第28話『希望』


―――遥か、遠い昔。アースと呼ばれる世界の文明は最盛期を迎え、人々は繁栄を謳歌していた。

しかし、光あるところに闇もまたある。黒い光を発する異形の怪物の群れが、突如として世界中に出現し、人類に牙を剥いた。

怪物の群れには、高度な技術で造られた兵器が通じず、多くの人々がその魔手に掛かって命を落としていった。

対抗手段を講じることも出来ないまま、自分達は淘汰されてしまう運命なのか……。

しかし、人間という生物は諦めが悪いという一面も持っている。僅かでも可能性があるのなら、泥水を啜ってでも生き残ろうとするものだ。

アース世界中央大陸。その大陸の中心都市に“黒きもの”達に対抗する手段を模索するひとりの若き研究者が居た。

その日、研究者の下にふたりの若者が訪れようとしていた―――。










ここは、大陸の中心都市にある大学。深い色合いの赤髪を持つ青年が、黄髪の青年と共に廊下を歩いていた。

年齢は両名とも10代後半くらいだろうか。黄髪の青年が赤髪の青年に話し掛ける。

「なぁ、グラム。今日は何の呼び出しだろう?」

「アーサー、先生がまともな用事で俺達を呼んだことあるか?」

「無いな」

「即答だな。だが、事実だ」

グラムと呼ばれた赤髪の青年は、アーサーと呼んだ黄髪の青年と共に深い溜息を吐く。

彼等が赴く先には、彼等の師が待っている。一応、ふたりの師ではあるが、極力関わり合いになりたくない人物なのだ。

やがて、ふたりは目的地に到着する。目の前にあるのは扉。

扉には『エリシャ・レインフィール研究室』というネームプレートが掛けられている。アーサーがドアノブに手を伸ばそうとした。

が、彼がドアノブを握ろうとした瞬間、グラムがアーサーの腕を掴んでその場から離れる。

正にその直後、轟音と共に扉が吹っ飛んだ。グラムが掴んでその場から離れなければ、アーサーは吹っ飛んできた扉と激突してえらい事になっていただろう。

「……ありがとう、グラム」

「いや、何か嫌な予感がしてな……」

「相変わらず、いい勘してるな。で、今のは―――」

「ゲホッ!ゴホゴホッ!!」

咳込んだ声が聞こえる。研究室から、白衣を纏った若い女性が出て来た。

何度も咳き込む彼女にグラムが話し掛ける。

「エリシャ先生、何やってんですか?」

「あ、グラムくんとアーサーくん。いや、コーヒー淹れようとしたら爆発が起きてね―――」

「そうですか。じゃ、僕等帰りますんで」

「いやいや、待って待って!君等呼んだの私だよ!?」

踵を返して研究室前から去ろうとするふたりの肩を、エリシャと呼ばれた白衣の女性はガシッと掴んで離さない。

グラムは、いい笑顔でエリシャを見つめる―――絶対零度の眼差しで。

「コーヒー淹れようとして、爆発起こすイカれた人の話を聞く気なんて無いですから♪」

「酷い言われよう!先生泣くよ!?」

「先生、コーヒー淹れたり泣くヒマがあるんなら、黒きもの達への対抗手段を講じたらどうですか?」

黒きもの達―――近年、世界各地に出現し破壊の限りを尽くす異形の怪物達である。銃火器や爆弾といった兵器による物理的な攻撃は効き目が薄く、犠牲者は増える一方だ。

グラムとアーサーの眼前に居る女性は、彼等が通う大学に在籍する研究者エリシャ・レインフィール。彼女は、20代という若さでありながら様々な研究や論文で名を馳せているのだ。

しかし、奇行が目立つ為に好き好んで彼女に近付こうとする生徒は少ない。グラムとアーサーは、大学入学当初に研究室のボヤ騒動でエリシャを救助したことから彼女に気に入られたという経緯を持つ。

……当の本人達は、彼女を救助したことを少し後悔している。その後、ちょくちょくこの変人女史の起こす珍騒動に巻き込まれるからである。

そんな奇人変人なこの研究者も、黒きもの達への対抗手段を模索するひとりだ。

「ちゃんと対抗する手段は模索してるよ。そもそも―――君等はあの異形の群れがどういった存在であるかを理解しているかな?」

「明らかに通常の生物とは異なりますよね。何か、小説やら架空の物語に登場しそうな化け物とかの姿がチラホラ見れますけど」

黒きもの達の中には、ドラゴンや人狼といった架空の物語に登場する怪物の姿を象ったものが確認されている。通常の肉食動物や草食動物、昆虫、鳥や魚とは明らかに異なる存在だ。

初めて黒きもの達と接触した人間は、我が目を疑ったことだろう。夢か幻であれば、どれだけよかったことか。

「何故、あんな姿をしているかは私も理解に苦しむよ。ただ、最近の調査で突き止めたことがある」

「何が分かったんですか?」

「私の研究テーマは知ってるよね?」

「生命が持つ意志エネルギー……でしたよね?」

この風変わりな女史は研究テーマも風変わりで、生命が持つ意志エネルギーに着目した。化石燃料の類は、何時か底尽きる日が訪れるだろう。それに代わる新しいエネルギーが必要だ。

人が持つ意志のエネルギーを何らかの方法で利用出来ないかと、日々研究に没頭している。

「意志エネルギー―――私はそれを『意力』と命名した。この力は、実は昔から存在自体は確認されているんだ。人間や動物が、時折白い光を発する現象があるだろう?あれがそうさ」

