―――真の友をもてないのはまったく惨めな孤独である。 友人が無ければ世界は荒野に過ぎない。
ルルーシュ・ランペルージ。いやルルーシュ・ヴィ・ブリタニアには友と呼べる人間が二人いた。一人は枢木スザク、日本に人質として送られた時に互いを知り友情で結ばれた親友。
そしてもう一人、悪友だった男……。
だがその友情は裏切られた。そうレナード・エニアグラムは友情よりも命令を選んだのだ。






「なんのようだ」

 ルルーシュはインベル宮にやってきた男にそう言った。
 口調からはやや不機嫌さを隠し切れないでいる。

「…………サングラスか。
という事はお前も"ギアス"の事は知っているわけか」

 レナードはギアス対策の為だろう。サングラスをつけていた。
 絶対遵守の命令には"相手の目を見る"という過程が必要な以上、レナードに対してギアスは通用しない。

「皇帝陛下から殿下の警護につけ、と。
そのように承っております」

「型通りの挨拶だ。
さぞや良い気分だろう。。
楽しいか? そうやって俺を見下してっ」

「………………」

「ふんっ、何も言えないか。
だろうな。お前はそういう奴だ。
そうやってあの男に! 皇帝の命令に従うしか出来ない。
楽だからな。誰かの言う通りに動くのは!
だから友情すら裏切る」

「………………」

「なんとか言ったらどうなんだ!!」

 思わずレナードに殴りかかる。
 こんな素人のパンチなんて簡単に避けられた筈なのに、レナードはそうしようとはしなかった。
 静かに、それを受ける。

「…………お前達二人には、俺が後見となった」

「くそっ! ああ分かってるよ。
お前が俺達を皇帝に報告していない事くらいは!」

 少し考えれば分かる事だ。
 もしレナードが皇帝に報告したならば、今までゼロとして活動出来ていたのは可笑しい。
 つまり皇帝シャルルは、他のルートから自分やナナリーが生存している事を察知し、レナードに連れて帰ってくるように命令したのだ。
 それでも、誰かに当たらなければやっていられなかった。

「…………ナナリーは無事なのか?」

「実際に俺が確認した訳じゃないけど、無事だとは思う。
警護にアーニャをつけているし」

「アーニャ? まさかナイトオブシックス。
ちっ、あの男……俺がナナリーを連れ出さないように警戒しているという訳か」

 つまり、此処の警備網を突破しナナリーの下へ辿り着いたとしても、ナナリーと逃げるにはナイトオブラウンズを相手しなければならないという事だ。
 レナードに何とかしてサングラスを外させギアスを掛ければなんとかなると考えていたが、それはやはり甘い考えのようだった。

「…………ルルーシュ」

「悪い、一人にしてくれ」

 何か言おうとしたレナードを制する。
 正直、今は頭が混乱の極みにあった。その混乱の大半が妹の安否なのは当然だが、他にもエリア11に置き去りにした形の黒の騎士団やアッシュフォード学園、それにあの魔女C.C.の事もある。
 レナードが去っていくのを確認し、俯こうとすると。

「やっと行ったか。
全く女を待たせるものじゃないぞ」

「!」

 不意に背後から、何時ものように聞いていた女の声が聞こえた。
 この不遜で唯我独尊な口調は間違いない。

「C.C.! 何故ここに!」

「良い女には秘密があるんだよ。坊や」

「はぐらかすなっ! 答えろ。
如何してエリア11にいる筈のお前が此処にいる。そして何故皇帝にはギアスが効かない。
ナナリーは無事なのかっ!」

「質問は一つずつにしろ、と言ってもお前は聞かないか。
私が此処にいるのは、簡単だよ。私自身がシャルルに"客"として招かれた、ただそれだけだ」

「客? まさかお前はあの男と面識が……」

「それに答えるつもりはない」

 舌打ちしそうになるのを、寸前で堪える。
 今日ほど、この女にギアスが効かない事を恨んだ事はない。

「それと、シャルルにギアスが効かなかったことは、別にあいつがコード保持者という訳ではなく、カラクリはこれだ」

 そう言ってC.C.は小さな箱に入ったコンタクトレンズを渡してくる。

「これは?」

「お前のギアスは視覚から効果を発揮するタイプだからな。
このコンタクトで光情報を遮断すれば、理屈の上ではギアスを無力化できる」

「という事は、あの男はこれを?」

「そうだ。あぁ、これはお前も付けておけよ。
お前のギアス――――既に暴走しているぞ」

「なにっ!」

 慌てて鏡を見る。そこには左目にギアスの紋様を浮かべた自分の顔。
 ギアスをOFFにしようとするが出来ない。つまり、これは。

「俺もマオのようにギアスのON、OFFが出来なくなっている……。
成る程、それで、このコンタクトレンズか」

 C.C.からコンタクトを受け取り左目に付ける。それで一応は瞳からギアスの紋様は消えた。

「最後に、お前にとっては一番重要なことだが、ナナリーは生きているぞ」

「本当かっ!」

「本当だ。なにせ、さっきアリエス宮で一緒にピザを食べてきたからな」

「ピ、ピザ!?」

「そうだ。流石はブリタニア宮廷のコック。
作るピザも中々の美味だった」

「お前はブリタニア本国に来て何をやっているんだ?」

 おかしい、何かが間違っている。大体ピザだと?
 コックは何を考えているんだ! こんな得体の知れない女を……。
 皇帝が身分を保証した? 馬鹿な。こんな女の身分を保証して何の利益がある。

