―――われわれが追い出されずにすむ唯一の楽園は思い出である。
思い出は、少なくとも自分を裏切らない。
例え現在がどれほど変わったとしても、思い出だけは当時のまま。
だからこそ人は思い出に浸り、そして浸かるのだ。








STAGE0-2


その日、コーネリアは疲れていた。
士官学校に入って既に一年半。
コーネリアは瞬く間に頭角を現し、血ではなく純然たる実力で今期の首席候補にまで上り詰めている。
首席候補という結果は、コーネリアが士官学校に入る事を最後まで反対していた母や親類などの追及を弱める材料にもなるので、そういう意味でも首席候補に選ばれたのは嬉しかった。
この場合、順調というのが正しい表現なのだろう。

とはいっても、疲れがない訳ではない。
今日も憧れであるマリアンヌの所へ先輩であるノネットとベアトリスと共に稽古を頼みに行き、そしてこれまた何時も通りコテンパンにされてきた。

自分でも最近少しは実力がついたと思っているが、目指す頂は未だ頂上が見えないほどに遠い。
気が強いと思われがちなコーネリアだが、まだ年若い少女なのだ。
余りに高い目標を再確認して、元気がなくなっても無理はないだろう。

「駄目だな、そんな事を考えては。」

弱気になり掛けた自分を叱咤する。
―――――そうだ。このままではいけない、あの方に追いつくには、もっと精神的にも強くならねば。
憧れ、それがコーネリアを動かす原動力。
母の望む『高貴なる姫』ではなく『戦場の戦乙女』を目指した根源。

それに何よりも妹のユーフェミアの事もある。
自分と違いユーフェミアは正に『姫』だ。
戦場など似合わない。
母の理想はたぶん、ユーフェミアが形としてくれる。
だからこそ、守らなければならない。
理屈ではない。
元より彼女がユーフェミアを守るのに理屈などはいらなかった。

コーネリアも自分が皇族で、多くの人間から命を狙われる立場にいる事は察している。
当然、妹のユーフェミアも。
姫ではなく、より目に見える形で実績を出せる軍の道を選んだのは、もしかしたら、そのような考えがあっての事かもしれない。

風呂から上がり、侍女に服を着させる。
他人に服を着さらせるなど、平民や他国人ならば恥らったりなどもするだろうが、コーネリアも皇族。
皇族にとっては、それが普通なのだ。

髪を梳かし、寝巻きへ着替える。
後は寝るだけだ。
今日は疲れたし、早く寝よう。
そう思いベッドへ入る。

横になると、全身から疲れが癒えていく様だった。
思ったより、自分は疲れていたらしい。
そうして段々と眠りに付こうとしていると――――――ポフっ。
なんだか、変なものに触れた。

「!」

試しに、そっと撫でてみる。
もしかしたら枕かもしれない。
触れてみたが………明らかに、枕じゃない。
というより、この肌触りは、

「曲者だ!!」

コーネリアが飛び起きる。
豹のような勢いで跳躍し、棚から剣を取り出す。
この流れの速さは、流石は士官学校の首席ともいえるべきだった。

「コーネリア殿下!ご無事ですか!」

騒ぎを聞いた衛兵が入ってくる。
彼等はコーネリアを守るように槍を構え、ベッドへ向けた。
その時、ベッドの中で動きがあった。
もぞもぞと中で何かが動いたかと思うと、ぽたんと、小さな人影がベッドからずり落ちた。

「なっ………レナード。
何故、ここに。」

落ちてきた人影、それはノネットがユーフェミアの遊び相手として連れてきた、レナード・エニアグラムであった。
まだ寝ぼけてるらしく、こちらを見ても目がトロンとしている。
確か今日は、自分達がマリアンヌ様と訓練している間、ユーフェミアと遊んでいたはず。
なのに、何故……。

「おねえたま……どうされたのですか?」

「ゆ、ユフィ!」

眠たそうにして現れたのは、最愛の妹であるユーフェミアだった。
目を擦りながら、衛兵を見、そしてレナードに目を止めると、弾ける様な笑顔を見せた。

「レナード、みーつけた!
これで、次はわたくしが隠れる番ですよ。」

「ユフィ、何を言っているんだ?」

「おねえたま……。
今日ね。レナードとかくれんぼをしていたんです。
だけど見付からなくて、見つけないとわたくしが隠れる番にならないのに。」

つまり、だ。
要約するとこういう事だ。
かくれんぼをしていたユーフェミアとレナード。
そして隠れる番だったレナードは、この部屋、コーネリアの寝室に入りベッドに隠れた。
後はお約束通り、そのままベッドで寝てしまったのだろう。
それにしても、

(ノネットのやつ……弟を忘れるとは…)

成績はいいのだが、抜けたところのある先輩を思い頭を抱える。
しかし、このままにしておく訳にもいかない。
幾ら子供とはいえ、皇族の寝所に忍び込んだのだ。
法律に照らし合わせば死刑にされても文句は言えない、が。

「ひうっ。」

漸く眠気の覚めたらしいレナードが恐怖を浮かべる。
それはそうだ。
レナードは快活な子供だが、衛兵から発せられる敵意に怯えない訳がない。
なんといったって、まだ"三歳"なのだから。
コーネリアは努めて、優しく言った。

