第8話『セイバー達の休日』


 カチッと、スイッチが入る音が聞こえる。

音楽とナレーションが流れ始める。

―――前回までのあらすじ。

セイバー総本部が誇る伊達男、ザッシュ・シャルフィドは危機の真っただ中にあった。

際限なく湧いて出るブレイカーの軍勢。

疲弊する伊達男だが、これくらいで諦めるザッシュではない。

伊達男に不可能は存在しないのさ!

突破口を見つけ、華麗なる大逆転を決める。

加勢に駆けつけたメンバー達からは称賛の声が。

「流石は総本部一の伊達男だな」

「ザッシュさんの後輩で光栄です!」

「惚れちゃいそうだよぉ」

拍手喝采、感謝感激雨霰。

伊達男ザッシュ・シャルフィドの無敵伝説は終わらない―――。

「何嘘八百なあらすじを流してんのよ!」

「のふぅ!?」

リューの踵落としが、自称伊達男ザッシュの脳天に直撃する。

床に伏す伊達男(笑)が一名。

湧き出るブレイカー軍団を討伐した翌日、ザッシュは報告の為に総本部に訪れていた。

アヴェルはアンリに付き添っている。

ブレイカーを消滅させる浄歌による体力消耗の影響を危惧しての行動だろう。

幸い、軽い疲労だけだったが大事を取って休ませている。

シオンは病院に向かった。

どうやら、記憶の欠落を気にしている模様。

大切な何かを忘れていることが、余程気に掛かるのか。

消去法で残ったザッシュがこうして報告に訪れたワケだが、到着するやいなや捏造した前回のあらすじを流してリューに制圧される現状という次第である。

「ったく、総本部に到着早々アホなことしてんじゃないわよ。つーか、そのラジカセ止めなさい。何でラジカセなのよ、レトロ過ぎでしょ」

握り拳を作るリューの威圧を前に、渋々とラジカセを止める伊達男(自称)。

「いや、前回久々の出番だったのにあんまり活躍出来なかった反動かもしれないの?」

「何で疑問形で答えてんのよ。つーか、捏造あらすじのアンリちゃんが惚れちゃいそうだよぉとか言ってるわよ。あの子がアンタみたいなアホに惚れるワケないでしょ。寝言は寝てからほざきなさい、もしくは今すぐ病院で脳を診察してもらいなさい」

「ヒドイ!僕泣くよ、泣いちゃうよ、泣く一歩手前だけどいいんだね!?」

「土下座するのと、股間にぶら下がってるモノをもぎ取られるのどっちがいい……?」←にこやかな笑顔、右手をワキワキ

「大変申し訳ございませんでした、どうかそれだけは御勘弁を」

心底震えながら土下座と謝罪を行う伊達男(笑)。

男として再起不能になるのは避けて通りたい様だ。

謝罪を終えた伊達男は、眼鏡美女と共に総長室に入室。

室内では、総長レイジ・ラングレイが席で書類を纏めていた。

軽く挨拶を交わした後、ザッシュは先日の詳細を総長に報告。

コアを分割して複数に分かれている新種のブレイカーの存在、アンリの浄歌等々……。

「ふむ、アンリくんがあの歌を使ったのか……」

「え、総長は知ってらしたんですか?アンリちゃんが浄歌の歌姫であることを」

「ウェインから聞いている。7年前に起きた事件の時に歌ったとな」

「ウェインって誰―――あたっ!」

首を傾げるザッシュの脳天にリューのチョップが叩き込まれる。

「アヴェルくんのおじいさんよ、何回か会ったことあるでしょ!」

「ああ、そっか。アヴェルくんのおじいさんってそういう名前なんだっけ」

「ド忘れしてんじゃないわよ!」

伊達男のこめかみをグリグリする眼鏡美女。

総長の溜息で彼女は正気に戻り、話は進行する。

「新種のブレイカーの出現か……何か悪いことが起きる前触れでなければよいが。ともかくご苦労だった、最近は君達に仕事を回し過ぎて苦労を掛ける。3日ほど休養を取って英気を養ってくれ」