「悩んでいるところ悪いが、これからどうするんだ?」

「どう、とは」

「言わなくても分かるだろう。
ブリタニアへの反逆、諦めるのか?」

「それはなんの冗談だ、C.C.?」

 ルルーシュは冷笑すら交えて応じた。

「一時は取り乱しもしたが、これはこれでメリットがなくはない。
なにせ皇族に復帰したことで、皇帝との距離は狭まった。これを利用しない手はない」

「ブリタニアの中から変えるつもりか?」

「忌々しい事だがな。
今は精々、あの男の人形を演じてやるさ。
だが、俺にはギアスがある。
思うにこの力が本領を発揮するのは軍事ではなく、政治や外交だ。
ブリタニアの貴族全員がギアスの存在を知っている訳でもないからな。
徐々にギアスで俺の味方を作り、あのシュナイゼルすら上回る派閥を作り上げる!」

「つまり、お前が目指すのは」

「そう、クーデターだ。
あの男を皇帝の座から引きずり出し、地べたに這い蹲らせてやる」

 C.C.は余り興味のない視線でルルーシュを見つめる。ただ、ほんの僅かに気になることがあった。

「それで、あのレナードとかいう男とも敵対するのか? どうやら、お前と妹の為に随分と駆け回っていたそうだぞ」

「…………駆け回った?」

「ああ。なんでもお前達兄妹の味方をつくる為に、自分の父親に直談判しに行ったり、アッシュフォード家に説得しに行ったりしたそうだ。
ふふふ、随分と熱い友情じゃないか」

「…………ふんっ。それでも、レナードが俺達兄妹より……友達よりあの男を選んだ事に違いはない」

 忌々しげに艶やかな黒髪を撫でると、ルルーシュは立ち上がった。
 
(だが……。ナナリーがどう思っているか……)

 ルルーシュにとっては、それが一番の問題であった。
 自分の感情としては、レナードに苛立ちを募らせていても、妹であるナナリーが、そう思っていないのであれば、ルルーシュはレナードを殺す事など出来ない。
 なにせ、彼の仮面は全て妹の為だけに被り続けたものなのだから。
 どちらにせよ、先ずはナナリーを自らの下に取り戻す事から始めなければならない。幾らブリタニアを破壊したとしても、ナナリーが危険に晒されては何の意味もないのだ。

 ルルーシュは静かに部屋から出て行った。




 ゼロ=ルルーシュがブリタニア本国へと連れ去られて、当然のことながら黒の騎士団は今、混乱の極みにあった。
 よく団員に無断で行動する事が多いゼロだが、普段はそれでも定期的な連絡はとれた、が今回はそれすらない。中にはゼロは自分達を見捨てたんじゃないか、という声まで出る始末。
 藤堂を始めとした幹部が他を抑えているが、それも限界に近い。
 なにせ一刻も早く、副総督ユーフェミアの特区への対策をしなければならないのだから。
 もしこのまま何もせず時間が過ぎると、黒の騎士団は本当に自然消滅する事になる。

(ゼロ、この緊急時になにを……!)

 内心でこそ、ポーカーフェイスを保っている藤堂も、内心では焦っていた。既に特区の開催は近い。これに対しリーダーが方針を定めなければ、黒の騎士団は瓦解する。既に幹部内にもゼロを口に出して批判する者が現れる始末。
 これが、藤堂が嘗て所属していた解放戦線ならまだよかった。首領の片瀬が死んだりしたとしても、最悪の場合、自分がそれを継いで立つ事も出来ただろう。
 しかし黒の騎士団では、それは不可能。騎士団は良くも悪くもゼロの手腕に大きく依存する組織だ。つまりゼロという存在を失えば、簡単に纏まりを失う。
 ゼロは仮面を被っているのだから、適任者がゼロになればいいと思うかもしれないが、これもそう簡単な問題じゃない。
 ゼロは奇跡を起こし続けてきたからこそゼロでいられるのだ。
 奇跡を起こさないゼロなど、民衆にゼロとして認められない。
 そして騎士団に、ゼロ並みの才覚の持ち主は、誰もいなかった。

「ゼロ!」

 団員の誰かがそう叫んだ。振り返ると、そこには自分が今一度戦うように説得した男、ゼロがいた。
 何故か多少衣装のデザインが変わっている。

「今まで、何処で何をしていたんだ。
ユーフェミアの特区政策は――――――」

『分かっている。私もその件で今まで単独行動をしていたのだ。
そして既に、策も用意してある』

「策? それはどのような――――――」

『藤堂!』

 ゼロが大仰に、けれども、その威厳は相変わらずのまま藤堂を制した。

『奇跡とは、どのようなものだ?』

「それは――――――――」

「常識では起こる筈のないこと」

 藤堂よりも先に、ソファで寝そべっていたラクシャータが言った。

「他にも神の力、という解釈もあるわね〜」

『フフフ、良い答えだ。
メシアでさえ奇跡を起こさねば認められなかった。
ならば私もまた奇跡を成そう。十二月に開催される特区日本式典で!!』



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