――――世界が進歩したのは、怠け者がもっと簡単な方法を探そうとしたからだ。
ならば、怠け者の部類に入る俺は、世界を進歩させる人間なのでは?
とまぁ昔そんな風に、自分が世界を引っ張ってどうたらこうたら思っていたのも、今となってはいい思い出である。






晴れだ。
いやもうこれ以上ない程の晴天である。
天気予報ではここ一週間は、晴れの日が続くらしい。
なんということだろうか?
晴れが続くという事は、我々訓練生は真夏の猛暑にグランドを走り回る事になる。
いや、例え雨だろうと、我が愛すべき糞教官(いつか殺す)は雨でも、無駄に熱い笑顔で「さぁ、あの雨雲に向かって走ろうじゃないか!」だなんて言うに決まっているのだが、真夏の猛暑に比べれば、少しはましだ。
これでお天気が曇りだったさ、もう最高だ。

さて、そんな現実逃避というのはさておいて。
そんな糞教官(39才独身)だが、ジャパン……今ではエリア11に生息するというマツオカシューゾーとかいう男みたいに熱血だ。正直言ってウザい。
第三者的に考えると悪い人ではないとは思うが、兎に角ウザい、そして暑苦しい。

―――――――いや、こんな暑い日に暑苦しい男を考えたら余計に萎える。
ここは別の意味で俺の下半し……ゲフンゲフンッ………心を熱くさせてくれる美人さんの事を考えよう。

だが、我が祖国ブリタニアは弱者氏ね、強者万歳的な国であり、男尊女卑といった概念の薄い国ではあるが、基本的に軍人というのは男が多い。
勿論、平時は士官学校で一日の全てを使い切る俺もその一人。
そして士官学校もその例に漏れず、悲しい事に、士官学校に女性は少ない。
いやブリタニアはまだ他国に比べ多い方だ。
なんといったって、お亡くなりになって久しいマリアンヌ后妃は、今でも騎士達(俺含む)の憧れであり、現在においても帝国最強ナイト・オブ・ラウンズには女性騎士もいる。
他にはブリタニアの戦乙女と渾名されるコーネリア皇女殿下もそうだ。
彼女達に憧れるように、年若い乙女達は踊りではなく剣を覚え、やがて戦場で彼女達と共に駆ける日を思い浮かべるのである。

話を戻そう。
兎に角だ!兎に角ブリタニアの士官学校には女分が足りない!
これは一体全体どういうことだ!
しかも、何故だか俺の同期には女性が皆無!
一つ下には何人かいるが、それはもう女性と形容するのが躊躇われるほどの猛者ばかり。
彼女達はもう、軍人じゃなくてボディービルダーを目指した方がいいね、断言するよ。

「いや、もうやってられへんがな。」

「何を言っている?」

「いや、別に………。」

ルームメイトである"ルキアーノ・ブラッドリー" が、俺の独り言に突っ込む。
そうそう、最悪の生活を更に悪くするのが、このルキアーノなんだよ。
実はこいつ………趣味が殺人なのだ。
深夜に愛用のナイフを笑いながら研いでいた時などは、もうトラウマものだ。

しかし、こいつは成績が良い。
軍人として必要な技能(モラル以外)は殆どトップだし、ナイトメアの操縦に関しても、士官学校でもトップクラスだ。
ようするに、ルキアーノの奇行や趣味思考も純粋な実力により、ある程度は見逃されている。
尤も、あまりにも酷い時には教官による熱いSEKKYOUが始まるが……。


食堂に移動して、おばちゃんのカレーを頼む。
ルキアーノは何時もと同じ包み焼きハンバーグを頼んだ。

どうでもいいけど、その年になって好きなTV番組がドラえ○んとはどうなんだ?
幾らなんでも、趣味と好きな番組の差が激しすぎるだろ!

