―――メリークリスマス。
そう今日はクリスマス。
なにがなんでもクリスマス。
世間の男女が乳繰り合ったりするクリスマス。
独身男が一人でカップラーメンを啜るクリスマス。
さて、無論神聖ブリタニア帝国においてもクリスマスはやってくるもので……。





 これは本当にあった(かもしれない)お話です……。
 そう、あれはレナードがラウンズになって始めてのクリスマスのこと…………







「確かに型にはまり過ぎるのは良くないと思いますが、だからといってこれはどうなんです?」

 半ば呆れたようにレナードが言った。
 雲一つない真っ青の空には、その存在を誇示するように輝くお日様が顔を覗かせている。
 日光は目の前に広がる大海原に降り注ぎ、その透明な海水に反射し幻想的な雰囲気を醸し出していた。

「確かにクリスマスといったら寒いのが定番でしたけど、だからって今年のクリスマスパーティーをわざわざ常夏の島ハワイで開かなくても」

 そうなのだ。
 今レナード達の居る場所は常夏の島ハワイ。
 彼を含めたラウンズは、皇帝シャルルのトチ狂った……もとい、ユニークな発案により、このハワイで行われる事になってしまったクリスマスパーティーに出席する皇族方の護衛兼、出席の為に派遣されたのだ。
 
 しかも全員総出で。
 本国は大丈夫なのか、と心配になる所ではあるが。

「まあ細かい事気にするなって」

 そう言って絡み付いてきたのはジノだった。
 普段からこういうお祭り染みたものは好きな性分なせいか、今回のクリスマス騒動も好意的に受け止めており、わりと積極的に参加している。

「だけどなぁ……」

「そこまでよ、ナイトオブツー」

 今度は誰だ、と振り返ると、そこには何時ものゆったりとしたドレスではなく、黒いビキニ姿のベアトリスがいた。
 何故こんな格好をしてるんだと思ったが、原因は直ぐに分かった。
 ベアトリスを指差しながら大爆笑しているノネット。

―――――成る程、姉上が犯人か。

 しかし普段はその冷たい印象で目立たないが、ベアトリスはかなりの美人。
 それが世にも珍しいビキニ姿を披露しているのだ。
 この光景を胸に、いや魂に刻みつけよう。

「ナイトオブツー、ラウンズとはただ陛下の御身の為にのみ存在する。
盤上の駒はプレイヤーの采配など気にしないものよ」

「そりゃそうだけど…」

「なら一々文句は言わないことね」

 びしゃりと言い切るとベアトリスは行ってしまった。
 首席秘書官でもある彼女のことだ。
 恐らくは皇帝の傍へと向かったのだろう。

「ところでジノ、他の皆はどうしてるんだ?」

「ああ、それならあそこ」

 指差した方向には、にやにやと笑いながらナイフを研いでいるルキアーノと、海水パンツで大剣の素振りをしているビスマルクがいた。

「……なぁ、あれは何なんだ?」

「あの二人は何時もあんな感じじゃないか」

「それはそうだけど、ハワイに来てアレはどうなんだ?」

「いいじゃないか、楽しんでるんだし」

 確かにジノの言うように、二人はどことなくリラックスしているように見える。
 しかしどうも納得がいかない。

「ま、いいや。
ハワイに来てまで野郎共の事を気にしても仕方ない。
それで女性陣は?」

「ノネットさんはコーネリア殿下に挨拶に行ったから………お、あそこにいるぞ」

 そこには各々自由にハワイを楽しむラウンズの女性騎士達がいた。
 ドロテアはこれ以上黒くなっても仕方ないというのに日焼け。
 アーニャは誰彼構わず面白い物を見つけては写真を撮っていき、モニカはモニカで侍従らしき女性と談笑していた。

「……なんだかラウンズってバラバラだな」

「まあ気にすんなよ。
そんな事より泳ごうぜ!」

「えっ!? ま、待て!」

 ラウンズであるジノのパワーは強い。
 ぼ〜っと立っているだけだったレナードを容易く引っ張ると、海にまで連れて行った。



 その頃。
 ナイトオブラウンズ以外の皇族達も例年とは違う、珍妙なクリスマスパーティーを其々の形で楽しんでいた。
 そう例えばコーネリア。

「ユフィ、クロヴィス…………こ、この水着は少し、大胆……過ぎるんじゃないか?」

「そんな事はありません!
とっても良くお似合いですよ。
ね、クロヴィスお兄様」

「ああ……私も似合うと思ったが……これ程とは……。
限りなく露出度を増したビギニ!
強調されたヒップ!
なによりも男の浪漫の詰まったバストォ!
しかも、あえての水色ビキニというのが、素晴らしい。
これぞ正しく芸術(アート)!!」

