第16話『妖刀』


―――残留思念、別名を“残留意力”ともいう。

この世に強い未練を残した人間の意力が、現世に留まり続ける特異な現象であると、文献には記されている。

世間一般で語られる幽霊などの怪奇現象の主な原因はこれに当たる。

長く留まる一因として、憑依型ブレイカーの様に憑りつくという現象があるのだが、残留思念に関しては対象は生物に限らない。

生前に自分が執着していた場所や身に着けていた装飾品等にも憑りつき、様々な怪奇現象を周囲に与える。

今回の物語は、残留思念が宿る一振りの刀に焦点を当てた物語。

西区、レアリスト工房。

多くのセイバーのみならず、ガーディアンからも武具の発注が多い名工である。

鍛冶場で刀を打つ老人―――ラグ・レアリスト、数多くの名剣を作り上げた当代一の名工と名高い。

シオンがブレイカー退治に使用している剣も、彼が作り上げた物である。

やがて、仕上がった刀を金髪の青年に渡す―――伊達男こと、ザッシュ・シャルフィドである。

「相変わらずいい仕事してるね、ラグさん。鍛え直して貰う度に惚れ惚れするよ」

「これくらい朝飯前じゃ。それに、そいつはお前さんのジジイの形見じゃろが―――大事にするんじゃぞ」

「うん、勿論さ」

自身の意刃よりも、彼は手にしている刀に深い愛着を持っていた。

剣術の師である、母方の祖父の形見なのだ。

たとえ、名刀であろうと鈍刀であろうと、手放すことは出来ない。

鍛え直された愛刀を鞘に納め、財布から代金を出そうとした―――のと同時だった。

「じっちゃん!」

「ラグさん!」

オレンジ頭の少年と黒いポニーテールの少女がやって来たのは。

ふたりはザッシュの姿を見つけるなり、あっと声を出す。

「ザッシュさん、丁度良かったっス!」

「お願い、手伝って!」

「おお、ジェイくんとリナちゃんじゃん。久し振りだねぇ、13話振りくらい?」

「余計なお世話っスよ!オレとリナちゃんの出番が少ないのは作者の陰謀っス!!」

「くっ……タイトル改名前の旧作じゃかなり出番があったのに、あのクソ作者の所為でモブキャラにされてしまったのよ、あたし達」

くう、と悔し涙を流すふたり―――ラグの孫であるジェイ・レアリストと、西区に武術道場を構えるクドウ家の次女リナ・クドウ。

アヴェル達の友人で、第3話以降全く出番が無かった両名である。

※この物語は、以前に投稿していた作品『RED』をリメイクした作品です。
旧作では出番が多かったジェイとリナですが、リメイクに伴う物語の路線変更でスポットライトが当たらなくなったのです(笑)。
作者の陰謀?はて、聞こえませんねぇ(すっとぼけ)。

「で、何があったワケ?手伝えって、ブレイカーでも出たの?」

「刀を持ったお化けが出たっス!」

「……リナちゃん、ジェイくんとうとう頭がイカレちゃったの?」

「アンタも何気に酷いこと言うわね……」

「刀を持ったお化けじゃと?まさか……」

「ラグさん、何か心当たりあんの?」

「百聞は一見にしかずじゃ、儂らを現場に案内せい」










アークシティ中央美術館。

大陸各地の美術品、名品が展示されている施設である。

絵画や壺といった物から、名うてのセイバーが使っていた武器も展示している。

ザッシュとラグが案内されたのは武器の展示コーナー。

ふと、ふたりの視線が美術館の床に向けられる。

粘度のある赤い液体が零れている。

否、単なる赤い液体ではない、明らかに人間の血だ。

何やらキナ臭いものを感じずにはいられない。

一体、ここで何があったのだ?

