♪BGM ドヴォルザーク 交響曲 第9番 ”新世界より” 第4楽章

 

──標準暦10月8日17時07分/ファンベルグ星系・惑星ケムニッツ周辺──


ミスマル・ユリカの夢は現実になろうとしていた。

「来る!」

 直後に警報が鳴り響く。オペレーターのルリの声だけが艦橋中を疾風のごとく駆け抜ける。

 「敵艦隊発見! 12時方向、正面です。仰角11度、数およそ1万隻。接触時間まで6分です」

 ルリが表示したデーターを瞬時に確認し、ユリカはすばやく全艦に命じた。

 「全艦、総力戦用意! エステバリス隊、スパルタニアン部隊は直ちに出撃準備。また、総司令部および第10、第13艦隊に緊急連絡! 『我、敵艦隊と遭遇、これより交戦状態に入ります』と」

 「了解しました」

 メグミの応答がユリカの耳に届いたが、司令官の思考はすでに眼前の帝国軍に向けられていた。

 一個艦隊じゃない。けれど数で負けている……

 ユリカは、徐々に光群が明確に浮かび上がるメインスクリーンを凝視した。きっと今ごろ全ての艦隊は帝国軍の攻撃を受けているはず。援軍は望めない。私たちは私たちの力で危機的な状況を切り抜けなければならない!

 ユリカの瞳に「負けられない」という決意がこもる。実際、負けるわけにはいかないのだ。ウランフやエドワーズ議員との約束を守るため、多くの将兵を一人でも多く故郷に生還させるため、ラップ少佐のような犠牲を出さないため、彼女はここで負けるわけにはいかないのだ。それはユリカ個人が過去経験したことのない大きな試練でもあった。

 ルリの声がした。抑制されているが緊張感は隠しようがない。

 「帝国軍艦隊、速度変わりません。錐行(すいこう)陣形のまま砲撃可能距離に近づきます。およそ1分です」

 「そのまま待機です。敵をなるべくひきつけます」

 戦術スクリーンが表示する戦況図はリアルタイムで変化している。赤が帝国軍、青が同盟軍だ。青の同盟軍がじっと機会を狙っている狩人ならば、帝国軍は天敵を発見して逃げるどころか猛然と襲い掛かろうとしている獣に近い。

 徐々に赤色の帝国軍が、ユリカが想定して分別した四つの宙域のうち、一つ目の宙域に向って近づいてくる。

 ルリが報告した。

 「帝国軍艦隊、有効射程距離に到達します。敵先頭集団グリーンゾーン突破まであと1分!」

 敵の先頭集団だけで3000隻。数の少ない私たちは初撃に全てがかかっている。砲火を集中して圧倒し、敵をなんとか罠に引きずり込まなければ生き残ることはできない。

 「敵艦隊先頭集団、グリーンゾーンを突破……砲撃してきました!」

 帝国軍のビームが味方の艦首を叩いたが防御スクリーンがそれをたやすく弾き飛ばし、粒子の光を周囲にちりばめる。

 「慌てないでください。まだ遠いです、敵の挑発に乗ってはいけません。全艦、指示あるまで砲撃を厳禁。落ち着いて敵艦隊との距離を保つようにしてください」

 通信士のメグミが応答し、すぐに全艦に指示を伝える。だが、ルリがそうであるように、誰もムダ口を叩く者はいない。それぞれの呼吸音が聞こえてきそうなほどだ。こんなにも張り詰めた艦橋はユリカも初めてだった。

 「帝国軍艦隊先頭集団、イエローゾーンに侵入しつつあり。全主砲射程距離到達まであと2分です」

 「こらえてください。全艦、進軍する敵先頭集団前面に狙点を固定しそのまま待機。ギリギリまで敵を引き寄せます」

 ユリカの拳に力がこもった。ついに私たちは扉を開いた。かつて経験したことも想像もできなかった銀河規模での艦隊戦! 私にとって初めての組織戦、初めて……なにもかも初めてづくし。

 けれど私は落ち着いている。緊張も集中もしているけど恐怖はない。とても不思議だわ、今戦場で数百万人にのぼる命と数万隻の艦隊と向き合っている私は私じゃないみたい。

 でも絵空事じゃない。私たちが望んだこと、私たちが選んだこと。たとえこの手が血に染まろうとも、現実から目を逸らさないと決意した。自分に嘘がつけないから、成すべき事を成し、多くの人を助けたいから──

 ──なによりも後悔しないために私は今ここにいる!

 戦術スクリーンを凝視したままのユリカの右手が軽く挙がる。赤い表示の帝国軍艦隊の速度が増した。ルリが再び報告した。

 「帝国軍艦隊、速度を増し、レッドゾーンに侵入! 先頭集団、主砲射程範囲に完全に入りました」

 ユリカの右手が一気に振り下ろされた。


 「撃てっ!!」








闇が深くなる夜明けの前に

機動戦艦ナデシコ×銀河英雄伝説






第六章(前編)


『前哨戦! ミスマル艦隊 VS ミュラー艦隊/ファンベルグ星域会戦』




T


 数十万本のエネルギーの矢が帝国軍先頭集団を直撃した。たちまち防御スクリーンの限界値を超えた帝国軍艦艇が船体を貫かれて火球に包まれる。叩きつけられた膨大なエネルギーの束は帝国軍を圧倒し、その奔流が中央部に位置する敵先頭集団をよろめかせ、陣形を乱そうとしていた。

 その只中、同盟軍に向って突進していた帝国軍巡航艦ソリンは、ナデシコが放った重力波砲の直撃を受け、同盟・帝国を通じて初めて『グラビティーブラスト』によって撃沈された艦艇として不名誉な記録を残すことになった。

 「敵の攻撃の的になるな! 各部隊は艦列を開いて集中砲火を避けよ」

 帝国軍旗艦リューベックの艦橋でナイトハルト・ミュラー少将は的確に指示した。ラインハルト陣営に属する諸提督のなかでは一番若く、砂色の瞳と頭髪を有する鋭気あふれる26歳の青年提督である。長身と言ってもよいが、左肩がやや下がっているのは戦傷のためだった。彼は新たに確認された同盟軍第14艦隊を迎撃するため、物資の集積地を守るケスラー提督に代わり、ラインハルトに任地より招集されたのである。

 ラインハルトは、戦いに先んじてミュラーを「中将」に昇進させようとしたが、

 「まだ功を立てたわけでもないのに昇進するわけにはまいりません。恐れ多いことですが小官は納得しかねます。戦いが終わり、ローエングラム伯がなお小官に功ありとご判断され、小官も納得した場合のみ昇進を受けるものであります」

 と言って固辞した。ラインハルトはミュラーの誠実さともっともな理由に感心し、少将のまま若い有能な提督を参戦させたのである。

 「敵に砲撃の狙点を絞らせるな! 中央は後退しつつ両翼を広げて半包囲陣を敷け。こちらのほうが数は多い。敵を逆撃せよ」

 ミュラーの指示にあわせ、集中砲火を受けていた先頭集団が進撃をやめて後退する。それに呼応して両翼が広がり、帝国軍の砲火が逆に同盟軍艦隊の両翼に集中した。

 「くっ!」

 ユリカの表情がわずかに苦悶にみちたものとなった。初撃の集中砲火は功を奏したはずだが帝国軍は崩れず、無理な進撃を中止して先頭集団を後退させ、あっという間に秩序を回復してしまったのである。さらにユリカが突出しようとする味方を抑えている間に帝国軍の両翼がきれいに展開され、今度は第14艦隊の両翼が激しい砲火にさらされることになっていた。

 ユリカは、帝国軍司令官の能力と対応の素早さにうなりつつ、そのような有能な人物を相手に戦局を切り抜けねばならない困難さを痛感した。

挿絵

 「全艦、C宙域まで後退!」

 ユリカは、開戦早々、後退を命じた。当初の予定から大幅な前倒しである。なぜなら初撃の効果が失敗した時点で砲撃を続けても、このD宙域では第14艦隊が半包囲されかねないのだ。

