第10話『悪夢を断つ絆』


―――真っ白。

一面真っ白な銀世界。

私―――カノン・レイニッシュの生まれた大陸北方ではそれが当たり前の光景でした。

今でこそ大陸中央に住んでいますが、7歳までは大陸北方の寒冷地帯にある街に住んでいました。

私の家系は祖父からセイバーを始めた、セイバーとしては歴史の浅い家系。

祖父はあまり才能がある方ではないと語っていましたが、研鑽の末にマスターにまで至った祖父を貶める様な心無い人は周囲にはいません。

私も不器用ながらも家族を愛してくれる祖父を誇りに思っています。

祖父は生まれた子をセイバーとして育てたかった様ですが、残念ながら生まれてきた子―――私の母は生来病弱でセイバーを務めるのは無理な身体でした。

成長すると少し丈夫になった母でしたがそれでもセイバーは無理だと断念、勉学に励んで医師の道に進みました。

父は祖父の教え子でそれが縁で母と知り合い、恋に落ちたと聞かされました。

人をブレイカーから守る父と、病から人を救う母は幼い私の誇りでした。

そんな私に転機が訪れたのは7歳の誕生日を迎える直前。

その日、私は祖父と家で過ごしていました。

私には心待ちにしているものがありました。

母に赤ちゃんが出来たのです。

お医者様によると女の子。

つまり、私に妹が出来るのです。

自分が姉になる―――幼い私は、その事実に胸が一杯になっていました。

だけど、心配事もあります。

大人になっても、母は体調を崩すことがあったのです。

私が生まれる時も大変だったと父や祖父からよく聞かされたました。

生まれてきた私が丈夫だったことに、母は涙を流したと聞きます。

だから、今度生まれてくる妹も丈夫な子であって欲しいのです。

父は母の体調を心配し、病院で母に付き添っていました。

意刃を繰るアドバンスドである父が傍に居るのです。

母も心強かったの違いありません。

残酷な言い方ですが、ある意味で幸せだったのかもしれません。

愛する人と最期を迎えることが出来て。

その日、私が住んでいた街を突然の悲劇―――フリーズドラゴンが襲来したのです。

寒冷地帯である大陸北方でも、最大級の脅威として恐れられているブレイカーの襲来。

街は当然の様に混乱しました。

フリーズドラゴンが最大級の脅威とされているのはドラゴンの一種であることもさることながら、あらゆるものを凍てつかせる氷の吐息の存在が人々の心に恐怖を齎すからでしょう。