「よろしいんですか?私達なら大丈夫ですが……」

「総長がいいって言うんならいいんじゃないの?」

「口を慎みなさい、総長の前で何てこと言うの!」

「構わんよ、休みを取るのも大切な仕事だ。いざという時の為のな」

「あ、ありがとうございます。総長もご無理はなさらないで下さいね」

「うむ、ゆっくり疲れを癒してくれ」










休日その1、お買い得品。

アークシティ西区。

商業が盛んな繁華街に、リューは赴いていた。

総本部での仕事が多い彼女にとって、こうやってゆっくりと街中で過ごせる時間はそうそう無い。

彼女は古ぼけた店に入っていく。

どうやら骨董店の模様、古着や置物、アンティークな品々が店内のあちこちに。

彼女の趣味は、珍しい骨董品の収集。

こうやって休暇が取れた日には骨董店巡りをしているのだ。

上機嫌で店内の品に目を配る―――その中に、お買い得品と書かれた立札が。

お買い得品に目を移す、そこあった物は大きな壺。

大人がひとり、すっぽりと入れてしまいそうな大きな壺が置かれている。

壺の口には詰め物が―――否、詰め物ではなく本物の人間が。

さぁ、買って言わんばかりの笑顔で彼女を見つめる伊達男、ザッシュ・シャルフィドが壺から顔を出していた。

彼女は笑みを浮かべている、無論だが目は笑っていない。

すっと視線を他の品に向けてその場から離れようとする。

「待って待ってェェェェェェ!何で無視すんの!?君の大好きなものが融合合体した超お買い得品が目の前にあるというのに!!」

「店長さん、あそこの立札間違ってますよ。ガラクタと粗大ゴミが融合合体した詐欺商品が」

「ああ、すまないねぇ。あれ在庫処分品なんだよ、お安くしとくよ」

「いえ、置き場に困るから遠慮します」

「しょんな殺生なァァァァァ!」

伊達男の叫びは彼女の耳には入らなかった。

彼女は目当ての品を購入すると、足早に店を出ていく。

この後、お買い得品(在庫処分品だが)はさっぱり売れないので廃品回収に出された。

伊達男のその後を知る者は居ない(笑)。










休日その2、流血階段。

心臓が高鳴る、張り裂けてしまいそうなほどに。

集い荘のとある一室で、アヴェルは何とか平常心を保つ努力をしつつリンゴを剥いていた。

自分の部屋に置かれていない品々、明らかに女性の部屋。

当たり前だ、ここは想い人であるアンリの自室なのだ。

ベッドにはパジャマ姿のアンリの姿が。

先日のブレイカー軍団討伐の際、彼女はブレイカーを消し去る浄歌を使った。

その疲労を心配して、こうして大事を取って休ませているのだ。

アヴェルは息切れを起こしそうになっていた。

ふたりっきりというこの状況、純情少年にはキツイことこの上ない。

「ねぇ、アル」

「ひゃ、ひゃい!?な、何でございましょう!?」

急に声を掛けられ、思わず敬語で返事してしまう。

幼馴染の異変に気付かない彼女、ある意味で強い信頼の証であるが異性としての認識が薄い。

「そこのタンスの一番上の引き出しにタオルが入ってるから取ってくれる?少し汗掻いちゃったみたい」

「う、うん。風邪ひいたら大変だしね。待ってて」

ただでさえ疲労しているのに、風邪までひいたら大変だ。

タンスからタオルを出し、彼女に手渡す。

頬を拭う彼女の横で、平常心と念じながら一心不乱にリンゴを剥く。

だが、そんな彼の理性を一気に砕くイベントが発生する。

ふぅ、とアンリの溜息が聞こえた。

余程汗を掻いたのか、と視線を向ける。

思わず、リンゴと包丁を落としそうになってしまった。

彼女はパジャマをはだけさせ、胸元の汗を拭っていた。

下着こそ身に着けているが、豊かな谷間がはっきりと見える。

いやいやいや、いくら何でもこれは無いだろう!

