第7話『浄歌』


―――10年前の、あの日。

ぼく―――アヴェル・ディアスは、家の近くの裏山で剣術の稽古に励んでいた。

生憎と、父さんと母さんはブレイカーの討伐で留守。

じいちゃんも用があるらしく、朝から出掛けている。

なので、ひとりだけの自主訓練だ。

ディアス家には御先祖から受け継がれてきた剣術の型があるのだが、6歳の子供に使えるワケがない。

ゆえに、稽古の内容は素振りか丸太への打ち込みが殆ど。

正直、同じ作業の繰り返しみたいでつまらない。

でも、基礎を疎かにしては本当の意味で強くなれない。

父さんやじいちゃんが何時も言っている言葉だ。

何事も基本が大事なのだ。

素振りを幾度かこなした後、丸太への打ち込みを行う。

「……?」

流れる落ちる汗を手拭いで拭っていると、耳に聞こえてくる声が。

―――これは、歌声?

舌足らずな女の子の歌声。

誰だろう、聞いたこともない声だ。

「(それにしても―――)」

何て澄んだ歌声なんだろう、心が洗われるみたいな気分だ。

気になって、声の出所を探る。

裏山の頂上の方からだ。

あそこで、知らない誰かが歌っている。

自然に、足が頂上へと動いていた。

裏山には大きな木が聳え立っている。

その木の根元に座る女の子がひとり。

女の子は瞳を閉じて歌っていた。

長い銀髪と白い肌の、ぼくと同じくらいの歳の女の子。

彼女を一目見た瞬間、胸が高鳴った。

女の子が瞳を開いた。

翠の瞳、その瞳がぼくを捉えた。

「だあれ?」

「え、その……ぼ、ぼくはアヴェル」

「アブル?」

「ちがう!」

「アゼル?」

「そうじゃなくて……」

「いいにくい―――“アル”でいい?」

「え?う、うん……君は?」

そんなに言い難い名前だろうか?

とりあえず、その呼び方に納得して話を進める。

「わたし?わたしは―――アンリ」

「その、アンリはどうしてここに?」

「ん、なんか気持ちがよかったから。ついつい歌まで歌っちゃった」

「そうなんだ……って、お父さんやお母さんは?一緒じゃないの?」

「……死んじゃった」

「―――え?」

「ブレイカーに襲われて、死んじゃった」

胸元に添える彼女の手が微かに震えている。

ああ、そうなのか。

幼いながら、理解してしまった。

この子はひとりぼっちになってしまったのだと。

彼女の手を取り、自分の両手で包む。

「アンリ、ぼくと友達になろう」

「え?」

「ぼく、セイバーを目指してるんだ。家族や友達を守りたいんだ」

「わたしも、守ってくれる……?」

「約束するよ」

「うん、約束だよ―――」

幼い子供の言う他愛のない言葉かもしれない。

だけど、彼女は目尻に涙を浮かべながらも笑顔で応えた。

守りたい、この笑顔を。

これが、ぼくとアンリの出逢い。

あの日の約束を、ぼくは守れているのだろうか―――。










アークシティ総本部、訓練室。

銀髪の少女―――アンリ・アンダーソンが室内の中央に立ち、両手を正面に向けていた。

少し離れた場所から赤髪ふたり、シオンとアヴェルが彼女を見つめている。

瞳を閉じ、精神を統一する彼女。

肉体から意力が立ち昇り、両手に集束されていく。

深呼吸の後、閉じられていた瞳が開き、両手に集束されていた意力が放出される。

放出された意力が彼女の周囲を覆い、小型のドーム状の壁を構成していく。

これは、意力による防御障壁のひとつ―――範囲障壁。

壁一枚分の単体障壁に対し、こちらは自分と周囲を防御することが可能。

セイバーの階級である第二階位“ミディアム”に昇格する為の条件でもあり、昇格するにはこれを10秒以下で展開させなくてはならない。

アンリは最下級である第1階位ノービス、ミディアム昇格の為に範囲障壁の訓練を重ねていた。

展開が終了し、アンリはシオン達に視線を向ける。

「どうだった?」

「17秒だ、強度に関しては問題ない」

「あー……まだ10秒切れていないんだぁ」

「大分早くなったよ、前は50秒近く掛かってたよ」

がっくりと肩を落とす幼馴染にフォローを入れる。

まだ昇格基準には満たないものの、彼女の範囲障壁展開速度が向上しているのは事実だ。

これもシオンの指導の賜物である。

「シオンさんって教え上手ですね。元の時代でも誰かを指導した経験があるんですか?」

「それなりにな。だが、一番時間を掛けて鍛えた相手はやはり弟だったな」

シオンの脳裏に蘇る記憶。

隣に立つ少年と同じ名前、同じ顔をした実弟と鍛錬していた日々。

正直な話、兄である自分よりも弟の方が成長が早かった。

「あいつの成長速度は俺の比ではなかった。9歳で意刃を発現させた時は、メルトディス共々度肝を抜かれた」

「は?きゅ、9歳で意刃を発現!?」

一瞬、アヴェルには彼が何を言っているのか理解出来なかった。

意刃とはセイバーが扱う最強の武器。

厳しい研鑽の末に手にすることが許される魂の刃。

それを9歳の子供が発現させた?

