第11話『獅子と双銃』


 アークシティ中央病院。

黄髪の若者が病院から出て来る―――ラングレイ家の長男レオ・ラングレイである。

憑依型ブレイカーに憑りつかれ、生命の危機に瀕した彼であったが、シオン達の活躍によって意識を取り戻すことに成功した。

本人としてはもう少し早く退院したかったのだが―――。

「アリス、僕だってセイバーの端くれなんだよ?あんまり休んだら、他のみんなに迷惑が……」

「暫く休んでなきゃダメ!」

最愛の妹の涙ながらの説得に渋々従い、今日まで入院していたのだ。

アリスから病み上がりだから、キツイ依頼はしないようにと釘を刺されている。

さて、どうしたものか―――。

「レオじゃねぇか、今日退院だったのか?」

「ソラスさん」

急に声を掛けられ、振り返るとそこにはソラスの姿が。

「どうしたんです、こんなところで会うなんて」

「巡回だよ、ホントはザッシュのアホが担当だったんだが……リュー姐さんにちょっかい出してシバかれてよォ、奴は罰としてリュー姐さんに扱き使われてる。んで、代わりにオレが巡回してんだ」

「ザッシュさんらしいですね……」

同じ時刻、総本部の書庫でザッシュは書類や資料を整理していた。

サボらないように、リューが監視している。

「さっさと整理する、でなきゃ関節極めるわよ!」

「うん、バッチコイだよ!」

「何で鼻息荒くしながら喜んでるのよ!?」

「いや、リューちゃんと肌と肌との触れ合いが出来るし」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

書庫から騒音が響く―――ああ、またかと近くを通るセイバー達は呆れた表情に変わる。

あのふたりの騒動は日常茶飯事、総本部の名物と言ってもいい(大半はザッシュが原因だが)。

アヴェルとカノンがタオルで汗を拭いながら、書庫の方に目を配る。

ふたりは動きやすい服装で、上着はTシャツ一枚だ。

先ほどまで訓練室で試合をしていたからだ。

「相変わらずだなぁ……書庫であんなに暴れてリューさん怒られなきゃいいけど」

「アヴェル、大丈夫ですか?あれから3日しか経ってないのに……」

「大丈夫だよ、精神的な疲労だけだったから1日休んだら楽になったよ」

幻影型ブレイカーとの戦いから3日が過ぎ、アヴェルはあれからブレイカー討伐には赴いていない。

彼としては直ぐにでもブレイカー討伐に行こうかと考えていたが、シオンから数日ほど鍛錬で身体を慣らしておけと助言された為だ。

病み上がりで身体が思うように動けなくなって、ブレイカーに狙われる可能性を考慮しての言葉だったのだろう。

「明日くらいまでは訓練室で身体を慣らすよ、カノンは―――」

そこまで言い掛けて、アヴェルの言葉が詰まった。

カノンはどうしたのか、と思ったが彼の視線が自分のある部分に向けられていることに気付いた。

ふたりは訓練室で汗を流した、当然のように汗はタオルだけで吸収出来るような量ではない。

着ているTシャツにも大量に吸収され、シャツは身体にぴったりと貼り付いている。

身体のラインが分かるほど―――そこで彼女は漸く彼が自分の胸元に視線を向けていることに気付いた。

胸の大きさや形が一目で分かり、アヴェルはゴクッと喉を鳴らした。

カノンの頬に熱が集まり、真っ赤になるまで然程時間を要さなかった。

「アヴェル、あの……」

「い!?いや、その、ごめ―――」

「アルのエッチ」

「うぐっ!?」

背後から声を掛けられ、思わずビクッとしてしまう。

声の主はアンリだった、何かジト目でこちらを見ている。

「アル、ダメだよー。いくらカノちゃんのおっぱいが大きいからって露骨過ぎ」

「ちょ!?えーと……ごめん!」

「あ!?アヴェル―――!」

アヴェルは真っ赤になって走り去った。

普通なら女の子の方が恥ずかしがって走り去るものだが……。

「カノちゃん、相手がアルでも少しは警戒しなきゃ。アルだって男の子だからムラムラして迫ってきちゃうかもしれないよ?」

