―――天下無双。
つまり世界に二人としていない豪傑、最強の存在。
一体どれ程の武人や騎士が無双の頂きを目指しては敗れてきたか。
そこで視点を変えて現代の"無双"とは誰か考えてみる。
一番早く思い浮かぶのはやはりナイトオブワン、ビスマルク。
帝国最強の十二騎士の中で最強を誇る彼の力量は想像すらつかない。
しかし幾らナイトオブワンといえど人間…………当然の如く寿命というものはある。
さて、新たなるナイトオブワンは誰がなるのだろうか?









「主任。宜しかったのですか?」

 ナイトオブツー専属開発チームの技術官の一人が、主任に問いかけた。

「なにが?」

「ですから、マーリンのことです。
あれはまだ最終調整が終わってないのですよ。もし何かあれば……」

「仕方ないでしょう。
ブレイズルミナスが実弾を無力化するといっても限度がある。
あの馬鹿みたいに大きい戦車の砲火を素通りするなんてリスク犯せる筈もない。
どうしても防衛の為にフロートを装備したサザーランドがいる」

「確かに理屈は分かります。
キューエル卿とヴィレッタ卿が艦の防衛に必要だとは。
しかし、なら他のパイロットを向かわせればよいのでは?」

「馬鹿ね。相手はガヘリスを初騎乗から乗りこなす相手よ。
たかが一般兵士が乗ったサザーランド数機を、援軍に回しても焼け石に水。
はっきりいってKMFの浪費に等しいわ。
だったら未完成とはいえ、マーリンを少将へ送ったほうがよっぽど現実的よ。
ルルーシュ殿下の指示でもあるしね」

「ですが……」

「勿論、最悪の可能性もある。
だけどパイロットあってのナイトメア。
特にこのマーリンは特別だから、他のラウンズの方が乗られたとしても100%の性能は発揮出来ない。
……いえ、それ以前に未完成といっても通常戦闘には問題ないわ。
白兵戦でもランスロットに匹敵するだけの性能はあると自負しているつもり」

 そう実のところナイトオブツー専用機マーリンはほぼ完成してるといっていい。
 ただ本当の最後の最後の仕上げをしていないだけ。普通に戦闘する分には全然問題はないのだ。

「後は少将の力量次第…………頼みますよ」




 レナードはマーリンのコックピットで柄にもなく興奮していた。
 操縦桿が手に吸い付く、自分の知りたい情報がダイレクトに伝わってくる。あらゆる能力、あらゆる性能が期待通り。
 専用機っていうのは馴染むぞ、というのは姉であるノネットの言だが、どうやらその言葉に嘘はないようだ。
 今さっき搭乗したばかりだというのに、十年来の相棒のようにすら感じる。
 これが機体と一体になるということなのだろうか。

『それは……』

 ガヘリスのスピーカーから唖然とした声が聞こえてくる。
 無理はない。
 つい先程まで追い詰めていた仇敵が、今まで以上に強大な力を持って復活したのだ。
 希望から一転して絶望に叩き落された衝撃は如何ほどのものか。

「残念だったな。形勢逆転だ」

『……認められるか。そんな、ものは―――――――――ッ!!』

 ガヘリスが迫る。だが遅い。
 いや普通のKMFの常識からしたら異常なスピードなのだが、今のレナードには遅く感じた。グロースターが与えたダメージもあるのだろうが、それ以上に奇妙な自信があった。

(いける……!)

 機体を走らせる。速い。
 ガヘリスがMVSを持ち迫るが、それすらノロノロしく感じた。

「いい加減、死んどけ亡霊!」

 一瞬の交差。
 マーリンのMVSがガヘリスの右腕を切り裂いた。
 
「さて、次の武装は…………」

 マーリンの姿が消える。これがマーリン最大の特徴の一つであるステルスシステム。
 理屈は門外漢のレナードには良く分からないが、光学迷彩装甲(TAS)とかいう名称らしい。だがそんな事はどうでもいい。
 パイロットである自分にとって重要なのは、その機能が使えるか否かだ。

『消えた……!?』

 驚いた声が響く。
 無理はない。もし逆の立場なら自分だって驚いただろう。
 なにせただのステルスではなく、機体全てを不可視状態にする兵器なんて存在しない、そうこのマーリンを除けば。

 ガヘリスは動きを止めている。急に消えた敵に困惑しているのだ。
 その隙を遠慮なく付かせて貰おう。

 接近する、が普通なら何か構えをとる筈の敵機は何もしない。
 獲った。理想的な軌道を描いて進む斬撃は、正確に敵コックピットを、

『!』

 惜しい。驚く事にガヘリスのパイロットは寸前で斬撃を避けた。
 その変わりとしてコックピットではなく頭部を吹っ飛ばしたが……。

(どういうことだ?
まさかマーリンの装備について知っている……? いや違う)

 ガヘリスから驚愕した雰囲気が伝わってきた。
 どうやら避ける事が出来たのは、本当にただの偶然らしい。
 運の良い奴だ。

『……………………』

「ちっ。だが次はこうはいかない。今度こそ、コックピットを――――――――」

 ならもう一度、と思ったところでガヘリスが背を向け飛んでいった。
 どうやら逃げるらしい。
 流石に機動力ではあちらの方が圧倒的に上だ。

「だが、逃がすかよ」

 TASを解除する。便利な機能だがその分リスクもある。
 その最も分かりやすいものとして、通常時の三十五倍ものエナジーをくうという事だ。
 余り長時間使えば、直ぐにエナジー切れを起こしてしまう諸刃の剣…………余り多用するもんじゃないな。やはり兵器は持久力がなければ。