冗談ではない、それが本当ならシオンの弟―――自分の先祖は9歳でアドバンスド相応の実力を持っていることになる。

「14歳になる頃にはディアス流剣術も全て体得した。その時点で俺が教えるべきことは無くなった……ん、どうした?」

「シオンさん、そっとしといて。アル、半端じゃない落ち込み様だから(汗)」

訓練室の隅っこでいじける弟の子孫。

無理もない、先祖の化け物っぷりを聞かされれば自分と比較してしまうものだ。

どす黒いオーラの様なものが身体から滲み出ている様な気がする。

幸い、ブレイカーの発する黒い意力の類ではない。

「そう落ち込むな、今とは時代が違うからな。俺は正直な話、今の時代のセイバーはこのままで大丈夫なのかと思っている」

「え?」

「シオンさん、それどういう意味?」

シオンの言葉に首を傾げるアンリ。

いじけていたアヴェルも顔を上げる。

「こういう言い方は悪いかもしれないが、セイバー全体の実力が低下している。俺の時代にはドラゴンを一撃で斃すマスターセイバーはさして珍しくなかった。今のマスターと比較すると実力差はゆうに3〜4倍はあるだろうな」

若きセイバーふたりに戦慄が走った。

当然の反応だ、500年前にドラゴンを一撃で斃せる猛者が山ほど居たと聞かされたのだから。

確かに由々しき事態だ、何故にセイバーの実力はここまで低下してしまったのか。

暫しの思案の後、アヴェルはある事実に辿り着く。

「障壁柱―――ですか?」

「おそらくな」

「え?障壁柱がセイバーの実力低下とどう関係しているの?」

障壁柱、街全体を覆う結界を展開する建造物である。

東西南北の四ヶ所に設置されており、柱内部に莫大な意力を貯蔵するタンクが搭載され、それから放出される意力が結界を展開して街全体をブレイカーの魔手から守る役割を果たしているのだ。

正に防衛の要と呼べるシロモノである。

アークシティ以外の街にも障壁柱は建造されており、今やなくてはならないものだ。

何故にそれがセイバーの実力とどう関係しているのか?

「確かに常時結界を張り巡らせるあの柱は素晴らしい発明だと思う。だが、安定した平穏は人々の心に安らぎを与えるだけではなく危機感を鈍らせてしまうのだ」

「障壁柱が影も形も無かったシオンさんの時代では、セイバー達は昼夜問わずブレイカーの脅威から人々を守る為に過酷な研鑽を積んでいた。今のセイバーも決して努力を怠っているワケではないけど、結界があるから人々がブレイカーに襲われる危険性は激減した。その安堵感から徐々にセイバーの質が低下したんだよアンリ」

「平和ボケしちゃったってこと?」

「身も蓋もない言い方だけど、そういうことだね」

更に悪い言い方をすれば、籠の中の鳥に近い状態だろう。

平和を求めるのは良い、だが溺れてしまってはいけない。

それを維持するには相応の努力が欠かせないのだから。

「俺としては少しでも現代のセイバーの実力を向上させたいと思っている。まずは集い荘の面々を鍛えるのが当面の目的だ。最低でもお前とアンリが意刃を発現出来る域まで鍛えるつもりだ」

集い荘のメンツの中で意刃が使えないのはアヴェルとアンリだけだ。

シオンは当然、ザッシュとソラス、カノンもアドバンスドなので使える。

ふたりをアドバンスドに昇格させること、それがシオンの目的。

強大なブレイカーと対峙した時、切り札が必要だからだ。

「ふたりに質問するが、意力を扱うにあたって最も重要なものは何だと考える?」

「気合い!」

「……制御技術だと思います」

自信満々なアンリとやや呆れ顔のアヴェル。

気合いがあるのはいいことだが、それだけでまかり通る世の中ではない。

「その通り、重要なのは意力の制御だ。制御出来なくては扱える意力の量も少ない上、暴発で大怪我を負ってしまうからな。制御技術が向上することで攻撃に用いる意力の集約量や障壁の防御力や展開速度の短縮化は飛躍的に高まる」