「そういえば、テレビ中継で見たスポーツ選手とかの身体から白い光が出ているのを見たことありますけど……あれが」

グラムは、以前にテレビで見たスポーツ選手の身体から白い光を発している場面を見たことがある。その時は、幻覚か何かだと思っていた。

「うん、身体を鍛えている人―――特に武術とかしている人が意力を発する傾向が強いみたいなんだよ。野生動物とかは本能的に発しているんだ」

「ちょっと待って下さい、黒きもの達は黒い光を発していますよね?まさか、あれも……」

「うん、色は異なるけどあれも意力だね。だが、人間や野生動物と決定的に違うところがあるんだよ―――黒きもの達には生命反応が全くない。つまり、奴等はそもそもが生物じゃないってことだよ」

「生物じゃない!?」

「まさか、そんな……」

「理由を説明するから、研究室に入って」

信じられないと顔を見合わせるグラムとアーサー。確かに異様な存在だが、黒きものは生物であるとばかり思っていた。

研究室に入ると、エリシャは何やら機器を操作している。研究室には大きめのディスプレイが設置されており、ふたりに記録映像を見せたいようだ。

「実は先週、黒きもの達の討伐隊に参加させて貰ってね。その時、色々調査したんだよ」

「そういえば、用事があるとか言って出掛けてましたけど……」

「よく無事でしたね……」

「いやー流石に肝が冷えたよ。これから見せるのは、その時の記録映像だよ」

ディスプレイに映し出される映像。場所は、何処かの街中のようだ。

建物は破壊され、地面にはべっとりとした赤い液体が見られる。一目で、それが人間の血液だということが理解出来た。

声が聞こえてくる。おそらくは、黒きものと戦闘しているであろう軍隊の兵士の声。

怒声、悲鳴、断末魔の叫び―――聞いているだけで、神経が削られる気分に陥りそうだ。

『ちょ、ヤバイヤバイヤバイ!何で生命反応センサーに感知しないの、この怪物くん達!?これじゃ、どっから来るか分かんないよ!』

と、映像から聞き慣れた声が聞こえてきた。言うまでもなく、エリシャ本人の声だ。

「先生、この映像って先生が撮ってたんですか?」

「超小型のカメラをヘルメットに付けてたんだよ。流石にカメラを持って撮影してられる状況じゃなかったよ」

「しかし、今の生命反応センサーに感知しないっていうのは……」

「うん、人間や通常の動物なら反応する生命反応センサーにあの怪物達は反応しなかったんだよ。続きを見てみ」

再び記録映像に視線を戻す。

『ぬぉおおおおっ!くぉんなこともあろうかと、私の開発した新機能ッ!意力感知センサーの出番じゃい!!』

エリシャの叫びの後にポチッという、ボタンを押すような音が聞こえた。どうやら、通常の生命反応センサーに何か追加機能を搭載していたらしい。

『……って、グワッ!な、何じゃこりゃ!?そこら中にとんでもない数の反応が!!?』

驚愕の声を上げるエリシャ。と、同時に恐ろし気な声が聞こえてくる。

どうやら、黒きものが近くに出現したらしく、轟音が響いてくる。映像がプツンと途切れた。

「先生……どうか安らかに」

「世界一の奇人変人、ここに眠るって墓標に刻まないと」

ディスプレイに向かって、黙祷するグラムとアーサー。

「いやいや、死んでないからね!?君等の目の前に居るじゃん!」

「「ええっ!?」」

「何わざとらしく驚いてんの!?」

勝手に死んだ扱いされ、御立腹の変人女史。少しいじけつつ、彼女は研究室内の椅子に腰掛ける。

「先生、さっきの映像で聞こえた意力感知センサーっていうのは……」

「ん、私が生命反応センサーに追加した新機能だよ。つまり、意志エネルギーである意力を感知する為のものだよ」

「そんな機能をよく開発出来ましたね……。それを使ったら反応が多数あったんですね」

「うん、いきなりドバッと反応したからビビったよ。つまり―――黒きもの達は通常の生物ではなく、意志エネルギーである意力が怪物の姿を模して実体化した存在ってことだよ」

「意志エネルギーの実体化―――そんなことあり得るんですか?」

「まぁ、普通は信じられないよね。だけど、さっきの映像を見ての通り、黒きものには生命反応を感知するセンサーに反応が全く無かった。それと、もうひとつ見て欲しいものがあるんだ」

彼女は椅子から立ち上がり、デスクの上に置いてある鞄からビニールに包まれたナイフを取り出した。

明らかに、チンピラが持ち歩く類のナイフとは異なる。軍人など、訓練した兵士が持っていそうな品に見える。

「このナイフは、黒きものと格闘した兵士さんの持ち物だよ。その兵士さん、このナイフで黒きものを切ったんだよ。まぁ、全然手応えは無かったらしいけどね。ちなみに、これって洗浄とか一切してないよ」