ちなみに、前にその事について訊ねたら、ドラ○もん創生秘話から始まる三時間強の演説を聞かされたので、もう二度とその質問はしない。

「そういえば、君の姉上が帰国したんだって?」

「ああ、そのことね。」

食堂で包み焼きハンバーグを食べながらルキアーノが言う。
周囲に他の士官候補生達はいない。
みな、色々と怖い噂のあるルキアーノを恐れて近付かないのだ。
最初の頃は、出る杭は打たれるとか言うコトワザ通り、絡んでくる勇者達もいたのだが、残念ながら相手は自称殺人の天才。
流石に士官学校で"殺し"はしなかったが、喧嘩をふっかけた相手は全治一週間。
しかも精神がちょっとアレになって、退学するというオマケつき。

そんなこんなで、何時の間にかルキアーノと同室の俺まで避けられるようになり、気付けば三年間も士官学校に通っておいて友達0悪友1彼女0という真っ白な青春を謳歌する事になったのだ!
まじ、ルキアーノ氏ね。

おおっと、つい本音が漏れそうになってしまった。
悪友といえど、ルキアーノはこの学校唯一の友人なのだ。あんまり認めたくないことだけど。
質問にはしっかりと答えてあげなきゃならない。

「なんだか、一時的にコーネリア殿下の指揮下でEUとドンパチして、やっとこさ停戦になったらしいな。」

「ふふふ、EUも最近はブリタニアに対抗してKMF(ナイトメア)を実戦配備したそうだからねぇ。
私としても、殺し甲斐のある得物だ。」

ホント、なんで俺の唯一の友人がこんな奴なのだろうか…。
輝いてた昔がなつかしい。

そうそう、勘違いして貰っては困るが、別に俺は内気でナイーブな人間ではない。
士官学校で友達が一人も(ルキアーノ除く)出来なかったのは、あくまで俺の向かいで暢気にハンバーグを食べている奴のせいであって、俺の性格に難有りというわけじゃない。

子供の頃は、それなりの大貴族だった実家の事もあって、姉上が親しくされていたコーネリア・ユーフェミア両殿下ともお知り合いになれた。
しかしコーネリア皇女殿下のビックメロンは凄い!一体どうやったらあんな成長を。
待てよ!となるとコーネリア殿下の実妹であるユフィも将来…………。

はっ!いかん、いかん。
つい妄想に囚われてしまいそうになった。

兎も角だ!
その中でも特に嬉しい出来事は、あのマリアンヌ后妃とじかにお会い出来た事だろう。
――――――同時に、あんな美人を嫁にしたチクワ皇帝に殺意が芽生えたのは秘密だ。

そんなこんなで、マリアンヌ后妃の子息であるナナリーとは友達になり、ルルーシュは晴れて悪友一号になったのだ。
ちなみに悪友二号はルキアーノ。

あれ?でもそうなると俺って友達四人しかいなくね?
コーネリア殿下は、年が離れているので友人とはいえないし…。
となると俺が生涯で友達と呼べる間柄になったのは、ルルーシュ、ナナリー、ユフィ、ルキアーノだけじゃないか!
しかもルルーシュとナナリーは故人。ユフィは皇族だから中々会う機会がない。
な、なんてこった!

あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!
『俺は友達がいると思ってたら、実は現状一人しかいなかった!』。
な…何を言っているのかわからねーと思うが、
俺も何をされたのかわからなかった…
頭がどうにかなりそうだった…イジメだとか総スカンだとか、
そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…

「どうした、レナード。」

「いや、世の中って寂しいな、って。」

「?」

その寂しさの原因は、お前にもあるんだぞ、ルキアーノ!
どうだ!恐れ入ったか!俺は学校で孤立してるぞ―――――――――――ッ!




やべ、涙が…。






SIDE:ルキアーノ


実は私には友人が一人いる。
レナード・エニアグラムという奴で、どうにも奇妙な奴だ。

いや奇妙というならば、この私に友人なんて相手がいる方が奇妙だろう。
実際、私の趣味思考を見兼ねた両親によって、半ば勘当同然で士官学校に送られたほどだ。
当然私に友人などは一人もいなかった。

ただ、勘違いしないで貰いたいが、私は別に友人なんぞ欲しいとも思った事はない。
ルキアーノ・ブラッドリーにとって、最高に楽しい時間とは友人と接する事ではなく、他者の最も大切な物――――即ち命を奪う事だからだ。

なので私を士官学校に入れた両親にも怒るどころか感謝している。
しかし軍人とは見落としていた。
確かに戦場ならば、幾ら人を殺そうとも非難を浴びる事も捕まることもない。
寧ろ多く人を殺す度に喝采を浴び、賞賛される。
考えてみれば、この私にこれほど適した職業などない。