「アヴェルに限ってそれは無いんじゃないですか?……それに、他の人ならともかくアヴェルになら見られても―――」

「え―――?」

カノンは嫌がる素振りは見せず、真っ赤になりながらも嬉しそうな表情をしていた。

アヴェルが去った方向に向ける彼女の眼差し、熱が篭った熱い眼差し。

彼女のこういった姿は見た記憶が無い、普段なら恥ずかしがる筈だ。

「……ッ」

ズキリとした鋭い痛みがアンリの胸に走る―――あの時と同じ痛みを感じた。

幻影型ブレイカーの一件以来、カノンはずっとアヴェルに付きっきりだ。

自分の所為で迷惑を掛けたからと、責任を感じているからと言って彼の傍に居る。

どうして、こんな痛みを感じるのか……ふたりが一緒に居ることなんて、珍しくない筈なのに。

脳裏に過るのは、アヴェルがカノンを抱きしめている光景。

あれを見てからこの痛みを感じるようになった。

胸が苦しくなってくる、どうすればこの痛みは治まる。

辛い、彼女の傍に居られない―――。

「わたし……もう行くね」

「あ―――」

アンリは少し辛そうな表情で、カノンから離れていった。

カノンは親友の変化を見逃さなかった。

表情にこそ出さなかったが、アヴェルを注意するという彼女の態度に驚きを隠せなかった。

アンリがあのような態度を見せたことは一度も無い。

自分と違って、まだ気付いていないが彼女も―――。

「(指摘したいの山々なんですけど、やっぱり自分で気付いて貰わないと。アヴェルは、ずっと貴女を想ってるんですから)」

一方、走り去ったアヴェルは総本部の屋上に来ていた……いくら何でも走り過ぎと思うが。

普段はここで昼食を摂ったりしているセイバーも居るのだが、今は人っ子一人見当たらない。

病み上がりゆえか、少しばかり息切れを起こしていた。

アンリがあんなことを言うなんて、思いもしなかった。

今まで、彼女がああいった態度を見せたことがあるだろうか―――いや、まったく記憶に無い。

確かにカノンに不埒な視線を向けたことを指摘する彼女は間違っていないと思うが……。

何故かザッシュの声が耳元に聞こえてくる。

「そりゃ無理ってもんだよアヴェルくん。カノンちゃんのおっぱいから視線を逸らすことなんて出来ないよ」

「確かに視線を逸らすのは無理かも……って、何でここに居るんですか!?書庫でリューさんに扱き使われてたんじゃ―――」

周囲を見回すが、自称伊達男の姿は全く無い―――幻聴だったのか?

ちなみに同時刻、書庫では伊達男がリューに踏みつけられていた。

「あおっ!こ、これはこれで……♪」

「いいから真面目にやんなさい(怒)」

伊達男曰く、ご褒美なのでいい笑顔をして受け入れていた(笑)。

アヴェルは、溜息交じりに屋上のベンチに座り、煩悩よ去れと自分の心を律する

カノンに不埒な視線を向けるなんてどうかして―――そう考えていると、脳裏に彼女の姿が過る。

幼少の頃、自分とアンリの後ろをちょこちょこと付いて来る姿。

スクールに入ったばかりの頃、自分よりも身長が高くなったカノンが年上と勘違いされて泣いてる姿。

主席となり、生徒会長になって周囲の人気者となったことに困惑する姿。

意刃を発現させ、アドバンスド昇格の際に開いたパーティーで彼女以上にドンチャン騒ぎを楽しむ大人組(特に伊達男)を見て苦笑する姿。

幻影型ブレイカーとの戦いを終え、目を覚ました時に手を伝わった温もり―――カノンが自分の手を取って、涙を浮かべていた。

よかった―――本当に、と笑顔を向けてくれた。

トクン、と胸が高鳴り頬に熱が集まる。

「!!!???」

アヴェルの困惑が頂点に達する―――幼い頃、これと全く同じ現象に見舞われた経験があった。

幼い頃、アンリと初めて会った時に感じたものと同じ現象。

いや、まさか……そんな筈はないと自分の身に起きた現象を否定する。

今までカノンにアンリと同じ気持ちを、好意を抱いたことは無かった筈だ。

仮に好意を抱いているとしても、それは幼馴染として、友人としての好意の筈。

だが、この感情は……彼女を、幼馴染としてではなく、ひとりの女性として見ているのではないのか?