「……なるほど、奴等が生物なら刃に多少なりとも血液が付着しますよね。それが無いってことは、生物じゃないってことですね」

「うん、生物じゃないからナイフは勿論、銃弾や爆弾みたいな兵器じゃ効果が殆ど無いってことだよ」

突きつけられる事実に、グラムとアーサーの表情が曇る。当然だろう。

奴等が生物ではないという事実にも驚きだが、それ以上に既存の武器、兵器の類が全く役に立たないという現実に絶望感を感じていた。

どう足掻いても奴等に対抗する手段など存在しないのではないかと、ふたりの思考が破滅的な答えに向かおうとした時だ。

「で、私は考えたんだよ。奴等が意志エネルギーである意力で構成されているのなら、同じエネルギー―――つまり、こっちも意力を用いた攻撃手段で対抗すれば奴等に効果があるんじゃないかってね」

「え?それって、意力を用いた兵器とかを開発してるってことですか!?」

「いんや、流石にそこまではまだ無理だよ。グラムくん、このゴーグル掛けて。で、スイッチがあるから押してみ」

「へ?は、はい」

エリシャは何やら奇妙なゴーグルらしき物を手渡してきた。首を傾げながらも、言われたとおりにゴーグルを掛け、スイッチを押す。

すると、目の前に居るエリシャに変化が起きた。スイッチを押す前は、普段通りにしか見えないが、スイッチを押した後は彼女の身体から白い光が発せられているのがハッキリと見えた。

「先生、これって!?」

「ん。私から白い光―――意力が出てるのが見えるっしょ。私達みたいな普通の人間も目に見えないながらも微量に発してるんだよ。このゴーグルは意力を視覚的に捉えることが出来るんだ。で、さっきも話したけど、身体を鍛えている人間ほど意力を発していることが多いというのは説明したよね?」

エリシャは笑顔でピースする。アーサーは青褪める。

「ちょ、待って下さいよ!まさか、身体を鍛えて意力を意識的に使えるようにする―――その上で、意力を用いた戦闘技術を身に付けて奴等と戦うとか言うんじゃないでしょうね!?」

「ん〜やっぱ、ダメ?」

「いやいやいや、駄目というか無理に決まってるでしょ!単なる学生ふたりと研究者なんですよ僕等!?グラムだってそう思うだろ!?」

「先生―――俺、やってみます」

「そうそう、やって……みます?え?やりませんじゃなくて、やってみます?グラム、僕の聞き間違いじゃないよな?今何て?」

「やるって言ったんだ」

「正気か!?」

親友の発言に耳を疑ってしまう。気でも狂ったのか。

軍隊でさえどうにもならない化け物達に、一般人である自分達が挑むなど自殺行為に等しい。

「お前がやらないなら、俺と先生のふたりだけでやる」

「本気で言ってるのか……?」

「確かに先生は奇人変人で、妙な発明で大学内で珍騒動起こしたりコーヒー淹れようとして爆発起こすイカれた人だけど、研究者としては凄い人だと思ってる」

「ねえ、グラムくん。それって褒めてんの?それとも、けなしてんの(泣)」

滝のような涙を流す女史をスルーし、グラムは真剣な眼差しを向けてくる。

「本当なら奴等に通用する兵器とかあればいいんだろうけど、まだ実用化出来ないなら、せめて奴等と遭遇した時に撃退出来る術が必要だ。それに、俺は考える前に身体が動くタイプだしな」