「基礎であると同時に真髄でもありますね」

基礎であるからこそ高める必要がある。

でなければ、意刃を発現させることなど夢のまた夢だ。

意刃を発現させるには集中力は勿論、高度な意力の制御が必要なのだ。

未熟な制御では意刃は発現せずに意力は霧散してしまう。

「ちなみに俺は寝ていても意力を制御出来るぞ」

「ちょ、寝てる状態で制御出来るってどういうことですか!?意識の無い状態で意力を制御するなんて不可能じゃ……」

「制御技術を極めれば、死んでいない限りはどんな状態であろうと意力の制御は可能になる。呼吸するのと同じ様にな」

呼吸、人間が生命活動を行うにあたって至極当然の行為だ。

制御技術を極めていけば、それと同じ様に意力の制御が可能だというのか。

奥が深い、と言えばいいのか。

これまで学んだものを、根本からブチ壊された様な気分だ。

いや、それでいいのかもしれない。

強くなるには、上を目指す為には本に記されている様な知識ばかりを当てにしては駄目だ。

目の前に居る規格外の力を持つ彼に少しでも近付くには、常識を捨てる必要がある。

「シオンさん、早速ですけど訓練―――」

「あ、丁度いいところに!」

「……」

さぁ、これから訓練をするぞという正に気合十分のタイミング。

訓練室に駆け込んでくる来訪者がひとり、言わずと知れたリュー・トライアングルである。

上がっていたテンションが、一気に下降してしまう。

ジト目でリューを見つめるアヴェル。

「リューさん、何の用ですか?こっちは気合MAXで訓練に臨もうとしてたんですが……」

「あ、ごめんね。って、それどころじゃないわ!大変なことが―――」

「ブレイカーか?」

「そうなの、しかも際限なく湧き出てくるの」

「際限なく?」

テンションの下がっていたアヴェルも、思わず息を呑む。

際限がない、それは尽きることなく出現するという意味か?

