―――再会は人生においていつでも愉快なことである。
愉快かどうかはさておいて。
再会が待ち遠しいのは事実だ。
彼女と最後に会ったのは一体何時だったか……。









SIDE:レナード


空港に来た迎えの車に搭乗して小一時間。
エリア11政庁に到着した。
本国の宮殿ほどではないが、このエリアの権威の象徴だけあって、かなりの大きさだ。

「さて、先ずはジェレミア卿の取調べからか。」

エリア11での初任務が元上官の取調べという現実に、少し憂鬱になりつつも、ロビーへ行く。
政庁の中は掃除が行き届いているらしく清潔だ。
あの寒いロシアと比べれば、快適過ぎる職場といえる。

「レナード卿、先ずは受付に行き身分を明かされては。」

「んん。そうだな。」

今の服装はラウンズ専用の騎士服ではなく普通のスーツ姿。
これでは、俺がラウンズという事は傍目には分かり難い。

主任の言った通り、受付嬢に身分を明かすと、かなり驚いた様子だったが快く代理執政官の執務室まで通された。
こういう時、ラウンズは一般にも広く顔が知れ渡ってるから、面倒な手続きが必要ないから便利だ。
エレベーターで上の階へ行き、執務室へ向かう。
前にここで仕事していたので、大体の構造はまだ覚えている。
ジェレミア卿の執務室に到着し、ノックをしる。

反応がない。

「留守か……」

念の為、もう一度ノックするが反応はない。
どうやら本当に留守のようだ。

「どういうことでしょう?
受付嬢は何も知らぬ様子でしたが。」

「分からん。
もしかしたら、突発的な事態で予定にない行動をしているのかもしれない。」

「それは、テロなど、ですか?」

「ああ。よし、管制室に行こう。
あそこなら、ジェレミア卿との連絡もとれる筈だ。」

確か管制室は、この階から二階下に下りるんだったな。
全く面倒な事だ。


管制室というだけあって部屋は薄暗い。
中では何人かの男達がそわそわとした様子で座っていた。
しかも、俺が部屋に入ってきたのに気付いた様子もない。

「おい。」

「なんでしょう………って貴方はもしや!」

「レナード・エニアグラムだ。
今日からこのエリア11で任に就く事になった。
ジェレミア代理執政官と連絡が取りたい。
繋いでくれるか。」

「そ、それが……………。」

なんだか歯切れが悪いな。
後ろめたい事でもあるのか。

「言う事があるならさっさと言え。
時は金なりと、このエリアのことわざにあるらしいじゃないか。」

さっさと仕事を終わらせて、休みたいんだ。
ユフィにも久し振りに会いたいし、中東から今までに俺の休みがどれだけあると思っている?
特に酷かったのはロシアだ。
まさか睡眠時間が五時間になるとは………。
本当に最低最悪だった。
ちなみに、一日の睡眠時間じゃなくて一週間の合計睡眠時間だぞ。
体力には無駄に定評のある俺じゃなかったら、確実に死んでた。

「実はキューエル卿がジェレミア卿を"ゼロを発見した"という情報で誘き寄せ………。」

キューエル卿が、ジェレミア卿を!?
仲間通しでこんな理由をする理由といえば……。
先日のオレンジ事件が脳裏に浮かび嫌な想像をする。

「まさか…キューエル卿はジェレミア卿を粛清するつもりなのか!」

「は、はいっ…。」

「なんてこった!
ジェレミア卿の位置は!?」

「こ、ここです!」

地図に表示された場所を見る。
場所はシンジュクゲットー。
どうやら何かの競技場らしかった。

「主任、俺のグロースターは!」

「既に準備しています。」

「分かった。」

仕事の早い部下で助かる。
俺は全速力で自分のグロースターの下へ向かう。
格納庫には狙撃砲などの重武装を外した状態のカスタムグロースター。
直ぐにコックピットに乗り込み起動する。

