―――行動なくしては幸せはない。
どのような天才であると、どのような英雄であろうと行動しない者には、なにも与えられない。
行動という過程の果てに結果があるのであり、どのような天才でも過程を無視して結果を得る事は出来ないのだ。







――――ルルーシュとナナリーを確保し、我が下に連れてくるのだ。
 皇帝から下された命令が頭の中を右往左往する。
 ルルーシュとナナリーを本国に連れて帰るだなんて、実行するのは簡単だ。ルルーシュはモヤシであるしナナリーはあの体。ついでに言えばアッシュフォードが昔の権勢を維持していたとしても、皇帝の勅命によって動いているラウンズの意向を妨げる事など出来ない。
 だから障害はなにもないのだ。少なくとも全ての感情を無視すれば。

 しかし、情の尻尾が邪魔をする。ただ仮に自分が皇帝の命令を無視したとしても、新たに他の者が任務につくだけで変わらない。また、いっそのこと前回のようにルルーシュとナナリーの移送中に"死んでもらい"再びどこかに身を隠させる、という方法もシミュレートしてみたが、戦時中の混乱期なら兎も角、現在の情勢ではそれも不可能だろう。
 それにこれは分かっている事だが、レナード・エニアグラムは命令には逆らえない。アッシュフォード学園に通っていた時は、表向きルルーシュとナナリーの顔を忘れた事にして付き合っていた。しかしそれはブリタニアという国において二人の存在がそれほど重要ではなかった事と、二人を保護しろなどという命令を受けてなかった事も大きい。だが既に勅命は下ってしまった。そして勅命が下った以上、必ず命令を実行するのがレナードの矜持でありアイデンティティである。
 
「レナード」

 レナードが一人で悩んで(それでも部下には指示を飛ばしていたが)いるとユーフェミアが声を掛けてきた。

「ユフィ?」

「ごめんなさい。何度もノックをしたのですけど返事がなかったので」

 どうやら自分でも思った以上に悩んでいたらしい。
 ノックの音にすら気付かないとは。

「ああ、ちょっと考え事をしていて……。
それで、何か用か、ユフィ?」

「いえ、いんです。特区のことで相談があったのですけど、その今は……」

 どうやら気を使っているらしい。どうにも言いにくそうにユーフェミアが言った。
 しかし、助かった。今は他人の相談にのるような余裕はない。
 一瞬、ユーフェミアにルルーシュとナナリーのことを伝えようかと思い、止めた。理由は良く分からないが皇帝は"エリア11総督および副総督には内密のまま"二人を連れて来いと命じていたのを思い出したのだ。

「レナード……良かったら何で悩んでいるのか、話して下さいませんか?
もしかしたら、わたくしにも力になれる事があるかもしれません」

「大丈夫だよ。ちょっとアレなだけだから」

「……全然、大丈夫そうに見えません。
一体何年の付き合いだと思ってるんです?
大事な友達が困っていることくらい私にも分かるんですよ」

「いや、だから……」

「それに、らしくありませんよ」

「らしく?」

「そうです。レナードって昔から何かに悩んだりしても、最終的には適当に行動するタイプでしたし」

「適当に……」

「そうです」

 なんだか、凍り付いていた思考がパカっと解凍したみたいだ。
 そうだ、なにをウジウジと悩んでいたんだ、俺は。

「くっくっくっ、あはははっはあっはははははははははははははははははっ」

「ど、どうしたのですか?」

「ははははっ……いや、その通りだ。
どんなに悩んでも行動する事だけは止めないのが俺だった」

「どうやら、元気は出たようですわね」

「ああ、ありがとうユフィ」

あの日から俺はずっと力を求め続けていた
でも、現実の前にそんな感情は消え去って
だから生きてきた
惰性的に、体制に逆らうのが怖くて命令通りに
特に目的のないまま戦い続けた。
だけど結果として俺は手に入れた……
地位も! 名誉も! 権力も!
今の俺は、八年前とは、無力で無知だった子供の頃とは違う