喜んで私は士官学校に入り、必死に訓練をした。
もし私が必死に訓練したのを、意外と思ったならそれは間違いだと言わせてもらおう。
私が好きなのは、他者の大切な物を奪う事であり、その為に自らの技量を高めるのは必須条件。
幸いにして、私には才能があったようで、気付けば今期の首席候補となっていた。

そして、私の上達と反比例するように、私の周りに人が近付かなくなっていた。
その時は、特に気にしていなかったのだが、ここでちょっとした事件が起きる。

私が深夜に、愛用のナイフを研いでいると、何を血迷ったのか、ルームメイトのレナードが私に襲い掛かってきたのだ。
完全なる不意打ちに私は反応できず、結局軍人の卵の鉄拳をもろに顎に喰らった私は一撃でノックダウンしてしまう。
あの時ほど、自分を不甲斐なく思った事はない。

それから、私がレナードに模擬戦をもちかけるようになり、そして気付けば周囲の人間からは"友人"として認識されるようになる。

しかし、変な事になった、と思う私の他に、
まぁこういうのもいいか、と思う私がいたのも、認めたくないが事実なのだ。








SIDE:レナード


やぁ皆さん、如何お過ごしでしょうか?
毎度お馴染レナードです。
えっ?まだ一話だって?
そんな細かい事は気にしてはいけません。
今日はおめでたい日なのだ。
そういうのはなしにしようじゃないか。


【卒業式】
それは一つの通過点。
卒業し学校という名の呪縛から解き放たれた我々は、新たなるステップ。
即ち職場へと派遣され、そこで更なる研鑽を積む事になる。


ようするに、今日は我が士官学校の卒業式なのだ。
ちなみに首席がルキアーノ、次席が俺。

「えー、本日は天気もよく、実に素晴らしい卒業式日和で――――――――」

同じ事を必ず五回は言う、校長のなが〜いお話が始まる。
首席と次席とはいえど、素行は不真面目な俺とルキアーノ。
そこは軽く聞いたふりをしてやり過ごす。

やがて校長の一時間に渡る素晴らしい演説を聞き流した後、訓示やらなんたらした後、漸く次の配属先が発表される。

ちなみに成績が下の順番から発表されるので、俺とルキアーノは一番後だ。

「レナード・エニアグラム。
配属先、エリア11。」

エリア11か。
確か矯正エリアから途上エリアに格上げされたばっかだよな。
少し危険な気もするが、次席ならこんなもんだろう。
これで経験を積んで、さぁGOGO最前線となるに決まってるけど。

「ルキアーノ・ブラッドリー―――――――配属先、EU」

周りの候補生達がざわめく。
無理はない、普通は比較的安全な場所で経験を積んでから、新兵達は前線やら途上エリアやらに送られるのだ。いきなり新人が激戦地EUに送られるなんて有り得ない。

ただ、ルキアーノは自分の実力が既に、戦場でも活躍できるレベルだということをネタに、教官達を説得したらしい。
なんでも、一刻も早く戦場に出たいらしい。

教官達もルキアーノの性格は良く知っているので、
「まぁいいや」という事で最前線送りになったんだとか。
おいおい、大丈夫なのかブリタニア?

「ほほう、どうやら君とはお別れのようだね。
どうする、君も教官に嘆願すれば楽しい最前線へ行けるかもしれないが?」

「いやいや、お前じゃあるまいし、誰が好き好んで最前線なんで行かなきゃならんのだ。
しかも卒業したばかりで。」

「まあそれもそうか。じゃあ――――――――。」

ルキアーノの出した手を握る。
そういえば握手なんて初めてだな

しっかりと、ルキアーノの手を握る。
思えばこの三年間、なんて最悪な奴だろうと思ったが、いざ別れるとなると寂しいものだ。


そして、次の日。
ルキアーノは最前線EUへと早々に行ってしまった。
俺が配属されるのはエリア11。
嘗ては日本と呼ばれ、ルルーシュとナナリーが人質として送られた地。




だがこの時は知る由もなかった。
エリア11で驚くべき再会が待っているということを―――――――。



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