ふと、耳に何か聞こえてくる―――金属音だ。

けたたましい金属音が聞こえてくる。

「着いたっスよ」

「あれは……」

他の展示物が無い開けた場所、そこに広がっていた光景に目を剥く。

広い空間の端の壁には、数人のセイバーがもたれ掛かっている。

何れも傷だらけ、包帯を巻いている。

床に零れていたのは彼等の血液だった様だ、そして彼等に傷を負わせた元凶は―――。

「何だい、ありゃ……?」

ザッシュの視線の先にあるもの、それは障壁だった。

ただの障壁ではない、それはブレイカーや犯罪者を閉じ込める為の捕縛障壁。

範囲障壁を基に考案されたもので、手の平に乗るビー玉くらいの大きさの障壁玉と呼ばれる、街を守護する結界を発生させる障壁柱の小型版によって発生する仕組みとなっている。

問題なのはそれによって捕縛されているものだった。

白い意力と黒い意力が半々の人型を象った奇妙な存在が、刀で捕縛障壁を内部から斬り裂こうと刀を叩きつけているのだ。

ラグは一目で“それ”の正体を察した。

「やはりか―――あれは、残留思念じゃな」

「残留思念?強い意力を持った人間がこの世に未練とか残している時に起きる現象だっけ?」

「うむ、あの刀に憑りついて現世に留まっておるんじゃ」

「うーん、憑依型ブレイカーの親戚みたいな感じかな?」

「憑依型ブレイカーが生物のみに憑りつくのに対し、残留思念は生物のみならず物や場所にも憑りつく、あるいは留まる」

「ジェイくん、あれが君の言ってたお化けらしいけど、こりゃどういう状況なんだい?」

「あーそいつが言っても無茶苦茶なことしか言わないだろうし、あたしから説明するわ」

「ヒドイっスよ、リナちゃん!」

説明役を買って出たリナによると、こんな事態になった理由はこうである。

近々、美術館に展示する武器の中に曰く付きの品がある為、品物の警備を館長が依頼してきた。

警護に派遣されたセイバーは、ミディアムが4人、ノービスであるジェイとリナの計6人。

ブレイカー討伐でもないのに、人数が多いのではとの意見もあったが、館長たっての希望とあり、6人が品物の警護に。

品物が美術館に運ばれるまでは問題なかった、問題は美術館の展示コーナーに運んでいる最中であった。

展示コーナーに入った直後、品物が納められている箱から音が聞こえた。

何事か、とミディアムのひとりが箱を感知すると、箱の内部から意力を感知した。

白い意力と黒い意力、ふたつの意力が箱の内部に存在している。

緊張した面持ちで、セイバー達は館内の職員を退避させた後に箱を開封する。

「で、アレが出て来たってワケ?」

「ういっス。ミディアムの先輩達が止めようとしたんスけど、返り討ちに遭って」

「んで、何とかここまで誘い込んで捕縛障壁に閉じ込めたの。冷や汗モンだったわよ、ありゃ……」

何時、凶刃が襲い掛かるか、セイバーとして未熟なジェイとリナにとっては深刻な恐怖だったに違いない。

ビシリ、と何かが罅割れる音が聞こえ、ザッシュとラグは捕縛障壁に目を向ける。

残留思念が振るう刀によって、障壁に罅が入ったのだ。

「あまり、長く捕縛出来ないみたいだね」

「じいちゃん、あの刀に見覚えとかないっスか?曰く付きの物なら、じいちゃん詳しそうだし」

「ふむ……む、あれはもしや―――?」

ラグは残留思念の握る刀、その刀身に刻まれた刻印を見て、目付きを変える。

刀身の先端近くに狼の様な刻印が刻まれていた。

実体刀である為、刻印の意刃の類ではない。

恐らくは制作した刀匠が刻んだものだろう。

「狼牙……間違いない、妖刀狼牙じゃ」

「妖刀って、言ってる傍から曰く付きの品がきたね……有名なの?」

「お前さんも刀を使う剣士なら少しは勉強せんか」

呆れた表情のラグが、妖刀狼牙について語り出す。

刀の発祥地たる極東諸島―――今から700年ほど前にひとりの老いた刀匠が最後の一振りを打った。

その刀匠が打つ刀は、数多の剣豪達が喉から手が出るほど欲する名刀として名を馳せた。

最後の一振りともなれば、これまで鍛冶に捧げた人生の集大成。

正に、命懸けの大仕事と言ってもいい。

「しかし、悲劇が起きたのじゃ。その刀匠が刀の仕上げとして銘を刻もうとした時、背後から刺殺されたのじゃ」

「刺殺!?」

「うむ、犯人は刀匠の弟子じゃった。刀匠には何人かの弟子が居り、その弟子は自分の刀に狼の刻印を刻むという特徴を持っておった。才能ある弟子じゃったが、師匠には何時も及ばず、よく周囲から陰口を叩かれていたらしい」