その吐息にまかれた生命は、たちまちに凍りついて砕け散る運命にあります。

氷の吐息は並のセイバーの障壁で防ぐのは至難の業。

更に襲来のタイミングは最悪と言っても過言ではありませんでした。

丁度、障壁柱の整備を行っている最中だったのです。

整備中は勿論、結界を張り巡らせることなど出来ません。

障壁柱の整備には護衛としてセイバーとガーディアンが傍に居ましたが、護衛の彼等の実力ではフリーズドラゴンに太刀打ちすることは出来ず、街は瞬く間に蹂躙されました。

全てを凍てつかせる吐息は人々を一瞬で氷の彫像に変え、彫像となった人々は次々に砕け散って死んだことさえ認識しないまま命を散らしていきました。

私は祖父に抱かれ、逃げ延びた人達と共に街の外に避難しました。

「アルバート!」

祖父―――アルバート・レイニッシュの名を呼ぶ声が。

やって来たのは赤い髪のおじいさん。

どうやら祖父の古い知り合いの様です。

「久々の再会を楽しみにしていたのに、こんな騒動に巻き込んですまない」

「それはいい、娘さん夫婦は無事なのか?」

「もう、遅い。避難する直前に見た―――奴の吐息は娘達の居る病院の区画を完全に凍てつかせた」

祖父の震えは、私も伝わっていました。

父と母、生まれてくる筈だった妹を救えなかった祖父の無念が、幼い身体にひしひしと伝わるのを確かに感じ取りました。

この後、この赤い髪のおじいさんが中心となったセイバー達の活躍でフリーズドラゴンは討伐されたものの、私の故郷は復興の目途もつかないほどに壊滅してしまいました。

「アルバート」

「うむ、儂も同じことを考えていたところだ。大陸中央―――お前の故郷に移住することにしよう」

こうして、私と祖父は故郷を遠く離れ、大陸中央に移住することに。

私と祖父が移住したのは大陸中央、アークシティからやや北に位置する町。

一年を通して雪国といえる故郷とは異なり、季節が移り替わる大陸中央は私にとって未知の世界に来た様な気分でした。

だけど、私の心は凍てついたままでした。

父と母、生まれてくることすらなかった妹の死。

幼い私の心はその事実を受け入れることが出来ず、塞ぎ込む毎日が続きました。

心が寒い、凍え死んでしまう。

移住した街の公園のベンチに座り、暖かな日差しを受けても凍てついた心は溶けません。

知らない人ばかり、見知った友達は誰もいない。

全く知らない街、自分のことなど誰も見向きもしないんだと思っていた時です。

「どうしたの?」

声を掛けてきた男の子がいました。

赤い髪、透き通るような琥珀の瞳の男の子。

隣には銀色の髪、翠の瞳を持つまるで妖精のような女の子の姿も。

「えっと……」

言葉が詰まりました、何と言えばいいのでしょうか。

故郷には友達が居ましたが、ここには居ません。

見ず知らずの同い年の子に声を掛けられ、どう対応すればいいのか。

男の子は私をじっと、見つめるとあっと声を出しました。

「もしかして、君がカノンちゃん?」

「え?どうして、名前知ってるんですか?」

「じいちゃんから聞いたんだ。じいちゃんとアルバートさんは親友で、ぼくと同じくらいのお孫さんがいるって」

祖父の親友―――そういえば、この男の子はあの赤い髪のおじいさんと同じ赤髪。

あのおじいさんのお孫さんであることは一目瞭然です。

男の子が手を差し出してきました。

「ぼくは、アヴェル―――アヴェル・ディアス。で、こっちは」

「アンリ・アンダーソンだよ」

「カ、カノン・レイニッシュです……」

差し出された手を取り、握手を交わします。

少し緊張しました、同い年の男の子の手を握るのは初めだったから。

銀髪の少女、アンリとも握手を交わします―――というよりも、彼女の方から手を取ったという方が正しいのですが。

彼女、アンリが尋ねてきました。

「カノちゃんは、ひとりで何してたの?」

「か、カノちゃん?」

「ん、そう呼んじゃダメかな?」

「いえ、いいです……。何もすることが無いからただ座ってただけで、ここには来たばかりだから友達も居なくて―――」

「そうなの?なら、わたし達が友達になるよ、アルもいいでしょ?」

「うん、ぼくもカノンちゃんと友達になりたいな」

「で、でも……」

戸惑う私の手を取るアンリ。

アヴェルもにこやかな笑顔で答えます。

「一緒に遊ぼ♪」

アンリに手を引かれ、立ち上がる私。

見た目に反して押しの強い少女と、苦笑いする少年。

この後、私はふたりと一緒に沢山遊びました。

自然と笑みが零れていました。

故郷を失った時から、ずっと凍てついていた心が溶かされ、止まっていた時計の針が動き出した瞬間でした。

動かしてくれたのはこのふたり。

その日、私は宝物を手に入れました。

友達というかけがえのない宝物を―――。










早朝、集い荘2階。

202号室―――カノン・レイニッシュの部屋。

ちなみに201号室はアヴェル、203号室はアンリ、204号室はザッシュ、205号室はソラス、206号室はシオンとなっている。

年長組であるザッシュ、ソラスはアヴェル達がここに住み始めて3ヶ月後に引っ越してきた。

それまでは違うアパートで過ごしていたのだが、アパートが老朽化で取り壊しが決定してしまい、大家から集い荘への引っ越しを勧められた。

前のアパートよりも家賃が高くなったことには少々不満だったが立地条件が良かった為、ふたりは集い荘にやって来たのだ。

1階が食堂とトイレや浴室が備えられ、2階に自室があるのには驚いた。

定期的に大家が清掃、業者も時折やって来て1階の設備を整備していく。

前に住んでいたアパートとは比べ物にならないほど綺麗で清潔感が漂う新しい住まいに、ふたりは小さな感動を憶えたという。

入居して日の浅いシオンも、集合住宅という元の時代では経験の無い住処に最初は未知の地に踏み込んだ冒険者のような気持ちだった同居人達に語った。

もっとも、この赤髪の青年はあまり驚いた表情を見せないので本当かどうか疑わしいところである(驚いたのは水道でお湯が出た時くらい)。

話は戻り、202号室に住まうカノンが目覚めるところから始まる。

カノンは体内時計に従い、目覚まし時計が鳴る前に目覚める。

時刻は朝の6時を少し過ぎたばかり。

何時も通りの時間帯、身体を起こした彼女は目覚まし時計のスイッチを切る。

セイバーになる前―――スクール時代から使っている目覚まし時計だが、鳴らす前に起きているので全くお世話になっていない。

アヴェルももう起きているだろう、自分と同じ時間帯に起きるのが習慣となっているから。

逆にアンリは寝坊助で、アヴェルが起こしに行くのが恒例となっている。

「それにしても、随分と懐かしい夢を見ましたね……」

彼女は懐かしい夢を見た。

父と母、生まれることも出来なかった妹の死、故郷を失った幼き日、移住した先でアヴェルとアンリに出会ったばかりの頃の夢を。

思えば、ふたりとは10年近い付き合いになる。

こうやってセイバーになってからも一緒に行動するとは、もはや切っても切れない縁で結ばれているのかもしれない。

カノンがセイバーを志したのは、アヴェルがセイバーになる為の鍛錬に明け暮れる姿を見たことが切欠だった。

大切な友達がブレイカーと戦う、自分だけが何もせずにブレイカー討伐に向かう彼の後ろ姿を見送る。

そんなのは御免だった、セイバーになったアヴェルが生きて帰って来ないかもしれないと思うと居ても立っても居られない。

祖父アルバートに頼み込んで、意力の鍛錬を始めた。

アルバートは驚き、最初は消極的だったのは言うまでもない。

無理もない話だ、カノン以外の家族を一度に喪ってしまったのだから。

孫娘には、自分や教え子だった娘婿と同じ道に入って欲しくなかった。

反対する祖父に対し、彼女は―――。

「友達の背中を守るんです!」

少し前まで。塞ぎ込んでいた孫娘が大声で宣言。

これには、アルバートもたじろいだ。

ああ、そうか―――出来たのか、かけがえのない友が。

守りたい、共に支え合いたいと願うものが。

それから彼女は意力を学び、訓練に励んだ。

カノンの成長速度は驚くべきものだった。

通常は3ヶ月は掛かる意力の基礎制御を、僅か2週間でクリア。

意力を学ぶ教育機関“スクール”に入学、毎年優秀な成績を修め、実技座学共に主席で卒業。