―――マズイ、こんな精神状態でカノンと顔を合わせるなんて出来ない。

この後、カノンはアヴェルを捜すもなかなか見つけられなかったという(彼女が近くに来ると意力を遮断してやり過ごした)。

総本部にブレイカー討伐の報告書を持ってきたシオンは弟の子孫の珍妙な光景を目撃し―――。

「(あいつ、隠形の才能があるんじゃなかろうか……)」

と、彼の意外な才能に関心を示した。

後に彼が気配を断っていた理由を知ると呆れてしまったが。

この後、アヴェルはカノンに無事発見された。

先刻の件もあって、視線を合わせられないふたりを周囲は生暖かい眼差しで見つめていたという(笑)。










場所は中央区へと戻る―――病み上がりゆえに難度の高い仕事を妹に禁じられているレオは、とりあえずソラスの巡回に付き合うことに。

街の巡回をするくらいなら、アリス文句は言わないだろう。

自分とソラスはアドバンスドであるし、不審者を見つけて拘束するのは容易だ。

中央区から北区、東区、南区の順に巡回していき、時間は瞬く間に過ぎていく。

何事もなく、巡回場所が西区に到達した時に事件は発生する。

この区画は商業が中心である為、碌でもない連中がよからぬことを企む。

セイバーの総本部の目と鼻の先だというのに、何時の時代にも命知らずの愚か者は存在するのだ。

西区の一角、倉庫街―――商業で賑わう西区に運ばれる数々の商品を保管する倉庫が建ち並ぶ。

その中のひとつで、黒服姿の怪しげな一団が取引を行っていた。

人数は12〜13人といったところか。

黒服の男がアタッシュケースを開ける―――中には紫色の液体が入ったアンプルが。

如何にも怪しい代物、違法薬物の類に違いない。

倉庫街の巡回に来たレオとソラスは、周囲の様子を窺いながら目立たないように倉庫に向かう不審な男を発見。

拘束を考えるも、仲間が居る可能性から尾行へと変更、怪しげな取引現場へと到着した。

連中から見えないように物陰に隠れ、小声で会話する。

「(何でしょうかね、あの怪しい薬品は?)」

「(栄養剤の類じゃねぇのは明らかだろ、連中の動きを止める)」

ソラスの両手に意力が集束、拳銃を象った―――彼の扱う意刃は二挺拳銃だ。

通常の銃とは違い、自身の意力を弾丸に変えて発砲する為に様々な銃撃が可能。

銃口を上へと向けて発砲―――ふたつの銃口から放たれた意力の弾丸が交わり、不審者集団の頭上へ。

融合弾の飛来に驚く一団。

弾丸が破裂し、流星のように降り注いでくる。

微細な、針のように細い形状へと変化した弾丸を虚を突かれた一団が回避出来る筈もなかった。

弾丸の流星雨は彼等の肉体を貫いていく、耳障りな悲鳴が上がる。

流星雨が止んだ後、不審な一団は地に沈んでいた。

負傷箇所からの流血で地面は赤く染まり、呻き声が聞こえる。

「死人は居ませんよね?ひとりでも多くから情報を引き出して背後関係を明らかにしないと」

「当たり前だ、急所は外すように撃ったからな。まぁ、身動きは取れねぇだろうがな」

無差別な攻撃に見えたが、意刃から放たれた弾丸―――鍛錬によって制御は可能だ。

不審者達は流血こそ激しいが、致命傷は受けていない。

地に沈む一団が何者かは現時点では不明、情報を引き出す必要がある。

あの紫色の奇妙な液体の正体も掴んでいない、あれは一体何なのか?