「安心しろ。誰もお前に危害は加えないよ。」

衛兵達に指図をし下がらせる。
相手が三歳の子供という事もあり、衛兵達は素直に従った。
しかしどうしたものか。
これから引き取りに来させるにしても、もう遅いし。
コーネリアが今後の事を考えていると、ユーフェミアからこんな提案が出た。

「おねえたま。
久し振りに一緒に寝ましょう、レナードも!」

邪気のない笑顔でそう言う。
ユーフェミアはただ単に、一緒に寝た方が楽しいとも思っているのだろう。

「いや、しかしだな……。」

親姉妹ならまだしも、公爵とはいえ貴族の子息でしかないレナードと同衾するというのはどうなのだ。
幾ら相手が三歳でも、よからぬ噂が立ちかねないかも。
そう思いながら、レナードを見るが、

「うぅ…。」

相変わらずの怯えた表情。
はぁ、と一回だけ溜息をつくと、コーネリアはそっとレナードに近付き頭を撫でてやる。

「ユフィはああ言っているが、私と一緒に寝るか?」

心なしか、その声色はさっき意識したものよりも、ずっと優しく響いた。
それを聞いたレナードは、これまた輝いた笑顔で、

「はい、でんか。」

そう言ってコーネリアに抱きついた。







SIDE:レナード


ナイトオブツー専属開発チーム、カムラン。
そのビルの廊下を主任と共に歩く。
昨日遂に一応の完成をしたという、改良型グロースターを見に行く為だ。

「卿の要望通り、機体の性能は、より狙撃に適したものへと改良致しました。
また強化型ファクトスフィアにより、そのレーダーは通常の数倍。
更に未だ一般には実用化のされていないMVS二つを基本装備していますので、接近戦にも対応可能です。」

MVS――――確かMaser Vibration Swordの略だったな。
使用時には2つに割れていた刀身が合わさり、高周波振動させる事により、鉄をも切り裂く威力になると聞いてはいたが……、成る程。流石はラウンズ専用の開発チーム。
最新技術がよりどりみどりだな。

「そして、これが我々が改良したグロースター。
名前は、そうですね。
カスタムグロースターとでも言いましょうか。」

ボロが剥がされ機体の全容が明らかになる。
全体的に黒を基調としたペイント、しかし間接部分やフレームなどは深紅に染められている。
そして何より、目に付くのが、

「なんだ、あの角は?」

機体の頭部に、これ見よがしに角が付いている。
一体なんでだ?

「あれはアンテナです。
ラウンズである以上、部隊を指揮する機会もあるでしょうから。
それと…………。」

「それと?」

「何故か、こう。
隊長機には角を付けなければいけないような、強迫観念が襲いまして…。」

なんだか、聞いてはいけない話題のようだ。
さて、さっさと話を続けるか。

「それで他の武装は?」

「はい。
ランドスピナーの改良により、機体の出力自体は通常の1.1倍ほど上昇しておりますが、対KMF狙撃砲。アサルトライフル、ミサイルポットなどの武装で重量が上がっているため、実質的なスピードは汎用機と差はありません。」

「そうか、いい出来だ。
感謝するよ、主任。」

「恐縮です、准将。」

「実際に動かしても?」

「そう言われると思い準備しておきました。
既に此処から近い訓練場に予約をとってあります。」

「それはまた……手際の良いことで。
では行こうか。」

「はい。」

主任の後に続く。
確か此処から一番近い訓練場は、車で行けば直ぐの距離だったはず。
そうだ。
そういえば一つ忘れていた。
生まれ変わった愛機に触れ、言う。

「これからも頼むぞ、なあグロースター。」

最初は専用機という響きに少し懐疑的であったが、こういうのも悪くない。
後は、まだ残っている書類を片付けないとな。
思い出したくない事を思い出し、頭を掻いた。







【レナード専用カスタムグロースター】
搭乗者:レナード・エニアグラム
形式番号:RZA-209L
分類:ナイトオブラウンズ専用KMF
製造:ブリタニア
生産形態:カスタム機
全高:4.29m
全備重量 8.38t
推進機関:ランドスピナー
『武装』
内蔵式対人機銃×1
メーザーバイブレーションソード×2
スラッシュハーケン×4
アサルトライフル×1
対KMF狙撃砲×1
ミサイルポット×2

≪詳細≫
ナイトオブツー専属開発チーム「カムラン」の主任エルザ・ハーシェルが、レナードがEU戦線において騎乗していたグロースターを改造した機体。
あくまでも"本物の専用機"を作り終わるまでの代用品ではあるが、新型のファクトスフィアの装備により、シュナイゼル直属である特別派遣嚮導技術部が開発した第七世代KMFランスロットをも凌ぐ光学測距能力を有する。
正にグロースターを狙撃に特化型に改良した機体。
また出力も多少向上しており、サザーランドの1.1倍の機動力がある………のだが機体重量が通常より重くなっているので、実質的な機動力は汎用機と同等。
基本カラーは黒、間接部分やフレームなどは赤。



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