―――自分も生き、他人をも生かすようにする。
全然駄目だ。俺は全然他人を生かしていない。
寧ろ逆。
自分が生きて、その代償を他人に払わせている。
だけど、もう割り切った。
軍隊での仕事なんて、やっぱり殺人なのだから。










体が重い。
まるで体に巨大な鉄の塊が乗っかっているようだ。
あれから………どうなった?
馬鹿みたいな、子供染みた考えでEUの基地に、単機で攻撃を仕掛け……落とした。
敵の司令官テオ・シードもこの手で殴り殺したはず……。
なら、ここは何処なんだ。
あの後、基地に駆けつけたEU軍に捕まって捕虜にでもされたか。
或いは、既に俺は死んでいるのか。
もし後者が正しいというなら、ここが死後の世界となる。
しかし、これがそうとはどうにも思えない。
体が上手く動かせずとも、自分が"生きている"というくらいは理解出来る。
それじゃあ、ここは―――――――

腕に力を込める。
動く。
足に力を込める。
動く。
体に力を込める。
動く

よし、問題ない。
体の重みはなくならないが、それでも俺は動ける。
覚悟を決めて……目を開き、体を起こした。

「目が覚めたか。」

「コーネリア、殿下………。」

起きたら、目の前にコーネリア殿下がいた。
驚いて体を動かそうとするが、やはりどうにも体が思い。
此処は………ブリタニア軍の医療施設か。

「あの、殿下。一体………」

「いいから、今は休め。
お前を視た医者に言わせると、過労ということらしい。」

「過労?」

過労というと、あの疲れ過ぎて倒れるというあれか。
そう言われると確かに、フランカが死んで五日間、食料を底を尽き、おまけに敵を警戒して動き回り、寝る暇すら殆どなかった。
過労の条件は揃えているかもしれない。
それと、栄養失調も。

「休んでいるところ悪いが、報告を聞こう。
先の戦の後、貴公は何をしていた。」

コーネリア殿下に、友軍と離れた後の事を話す。
ただしフランカの事や、テオ・シードとの個人的な事情などは適当にはぐらかして。
罪悪感が湧き上がるが、その事が理由でお家取り潰しなんて事になったら、俺一人どころの責任ではなくなってしまう。
それに正直言えば、俺も軍法会議は怖い。

「そうか。事情は分かった。
しかし、どのような理由があれお前が独断行動をとったのは紛れもない事実っ。
今回は私自身の過ち、そして基地を落とした功により相殺するが、今後は勝手な行動は控えよ!」

「は、はい!」

す、凄まじい剣幕だ。
昔から怒ると誰よりも怖かったからな。
しかし、仰られた事は事実だ。
冷静に考えても、あの時基地を落とせたのは運が良かったからだ。
それに今回は基地を落としても自軍の利になったが、状況によってはそれが自分の不利益となる可能性だってあるのだ。
そう考えれば、結果は出したとはいえ、やはり俺の行動は誉められる事ではないだろう。

「まあよい。ともかく今は休め。
健康を維持するのも、領民の命を預かる貴族として当然の義務だぞ。」

「イエス、ユア・ハイネス。」

なんだか、帰ってきたという感じがする。
コーネリア殿下の怒声も、医務室にいても分かるブリタニア軍の雰囲気。
日数にすると、十日ほどしか離れていないというのに、一年も離れ離れになっていたような気さえする。
思わず感傷に浸るように、この十日間を思い出してしまった。
フランカと出会い、話し、そして殺した。
あの時の事が、今ではずっと過去の事に思われた。

「泣いているのか?」

「えっ。」

殿下に指摘されて、目元を探る。
どうやら気付かぬうちに涙を流していたらしい。

「申し訳ありません。
少し…………色々な事が在り過ぎて…………。」

殿下の事だ。
騎士たる者が泣くとは何事だ!
とでも言われるだろう。
なので来るべき雷に備え、覚悟を決めた。

しかし、コーネリア殿下の仰られたのは予想外の言葉だった。

「よい。ここは戦場ではなく医務室。
更に言えばレナード。
今のお前は軍務についているわけではないしな。」

「えっ…?」

「私がそんな事を言うとは意外か?
まあ当然だろうな。
だが覚えておくといい。
泣ける時は、思いっきり泣かなければ後悔する。
なにせ泣かなかった分の甘さが戦場で出るからな。」

「はい………。」

そうだ。
今日ここで泣かないと、たぶんその甘さは戦場で出る。
だから今は泣こう。
一欠けらの情け容赦も許されない戦場では、思い出さないように。

「それと、これからは自重しろよ。
お前が死ねばユフィが悲しむ。」

そう言われると、コーネリア殿下は医務室を出て行かれた。
もしかしたら気を使ってくれたのかもしれない。
流石に、殿下の前で泣くのは、抵抗があったから。






SIDE:コーネリア


医務室から出て早々、ダールトンに声を掛けられた。
ギルフォードはいない。
奴は今、敵の残党部隊を狩っている最中だ。

「姫様、レナードの調子はどうでしたか?」

「どうもこうも、最初に親衛隊に来た時よりも、幾分か成長したようだ。
ほんの僅かに見え隠れしていた、弱さが消えた………いや、消す事が出来るようになったというべきか、この場合は?」

「成る程。軍務とプライベートでの頭の切り替えが出来るようになった、と。」

「そういう事だ。」

そのまま歩を進める。
レナードの事以外にもやるべき事は山ほどある。
敵の名将テオ・シードを討ったとはいえ、別に戦争が終わった訳ではない。
尤も今後の戦いは我が方に有利に働くだろうが。

「しかし驚きました。
その後の調査で、レナードが単機であの基地を落としたのは間違いないようです。
しかし幾ら殆どの戦力が出払っているとはいえ、一機で落とすというのは。」

「お前でも難しいか、ダールトン。」

「はい。
畏れながら、私やギルフォードでも難しいかと。
ましてやレナードの機体は整備不良で、途中で右腕が動かなくなっていましたから。
またグロースターに残っていた映像記録においても、レナードはシードの乗るグロースターを相手に、格闘のみで勝利をおさめております。」

「あいつは子供の頃から、マリアンヌ様にねだりKMFに乗っていたからな。
そういえばマリアンヌ様ご自身もナイトメアによる試合で似たような事をしておられたな。」

「はい。私も当初はナイトメアをSFもどきと侮っておりましたが、マリアンヌ后妃様の機動を見て、そのような考えは吹っ飛びましたからな。
レナードの奴も、もしかしたらその光景が忘れられず真似したのかもしれません。」

たぶん、そうであろうな。
私もあの時の試合は忘れられない。
マリアンヌ様の騎乗する第三世代KMFガニメデが、同じように実験機であるKMFを、いとも容易く、まるで重力などないかのように投げ飛ばしたのを見た日は、興奮で夜も眠れなかった。

「ふっ。中々成長してきているようだな、奴も。」

「はい、未来を担う若い世代が成長してきているのは、私としても頼もしい限りです。」

「ほう。そういうお前はどうなのだ、ダールトン。
若い世代に後を任せて事務仕事にでも就くか?」

挑発するように言ってやる。
するとダールトンは顔を綻ばして、

「ご冗談を。
私もまだまだ若者に席を譲るつもりはありません。」

頼もしい男だ。
誇張抜きでそう思う。

「さてダールトン。
では次の戦場へ行くとしようか。」

「イエス、ユア・ハイネス!」



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