 便宜的に区別した四つの宙域のうち、第14艦隊は当初のD宙域からC宙域に後退を開始した。敵の攻勢を考慮にいれ、充分反撃体制を整えてである。

 早い後退は仕方がない。帝国軍司令官の能力はユリカの予測を超えていたのだ。だが、ある意味、敵に圧倒される状態で後退できたのはよかったのかもしれない。ユリカが用意した罠が効果を上げるか否かは、それを見破られずに如何に特定宙域まで後退できるかにかかっているのだ。初撃に失敗はしたが、帝国軍の司令官はさすがにまだそこまで気づいていないようだった。

 「叛乱軍、後退します」

 オペレーターの報告に頷きつつ、ミュラーは戦術スクリーンを一瞥して命じた。

 「敵の後退に合わせてこちらは攻勢を強化する。全艦、陣形を凸陣形に再編しつつ、敵艦隊中央部に砲火を集中せよ」

 両翼を広げた状態からあっという間に攻撃陣形に再編されてしまった光景を見て、ユリカならずとも艦橋人員の誰もが感嘆の唸り声を漏らす。

 「ヤン提督がローエングラム陣営の層は厚いって言っていたけど、本当にその通りだわ」

 相手を正当に評価することこそ正しい認識と判断を生むものだ。帝国軍の司令官を評価することは経験の乏しいユリカにとって自分を成長させる上でも重要なことではないか?

 (どんな人なんだろう?)

 ユリカは、戦闘の最中にそんなことを考えながら後退の指揮を執った。

 
 一方、敵側の美人艦隊司令官に「うわさ」されていることなど露とも知らない青年提督は、全艦に一斉砲撃を命じていた。

 「ファイエル!」

 今度は、同盟軍の中央部めがけてエネルギーの矢が怒涛のごとく突き刺さった。集約されたビームがエネルギー中和磁場の限界を超えてシールドを突き破り、装甲が耐えかねて悲鳴をあげ、巨大な戦艦は次々に爆発し、虚空の闇に爆円の炎を無数に描き上げた。

 ナデシコの周囲にも砲火が及び、目の前でシールドに阻まれた中性子ビームが拡散して粒子の結晶を四散させる。

 しかし、ユリカは慌てていなかった。敵艦隊との距離を保ちながら、初めての艦隊指揮とは思えない手腕を発揮し、整然と言ってもよい状態で後退できていたからだ。

 プロスペクターやゴート・ホーリーから見ればたしかに見事といえたが……
 
 帝国軍艦隊の動きが鈍った。ユリカは攻勢命令を出さずにそのまま後退を続ける。敵艦隊との距離がやや開き、ユリカはC宙域に艦隊が近づいたこともあり、多少後退速度を緩めた。

 その直後だった。

 「えっ!?」

 突然、狙い済ましたように帝国軍が急進し、一斉に砲撃を浴びせかけてきたのだ。ナデシコのメインスクリーンが爆発の光芒に彩られる。

 ユリカは慌ててさらに後退を命じた。だがこのとき艦隊行動そのものが急な命令に連動しなかった。味方の前衛部隊1500隻あまりが本体から孤立し、帝国軍に半包囲される形で次々と宇宙の深淵に消えていく。

 「なんてことをしてしまったの!」

 ユリカは悲痛な声とともに後悔したが、前衛部隊は全滅を免れた。左翼部隊2500隻を指揮するラルフ・カールセン准将がすばやく反応し、麾下の艦隊を時計回りに展開して帝国軍右翼部隊に側面から強烈な集中砲火を浴びせたのである。そこにユリカ率いる本体も駆けつけた。敵の前衛に砲火を集中し、ひるんだところを見計らって味方を後退させることに成功する。

 しかし、この一連の戦いにより、ユリカは早々に400隻以上の艦艇を失い、およそ5万人あまりを戦死させた。

 半個艦隊の第14艦隊にとって決して無視のできない痛い損失である。そして彼女のまずい判断によって5万人の命、5万人の可能性、5万人の未来とその家族の生活を奪ってしまったのである。心の底から湧き上がるしめつけられるような胸の痛み、押しつぶされそうな重圧と後悔の念……

(今までの私は、まだ本当の戦争を知っていなかったんだわ……)

 ユリカは拳を握り締め、一瞬の気の緩みと状況判断の間違えが大きな損害につながるという恐怖を、敵味方双方からあらためて叩き込まれることになった。









U

 ユリカには己の失敗を悔いている時間は与えられなかった。当初とどまる予定だったC宙域からB宙域に後退を始めていた。艦隊陣形を密集させつつ後退し、反撃する手腕は(おおむ)ね凡将のなせる技ではない。

 しかし、ユリカよりはるかに実戦経験に富むミュラーにとって感心することであっても驚くことではなかった。帝国軍は同盟軍の反撃をたくみに防御しつつ、その相対距離を確実に詰めていた。

 ──18時24分──

 双方の距離が100万キロを切ったとき、ミュラーが仕掛けた。

 「ワルキューレを出せ! 近接戦闘に移行する」

 腕状の兵装ユニットを左右にもつ白銀の戦闘艇が次々と母艦を離脱していく。その光景は金属で造られた戦艦から光の粒子が宇宙へ放たれているように幻想的ですらあった。

 ナデシコでは、オペレーターの美少女が帝国軍の動きをすばやく察知していた。

 「帝国軍の戦闘艇が発進しました。数およそ12000機」

 うそでしょう! と操舵士のミナトがうめいた。なぜなら前衛部隊からの発進だけでその数だからだ。こうなるとウリバタケが懸念していた「空母の多い部隊と当たってしまった」と言わざるをえない。ただ、帝国の巡航艦や戦艦にはいずれも3〜10機程度の母艦能力があるから、前衛部隊が全ての艦載機を発進させればそのくらいの数にはなるのである。

 「こちらもスパルタニアンとエステバリスを出撃させます。ホーリーさん、戦闘指示をお願いします」

 「承知した」




 愛機のコックピット内で待機していたスバル・リョーコは、スピーカーから流れる出撃命令を受け、両手で自分の頬を強く叩いた。もちろん気合を入れるためである。

 「ついに来やがったか」

 ハッチが閉まり、計器類が一斉に活動を始める。リョーコはそれらをすばやく目で点検し、異常がないことを確かめる。

 不意に、リョーコの目の前に複数の通信スクリーンが現れた。

 その中の眼鏡っ娘が愉快そうな声でリョーコに言った。

 『ねえ、ねえリョーコちゃん、むこうは前衛部隊だけで12000機だってさ。こっちは全体でも20000機くらいっていうのにねぇ……』

 あまり深刻そうに聞こえないのがアマノ・ヒカルの特徴ではあるが、不思議と安心感を覚えてしまう持ち味でもあった。

 リョーコは一笑に伏した。

 「ふん、数の不利なんか毎度のことだろ。今さら問題にならないね。その分、俺らが墜せばいいだけのことだ」

 乱暴な口調だが、リョーコは女性である。口を閉じていれば充分な美人なのだが、それも髪を緑に染めた男勝り系だ。強い意志で火星戦争を戦い抜いた歴戦の勇者でもあった。

 『さっすが隊長さん、かっこいい台詞だね』

 『かっこいいかっこいい、囲いはいい……隣の囲いはかっこいい……ウフ、ウフフフ』

 『みなさん、余裕ですねぇ』

 『頼もしいことだねー』

 『リョーコちゃん、しびれる台詞だぜ。さすが俺が惚れただけのことはあるぜ』

 『ねえねえ、みんな、さっきからウリバタケさんが何か言ってるけど?』

 アキトの指摘でウリバタケの映る通信スクリーンに全員が注目した。

 『いいかお前ら! よく聞きやがれ!』

 かなり声がでかい。感情にあわせて通信画面が拡大した。無視されていたことに怒っているというよりは、「一部のお調子者」に対して気を引き締める効果を狙ったのだろう。

 管制室のウリバタケがインカムにむかって怒鳴った。

 『いいかお前ら! これまでシミュレーションやらを重ねてきたが、演習は一回だけだ。それだけに不安要素もある。さらに改良した銀河フレームでの実戦は今日が初めてだ。万全を喫してはいるがムリはするんじゃねぇ、しかし集中はしろ。自分を信じ、マシーンを信じて今までやってきたことの67.5パーセントも実力を発揮できればこの戦いも生き残れる!』