『レナード卿、今回は移動時間短縮のため武装は最小限に致しました。
これでカスタムグロースターは通常の1.1倍の機動が出来ます。』

「そうか。
ナイスだ、主任。」

本当に有能な部下だ。
こちらの要望に、要望を出す前に答えてくれる。
技術者じゃなくて秘書でも目指した方がよかったんじゃないかとも思うが。
まあいい、今は。

「レナード・エニアグラム出撃するっ!」

慣れに慣れたGが全身を襲う。
最初はなれないGだったが、乗るに連れてこれがないとスイッチが入らないと思えてくるから不思議だ。
非常時のため最短ルートを突っ走る。
高速を駆け抜け、ビルにハーケンを飛ばし跳躍する。

ゲットーに入った。
やはり租界とゲットーは違う。
何がって言うと全てが、だ。

戦争で破壊されそのままになっている廃墟。
シンジュク事変での名残か、それは他のゲットーよりも酷い。
また微かに、結構な数の墓らしいものもあった。

「いや、今は感傷に浸ってる場合じゃあないな。」

暫くして見えた。
古ぼけた競技場の後。
ファクトスフィアを使うと、既に戦闘が開始されている。
サザーランドが六、そして…………。

「なんだ、この反応。
サザーランドじゃ、ない?」

少し疑問に思うが、それは後だ。
それより、急ぎ競技場へ、

ハーケンを発射。
そのまま飛び上がり、競技場を飛び越える。
そこには前情報と同じ七機のナイトメアがいた。

だが、そんなものはどうでもよかった。
最も大事なのは、唯一つ。
競技場の中心、そこには、

「ユフィ!何故ここに!」

『援軍!?』

白いナイトメアのパイロットの声だろう。
成人したとは言いがたい、幼さを含んだ声色が響いた。

「れ、レナード!」

ユフィが呆然とこちらを見ている。
そりゃこんな登場の仕方だ。
無理はないかもしれないが、

『レナード、なのか……。
エリア11に配属される事になるとは聞いたが……。』

「そうです、ジェレミア卿。
……そんな事より、これは如何いう事態なのですか?
私はジェレミア卿がキューエル卿に粛清され掛けてると聞いて飛んで来た訳なのですが。」

『わ、私の為に………。
くぅう、ヴィレッタ。私は良い朋友をもった。』

いや、こんな所で感動しないで下さいよ。

「で、どうしてユフィ――――――ユーフェミア殿下。
何故このような場所に。
貴女様は政庁におられるとばかり思っていたのですが?」

すると少し悲しそうに、

「それが、そこのスザクに。」

言って、背後にある兵器。
白いナイトメアを指差す。

後から考えれば…………。
たぶん、この時の俺は冷静な判断が出来ていなかったのだろう。
勿論、表立って発狂するだとか、狂ったりはしない。
しかし極度の疲れは、逆に人間を一種の"ハイ"な状態にしてしまうのも確かなのだ。
その時の俺は、睡眠不足やらストレスやらイレギュラーな出撃やらで、かなり披露が溜まっていた。
お陰で、通常時の俺なら絶対にしないような、短絡的過ぎる行動をとってしまった。




スザクだと!?
俺の知る人物内に"スザク"という人間は一人だけ。
クロヴィス殿下、殺害の容疑者である枢木スザクだ!

おいおい、待て。
枢木スザクといえば名誉ブリタニア人だ。
しかも容疑は晴れたとはいえクロヴィス殿下殺害の元容疑者。
それがナイトメアに乗る?
馬鹿な。
明確な記述こそないが、名誉ブリタニア人がKMFに乗るなど有り得ない事だ。

しかも見たところ形状からして、あれが特派の開発した第七世代KMFランスロット、とかいうやつだろう。
つまり我が軍の最重要機密。
まだグラスゴーやサザーランドなら兎も角、そんな大事な物に名誉ブリタニア人を使う?
絶対に有り得ない事だ。
もしあるとしたら、それは、

「貴様、ランスロットだったな。
そこに乗る貴様は枢木スザクか。」

『はい。』

肯定の言葉。
ふふふ、潔い事だ。
覚悟はできているようだな、枢木スザクゥ!