グラムはボキボキと指を鳴らす。アーサーは額に手を当てて、しまったと溜息を吐く。

それなりに長い付き合いだが、彼が直感で動くタイプだというのはこれまで過ごしてきた中で何度も見ていた。

こうなった以上、彼が止まることは無いだろう。それなら、自分も腹を括るしかあるまい。

「……お前と先生だけじゃ、何が起きるか分かったもんじゃない。僕も協力するよ」

「んもぅ、アーサーくんのイ・ケ・ズ♪嫌よ嫌よも好きの内ってことね♪」

「グラム、とりあえず今後のプランを考えようか。先生抜きで」

「そうだなぁ、何から始めようか。先生抜きで」

「あーん!待って待って、先生を仲間外れにしないで〜〜〜〜〜!」

変人女史をスルーして、研究室から出て行くふたり。泣きながらそれを追う変人女史。

「はうっ!」

べたーんと、地面に全面ゴケする変人女史。やれやれと、呆れながらも彼女を起こす教え子達。

大学のある意味有名人な彼等に、好き好んで近付く輩は居ないようである(笑)。










―――同日、グラム達の居る大学と同じ都市に存在する某所。

後の時代では都市同盟による政治体制が執られているが、この時代には大陸全土を統治する政府が存在した。

そこは、政府の関係者以外は立ち入ることが出来ない研究施設。

円卓に政府の高官が複数集まっていた。彼等は会議を開いていた。

「―――例のレポートの内容だが、間違いはないのかね?」

「おそらく。レインフィール博士は変わり者で有名ですが、優秀な研究者です。彼女の提出した内容に間違いはないかと」

「黒きものが意志エネルギーが実体化した存在……既存の兵器では効果は無しか」

「彼女の動向は?」

「教え子ふたりと一緒に意志エネルギーに関する研究を独自に開始する模様です」

「……まぁ、放置しておいても問題あるまい。奇行が目立つ変人とはあまり関わり合いになりたくないものだ」

「しかし、意志エネルギーに関する知識を持つ研究者の協力は不可欠かと……」

「問題ない。彼女以外にも同じ分野を研究している者が居る―――入りたまえ」

扉が開き、ひとりの男が入ってくる。年齢はエリシャとそう変わらないくらいか。

男は一礼して、名乗る。

「レクス・ブライと申します。レインフィール博士とは大学時代の同期で、彼女と同じく意志エネルギーを研究しております」

「ブライ博士、協力を感謝する」

「畏れ入ります。こちらをご覧下さい―――」

レクスという名の研究者は、何枚かの図面をテーブルに置いた。

「これは……」

「私が考案した意志エネルギー―――意力を利用した兵器の設計図です」

「ふむ……ん、これは?何やら人間のように見えるが―――?」

設計図のひとつに、人間の姿をしたものを見つける政府高官。

「これは、人間を模した生体兵器です。造り出された段階で、強力な意力を扱う素養を持っています」

「しかし、これは……」

「神の領域を侵す―――と、非難されるでしょう。しかし、今は非常時です。手段を選んでいる余裕はないかと」

「やむを得ぬか……ブライ博士、よろしく頼む。我々に希望の道を示してくれ」

「仰せの通りに」










―――何事にも、必ず始まりというものはある。

アースと呼ばれる世界に出現した異形“黒きもの”。後にブレイカーと呼ばれるこの異形達に立ち向かう者達が居た。

意志エネルギー“意力”の研究者エリシャ・レインフィール。彼女の教え子、グラム・ディアスとアーサー・ラングレイ。

彼等が黒きものに対抗する術を身につける決意を固め、1ヶ月が過ぎようとしていた。

大学にあるグラウンドの一角に3人は集っていた。周囲には彼等以外に人は居ない。

というのも、変人女史の活動に巻き込まれたくない生徒達が近付こうとしないのだ。加えて、黒きものが何時現れるか分からないので生徒の殆どは外に出ようとしない。

だが、彼等にはその方が都合が良かった。

あの異形の怪物達に立ち向かう術を模索しているのだ。なるべく、他人を関わらせたくない。

さてさて、そんな3人であったが―――何やらエリシャは不機嫌そうな顔でグラムとアーサーを見つめていた。

「いやーないわー。めっちゃないわー」

「先生、拗ねてないで現実を直視して下さいよ。つーか、いい歳した大人がみっともないですよ。何歳ですか?」

「8815日と11時間33分51秒ッ!」

「24年と55日と11時間33分51秒ですか」

「悔しー!計算早ッ!ホント悔しー!!」

「そんなに悔しがらなくても……」

「悔しいに決まってんじゃん!なんで、グラムくんとアーサーくんが先に意力を使えるようになってんの!?」

バンバンと地面を叩きながら、滝のような涙を流すエリシャ。

彼女から少し離れた場所に立つグラムとアーサー。しかし、明らかに大きな変化が見られた。

ふたりの肉体からは白い光が発せられていた。即ち、意志エネルギーである意力を意識的に発揮出来るようになったのだ。

「何年か鍛練したとかなら納得出来るよ!?たった1ヶ月しか経ってないじゃん!先生なんて、じぇんじぇんダメなんだから!!」

「いや、先生って元々研究者だからじゃないですかね?運動神経も反射神経もイマイチじゃないですか」

グサッとエリシャの心に言葉のナイフが突き刺さる。研究の類は得意だが、運動や肉体鍛練は彼女の得意ジャンルではないのだ。

対して、グラムとアーサーは意外にも身体を鍛えている模様。特にグラムはアスリート顔負けの運動能力を見せている。

「グラムくんの意地悪。何で、そんな運動神経抜群なの隠してたの?」

「いや、別に隠しちゃいませんて。死んだ爺さんが厳しい人で、子供の頃から色々と鍛えられてたんですよ」

「グラムのお爺さんかー。懐かしいなぁー。いやー、あの人はホント怖かったなぁー」

遠い目をするアーサー。グラムの亡き祖父とは顔見知りらしい。

しかし、この様子から察するに畏怖の念を抱かれているようだ。何があったのだろう。

「にしても、ふたりとも大学に入る前からの付き合いなんだね?」

「かれこれ10年になりますね」

「僕がグラムの家の隣に引っ越して来たのが切欠ですね。グラムがお爺さんに色々と叩き込まれているのを見て、少し厳しすぎるんじゃないかと思って声を掛けたのが出会いでしたね」

「叩き込むって……グラムくんのお爺さんって何者?」

聞けば聞くほど不思議になる。グラムの祖父とは何者なのだろうか。

幼い孫に厳しい鍛錬をさせるなど、一般人とは思えないが。

「グラムの家って、武術道場を開いてたんですよ」

「え、マジで?」

「まぁ、門下生なんて数えるくらいしか居ませんでしたよ。去年、爺さんが死んだこともあって廃業しました」

「僕も興味本位で入門したんですけど、あの厳しさじゃ門下生は集まりませんね」

グラムの実家が武術道場を経営していたという事実にも驚きだが、彼の祖父は鬼のような厳しさで恐れられたらしい。

アーサーも入門していたという。なるほど、彼も運動能力が高い理由はそれか。

しかし、そう考えるとこのふたりがこんなにも早期に意力が使えるようになったのにある程度納得がいく。

意力という力は、肉体を鍛えている人間ほど発揮しやすい傾向にある。幼少期からの厳しい鍛錬が、意力を扱う素地になったのだと考えるとグラムの祖父には感謝すべきなのかもしれない。

