―――パンさえあれば、たいていの悲しみは堪えられる。
そうともいえるし、そうともいえない。
事実として、悲しみの余り食を断ち命を落としたという例も過去には存在する。
だが、どのような聖人君子であれ"パン"がなければ死ぬのは事実であり、動かしようのない真理だ。









SIDE:レナード


「ジェレミア卿。」

「レナード!分かってくれたかっ。」

こちらへの信頼が満ちた顔でジェレミア卿が言う。
しかし俺は、そんなジェレミア卿の信頼を裏切り、彼を罰しなければならない。
幾ら命令とはいえ、同胞、それも戦友を罰するのにはやはり抵抗感がある。

「賄賂、脱税、横流し、癒着、謀反。
徹底的に卿の身辺や純血派を洗いましたが、それ等の痕跡は何一つ見つけられませんでした。」

「ではっ!」

「しかし貴方がクロヴィス殿下を殺害したゼロを逃がしたのは事実。」

「!」

「このまま貴方を無罪放免としては、他の者の規律が乱れかねない。
今回の責任として、階級を二つ下げることにしました。。」

「ッ!…レナード、おまえは。」

「すみません、ジェレミア卿。
ですが、私のエリア11での権限ではこれが限界です。」

「だが、私には覚えがないのだ!
信じてくれ!
気付いたら枢木とゼロを逃がした後だったのだ!」

「分かっています。
ジェレミア卿がそのような事をする性格ではない事は。
ですが、貴方がゼロを逃がしたのは、まぎれもない事実。
全ての証拠が貴方の責任だと告げているんです。」」

「いや………そうだな、すまない。
覚えがないとは言え、私がゼロを逃がしたのは事実……。
くぅう、クロヴィス殿下………不甲斐ない私めをお許し下さい。」

「………ジェレミア卿。」

「すまない、少し一人にしてくれ。」

空気が重く、此処にこれ以上長居したくはなかった。
ジェレミア卿の言葉に甘え、俺はそそくさと取調室を後にした。



「それで、ジェレミアの疑いは晴れたのか。」

「はい殿下。」

総督執務室の机。
そこに座るのは勿論このエリア11総督コーネリア・リ・ブリタニア殿下その人である。
なんでも"サムライの血"というレジスタンスを潰してきた後らしく、雰囲気が少し硬い。

「まあよい。
今後、純血派に関してはお前に一任する。」

「はっ?」

「何を呆けている。
お前に一任すると言ったのだ。
テロリストに弱みを見せるような脆弱な輩、我が軍には必要ない。
それでもお前が"信頼"できると言ったのだ。
自分の言葉には責任を持てよ。」

「イエス、ユア・ハイネス。」

厳しい言葉、だが正論。
静かに殿下の言葉を受け入れる。

「そういえば、アッシュフォード学園だったか。
お前が編入した学校は。」

「はい、あのガニメデの開発を行っていたアッシュフォードです。」

「ガニメデか……。」

コーネリア殿下が遠くを見るような目をする。
懐かしんでいるのだろう。
殿下はガニメデ、いやガニメデのテストパイロットであるマリアンヌ様の弟子にあたるお方だからな。

「しかし驚いたぞ。
ユフィ経由でお前が学校に行くなどと言い出した時はな。」

「はっ。この度は私の我侭を聞いて頂き真にありがとうございます。」

「ふっ、建前はよせ。
大方、ユフィがお前に言ったのであろう。」

流石は殿下だ。
直ぐに見抜かれてしまった。

「はい、ですがユフィは切欠をくれただけです。
私が学校というものに行きたかったのは本当です、殿下。」

「そういえば、今日のお前は少し機嫌が良いな。」

「分かりますか?」

「無論だ、何年の付き合いだと思っている。」

「実は新しく友達が出来まして。それで。」

あとルルーシュに再会して。
コーネリア殿下やユフィにはルルーシュの事を話そうか少し迷ったが、止めておいた。
殿下ならば、ルルーシュ達の事を知っても決して悪いようにはしないだろう。
寧ろ陰ながら援助してくれるかもしれない。
だが、それでも話すことは出来なかった。
コーネリア殿下が信頼出来ないんじゃない。
それどころか殿下の事は、姉上並みに信頼している。
だが殿下の後援貴族はそうではない。
コーネリア殿下にルルーシュ達を害するつもりはなくとも、殿下の意志に反してルルーシュ達に危害が及ぶ事は十分に有り得る。
少なくとも、それが皇族というものだ。