セイバー試験合格から10ヶ月後、彼女は意刃を発現させることに成功、若くしてアドバンスドに昇格を果たした。

驚きべきことはまだあった、発現した彼女の意刃には刻印が刻まれていた。

刻印の意刃は、意刃が突然変異あるいは進化した存在とされている。

セイバーとして歴史が浅いレイニッシュ家が発現させることなど、誰が予想しただろうか。

今や彼女は新進気鋭のセイバーとして注目の的だ。

カノン当人は、あくまでアヴェルやアンリの背中を守るのが目的である為、注目されることに困惑気味だ。

最近ではセイバーを紹介する雑誌にも掲載され、女性から黄色い歓声を受けることもしばしば。

170cmとなかなか高めの身長に、クールな雰囲気がウケたらしい。

周囲の評価はともかく、彼女本人はクールであるつもりはない。

心を落ち着け、何時如何なる時と場所でもブレイカーと戦えるようにしているだけなのだ。

ベッドから出て、パジャマを脱ぐ。

下着姿になり、タンスから衣服を取り出そうとした時だった。

カチャリ、と部屋の扉が開く音が聞こえた。

どうやら、自分としたことがうっかり鍵を掛け忘れたらしい。

別に掛けなくても問題は無い、仮にザッシュが女子の部屋に入ろうならば―――。

「その子達に変なことしたら、私が直々に黄泉の国へ送ってあげるから♪」

と、ザッシュが入居した時にリューが凄まじいまでの攻撃的笑顔で脅迫した。

伊達男も滝の様な汗を流しながら何度も首を縦に振った姿は今でも記憶している。

リューからは念の為に鍵は掛けるようにと釘を刺されたというのに。

視線を扉の方に向けると、誰かが入ってきた。

「むー……」

「アンリ……?」

入ってきたのは寝ぼけているアンリだった。

トイレから戻ったはいいが、自分の部屋と間違えてこの部屋に入ったといったところか。

苦笑しながら親友に話し掛けようとしたのだが―――。

「まくらー」

アンリが抱き着いてきた。

いやいや、自分は枕なんかじゃありませんと、言おうとしたが。

ムニュムニュとカノンの胸を揉み始めた。

「ちょ、アンリ!?」

「むー……あれぇ、枕の上に大きな肉まんがふたつ?」

「肉まんじゃありません、胸です!」

「むー……何かかさ張る感じがする、枕カバーってこんなに厚かったっけ?」

「って、ちょっとォ!?」

彼女はカノンのブラを枕カバーと勘違いして剥いでしまう。

プルンと、年齢に似合わない豊かな胸が露わになる。

アンリも年齢に合わない大きな肉まんをお持ちだが、カノンの肉まんは彼女の肉まんを更に上回っていた。

「んー……やーらかい、あったかくてどっくんどっくんって音もする」

「いや、その、だから枕じゃ―――!」

「カノン、扉開いてるけど……どうしたの?」

「はう!?」

騒動に気付いたのか、アヴェルがやって来て顔を出す。

首には使用済みのタオルを掛けている、既に洗顔と歯磨きは終えている模様。

1階の洗面所から自室に戻る最中だったのだろう。

室内の状況を観察するアヴェル。

あ、アンリが何故か居る。

きっと部屋を間違えたんだなぁと苦笑する。

が、直ぐに何かおかしいことに気付く。

あれ、彼女は何かを触っている。

大きなふたつの肉まん―――などではない、人間の胸だ。

肌を隠していない女性の乳房、形が良く柔らかそうで張りとボリュームがある。

恐る恐る視線を上に向けると、そこにはもうひとりの幼馴染であるカノンが真っ赤な顔をして震えていた。

ブラを剥がされたカノンの胸を、寝ぼけているアンリを触っているのだ。

洗顔したものの若干の眠気が残っていたアヴェルの脳は急速に活性化、カノンの豊満な胸に釘付けになる。

結果は例の如く、純情ゲージがあっという間に限界突破して鼻血を噴き出して倒れた。

「ア、アヴェル!大丈―――」

「うーん、やーらかいまくらー」

「アンリも目を覚まして下さいぃぃぃぃぃぃぃ!!」

幼馴染ふたりにかき乱され、半泣きになってしまう。

この後、やって来たシオンによってアヴェルは回収された。

エロな匂いを嗅ぎつけたザッシュもカノンの部屋に来訪しようとしたが、シオンに頭を掴まれて持ち上げられる。

「何すんの、シオンくんんんんん!エロが、エロの匂いが僕を呼んでいるというのにィィィィィ!!」

「年頃の娘の部屋に堂々と入ろうとするな、行ったらリューに報告するぞ」

「すいませんでした、それだけはマジ勘弁して下さい(滝汗)」

この後、食堂に揃う幼馴染達。

アンリは寝ぼけていた為か、記憶が曖昧な様子。

対して、アヴェルとカノンはやや真っ赤になって視線を逸らしている。

「いやーごめんね。あれ、肉まんじゃなかったんだ」

「当り前です(泣)。その……アヴェルに見られたんですからね」

「……」

アヴェルはあの時の光景を思い出したのか、俯いていてしまう。

幸い、鼻血は噴き出していない。

「(カノン、胸大きかったな。何時の間にあんなに……いやいや、忘れろ!また鼻血出したらどうするんだよ!?)」

ぶんぶんと顔を振る純情少年。

アンリは首を傾げ、カノンはアヴェルの考えていることが分かったのか茹蛸の様に真っ赤になる。

シオン達は、青春真っ盛りの後輩セイバー達の様子を窺う。

彼等に聞こえない様に会話する大人達。

「いや〜それにしても、アヴェルくんも案外節操ないね。アンリちゃんだけじゃなくて、カノンちゃんにまで鼻血出すなんてさ♪」

「アヴェルが鼻血を噴くのはあの嬢ちゃん達に対してだけらしいぜ」

「へぇ、そうなの?」

「行き過ぎてる気がするがな」

「鼻血の量がハンパないから床掃除に苦労するよね……」

鼻血の海で染まった床の清掃には四苦八苦している。

というよりも、よく失血死しないものだ。

幼馴染組―――アンリは両手をじっと見つめて、ワキワキする。

「うーん、寝ぼけてたから曖昧だけど、わたしより大きかったね。92cmくらいかなぁ」

「ちょ、何言ってるんですか!?そ、そんなにあるワケ……」

アンリの暴露に顔を真っ赤にして抗議するカノン。

ほう、と顎に手を当てて感嘆の声を出す伊達男。

シオンとソラスのチョップが即座に叩き込まれ、撃沈されるのはお約束だ。

伊達男を撃沈した大人ふたりは、ハッとなって視線を幼馴染組の方に向ける。

言うまでもなく、彼等の視線の先に居る相手はアヴェルである。

赤髪純情少年は幼馴染の片割れの暴露を耳にし、身体が震えていた。

「(きゅ、きゅきゅきゅ……92cm!?)」

顔に熱が集中、鼻腔がヒクヒクとしてきた。

発射までのカウントダウンが開始された証である(笑)。

アイコンタクトを取るシオンとソラス。

瞬間移動したかの如く、アヴェルの両サイドに出現。

鼻血が発射される正に直前、絶妙のタイミングでふたりはティッシュを鼻に詰め込む。

詰め込まれたティッシュが一瞬で真っ赤に染まった。

「何すんですか、いきなり」

「感謝の言葉のひとつくらい言え、鼻血噴く前に詰めてやったんだぞ」

「つーか、どんだけ出してんだよ……一瞬でティッシュが真っ赤になったじゃねーか」

ジト目で自分を見つめる大人ふたりに、うっと言葉が詰まる純情少年。

そもそもの元凶である銀髪少女は自覚が無いのか、キョトンとしている。

被害者である紫髪少女は一層真っ赤になって視線を逸らす。

気まずい、実に気まずい空気が漂う。

何とか場の空気を変えようと、アヴェルが口を開こうとした時だった。

セイバー達が持つ通信機に着信音が響く。

送信されたのはセイバー総本部から、内容はブレイカーが出現したとの知らせだった。










アークシティから20キロほど離れた場所に小規模な森が広がっている。

セイバー総本部からのメールでは、この森からブレイカー反応を感知したという。

集い荘の6人は、早速現場である森に足を踏み入れる。

二人一組、3つのグループに分かれて探索に入る。

メンバーの組み合わせはシオンとアンリ、ザッシュとソラス、アヴェルとカノン。

この組み合わせに抗議するバカが一名、例の如く伊達男ことザッシュ・シャルフィドである。

「女の子プリーズ!」

「うるせぇ、さっさと来やがれ」

「うわーん、僕ぁ女の子と一緒が良いんだよォ!」

「オメーと一緒にさせたら危ねぇからだ」

「じゃあ、何でシオンくんはアンリちゃんと一緒なの!?」

「オメーと違って害がねぇからだ、オラ行くぞ」

我が儘を言う伊達男はソラスに引きずられ、森の中に入っていく。

「さて、俺達も行くか」