「………………」

 少し頭が逝っちゃってる異母弟を微妙な目で一瞥すると、見なかった事にしようと思いなおす。
 しかし彼女の異母兄弟はクロヴィスだけじゃなかった。

「やぁコーネリア」

「シュナイゼル兄上! …………それに、隣に折られる女性は……まさか、カノン伯爵!?」

「お久し振りですわ、コーネリア殿下」

 帝国宰相シュナイゼルが最も信任を置く男性、カノン伯爵。
 彼は優秀なのだが、彼より彼女である事を好むようで、常に女装している。
 しかもその姿は、並みの女性よりも遥かに美しいというのだから性質が悪い。

(だが、胸はパットだとしても、下はどうしたんだ?
全く男の面影がないぞ)

「あら、どうかされましたか?」

「いや何でもない」

 きっと触れてはいけないことなのだろう。
 コーネリアはその事を指摘するのを止めておいた。

「だけどコーネリア。
戦場の華と呼ばれる君だけれど、今日の君は一層美しいね。
間違いなく、この南国の華はコーネリア、君だよ」

 こういうセリフを恥ずかしがりもせず言えてしまうのがシュナイゼルの性格でもあった。
 更にそれが妙に板についている。

「きょ、恐縮です、兄上」

 コーネリアも腹違いとはいえ実の兄、それも政務や知略においては自身の上を行く兄に誉められて嫌な気はしない。
 コーネリアは仄かに顔を赤らめた。

「馬子にも衣装という言葉があるが本当のようね、コーネリア」

 こんな風にコーネリアを呼び捨てに出来る者は限られている。
 しかも、その声は女性のもの。
 となれば、この声の主は恐らく、

「ギネヴィア姉上、来られていたのですか!?」

 コーネリアの異母姉であり、神聖ブリタニア帝国における長姉。
 ギネヴィア・ド・ブリタニア。
 普段は余り帝都ペンドラゴンから出ようとしない彼女が来るのは、コーネリアにとっては意外なことであった。

「あら、私が来ることが不満?」

「いえそういう訳では……。」

「それにしても、女の私でも見惚れちゃうくらい綺麗ね、コゥ」

「は、はぁ」

 不味い!
 コーネリアはそう感じた。
 今の姉は、まるで戦場で獲物を見つけた自分と同じような目をしている。

「わ、私は用があるので、これにて」

「あら何処に行くの、コーネリア」

「ですから私には用事が!」

「久し振りに再会した姉と旧交を温め合うのも大切な用事だと思うわよ。」

 戦場では戦女神と呼ばれるコーネリアがたじたじとなる。
 だが仕方ないことかもしれない。
 そもそもにおいて、軍事においては兎も角、このような場所においてコーネリアが姉のギネヴィアに勝つのは立場的にも難しい。
 
 だが何時も頼りになる味方はいるものだ。

「こらー、返しなさーい!」

「ユフィ?」

 浜辺から聞きなれた実妹の声が聞こえた。
 声の発生源へと振り返ると、そこには、

「カリーヌ、それは私が食べようと思っていたパイナップルですよ!」

「へへーん、余所見してるユーフェミア姉様が悪いのよ」

 パイナップルを奪って逃げ回るカリーヌと、奪われたユーフェミアとの間で逃走劇が繰り広げられていた。
SPも居るには居るのだが、相手が相手だけに止められないので、どうしたのもかと途方に暮れている。

「あ、あの二人は……」

 流石に注意しようと思ったコーネリアだか、その肩を掴み制する者がいた。
 振り返ると驚く。
 微笑を浮かべながら、コーネリアを制したのはオデュッセウス。
 ブリタニアという帝国における長兄だ。

「いいじゃないか、コーネリア。
特に問題がある訳じゃないし、それに微笑ましいじゃないか。」

「ですが……」

「それに、ああやって姉妹でじゃれ合うのは良いことだよ。
前はあんな光景は、それこそ実の兄弟内くらいでしか……いや、実の兄弟でも難しい事だったんだから。」

「!」

 オデュッセウスは当然ながら、並み居る兄姉弟妹達でも最も早く生まれている。
 つまり、ブリタニアという国が最も悲惨だった時代。
 後援貴族までをも巻き込んだ皇族同士の骨肉の争いを、その目で見ているのだ。
 だからこそ、異母姉妹であるユーフェミアとカリーヌが、ああやっている光景を、大切なものとして考えたのだろう。
 そう考えてしまった時点で、コーネリアに二人を注意する事が出来る筈もなかった。

