―――学べば学ぶほど、自分が何も知らなかった事に気づく、気づけば気づくほどまた学びたくなる。
思い起こせば、俺は集団の中で勉強をするという機会がなかった。
いや、士官学校で学んだ事はあったが、極普通の勉強に関しては専属の家庭教師から付きっ切りで教わったので、普通の学校というものに通う機会はなかったのだ。
だからこそ少し興味があった、学校というものに。









STAGE0-3


皇暦2009年9月。当時九歳。
輝いた日々は唐突に、終わりを告げた。

マリアンヌ后妃がアリエス宮で暗殺された。
その出来事を俺が耳にしたのは一体、事件後何日後の事だったろうか。
偶然夜中トイレに行く為に起きた俺は、こっそり話していた両親の会話を聞いてしまい、そこで知った。
それもマリアンヌ様が暗殺された事だけじゃない。
ルルーシュとナナリーが日本へ人質と送られる事も含めて、だ。
つまり俺が知ったのは、かなり後のことだったのだろう。

当時の俺は若かった。
幼いといってもいい。
世界は自分を中心に廻っているのだと当然の如く思っていたし、自分に出来ない事はないんだと信じていた。
その癖、困ったことがあると直ぐに親任せ。
自分から見ても、良い子供とはいえなかったと思う。

だから幼い俺は、父親に言ったものだ。

「ルルーシュとナナリーを助けて下さい!
エニアグラム家の力ならなんとかなるでしょう?」

対する父の返答はNOだった。
俺は更に食って掛かる。
すると父はとうとう怒った。
思いっきり殴られて痛み蹲る。
今までも何回も喰らった拳骨だが、その時の拳骨は特に痛かったと記憶している。

「我侭を言うなっ!
お前は責任と言うものを全く理解していないっ!
私とてルルーシュ殿下やナナリー殿下の事はどうかと思う。
しかし両殿下に肩入れしたならば、最悪このエニアグラム家が取り潰しになり兼ねん!
ただでさえ、アッシュフォードが陛下から白眼視されておるのだ。
事業に失敗し、近々爵位を没収されるという噂もある。
それに巻き込まれるのだけは避けなくてはならない。」

「しかし……っ」

「いい加減黙れ!
私一人の責任で済むのなら、まだいい。
しかし事は私一人だけではなく、お前やノネット、そして領民まで飛び火したならなんとする!?
お前はその命に責任がもてるのか!?
『貴方の大切な人は死んでしまいました。だけど仕方ないんです。僕の友達を助けるためだから』
言えるのか、そうやって?」

「ひっ…。」

「言えないだろう?
自分の行動に責任を持てんような子供が偉そうな口をきくな!」

父の剣幕が余りに恐ろしく、そして自分が不甲斐なかった俺は一目散に自室へ逃げ帰り、泣いた。
一日中泣いて、少しだけ落ち着くと考えた。
どうすればルルーシュとナナリーを助けられるか、
どうすれば力が手に入るか、
必死に考え、そして気が付けば、家を抜け出していた。
目指す場所は空港。
ルルーシュとナナリーが旅立つ場所。

当時の俺は、何も考えず空港に行ったら偶然にもルルーシュとナナリーと鉢合わせになったと思ったが、この年になると真実は大体読めてくる。
たぶん、父か母が影からこっそり助けてくれたのだろう。
偶然助けたお年寄りからお金を貰ったり、偶然大きな声でルルーシュとナナリーの噂をしている男達から情報を得たりなど、偶然とするには余りにも都合が良すぎる。

まあ、その頃はそんな事は夢にも思わず。
そして会ったのだ、二人に。
実に一ヶ月ぶりの再会だった。

「ルルーシュ…………ナナリー…………」

「お前、レナード。
なんでここに?」

「レナードさん!?」

二人が突然現れた俺に面食らっている。
そういう俺も、実際に会うと何を言えば良いのか分からなくなってしまった。
言いたい事は沢山ある。
沢山ありすぎて、何を言えばいいのか分からず混乱して、

「ごめん。」

何故か謝っていた。

「なんでお前が謝るんだよ。
わけ分からないぞ。」

前と変わらぬ軽口をルルーシュが言う。
だから、俺もつい何時ものように。

「う、うるさい!
ふん、日本に行くっていうから少しは心配してやろうと思ったのに。」

「へえ、お前のような脳筋にも心配する、なんて事が出来たのか。」

「相変わらず、その減らず口は変わらないな………。」

内心でほっとしていたのかもしれない。
マリアンヌ様を失ったルルーシュは、見る影もなく落ち込んでいると思っていたから。
だから、減らず口を返してくれた事が嬉しかったのだと思う。