幼馴染とはいえ、自分は男なのだ。

少しくらいは羞恥心を持ってもいいだろうに。

不味い、体温が次第に上昇してきた。

鼻の辺りがむずむずして、今にも赤い液体が噴出しそうな勢い。

で、出るんだ―――この部屋から出なければ!

「アンリ、ごめん!ちょっと、トイレ行って来るね!」

「え?うん、行ってらっしゃい」

テーブルの上にある皿の上に剥きかけのリンゴと包丁を置き、部屋から飛び出していく。

相当我慢していたのかな、とアンリは苦笑していた。

部屋を出て、1階への階段前に彼は来た。

息を切らして、今にも倒れてしまいそうだ。

危なかった、もう少しでも彼女のあんな姿を見ていたらどうなったか―――。

あんな姿―――彼女の胸元が鮮明に頭の中に浮かんだ。

年齢不相応に、たわわに実ったふたつの果実。

ブツン、と何かが切れて彼の鼻からは大量の鼻血が噴出する。

その場に倒れ込み、どくどくと赤い液体が階段を流れていく。

「うを!何じゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

丁度、集い荘に帰ってきたソラスが鼻血による流血階段を目撃して後ずさる。

この後、輸血の為に中央病院に搬送されたアヴェルの顔は何処か満足気だったそうな。










休日その3、アフロのシオンさん。

アークシティ中央病院、病院内にある診察室のひとつ。

シオン・ディアスは医師と向き合っていた。

「先生、俺は記憶の一部がどうも欠落している様だ。治療願いたい」

「うーむ、記憶の一部だけの欠落か……そんな器用な記憶喪失があるのかねぇ」

「記憶を回復出来そうな治療を頼む。どんな荒療治でも構わない」

覚悟を決めた男の眼差し、医師も了承と口にする。

まずは薬物による治療。

差し出されたのは黒い錠剤―――明らかに怪しさ全開のシロモノ。

「これはあまりの不味さで脳にショックを与える薬だよ」

「何処の誰だ、こんな怪しい物を考えたのは……?」

「私の恩師なんだが、今は医学界から追放されてしまってね」

「(こんな物を考案するからだろうな……)」

物は試しだ、と錠剤を口に入れて水を飲み干す。

「どうかね?」

「確かに不味いが……言うほどの効果は無いみたいだな」

「何、効果が無い?それはおかしいな、どれ私もひとつ……」

医師も錠剤を口にして水を飲み干す。

次の瞬間、医師はバターンと音を立てて倒れた。

口からは泡をブクブクと吹いて。

小一時間後、医師は息を切らしながら汗を拭っていた。

「シオンくん、一体どんな味覚をしとるんだね!?」

「子供の頃から修行の一環で毒物を少しずつ口にして耐性を作っていたから、その影響で平気だったのかと」

「な、なるほど……では次はこれを使ってみよう」

医師が用意したのは金属製の帽子だった。

なにやらアンテナらしき物が付いているが。

「先生、この珍妙な帽子は一体?」

「これを被って、このボタンを押すと電流が流れるんだよ。電気ショックを脳に与える装置だ」

「ふむ、早速試してみよう。これを被ってボタン―――ん、何だこのダイヤルは?最大にして、とこれでよし……」

「ちょ、待ちたまえ!?そのダイヤルは電流の強さを調整するんだ、最大にしたら―――」

時既に遅し、ボタンを押した瞬間―――シオンの身体全体に凄まじい電流が走る。

この時、医師の瞳にはシオンの身体が透けて骸骨の姿が見えたそうだ。

煙が上がり、焦げ臭い匂いが充満する。

「シオンくん、大丈―――」

「うーむ、少し痺れたが……記憶に変化はないなぁ」

何事も無かったかのように頭を掻くシオン。

髪はアフロヘアーになっていた。

医師は彼の肩を掴む、泣きながら。

「頼む、もう帰ってくれ!」

「先生、まだふたつしか試してないんだが」

「私では君は手に負えないから、自然回復に身を委ねてくれ!!」

かくして病院を追い出されたアフロのシオンさん。

この後、集い荘に帰った彼は同じ屋根の下で暮らす仲間達を爆笑の渦に引きずり込むのだが、当人は何が可笑しいのか分からなかった。



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