「なら、死ねェ!」

『なっ!』

俺の振ったMVSを避け、そして競技場の観客席へ着地する。
見事な反応速度だ。
どうやら、性能だけじゃなく技量も中々とみた。

『なにを………。』

「なにを、だとぉ〜。
決まっている、このゼロのスパイめ!
我が軍の最新鋭機を盗み出すだけじゃなく、ユフィの誘拐まで企むとは!」

『ご、誤解ですっ!自分は………。』

「誤解だと?
ふんっ、お前が今乗っているランスロットが動かぬ証拠だ!
どこの世界に最重要機密の塊のようなKMFに、よりにもよって外人を起用する馬鹿野郎がいる!?」

『ですから、それは!』

「問答無用!」

そうだ。
今までの積もりに積もった恨み晴らしてくれる!
お前達テロリストが活発的に活動してなかったら、今頃俺は本国で休暇を満喫してたんだ!

それが…………。
クロヴィス殿下が殺害されたばっかりに、砂漠が広がる中東に飛ばされるは、エリア11に飛ばされるはで、てんてこ舞いだ!
残業手当でるのか、これ?

「覚悟しろ、こん畜生!」

日々の恨みを込めてMVSを振る。
しかしそれは受け止められた。
同じMVSで。

「ふんっ、それもそうか……。
特派はシュナイゼル殿下肝いりの技術部隊。
それが採用されていても不思議じゃない、か。」

それだけじゃない。
パワー、敏捷、耐久、瞬発力、バネ、その全てにおいて、あちらが上。
まあ仕方ない。
こちらは幾らラウンズ専用機とはいえ、所詮は第五世代のカスタム機。
対してあちらは、第七世代。
性能に差があるのも、ある意味当然といえる。



だが…………







それを覆してこそ、ナイトオブラウンズ!



「喰らえ!」

アサルトライフルを発射。
手始めに足元に叩き付け、地盤を崩す。
ぐらりと傾くランスロット。
それこそ望んでいた隙。

腕に追加装備されたハーケンを使い、空中を飛ぶ。
MVSを抜き、ランスロットを真っ二つにするように振るった。
無論、同じようにMVSを使い防ごうとするランスロット。
通常ならそれで問題ないだろう。
ただ今回は違うのだ。

俺のカスタムグロースターは上からランスロットに叩きつける様に攻撃をしようとしている。
つまり元もとのパワーに重力が加わるのだ。
落下のエネルギーは重量が大きく影響する。
カスタムグロースターの重さは8t。
十分すぎる破壊力だ。
予想とおり、ランスロットを押し、後一歩で両断出来るというところで、ランスロットが姿勢をずらし上手く俺のグロースターを空中に放り投げた。

たまらず受身を取り着地する。
ランスロットの方は流石に、あの姿勢では受身はとれなかったようで、そのまま落下した。
だが、まだ戦闘は十分に可能のようだ。
なんでもないかのように、ゆっくり立ち上がる。

面白い………。
まだ、こちらも十分戦えるぞ。
次はどうやって攻めてやろうか。
と、その時だった。
カスタムグロースターに通信が入る。

『レナード卿っ。
こちらは特別派遣嚮導技術部所属、セシル・クルーミー中尉ですっ。』

「なに、特派だと?」

『そちらの試作嚮導兵器ランスロットのデヴァイサーは間違いなく枢木スザクです!
テロリストじゃありません!』

「えっ?
だけど名誉ブリタニア人が……ま、待ってくれ。」

念の為、ジェレミア卿達に繋ぐ。

「ジェレミア卿、今の話は本当なんですか?」

『……………本当だ。
私もイレブンがKMFのパイロットになるのに思う事は山ほどあるが、特派はシュナイゼル殿下の直轄。
我々の人事権は及ばないのだ。』

つ、つまりは俺の完全なる勘違い?
遠目に見えたユフィの顔が嘗てないほど怖かったのは………たぶん、気のせいじゃないだろう。




その後、始末書に追われ俺の睡眠時間が減ったのは言うまでもない。



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