「うん、アルとカノちゃんも気を付けてね」

シオンとアンリも森の中に。

残されたのはアヴェルとカノンだけとなった。

やはり、気まずい空気が漂う。

アヴェルは心の中で現状を嘆いた、これは一体何の嫌がらせかと。

今朝の件で色々と気まずいのに、よりにもよって今回一緒に行動するのが当事者である彼女。

彼女の方も同じ心境なのか、何も言わず視線を逸らす。

どうすればいいのだろう、アドバイスをくれそうな人間は誰もいない。

沈黙を破ったのは彼女の方だった。

「あの……行きましょうか」

「あ、ああ、そうだね」

自分達はブレイカー討伐に来ているのだ、セイバーの本分を忘れてはならない。

森に足を踏み入れたふたりは、感知と索敵を行いながらブレイカーの位置を捕捉。

特に苦戦らしい苦戦もなくブレイカーを仕留めていく。

戦いながら、共に戦う幼馴染に目を配る。

流石にカノンは手際が良い、自分が1体を斬る間に直ぐに次のブレイカーへと攻撃を移している。

ブレイカーの討伐にさして時間は掛からず、全て仕留め終えると一息つく。

「ざっと、20体か。これくらいならシオンさん達も片付けてるかな」

「そうですね……」

「「……」」

不味い、会話が続かない。

何か話題は無いか、彼女と会話する為の話題は。

女の子の好きそうな話題。

ファッションに関する話題……これは無理か、彼女はオシャレはしない派だ。

そもそも、彼女は変に着飾る必要が無いほどの美貌の持ち主だ。

スクールを卒業してからも、後輩達が差し入れに来たりするくらいの人気者なのだから。

食べ物、スイーツ関連はどうだろうか―――これも無いか。

彼女はあまり、その手の店に入ることは無い。

前にリューが一緒に話題のスイーツ店に行かないかと誘ったことがあったのだが。

「いえ、アンリが作るお菓子があればいいですから」

と、やんわりと断っていた。

彼女曰く、アンリ手製のお菓子に勝るものはないという。

意外と思う人間が大勢居るのだが、アンリは菓子作りの名人なのだ。

アンリは料理の腕は人並みか少し上くらいだが、菓子作りに関しては有名店の菓子職人も舌を巻く腕前を誇る。

以前にセイバー総本部で振舞った際、大好評だったのを記憶している。

ちなみに、リューもアンリのお菓子を口にして以来、話題のスイーツ店には行かなくなったという。

時折、アンリに菓子作りを教えて貰っているとか。

話が脱線したので、本筋に戻る―――話題が無い。

「あの、アヴェル」

「ひゃ、ひゃい!?何でございましょう!?」

あれこれと会話の切り口を模索する最中、彼女の方から話し掛けてきた。

緊張して、思わず敬語で返事してしまう。

彼女はもじもじしながら、視線を泳がせている。

しかし、意を決してこんな質問をしてきた。

「アヴェルは、その―――女性の胸は大きい方が好きなんですか?」

「……え?」

彼女はいきなり何を言っているのだろう?

女性の胸は大きい方が好き?

つまり、大きなおっぱいが好きなのかという意味。

質問に対する返答に困ってしまう。

いやいやいや、どうしてそんな質問をしてくるのだ。

カノンの口から、そんな質問が出るとは思ってもみなかった。

どう答えればいいのだろう、自称伊達男の先輩だったら―――。

「だーい好物さァ!!」

……と、恥ずかしげも無く答える姿が目に浮かぶ。

あのお馬鹿な先輩なら、サムズアップしながら笑顔でそう答えるだろう。

そして、即座にリューにブッ飛ばされるだろう(笑)。

心を落ち着ける為に深呼吸して、言葉を絞り出す。

「ど、どうしてそんな質問を?」

「その、今朝の一件で、は……鼻血をあんなに出してましたし」

「うぐぅ!」

痛いところを突かれ、胸を押さえる。

否定出来ない自分が情けない。

そりゃ自分だって思春期真っ盛りの年頃なのだ。

ザッシュほど露骨ではないが、女性の身体に興味が無いワケではない。

しかし、何とか踏み止まる。

「ぼ、ぼくも男だし興味があることは否定しないよ。だけど、誰に対してもじゃないよ、アンリとカノンに対してだけ―――」

「え?あの、それって……」

「あ、あれ……?」

自分の紡いだ言葉に、思わず首を傾げてしまう。

どうして……“カノン”に対してもなのだ?

同時刻、同じ様にブレイカーを討伐したザッシュとソラスが討ち漏らしたブレイカーは居ないかと索敵していた。

索敵の傍ら、ザッシュがこんなことを言う。

「アヴェルくん、ありゃ気付いてないね」

「オメーもそう思うか」

「うん、僕もソラスくんと同感だよ。確かにアヴェルくんはアンリちゃんが好きだけど―――カノンちゃんのことも同じくらい好きだね。友達としてじゃなくて、ひとりの女の子として」

アヴェルがアンリに好意を寄せているのは周知の事実(但し、当のアンリは気付いていないが)。

しかし、同時にカノンに対してもアンリと同じくらいの好意を持っている。

彼女に対しても鼻血を出すなどの反応からして間違いないだろう。

もっとも、アヴェルはカノンへの想いを自覚していない様だが。

「さて、これからどうなるのか楽しみ楽しみ♪」

「オメーなぁ……」

三角関係になるかもしれないと期待して、ザッシュはワクワクしている。

ソラスは呆れた顔で額に手を当てる。

一方、シオンとアンリも残存するブレイカーの捜索に乗り出していた。

索敵と感知が広いシオンがほぼ担当しており、アンリはやることが殆どない。

「(みんなよく言うけど……シオンさんって本当に万能超人だなぁ)」

シオン=万能というイメージが定着してきた今日この頃。

ドラゴンを一撃で斃す、知識が豊富&吸収が早い、難しい技術が使える等々。

彼を確保した総本部は幸運に恵まれているのではなかろうか。

索敵をしているシオンが話し掛けてきた。

「アンリ、質問していいか?」

「何?」

「アヴェルのことは好きか?」

「うん、大好きだよ。カノちゃんもね」

「そうか……」

満面の笑みで答える彼女。

シオンは視線を逸らし、やや呆れ顔になる。

これはあれか―――幼い頃からの友達としての“好き”という意味か。

カノンのことも付け加えている点から間違いないだろう。

アヴェルがアンリのことが好きなのは彼の態度で直ぐに分かった。

しかし、今朝の様子からするとカノンに対しても自覚無しの好意を持っている節がある。

「(カノンの方はどうなんだ?)」

彼女はアヴェルをどう思っているのだろう。

アンリと同じ様に友達として見ているのか、それとも―――。

「ま、第三者があれこれと口出しするのも野暮というものだな」

「シオンさん、何か言った?」

「いや、何でもない。索敵を続けよう」

―――場所はアヴェルとカノンのところに戻る。

アヴェルは言葉が詰まる。

どうして、アンリだけではなくカノンに対しても反応を示すのか。

自分が好きなのはアンリの筈なのに。

カノンの前で、その疑問に対する答えを出せない。

困惑するアヴェルだが、それはカノンも同様だった。

彼がアンリに想いを寄せていることは、幼い頃から一緒だった自分が一番知っている。

しかし、今の彼の発言を聞いて気付いてしまう。

アンリと自分に対してだけ、それはつまり自分に対してもアンリと同じくらいの好意を無自覚ながら抱いている。

彼よりも先に疑問に対する答えに辿り着いたカノン。

自覚していないが、アヴェルが自分のことを―――。

身体の芯から熱が沸き上がり、あっという間に茹蛸状態に。

「あ、あう……(真っ赤)」

「カノン?ど、どうし―――ぶふぇっ!?」

「はう!?」

恥ずかしさのあまり、カノンは声を掛けてきたアヴェルに平手打ちを叩き込んでしまう。

ズシャァァアアアと土煙を上げながら、彼は地面に倒れ込む。

端整な顔に真っ赤な手の平の跡がくっきりと浮かんでくる。

彼女は正気に戻り、オロオロしてしまう。

アヴェルの方は―――。

「(や、やっぱり今朝のことまだ怒ってるのかな……?)」

彼女の心中など知る由も無い。

今朝のハプニングに対する怒りの平手打ちと勘違いしている。

「ご、ごめん。やっぱり、まだ今朝のこと怒ってるんだね」

「ち、違います……その、えと」

「え、それじゃどうして―――!?」

理由を聞こうとして、アヴェルは目を見開いた。

カノンの背後から、黒い影が彼女を覆おうとしていた。

あれは―――ブレイカーか!?