「積もりに積もった劣等感から師匠の最後の一振りを横取りしたってワケ?男の風上にも置けないよ、ましてや師匠を殺すなんて」

「全くじゃ、同じ鍛冶の道を往く者として許し難い所業じゃ。で、話を戻すが……その弟子は横取りした師匠の最後の一振りに自分の銘と狼の刻印を刻んで、自分の作として世に送り出したんじゃ」

狼牙と名付けられた刀は、その素晴らしい切れ味から名だたる剣豪達が求めた。

だが、世に送り出されてから数年経った頃、狼牙を手にした剣豪達に恐ろしい災いが次々と襲い掛かった。

凶悪なブレイカーに遭遇して戦死、予期せぬ災害に巻き込まれる、極め付けは刀を持った剣豪がまるで人が変わったかの様に辻斬りという凶行に及ぶ。

あまりの事態に、意力の扱いに長けた鑑定士が鑑定した結果、狼牙には尋常ならざる禍々しい意力が宿っていることが判明。

その意力が原因で、持ち主達に数々の悲劇が起こったのは明白。

狼牙の製作者とされていた刀匠の弟子は捕縛され、厳しい拷問の末に真実を白日の下に晒した。

師匠殺し、盗作の罪により弟子は斬首刑となり、回収された狼牙は人の手が触れられない場所へと厳重に保管されたと伝わっている。

「しかし、それから200年が過ぎ、およそ500年ほど前に、極東諸島で“オロチ騒乱”発生したのじゃ」

“オロチ騒乱”―――500年前、極東諸島を襲った災厄。

極東諸島の象徴のひとつされる“フジ”の山の火口から出現した、大蛇の姿を模したブレイカー。

オロチと名付けられたそのブレイカーは、様々な災害や疫病を発生させ、当時の極東の実に3割の人間を死に至らしめるという悪夢を齎した。

極東の二大武家と名高い“カミザキ家”と“クドウ家”の活躍により、多くの犠牲を出しながらもオロチは討伐された。

「クドウ家ってことは……リナちゃんの御先祖様が活躍したんスね」

「正確に言うと、ウチは分家筋なんだけどね」

リナの家系はオロチを討伐したクドウ家に連なる。

直系ではなく分家であり、武者修行で大陸に渡った家系だという。

「ラグさん、もしかして」

「うむ、その騒乱の最中に狼牙を始めとした武具が保管された場所が破壊されたらしい。どさくさに紛れ、盗人の手によってそれら希少な武具が奪われてしまい、極東諸島内はおろか、大陸にまで流出したのじゃ」

それが事実なら、狼牙は大陸に流出した品なのだろう。

「あの残留思念……白い意力と黒い意力が半々に混じってるけど、殺された刀匠のものかな?」

「残留思念は、二種類あると聞く。一個人だけのもの、複数の人間の思念が混ざり合ったもののふたつじゃ」

ザッシュは、ラグの助言を受けて、捕縛障壁内の残留思念を感知する。

白い意力と黒い意力の半々の半端な存在からは、幾つもの意力を感じ取れた。

ふと、耳を澄ますと声が聞こえてくる。

―――苦しい、恨めしい。

―――何故、私は殺されなくてはならなかったの?

―――やめろ、止めてくれ!

―――痛い、痛いよぉ。

残留思念から、様々な声が聞こえてくる。

きっと、妖刀の犠牲となった人々の声なのだろう。

―――無念じゃ、この様な最期を迎えるとは……。

―――俺だ、これは俺の作った刀だ!ハハハハハハハ!!