「ふふふふっ。」

「ナナリー?」

訝しげに俺とルルーシュが突然割り出したナナリーを見る。

「お兄様もレナードさんも楽しそう。」

「ナナリー…………。」

何時もだったら「そんな訳ない!」と否定しそうなルルーシュだが、その時は違った。
気になり少し訊ねると「ナナリーが母さんが死んでから初めて笑ったんだ」と教えてくれた。
俺は少しだけしんみりして、だけど正直じゃない俺は、

「ブリタニアと日本は険悪だから気をつけろよ。
ルルーシュはヘナチョコだから直ぐにやられちゃうぞ。
まあお前がどうなろうと、俺の知ったことじゃないけど。」

そんな事を言ってしまった。
だけど説得力はなかったと思う。
何故なら、その時の俺は、視界が曇って良く見えなかったから。

「悪いけどご期待に沿えそうにないな。
僕はナナリーを守るんだ。
日本人なんかに、やられてたまるか。」

その時、ルルーシュの瞼が少し光っていたのが印象的だった。
たぶん、俺達はどっちも素直じゃなかったんだろう。
そして時間がきた。
飛行機の搭乗時間が。

「では、さようなら。レナードさん。」

「ああ、さようなら。ナナリー。」

ナナリーが言った、さようなら。
それがまるで今生の別れのように思えて、それが嫌で、

「またな!二人とも!」

満面の笑みでそう言ってやった。
すると二人も対抗するように、

「ああ、またな。」

「また何時かお会いしましょうね、
レナードさん。」

それからだ。
俺の悪戯癖や怠けっぷりが収まり、逆に勉強や体力トレーニングを積極的にやり始めたのは。
明確な理由は分からないが、焦っていたのかもしれない。
または、偉くなってルルーシュやナナリーを助けに行こうという潜在的な意識があったのかもしれない。
ただ、それも無意味になった。
ブリタニアによる日本への宣戦布告。
そして、ルルーシュとナナリーの死。

だが違った。
正確には、無意味になったと思っていた、か。








SIDE:レナード


『スザク一人では色々と困った事もあるでしょうし、レナードはスザクを助けて欲しいのです。
それに十七歳なら学校に行くべきでしょう。』

実際、断ろうと思えば断れた。
幾らユフィが皇女で副総督といえど、皇帝陛下直属のラウンズに対する命令権はない。
それでも、この願いを受け入れたのは、やはり学園というものに興味があったのだろう。

その思いは、前にエリア11に来た時『ミレイ・アッシュフォード』という自称生徒会長に誘われた時から漠然と抱いていた。
幸い前と違い、俺は特に役職についている訳でもない。
言ってしまえば、このエリア11駐留軍における客将といってもいいかもしれない。
だから、最初の書類さえ終えてしまえば、自由な時間はそれなりにあったから、学業と軍務の掛け持ちも出来なくはなかった。

そんな理由もあって、コーネリア殿下に無理言って頼み、ここアッシュフォード学園に『見聞を広める』という名目で転入した訳だ。
最初は少し渋っていたけど、ユフィという強力な援軍のお陰で許可してくれた。

しかし、興味があった学園に転入したというのに、俺の意識は完全に学校から外れていた。
転入したクラスにいた、同い年の男子生徒の一人を見る。
ブリタニア人としては珍しい黒髪。
整った顔立ち。
それはどう見ても。

(ルルーシュ………)

ただ顔がそっくりというだけという可能性も考えてはみた。
しかし、それはないだろう。
この世界には同じような顔の奴が三人はいるらしいが、同じような顔でファーストネームが同じ奴なんて一体どれだけいるんだ。

兎に角、だ。
なんとかして、ルルーシュと二人っきりで話したい。

「イレブンなんて………それにナイツオブラウンズの人がどうして……。」

「名誉ブリタニア人、そしてナイツじゃなくて"ナイト"」

「うぅん、話してみないと良く分からないんじゃない。私が………。」

オレンジっぽい髪の女生徒を男子生徒が止める。
どうやら不幸中の幸いと言うべきか、俺の剣呑とした雰囲気を察してかクロヴィス殿下暗殺の元容疑者である枢木スザクを恐れてか、他の生徒は遠巻きに俺と枢木一等兵を見るだけで、近付いては来ない。
どうにかして、チャンスを作れないだろうか。

そう思っていると、チャンスは直ぐにやってきた。
制服の襟に触れたかと思うと、教室から出て行く。
俺も続いて出ようとした所で、一緒に転入した枢木スザクまで席を立ったので、少し躊躇ったが、この機会を逃すとチャンスが何時になるか分からない。

