―――大地は変われど魂と神は不滅なり。
神のほうは如何でもいいが、魂についてはそうあって欲しい。
別に死者の尊厳がどうのこうのじゃない。
ただ、例え死んでも魂すら残らないというなら、余りに救いがないではないか。
人は蘇らない。
そんなことは、誰よりも人の死に関わる軍人という職業についているからこそ、誰よりも理解できる。
だからこそ、魂という抽象的なものだけは不滅であって欲しい。
そう切に願うのだ。










その日。
レナードは本国に一時帰国していた。
インバル宮で行われるラウンズの会合に出席する為である。

治世のもとでなら、皇帝の守護という任務が主となるラウンズだが、今の時代は治世とは程遠い戦いの時代。
ブリタニアは侵略戦争を重ねに重ねているため、力の象徴でもあるラウンズ全員が一同に会するのは非常に稀な事だった。
尤もラウンズの至上目的である"皇帝守護"のために、必ず何人かのラウンズは本国に待機しているのだが。

そしてその稀な日こそが今日。
十数年前に起きた"血の紋章事件"で現在のナイトオブワン、ビスマルク・バルトシュタイン以外のラウンズが全滅してしまい(うち一名、ナイトオブシックスは后妃となった。その女性とは勿論彼のマリアンヌ・ヴィ・ブリタニアのことである)彼一人が唯一のラウンズとなっていたが、時代は流れ今ではレナードを含め八人、あと三人でラウンズが勢ぞろいするところまできた。

円卓にはそうそうたる面々が座っていた。
そここそ、ブリタニアという国における最強の騎士達の集う場所。
ナイトオブワン、ビルマルク・バルトシュタイン。
ナイトオブツー、レナード・エニアグラム。
ナイトオブスリー、ジノ・ヴァインベルグ。
ナイトオブフォー、ドロテア・エルンスト。
ナイトオブシックス、アーニャ・アールストレイム。
ナイトオブナイン、ノネット・エニアグラム。
ナイトオブテン、ルキアーノ・ブラッドリー。
ナイトオブトゥエルプ、モニカ・クルシェフスキー。

本国においては英雄。
他国においては死神として恐れられる騎士達。
その中でも特に存在感を放っているのは白いマントの男。
ナイトオブワン、ビスマルクだろう。
その無骨でありながら愚直なまでの忠誠心。
騎士というよりかは武人といわれたほうがしっくりくる。
もっと言えば、ラウンズの中でルキアーノを抑えられる数少ない御仁である。
もう一人はレナード。
その彼が今日の議題の締めの一言。

「今日はご苦労だった。
先に通達した通り、私とモニカ、アーニャ、ジノは本国にて待機。
ルキアーノ、お前はエリア10のラシェル総督のもとへ救援に向かえ。
あそこは衛星エリアだが、エリア11の情勢に触発されてか、また反ブリタニア運動が盛んになってきた。ただしお前の指揮権は一時的にラシェル総督が預かることになる。
くれぐれも指示には従うことだ。
さもなけば……分かっているな?」

ジロリ、とビスマルクがルキアーノを見る。
流石の彼もナイトオブワンには勝てないらしく肩を竦め、

「はいはい、貴方の仰ることでは仕方ありませんねェ。
でも、テロリストはどうしようといいんでしょう?」

「構わん、好きにしろ。
そしてノネット、ドロテア。
EUがまた不穏な動きを見せている。
奴等への牽制の為にお前達にはエリア16に行って貰う。」

ちなみにエリア16とは嘗てのロシア。
まだ征服したばかりという事もあり、未だに矯正エリア。
EUがその隙を付け込む可能性は大いにあった。
そして、そんな場所だからこそラウンズの中でも経験豊富な二人を向わせるのだ。

「最後にレナード。
お前は引き続きエリア11だ。
中華連邦の大宦官どもは我が方に友好的であるが、あそこも一枚岩ではない。
反ブリタニア派を抑える意味でもエリア11の平定は必要不可欠だ。」

「分かりました。」

静かに頷く。
それで会議は終了となった。
しかし本当のところ、レナードはこの会合自体が目的ではなかった。
無論、理由の一つではあるが、彼が本当に目的としていたのは別にある。

「久し振りです、姉上。」

恭しく挨拶する。
流石にこの辺りは厳しい教育を受けた貴族の子息だけはある。
動きの一つ一つが洗練されていた。

「かれこれ、二年ぶりくらいだな。
お前のラウンズ就任の際には会いに行きたかったんだが、情勢がそれを許してくれなくてな。
すまなかった。」

「いえ、手紙の方は貰いましたし大丈夫ですよ。
それに俺も御前試合が終わって直ぐにロシア………今のエリア16に行かされちゃいましたし。」

「入れ違いだったもんなー。
私が帰って直ぐにお前に会いにいったら「レナード卿はロシアに行かれました」だったから驚いたぞ。
……まあなにはともあれ、元気そうで何よりだ。」

「姉上こそ。」

暫く姉弟の間での他愛無い会話が続く。
子供の頃に一緒に遊んだことや、士官学校でのこと。
また戦争での苦労話など話題は幾らでもあった。
暫く話をしたあと、ノネットが侍従にコーヒーを持ってくるよう言った。
それは二人の姉弟にとっては「これから真面目な話をする」合図である。
侍従の持ってきたコーヒーに口をつけるとノネットが言った。