背後に何らかの組織が存在する可能性は高いだろう、連中から何かしらの情報を―――。

「「!」」

ふたりは殺気を感じ取り、その場から跳躍する。

轟音が倉庫内に響く、ふたりが跳躍する前に居た場所が大きく抉れている。

後少しでもその場に留まっていれば、負傷は免れなかっただろう。

地面が抉れた場所から感じ取ったもの―――意力だ、あの地面の抉れた跡は意力によるものだ。

レオの右手に意力が集束、獅子の刻印が刻まれた双刃剣が発現する。

「どうやら、意力を碌でもないことに使う相手が来たみたいですね」

「上等だ―――出て来やがれコノヤロー、蜂の巣にしてやらぁ」

未だに埃が舞う倉庫内に、仮面を付けた怪人物が幽鬼のように出現した。

両腕には禍々しい装飾の籠手が装着されている―――金属製の籠手ではない、意力で構成されている。

つまり、奴が装着しているのは紛れもなく意刃ということだ。

ふたりの顔に緊張が走る、無理も無いだろう。

意刃はアドバンスドクラスのセイバーが扱える武器、少なく見積もっても自分達と同等レベルの相手ということだ。

何者だ、犯罪組織の中には意力を悪用する連中も居るが意刃を扱えるとなると小規模な組織などではない。

ソラスは銃口を、レオは切っ先を仮面怪人に向ける。

「テメェ、何モンだ?意刃を碌でもねぇことに使いやがって、気に食わねぇ」

「仮面を外して貰いましょうか」

仮面怪人はアドバンスドふたりを前に、全く動じた気配が無い。

―――何だ、こいつは?