「うーん、そう考えると私には研究は兎も角、肉体鍛練による意力の体得は難しいのかもね」

「つーか、この間の黒きものの調査の時はホントによく無事でしたね」

「先生を甘く見ないでよ!命の危険が迫った時だけ運動神経が繋がるんだよ!」

「えらい都合のいい運動神経ですね……」

「さて、それはそうとして先生に見てもらいたいものがあるんですよ」

そう言って、グラムは近くに置いてある細長い袋を手に取る。それは、グラム自身が持ってきた彼の私物。

シュルシュルと音を立てて袋の紐が解かれ、取り出されたのは棒のような物。

否、棒などでは無かった。グラムが握り、横に引くと刀身が姿を現した。

エリシャが、ギョッと驚いたのは言うまでもあるまい。

「え、それって真剣!?」

「ええ、正真正銘本物の長剣です。爺さんの形見で、今は俺が鍛錬に使ってます。アーサー、例の奴を頼む」

「よっこいせ、と……やれやれ、こいつぁ重いなぁ」

アーサーが、やたらと大きな鉄塊をリアカーに乗せて持ってきた。鉄塊をリアカーから降ろす。

グラムは剣を持ったまま、鉄塊の近くに立つ。彼は呼吸を整え、瞳を閉じる。

剣を両手持ちし、上段高く構える。身体から白い光―――意力が昇り立つ。

「あれは―――!」

エリシャは、グラムの意力の変化を捉えた。肉体から発する意力が剣に伝わっていく。

カッと瞳を開いたグラムが剣を一気に振り下ろす。その様は、闇を切り裂く閃光という表現がよく似合う。

鉄塊はその一撃で真っ二つにされた。剣には刃毀れひとつ見当たらない。

凄い、と言葉に出そうとしたが出ない。眼前で披露された彼の意力を用いた剣術に圧倒され、言葉を出すことさえ出来ない。

が、当の本人の口から出た言葉はというと―――。

「……ふぅ、初めてにしては上出来だったな」

「―――って、ええっ!?今のぶっつけ本番だったの!!?」

「いや、なに……何か出来そうだったんで」

「この鉄塊を運んでくれと言われた時は何をするのかと思ったけど……ホントに、度肝を抜かされるよ」

アーサーは、グラムから鉄塊を運んで欲しいと頼まれ、何をやるのかと首を傾げた。

まさか、真っ二つに斬るなど誰が予想出来ようか。普通なら剣が刃毀れするか、折れるかのどちらかだろう。

「凄いですよ、この力―――意力は。普通に発している状態でさえ、身体能力が飛躍的に向上していることが実感出来ますけど、今みたいに剣に纏わせたりすると、剣の切れ味や硬度も纏っていない状態とは比較にならないほど強化されてます」

「なるほど……応用することで、より多くの技術が編み出せそうだね。こりゃ、研究し甲斐があるよ」

瞳を輝かせるエリシャ。自身の研究テーマが、大きな可能性を秘めていることに感無量であった。

不眠不休で研究してきたものを形にしてくれる教え子がここに居ることが、何よりも彼女の胸を熱くさせた。

剣を鞘に納めたグラムが、ふと疑問に思っていたことを口にする。

「それにしても、気になってたんですけど……先生って24歳ですよね?」

「んもぅ、女性に年齢を聞くなんてイケナイ子なんだからぁ♪」

「いえ、そうじゃなくて……確か、先生って俺達が大学に入学する何年も前から研究室与えられてたんですよね?20代の若さで自分の研究室を持ってるなんて、ちょっと信じられないというか」