「レナード、エリア11の情勢はお前から見てどうだ?」

「そうですね。
最近は"黒の騎士団"というレジスタンスグループが台頭してきた影響で、あちこちのテログループが活気付いていますよ。
ただ、それも一時的のもの。
クロヴィス前総督ならまだしも、コーネリア殿下ならば統制のとれないテロ集団なんぞ蟻の群れと同義ですよ。」

あっさり答えるレナードには、紛れもない上官――――――コーネリアに対する信頼の念が浮かんでいた。
なにせレナードはラウンズになる前はコーネリアの親衛隊にいたのだ。
その信頼もある意味では当然といえる。

「そうか、殿下もご立派になられた………。
ただレナード、先の言は故クロヴィス殿下への侮辱とも受け取られかねない。
今後は控えろよ。」

クロヴィスを微妙に冒涜するかのような発言にやんわりと注意をいれる。
そこらへんは、正に姉弟であった。
当然、注意されたレナードも素直に頷く。

「ですが………」

「どうした、何か不安でもあるのか?」

「はい。まあこれは根拠も何もない勘なんですが、ゼロのことです。」

「ゼロ、か……。
クロヴィス殿下暗殺の真犯人だそうだな。
その男が……女かもしれないが、どうしたんだ?」

「実は、河口湖の事件の時……ゼロに会ったんですよ。」

「ほう、それで。」

「奴から形容できないプレッシャーのようなものを感じました。
昔、俺が子供の頃。姉上やコーネリア殿下と稽古した時のような、絶望的な差を。」

弟の唯ならない評価に、ノネットが顔を顰める。

「そこまで言うという事は、ゼロはそれほどの達人、そういうことか。」

「いえ、これが奇妙なのですがゼロ本人が"強い"というのではなく………ただ言ってしまえば本能のようなものが危険信号を発していたとでもいうべきでしょうか。」

「なるほどな。」

ノネットも含め、エニアグラム家の者は勘が良い。
だから荒唐無稽な話であっても、そう簡単に笑い飛ばせなかった。
なにせ、その勘に助けられたのはノネットにもあるのだから。

「それにゼロ自身の能力……。
シンジュク事変のデータを見ましたが、正直、恐ろしい。
サザーランドを強奪した手際、錬度で遥かに劣るテロリストを使い、ブリタニアの正規軍に勝利したこともそうです。
もしかしたら今後、エリア11を統治する上で一番の障害となるのはゼロかもしれません。」

難しい顔を浮かべる。
本来ならば、ノネットとしては自分自身でエリア11に飛んで行きたいとも思っているだろう。
なにせノネットとコーネリアは士官学校時代からの親友。
身分を超えた、硬い友情で結ばれている。
だがノネットとて軍人。
コーネリアを助けたいというのは、あくまでも私情。
本国待機の状態であるならまだしも、EUの牽制という任務を授かった今となっては、エリア11に行くことは出来ない。
だからこそ、

「レナード、くれぐれも殿下を頼むぞ。
優秀なお方だが、それ故に掛かる罠というのもあるからな。」

「お任せ下さい、姉上。」

胸を張ってそう答えた。
その答えに満足したノネットは首を上下させて頷く。

「そんじゃ、堅苦しい話は終わりだ。
折角、久し振りに可愛い弟と再会した事だし、姉弟水入らずで食事というのもいいな。」

「食事ですか……。」

食事といえば、結局調理実習は取りやめになったんだっけ。
わりと楽しかったのに実に残念なことだ

「どうした?」

「……なんでもありません。
それより食事、どちらの家でしますか?」

この場合の家とは実家の事ではない。
二人の実家はペンドラゴンより遠く離れた田舎にある広大な領地内にある。
なのでレナードの言った家とは、この帝都にある屋敷のことだ。
実家から通えない会社員が会社の近くのマンションを借りるのに似ているだろうか。
無論、一会社員が借りるマンションとは規模も大きさも全然違うが。

「折角の機会だ。
弟の家というのを見てみたい気もするが、どうせまだ大した備品も置いてないだろうし。」

事実であった。
ラウンズに入って一ヶ月もしない内にロシアに派遣されたため、レナードが帝都での家に滞在していたのは極短い期間に過ぎない。
なので当然、大したものは置いてはいなかった。

「今日は私の家、という事にしておこう。
最近、雇った執事が優秀でなー。
料理から家事全般なんでもござれだ。」

快活に笑う姉の姿を見て、レナードも無意識に微笑を浮かべる。
変わってない。
やはり姉は何時になっても変わらない。
快活で豪快で強かった姉の存在は、幼少期から一つの目標であった。
男の子というのは、大半が父親の背を見て育つというが、彼の場合は父よりも、士官学校でバリバリ学んでいた姉の背中を見て育ったのだ。

そして今。
レナードは何時も背中を見るだけであった姉と同じ立場にいる。
だが、それだけでは駄目だ。
レナードにも人並みの上昇志向はある。
だからこのままでは終わらない。
並ぶ事は出来た。
後はそう、追い抜かすだけだ。

だけど…………。

「さぁて!今日は朝まで飲むぞーー!」

今は、そんなことより食事を楽しむとしよう。
こうやって姉弟水入らずの食事は二年ぶりなのだから。



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