「友か。大事にしろよ、友人は。
友人とは何物にも変え難い財産だからな。」

「はい、勿論です。」

話を終え、退室する。
少し疲れはしたが、それでも余裕がある。
やはり戦場に居続けるのはよくないな。
精神的に余裕がなくなってくる、あそこにいると。
そんな事を思いながら、俺は帰路についた。





SIDE:Interlude


クラブハウスの一室。
そこには二つの人影があった。
一つは艶やかな黒髪の少年、ルルーシュ・ランペルージ。
本名はルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
神聖ブリタニア帝国の皇子でありながら、帝国への反逆を目論むテロリスト、ゼロ。

そしてもう一人。
緑色の髪の、どこか人形めいた美貌を持つ少女。
ルルーシュに『ギアス』という超常の力を与えた張本人にして、魔女。
名をC.C.という。
本名はルルーシュでさえも知らない。

「ナイトオブツー、レナード・エニアグラムか。
随分と厄介な敵がきたじゃないか。」

ルルーシュが振り返る。
そこにはピザをぱくつくC.C.。

「幾らラウンズとはいえ、所詮は一パイロット。
一人の人間がどう足掻こうと戦略は変わらない。」

「敵ではない、か。
お前の。」

「ああ。だか、あいつの厄介な所は単機で戦略を覆す可能性を持っているということだ。」

「………矛盾してるぞ、その言い方は。」

再びパソコンに指を走らせる。
見ているのは、レナードのプロフィールだ。
その一つを指差して、言った。

「あいつの恐ろしさは何よりも"狙撃"にある。
なんといったって本来ありえない距離、ありえない場所から攻撃されるんだ。
しかも敵指揮官を的確にな。
そして指揮官を失った軍ほど脆いものはない。
指揮官を失った軍を、あらかじめ伏せておいた兵が殲滅する。
それがロシアでのレナードの必勝パターン。
実際、厄介な奴だよ。」

それはそうだろう。
ルルーシュは指揮官であると同時にチェスでいうキングだ。
そしてキングを失えばゲームは敗北となる。
彼のような人間にとっては、かなりの脅威だろう。

「なら簡単じゃないか。
ギアスを使えばいい。
ラウンズを止めろとでも、仲間になれとでも。死ねというのも一つの手だろうな。
それで全てが解決する。」

「駄目だ。」

「何故だ。
レナードとかいう奴はこの学園に編入してきたんだろう。
ならギアスを掛けるのは簡単だ。
屋上かどこかにでも一人で呼び出せばいい。それで終わりだ。
殺すのに抵抗があるならば仲間にするだけでいい。」

「…………………」

「悪友とか言ってたが、まさか友情で見逃すのか。
それともプライドか、意地か。」

「全部だ。」

甘いな。
そうC.C.は思う。
このルルーシュ・ランペルージというのは自分の見込み通り面白い男だ。
その反骨精神といい性格といい、自分の願いを叶えるだけの可能性をもっている。

しかしだ。
ブリタニアのような世界の三分の一を支配する帝国を破壊する。
そんな事を目論む人間は、人間であってはならない。
人間である以上、必ず情に足を引っ張られ転ぶ。
だが、それも仕方ないといえば仕方ないのかもしれない。

何故ならこの男の望む、それこそ全て『情』が源なのだから。
目と足が不自由な妹に優しい世界を。
母を殺した者を探し出し敵を討ちたい。
全てが情、だからこそ情が捨てられない。

「今はいいさ。」

「何か言ったか。」

「なにも。では私は寝る。」

「ふんっ、勝手な女だ。」

「おやすみ、ルルーシュ。」

皮肉の言葉を返そうともせず、C.C.は布団に包まった。
たぶん、ああなったら朝までは起きないだろう。

ちなみに前のオレンジ事件でスザクにそうしたように、自分の仲間に誘うという選択肢は最初から除去していた。
レナードは泣く子も黙るナイトオブラウンズの一人にして、公爵家の子息。
生粋のブリタニア人だ。
軍人とはいえ、名誉ブリタニア人で元日本人であるスザクとは違うのである。
はっきりいって、レナードがブリタニアを裏切り自分の仲間になる可能性はゼロに等しい。
だがルルーシュは止まらない。
例え誰が相手だろうと、誰が立ち塞がろうと、

「レナード、お前は―――――――――!」

既にC.C.は寝入っている。
だから、最後にルルーシュが何を言ったのか、
聞く者は誰もいなかった。



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