 返答はそれぞれの頼もしい意志表示だった。

 ウリバタケはニヤリと笑う。

 『よーし行って来い! お前らがエステで証明してやれ』

 「「「「「「「了解!!」」」」」」」

 最初に重力カタパルトの射出位置に立ったのは、やはり切り込み隊長たるスバル・リョーコだった。ノーマルの愛機と同じく赤く塗装された「銀河フレーム」がやや前傾した状態で射出準備を整える。

 『よし、出撃タイミングは委譲するぜ』

 ウリバタケの指示の直後、リョーコは猛々しく怒鳴った。

 「スバル機、出るぜ!」

 銀河フレームのエステバリスが一気に重力カタパルトを滑る。当然パイロットにGが掛かるが、リョーコにはそれさえも心地よい刺激でしかない。

 戦場に飛び出したスバル機の横をビーム砲が通過する。もちろん当たるものでないことは充分認識していた。だが、前方から次々に虚空を疾走するエネルギービームの膨大な数の筋は圧巻だった。

 リョーコの目の前に再び通信スクリーンが次々に現れた。イズミ、ヒカル、イツキ、アカツキ、テンカワ、タカスギの6名である。

 「よし、全機揃ったな! 敵を墜せよ。 散開だ!」

 「「「「「「了解、隊長!」」」」」」

 スバル機は正面の戦場宙域に急行する。相転移エンジンの出力は申し分がない。

 「これでディストーションフィールドを消したらもっと加速すんじゃね?」

 そのとき、戦場を行き交うエネルギービームの後方から帝国軍の戦闘艇が躍り出た。

 「よし」

 しかし、リョーコが照準を合わせる前に突然宙をけって急下降した。もしかしたらワルキューレのパイロットは見たこともないエステバリスに驚いたのかもしれない。

 「ちぃ!」

 リョーコは舌打ちした。急角度からワルキューレの放ったレーザービームが展開したディストーションフィールドを弾いたのだ。「回避率を上げろ」というウリバタケの忠告をいきなり反故にしてしまったかっこうだ。

 「思ったよりも360度の射角ってのは厄介だぜ」

 アスターテで得たワルキューレのデーターを基にシミュレーションを繰り返したが、実際の戦闘だと周囲の状況がめまぐるしいため、高機動下で敵の射角に慣れるには多少の時間が必要なのかもしれない。

 ワルキューレが今度は果敢に挑んできた。高速で接近しつつ次々とレーザーをスバル機に叩き込むが、リョーコはたくみにIFSを操って全てかわし、交差して振り向き様にラピッドライフルを放つ。ウラン238弾が旋回途中の敵戦闘艇の武装ユニットに命中し、爆発した。

 「よしよし、こんな感じかな」

 直後に10時方向から別のビームがほとばしった。リョーコはとっさに新装備のディストーションシールドを張って防御する。

 「ちっ、新手かよ」

 舌打ちしたわりには実に楽しそうである。2機のワルキューレはひるむことなくぐんぐん迫ってくる。

 「上等じゃねえか!」

 1機撃墜してリズムを掴んだのか、リョーコは愛機をワルキューレめがけて突撃させた。2機のワルキューレは驚いて散開しつつレーザーを撃ち込むが、射線を読んでいたリョーコは難なくかわし、左方向を先回するワルキューレの背後に回りこんで射撃スイッチを押した。

 たちまちエンジン部分に被弾したワルキューレが火球となって消滅する。その爆発炎をかいくぐってあらぬ方向から逆にもう1機のワルキューレを仕留めることに成功した。

 「まずまずだな」

 リョーコは周囲を警戒しつつ、表示された機体データーを確認する。損傷はない。ヒカル、イズミ、イツキ機とも健在だ。アカツキ小隊も特に問題はないようだ。

 「ああん!?」

 リョーコは不快な声を上げて片眉を吊り上げた。母艦から送られてきたデーターを見ると、ヒカル機とイズミ機がすでにそれぞれ5機も撃墜しているではないか。

 「あいつら淡々と撃墜しやがって……」

 敵戦闘艇の接近を知らせる警報が鳴った。右上方から一機、正面から2機だ。

 リョーコの口元が興奮を抑えられないとばかりに歪んだ。

 「全部墜せば俺が一番だ」






 エステバリスの活躍を確認し、ユリカはウリバタケ以上にホっとした。今のところエステバリスの運用は予想以上に上手くいっている。技術側とパイロット側とが綿密に連係して努力したからだろう。全体的な数では負けているが、同盟軍空戦部隊はエステバリスの活躍もあり、かなり善戦しているといってもよい。ツクモ中佐とスールズカリッター大尉が信じられないと唸るように、7機のエステバリス部隊だけで80機近い戦果を挙げている。

 ユリカは、各機が表示されたデーターを見た。アキトも5機の撃墜数だ。一回の出撃で挙げられる戦果としては申し分ない数字である。彼自身の成長を反映した結果といえる。

 が、最初、多くの近親者は青年が引き金を引けるかどうかかなり心配していた。どうやらそれは杞憂に終わったようだった。テンカワ・アキトも充分覚悟を決めたのだろう。でなければ優しい青年がこんどこそ人の操縦する機体に向かって引き金を引けるはずがない。

 青年に多くの葛藤がともなわなかったのかといえば、「多くの葛藤の結果だ」としか答えようがなかっただろう。

 アキトもまた、ナデシコを失うことなくこの銀河規模の戦争を戦い抜くには、個人の未熟な平和主義など何の解決にもならないことをアスターテで知ったのだ。いや、すでに木星蜥蜴との戦争を通して学んでいたはずだった。

 しかし、アキトは現実を完全には受け入れていなかった。どこか「非現実」──ゲキガンガーの世界が投影され、正義の心と熱い魂があれば平和を築けると信じていた。

 そうではなかった。親友を失い、戦友を失い、多くの不幸を生み出しながら戦いは続いたのだ。戦争の根本はアキトが解決できるほど浅い理由ではなかった。

 今思えば、演算ユニットを誰の手の届かない場所に放逐したとしても、ほとんど叛乱したナデシコの未来は閉ざされていたのではないだろうか? 地球に戻ったとしても平和は一時的に過ぎず、何の解決にも至らずに多くの課題を残したまま逆に問題を大きくしただけではなかったのか……

 アスターテ以降、ものの考え方を改めたアキトにはどうもそう思えてならなかった。ならば、はるか未来の戦争の時代にある自分は今後どうすべきなのか?

