―――DOKEZA。
なんでも、このエリア11に伝わる独特の謝罪方法らしい。
他にも、とんでもなく大事なお願いをする時に使うとか。
つまり何が言いたいかというと…………人間、間違いはあるという事だ。








SIDE:レナード


「すまん。」

俺の第一声はそれだった。
取調室には神妙な顔をした枢木スザクがいる。

「いやホントに悪かった。
今回は完全なる俺のミスだ。」

落ち着いて考えると、あの時の俺の行動はかなり短絡的、いや愚かな行為だった。
確かに名誉ブリタニア人が最新鋭KMFに乗るのは可笑しい、というより有り得ない。
そんな固定観念と、疲労、そしてユフィがいたという事もあり、焦り暴走してしまった。
駄目だ、これでは。
今回は良い。
結果として直ぐに誤解だと分かり、何も起こらなかった。
しかし、これがもし戦場だったら俺は死んでたかもしれない。
今後は絶対にこんな事がないようにしなければ……。

………いや、もしかしたら、かなりの間野生的な生活が続いていたので、頭の回戦が狂ってしまったのかもしれない。
うん、やっぱり適度な休息って重要だよね。

「頭を上げてください、エニアグラム卿。
悪いのは、政庁に報告もせず出撃した自分です。
ですからどうか、処分は自分だけに……。」

成る程。
発進許可を出した特派に処分が及ばないようにしてるのか……。
律儀な事だ。

「いやいや、処分なんてない。
寧ろ感謝してるくらいだ。
お前のお陰でユフィは無事だったんだし……。」

たっく、ユフィもユフィだ。
生身でナイトメアの前に身を晒すだなんて………。
もしランスロットが、ブレイズルミナスとかいう防御兵装を装備してなかったらと思うと、身震いする。

「まあ、そんな事は後で話すとして、本題に入ろうか。
枢木スザク一等兵。」

「……はい。」

俺が枢木スザクを呼んだ理由は、あの時の事を謝罪したかったというのもあるが、一番の理由はゼロだ。
ジェレミア卿は相変わらず"なにも覚えてない"の一点張り。
嘘を言ってるようにも思えないし、嘘をつくにしても、もっとましな嘘があるだろう。
だからこそ、事件当時最もゼロの近くにいた、枢木スザクから話を聞きたいのだ。

「細かい事情は報告書で読んでいるので、単刀直入に聞く。
お前はゼロの仲間か?」

「いいえ、違います。」

間を空けず返答する。

「だろうな。
では、ゼロの正体に心当たりはあるか?」

今度は少しだけ間を空け、

「いいえ、ありません。」

「そうか………。
まあここら辺は余り期待していなかったのでいい。
じゃあ、ジェレミア卿の豹変の理由に心当たりはあるか?」

「…豹変?」

「そうだ。
あれでもジェレミア卿は忠義者でな。
特に皇族への忠誠心は人一倍………いや、三倍はある。
少なくとも、皇族殺しの犯人であるゼロと容疑者であるお前を、自分の弱みを握られたからといって逃がすような男じゃない。
おまけに、ジェレミア卿自身の証言には不可解な点も多い。
だからこそ、あの時ジェレミア卿の近くにいたお前からの話が聞きたいんだ。」

「分かりました、自分に答えられる事なら答えます。
ですが、自分にもジェレミア卿が豹変した理由は分かりません。」

………余り期待もしていなかったが、やっぱりガックリとくる。
これで枢木スザクが何か重要な証言をしてくれたら、幾らでも庇いようはあったかもしれない。
しかしこれでは現状で、規律を乱さない為にもジェレミア卿の処分は免れないだろう。
俺に出来るのは、精々が少し罪を軽減する事だけ。
おまけに、その処分をするのは他ならぬ俺なのだ。
正直、戦友を処分するのは気が進まないどころか、かなりの抵抗感がある。
だが、他の物に任せるくらいなら、と思う気持ちもありよく分からない。

「はぁ〜」

「どうされたのですか、エニアグラム卿?」

「いや、管理職っていうのも辛いなあと思って。
処分される方も辛いけど、処分する側も辛いんだなぁと、一つ学んだよ。」

「はぁ……。」

「おまけに上司が………。
俺も美人の皇女様の騎士になりたかった――――――あ、これオフレコで頼む。
他にばれたら不敬罪になりかねないし。」

止せばいいのに、ついつい愚痴ってしまう。
もしかしたら、枢木スザクが俺と同い年というのも関係してるのかもしれない。
何時も何時も、俺の周りといったら、おっさんばかりだったからな。

「ギルフォード卿はいいよな〜。
コーネリア殿下のような人の騎士で。
やっぱり職場に癒しの場を作るしかないか。
士官学校から美少女ばっか集めて、直属部隊でもつくろっかな。」

「だ、大丈夫なのでしょうか、それで。」

「いいんじゃないか。
ラウンズって直属部隊を作ること認められてるし。
そういやルキアーノもそんな部隊を作るどか言ってたな。」

「ルキアーノ?………もしかして、ナイトオブテンの!」

「そうそう、ルキアーノ・ブラッドリー。
一般的にはブリタニアの吸血鬼っていうほうが有名だな。
あいつとは士官学校時代のルームメイトでさぁ。
色々と迷惑かけられた訳だよ。」

そういや、そのルキアーノはまた功績を上げたらしい。
なんでも敵部隊を一人で壊滅させたとか…………現地住民を皆殺しにして。
どうして俺の友人って、こう性格に難があるんだろう。
仕事は辛いし、友人も色んな意味でぶっ飛んでるときた。
ラウンズになって人生勝ち組かと思ったけど、これじゃ負け組みだ。
給料は貯まるばかり。使う暇なんてありゃしない。
ちょいと泣けてきた。