「飛び級で大学卒業したのが16歳の時で、研究室を与えられたのが18歳の時だから―――かれこれ6年になるかな?」

思わず目が点になる教え子ふたり。奇人変人扱いされるこの女史だが、優秀であることは間違いないようだ。

でなければ、18歳なんて若さで自分の研究室を手にすることなんて出来ないだろう。

ちなみに、この時は知る由も無かったが、彼女がこの大学で研究室を与えられた理由を後にふたりは知ることとなる。

早い話、彼女を野放しにするとあちこちで珍騒動が巻き起こるので、大学に縛りつけておくのが一番という何ともアレな理由である。

それを知った時の彼等は、なるほど確かにと納得するが―――それは、また別の話(笑)。

「そういえば、レクスくんはどうしてるかなぁ」

「レクス?知り合いですか?」

急に聞き慣れない名前を出す女史に、アーサーが尋ねる。

「大学時代の同期。私と同じで飛び級で卒業し後、政府の研究機関に入ったからあんまり連絡取れなくてね」

「政府の研究機関って、凄いエリートじゃないですか!?」

驚きの声を上げるアーサー。無理もない話だ。

大陸を統治する政府。その政府の研究機関に入れる研究者は、それだけでエリート扱いされるほど優秀な者ばかりである。

エリシャと同期ということは、年齢は彼女とそう変わらない筈。20代半ばくらいでその研究機関に所属している者など、数えるほどしか存在しないだろう。

「私と同じで意力の研究に没頭してるみたいでさ。多分、彼も黒きものへの対抗手段として意力を使うことを考えているんじゃないかな?」

「本当ですか?政府の研究機関なら、意力を用いた兵器とかも造れるかもしれませんね」

「う〜ん、でも少し心配なんだよねぇ。彼、確かに優秀なんだけど考えに先鋭的なところがあるから、何かとんでもない研究をしてるんじゃないかと思ってさ」

「え?ヤバイ人なんですか?」

「アーサー、そんなの先生ひとりで十分だ。先生みたいな人がもうひとり居るワケないだろ」

「先生泣くよ!?……まぁ、ヤバイと言えばヤバイかもね。彼、目的を達成する為なら越えちゃいけない一線を越えちゃいそうなタイプだから」

「「え」」

思わず、言葉が詰まってしまう教え子ふたり。

レクスという研究者は、この変人女史とは別の意味で危険人物に相当する人間のようだ。

越えてはならない一線を越える。つまり、非人道的な方法で目的を達成しようとするかもしれないのだ。

あまり想像したくないが、人体実験とか周囲の影響を考えない大量破壊兵器を開発するのではないか―――それを想像すると、血の気が引いた。

「君等が悪い想像してもどうにもならないよ。あっちはあっち、こっちはこっちなんだからね。私達は私達で黒きものに対抗する研究をするんだからさ」

「……そうですね。俺達は俺達の道を行くしかありませんよね」

「そのレクスとかいう人が、道を踏み外さないことを祈るのみですね……」










―――同日、政府の研究施設。

政府研究機関に所属する研究者レクス・ブライは、用意された研究室で自身が引いた設計図に目を配っていた。

設計図には、人の姿を模した機械が見られる。この人型機械は意力を動力源としている―――黒きものを掃討する為の戦闘兵器なのだ。

レクスは意力の研究をする過程で、人間や動物といった生命体だけではなく、大気中にも意力が含まれていることを突き止めていた。

この人型兵器は意力を貯蔵するタンクが搭載してあるが、貯蔵タンクに蓄えられる意力にも限りがある。そこで彼が考えついたのは、大気中の意力を吸収する機能を付加することだった。