「だから」

「…………レナード?」

「ユフィ、一つ聞いていいか。
……このエリア11で死んだルルーシュとナナリーのこと、好きだったか?」

「え、ええ……勿論です!」

「そうか、なら」

 何時の日か力を借りるかもしれない。
 だけど今は教える訳にはいかないから、

「そのままでいてくれ」

 そうだ、帝国最強ナイトオブラウンズ。
 今この時にラウンズの名を使わずして何時使う。
 その時、主任から連絡がきた。
 
『准将、キューエル卿とヴィレッタ卿が参られました』

「そうか、俺も今そちらに向かう」

『しかし驚きました。
まさかあのマリアンヌ様の御遺児がアッシュフォードに匿われていたとは』

「そうだな。しかし今は感慨に耽っているときじゃない。
…………そうだ、キューエルは子爵の位を持つ貴族だったな?」

『ええ、そう聞いていますが』

「ふん。幸先の良いことだ」

 さぁ行こうか。
 表向きは八年ぶりの再会だ。



 時計は十時をまわった頃。
 クラブハウスに住んでいるルルーシュは久し振りに、ナナリーと共に夕食をとり、談笑していた。
 ユーフェミアの特区日本宣言。それの対策のため各部関係者にギアスを使用したり、情報を収集していたりで、ここ数日は文字通り目が回るほどの忙しさであった。
 しかし、そんな日にも関わらずルルーシュの表情は優れなかった。理由は分からない。ただ虫の報せとでも言うのだろうか。そんな第六感が不吉の訪れを告げているような気がしているのだ。それはナナリーも同様なのか、多少落ち着かない雰囲気を纏っている。

 奇しくも、二人の第六感は的中してしまった。

 バタンっという音と共に、クラブハウスの扉が開かれる音がした。
 直ぐに、メイドでありながらも優秀なSPでもある咲世子が警戒態勢をとる。
 だがルルーシュは入ってきたのがレナードだと知り緊張を解き、そして再び警戒した目つきでレナードを見た。

 レナードの瞳は、いつも学園やこのクラブハウスで見た時のものとは違っていた。
 まるで一切の感情を排除してしまったかのような冷たい目。また、制服を着込んだ軍人と研究者が着るような服を纏った女性を引き連れている。
 明らかに、ただ事ではない。
 ルルーシュが声を発そうとしたら、その前にレナードや引き連れてきた軍人達がルルーシュ、そしてナナリーに向かって頭を垂れた。

「お久し振りです。ルルーシュ殿下、ナナリー殿下。
ナイトオブツー、レナード・エニアグラム。皇帝陛下の命によって御二方を迎えに参上しました」

「なっ!」

「えっ!?」

 ナナリーとルルーシュがほぼ同時に驚く。咲世子のほうは流石に表情にこそ出さなかったが、驚いているのは雰囲気で分かった。

「レナード、まさかお前……!!」

「皇帝陛下は御二人の帰国を首を長くしてお待ちです」

 ルルーシュがまるで親の仇でも見るかのように、レナードを睨む。
 その目が"裏切り者"そう語っているのが、簡単に分かった。
 それでもルルーシュは、この状況を打破する為に力を呼び起こす。自分の持つ、どんな人間にも一度だけ下せる絶対遵守の王の力、ギアスを。
 レナードと目が合う。ルルーシュの瞳の中の不死鳥がレナードの目に羽ばたこうとした時、唐突に鈍い痛みが目に走った。

「ぐぅっ……」

 思わず左目を抑えてしまう。
 ええぃ、何をやっている。
 こんな時に、左目を塞いでいる場合じゃないだろう。
 ルルーシュは激痛を振りほどき、瞳を開く。
 さぁ下すのだ、命令を!

「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる。
レナード……お前は―――――――」

 そこまでであった。
 ルルーシュの意識が突然薄れる。どうやら手刀を叩き込まれたらしい。
 彼にとってのイレギュラーはレナードの異常なまでの危険を察知する直感と、皇帝シャルルから「もし抵抗するようであれば気絶させてでも連れて来い」と命じられた事だろう。
 ギアスの行使を無意識に悟ったレナードは、その力が発揮する直前に、半ば反射的にルルーシュに手刀を叩き込んだのだ。
 薄れ行く意識をどうにかして留めようとするが、駄目だ。どんどんと力が抜けていく。

…………ふざけるなっ!

 こんな所で終わるのか、俺は!
 なにも守れないまま、なにも成していないまま。
 八年前の真実を、あの男。シャルル・ジ・ブリタニアに思い知らせないまま! ナナリー!

―――――すまん、ルルーシュ。

 それがルルーシュが薄れ行く意識の中で聞いた最後の言葉だった。



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