何故、接近に気付けなかったのだ、意力も気配も全く感じなかった。

だが、そんなことは今はどうでもいい。

このままではカノンが危ない。

「危ない、カノン!」

「え―――!?」

黒い影がカノンを飲み込もうとした瞬間、アヴェルは彼女の手を掴む。

だが、その場から即座に離れられるワケもなかった。

ふたり纏めて、黒い影に呑まれた。

苦しい、呼吸がままならない。

まるで海の底に沈む様な感覚に襲われ、ふたりの意識は遠のいていった。

「―――!」

同時刻、索敵を続けていたシオンは異変に気付いた。

アヴェルとカノンの意力に大きな乱れが起きたことを。

ふたりの身に何かが起きたと察知して駆け出す。

アンリも慌てて後を追う。

「シオンさん、どうしたの!?」

「アヴェルとカノンの意力に大きな乱れを感じた。ふたりに何かあったようだ」

「えぇ!?」

「シオンくん、アンリちゃん!」

「オメーらも気付いたか!」

同じく、異変を察したザッシュとソラスも駆けつけた。

「急ぐぞ」

一行はアヴェル達が居るであろう場所に急行した。

そこに彼等の姿は無かった。

あったのは―――球体。

大きな黒い球体が宙に浮かんでいた。

「何、これ……?」

「不用意に近付くな!」

黒い球体に触れようとしたアンリを制止するシオン。

正にその通りだった、黒い球体が不気味に蠢き出した。

球体から棘の様なものが射出される―――狙いはアンリ。

しかし、棘が彼女を貫くことは無かった。

シオンとザッシュが全て剣で叩き落したからだ。

「やれやれ、危なっかしい娘だねぇ。アンリちゃん、仮にもセイバーなんだから気を付けなよ」

「ご、ごめんなさい」

平謝りするアンリ。

そんな彼女を尻目に、シオンとソラスは黒い球体を見つめる。

ふたりは、目の前に浮かぶ不気味な球体の正体を察していた。

「……シオン、こいつぁ」

「ソラス、俺も同じことを考えていたところだ」

「オレも話には聞いたことはあるが、実物を見るのは初めてだぜ」

「―――幻影型ブレイカー“ミラージュ”。厄介な奴が現れたな」

「幻影型ブレイカー?シオンさん、それって何?」

アンリは聞き慣れない名前に首を傾げる。

「アンリ、レオを眠りに就かせたブレイカーの話はアヴェルから聞いているか?」

「う、うん」

レオが憑依型ブレイカーに憑りつかれ、救助すべくシオンが精神干渉を行ったという話は聞いていた。

アヴェル、アリスも救助に参加していたということも。

アンリ達は郊外のブレイカー討伐に赴いていた為に帰って来てから聞かされたのだ。

「目の前のこれは憑依型以上に厄介だ。憑依型ブレイカーがひとりだけに憑りつくのに対し、こいつは一度に複数の相手を悪夢の幻影に迷い込ませる。しかも、こいつが厄介とされる理由はもうひとつある―――憑依型の様に肉体に入り込むのではなく、自らの内部に閉じ込めてしまうんだ」

憑依型よりも厄介、アヴェルとカノンの意力の乱れ。

そこから弾き出される答えはひとつしかない。

「ま、まさか―――アルとカノちゃんはこの球体の中に居るって言うの!?」

「間違いないだろう。内部にふたりが居る以上、迂闊に手が出せん。外部から攻撃すれば内部に居るふたりに当たる可能性があるからだ」

「シオンくん、どうにか出来ないのかい?」

「方法はふたつ、内部に居る人間自身が悪夢の幻影を打ち破って外に出る」

「ふたりが自力で出るしか無いってコトかい、もうひとつは?」

「もうひとつは、ふたりに攻撃を当てないようにこれを斬るしかない」

「……姿が見えないふたりに当てないようにするなんざ、針の穴を通すみてぇなモンじゃねぇか」

「ああ、あくまでそれは最終手段でしかない。現状で俺達に出来ることはひとつ―――」

信じるしかない、ふたりが悪夢の幻影を打ち破って外に出てくることを。

アンリは胸元に手を当てて、瞳を閉じる。

お願い、ふたりとも無事に帰って来て―――。

ただひたすらに、ふたりの帰還を願った。










―――真っ白。

一面真っ白な銀世界に、アヴェルとカノンは居た。

何処だ、ここは―――自分とカノンは黒い影に飲み込まれたのではないのか?

アヴェルは、全く知らない光景を目の当たりにして困惑する。

彼の腕の中にはカノンの姿もある、彼女は気を失っている。

脈はある、呼吸も正常だから暫くすれば目を覚ますだろう。

「それにしても、ここは何処なんだろう?雪景色だってことは理解出来るけど……寒さは全く感じないな」

周囲は雪景色だというのに、冷気は全く感じない。

もしや、この光景は幻覚の類?

自分達を覆った黒い影は、幻覚の類を見せるブレイカーではないだろうか。

そして、この場所はそのブレイカーの作り出した幻の世界ではあるまいか。

「レオさんの時みたいな憑依型ブレイカー……でも、規模が大きい。ぼくだけじゃなくて、カノンまで居る―――複数を一度に悪夢のような世界に引きずり込めるブレイカーなのか」

「んん……」

「カノン?」

腕の中で眠っていたカノンに変化が、瞼を重そうに開く。

良かった、目を覚ましてくれた。

「アヴェル……?私、一体―――!?」

彼女は目覚めるなり、急に起き上がって周囲を見回した。

「カノン、どうしたの!?急に動いたら身体に負担が―――」

「ここ、は―――そんな、まさか……」

「カノン!?」

彼女は起きて間もないというのに駆け出した。

一体、彼女はどうしてしまったのか。

兎にも角にも、彼女の後を追いかける。

「あれは―――町?」

暫く走ると町が見えてきた。

カノンは町の中に入っていく。

人の姿があり、彼女はぶつかる―――が、スゥッとすり抜けてしまう。

やはり間違いない、これは完全な幻の世界。

ブレイカーが作り出した現実ならざる場所なのだと確信した。

彼女は形振り構ず、町の中を走っていく。

ふと、あることに気付いた―――彼女は何処かを目指して走っている。

初めて訪れた場所ではなく、土地勘のある場所に訪れているように見える。

「(待てよ、そういえば前にじいちゃんから聞いたことがあったっけ……)」

祖父から聞いた話―――カノンと彼女の祖父であるアルバートの話を。

アヴェルと出会う前、ふたりは大陸北方の寒冷地帯にある町で暮らしていたと。

しかし、その町は今では存在しない。

フリーズドラゴンの襲来で壊滅し、生き残った人間は散り散りになったと。

まだ幼かったカノンの心の傷は大きく、故郷があった大陸北方に彼女を住まわせるのを酷と思ったアルバートは大陸中央にあるアヴェルの故郷である不死鳥の里へと移り住んだ。

まさか、ここは彼女が不死鳥の里に来る前に住んでいたという生まれ故郷なのか?