 それは更なる「覚悟」にほかならないだろう。

 アキトは、虚空の戦場を飛翔しつつ、自分に宣誓した。

 「俺は、みんなを守るために厳しい現実を受け入れる」




 奮戦するテンカワ機を戦況スクリーンに映しつつ、ユリカは低く呟いた。

 「アキト、つらいと思うけど、アキトなら乗り越えられるはずだよ……」

 艦隊はなんとか帝国軍との距離を維持したままB宙域に後退しつつある。最終的に数の不利は免れないだろうから空戦部隊の撤退はやむをえないが、制宙権を簡単に奪われるわけにもいかず、もう少し、もう少し空戦部隊にはがんばってもらうことになりそうだった。

 今の状況ならそれは充分可能だとユリカは考えた。

 しかし、戦う相手の恐ろしさを彼らは思い知ることになるのだ。

 衝撃にみちた戦場の第二幕が上がろうとしていた。








V

 旗艦リューベックの艦橋では、ナイトハルト・ミュラー提督が彼よりさらに年齢の若い副官ドレウェンツ中尉から、同盟軍側に突如として現れた謎の人型機動兵器の報告を聞いていた。

 「……確認された機体は7機。全高は18メートル前後、機動性能も高く、我が軍のワルキューレは苦戦を強いられております。全体的に我々の優勢は変わりませんが、E1宙域ではすでにわずか40分あまりの戦闘で100機以上が撃墜されており、損害が無視できぬものになりつつあります」

 「その機動兵器を1機も撃墜できていないのか?」

 「はい。どうも単機で防御スクリーンを展開できるようです。標準の兵装では太刀打ちできません」

 その事実にさすがのミュラーも驚いた。

 「単機で防御スクリーンだと?」

 「はっ。オペレーターの解析結果ですが、通常使用される磁気・重力場スクリーンタイプではなく、空間を歪曲した類と推定されます。事実、正面から撃ち込まれたレーザーが機動兵器に着弾する前に軌道を大きく外れたという報告が届いています」

 「…………」

 ミュラーは考え込んだ。なぜ今さら人型機動兵器なのか、という疑問は後回しにして、無視できない損害を抑えるために早急に対策を立てねばならない。このままではわずか7機の機動兵器に空戦部隊は大損害を受け、制宙権を確保できないばかりか、敵の機動兵器にいいように席巻されてしまう。しかも彼の指揮能力にも関わってくるのだ。

 「さて……」

 機動兵器の展開する防御スクリーンが空間を歪曲させたものなら光学兵器の類は事実上役に立たないと考えたほうがよい。そうなると対抗できる手段としては質量兵器か実体弾しかない。さすがにワルキューレの兵装を今すぐ全て転装するだけの時間はない。ともすれば敵を艦砲の射程内に誘い込み、もってその主砲で仕留める手がある。

 が、追い詰めることのできる兵装を搭載したワルキューレが存在しない……

 「……どうしたものかな?」

 いや、存在した。撃墜も可能な装備をしたエリート部隊が我が軍に編入されたではないか!

 ミュラーは指を鳴らして副官に指示した。

 「黒十字架戦隊を全機、人型機動兵器迎撃にまわすのだ。彼らなら仕留めることも可能だろう」

 なるほど、と副官は相槌を打った。本来ならキルヒアイス艦隊所属だが、ミュラーにキルヒアイス艦隊から戦力が配分された際、敵艦隊との接近戦に有利になるとして、中将が帝国軍空戦部隊きってのエリート部隊をミュラー艦隊に編入してくれたのだ。

 「ではすぐに命令を伝えます」

 ドレウェンツ中尉はすみやかに通信オペレーターのもとに駆けていった。






 一仕事終えた「そいつら」は、母艦のパイロット詰め所で休憩をとっていた。彼らが出撃した宙域では制宙権が確保され、スパルタニアンを二桁撃墜した隊員も少なくない。しかも彼ら側の損害はゼロである。

 極めて士気の高い彼らのもとに席を外していた隊長が姿を現した。

 「俺たちに特別任務だ。それもかなりTraum(トラウム)な敵と一戦せよというお達しだ」

 短く黒髪を刈り上げた眼光鋭い男が不敵な面構えの部下たちを見渡した。

 「きさまらも耳にしたと思うが、E1宙域に現れた叛乱軍の新兵器らしい人型機動兵器がやりたいようにやっているということだ」

 ほう、という呟きが各人から洩れたが、驚いたというより「何をいまさら人型とは」という嘲笑の意味合いが強い。

 「で、リヒトフォーフェン隊長、その機動兵器を我々で仕留めろということですか?」

 隊員の一人が発言した。軍人とは思えない茶褐色のクセのある長髪を有し、額にたれた前髪をキザにかき上げている。眉目は整っており、まず端正な顔立ちといってもよい。ただどこかふてぶてしさも垣間見える顔である。

 彼──アルフレート・ノヴォトニー少尉は20歳である。15歳のときに帝国軍空戦部隊に入隊し、現実の厳しさを学びつつパイロットとしての道を歩んでいる。

 その前はラインハルト・フォン・ミューゼルという金髪の生意気な少年と同じ学校に通っていた。ノヴォトニーは裕福な平民家庭に育ったため、貴族の子弟との付き合いも少なくなかった。当時の少年の心理は歪んだ優越感と権力欲に支配されていた。

 そのためか貴族とはいえ名ばかりのミューゼル家を蔑み、ラインハルト少年といさかいを起こしたことも一度きりではない。その対立もラインハルトの姉が後宮に入ったため10歳のときにライバル? とは別れたが、ノヴォトニー少年が軍隊に入隊した当初の理由は半ば蔑んだラインハルトに対する競争意識からだった。

 それは軍隊に入隊してあっさりと崩壊したわけだが、ラインハルトとは違う方法で彼は自分の道を探り出したのである。

 ノヴォトニーにとって帝国暦485年のヴァンフリート星域会戦が初陣だった。彼はこの初陣においてスパルタニアン5機、巡航艦を1隻完全破壊という戦果を挙げ、己の才能に自信を持つに至った。
 
 その後、一時的にラインハルト麾下のワルキューレ部隊に所属。そこでも武勲を重ね、19歳という若さで並外れた空戦技術の素質を見込まれて帝国軍空戦部隊きってのエース部隊「黒十字架戦隊」に転属。以降、空戦部隊エリートの道を歩んでいる。


 「その通りだ、ノヴォトニー少尉。我々は母艦ごとE1宙域に移動し、全機をもって不逞な機動兵器を血祭りに上げる」

 隊長は再び室内を見渡す。怖れる者は存在しない。全員やる気満々である。表情が鋭くなっていた。

 隊長は、部下たちの士気の高さに満足げに頷いた。

 「よし。今から判明している敵の情報をもとにブリーフィングを行う。前時代的な人型機動兵器など我々にはなんの意味も成さないことを思い知らせてやろう」

 「おおっ!!」

 彼らの咆哮は、幾度も死線を越えた頂にある自信の表れだった。


 帝国軍空戦部隊「黒十字架戦隊」の定員は26名で構成される。いずれも空戦技術に驚異的な技量を有する隊員たちであり、艇体側面に描かれた「黒い十字架」が彼らの部隊マークだ。それは敵にとっての「不幸」であり、味方にとっての「幸運」につながっている。

 彼らが駆るワルキューレの外観は通常と変わらないが、その推進力は彼ら用に強化され、通常の倍近い加速を得ることが可能だった。また武装はオールレールガンである。弾数に限りのあるレールガンを使用することによって如何に効率よく敵を仕留めることができるか、エースパイロットとしてのこだわりと矜持が彼らにはあった。

 「──よし、だいたい頭に入ったな。叛徒どもには悪いが出てきた新兵器を残らず原子に還元してやろう」

 隊長は気合を入れるように叫んだ。

 「きさまらっ! 出撃準備だ。ヤツラを狩りつくせ!」







 つい先刻までワルキューレを圧倒していたエステバリス隊は、一転して苦戦に立たされていた。

 「ちぃっ! こいつらデキる!」

 放ったウラン238弾はするりとかわされ、リョーコ機は3機のワルキューレに半包囲された状態から一斉にレールガンの集中攻撃を受ける。ディストーションフィールドの出力を上げて展開し、かろうじて防御するが衝撃はすさまじく、18メートルの巨体が後方に勢いよく吹っ飛んだ。

 「ぐっ……」

 Gに耐え、左右から再度放たれたレールガンをとっさのIFS操作でスラスターを全開にしてかわし、そのかわしざまにライフルを連射して正面から迫るワルキューレを牽制する。

 「一体どういうことだ? さっきまでのワルキューレの動きとはまるで違うぞ。こいつら別の部隊だっていうのか?」

 確かめている余裕はない。リョーコ機に挑むいまいましい3機のワルキューレが急旋回して再び立ちはだかった。

 「いい動きじゃん。だがお前ほどの腕のヤツは俺らの部隊では普通なんだよ。命令で単機で挑めんのが残念だがな」

 ノヴォトニー少尉がヘルメットの下から敵の機動兵器のパイロットに向って罵った。表情は暗色のバイザーによって定かではないが、倒せない相手ではないという余裕が感じられる。とはいえ、敵のシールドは想像以上に強力だった。ワルキューレのレールガンをもってしてもかなり近距離からではないと簡単に貫けそうにない。

 「よし、予定通りやるぞ」

 三角陣形で近づいた3機のワルキューレは途中できれいに三方に散開し、リョーコ機を追い込むべく兵装ユニットを展開していた。

 レールガンが至近から射出された。逃げ場は水平方向しかない、急加速するが突然警告音が鳴り響いた。

 「やばい、罠か!」

 巡航艦の射線に誘導されていたのだ。

 巨大な青いエネルギーの光がリョーコの目の前に迫っていた。









W

 ダンッ!!

