―――嘘は大きい程よい。
実を言うと、俺は大きな嘘というものをついた事がない。
それが正しい事なのか、甘えているだけなのかは分からない。
しかし、一度きりの人生、一度くらいは大嘘をついてみたくもある。







STAGE0-1


一面に咲いた花の中心で、二人の少年がチェスをうっていた。
金髪の少年は、むむむと唸り声をあげながら、慎重に駒を進めていく。
対する黒髪の少年は涼しいものだ。
余裕綽々といった感じに、金髪の少年から奪い取った白のナイトをくるくる回している。
素人から見ても、戦局は圧倒的だった。
黒の軍団に追い詰められ、逃げる事しか出来ない白のキング。
その逃げっぷりを嘲笑うかのように、黒の軍団は包囲網を縮めていき、そして、

「これで、チェックだ。
さあ反撃の手はあるかい?」

黒髪の少年がにやにやとそう宣告する。
逃げ場はない。
例え斜めに逃げたとしてもナイトにやられ、前に逃げたとしてもクイーンにやられ、後ろはない。
四面楚歌、完全に詰んでいる。

「うぅ………」

「どうした?
次の手をうってくれよ。
僕もそう気が長くはないんだ。」

「ぬぅ〜!」

しかし黒髪の少年は失念していた。
徹底的に追い詰められた金髪の少年が、どのような行動に出るかを。

「もう……やってられるかーーーーーーーーーッ!!」

雄叫びと共にチェス盤を引っくり返した。
……………天高く。

「うわっ、なにをする!」

「知るか!大体なにが十手先を読めだ。んなこと出来るか!」

怒って少年、レナード・エニアグラムが言った。

「だから言っただろう。
そういうゲームなんだよ、チェスは。」

呆れたように少年、ブリタニア第11皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが言い返した。
悔しそうにレナードが呻くと、それを宥めるように淡い桃色の髪の少女が言う。

「まあまあ、確かにこういうゲームや勉強じゃ勝てないけど、レナードは体力はルルーシュの何倍もあるじゃない。」

「そうですよ。
お兄様は頭は凄く良いんですけど、体力ならレナードさんも負けてませんよ。」

「それって、俺が単なる体力馬鹿ってことか?」

その返答にブリタニア皇女である二人、ユーフェミアとナナリーが口を閉ざす。
……図星だったらしい。

「そうだよレナード。
君が僕にチェスで勝とうだなんて百年どころか、来世になっても無理だ。」

「………いい加減、怒っていいかな、俺?」

「くうぅ………もう一回だ!
もう一回勝負しろ!」

「懲りない奴だな。
いいよ、何回でもやってやるよ。」

その後、レナードは何度も何度もルルーシュに挑んだが、結局勝ちを拾う事は、唯の一度としてなかった。



 「ルルーシュ、チェスだ!」

レナードがアリエス宮でそうルルーシュに言ったのは、チェスで惨敗に惨敗を重ねた日から、一週間ほど経ってからのことだった。
それを聞いたルルーシュは、溜息をつきながら、

「もう何度やっても無駄だって分かっただろう。
いい加減、諦めたらどうだ?」

得意のチェスで、体力で勝るレナードをボコボコにするのも飽きたらしい。
なので遠まわしに「もう止めよう」と言ったのだが、結局はレナードの強い押しに負けて、もう一度だけ勝負をする事になった。
更にこの勝負に勝った方が、本当の勝者という条件付きで。

「それじゃあ、互いの持ち時間は一時間な。」

「へえ、そんな早くていいのか?
何時もは悩みまくった挙句、二時間は軽く掛かるのに。」

「ああ、短時間で倒す秘策があるんだ。」

秘策ねえ、とルルーシュが呟きながら用意された場所に赴く。
チェスを打つ場所は、前回と同じ草原だ。

「それじゃあ、やろうか。
なあルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。」

異常なほどの自信に、流石のルルーシュも警戒する。
レナードは体力馬鹿だけど頭が悪い訳ではない。
もしかしたら、何か自分の癖などを見抜いて(そんなものに心当たりはないが)勝負を挑んできたのかもしれない。
自分の腹違いの兄シュナイゼルに打ち負かされたばかりという事もあり、ルルーシュは気を引き締めて卓に着いた。
そして、思考が"チェス"にのみに集中していたルルーシュは、それすら叶う事がなかった。