カノンが立ち止まった、彼女の眼前にあるのは一軒の家。

表札には『レイニッシュ』の名が。

彼女はドアノブに手を伸ばそうとする。

「私の、家……」

「カノン……」

幻とはいえ、失われた故郷と我が家を前にして平静でいられる人間が、果たして何人居るだろうか。

セイバーとはいえ、彼女も平静を保ってはいられない。

さぞ、複雑な心境に違いない。

だけど、このままではいけない―――ここはブレイカーの作り出した幻の世界なのだ。

何処から攻撃があるか分からない、直ぐにカノンを連れてここから離れた方がいいかもしれない。

彼女には悪いが、何とかここから出る方法を探そう。

そう決心して、彼女に声を掛けようとした。

轟音が、突如として鳴り響いて大地が揺れた。

ふたりはバランスを崩しそうになるが、何とか踏み止まる。

「あ、う……!」

「何だ、何が起きたんだ―――!?」

レイニッシュ家の扉が、勢いよく開かれた。

中から出て来たのはふたりがよく知っている人物―――カノンの祖父アルバート・レイニッシュ。

彼は幼い少女を抱きかかえていた。

紫髪の幼い少女―――それが誰であるかは一目瞭然だった。

「あ……」

「アルバートさんに、小さい頃のカノン……」

「そん、な……じゃあ、これは“あの時”の―――っ!」

「カノンっ!?」

家から出ていくアルバート達、彼らとは全く違う方向に向かってカノンは駆け出した。

彼女は何処に向かっているのだろう。

祖父と幼い自分には目もくれないで、一心不乱に何処かを目指している。

待て、確か―――アヴェルの脳裏にある記憶が呼び覚まされた。

それはカノンの両親についてのことだった。

彼女の両親はフリーズドラゴンの襲来時、自宅には居なかった。

カノンの母は当時妊娠しており、生来の病弱さもあって病院に入院していたと聞いた。

父親も病院で母に付き添っていたという。

ならば、彼女が今向かっている先は両親が居るであろう病院。

駄目だ―――行っても意味が無い、何故ならばこれはブレイカーが作り出した幻。

自分達は過去の世界に飛ばされたワケではないのだ。

彼女が駆け付けても、人であろうと建物であろうとすり抜けてしまう。

両親を救うことなど出来はしない。

「カノン、行くんじゃない!行っても君のお父さんとお母さんを助けることは出来ないんだ!!」

必死で呼び止めるも、彼女は全く止まる気配が無い。

こちらの声がまるで届いていない。

彼女の心はこの幻の過去に傾いてしまっている。

巨大な影が見えた、建物や飛行船の類ではない。

人々から慄かれる存在―――ブレイカーの中でも災害級の脅威であるドラゴンの一種フリーズドラゴンだ。

フリーズドラゴンの口が徐々に開かれていく。

眼前に広がる区画には、病院らしき建物が。

まさか、あの病院にカノンの両親が―――!?

「やめ、て……」

「駄目だ、カノン!見るんじゃない!!」

「やめてぇぇぇえええええええええええっ!!」

彼女の悲痛な叫びも空しく、ドラゴンの口からは息が吐き出される。

単なる吐息ではない、全てを凍てつかせる氷の吐息。

その吐息にまかれた建物が、人が凍りついていく。

凍りついた人や建物は間を置かずして、脆い硝子細工のように砕け散る。

「……っ」

フリーズドラゴンの氷の吐息の威力を目の当たりにして、頬に汗が伝った。

話には聞いたことはあったが―――これほどとは。

幻とはいえ、眼前で起きた惨状に戦慄した。

ハッと、カノンに視線を向けた。

彼女の身体は震え、顔色は青褪めている。

「お、父さん、お母さ……」

「カノン、しっかり!」

彼女は膝をつき、力なく項垂れる。

生気の無い虚ろな瞳で、今にも倒れそうな彼女の肩を支える。

―――何故、彼女がこんな目に遭わなければならない。

唇を噛み締める、食い込んだ歯で唇の端から血が滴る。

背後に黒い人型の“何か”が出現する―――ドス黒い意力を感じた。

言うまでもない、ブレイカーの発する黒き意力。

この悪夢を見せているブレイカーに違いない。

何をするつもりか、理解している。

彼女の心の傷を抉り、抵抗出来なくなってから嬲り殺しにする。

許さない、そんなことは絶対にさせない。

人型のブレイカーの手に黒い剣のようなものが出現する。

恐らく、意力を武器に象ったもの―――セイバーで言うところの意刃に近いものだろう。

振り下ろされる凶刃、即座に障壁を展開する。

砕けるような音が響いた。

一撃、ただの一撃だけで障壁は切り裂かれて砕け散った。

瞬時にその場から、彼女を抱き抱えて跳躍出来たのは奇跡的な反射だったといえる。

「……ッ」

痛みが走る、肩に切り傷が―――完全には躱せなかった。

傷口からは血が溢れる。

人型ブレイカーの凶刃が容赦なく襲い掛かる。

障壁はまるで役に立たない、直ぐに切り裂かれて砕け散るだけだ。

感知と肉体の強化に意力を注ぎ込む。

凶刃を躱していく―――全ては躱せない、ひとりだけなら全て躱せる自信はある。

だが、今はカノンを抱き抱え、彼女に当たらないように庇いながら躱している。

動きが制限され、躱せる攻撃も浅いながら当たってしまう。

幻の雪景色に鮮血が舞い、地を赤く濡らしていく。

彼女を抱える指が緩みそうになる―――が、その度に指に力を込めなおす。

離しはしない、決して離すワケにはいかない。

「カノン、目を覚まして―――君だけでも、この悪夢から抜け出すんだ」










―――暗くて、寒い。

カノンは何もない真っ暗闇の中に、ひとり座り込んでいた。

彼女は子供の頃の、幼い少女の姿に戻っていた。

深く傷付けられた心が、今という現実から逃げ出したいという心情が彼女をこの姿に変えたのだろうか。

何も見えない暗闇、冷たい空気が肌に突き刺さり凍えそうになる。

怖い、誰か助けて、傍に居て―――彼女は肩を抱き、震えながら涙を流す。

―――カノン。

自分を呼ぶ声が聞こえた。

視線を上に向けると、ふたりの男女の姿が。

輪郭がぼやかて、人の形にしか見えない。

しかし、その声の主が誰であるかを彼女は知っていた。

「お父さん、お母さん……?」

姿はハッキリと見えないが、それが死んだ父と母であると理解した。

迎えに来てくれた、と手を伸ばす。

ここから自分を連れ出して、もうひとりにしないで―――。

「カノン、すまない」

「ごめんなさい、あなたを迎えに来たんじゃないの」

父と母の口から出た、信じられない言葉。

―――どう、して。

どうして、そんなことを言うの……?

