を込めて。










―――燃えている。

小さな町が燃えている。

建物は瓦礫と化し、殆どが倒壊状態。

周囲には、人の姿が見える。

いや、それは人間だったものといった方が正しいか。

肉が裂け、臓物が飛び出している物が大半。

常人なら確実に嘔吐するに違いない。

あまりにも凄惨な光景。

それを引き起こしたのは1人の人物。

地獄絵図の中に、その男は立っていた。

今にも死にそうな少年の頭を掴んで。

異様な姿をした男だった。

全身が金属の鎧の様な物で覆われている。

頭にも金属製のフルフェイスを被っており、顔は全く見えない。

僅かに目元に開く穴から目が見えている。

ゆうに2メートルを越えるだろう巨体を持つ。

少年は震えていた。

自分がどんな運命を辿るのか、自ずと分かるからだ。

―――この地獄を見れば。

「たす、けて……」

「助けて―――だと?」

フルフェイスの男の力が強まる。

ミシミシと、軋む音が消える。

少年の頭に激痛が走った。

痛みのあまり、必死にもがく少年。

フルフェイスの拳が少年の腹に叩き込まれる。

息が出来なくなるほどの衝撃が、少年の全身に駆け巡った。

胃液がブチ撒かれ、地面に落ちる。

「小僧、お前は助けて欲しいのか?」

「は……い……何でも、するから……」

少年は懇願する。

死にたくない。

もっと生きたい、と。

何でもするから、助けてくれと。

藁にも縋る思いに違いない。

―――だが。

「ならば、死ね。己の意志を捨てる弱者など存在する価値も無い」

「いや、だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

ぐしゃりと、何かが潰れる様な音が聞こえる。

フルフェイスが、少年だったものから手を離した。

地に落ちる少年だったもの。

赤いものが流れる。

周囲の屍の血と合わさった姿は、さながら川に見えなくも無い。

フルフェイスは、燃える町中を歩く。

やがて―――彼の行く手に現れる者が。

どうやら、若い男の様だ。

「長、こちらも片付きました」

「ご苦労。しかし、最近の腑抜け共は見るに絶えんな。少しは反抗する精神を見せろと言いたくなる―――“大戦時代”は良かったものだ。戦場では多くの者が、生き残る為にしのぎを削った。今の腑抜け共に、死んでいった戦士達の爪の垢でも飲ましてやりたいくらいだ」

フルフェイスに後に続く男。

長と呼ばれるこの男。

フルフェイスの額部分には、剣の様な形をした刻印が刻み込まれていた。

その刻印はある犯罪組織のものである。

大陸全土を活動拠点とし、破壊と殺戮を齎す悪魔達が持つ印―――デュークの証。

「北方の研究施設が破壊された模様です」

「捨て置け。この世界に争いの種をばら撒くのに役立つかと思って科学者どもを雇ったが―――使えん連中だ」

「何でも研究所を潰したのは2人のセイバーとの事」

「ほう……」

部下の報告に興味を覚えたのか、耳を傾ける。

フルフェイスから覗く目。

闘争心で滾っていた。

たった2人でありながら、研究施設を破壊したセイバーに対して。

「大した連中は配備していなかった筈だが、なかなか骨がありそうなセイバー達だ。名は?」

「1人はクライス・レイラント、アークシティでも名の知れたセイバーです。もう1人は新米のセイバーなので、まだ資料が揃っておりません。至急手配致します」

「うむ、頼んだぞ」

―――戦闘狂。

フルフェイスの人間性を表すのに相応しい言葉だ。

この男は戦いたがっている。

研究施設を潰したセイバーと。

燃え滾る様な目がその証拠だ。

それと同じぐらいに、燃える町。

だが、フルフェイスはそんな物などもはや気にも留めていない。

興味の対象は別に移ったからだ。

火の手が上がっていない広い場所。

そこに飛行船が、出発準備を整えていた。

後は発進するのみ。

乗り込んでいく2人。

それを終えると同時に、離陸した。

この日、大陸から小さな町が1つ、地図から消えた。

デュークの仕業だと判明するのに時間はさほど要さなかった。



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