―――遅延は憤怒の最良の治療薬。
つまりどんな怒りでも時が経てば忘れてしまう。
しかしそうだろうか。
時が忘れさせてくれる怒りもあれば、時がより怒りを熟成してしまう事もあるのではないだろうか。
そう、彼がそうであるように。








SIDE:レナード


「何が……起こったのですか?」

「分からん。
だが…………。」

別の部屋から聞こえてくる悲鳴。
それは男の者や女の者など多種多様。

「サプライズの出し物、という訳じゃあないだろうな。」

やがて銃声や悲鳴が収まり静かになる。
そして先程までの喧騒が嘘のような静寂。
暫く身を潜めるが動きはない。

「一体どうしたんでしょう?」

「さあな。
ただ、此処は各国のサクラダイト配分会議の真っ只中。
そんな場所で騒ぎをするとしたら、どうせ禄でもない連中。
テロリストどかだろうな。
しかもそれなりの警備を敷かれていたこのホテルを占拠出来るほどの。」

サムライの血は潰されてるから、日本解放戦線辺りか。
案外、ゼロだったりしてな。

「これから、どうするのですか?
ミレイさん達は……。」

「まあ落ち着け、落ち着け。
幸い"優秀"な敵軍のお陰で、俺はラウンズの中でもこういう荒事に慣れてる。
EUでさ迷ったり、ロシアで白熊と戦ったりな。」

「し、白熊………。」

「ああ、他にも色々あるぞ。
眠ってたらいきなりKMFを所持してる一個小隊に襲われたこともあった。
という昔話はさておくとして、先ずはコーネリア殿下に連絡をとらないとな。」

「え、コゥお姉様に!?」

「そうだ。コーネリア殿下の事だ。
ユフィの危機を聞いたら、どんな仕事でも放り投げて飛んでくる。
どこぞの馬鹿と同じでな。」

「ふふふっ。そうですね。」

こんな状況でこんな話をするのもなんだが、やっぱり緊張し過ぎても禄な事がない。
適度にちゃらける余裕があるのは良い事だろう。
ちなみにどこぞの馬鹿とは勿論ルルーシュの事だ。

「まあ問題は、電波妨害されてないか、ってことだが。
こんな所を占拠するって事は………おし、繋がった。」

流石は情報戦では世界一のブリタニアの特注品。
予想とおり繋がったぞ。

「こちらレナード・エニアグラム。
応答願います。こちらレナード・エニアグラム、応答を………。」

『こちらはアンドレアス・ダールトンだ。
レナード、今なにをしている?
緊急事態故に何度も連絡をしたのだぞ。』

「はい。それで緊急事態とは河口湖の事でしょうか?」

『知っているならば直ぐに来い!
お前の射撃能力と潜入能力が必要なのだ。』

「それが………実は今、その河口湖のホテルにいまして……。」

『なに?どういう事だ、説明しろ。』

俺が生徒会の旅行でコンベションセンターホテルに来た事。
今は偶然パーティー会場を抜け出していた為、テログループには見付かってない事を話す。

「それで将軍。首謀者は?」

『日本解放戦線の草壁中佐と名乗っている。
要求は政治犯の釈放と逃走経路の確保。』

「馬鹿げていますね。
そんな要求呑む必要はない。
セオリー通りなら人質ごと吹っ飛ばして、後で都合の良い報道をするだけ。
ですが、今回は。」

『そうだ。ユーフェミア様がおられる故にそうはいかん。
幸いユーフェミア副総督の参加は非公式故に連中は気付いてはいないが、な。』

「つまり私の任務は。」

『そうだ。なんとしてもユーフェミア殿下を救しゅ―――――――』

身に着いた直感が俺を動かした。
ナナリーを倉庫の奥へと押し込み、自身も荷物の影に身を隠す。
先程まで俺のいた場所を通過する銃弾の雨。
ぎりぎり俺自身には怪我がなかったが、弾丸の一発が運悪く耳につけていた通信機が破壊されてしまった。

「おいっ!男が一人隠れてたぞ!」

くそっ。応援を呼ばれる。
このままじゃ俺まで人質の仲間入りだ。
銃はない。警備の者に預けてしまった。
何時もは護身とお守り代わりに持っているライフルも今日は生徒会の旅行だったから持って来ていない。だから即席の武器。
倉庫に置いてあったフライパンを日本解放戦線の兵士に投げつける。

………今だ!