自分を迎えに来てくれたのではないのか。

「どうして、どうしてそんなこと言うの!?私をひとりにしないでよ、傍にいてよ!!」

泣きじゃくる彼女の肩に、母と思われる人型がそっと手を掛ける。

「カノン、耳を澄まして――あなたを想う人の声が聞こえる筈よ」

「―――え?」

―――カノン。

母の言葉の通り、自分の耳に届く声があった。

父や母の声ではない、少年の声。

―――君だけでも、この悪夢から抜け出すんだ。

知っている、この少年の声を。

暗闇だった世界に亀裂が入り、光が差し込む。

光が瞳に触れた瞬間、こことは違う光景が見えた。

赤い髪の少年が傷だらけになりながらも、紫髪の少女を抱き抱えて守り続ける姿。

地面は少年のものと思われる流血で赤く濡れている。

彼に抱き抱えられている紫髪の少女―――自分、今の自分だ。

全く動かない虚ろな瞳をした無力な自分を、あの赤髪の少年は守ってくれている。

震える唇から、彼の名前が紡がれる。

「アヴェ、ル……」

「カノン、彼は戦えないあなたを必死に守っているわ。あなたは、ここでじっとしていていいの?」

涙が溢れ出した、恐怖による涙ではなく自分自身に対する自責の涙。

ああ、そうだ―――自分は閉じ籠ってしまったのだ。

見たくもない悪夢を見せられて、心を殻の中に閉じ込めてしまった。

そんな自分を、抜け殻になってしまった自分を彼は必死になって守ってくれている。

なのに、自分は何をしている?

何もかも嫌になって、こんな暗闇に閉じ籠っているだけだ。

いい訳がない、こんな場所でじっとしていていい訳がない。

忘れてしまっていた、幼い時のあの言葉を―――“友達の背中を守る”。

友達だから、大切な人だから失いたくない。

心を縛り付けていた鎖が解き放たれる、肉体が子供から今の姿に戻る。

「お父さん、お母さん―――ごめんなさい、私が間違ってました。アヴェルが、大切な人が必死に私を守ってくれているのにこんなところで閉じ籠ったりして」

ぼんやりとしか見えなかったふたつの人型がハッキリとした人の姿を象る。

記憶の中にある父と母のそれと、同じ姿になった。

ふたりはそっと、カノンを抱き締めた。

「カノン、寂しい思いをさせてすまない。だけど、ここに居てはいけない」

「まだ、私達の所に来るべき時じゃないわ。恋をして、子供を産んで育てて、孫に慕われるような素敵なおばあちゃんになってから会いに来て」

「―――はい、行ってきます」

暗闇の世界に光が溢れ、彼女は光に包まれていく。

彼女の耳に両親からの言葉が聞こえた。

―――私達の分まで、幸せに。

幻なんかじゃない、これはブレイカーが作り出した幻ではないと心から理解出来る。

父と母が本当に助けに来てくれた。

凍えそうだった心が温かさで満たされる。

アヴェル、待っていて下さい―――今、行きます。










地面は夥しい流血で赤く染まっていた。

ブレイカーの攻撃を躱し続けるアヴェルであったが、カノンを抱えての回避にも限界がある。

致命傷こそ避けているが、身体中の至るところに出来た裂傷からの流血。

スタミナも徐々に削られて、息切れを起こす。

―――情けない、自分はどうしてこうも弱いのか。

同い年のカノンは意刃を発現させ、既にアドバンスドに昇格したというのに。

自分は意刃を作ることも出来ない、こうやって逃げ回ることしか出来ない。

自分に出来るのは盾になることだけ、彼女を庇うことだけだ。

「ごめん、カノン―――こんな情けないぼくで。君の盾になるくらいしか出来なくて」

「―――情けなくなんてありません」

「え―――!?」

突然の返答に困惑するアヴェルの背後から、ブレイカーの凶刃が襲う。

しかし、その凶刃が振り下ろされることはなかった。

カノンの肉体から意力が発せられ、その衝撃によってブレイカーが吹き飛ばされたからだ。

虚ろだった彼女の瞳に光が戻っていた。

「カノン、良かった……っ!目を覚ましてくれたんだね!?」

「暗闇の中で、死んだ筈の父と母に会いました」

「え?」

「母に言われました―――あなたを想う人の声が聞こえる筈、と」

「……あ」

カノンは、自分を抱えるアヴェルの頬にそっと触れる。

指先にぬるりとした感触が伝わる。

赤い、真っ赤な液体―――言うまでもなくアヴェルの血だ。

頬にある切り傷から流れる血が指先に付着したのだ。

自分の為に、彼に血を流させてしまった―――心にズキリと痛みが走る。

これ以上はさせない、今度は自分が守る番。

彼女はアヴェルの腕から下りると、人型ブレイカーの前に立つ。

右手に意力が集束、仮面の刻印が刻まれた籠手の形状をした意刃を発現する。

「―――行きます」

彼女は一瞬で距離を詰め、ブレイカーの腹部に拳を叩き込んだ。

後方に吹き飛ばされるブレイカー、彼女は追撃の為に駆けだす。

ブレイカーが黒い剣の切っ先を彼女に向ける。

黒い剣の刀身が、凄まじい勢いで伸びる。

あれはブレイカーの意力で作られた物、形状の変化や伸縮も自在なのだろう。

ブレイカーの凶刃が彼女を突き刺したが、それを見ていたアヴェルは全く動じなかった。

先ほどまで虚ろな瞳だった彼女ならともかく、戦う意志を取り戻した彼女があの程度の攻撃に当たるワケがない。

凶刃に突き刺されたカノンの姿が霧散した―――意力による分身、単なる分身ではなく実体を伴った分身だ。

本物の彼女は空中を舞っていた、籠手型の意刃が光り輝く。

ブレイカーが空中に居るカノン目掛けて黒い剣を伸長させた。

空中ならば逃げ道は無い、とでも思ったのか。

けたたましい激突音が響く―――彼女が黒き刃に突き刺されることは無かった。

籠手型の意力が形状を変化させて盾を象っていた。

彼女の意刃に刻まれた仮面の刻印、その能力は意刃の形状変化―――即ち、様々な武具に変化させる。

障壁ならば切り裂けたであろう黒い剣も、意刃を切り裂くことは出来なかった。

彼女は盾に意力を込めて、前方へと押し出す。

黒い剣に罅割れが入り、間を置かずして粉々に砕け散る。

着地した彼女は武器を喪ったブレイカーの前に立つ。

手にしている意刃が盾から形状変化し、今度は大剣型の意刃に。

人型ブレイカー目掛けて、大剣を振り下ろそうとする。

「―――やめて、カノン!」

「!?」

人型ブレイカーに変化が、黒いのっぺらぼうな顔が女性の顔をしている。

その顔立ちは、何処となくカノンと似ていた―――まさか、亡くなったカノンの母親の顔なのか。

何故、このブレイカーがカノンの母親の顔を知っている?

考えられる答えはひとつ、自分達を飲み込んだ時にカノンの記憶を読み取り、彼女の記憶の中にある母親の顔を憶えたということだろう。

―――こいつ、何処までカノンの心の傷を抉れば気が済むッ……!