まるで人形でも相手にしているような、奇妙な気分に支配される。

兎に角、相手を捕獲するのが最優先、ふたりは同時に地を蹴った。

ソラスの双銃が火を噴く、発射された弾丸の数は二十を超える。

仮面怪人は両腕を前方に向ける―――籠手が変形し、砲口らしきものが現れる。

砲口からは意力の砲弾が放たれ、ソラスの銃弾と相殺していく。

「あの籠手、砲撃が出来るのか。流石にソラスさんの意刃みたいに速射や連射は無理みたいですけど」

「さっき地面を抉ったのもあの砲撃ってワケか。厄介な意刃を持ちやがって」

近接戦闘に加え、中距離からの砲撃も可能となかなか使い勝手の良い敵の意刃に舌打ちする。

ソラスは意刃に意力を込めようとして、思い止まる。

「賢明な判断ですね、こんなところで“アレ”を使ったら大惨事になりますからね」

「人気の無い場所なら思いっ切りぶっ放せるんだがな……生憎と街の一角だ、使うワケにはいかねぇ」

「そもそも、使ったら意力が空になるじゃないですか?敵に援軍が居たら、あっさりやられますよ」

「……それもそうだな。よっしゃ、オレが連射で野郎の注意を引き付けるから、オメーが隙を見て―――ん!?」

仮面怪人が倒れている一団の近くまで跳躍した。

地面に落ちている物―――あの紫色の液体が入ったアンプルを拾い上げる。

怪人はこちらに隙を見せないように威圧してくる。

なかなかの威圧だ、やはり只者ではないと理解するセイバー両名。

一体、奴はアレをどうするつもりなのか。

地面の様子から察するに、無事なアンプルは奴が拾い上げた物だけのようだ。

他のアンプルは破損し、液体が流れ出てしまっている。

怪人がアンプルを弄ると注射針らしき物が、そのまま使用出来るタイプのアンプルらしい。

針を自分の腕に穿つ怪人、紫の液体が注入されていく。

アンプルが空になった途端、怪人に異変が起きたことを瞬時に悟る。

怪人の肉体から発する意力が爆発的に上昇、爆風のような意力が倉庫内に広がり、倉庫の中にある物を吹き飛ばしていく。

先ほどまでの奴の意力は自分達とそう変わらなかった。

今は少なく見積もっても、マスタークラスに匹敵するか、下手をすれば倍近い量の意力を発している。

「冗談だろオイ―――あのアンプルに入ってた液体、意力を増加させるドーピング剤なのか!?」

「―――来ます!」

怪人が消えた―――否、ソラスの眼前に現れた。

瞬間移動したかの如く、これまでとは比較にならない速度で一気に距離を詰めたのだ。

籠手型の意刃が繰り出される、障壁を展開する暇は無い。

自らの意刃を盾替わりにし、敵の攻撃を防いだ。

「っ!」

凄まじい衝撃が襲い掛かり、ソラスの身体が後方へと飛ばされる。

彼の後方には何らかの品が納められているであろう荷箱が置かれており、吹き飛ばされた彼はそこに激突した。

粉塵が舞い、視界が狭まる―――レオは意刃を構えて備える。

吹き飛ばされたソラスの安否が気になるが、この機を敵が逃すとは思えない。

感知と索敵に全神経と意力を集中し、敵の出方を待つ。

「(―――上!)」

頭上に意刃を構える―――けたたましい激突音が響く。

仮面怪人が頭上高く出現、籠手を繰り出している。

双刃剣で防ぐも、足元が地面にめり込んだ。

重い、凄まじい重量と圧迫感に押し潰されそうだ。

発砲音が聞こえた―――意力の弾丸が数発飛来し、仮面怪人に襲い掛かる。

仮面怪人に全て命中、怪人の動きが一時的に鈍る。

「っぉぉおおおおおおおおおおおお!!」

レオは気合を込めた雄叫びを上げ、怪人を弾き飛ばした。

空中を舞う怪人―――だが、即座に体勢を整え、地上に着地する。

息を切らすレオの隣にソラスが立つ、先ほどの荷箱との激突した時に負傷したらしく、額から血が滴っている。

「無事か?病み上がりだから無理すんじゃねぇぞ」

「そっちこそ大丈夫なんですか?血が出てますけど」

「どうってことはねぇよ、それよりもどうする?今の奴はオレ達よりも意力の絶対量が上だ」

「このままだとジリ貧になりますね―――“獅子の咆哮”を使います」

「大丈夫か?負担が大きいんじゃねぇのかアレ」

「後でアリスに怒られるでしょうね……でも、目の前の敵に勝つには使うしかありませんよ」

レオは瞳を閉じ、深呼吸した。

双刃剣に刻まれた獅子の刻印が輝き出す、それと同時に倉庫内に獅子の咆哮が響き渡った。

レオと隣に立つソラスの肉体から凄まじい量の意力が湧き上がる。

刻印の意刃には、通常の意刃には無い特殊な力があるとされる。

ラングレイ家の獅子の刻印―――その能力は一時的ながらも、セイバーの身体能力と意力を飛躍的に高める“獅子の咆哮”。

使用者本人のみならず、周囲の仲間のセイバーにまで効果が及ぶ為、人数が多いほど戦力が増す。

ソラスの意刃が火を噴いた、意力の弾丸が仮面怪人を襲う―――その数は百を優に超えている。

怪人も籠手の意刃を巧みに操り、飛来する弾丸を撃ち落としていく。

―――砲撃は使わないか、敵ながら賢明な判断だとソラスは怪人の行動に感心する。

砲撃を撃とうならばならば、砲口に弾丸を撃ち込むつもりだったからだ。

敵はこちらの狙いを察知して、砲撃を行わないのだ。

銃弾の雨嵐、その全てを防ぐのは難しい。

仮面怪人の肉体を幾つかの弾丸が貫き、噴き出した血が地面を赤く濡らす。

間髪入れず、死角からレオが斬り掛かる。

反応が少々遅れ、仮面怪人の左腕が浅く斬り裂かれる。

跳躍し、ふたりから距離を取る怪人。

“獅子の咆哮”で強化されたふたりの戦闘力は怪人に全く引けを取らない。

「大人しく拘束されな―――アンタがいくら薬で意力を高めようが、今のオレ達を止めることは出来ねぇ」

「投降して頂きましょうか」

銃口と切っ先を、怪人に向けるセイバー両名。

怪人はそれでも尚、抵抗しようと意刃を構える。