「分かりました。
…………ですが余りにも羽目を外すようでしたら、私の方から注意します。
よろしいですか?」

「ははははっ。その時は仕方ないねえ。
ここには大臣たちも来ているし。」

 そう言うとオデュッセウスは行ってしまった。
 なんでも皇帝に呼び出されているらしい。
 自分も一休みしようかと思いパラソルの下に戻ろうとして、
 瞬間。爆弾の破裂したような轟音が響き渡った。




 異常事態に最初に気付いたのはナイトオブワン、ビスマルクであった。
 彼は轟音が鳴るや否や通信機を使い状況を確認。
 ナイトポリス一機がこちらに接近している事を察知した。

「ええぃ、警備兵は何をやっていた!」

 苛立ちを出来る限り抑えながら、しかし抑えきれない様子のビスマルクが、通信機に向かって怒鳴る。
 だが怒鳴るだけで事態が好転しない事を、彼は理解していた。
 直ぐに他のラウンズに連絡をとり、

「ルキアーノ、ジノ!
お前達は私の所へ来いっ。
ノネットはポイントγ。
モニカ、アーニャはポイントαへ。ドロテアはζへ行け!
レナードはポイントβで待機しろ!」

 マシンガンのような指示を飛ばす。
 通信機から『イエス、マイ・ロード』という声が響く。
 彼等は全員、修羅場を潜り抜けてきた戦士。
 敵の強襲など幾らでも経験している。

(だがいかんな。
ここまでKMFが援軍に来るまで掛かる時間は、約二十分。
そんな時間あれに暴れられたら、皇帝陛下の御命が危ない。
ならば、陛下の騎士たる私がとるべき選択は……)

 迫り来るナイトポリスを見る。
 それに対してビスマルクは、己の得物である大剣を構えた。
 傍から見れば無茶なことだろう。
 生身でKMFに立ち向かうなど勇気を通り越した蛮勇に等しい。
 そして蛮勇では何も救えない。

 しかしそれは、常識的な判断ならばだ。
 ビスマルクの行動を蛮勇を呼ぶ者は理解していない。
 普通なら有り得ない事を仕出かすからこそ、彼は、いや彼等はラウンズなのだ。

「これをマリアンヌ様以外に、それもテロリスト如きに使う事になろうとはな。」

 普段は閉じられた左目がカッと開く。
 そこに浮かんでいたのは、赤い瞳と、それに浮かぶ不死鳥が天に羽ばたくようなマーク。

 王の力、ギアス。
 そしてビスマルクの力は極近未来を読む、つまりは未来予知。
 今の彼にはナイトポリスが辿るであろう軌道が、正確に見えていた。

「はぁああああぁっ!」

 気合と共に一閃。
 荒ぶる嵐の力を凝縮したような一撃は、ナイトポリスのランドスピナーの一つを破壊する。
 バランスを崩し、無様に回るナイトポリス。
 ランドスピナーによる移動は不可能と考え、走って進む方法に切り替える。

「これで高機動力は失われた、ジノ、ルキアーノ!」

 ナイトポリス目掛けて飛来するナイフ。
 その全てが頭部へと命中した。
 更には卵まで……。
 ナイトポリスがファクトスフィアを使い確認すると、からかいながらナイフやら料理やらを投げつけるルキアーノとジノ。
 イラついたらしいナイトポリスは、二人に向かってライフルを構え放つ。
 轟音と共に爆発するライフル。
 ナイトポリス越しにでも、パイロットが混乱しているのがビスマルクには手に取るように分かった。

「ナイトメアのライフルなど、銃口に手榴弾一つ入れておくだけで、簡単に使い物にならなくなるものだ。
知っていたか、テロリスト。」

 木の陰から現れたドロテア。
 ナイトポリスがハーケンを使い攻撃するが、発射されたハーケンはドロテアの近くにいた、もう一人によって切り裂かれた。

「ハーケンの使い方が甘いなぁ〜。
そんな使い方じゃ実戦では簡単にやられるぞ。」

 飄々と現れたノネットが笑う。
 馬鹿にされたと感じたナイトポリスが、ノネットを殴り殺さんと思ってか走り出し、ロープに引っ掛かって盛大にずっこけた。

「大成功ね。
まさか、こんなに上手くいくなんて……」

「記録。」

 ロープを使いナイトポリスを転ばせた犯人である、二人が呆れた様子で出て来た。
 アーニャに到っては携帯片手に写真など撮っている。

「よくやった、二人とも。これで……!」

 ビスマルクが走る。
 巨大な体を豹の如き敏捷で動かし、ナイトポリスに飛び乗り、コックピットに大剣を叩き付ける。
 しかしコックピットは操縦者の乗る場所だけあって、防御力は高い。
 ちょっとした隙間を作る事しか出来なかった。