これは、狼牙に関わった刀匠とその弟子の声か。

何れにしろ、放置は出来ない。

「ラグさん、どうすればいいんだい?」

「残留思念を斬れ、その後にあの刀を手厚く供養する。それしかない」

「やれやれ、僕がやるっきゃないってこかい」

この場で一番腕が立つセイバー、誰がどう見てもザッシュ以外に居ない。

数分後、ジェイ達を退避させた後―――捕縛障壁の罅割れが全体に広がり、音を立てて砕ける。

ザッシュは愛刀を抜き、残留思念を正面から見据える。

―――そこな剣士、手練れの使い手と見た。某と立ち会え。

残留思念から聞こえてくる声。

立ち会えという言葉から、狼牙を手にした剣豪のひとりに違いない。

言われなくとも、そうするつもりだよ―――ザッシュは床を蹴り、距離を詰める。

一閃、互いの刀が激突し、火花を散らす。

打ち合いが7回ほど続いた後、互いに距離を取る。

呼吸を整え、残留思念の実力を分析する。

剣を交えたのは複数ある思念のひとつ、おそらくは腕の立つ剣豪だ。

先程聞こえた声といい、太刀筋の鋭さから間違いない。

思念体の警戒を怠らず、左手に視線を落とす。

浅いが切り傷が刻まれている、さっきの打ち合いで付いた傷だ。

相手は無傷、というよりもこちらが斬った感触を憶えていないので当然か。

技量は向こうの方が上、何せ狼牙は数百年前に作られた刀。

妖刀とはいえ、数多の剣豪が使用していたのだ。

現代のセイバーよりも実力が高いのは、当たり前かもしれない。

残留思念が構えを取り、ザッシュの表情に緊張が走る。

狼牙を鞘に納めてからの構え、自身がよく知る構え―――居合いだ!