投降の意志が見られない為、ふたりは戦闘を続行―――出来なかった。

上空から“何か”が降ってきた、反応出来たのは“獅子の咆哮”で能力が高まっていた影響が大きいだろう。

ふたりは瞬時に後方に跳躍し、降ってきた何かを躱すことに成功する。

今日一番の轟音が倉庫内に響く、流石にこれだけのものになると倉庫の外にも異変が知れ渡る。

セイバー総本部内も慌ただしくなる。

先刻の件の気恥ずかしさから視線を合わせられなかったアヴェル、カノンも流石にこの異変には表情を変えた。

「今の揺れは……!?」

「地震……いえ、これは―――」

「何かよからぬことが起きているらしいな」

「シオンさん」

ふたりの元にシオンがやって来る。

隣にはザッシュとアンリの姿もあった。

アンリは複雑な表情をしていたが、今は緊急事態―――セイバーとしての責務を全うしようと引き締まった表情に瞬時に変わる。

ソラスを除く集い荘の面々の元に、リューが駆け寄ってきた。

「さっきの揺れの正体は分からないけど、発生したのは倉庫街よ」

「おいおい、目と鼻の先じゃないの。他に分かったことは?」

「どうやら、ソラスくんとレオくんが居るみたいなの。ふたりの意力を感知したわ」

「ソラスさんは兎も角、何でレオさんまで?入院してた筈じゃ?」

「今日が退院だったのよ。巡回中のソラスくんと合流したところを見たって話を聞いたけど……」

「倉庫街を巡回中に何かあったというワケか、俺達も直ぐに向かうぞ」

シオンの言葉に一同が頷いた。

アヴェルはまだ身体を慣らすまではと考えていたが―――。

「どうせ止めたところでお前は来るだろう、一緒に行くぞ」

と、シオンが早々に同行を認めたので、共に現場に行くことに。

彼等は総本部から出ると、倉庫街に急行する―――場所は同じ西区なので全速力で行けば数分と掛からず到着出来る距離だ。

倉庫街に到着したシオン達はソラスとレオの意力が発せられる倉庫を発見、現場に足を踏み入れる。

「こ、これは―――」

アヴェルは思わず声を上げた。

倉庫の天井に大きな穴が開いている、ソラスとレオは膝をついていた。

大量の汗を流し、息を切らしている。

どうやら、ふたりは無事のようだが……一体ここで何が起きたのか?

「ソラスさん、レオさん、大丈夫―――」

「……化け物だ、ありゃ」

「……ええ、途轍もない」

「え?」

「さっきまで、ここに居たんだよ―――とんでもねぇ奴がな」

―――遡ること数分前。

降ってきた“何か”によって倉庫の天井に開いた大穴。

大穴の真下にある落下地点、倉庫内を舞う粉塵で視界が悪いが大きな影のようなもの見える。

ソラス、レオの両名に戦慄が走った。

大きな何か―――それは全身甲冑を纏った巨人、フルフェイスのマスクを装備している為に顔は見えない。

ふたりは金縛りにあったように動けなくなった。

甲冑を纏う巨人の発する強大な意力に委縮したからである。

「(何だ、こいつのとんでもねぇ意力は……!?並のマスターの数倍はある、逆立ちしたってどうこうなる相手じゃねぇ……ッ!)」

仮面怪人も相当の使い手だが、新手の巨人は更に上回っていた。

流れ落ちる汗を拭うことすら出来ない。

レオの方は―――。

「(……この意力、何処かで―――?)」

緊張してはいるが、目の前に現れた巨人の発する意力に既視感を感じていた。

以前にもこれと同じ意力を、誰かから感じ取ったような奇妙な既視感を。

自分は知っている、この巨人の意力を以前にも触れた経験がある。

「……そこの若者達よ」

「「!」」

「私はこやつを連れ戻しに来た、邪魔するならば容赦はせん」

甲冑を纏う巨人から警告され、否応なく緊張感が増す。

フルフェイス内にボイスチェンジャーでも仕込んでいるのか、機械的な声をしている

声を知られては不味い事情でもあるのか―――ふたりは、何か相手の正体を掴もうと目を配る。

が、それを見逃すような巨人ではない、その巨体から凄まじい威圧感と意力を発してふたりを威嚇した。

襲い掛かる威圧感と意力に、その場に膝をついて動けなくなるふたり。

格が違い過ぎる、身動きひとつ取れない。

甲冑の巨人は仮面怪人を抱き抱えると、ソラスの先制攻撃で倒された黒服の男達の所に向かう。

黒服達の幾人かは負傷しながらも動けるようになったらしく、動けない仲間を肩車させるなどして巨人の下に集う。

巨人は右腕を高く掲げる、よく見ると右腕の籠手には何らかの装置らしき物が。

装置から眩いばかりの光が溢れ出す、動けないふたりは目を閉じることしか出来なかった。

瞳を開くと、そこには巨人と黒服達の姿は既に無かった。

巨人が消えたことで動けるようになり、索敵と感知を行うも彼等の意力は感知出来なかった。

現場に駆けつけたシオン達に事の詳細を報告するふたり。

「とんでもない相手が現れたもんだね……それにしても、その連中は何処に行ったんだろう?」

「連中が姿を消した理由は大よそ見当が付く―――空間転移を使用したんだ」

「ちょ、冗談でしょ……空間転移なんて、マスターでも使える人が何人居るか―――!?」

シオンが導き出した巨人達の消えた理由―――“空間転移”。

離れた空間座標に瞬時に移動するという最上級技術であり、精神干渉と同等かあるいはそれ以上に難易度の高い技術とされる。

マスタークラスのセイバーですら、体得者は数えるほどしか存在しない。

体得すれば、一度行った場所はどれだけ離れていようが瞬時に移動出来るという正に神業ともいえる技術なのだ。

「だが、それ以外に説明が付かない。ソラスとレオの話から察するに、甲冑の巨人が腕に装着していたという装置は空間転移の使用範囲を広げる効果があると推測される。如何にマスターであろうとも、一度に転移出来る人数には限界が存在するからな。俺も使うことは出来るが、一度に転移出来る人数は自分を含めて7人くらいが限界だ」