僅かに出来た隙をついて兵士へ接近し首の骨を折る。
………ってしまった。殺してどうするんだ!
生かして捕らえて情報を吐き出させるつもりだったのに。

「いたぞ!侵入者かっ!」

「……どうやら、聞く時間もなかったな、こりゃ。」

動かなくなった兵士の持っていたマシンガンと手榴弾二個を持つ。
これで少しは武装が充実した。

「ナナリーはそこに隠れてろ。
不幸中の幸いか、どうやら俺の存在しか気付かれてない。」

「えっ、でも……」

「はいはい、反論は受け付けないから。
こういう事は、専門家に――――――――」

手榴弾を投げる。
爆発と同時に発砲。

「任せなさいってな。」

それにナナリーがいては戦えない。
しかしそれを一々説明してる暇もなかった。
敵が手榴弾での攻撃で混乱している内に突っ込む。
武装は兎も角、錬度の方はまだまだのようだ。
動きに若干の怯えがある。
勿論、怯えの欠片もない兵士もいるが、そういう奴等は優先的に倒す。
そうすれば必然、残るのは未熟な兵ばかり。
つまり、雑魚だ。

人質がどこに居るのかは分からない。
だから兎に角、俺の嗅覚の告げる場所。
つまり大将の居そうな部屋へと走る。

「あれか!」

なんだか兵士の一人が血を流しているのが気になるが、まあいい。
手早く二人の兵士を射殺し、部屋を伺い、つい驚いて声をあげてしまった。

「ユフィ!?それにゼロ!」

「レナード!」

「!……おやおや、皇女殿下の次はナイトオブラウンズまで。
これはまた随分と騒がしい事だ。」

慇懃無礼な態度で、テロリスト、ゼロが言う。
そして目を引くのがゼロの周囲で死んでいる日本解放戦線の者達。
しかも状況からして、他殺ではなく自殺だと思われる。
一際立派な軍服に身を包む男などは、自分の腹に剣を突き刺している。
あれがエリア11に伝わるというハラキリというやつか。
とついついどうでも良い事を考えてしまった。

「ゼロ。お前が此処にいるという事は、日本解放戦線のメンバー………いや、それはないか。
だとすると、こいつ等が死んでる理由が分からん。」

「ふふふ。戦いだけと思っていましたが、それなりに頭が切れるようですね。
ナイトオブツー、レナード・エニアグラム卿。」

「それはどうも。
皇族殺しのゼロ。
俺としては、この機会にお前には死んで頂けると嬉しいのだけれど。」

「やってみるかな?
この私に。」

「!」

なんだ、このゼロから感じるプレッシャーは!
俺とてラウンズ、雰囲気で相手が強いか弱いかくらいは分かる。
そして俺の見る限りゼロというのは、知略は兎も角として直接戦闘ではそこまて強くはなさそうだ。
つまり俺が有利な立場なのだが、何故かこちらがチェックを掛けられているような、そんな雰囲気がする。

いや、何を恐れる必要がある。
今直ぐゼロを殺して、ユフィを脱出させよう。
だというのに、動けない。
俺の中にある直感が、ゼロと真っ向から戦うなと警告をしている。

その時、それは起きた。
突如として地面から飛び上がるKMFランスロット。
専用の射撃武器であるヴァリスを構えるとホテルの地下に向けて発砲した。
起きる揺れ、今が…今がチャンスだ。

「レナード、何を!」

ゼロが何か言ったが、構う時間はない。
マシンガンを発射………しかし反応がない。

「弾切れか!ならっ。」

残っていた手榴弾を窓へ叩き付け破壊する。
窓にぽっかり空いた穴。
そこから、

「スザク!こっちを見ろ!」

『レナード!どうしてそこに!?』

ランスロットのスピーカー越しに聞こえる声は間違いなくスザクのもの。
少し危ない賭けだが、以前見たスザクの能力値とランスロットの性能ならば。

「ユフィ、悪い!」

「きゃっ!」

躊躇っている時間はなかった。
ビルに突っ込んできたランスロットに、持ち上げたユフィを放り投げる。
それを見た、スザク。
絶対にユフィを傷つけないように慎重に、けれど素早くユフィをキャッチした。

「よしっ!」

前にビルから落ちてきた民間人をキャッチして救ったことがあるような事を聞いていたから試したが、流石はスザク。よくやってくれた。
って、こんな事をしている場合じゃなかった。