「ちっくしょう! あんなヤツラがいたのかよ」

 優勢を覆された事実を知ってウリバタケは格納庫の壁を叩いた。彼のもつ端末には被弾して帰還途中のリョーコ機と巡航艦の主砲をまともに喰らってボロボロの状態のテンカワ機がイツキ機とタカスギ機に肩を担がれた状態でナデシコに向ってくる映像が流れていた。

 「ちょっと忘れていたぜ、意外性ってヤツをな……」

 全機の帰投命令もすぐに発せられるだろう。エステバリスの活躍よってかろうじて支えられていた制宙権の維持が帝国側の戦術の変化で押さえ込まれ、数で圧倒するワルキューレ部隊に制圧されてしまったのである。被弾していないエステバリは存在しない。特にリョーコ機をかばったテンカワ機は無残なものだった。

 「担架もってこい! はやくしろ!」

 テンカワ機に中和剤が散布され、怒声が飛び交う中、整備班が防護服をまとった状態でコックピットを守るように抱えられた右のマニピュレーターをどかした。ハッチを強制的に解放すると計器類に頭をぶつけたのか突っ伏した状態で血だらけのテンカワ・アキトが倒れている。幸いにも息はある。慎重に医療用自走担架に乗せられ、すぐに医療室に運ばれていく。その後を頭に包帯を巻いたリョーコとタカスギ少尉が追っていく。

 「くそっ、恐ろしいぜ」

 ウリバタケは、頭部と左腕・右脚を吹き飛ばされたテンカワ機をやり場のない気分で見つめていた。万全は喫していたはずだった。だが、特殊部隊の存在までは考慮に入れていなかった。

 いや、あのワルキューレだけが相手ならばエステバリスは苦戦しつつも優勢は確保しただろう。事実、エステバリス隊はテンカワ機が大破したが、その他は被弾しただけで相手のワルキューレを3機撃墜している。

 そう、恐るべきはハードウェアではなく、ソフトウェア──帝国軍の対応の早さだ。レーザー兵装のワルキューレではかなわないと判断するや、すぐに実体弾兵器を搭載したワルキューレをぶつけてきたことだ。しかも徹底している。得られた情報をもとにエステバリスに対抗できる手段と有効な戦術に切り替えてきたのだ。艦砲の射線に誘い込むなどまさにそれだろう。

 「集団戦術……見事だぜ」

 どんなに性能の良い兵器を投入しようとも、敵に抗うだけの知恵と対抗策があれば決して絶対になり得ないという事実を、わずか90分という短い時間の中でウリバタケとエステのパイロットたちは思い知ったのだった。







 「じゃあ心配しなくても大丈夫だから、少将は指揮に専念しなさい」

 イネス・フレサンジュからの通信が届くと、ユリカを含む艦橋人員が安堵のため息を漏らした。アキトは軽い頭部裂傷と胸部の打撲、右手首に捻挫を負っただけで命に別状はないということだった。巡航艦の主砲を至近で受けたとき、とっさにディストーションフィールドの出力を上げて展開したのが功を奏したらしい。まともに喰らっていれば跡形もなく消し飛んでいただろう。

 だが、今のユリカは歯をくいしばり、じっと耐えて指揮を執り続けた。彼女はもうナデシコだけの艦長ではないのだ。数十万人という将兵に対して責任をもつ艦隊司令官なのである。

 もっとも、ロスト報告直後にタカスギ機からテンカワ機を救出する旨の通信が入ってなければ、どんな行動をとったかは微妙だ。

 「閣下、エステバリス隊およびスパルタニアン部隊の残存機、全て収容完了しました」

 副官スールズカリッター大尉の報告を聞き、ユリカは命じた。

 「全艦、半月陣形を保ったまま、攻勢に転じるおそれのある敵艦隊を牽制しつつ、A宙域まで後退」

 B宙域は制宙権を奪われ、これ以上とどまる理由がなかった。敵を殲滅することでも、味方を全滅させることが目的ではなく、イゼルローン方面に撤退することが目的なのである。幸いにも敵に罠の存在を気づかれず、紆余曲折はあってもどうにか後退できているではないか?

 「いけない、いけない」

 ユリカは、反省の意味も込めて自分の頭を軽く叩いた。油断してはいけない。詰めを怠れば司令官の能力と戦力の劣る第14艦隊はあっというまに瓦解してしまうだろう。本当に安全圏に撤退できるまでは気を抜くことは許されない。一人でも多くの将兵を故郷に生きて還すことが私の今なすべき責務なのだから……

 ──宇宙暦796年、10月8日20時22分──

 第14艦隊は戦力を減らしつつも陣形と秩序を保ったまま、ゆっくりと後退する。

 戦場の第三幕が上がろうとしていた。










X

 「叛乱軍、後退していきます」

 オペレーターの報告にミュラーは頷く。エース部隊の活躍によって人型機動兵器の動きを封じ、制宙権を手に入れることには成功したが殲滅までには至らなかった。報告では一機を巡航艦の主砲で蹴散らしたものの戦果は不明。逆にこちらはエース部隊のワルキューレ3機を失っている。目的こそ達成したが、26対7という比率を考えれば彼ら的には敗北となるだろう。

 「前時代的な人型機動兵器など」

 とバカにしていたパイロットたちも、予想を超える性能には舌を巻いていつになく本気になったというから、今後、再出撃があればさらに気を引き締める必要がある。また戦力の少なさから人型機動兵器はテスト機ではないかという意見が幕僚内を占めている。同盟軍が本格的に導入にふみ切ればかなり厄介な存在になるだろう。帝国軍戦闘艇の運用と戦術に大きな変化が訪れるかもしれない。そのとき、今日のデーターは重要なものになるはずだ。

 年長のオルラウ参謀長がミュラーに確認した。

 「閣下、攻勢をかけますか? 敵の動きが鈍いように思われます」

 ミュラーは気持ちを切り替える。

 「そうだな。敵もなかなか粘るが制宙権を確保した今、一気に攻勢に出て膠着状態を打破しよう」

 ミュラーは、この時点で一見整合性にみちた艦隊行動をとっている敵の艦隊が時折たがが外れたように動く様子を目撃し、その三分の一ほどは錬度の低い新兵ではないかと疑っていた。

 ともすれば今まで表に出てこなかったのも頷けた。もともと後方支援を目的に編成された艦隊が、ローエングラム伯の戦略にはまって物資の欠乏した前線の味方に援助物資を緊急に運ぶ羽目になり、最前線に駆りだされたのだろう。そう考えればミュラーが相手にしている同盟軍艦隊がギリギリになって現れた理由に納得の説明がつくのだ。公式に発表されていないのも判断の材料になった。