「うわっぁ」

卓に着いた途端、ルルーシュの体が沈む、いや落ちる。
周りに人がいたならばこう言うだろう。
落とし穴、と。

「クククククク、フフフフフフフフフフフフフハハハハハハハハハ――――――ッ!!
引っ掛かったな、ルルーシュ!」

ルルーシュを見下ろす――――見下すように穴の底を眺めるレナードに浮かぶのは、まぎれもない勝者の余裕。

「くっ、卑怯だぞ!」

「戦いに卑怯もへったくれもないって言ったのはルルーシュだろ?」

「それはチェスの話だ!
どこの世界にチェスで勝つ為に落とし穴を掘る奴がいるッ!」

「ここにいるじゃないか、ここに。」

清清しいほど憎たらしく自分を指差すレナード。
その顔を殴り飛ばしたい衝動に駆られるが、ルルーシュの体力でこの穴から出る事は不可能だ。

「おっと、もう五分経過した。
ほらルルーシュ、残り時間あと五十五分だぞ。」

「な、なら僕が打つ場所をお前に伝える!それで………。」

「ざ〜んね〜んでした〜。
どうして俺がお前の変わりにチェスを打たなければならないんだ?」

「お、覚えてろよ……レナード……。」

「ははははははははっ。
諦めろルルーシュ。
お前は俺との知恵比べに負けたのだ!」

ルルーシュは諦めず罵声をとばすが、レナードがそれを聞く筈もなく、結局一時間が過ぎるまでルルーシュに救いの手は差し伸べられなかった。
………余談だが、レナードはその後、アリエス宮の庭園に勝手に穴を掘ったとして衛兵に捕まり、連行されそうになる。
それを穴から出たルルーシュが、適当に誤魔化して救ったのは、これから始まる物語からしたら、余りにも小さい、されど輝いた思い出である。






SIDE:レナード


陛下から宰相府を通じて命令が下った。
なんでも俺専用の開発チームを用意したので会いに行けとのことらしい。
騎士の象徴が剣からKMFに変わった現在。
ブリタニアでは選ばれし騎士たるラウンズには、専用のナイトメアを与えようという事になり、ラウンズには其々、専属の開発チームを持つ事が定められている。
尤も現在、専用のナイトメアを持っているのは、古株であるバルトシュタイン卿と姉上だけというのが現状だ。
他の者達は、基本的には量産型の改造機に乗っている。
ルキアーノも同様だ。

そして開発チームがあるという場所についたのだが、ラウンズ直属というだけあって、結構な大きさの建物だ。
あくまでもナイトメアの製造、整備、改修などを主とする場所なので、貴族的な建物ではなく、正に近代的というようなものだ。
早速、扉を潜り中に入る。
するとそこには既に研究員達が勢ぞろいして俺を待っていた。
そして、その中心には、艶やかなアッシュブロンドの髪を靡かせた女性がいた。

「お初お目にかかります、レナード卿。
ナイトオブツー専属開発チーム『カムラン』主任エルザ・ハーシェルです。」

「そうか、宜しく主任。」

軽く握手をする。

「さて、私のナイトメアのことだが………。」

「それに関してましては、先ずこれを。」

主任が他の技術職員に合図すると、被せてあったボロをとり、その全容を明らかにした。
そこには、よく見慣れたグロースターがそこにあった。

「これは………。」

「レナード卿が今まで使われておられたグロースターです。
卿がラウンズに任命される際に、此処に取り寄せられました。
専用機を作るというのも並大抵の事ではありませんから、レナード卿にはまだ暫く、こちらのグロースターをお使いになって貰う事になります。
無論、我々の手で改良は施しますが。」

「そうか、俺の……」

そっとグロースターの装甲を撫でる。
なんだかんだで、EU戦線では共に戦った―――兵器に言うのもなんだが―――――戦友のような存在だ。
やはり即席で用意された専用機なんかより、このグロースターの方が性に合っている。

「それと、こちらの書類を。」

「これは?」

「グロースターの改造、そして専用機を作る際での要望をお書き下さい。」

「何時までだ?」

「出来れば今日中に。」

「…………………」

理知的な顔通り、強かな女性だ。
この書類、結構量あるぞ。
主任はじっとこちらを見ている。
別に威圧も何もないが、どうにも逆らえないオーラのようなものを纏っている。
まあしかし、パイロットであるならば整備兵や主任のような人間とは友好な関係を気付いておくべきだ。
大人しく、頑張るとしよう。

「分かった、主任。今日中だな。」

「はい、宜しくお願いしますレナード准将。
ああ、それと機体のカラーリングはどうしますか?」

「カラーリング?」

「ラウンズはその存在を敵に誇示する役目もあるので、通常機と同じという訳には……。」

成る程。
確かに、ルキアーノのグロースターも白と紫にカラーリングされていたな。

「任せるよ、主任。
君が好きな色にしてくれ。
……ああ。あんまり変な色にはしないでくれよ。」

忙しくなったものだ。
だが仕方ない。
これもラウンズの性とでも思っておこう。
俺は書類を仕上げる為に、自分に与えられた部屋へと向かった。



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