―――我が辞書に不可能の文字はない。
どっこい、俺には"不可能"の文字はある。
人間誰しも不可能な物事、どれだけ努力しどれだけ手を伸ばしても届かない物は平等に存在する。
人が決して自力で飛べないように、犬が決して言葉を交わせないように。
不可能は必ず、存在するのだ。








前回と同様に今回もジェレミア卿に呼び出された。
しかし、はて………?
今回は呼び出される理由が思い当たらないのだが。
気付かない所で何が問題でも起こしてしまったのかもしれない。

そう思うとジェレミア卿の執務室への道が重苦しく感じる。
鬱になりそうだ。
エリア11に来て仕事ばっかで華がない。
もっとドカーーーンッと騒ぎたいところだ。
………騒ぐ相手、いないけど。

「泣けるなこりゃ……。
っとそんな事してる内に着いたな。」

どうやら心の準備をする暇すら神はくれなかったようだ。
本当に神氏ね。
誰か神を殺す計画でも練ってないかな。

――――そんな阿呆な妄想してる場合じゃないな。
何時まで執務室の前で立ち尽くす訳にもいかない。
ジェレミア卿を待たせたせいで余計に怒られるのも嫌だから。

「失礼します。」

ドアを開けた瞬間、爆音が響いた。
それをクラッカーの音だと認識するのに、俺は数秒の時間を必要とした。

「おめでとう、レナード!!」

「…………………はい?」

何故か執務室にはジェレミア卿だけじゃなくてキューエル卿もいた。
ホント、なんでやねん?

「さぁこっちへ!
なんといったって君は今日の主役なのだから!」

そういって俺の手を引っ張るジェレミア卿。
何がどうしたというんだ?

「さあこれを引っ張りたまえ!全力で!!」

何か天井から紐が下りている。
なんだこれ?
前に来た時はこんなものなかった筈だけど。

「は、はぁ。」

兎に角、引っ張れというのだから引っ張ろう。
まさか引っ張った瞬間に石が落ちてくるなんてオチじゃないよな、
落ちてくるだけにオチとはこれは如何に!?

俺が躊躇しているとジェレミア卿が「さぁさぁ」と急かしてくる。
ええぃ南無三!これでも喰らえ!

俺は思いっきり紐を引っ張った。
瞬間、落ちてくる大量のオレンジ。
何故にオレンジ!?

「な、なんだこれは!
キューエル、私はこんな物を入れた覚えはないぞ!?」

「ま、まて!
私も事情がよく分からん。今書類を確認する。」

焦った様子でキューエル卿が書類を確認している。
よかった。どうやら単純な嫌がらせじゃないようだ。

「分かったぞ、ジェレミア。
どうやらこれを作った兵士が勘違いして、隣にあった箱に入ったオレンジを入れてしまったようだ。」

「なんと!………ぬぬぬ。
このような時にこのような初歩的なミスを……!」

どうやら紐の正体はクス球だったらしい。
それで間違えてオレンジを入れてしまったと……。
なんじゃそりゃ?

「あのーー。
どうでもいいんですけど、なんてこんなことを?」

「おおっ!忘れていた!
おめでとう、レナード!
私も純血派のリーダーとして鼻が高いぞ!」

いや、だから何が「おめでとう」なのか聞きたいのですが?

「ジェレミア。
理由を説明せず賞賛を送っても意味が分からないと思うぞ。」

ナイス、キューエル卿。

「なに、言ってなかったか?」

「……聞いてません。」

どうしてこの人は、こう、どこか抜けてるのだろうか?
やっぱり、天然?天然なのか!

「実は本国からこれが届いた。
異動命令だよ、レナード。
君に対する、な。」

「拝見します。」

書類を受け取る。
そこには『レナード・エニアグラム大尉をコーネリア・リ・ブリタニアの親衛隊に転属させる』と書いてあった。

コーネリア殿下の親衛隊!?
その事実に驚く自分と、ああ成る程と頷く自分がいた。
いきなりの事で驚きはしたが、当然の結果と思う。

客観的にみて、俺は同期の者達の中でも優秀だ。
別に自慢しているわけでも驕っている訳でもない。
事実として、自分が他の者達よりも秀でていると認識している。
そうでなくては、特に競争率の高いブリタニア士官学校で次席になんてなれる筈がない。

勿論、他の理由もある。
俺には生まれつき『姉』を始めとする最高の師のいる環境で育ち、軍人になるべくして育てられた。
才能も十分にあった俺は、成るべくして士官学校で優秀な成績を収め卒業した。

士官学校で優秀な成績を収めた者の進路としては、比較的安全な部署で経験を積み、その後は最前線なり危険な矯正エリアなどに送られる。
ルキアーノのように、卒業していきなり最前線送りなんていうのは例外中の例外だ。