貯蔵タンクの意力が尽きても、この機能があれば稼働時間は長くなるだろう。

図面に不備はないか、目を配っている彼の耳に通信機の通信音が聞こえてきた。通信機に出る。

「レクスです、何かありましたか?」

『ブライ博士。培養カプセルに変化が見られました』

「直ぐに向かいます」

研究室を出た彼は、近場のエレベーターに乗る。エレベーターのボタンを押す―――行き先は地下8階。

地下8階に到着し、エレベーターを出た彼の眼前に立ちはだかったのは堅牢な扉。並の攻撃では破壊することは不可能に思える。

扉の近くは操作パネルが設置されている。レクスはパネルを操作して、扉を開く為のパスコードを入力する。

『パスコード……入力確認しました』

大きな音を立てて、堅牢な扉が開いていく。その先に進むレクス。

扉の先にあるもの―――それは、無数のカプセル。コポコポという水音が聞こえてくる。

カプセルの中には、何やら小さな肉の塊らしきものが浮かんでいる。

無数にあるカプセルのひとつ。その前に初老の研究者が立っていた。

「博士、こちらのカプセルです―――驚きました、急激に変化しましたので」

「報告感謝します。この世界の希望となる我が子の誕生です」

彼等の眼前にあるカプセルの中には、小さな赤ん坊の姿があった。真っ白な髪を持つ赤ん坊の姿が。

「しかし、未だに信じられません。この赤ん坊が、人工的に生み出された生命とは……」

「無から生命を生み出すのは神の御業―――その真似事をした以上、多くの人々から非難されることでしょう。しかし、この子こそが黒きものに対抗する希望の子なのです」

レクスの横顔を見た初老の研究者は背筋に寒気を感じた。彼は笑みを浮かべていた……狂気を感じさせる笑みを。










―――3ヶ月後、大陸の中心都市から離れた場所にある小さな町。

プラチナブロンドの少女が、緑髪のふたりの少年と一緒に息を切らせながら走っていた。

彼等の背後から黒い光を発する狼が10匹以上迫っている。黒きものと呼ばれる異形の怪物達の一種である。

「アシュレイ、アスタル!頑張って!」

「ユーリア姉ちゃん、もう駄目だよ……!追いつかれちゃう……!」

「弱音を吐くな、アスタル!」

緑髪の少年のひとりが弱音を吐くと、もうひとりの緑髪の少年が叱咤する。

髪の色もそうだが、顔立ちも非常に似ている。おそらく兄弟なのだろう。

奴等に追いつかれたら、喰い殺されるのは目に見えている。生きる為には、何が何でも逃げ延びなくてはならない。

しかし、現実というの非情なものだった。彼等が逃げる先にも黒い光を纏った巨大な蛇が姿を現す。

体長は数メートルはあるだろうか。その巨体に巻きつかれれば、あっという間に絞め殺されるに違いない。

前方も後方も逃げ場はない。取り囲まれる少女達。

「(お父さん、お母さん……ごめんなさい、逃がしてくれたのに)」

ユーリアと呼ばれた少女の脳裏に両親の顔が浮かぶ。両親は彼女達を逃がす為に、黒きものの犠牲となったのだ。

彼女はアシュレイとアスタルと肩を寄せ合って瞳を閉じる。最早、これまで。

一斉に黒い影が襲い掛かる―――が、その牙や爪が彼女達に届くことは無かった。

「……?」

ユーリアが閉じていた瞳を開く。眼前に赤い髪の青年の後ろ姿見えた。隣には黄髪の青年の姿もある。

彼等は手を前方に向けていた。彼等の手の先には白い光の壁が出現している。

「怪我は無いか?」

赤髪の青年が尋ねる。ユーリアは、無言のまま頷く。

「大型の蛇と狼か……蛇型とは初めて遭遇するな」

「油断するなよ、アーサー」

「お前もな、グラム」

黒きもの達が襲い掛かってくる。ふたりの若者達は動じない。

けたたましい音と共に、黒きもの達は弾かれる。青年ふたりの手から発生していると思われる光の壁に弾かれたのだ。

「アーサー、お前の編み出したこの“障壁”は大したものだ。こいつ等程度の攻撃ならビクともしない」

「お前の意力を用いた剣術に影響を受けて考えたものだけど、実戦で役に立って良かったよ」

彼等は手を前に押し出す。光の壁が前方に向かって勢いよく飛んでいく。

光の壁に押し出される黒きもの達。体勢を崩した黒きもの達に、ふたりの青年は駆け出していく。

グラムは祖父の形見である長剣を抜く。刀身が一瞬にして白い光―――意力を纏う。

鍛錬を重ねた結果、最初はある程度時間を要した剣に意力を纏う動作が、今では瞬時に可能となったのだ。

白光の刃を横一文字に振るう。狼数匹がほぼ同時に斬り裂かれ、耳障りな叫び声を上げて黒い光と共に霧散していく。

黒きものが霧散する―――この光景を最初に目にした時は驚いたものだ、とグラムは思い返していた。

エリシャの調査で、黒きものが意力が実体化した存在という事実は知らされたが、本当は生物なのではという疑念を捨て切れなかった。

今から数週間前、鍛錬した力を試す為にアーサーと共に初の実戦に赴いた。その時、斃した黒きものが霧散したことで漸く奴等が生物ではないと自覚したのだ。

大きな奇声が響く。ユーリア達が視線を向けると、大蛇がアーサーと呼ばれた黄髪の青年の身体に巻きついているではないか。

不味い、あのままでは絞め殺されるのは目に見えている。グラムに加勢するようと声を掛けようとするが、それよりも早く大蛇が大きな口を開いてアーサーの首筋に噛みついた。

眼前で起きた惨状にヒッと小さな悲鳴を上げ、ユーリアが両手で目を覆う。アシュレイとアスタルも涙目で青褪める。

異変が生じる―――大蛇に噛みつかれたアーサーの身体が、まるで煙のように掻き消えた。

直後、大蛇の背後に幅広の剣を持ったアーサーが出現。完全に背後を取られた大蛇は後方から繰り出される彼の斬撃を回避出来なかった。

大蛇の首は切断され、黒い光と共に霧散する。何事もなかったかのように着地するアーサー。

残っていた狼達も、グラムによって直ぐに斬り伏せられて霧散した。

ポカンとした表情でアーサーを見つめる少女達。大蛇に噛みつかれた筈なのに、彼はどうして無事なのか。

「終わったみたいだな」

「ああ―――というか、アーサー。今のどうやった?初めて見たぞ」

「こうやったんだ」

そう言うと、アーサーがふたりに分裂した。目の前で起きる奇怪現象に目を剥くユーリア達。

グラムは動じることなく、ふたりになったアーサーの片方に手を当てる。

「なるほど……訓練中に見せた意力による分身か。しかも、訓練中で見せたものと違って実体があるとはな……」

「訓練中に使ったものは実体を伴っていなかったけど、これは実体を伴う分身だ」

事の発端は1ヶ月近く前、初の実戦に赴く前の訓練中にまで遡る。

実戦形式の試合を行ったグラムとアーサーのふたり。その試合の中で、グラムは攻撃を仕掛けたがアーサーに触れた瞬間、彼はいきなり眼前から姿を消して呆気に取られた。

直後、アーサーが全く別方向から攻撃を放ってきて間一髪で回避した。あの時は、流石のグラムも焦りを感じた。

彼は意力で自身と寸分違わぬ複製―――分身を作り出してグラムの意表を突いてきたのだ。

その時の分身は何の感触も無い一時的な幻に過ぎなかったが、今目の前に居る分身には実体がある。本体との違いは体温や脈拍が無いくらいだろう。