「仕方ないな、全員退避しろっ!」

 指示を飛ばすとビスマルク本人も背を向けて逃げ出す。
 追ってくるナイトポリス。
 しかしこの時、ナイトポリスのパイロットは思い出すべきであった。
 未だに姿を見せないナイトオブラウンズのことを。
 そしてその男が何と呼ばれているかを。

「レナード、最後の締めだ。
外すなよ。」

『イエス、マイ・ロード』



 そう既に保険は用意してあった。
 主戦場から離れたポイントに、ナイトオブツー、レナードの姿があった。
 ナイトメアに空いた僅かな隙間。
 それで十分だ。

「美味しい展開だな。
ジノやビスマルクのおっさんには悪いが、最後の一口は戴きだ。」

 照準する。
 しかし微妙に位置がずれている。
 これでは幾ら腕が良くても当たらない。

「バルトシュタイン卿、もう少しナイトポリスの角度を横にずらしてくれないか。
幾ら俺でも弾丸をストレートからスライダーにするのは無理だ」
 
『分かった』

 ビスマルクが大剣をぶん投げて怯ませている隙に方向転換する。
 一瞬だけ動きを止めたナイトポリスだったが、慌ててビスマルクを追う。

 そして、方向を変えてしまった事がテロリストの命運を尽きさせる要員にもなった。
 ライフルを構えるレナードがニヤリと笑う。
 もはや障害はない。
 一秒が無限にもなるような不可思議な感覚の中で、ゆっくりとトリガーを引いた。
 
 ライフルという檻を飛び出し、空を駆ける弾丸。
 理想的な角度で飛んだソレは狙い通りの隙間へと飛び、着弾。
 一瞬だけ動きを見せたナイトポリスはそのまま無様に静止した。






 結局テロリストの正体は、惚れていた女を皇族に奪われ恨んでいた帝国侯爵であった。
 遺体から大量のアルコール反応があったことから、犯行は計画的なものではなく突発的なものだろうとのこと。
 何はともあれ事件は一応解決した。
 警備責任者の何人かの首は飛ぶだろうが、今回の事件はナイトオブラウンズの実力を示す事にもなった。
 そして今、壇上にはサンタの格好をした皇帝がいる。



『クリスマスはぁ! 平等ではないィ…。
一人で孤独に過ごすものォ、彼女といちゃいちゃして過ごすけしからん者ォ、親が貧しいくてプレゼントが貰えん者ォ、クリスマスにも仕事がある者ォ、
楽しさも美しさも彩りもぉ、クリスマスは皆ぁ違っておるのだぁ。
そう、クリスマスは、差別されるためにある!
だからこそクリスマスは争い、競い合い、そこに進歩ぉが生まれるゥ。
不平等は! 悪ではない・・・。型に嵌ったクリスマスゥこそが悪なのだァ!

お小遣いを貰うだけにした正月はどうだァ。子供達の臨時給料日とかしておるゥ。
ただ長いだけのゴールデンウィークは、怠けてTVの前でポテチを食べてばかりィ…。
だが、我がクリスマスはそうではない。争い競い、常に進化を続けておる。
クリスマスだけが前へ! 未来へと進んでいるのだ。
我が息子シュナイゼルの痔も、クリスマスが進化をォ、続けているという証ィ。
闘うのだ! 競い奪い獲得し支配し、その果てに、未来がある!!
オール・ハイル・クリスマスぅ!!!!!』

『オール・ハイル・クリスマス!』
『オール・ハイル・クリスマス!』
『オール・ハイル・クリスマス!』
『オール・ハイル・クリスマス!』
『オール・ハイル・クリスマス!』
『オール・ハイル・クリスマス!』
『オール・ハイル・クリスマス!』
『オール・ハイル・クリスマス!』




 しかし一言だけ言いたい。
 確かにクリスマスは平等ではないかもしれない。
 だがその論理でいくと、背後に大量の妻を侍らせているお前が一番けしからんのではないだろうか。
 無論、そのような発言はナイトオブツーたるレナードには、出来よう筈もなかった。



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