一気に鞘から抜き放たれる狼牙、意力の斬撃がザッシュ目掛けて飛来する。

右手を前方に向ける、意力の障壁が数枚展開される。

通常の一枚分の障壁を複数同時に展開する“多重障壁”、周囲を覆う範囲障壁よりも作り出せるのは容易な技術。

だが、多く作るだけ消耗も大きい為、強敵との戦い以外ではあまり使用しない。

今が正に強敵と対峙している場面、使わざるを得ない時だ。

飛来する斬撃と激突する多重障壁。

ザッシュの多重障壁の枚数は六枚。

一枚目と二枚目の障壁が一気に砕かれる、頬からポタポタと玉の様な汗を零しながら障壁に意力を集中する。

……らしくもないなぁと、危機的状にありながら笑みを浮かべる。

敵を斬って捨てるが、自分の本分だった筈。

が、そうも言っていられない理由あるのだ―――何故ならば。

「急いで、皆を退避させんのよ!」

「ういっス!気合MAXで行くっスよ!」

「重傷者の搬送が最優先じゃ、職員方々も手を貸してくれい」

「「「「「はい!」」」」」

まだ、後輩達が退去していない人々の誘導に尽力している。

老齢のラグも及ばずながらと手を貸してくれているのだ、ここで退くことなど出来はしない。

三枚、四枚、五枚と障壁が砕ける―――不味い、残り一枚にも罅割れが。

右手の指先が裂け、鮮血が舞うが力を緩めない。

「流石にヤバイかな……絶世の伊達男、美女達の涙の海で溺れ死ぬが理想の最期なんだけどなぁ」

「何処の誰が絶世の伊達男よ」

聞き慣れた声が背後から聞こえる、それと同時にザッシュの背中に複数の物体が貼り付く。

物体の正体は球体、4つの球体がザッシュの背中に張り付いている。

異変が生じる、罅割れていた最後の障壁の罅割れが一瞬で修復、凄まじい輝きを発して残留思念の斬撃を掻き消した。

ザッシュの隣に眼鏡美女が立つ、言わずと知れたリュー・トライアングルだ。

どうやら、援軍として駆けつけてくれたらしい。

「ホント、いいタイミングで来てくれたよ。サンキュー、リューちゃん。流石はマイハニー」

「誰がマイハニーじゃい!尻に一発蹴りかますわよ!!」

「そりゃ勘弁(汗)。てっきり、シオンくん達が加勢に来てくれるかと思ってたからさ」

「残念ながら、まだブレイカー討伐から帰って来てないわよ。総本部に居るセイバーでアドバンスドは私だけだったのよ」

リューは、ザッシュやソラスと同じアドバンスドである。

しかしながら、高い事務処理能力を買われて総本部での仕事の方が圧倒的に多い。

その為、鍛錬は積んでいるものの、実戦に出る機会は滅多にない。

他のアドバンスド達も、ブレイカー討伐や遠方の依頼を遂行中。

「毎回思うけど、皆多忙だねぇ。総本部空かすこと多くない?」

「暇人属性のアンタと違ってね。で、あれが残留思念とやらかしら?」

「ん、幾つかの思念が混じってるらしいけど、今相手にしてるのはかなりの剣豪の思念みたいだね。多分、僕より上手だよ」

「なるほど、アンタが柄にもなく苦戦するワケね。私のサポート……必要よね?」

「モチのロン♪」

「言っとくけど、私よりもアンタに掛かる負担が大きいわよ―――辛くても、歯を食いしばって耐えなさい」

ザッシュの背中に張り付く球体が輝き出す。

そう、この球体こそが彼女が操る意刃。

彼女の扱う意刃は球体をブレイカーにぶつける等いった、攻撃面では些か貧弱な部類の能力。

しかし、この球体状の意刃には攻撃以上に様々な能力が宿っている。

障壁の強化、敵の束縛、更には味方に張り付いて一時的な能力の向上といったサポートに適した能力。

先程はザッシュに張り付き、彼に自身の意力を供給して障壁の修復と強化を行ったのだ。

「セイバーよりもガーディアン向きの能力よね、私の意刃」

「だね、集団戦闘が多い彼等と一緒なら更に真価を発揮出来るよ」

「んじゃ、ま―――行くわよ」

「OK、バッチコイさ」

伊達男の背中の球体が眩い光を放つ、リューの意力が大量にザッシュへと流れ込んでいく。

納刀し、構えを取る―――残留思念と同じく居合いの構えだ。

残留思念も察した、この男の居合いは危険だと。

先刻までの状態なら兎も角、今、目の前に立つ男の発する意力は尋常ではない。

当然だろう、リューの意力を供給された状態、威力は通常時よりも高くなる。

残留思念も、再び構えを取った。

いざ―――勝負!

剣客ふたりが抜刀し、閃光が奔った。










「……で、美術館の一部まで破壊してしまったと」

「うん、リューちゃんが大量に意力を供給して威力が高くなり過ぎちゃってさ」

「うぅ……頭が痛いわ。これ、損害賠償どんだけよ」

数時間後、建物の一部が破壊された美術館にシオン達は足を運んでいた。

あの居合いの打ち合いに勝利したものの、妖刀は真っ二つに折れてしまい、美術館の一部まで破壊するという事態に。

リューは予想以上の被害に頭を抱えている。

一般人に怪我人が出なかったのが不幸中の幸いか。

件の妖刀は、ラグがその筋の専門家達と調べている。

尤も、既に残留思念は微塵も感じられない。

完全に消え去ってしまっており、ただの折れた刀となっている。

アヴェルはラグの後ろから、妖刀をじっと見つめる。

「死んだ人の意力が物に宿るか……怖い現象があるもんですね」

「残留思念は他にも別の形で発現する場合があるんじゃよ―――“転生”という形でな」

「転生……?物語とかに出て来る、死んだ人間が生まれ変わる現象のことですか?」

「うむ、遠い昔に死んだ人間が長い年月を経て、新たに生を受けるという。断片的じゃが、前世の記憶を持った人間というのも確認されとる」

「転生……」

「シオンさん、どうしたんですか?」

「い、いや―――何でもない」

「?」

シオンは渋い顔をしたまま、額に手を当てていた。

「(“転生”―――何だ、その言葉が妙に頭の中で引っ掛かる。失っている記憶の一部に何か関係あるのか?)」

「にしても、流石に疲れ、た……」

「ザッシュさん!?」

「ザッシュ!」

疲労が限界に達した伊達男が倒れ、逸早く抱き留めたのはリューだった。

リューの意刃によるサポートは強力だが、ザッシュに強引に自分の意力を供給する為にリュー本人よりもザッシュへの負担が大きい。

救急車で病院に運ばれる彼に、リューは付き添う。

その光景を見ながら、集い荘の面々が呟く。

「何だかんだ言いながら、リュー姐さんはザッシュと仲良いよな」

「何で付き合ってないのかな、あの人達?」

「え?リューさんって、ザッシュさんと恋人同士なんじゃ……むぐ」

「アヴェル、大きな声を出しちゃダメです。リューさんに聞こえたら怒られますよ?」

「まぁ、間違いなく恋人じゃないの一点張りだろうな」

ザッシュとリュー、同期でセイバーになったふたり。

本当の意味で人生のパートナーになるには、まだまだ時間が掛かりそうである。



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