ふと、子供達の存在を忘れていることに気付く。

「ああ―――忘れていてすまない、君達は避難民か?」

「は、はい」

「ここは危険だ。安全な所まで案内するよ」










大陸中心都市、グラム達の通う大学。ユーリアとアシュレイ、アスタルを連れて、グラム達は大学の門を潜る。

現在、この大学は避難施設のひとつとして使われている。ユーリア達以外にも、避難してきたと思われる人間の姿が見られた。

疲れて空腹になっている子供達を食堂に案内した後、グラムとアーサーはエリシャの研究室にやって来た。

扉はこの間の爆発以来修理していないらしく、廊下に転がったままである。呆れながらも研究室に入ったふたりは目を丸くした。

エリシャがコンピュータを操作している。それは何時も見慣れた光景だ。

何時もと違うのは、彼女の隣にこの場に不釣り合いな格好をした男が立っていることだ。

無精髭を生やした厳つい顔つき、明らかにこの大陸では見かけない服装を纏った御仁の姿がエリシャの隣にあった。

「あ、お帰り」

「あの、先生……お客さんですか?」

「うん」

男が前に出て、ふたりに一礼する。

「―――某、ライカ・シンドウと申す。極東の地より、この大陸に修行に参った武芸者である」

「極東……極東諸島ですか?確か、大陸の東に浮かぶ島々ですよね?」

「如何にも」

極東諸島とは、この大陸の東に浮かぶ島々のことだ。大陸と違って機械文明は遅れており、独自の文明が築かれているという話を歴史の授業で習った記憶がある。

ライカと名乗った男は語り出した。武者修行の為に、大陸にやって来たことを。

修行している中で、黒きものと遭遇して交戦したことを。

「黒きものと戦ったって……先生、まさか、ライカさんって!?」

「百聞は一見に如かず―――ライカさん、お願いね」

「承知」

ライカは瞳を閉じる。その身体からグラムとアーサーと同じように意力を発する。

「意力……ライカさんも意力が使えるんですか」

「修行中に使えるようになったのだ」

「ライカさん、ひとりで黒きものに挑んでたみたい。グラムくんとアーサーくんより先にね」

「しかし、某ひとりで戦うには限界がある。最近、黒きものと戦う若者達が居るとの噂を耳にしてこの地を訪れたのだ」

話の流れからして、どうやら共に協力して黒きものと戦おうという。

武術を幼少から学んでいるグラムは、ライカが熟練の域にある使い手であると一目で分かった。

戦力的にアーサーとふたりだけでは、心許ないと感じていた。協力してくれるのなら心強い。

「ライカさん、若輩者ですがよろしくお願いします」

「うむ―――む?そこの少年、某達に何か用か?」

研究室を覗く子供がひとり、さっき保護した少年のひとり―――アシュレイだ。

彼は研究室に入って来る。後ろからユーリアとアスタルもやって来る。

「アシュレイ!勝手に入っちゃダメでしょ!?」

「外に出ようよ、アシュ―――」

「兄ちゃん達。お願い、おれを弟子にして」

「「!?」」

アシュレイは、グラム達の前で土下座した。困惑するグラム達。

ユーリアとアスタルも驚きの表情で固まる。

「おれ、兄ちゃん達みたいに強くなりたい。あの怪物達に勝てるようになりたい」

「アシュレイ、何言ってるのよ!そんなの無理に決まってるじゃない!?」

「じゃあ、ユーリア姉ちゃんは忘れろって言うのか!?父さんと母さんが殺された時のことを!?」

「―――っ」

土下座していたアシュレイが顔を上げ、ユーリアを睨みつける。

涙でくしゃくしゃになった彼の顔を見て、彼女は何も言えなくなってしまう。

そのやり取りを見ていたアーサーは悲痛な感情に支配された。この子達は、目の前で家族を殺されたのだ。

目の前で肉親を失う―――身を引き裂かれる想いだったに違いない。

だからと言って、こんな子供を戦いに巻き込むワケにはいかないと口を開こうとする。が、グラムがそれを制した。

「アシュレイと言ったな。ひとつ言っておくが、俺達は物語に出てくるような英雄じゃない。あの怪物達を斃した力は、厳しい鍛錬によって得た力なんだ。君には、強くなる為の試練を乗り越える覚悟があるか?」

力強い眼差しをアシュレイに向けるグラム。彼の威圧感にユーリアとアスタルは肩を震わせた。

ふたりには、グラムがとても自分達より少し年上の青年には見えなかった。眼差しを向けられるアシュレイ当人は、手に汗を握りながらもその眼差しを正面から受け止める。

「強くなりたい。大切なものを失いたくないから」

「……いいだろう。俺は厳しいぞ?」

「お、おい!何を言ってるんだ、グラム!?先生も何とか言って下さいよ!」

「ん、いいんじゃない?」

「ちょ、えぇぇぇぇぇぇっ!?ら、ライカさん!」

「若者の成長を見守るのが年長者の務めだ」

「ひとりくらい反対して下さいよォ!?」

年長者達が全く止めないことに、頭を抱える。

「待ちなさい」

と、蚊帳の外に居たユーリアが前に出て来た。正に天の助けと、アーサーはホッとした表情で少女を見つめた。

この少年とは顔見知りのようだし、心配して止めてくれるに―――。

「アシュレイ、あなただけを危ない目に遭わせたらおじさんやおばさんに申し訳ないわ。私もこの人達に弟子入りするわ」

「……って、待った待った!止めないのか!?というか、君まで弟子入り志願!?」

「え、と……じゃあ、ぼくも弟子入りしたらいいのかな?」

「おおっ!お前にしちゃ前向きじゃんか、アスタル!」

「って、どういう流れ!?何で、全員弟子入りする流れになってんだぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

「アーサー、少し静かにしてくれ」

「心を平静に保つのだ。心を乱しては、意志の力も乱れる」

「この状況で落ち着いていられるかい!」

自分を宥めようとするグラムとライカにツッコミを入れる。

ひとりの少年の弟子入り志願が、何をどうしてか3人の弟子入り志願になってしまった。

アシュレイ―――本名をアシュレイ・ロンド。後の時代、セイバーの名家として名を馳せるロンド一族の始祖。

周囲に流され、自身も志願したアシュレイの双子の弟アスタル・ロンド。

この兄弟とは近所付き合いがあった少女―――ユーリア・イグナード。

そして、極東の地から武者修行にやって来た風来坊ライカ・シンドウ。

新しい仲間を迎え、色々と盛り上がるレインフィール研究室内。アーサーは大きな溜息を吐いて、頭を抱える。

個性的な面子の中で、常識人枠の彼はこれからどうなってしまうのか……と、先行きに不安を感じた。

―――これが、後世のセイバーとガーディアンといった戦士達の先駆者“始まりの者達”。その最初期メンバーが集った瞬間であることを、この時の彼等は知る由も無かった。



・2022年07月07日/誤字を修正しました。
・2022年07月06日/タイトルを変更、文章を大幅に加筆修正しました。



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