 「よし。敵の後退にあわせて攻勢を強化する。全艦に隊列を整えるよう指示。砲撃目標を指定する」

 「はっ!」

 ミュラー艦隊が第14艦隊の動きに追従するように整然と前進を開始した。

 「ファイエル!」

 ミュラーの砲撃命令が帝国軍艦隊の隅々にいきわたり、一斉にビームが放たれる。同盟軍のメインスクリーンをエネルギーの光が覆いつくした。

 「帝国軍艦隊の砲撃が右翼に集中します」

 ルリの報告を受けるユリカの顔が険しい。なぜなら、右翼部隊の構成は新兵が中心であり、それを主力とともに指揮していたのはユリカだった。演習でかなり錬度は上がったが、重要な左翼部隊をカールセンに任せ、右翼の未熟さをなるべく補いやすいよう中央と連動できるように配置していたのだ。

 しかし、どうやら敵の司令官に見破られてしまったようである。ラルフ・カールセンの助言に従ってなんとかごまかして今まで引っ張ってきたが、相手の司令官はやはり優秀なようだ。

 (目立つほどでもなかったと思うけど、さすがだわ)

 感心している場合ではない。敵の砲火は苛烈を極め、このままだと右翼部隊が撃ち減らされてしまうのだ。

 「防御能力の高い戦艦を前面に配置して巡航艦の砲撃で反撃。中央部隊は敵の正面部隊に砲火を集中し、敵部隊間の連係を断ちます」

 さらにカールセン准将が有効な砲撃を加えてくれた。敵の砲撃が右翼に集中しているのを確認し、やや部隊を時計回りに前進させ、中央に砲火を浴びせる味方に合わせて攻撃を行い、クロスファイヤーポイントを作り出したのである。逆に中央との連携を断たれそうになったミュラーは一旦砲撃を収め、右翼の攻撃から中央部分への攻勢にシフトした。

 「叛乱軍の司令官め、新兵を抱えているにもかかわらずやるな!」

 ミュラーは中央への攻勢を強化するが、ユリカは毛頭付き合う気がなかった。さらに艦隊を後退させ、ついにA宙域に到達し、帝国軍を完全にB宙域に引きずり込むことに成功する。ここで一気に誘う必要があった。

 「左右両翼に艦隊を展開。半包囲陣を敷く”フリ”をします」

 同盟軍の動きにミュラーが反応した。

 「こちらも両翼を開いて敵の動きに呼応しろ。数はこちらが有利だ。逆に半包囲できる」

 ミュラーは命じ、同盟軍よりも迅速に両翼が広がっていくが、その両翼から悲鳴があがった。

 「なんだと!?」

 信じられないことに超光学カメラが捉えた映像には、次々と火球に包まれる味方艦が映っていた。

 「どういうことだ?」

 状況を解析していたオペレーターが叫んだ。

 き、機雷原です。左右両翼に機雷原を確認!!

 オペレーターが解析した機雷原のデーターを表示した。オルラウ参謀長が見解を述べる。

 「どうやら最初の戦場から左右に両端に薄く配置され、奥にいくほど厚く絞って配置されていたようです」

 さらに天底方向にも機雷原が確認された。ミュラーは悔しそうに舌打ちした。

 「なるほど、どうりでセンサーに補足されなかったわけだな。敵は惑星ケムニッツを利用して機雷で人工的な隘路を作り、我々を機雷原の奥へ誘い込んだというわけか」

 ミュラーの表情に緊張感が増大した。艦隊に新兵が加わっており、小細工といってもここまで迎撃準備を整え、我々に悟られずに運用するとはたいした司令官ではないか。まだなにかありそうだと思わずにはいられない。

 一方、ユリカは敵両翼の動揺に最大限付け込んだ。

 「撃てっ!」

 それまでにない火力の集中が帝国軍両翼に襲いかかった。両側面を合計300万個の機雷、天底方向を200万個近い機雷に阻まれた帝国軍は正面からの集中砲火に対応しきれずに次々と船体をビームに貫かれ、なぎ倒され、四散していった。

 「お願い! これでなんとか後退して」

 ユリカは心からそう願った。この戦いは勝利することではなく、生き残ることが先決なのだ。そのための罠だった。帝国軍に罠を悟られずにB宙域に引きずり込んだ時点で半包囲させる機会をわざと与え、両側に配置した機雷原に触れさせる作戦だったのだ。

 もちろん兵力で勝る帝国軍の動きを封じる効果も狙っていた。

 爆発の連鎖が続く。

 敵の司令官は有能だ。このまま一方的に撃ち減らされるよりは、艦隊を再編するために必ず後退するはずだ。その後退にあわせてこちらも潔く後退するのだ。

 それがユリカの構想だった。

 しかし、ミュラーは甘くなかった。


 「両翼は弾幕をはりつつ機雷原から離脱せよ。中央部隊は密集隊形をとりつつ敵の中央部分へありったけのビームとミサイルを叩き込め!」

 ミュラーの意図は明確だった。両翼を欠いてもなお戦力のある帝国軍は紡錘陣形を敷いて同盟軍中央に突進し、両翼を伸ばしたことによって層の薄くなった同盟軍中央部を突破しようとしていたのである。

 これは、帝国軍の意図をいち早く察したツクモ中佐の進言によって実現しなかった。だが、ミュラーは同盟軍が防御陣形にシフトし、砲火を一時的に弱めた間隙を突いて両翼の混乱を収拾し、陣形を再編することに成功する。

 ただ、機雷原のあるB宙域から離脱したわけではない。帝国軍はミュラー少将指揮の下、不利な地の利の中でも秩序と高い士気を維持し、第14艦隊の前に立ちはだかっていた。

 反対にユリカは唇を噛んでいた。時間をかけて用意した最初の罠を有効に活用できず、撤退どころではなくなってしまったのだ。

 「できる相手も内容によりけりね。どうせならもっと楽な相手がいいわね」

 ミナトが疲れたように呟いている。きっとメイクを直したいのだろう、少し顔に手を当てて状態を気にしている。会戦が始まってから4時間が経過しているが、罠を含め決定的な打撃を相手に与えるまでには至っておらず、一息つく時間がない。
 
 いや、並みの相手なら2〜3度は後退しているはずだ。第14艦隊もとっくに後退できているだろう。

 そうならないのは帝国軍の司令官が有能だからだ。この緊張感と戦慄はユリカと頭脳戦を繰り広げた「秋山源八郎」の比ではない。何の備えもなしに迎え撃っていれば、第14艦隊は瓦解にまで至らなくても大きな損害を被って敗走するしかなかっただろう。ミスマル・ユリカの提督人生も短命に終わっていたにちがいない。

 戦線は膠着した。どちらかというと戦力も物資も少ない同盟側にとって不利な展開だった。といって簡単に退却できる相手と戦っているわけではない。フォーク准将を歓喜させる状況になっているのだ。第14艦隊は追い込まれている。

 さてどうするか……

 ユリカはルリを一瞥した。冷静な顔だ。黙々と仕事をこなしている。『少女に頼みたい』という気持ちはあるが、女性司令官は自分でもぞっとする誘惑をぐっとこらえた。

 実は、ユリカはすさまじい戦法を胸のうちに用意していた。電子を支配するルリが存在するからこそ可能な策である。それは敵艦隊をある程度機雷原の奥に引きずり込み、自走能力のある機雷を操って左右後方から包囲する形で敵艦隊に叩きつけるという作戦だった。

 触れてもいない機雷がまさか襲ってくるとは想像しないだろうから、実に効果絶大な作戦だった。これに正面から火力を叩きつけるのだ。帝国軍は一方的に撃沈されるだろう。

 しかし、ユリカは実行をためらった。ほとんど一方的な殲滅戦法をルリにやらせたくなかったからだ。オペレーターの少女の性格からいってユリカの頼みとあらば実行したに違いない。だが、少女の心に大きな傷を残す可能性があり、ユリカ自身、気分の悪いものにならざるをえない。