それに、あのスザクの態度………。
まるでルルーシュが合図したかのようなタイミングだったが。

そこで俺の頭には閃く事があった。

そうだ、枢木だ!
ルルーシュとナナリーが預けられた場所。
それは枢木ゲンブ首相のところ。
なら枢木首相の息子であるスザクと面識があっても不思議じゃない。

時間を置いてから、二人を追って階段を上がる。
どうやら屋上へ向かっているようだ。

階段を上り終わると扉が見える。
開くと、広がる一面の空。
そして屋上には、予想通りの二人がいた。

「来ると思ったよ、お前なら。」

流石に声変わりはしていたか……。
声が最後に話したときよりも低くなっている。
だが、それ以外は変わらない。
八年前と変わらぬルルーシュがそこにいた。

「久し振り、というべきか。
あの空港以来だな、ルルーシュ。」

「レナード卿はルルーシュを!?」

「幼馴染だよ。
俺の姉がマリアンヌ様……ルルーシュの母君に稽古をつけて貰っていてね。
その縁で知り合った。」

枢木の疑問に簡潔に答える。
それよりルルーシュが生きていた。
その事実を噛み締める。

「今は、どうしてるんだ?」

「察しはつくだろう。
ブリタニアの皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは記録上死んだ事になっている。
今はルルーシュ・ランペルージ、それが俺の名だ。」

「成る程、アッシュフォードか。
確かにこの家はヴィ家の後援貴族の筆頭だったな。」

「ああ。前より随分と頭がまわるようになったじゃないか。
―――――――それで、お前はどうするつもりだ。」

「!」

視線だけで人を殺せるような殺意が貫く。
ルルーシュは聞いてる。
それを知った上でお前はどうするのだと。

決まっている。
俺は皇帝陛下の騎士、ナイトオブラウンズ。
その力は皇帝陛下の為にだけ振るわれる。
ならば、死んだと思われていた皇子が見付かったなら、俺のとるべき選択肢は、一つしか残されていない。

「あいたたたたたっ!」

わざとらしく頭を抱える俺。

「どうした?」

訝しげにルルーシュが訊ねる。

「いや実は最近なんだか『認知症』に掛かったみたいでさ。
子供の頃の記憶が薄れてるんだよなあ。
ルルーシュって一体全体どんな奴だったか、いや、そもそもルルーシュって名前だったか全然思い出せない!ああ、こんな記憶が不鮮明じゃ陛下に報告する訳にもいかないわな。」

「おまえ………。」

自分でも下手な言い訳だと思うが、許して欲しい。
これは俺なりのケジメだ。
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは死んだ。
そう此処にいるのはブリタニアの皇子であるルルーシュじゃなく、ただのルルーシュ。
俺はそう記憶する、無理矢理にでも。

それに、こう言っちゃなんだがブリタニアにおけるルルーシュの重要度は低い。
殺してくれと言わんばかりに、日本に人質に送ったこともそうだし、少なくとも今のルルーシュには何の力もないのだ。
命令があるなら兎も角、
別に俺はルルーシュ・ヴィ・ブリタニアを保護しろ、なんて命令は受けていない。

「そうだ、ナナリーは元気か?」

「元気だよ。今はアッシュフォードの好意でクラブハウスに住んでいる。
ただ足と目は……。」

「そうか。」

まだ治ってなかったのか。
もしかしたら、もう治ってるかもと思っただけに衝撃だ。

「それより、枢木スザクとは。」

「友達だよ。
八年前からの、な。」

そうかルルーシュも友達が出来たんだな。
しかも俺の友達と違って普通の。
なんだか感慨深い。

「じゃあ、スザクだっけ。
これからは同じ同級生、宜しく。」

「光栄です、レナード卿。」

「おいおい、軍務の時なら兎も角。
今は学生だぞ。
最初の紹介だって緊急時以外は特別扱いしないよう頼んだだろ。
レナードでいいよ、学園では。
勿論、仕事中は駄目だけど。」

「は………え?」

「レナードもそう言ってるんだ。
別に問題ないだろう。」

「な、なら宜しく。レナード。」

「んっ、こちらこそ。」

初めて、普通の友達が出来た。
なんか感無量だな。

「それより二人とも、今日は家に寄れるか?
ナナリーも喜ぶ。」


「勿論、行かせて貰うよ!」

明るく言うスザク。
だけど俺は、

「悪い。今日は少し仕事があるんだ。
明日は完全にオフだから、明日でいいか。」

「そうか、なら仕方ないな。
じゃあ、明日に。」

「ああ、明日に。」

そうだ、これからは何時でも会える。
別に焦る必要なんてないんだ。

それじゃあ、気合を入れなおして仕事に行くか。
コーネリア殿下とのあれこれ、そして………。
ジェレミア卿に処分を言い渡さなければならない。
憂鬱な仕事だが、明日の事を思えば少しは気分も楽になるさ。



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