「現場に直行する、場所は何処だ?」

「ここから西に40キロ地点にある街道よ。補修に訪れた技術者達が遭遇したって連絡が入って、ザッシュが向かったんだけど斃しても斃しても地面から湧いて出てくるって」

「ザッシュさんは?」

「流石に疲弊したみたい。そこから離脱して、少し離れた場所から様子を窺ってるって」

「腐ってもアドバンスドのザッシュさんが疲弊するなんて一大事ですね」

「うん、腐ってもアドバンスドなのにね」

「そうね、腐ってるけどアドバンスドなのよあいつ」

「では、腐ってるアドバンスドの加勢に行くとするか」

ザッシュ=腐ってる。

彼等の中では、そういう立ち位置に居るのがザッシュという男なのであった(笑)。










アークシティから西に40キロ地点の街道。

数百体は超える数のブレイカーが徘徊していた。

そこから少し離れた森林、木陰からブレイカーの軍団を見つめる男の姿が。

男の口元に笑みが浮かぶ。

「フッフッフ―――遂にこの時が来た。アース世界に住まう美女美少女の皆さん、お待たせしました!アークシティ総本部一の伊達男ザッシュ・シャルフィド、久々に登場!!」

誰に向けてか分からないサムズアップを、カメラ目線で決めるバカが一名。

腐ってもアドバンスドクラスのセイバー、ザッシュ・シャルフィドその人である。

「いやー、最後に出たのって第3話だったから約半年振りの登場だよ。ホント、作者ったら文章打つの遅いんだから。僕の活躍劇を見せられないじゃないのよ!」

くう、と呻きながら涙を流して握り拳を作るバカ。

断っておくが、こいつは主人公ではない(当たり前だ)。

「だが、しかし!苦難の時代は去った、遂に、遂に僕にスポットライトが当たる時代が―――」

「何やってんだァァァァァァァァ!」

「ドゥバッブバァ!?」

意気込むバカの後頭部に飛び蹴りが入る。

奇声を上げ、倒れるバカ一名。

飛び蹴りを入れたのは、加勢に来たアヴェルであった。

後ろには呆れ顔のシオンとアンリの姿も。

「何ワケの分からない一人芝居をしてんですかアンタは!?」

「いや、久々の出番だからテンション上がって……つーか、ヒドイよいきなり飛び蹴りかますなんて」

「職務怠慢でリューさんからお仕置きされますよ」

「それだけは御勘弁(滝汗)。ま、それはそうとして見てよあの数」

ザッシュが指差す方向、街道には数百を超えるブレイカーが。

ゴクリと喉を鳴らすアヴェルとアンリ。

シオンは冷静にブレイカーを観察している。

「確かに異常な数ですね……湧いて出てくるそうですけど?」

「そうなんだよ、斬っても斬ってもキリがなくてさ。で、考えられる答えはひとつしかない―――シオンくんはとっくに察してるよね?」

「連中を生み出す親玉が存在し、そいつを斃さない限り終わらない」

「そゆこと♪で、戦いながら索敵もしてたんだけど見つからなくてさ」

思わず息を呑んでしまう若輩ふたり。

アヴェルとアンリには、あれだけの数のブレイカーと戦いながら索敵する余裕はない。

おちゃらけた態度が多いが、この男も相当の実力者なのだということを実感する。

「ザッシュ、お前の索敵範囲は?」

「1キロがいいところかな」

「ふむ、妙だな……」

シオンは手を顎に当てて考え込む。

ブレイカーの中には、多数のブレイカーを生み出すタイプが存在する。

だが、それは本体が近場に居ることが前提となっている。

それほど遠距離からブレイカーを生み出すタイプは聞いたことも見たこともない。

新種のブレイカーの可能性もある。

「とにかく、俺が索敵してみよう」

「シオンさん、確か15キロ圏内までなら索敵出来たんでしたっけ」

「そりゃとんでもないね、遠距離攻撃主体のセイバー顔負けじゃないか」

精神を集中、シオンの肉体から意力が発せられる。

地面を伝って、周囲に広がっていく。

感知したのは多数のブレイカー反応。

これは言うまでもなく、街道に居るあのブレイカー軍団だ。

広がっていく索敵範囲。

ポツポツとブレイカー反応はあるが、どれも大したことのない微弱なものだ。

やがて、索敵限界点に到達してしまう。

「おかしい、親玉らしきブレイカーが何処にも居ない」

「まさか……じゃあ、あの大群はどうやって出現してるんだろう」

「地中に潜ってるとかじゃないの?」

「いや、索敵は空中や地中にまで及ぶ。空中や地中に反応は無かった」

「それなら一体―――シオンさん、あれ!」

街道のブレイカー軍団が動き始めた。

不味い、あれだけの数のブレイカーが近隣の町を襲ったら一溜まりもない。

近隣の町にも障壁柱はあるが、アークシティの結界ほど強力ではない。

ましてや連中は泉の様に湧き出てくるのだ。

どうする、敵の親玉が見つからない以上は手の打ちようがない。

「―――わたしに任せて」

名乗りを上げた者が一名、アンリだ。

「アンリ、まさか……!」

「アル、止めないで」

「危険過ぎる!あれだけの数なんだよ!?」

慌てる幼馴染の口に、そっと人差し指を当てる。

「わたしたちはセイバーなんだよ?牙無き人達の為の牙になるのがわたしたちでしょ」

「だけど……」

「大丈夫、昔よりは丈夫になったつもりだから。シオンさん達は、いざという時に備えてて」

そう言って彼女はブレイカー軍団の居る方角へと向かう。

流石のザッシュも後を追おうとしたが、シオンに肩を掴まれて動きを止める。

シオンは視線をアヴェルに向ける。

「彼女は何をする気だ?策でもあるというのか?」

「あります。だけど、彼女の身体に負担が掛かる方法なんです」

「負担?一体、どんな―――」

理由を問うシオン―――否、その場に居る全員の耳に歌声が聞こえてきた。

澄んだ歌声、心が洗われる気分にさせられる。

歌声の出所はブレイカー軍団に向かった少女、即ちアンリの歌声。

彼女は歌を歌っていた、ブレイカー軍団の前で。

「アンリちゃん、何してんの!?」

「待て、ザッシュ。まさか、あれは―――」

彼女は歌い続ける。

ブレイカー軍団に変化が生じる。

肉体を形成する黒い意力が霧散、存在そのものが消滅していく。

ザッシュは唖然とした表情で、目の前の光景に見入る。

「どうなってんの、ブレイカーが消えていくなんて……」

「間違いない、あれは浄歌―――彼女は浄歌の歌姫だというのか」

「浄歌って?」

「ブレイカーを構成する黒い意力を霧散させ、ブレイカーそのものを消滅させる特殊な歌声のことだ。女性にしか発現しない能力で、その歌声を操る女性は浄歌の歌姫と呼ばれている」