そうやって悶々としてると、取調室の扉が開き文官らしき男が入ってくる。

「レナード卿、そろそろお時間です。」

「んっ、もうこんな時間か。」

時計を見ると、驚いた。
予定の時刻を完全に過ぎてる。

「じゃあ、取調べはこれでお終い。
じゃあ、また何時か。」

「はっ、失礼します。」

ビシッと敬礼して退室する枢木スザク。
真面目ないい奴だなあ。
殺人狂のルキアーノとは大違いだ。




枢木スザクの取調べを終えて漸く自分の時間が出来た。
なんというか、ここ暫く休みなんてゼロだった気がする。
時は金なりって本当だな。
俺からしたら、一時間の暇は一千万ブリポン(ブリタニア£)に値するぞ。
とぼとぼと帰っていると、

「スザクの取調べ、終わったのですか?」

ユフィがいた。
競技場で見た時は、色々と『ハイ』になっていて、よく見なかったけど、前よりも背が伸びてる。
少女っぽかった所が多少薄れ、コーネリア殿下のような女性としての魅力が増えた、ともいえる。
…………特に、胸の辺りが。

うん、成長期っていい言葉だ。
仕事の疲れが、ちょっとだけ吹っ飛んだよ。

「ああ、結果は白。
ランスロットのデヴァイサーだけに真っ白。
お陰でジェレミア卿の処分をどうにかする事も出来ない。」

少しだけ皮肉を交えて言ってしまう。
すると予想とおり、ユフィは、

「スザクにも悪気があるわけでは―――――――」

「分かってるよ、そのくらいは。
だけど少し気にしてたのも事実だから、やっぱ落胆して。」

……………沈黙。
気まずい雰囲気が漂う。
なんとかして、話を変えないと。

「そ、そうだ。
ユフィはどうして、副総督なんかに?
衛星エリアならまだしも、途上エリア、しかも情勢的に不安なエリア11に行くだなんて、君のお母上は認めなかっただろう?」

「私は………なにも、していなかったから。」

「?」

なにもしていない?
どういうことだ。
ユフィは確か此処に来る前は学生…………家でゴロゴロしてた訳じゃあるまいし。
それにユフィに限って引きこもりやNEETになるとも思えない。
…………死んでしまった、あの馬鹿皇子じゃあるまいし。

「レナード?」

「!………ああ、悪い。
ちょっと考え事しちゃって。」

どうも、駄目だな。
久し振りにユフィと再会したせいか、よく昔の事を思い出してしまう。
もうルルーシュとナナリーは死んだと分かっている筈なのに。

「それで、何もしていないって、如何いうことだ?」

少しだけ躊躇した後、とくとくと語り始めた。

「わたくしは、今までずっとお姉さまに守られてばかりでした。」

「…………………。」

「恵まれた環境、守られた自分。
ですが、ある日ふと疑問に思ったのです。
わたくしは、何故こんなに多くに人に守られているのだろう、と。」

「それは………。」

ユフィが皇族だからだ、とは言えなかった。
それ以上は臣下の分を超えた発言になりかねない。

「直ぐに答えは出ました、お姉さまのお陰で。」

「コーネリア殿下の?」

「はい。でもお姉さまに相談したというわけじゃありません。
お姉さまの生き方を見て聞いたら、答えなんて出てたんです。」

「殿下の、生き方……。」

「そうです。
お姉さまは私と同じ皇族です。
しかし、私とは違いナイトメアを駆り、多くの人々を守っています。
それに比べて、私は何もしていない。」

「額づかれた分、上に立つもの……貴族は領民を命に代えても守らなければならない。
貴き者の義務、か。」

ノブレス・オブリージュ。
民主国家であるEUなどは古臭いと言うが、俺はこの考えが好きだった。
庶民と貴族は人種としては同じだろう。
だが、その責任は大きく異なる。

貴族は領民から税を徴収し贅沢をする"権利"がある。
そして貴族には領民の安寧を守る"義務"が発生する。

これがノブレス・オブリージュの一つの側面。
だからこそ領民は喜んで貴族に税を差し出すのだ。
これはコーネリア殿下や、俺の父の考えでもある。
ただ税を貪り領民を盾とするのは貴族ではなく、ただの寄生虫だ。

「分かったよ、ユフィ。
そういう事なら、俺も出来る限りは協力するよ。
といっても、一兵士に出来ることなんて、たかが知れてるけどな。」

「そんな事ないわ!
ありがとう、レナード。」

うんうん、その笑顔を見れただけで眼福、眼福。

「ふぁ〜あ、んじゃ俺はもう寝るわ。
流石に疲れたし。」

「そうね、おやすみなさい。レナード。」

「ああ、おやすみ。」

さて、帰るのもだるいな。
政庁にある部屋で休ませて貰うとするか。
折角だ。
今日はどっさり八時間は寝よう。
そう決めた。

「そうだ!
レナードは確か17才でしたよね?」

「ん、そだけど。」

「それで、頼みたい事がありまして……………」

「頼み?」

ユフィの笑顔が悪戯気だったのが、少し印象的だった。
そして、俺は………。




「本日付でアッシュフォード学園に転入する事になった、枢木スザクです。
宜しくお願いします。」

「同じく、レナード・エニアグラムです。
ええと…………宜しく?」

俺のエリア11での仕事は、学業から始まった。



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