傷だらけでありながらも、ブレイカーの下種な行為に怒りが込み上げてくる。

「お母さんの言うことを聞いて、私は母親よ?そんな男よりも―――」

「そんな男……?今、アヴェルをそんな男と言ったのですか……?」

「ええ、そうよ。そんな赤の他人―――」

「―――消えなさい、永遠に」

カノンは情け容赦なく、大剣で母の顔を切り裂いた。

切り裂かれた母親の顔は一瞬で崩れ、元の黒いのっぺらぼうに戻る。

聞くに堪えない、癇に障るような断末魔が響いてブレイカーは四散した。

「本物のお母さんなら、私の大切な人にそんな酷い言葉を言ったりしません」

「カノン……」

一面真っ白な銀世界に佇むふたり。

異変は突如として発生した―――空間に罅割れが入る。

何だ、と身構えるふたりだったが、容赦なく異変は襲い掛かる。

一面の雪景色があっという間に砕け、真っ黒な空間へと落とされる。

「―――カノン!」

傷だらけの身体に鞭を打ち、彼女の手を取って抱き寄せる。

離さない、決して離しはしない。

彼女もアヴェルの背に手を回していた。

「(―――温かい、それにとても安心する)」

伝わってくる温もりに安堵感を感じる。

幼い頃から、ずっと一緒に過ごしてきた彼から伝わる温もり。

何時からだろうか、彼が自分よりも背が高くなったのは。

何時からだろうか、彼の腕や身体つきがこんなに逞しくなったのは。

心臓の鼓動が早くなる、張り裂けそうなほどに。

もっと、この温もりを感じていたい。

「(―――ああ、そうだったんですね)」

―――誰に対してもじゃないよ、アンリとカノンに対してだけ。

彼がそう言った時、自分にアンリと同じくらいの好意を持っていたと分かった時―――身体の芯から熱が沸き上がってきた。

あれは、気恥ずかしさからきたものじゃない。

純粋な喜び、心から嬉しかったから沸き上がってきたものだ。

津波のように押し寄せてくる感情を、必死に抑え込む。

胸に抱いたこの想いを今すぐにでも彼に伝えたい、だけどそれは出来ない。

もうひとりの幼馴染である銀髪の少女のことが脳裏を過ったからだ。

彼が幼い頃から彼女を好きだというのは知っている。

彼女は彼を大好きな友達と思っており、異性としては見ていない。

だけど、この先は分からない―――今の自分と同じ感情を持つかもしれない。

だからこそ、その時まではこの気持ちを閉じ込めておこう。

彼女も大切な人だから、自分と同じ気持ちを彼に抱いたその時は―――。










―――瞼が重い、何とか開くと天井が見えた。

よく知っている天井、ここは集い荘の自分の部屋。

どうして、ここに―――。

「カノちゃん、起きた!?」

「アン、リ……?」

自分の顔を覗き込むように見つめてくるのは銀髪の少女―――アンリだ。

あれからどうなった、どうして自分の部屋のベッドの上に居るのか。

あれから―――彼はどうなった。

「アヴェル、アヴェルはどうしたんですか!?」

「アルなら大丈夫だよ、自分の部屋で寝てる。ふたりはね―――」

彼女は自分達の身に起きた異変を語ってくれた。

自分とアヴェルは幻影型ブレイカーに取り込まれ、アンリ達は下手に手出し出来なかったこと。

取り込まれていたアヴェルの意力が徐々に弱まっていき、全員が一か八かブレイカーを攻撃して自分達を引き摺り出そうとしたこと。

しかし、シオンは―――。

「ギリギリまで待て―――ふたりを信じろ」

自分達を信じ、みんなを思い止まらせた。

暫く様子を窺うと、弱まっていくアヴェルの意力と対照的にカノンの意力が高まってブレイカーに亀裂が生じた。

ふたりを覆う黒い球体は砕け、無事に帰還出来た。

カノンは気絶していたが、アヴェルは何とか意識を保っていた。

流石に動くことは出来ずに、シオン達がふたりを集い荘まで運んだという。

集い荘に到着して間を置かずして、アヴェルは意識を失った。

「よかった……」

「カノちゃん、何か飲み物持ってくるね」

「え?ああ、はい―――お願いします」

飲み物を取りに、アンリはカノンの部屋から出た。

部屋から出て直ぐ―――彼女はその場でへたり込んでしまった。

胸に手を当てて、息切れを起こしている。

よかった―――上手く会話が出来て、という安堵感が彼女の胸中を占めていた。

ふたりが無事に幻影型ブレイカーから出てきた時、思わず涙が出そうになった。

しかし、それ以上の衝撃がアンリに襲い掛かった。

幻影型ブレイカーから帰還した時の光景―――アヴェルがカノンを離さないように抱きしめている光景だった。

それを見た時、胸に鋭い痛みが走ったのを感じた。

ふたりが無事だったというのに、どうしてこんな痛みを感じたのか理解出来なかった。

ちゃんと帰って来てくれたのに―――。

胸中にもやもやとした気持ちが広がる、彼女はその気持ちが“嫉妬”だということに気付いていない。

1階への階段近く、シオンは腕を組んでへたり込んでいるアンリを見つめていた。

「(―――彼女も無自覚な想いを持っているようだな。どうなるかは、当人達次第か)」

自分がとやかく口出すことではない―――階段を下り、1階の食堂へと向かう。

食堂ではザッシュとソラスがコーヒーブレイク中だった。

ふたりはコーヒーを啜りながら、今日の報告書を纏めていた。

どうやらかなり四苦八苦している模様―――無理もない、アヴェル達が幻影型ブレイカーに囚われたのだから、その件を詳細に書き綴らなければならないからだ。

「どーだい、上の様子は?」

「問題ない、カノンは目を覚ましたようだ。アヴェルはまだ寝ている」

「アヴェルとカノン嬢ちゃんが無事だったからよしとするか……報告書纏めんのは大変だが」

「確かにな、幻影型ブレイカーが出現するなどそうそうあるものではないからな。500年前―――俺の居た時代でさえ、滅多に出現する類のブレイカーではなかった」

何故、極めて稀なブレイカーが出現したのか―――。

この間のコアが分割した特異なブレイカーといい、悪いことの前触れではないかと感じてしまう。

いいことは長く続かず、悪いことばかりが続くというのはよくある話だが、こういう方面の悪いことは続いて欲しくないものだ。

この後、大人組は報告書を纏めて総本部に向かい、アンリはアヴェルとカノンの為に調理場で夜食を作っていた。

201号室―――アヴェルの部屋、アヴェルはまだ眠ったままだ。

幻影型ブレイカーとの戦いで大量の血を流したが、彼の身体には傷一つ見当たらない。

当然であろう、あの時負った傷はあくまで幻影型ブレイカーが作り出した幻の世界で受けた傷であって、現実世界で受けた傷ではない。

精神世界で受けた負傷は肉体面ではなく、精神面での疲労となる―――彼が眠っているのは精神的な疲労の為だ。

キィ、と扉が静かに開かれて、ベッドに眠る彼に近付く者がひとり。

セイバーとして研鑽を積んでいる彼ならば即座に目を覚ますが、生憎と今は疲労が勝っており、目を覚ます気配はない。

室内にやって来たのは同じく幻影型ブレイカーに囚われていたカノンだった。

彼女も疲労しているが、アヴェルほどではない。

眠る彼の頬にそっと手を当てる。

よかった、本当に無事で……自分の所為で彼に何かあったらと思うと背筋が凍りつきそうになる。

ふと、あることに気付いた―――今、近くには誰も居ない。

アンリは下に居るがまだ上がってくる気配は無く、シオン達は総本部に出掛けている。

彼女は頬を朱に染め、深呼吸した後―――眠る彼の頬にそっと口付けした。

助けてくれた御礼です、と心の中で呟いて彼女は部屋から出た。

この後、自室に戻った彼女が自分の行為に茹蛸状態になってオーバーヒートしたのだが、それは本人以外知る由も無い。



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