―――浄化の歌姫。

太古の昔、ブレイカーが出没し始めた時代から幾年か過ぎた頃にその存在は確認された。

歌声でブレイカーを霧散、消滅させる奇跡を起こす。

セイバーやガーディアン以上に尊ばれ、崇拝する団体が存在したという記録もある。

しかし、その資質を持った女性の出生率は低く、親が歌姫であっても浄歌の素質を受け継ぐとは限らない。

それゆえに、時代の流れと共にその存在は伝説となっていった。

「アヴェルくん、さっき君が焦ってたのはあれを使うからだったんだね」

「そうです、確かにあの歌声はブレイカーの天敵といえる能力。だけど、歌い手自身に大きな負担を齎すんです」

「歌姫の能力次第ではドラゴンの大群すら容易に霧散させるという逸話が残っているくらいだからな。負担が大きいのも頷ける―――む?」

ブレイカー軍団の一部に不審な点を見つける。

この場から離脱しようとするブレイカーが数体。

もしや、とシオンは索敵を行う。

広範囲ではなく、限定したブレイカーだけへの集中した索敵。

その数体から、他のブレイカーよりも強い反応を感知する。

他のブレイカーには無いもの―――コアの存在を確認。

「アヴェル、ザッシュ。逃げようとしているあの数体を斃せば軍勢は完全消滅する」

「え!?」

「どういうこと?」

「俺としたことが迂闊だった。敵はコアを内包するタイプ、しかもコアを分割して数体に分かれているんだ。それら全てを斃さなければあの軍勢は斃せない」

「道理でキリが無いワケだ。しかし、コアを分割出来るタイプなんて初めてだよ」

「俺も遭遇した経験が無い。“変異型”の一種なのかもしれないな」

―――“変異型”。

その名の如く、突然変異したブレイカーを差す。

通常のブレイカーにはない能力を持つとされている。

中には災害クラスの脅威であるドラゴンに匹敵、あるいは凌駕するほどの力を持った怪物が存在するという。

「で、他にコアを持ってる奴はいないんだね?」

「他は存在しない、あの数体だけだ」

「んじゃ」

「一気にカタを付けましょう!」

赤髪ふたりは踏み込む体制―――三刃“烈風”の構えを、ザッシュは居合の構えを取る。

狙うはコアを内包する数体。

加速するふたり、それを合図とするかの如く一気に刀を抜き放つザッシュ。

飛翔する剣圧が、1体を切り裂く。

砕ける様な音と共に霧散するブレイカー。

手応えあり、コアを外すことなく破壊に成功。

加速した赤髪ふたりも、ブレイカーを両断する。

先ほどと同じく、ブレイカーは砕ける様な音と共に霧散していく。

「これで、終わりだァ!」

残る1体にアヴェルの渾身の突きが繰り出される。

同じく砕けちる、それと同時だった。

アンリの歌声で霧散していくブレイカー軍団が、一気に霧散した。

歌声が止んだ、アンリは安堵した表情で膝をついた。

「アンリ!」

「大丈夫、少し疲れただけだから」

「無理をしちゃいけない、7年前みたいに倒れたら―――」

「(7年前……?)」

7年前ということは、彼らがまだ9歳頃か。

その時、子供だった彼女が浄歌を使う“何らかの事件”が起きたということか。

一体何があったというのだろう。

アンリに手を差し出すアヴェル。

その手を取り、立ち上がる彼女。

この時、アヴェルは心の中で呟いていた。

「(強くなるんだ、アンリのあの歌を歌わせない為に。7年前のあの日みたいなことにはさせない―――)」

誰も知らない静かな決意。

シオンは何となくだが、アヴェルの決意を察していた。

理由までは分からないが、アンリの為であることは見抜いていた。

「しかし、驚いたな。“この時代”でも浄歌の歌姫に会えるとは思わなかった」

「え……?シオンさん、この時代でもって―――元の時代に浄歌の歌姫の知り合いが居るんですか!?」

「ああ、ルティと言ってな。俺の幼馴染だ」

思わず仰天してしまう。

まさか、この大昔のディアス家当主がアンリと同じ力の持ち主と知り合いとは。

「おいおい、そんな偶然があるってのかい?ひょっとして、シオンくんの恋人か何か?」

「何を馬鹿な、俺からすれば妹みたいな存在だったぞ。それに彼女には“あいつ”が―――」

そこまで言い掛けて、シオンは額に手を当てた。

待て、“あいつ”とは誰だ?

“あいつ”とは誰のことを言っているのだ?

今、自分は誰のことを口に出したのだ?

「誰だ、“あいつ”とは?」

「え?」

「俺は、誰のことを言おうとした?誰のことを忘れているんだ―――?」

額の負傷、その傷は既に完治している。

だが、その時に受けたと思われる衝撃による記憶の欠落は回復していない。

自分は誰のことを忘れている?

その問いに答えられる者は、その場には居なかった。



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