俺もこのエリア11で少なからず戦闘を経験したので、来るべき時がやって来たというのが正直な感想だ。
面識のあるコーネリア殿下の親衛隊に配属されたのは、姉上がお節介をかけたのだろう。

「コーネリア殿下といえば、皇族の中でも特に戦場の華として名高い。
そんな殿下の親衛隊に我等純血派のメンバーが配属されるとは……。
我等にとっても、これほど栄誉な事はない。」

キューエル卿もジェレミア卿には劣るものの熱い人だ。
なにやら感慨深く頷いている。

「私としては少し残念ではあるがな。
だがレナード!君がどこに配属されようと我等が同志であり友であるという事実は変わらん!
オール・ハイル・ブリターニア!!」

「じぇ、ジェレミア卿!?」

い、いかん。
不覚にも涙が……。
うぅ、これで漸くルキアーノに続いて五人目の友達ができた。
敢えて性格の問題は考えないことにしよう。
友達と言うよりかは戦友と形容するほうが正しいが、まぁ細かい事は気にしない気にしない。

「では戦友の門出を祝して!
オール・ハイル・ブリタアアアアアアアアニアアアアアアアアアア!!」

この日、再び執務室に『オール・ハイル・ブリタニア』の大合唱が聞こえたのは言うまでもない。






SIDE:ルルーシュ


「そうか。レナードはコーネリアの親衛隊に…。」

ネットを使いレナードがエリア11を離れると知り、思わず息を吐いた。
これで少なくとも俺達の存在が、レナード経由で皇帝にばれる心配はなくなった。

「だが、まさかあいつが此処に配属されるとはな。
どんな偶然なんだか。」

最初にあいつを見たのは、何気ない気分でナナリーに果物でも買ってきてあげようと思い、ついでに筆記具の補充でもするかと、買い物に出た時だった。
街でキョロキョロしながら歩いていたアイツを見た時、俺としたことが驚いて立ち止まってしまった。
そのせいで、反対側から歩いてきたレナードとぶつかってしまったのは、致命的なミス。

思わず最悪の光景。
本国にナナリーと共に連れて行かれ、外交の道具として扱われる日々が目に浮かぶ。
しかし幸いにも、アイツは俺の顔を見てはいなかったようで、上手く誤魔化すこともできた。

ほっとしたのも束の間。
俺は直ぐにレナードのエリア11に来た経緯と所属を調べる。
流石に軍の情報を手に入れるのには骨が折れたが、なんとか情報を得ることに成功。
なんでもレナードはエリア11守備隊に所属しているようだった。

しかし士官学校を次席か。
そういえば、母上もレナードには才覚がある、というような事を言っていたと思い出す。
調べた情報によると、既にテロリストの鎮圧戦に赴き中々の戦果をあげているようだ。

………そして、その事が目に止まったのだろう。
レナードはコーネリアの親衛隊に転属しこのエリア11を離れる。
兎に角、これで不安要素が一つ減った。

「お兄様。なにをなさっているのです?」

「!」

ナナリーもレナードがこのエリア11に来た事は知っている。
前にネットでレナードの情報を見ている時、偶然咲世子さんが見て、「そのレナードという方がどうかなされたのですか?」と言ってしまったのだ。
よりにもよってナナリーの前で。

どうする?
ナナリーにレナードがコーネリアの親衛隊に転属したことを言うか?
特に言った所で問題はないが……。

「いや、ちょっとね。
そうそう、レナードのやつ。コーネリア姉上の親衛隊に配属される事になったみたいだよ。」

「まぁ!
そうなのですか!」

顔を綻ばせるナナリー。
優しい子だ。
あいつが栄転したのが自分の事の様に嬉しいのだろう。
レナードはナナリーとも仲が良かったからな。

「ですけど、少し残念です。
レナードさんとは、会って話してみたかったので……。」

「ナナリー、それは―――――」

レナードを疑うわけじゃないが、奴はブリタニアの軍人。
俺達の存在が皇帝シャルル・ジ・ブリタニアにばれる可能性がある。

「分かっています。
私達がレナードさんと会う訳にはいかないことは。」

「そうだね。
俺達が見付かれば、アッシュフォードにも迷惑がかかる。」

そうだ、今回の事で漸く実感をもって認識できた。
今はいい。
皇帝も俺達の存在に気付いておらず、平和に暮らせている。
だが将来は?

もし、些細な切欠で俺達の存在が世間にバレたら?
そうなれば、また外交の道具として扱われるのは目に見えている。
なんの後ろ盾もなく、目と足が不自由な皇女。
道具としては打って付けだからな。

やはり、俺とナナリーはブリタニアという国では生きられない。
だがブリタニアをぶっ壊すには力が必要だ。
ただの学生では世界は変えられない。
そう力、世界を変える程の力が―――――――――――――



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