 いかに追い込まれていようとも、そこまで境界を越えたくなかったのだ。

 そのときまでは……

 ユリカは別の思案をめぐらせる。

 戦場の第4幕が静かに上がった。









Y

 「帝国軍艦隊、攻勢を強めます」

 ──21時21分──

 それまで膠着していた戦線に変化があった。帝国軍が全面攻勢に撃って出てきたのだ。その火力は息つく暇もなく第14艦隊の隊列に突き刺さっていく。

 しかし、ユリカは帝国軍の自由が利かない分、目一杯陣形を厚めに配置して敵の砲撃に耐え、互角の攻防を繰り広げる。

 ──22時13分──

 突然、ナデシコの艦橋に不快すぎる警告音が響き渡った。

 「えっ? なんなの」

 ユリカの疑問にすばやく対応したルリが驚くべきデーターを表示した。

 「3時方向に敵影発見! 数、およそ2000」

 艦橋内が一瞬凍りついた。新手かと思ったクルーも何人かいたようだが数が少なすぎる。戦術スクリーンをに睨むユリカとツクモ中佐は事態をほぼ正確に洞察した。

 「やられた! 攻勢を強めていたのは別働隊の動きを私たちに悟らせないためだったのね!」

 ユリカは、思わず指揮卓を叩いてしまったが後の祭りである。ミナトやメグミは起こった事態の理由を知りたそうだったが、司令官はすぐにでも対応を決断しなくてはならない。ユリカはそのまま考え込んでしまう。

 説明してくれたのはツクモ中佐だった。あくまでも推定だが、帝国軍艦艇は同盟軍が敷設した機雷に両翼と天底を固められ陣形を左右と下方向に展開することはできない。そのために陣形は後方に伸び遊兵ができやすいのだが、帝国軍の司令官は手をこまねいているより、現在の状況を最大限利用しようと発想自体を変えたのだろう。

 おそらく後方から兵力を密かに引き抜いて機雷原の薄い部分を突破させ、同盟軍の側方を突くように命じたに違いない。

 帝国軍の攻勢が強くなったのは、その意図をたやすく悟られないためのミュラーの欺瞞だったのだ。

 「全艦、後退しつつ密集隊形、A宙域から離脱します」

 ユリカは命じた。それしか命じようがなかったのだ。敵をB宙域に留めていればこそのA宙域での攻撃だったが、敵の別働隊に機雷原を突破され、本隊と挟撃されそうになっている時点でこれまでの宙域にとどまるメリットが失われてしまったのだ。

 「せめて後方の罠の準備が整ってくれれば……」

 ユリカの頼みの綱はもう一つあった。ラルフ・カールセンとツクモ中佐の迎撃作戦案をもとに二つの罠を張り巡らす予定だった。一つ目の罠は戦闘直前に完成したものの有効に活用できずに離脱しようとしている。二つ目の罠は継続して準備を急がせていたが、第一段の罠を張った宙域で粘った甲斐もなくギリギリ間に合わなかったらしい……

 そう思っていた矢先、通信士のメグミがすばやく報告した。

 「後方の工作艦より緊急伝! 準備が整ったそうです」

 まさにギリギリギリの朗報だった。今度こそ勝負を決めねばならない。

 「提督……」

 ユリカは、スールズカリッター大尉の期待を込めた呟きに頷き、全艦に命じた。

 「全艦、密集隊形のまま7時方向にある小惑星帯に向って後退してください」

 ユリカは、一筋の光明を見出した。

 二つ目の罠にかけるしかない! 敵の司令官がどう出るかわからないけど、私たちの殲滅を目的としているなら絶対に追撃してくるはずだ。帝国軍司令官の攻撃精神を利用できればきっと……

 もう一つ、ユリカは決意していた。敵にある程度の損害を与えて後退させ、それに乗じて退却するという考えを改めることだ。敵を逆に殲滅する覚悟で戦わないと生き残れないのだ。機雷の戦法を使わなかったのがいまさら悔いが残るがもう遅い。自分は将兵たちになんと約束したのか? 一人でも多くの兵士さんを故郷に還すと約束しなかったか。アスターテの悲劇を二度と起こさないために自分は艦隊司令官になったのではなかったのか? お世話になった人たちに少しでも役に立ちたいと覚悟を決めて戦いに臨んだのではなかったのか? ミスマル・ユリカは今一度覚悟を強固にすべきではないか。

 ユリカは、甘い考えを今度こそ捨て去ることにした。


 ミスマル・ユリカのデビュー戦ともいえる「ファンベルグ星域会戦」は、後世の戦史家によって前半と後半で大きくその評価が別れている。前半は罠を有効に活用できなかったユリカの敗北。後半は前半の失敗を教訓としたユリカが逆にミュラーを心理的魔術にかけ、罠を有効に活用して勝利とするものだ。

 多くの戦史家が注目するのは後半戦における女性提督のめまぐるしい指揮官としての成長である。前半も初めて艦隊を動かし、強烈な攻撃にさらされながらも崩れることのなかった手腕は評価されているが、ちぐはぐで徹底を欠いたため及第点にとどまっている。

 しかし、後半戦における指揮ぶりと攻撃の徹底ぶりは前半を大きく凌駕しており、ミスマル・ユリカという若すぎる女性艦隊司令官の驚くべき戦術吸収能力と、名将としての片鱗を垣間見せるのである。







Z

 一方、狭い宙域からようやく脱した帝国軍本隊は別働隊と合流し、突陣形に移行しながら最大戦速で同盟軍に迫っていた。

 「叛乱軍、2時方向に後退していきます」

 ミュラーはオペレーターの報告を聞きながら戦術スクリーンで方向を確かめ、敵が何を意図しているのか予測した。

 「おそらく数の上での不利を補うために小惑星帯に逃げ込もうというのだろうが、そうはさせん!」

挿絵

 ミュラーは的確な指示を下した。

 「艦隊を右翼方向にシフトし、敵艦隊の小惑星帯への後退を阻止せよ」

 ミュラーが主砲斉射を命じ、同盟軍の後退方向に強力なエネルギーが疾走する。同盟軍は慌てて針路を変更し、小惑星帯への進入をあきらめてその横をよろめくように後退していった。

 「いまだ! 全艦最大戦速! 敵との距離を一気に詰めて半包囲せよ」

 帝国軍は一気に加速して同盟艦隊を主砲の射程に捉え、一斉斉射を行おうとした。

   ”ビー、ビー、ビー”

 耳障りな警報が鳴り響いた。

 ナデシコの艦橋ではなく、リューベックの艦橋である。

 「ご、5時方向に敵影! 数、およそ3000!

 オペレーターが顔面蒼白でミュラーに報告した。青年提督は振り下ろしかけた右手を止め、幕僚連中と同様に信じられないといった顔をした。このままでは後方を遮断され挟撃されてしまう! まさか同盟軍第14艦隊は報告よりも多い戦力を有していたというのか!