「なるほど―――って、今しれっととんでもないこと言いませんでした!?アンタ、空間転移まで出来るんですか!?」

「500年前のマスターは全員体得していたぞ?」

「想像するだけで恐ろしいねぇ、500年前はテレポートでお出掛けが日常茶飯事だったのかぁ」

ザッシュが想像する500年前―――マスターセイバー達が何もない場所に突如として出現し、何事も無いかのように仲間達と談笑している姿。

……いくら何でもそんな珍妙な光景は無いぞと、当時のセイバーのひとりであるシオンは呆れた眼差しで伊達男を見つめていた。

「ま、物は試しだ。アヴェル、俺の肩を掴んでみろ」

「え?は、はい」

アヴェルがシオンの肩を掴んだ次の瞬間、ふたりの姿が消えた。

全員が目を丸くして、周囲を見回したり感知を行うもふたりの気配も意力も全く感じない。

ふたりが姿を消して約10秒が経過、背後にふたりの意力を感じた。

振り返ると、シオンとアヴェルが立っていた。

よく見ると、アヴェルはティーカップらしきものを持っている。

アンリとカノンは、あっと声を上げて驚いた。

彼が手に持っているティーカップ、彼が紅茶を飲む時によく使う愛用の物だ。

何時もは集い荘の1階に置いてある筈、つまり彼等はこの10秒で集い荘に行ってアレを持ってきたということになる。

この倉庫街と集い荘はそれなりに距離がある、いくら何でも10秒でティーカップを持ってここに戻って来ることは不可能。

一瞬で集い荘に移動して、一瞬で戻って来ない限りは。

「と、まぁ―――その連中は今の俺達みたいに姿を消したんだろう。発光現象はおそらく巨人の装着していた装置によるものだろう」

「……いきなり、集い荘の食堂に移動した時は心臓が停まりそうでしたよ。でも、確かにこれくらいしか大勢を一瞬で移動させる手段はなさそうですね。ということは、甲冑の巨人達は既にアークシティには居ないってことですか」

「場所さえ記憶していれば、どれだけ距離が離れていようとも瞬時に移動出来る。距離が遠ければ遠いほど消耗する意力も多くなるがな」

連中は一体何者なのか、単なる犯罪者とは思えない。

空間転移はマスターでさえ体得している者が少ない、それほどの技量の持ち主が居るとは容易ならざる事態。

思案する一同の中、レオだけは別のことを考えていた。

あの甲冑の巨人についてだ、彼の発する意力に憶えがあった。

「(あの巨人は何者なんだ……、僕は彼を知っているのか―――?)」










―――某所、甲冑の巨人は仮面怪人をベッドの上に寝かせた。

巨人の傍らには医者らしき男の姿があった。

「―――こやつの容体は?」

「使用された“ブーステッド”はこれまでで一番の出来です、疲労はあるでしょうが肉体に悪影響は見られません」

「そうか……“奴”の所在は掴めたか?」

「報告では未だに―――既に他の者に討伐された可能性があるのでは?」

「それは無い、奴はマスターですら討伐可能かどうか疑わしいほどの脅威だ。かつて挑んだ私もこのザマだからな」

甲冑の巨人は顔を覆うフルフェイスマスクを脱ぐ、その素顔は40代半ばくらいの壮年の男性。

顔に痛ましい傷跡が見られる、昨日今日出来た傷には見えない。

強面の表情、その瞳には炎が宿っていた―――討ち果たすべき敵に対しての怒りという名の炎が。

「それにしても……まさか、あんな場所で彼と会うとは思わなかった」

「如何なされたのです?」

「何、ちょっとした顔見知りと出くわしたのだ。尤、彼の方は私の正体には気付かなかったようだが」

「当然でございましょう。この方の仮面と貴方のマスクには意力の質を変調させる効果がございます、自ら脱着されるか破壊されない限りは変調効果は永続します」

「これを被っていて正解だった―――そやつを頼む」

「御意」

壮年の男はフルフェイスを再び被り、仮面怪人を一瞥すると踵を返した。

歩く度に重厚な音が鳴り響く、その足音は何処か危うさを感じさせた。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.