「残りの人質を………。」

「待て。人質なら私の仲間が既に救出済みだ。」

「―――――――――なに?」

「救出済み、と言ったのだよ。
今頃ゴムボートで快適な湖の旅の準備をしているところだ。
だからお前が人質を救出する事に、もはや意味はない。」

どういうつもりだ。
嘘を言っているようにも思えないし、ゼロが人質を救出するメリットがどこにある。
だが俺は考えるのを止めた。
今はもっと重要な事があったから。

「なら、今は殺さないでおいてやる!」

「待て、お前は――――――――。」

沈み行くホテル。
もうゼロの相手をしている暇はなかった。
人質は救出したという言葉、嘘はないと受け取った。
なによりゼロがそんな嘘をつくメリットがない。
だから、一応は信じた。
もっと重大な事があったから。

廊下を疾走する。
途中黒いバイザーをつけた短気そうな男にタックルを喰らわしたり、妙に大柄の同じくバイザーを付けた男をぶん殴ったりして、走った。
目指す先は勿論、ナナリーがいる倉庫。

「ナナリー、いるかっ!」

「レナードさん!あの、この揺れは一体?」

「話は後だ!急いで脱出するぞ。
ここはもう直ぐ沈む。」

躊躇する時間すら惜しい。
ナナリーを抱き上げ走る。
おぼろげながら思い出されるこのホテルの地図では、確かここを西に行けば……。
しかしビルが沈むのが思ったより速い。
間に合うか!?

「レナードさん、私を下ろしてください!」

「なに!?」

「足手まといの私がいなくなれば、助かる確率も―――――――。」

「アホか、んなこと出来るか馬鹿!」

「ば、馬鹿!?」

「そうだ、お前は馬鹿だ、ナナリー!
お前を置いて逃げたら、俺がルルーシュに殺される!
つまり俺が助かるには、どの道二人で助かるしか道はないんだよ!」

「レナードさん………。」

たくあの馬鹿皇子は……。
この八年間で妹好きに拍車がかかったんじゃないのか。
前よりナナリーへの態度が一回りほどレベルが上がってるぞ、色んな意味で。

そんな事を思っていると、着いた。
倒れていた解放戦線の兵士から補充した手榴弾を爆発させて、窓を破壊する。
そこからユフィを投げたのと同じように、身を投げた。

「ナナリー、息を大きく吸い込めよ!」

「え、息?」

……言うのが少し遅かった。
いきなり河口湖に飛び込まされたナナリーは水を飲んでしまう。
慌ててナナリーを海面に出す。

「生きてるか、ナナリー?」

「は、はい………なんとか。」

「よしよし。見た目以上にタフなのは相変わらずだな。
それじゃあ、急ぐぞ。」

このまま真正面から岸に行くとコーネリア殿下にナナリーの事がばれる。
だから、少し大回りに見付からないように泳ぐ。
くそっ、通信機が生きていれば主任に助けを求める事も出来たのに。
河口湖がロシアの海と比べて遥かに生ぬるいのだけが救いか。
これがロシアの海なら今頃死んでる。

二十分の遠泳ののち、漸く岸に辿りつく。
予想以上にコーネリア殿下を始めとする軍は、ホテルの方に気をとられているらしく、少し離れたこちらには全然気付いていない。
ナナリーを地面に置く訳にもいかないので、仕方なく抱かかえる。
こんな光景がルルーシュにばれたら殺されるかもしれない。

「さてと、生きてるかー。」

「大丈夫です。
最初は少し驚きましたけど、慣れればなんとか。
それに足が動かないぶん、水中の方がわりと自由なんですよ。」

「へぇ、そうなのか。」

「それよりミレイさん、シャーリーさん、ニーナさん、それとリヴァルさん達は!」

「んんっ、どうやら無事のようだな。」

どうやらゼロの言った事は本当だったようだ。
ホテルの船着場から出たと思われるボートには生徒会の皆の姿もある。
しかし、一体ゼロはどうして人質、それもブリタニア人を。
だが、今は。

「何はともあれ、なんとか任務完了か。」

ユフィも荒っぽいやり方だったけれど救出出来たし、生徒会の皆も助かった。
ここは、万々歳というべきだろう。

「あの………レナードさん!」

「なんだ、ナナ―――――――」

言おうとした口は、湿ったもので塞がれた。
目の前にあるナナリーの顔。っておい、これは!

「あの時、保留にしていたボーナスチャンスです。
もしかして、ご迷惑だったでしょうか?」

「い、いや迷惑というわけは…………。」

突然の事に戸惑いながらも、俺は主任に車を出してもらい帰路についた。
ちなみに、なんとかナナリーの存在は世間にばれなかったと記しておく。



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