 「全艦、攻撃中止! 艦列を整えて後背の敵に備えよ」

 ミュラーの命令に従い、帝国軍艦艇が急停止して後進をかけるが、そのタイミングを狙いすましたかのように同盟軍が一斉に主砲を斉射した。

 「撃てっ!!」

 ユリカの命令一閃、虚空をあっという間に貫いた数十万本のエネルギービームの矢が死への怒涛となって帝国軍に叩きつけられた。防御シールドと装甲を貫かれた艦艇がめくるめくる光芒と化し、その爆発は連鎖して拡大していった。

 「崩れるな! 落ち着いて対処せよ。全艦、隊列を再編しつつ6時方向に後退せよ。後方の敵に目もくれずまっすぐ後退するんだ」

 ミュラーは、将兵を叱咤激励して陣形の乱れを収拾しようとするが、浮き足立つ帝国軍にさらなる衝撃的事実がもたらされた。

 「提督、あれを!」

 ドレウェンツ中尉がおもわず呆然としてしまったのも無理がない。後方を遮断しようとしていた敵の別働隊が実は工作艦が小惑星を連ねた囮だったのだ。

 「なんということだ! してやられた」

 怒りと悔しさの感情を顕にしたミュラーだったが、すぐに気を取り直した。

 「後方の囮にかまうな! 全艦、反撃せよ」

 それまで同盟軍の小細工に翻弄されていた帝国軍が激しい砲火にさらされながらも果敢に撃ち返す。たちまち同盟軍に砲火が到達するが、ユリカにとってこの反撃は予測の範囲にあった。

 「全艦、隊列を維持したままゆっくり後退。こちらに注意ひきつけます」

 帝国軍がつられて前に出ようとした時、その後方では囮を演じた工作艦が小惑星を帝国軍に向って切り離していた。巨大な質量兵器と化した小惑星がその進路にあたる帝国軍艦艇を蹴散らし、押しつぶし、なぎ払った。

 「敵の思惑に乗るな! 進路にあたる艦艇は落ち着いて回避行動をとれ。ここで乱れては敵の思う壺だぞ」

 ミュラーの指示によって帝国軍は艦列を開いて小惑星を回避する。その行動中、表面に赤い円が描かれた小惑星が帝国軍中央部を通過しようとするとき、ユリカの鋭い命令が飛んだ。

「全艦、赤い目印のある小惑星に向かってピンポイント攻撃!」

 収束されて巨大なエネルギーの柱となったビームが小惑星を直撃した。通常ならそれくらいではビクともしないはずだが、赤い亀裂を瞬間的に生じさせた小惑星は、すさまじい音とともに大爆発を起こした。

 「!!!!!!」

 榴散弾と化した破片が帝国軍の艦艇を超高速で襲った。ほぼ中央で爆発したため、あたかも内部から呑み込まれていくようなすさまじい光景である。

 「くっ! なにか引火物質を仕込んでいたな」

 リューベックにも爆発の衝撃が襲い、艦橋が大きく揺さぶられる。ミュラーはかろじて指揮シートで身体を支えながら必要な指示を下した。

 「後退だ、後退しろ。戦場を一旦離脱するんだ!」

 これ以上の混乱は軍全体の瓦解を招き、自軍の被害を拡大しかねない。退き際に追撃を受けて犠牲が出るかもしれないが無様に敗北するよりはましだ。部隊を再編する必要がある。

 ミュラーはそう考え、全軍にさらに後退を命じた。

 「帝国軍艦隊、急速に後退します」

 ルリが報告する。その声には安堵感のようなものがある。少女はこのタイミングをよくわかっているのだろう。もちろん、ユリカは少女の考えと同じく全軍に後退を命じていた。攻撃を徹底したことにより、ようやく機会が廻ってきたのである。敵を大きく後退させ、それに呼応して逃げ去るという目的である。勝利することよりも生き残ることがこの戦いには必要なのだ。

 第14艦隊は急速に後退した。追撃を受けるものと思っていたミュラーは驚いたが、さらなる罠の可能性も含め、彼は部隊の再編を優先した。


 「大至急、工作艦の乗員を収容し、ファンベルグ星域から離脱します」

 ユリカ率いる第14艦隊は一定の距離まで後退し、さらに後退して帝国軍艦艇との距離を開くと、一斉に反転して文字通り「とっとと遁走」したのだった。

 
後に「鉄壁ミュラー」と異名をとる青年提督との、これが最初の戦いであった。



 ……TO BE CONTINUED


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 あとがき

 涼です。第六章(前編)をお送りいたします。暑苦しい時期に熱い? 内容をお届けできました? 容量によっては四節くらいで止めようかな、と考えていたのですが、やめましたw 一気に掲載です。お盆休みの楽しみになれば幸いです。

 さて、ユリカの最初の相手はミュラーです。もう作者の独断と嗜好と偏見です。抗議や批判は一切受け付けませんw

 ちなみに、エステバリスに対抗する戦術(戦力)がもう一つあるのですが、ここでは出しませんでした。
 
 また、あえて「ミスマル艦隊」とさせていただきました。響きがいいですからねw


  勝負は、ユリカが罠を張り巡らしてなんとか五分五分にもっていった、という流れにしましたが、いかがだったでしょうか?

 あと、某サイトで指摘されてましたが、帝国軍側の砲撃の発音は「ファイエル」ではなく、正しい発音は「フォイエル」だとか。「暴走天使」と書いて「ミッドナイト・エンジェル」と読ませる漫画がありますし、「漢」とかいて「おとこ」と読ませる某漫画とか、どうするんだよw 原則にこだわりすぎるのもよくないと思いました。

 何もドイツ語そのものじゃないんだから、いちいち突っ込まなくてもいいのにw 田中先生は発音の響きがいいものに置き換えたんだと思います。
 
 熱が入った今話の前哨戦に対して、ぜひぜひメッセージやご感想をお寄せください!
 ともすれば次回も熱い戦いが書けそうです。

 そして、病院送りになったとはいえ、フォークの策略で最前線に引き出された第14艦隊。はたして次の激闘とは? 他の提督たちの戦いは?

 次回をお待ちいただければ幸いです。

 8月はこれでおしまいです。いろいろ多忙なものでしてm(_ _)m

  2009年8月8日──涼──

 (以下、修正履歴)

 新章突入にあたり、誤字や脱字の修正と一部加筆を行いました。
 一番末尾に「IF短編E」を追加しました。

 2009年11月8日──涼──


 微妙な修正を加えました(汗
 2009年11月15日


 修正されていなかった箇所を修正しました。
 戦闘艇の数を修正。および、時間の経過が間違っていたので修正。

 2010年12月30日 ──涼──


 修正。末尾IF短編は削除しました。
 2011年6月25日 ──涼──


 こっそり指摘をいただいた誤字を修正。一部文を追加。

 2012年9月17日 ──涼──


  うっかり修正途中のファイルを送ってしまいましたorz
 修正済みに差し替えました。時系列をちょっと変更しています。

 2012年9月25日 ──涼──

 追伸:この本編の捕捉として、パイロットたちに焦点をあてた外伝が二話あります。そちらもよろしければご一読ください。

☆☆☆☆☆☆☆☆メッセージ返信コーナー☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

今回もこの場を借りまして返信とさせていただきます。
声があるからこそ、作者もがんばれます。ありがとうございます。

◆◆2009年7月29日◆◆

◆◆22時7分

よい塩梅。銀英とナデシコキャラのバランスがよい感じです。ユリカが自分の裁量のできる範囲内でなんとかしようとしているところとか ♪これからもがんばってください!!

>>>ありがとうございます。バランスに関しては、確かに気をつけています。ナデシコ本編と違ってよりシビアな世界ですからね。
 とはいえ、ナデシコ側のキャラでヒカルちゃんとかイズミとかゴートとか使いづらいです(汗

◆◆7月30日◆◆

◆0時18分◆

ついに始まった帝国の反攻。最初にユリカの第十四艦隊に対するのは誰かな? ウランフ死なないでくれ…

>>>アムリッツアは避けられない状況です。提督たちの運命はいかに? 結果がわかるにはもう少し先です。

◆21時07分◆

This novel(SS)verygood! Wonderful! (I,m korean) kanbare writer

>>>ベタ褒めしてくださり、非常に恐縮です。まだまだ駄文ですが、徐々に修正されていくと思います。What're enjoying this time

◆◆7月31日◆◆

◆23時45分◆

暗号わかりましたよ〜

>>>ちょとした遊びで「暗号」などという、意地悪でしたが、楽しんでいただけたでしょうか?
次回のコメントに暗号解読までの道のり? 等も感想書いていただけると作者も次の○たずらを考える糧になりそうです?

 以上です。今話からついに激闘の火蓋が切られました。今までで一番の戦闘突入となります。忌憚の無いご意見、ご感想をお寄せください。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m

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