 焦らずマーリンのもう一つの特徴である狙撃モードへと移行する。
 標準装備されているヴァリスへ腰部に収納されている連結パーツを接続。
 それだけじゃない。
 ガウェインに搭載してあるものを簡略化したドルイドシステムにより必要な情報を素早く入手する。
 あらゆる動作が希望通りに作動していく。主任は良い仕事をやってくれた。照準。

 ガヘリスのデータは見ている。
 確かにルミナスの防御力はあのランスロットをも凌ぐものだ。
 しかしハドロン砲、それも一点集中型のこれを防げるほどの防御力はない。
 あるとすれば、アーニャのモルドレッドとかいう馬鹿機体だけだ。

「じゃあな。あの世でフランカと仲良く暮らせ」

 発砲。
 マーリンの銃口から放たれた閃光は、俺のイメージ通りの軌道を描きガヘリスを焼きつく…………さなかった。
 どういう訳か、ハドロン砲は見当違いの方向へと素っ飛んでいく。

「あれ?」

 まさか……腕が落ちた?
 そんな馬鹿な。

『あー、少将』

 主任の顔がモニターに浮かび上がった。

『申し訳ありません。
実はマーリンは通常戦闘には問題ないのですが、狙撃システムの調整がまだでして……』

「つまり、今のマーリンに狙撃能力はないってことか?」

『…………はい』

 気まずそうに主任が言った。

「締まらない最後だな、おい。
…………でもまあ、仕方ないか。かわりに」

 下を見る。そこでは多勢に無勢ながらもEUのナイトメアをぐいぐい押すサンチアとルクレティアがいた。
 流石は第七世代機といったところか。かなりの健闘をしている。後数十分もすればEUのナイトメア部隊は壊滅するだろう。
 此処は二人では問題なさそうだ。

「主任、アースガルズを襲った敵はまだいるか?」

『はい』

「そうか、なら今からそちらに向かう。
ルルーシュ殿下にそう伝えてくれ。交信終了」




「レナードが、そう言ったのか?」

 ルルーシュはブリッジにやって来た主任にそう尋ねた。

「はい間違いなく。今からそちらに向かう、と」

 ルルーシュは思案する。
 レナードがこちらに来るという事は、レナード達三人を襲った部隊はどうにかなったと見るべきだ。
 残念ながらガヘリスは逃してしまったが、マーリンのエナジーや万が一のことを考えれば深追いすべき時ではない。

(EUのKMFはサザーランドに劣る。ましてやこちらには第七世代機が二機にラウンズ専用機がある。
頼みの綱のガヘリスが撤退してしまえば、成す術もないだろう)

 ルルーシュは過去の経験から、第七世代KMFと第五世代機の性能がどれ程違うか身をもって知っていた。ましてやパイロットはラウンズ一人にギアスユーザー二人。前とは違いイレギュラーを手にしているのは自分のほうだ。
 だからこそ、サザーランドに劣るナイトメアしか持たないEUが、第七世代機を相手に勝てるとは万が一にも想定してはいない。
 今彼が考えているのは、如何に素早く未だに執拗な攻撃を仕掛けている敵を掃討するかだ。
 本音を言えば、エナジーとて無限ではないのだから、出来るだけ節約したい。

 ルルーシュの脳内に三十七通りの作戦が思い浮かぶ。
 さて、この中でどれを選ぶか……。

 そんなルルーシュの作戦を、全て否定するかのように、それはやってきた。

「殿下! マーリンが来ました!」

 アースガルズの巨大モニターに黒い機体の姿が映る。
 暗闇のような黒に浮かぶ鮮血のような赤。その頭部にあるツインアイも真っ赤に光っている。
 他のラウンズ専用機が騎士のようなフォルムなのに対して、このマーリンという機体は、そのカラーも相まって悪魔を連想させた。

 そこからの戦いは一方的だった。
 戦場へと参上したマーリンは手始めにヴァリスを連射した。だが、適当な攻撃ではない。その全てがEUの巨大戦車を正確に照準していた。
 
 爆煙をあげながら破壊されていく戦車。
 抵抗する間もなく粉砕されていくKMF。

 完全なるワンサイドゲーム。
 全く似てないようなフォルムなのに、ルルーシュにはどうしてもマーリンがランスロットと被って見える。そう、たかが戦術兵器でありながら自分の戦略の悉くを潰してきたランスロットに。

 しかしランスロットと違う点が一つあった。
 ランスロットはパイロットであるスザクの技量もあってなのか、出来るだけ人死にを避けた戦い方をする。コックピットは積極的には狙わず武装などを破壊して戦闘能力だけを奪う。
 傲慢だというのは筋違いだろう。ようするにスザクにはそれをやるだけの技量と性能を持った機体を与えられていて、しっかりと成果を出している以上、それを咎める事は出来ない。第一、本気を出さないといけないと判断した相手、カレンや藤堂に対しては殺す気で戦っている。

 だがレナードは正にその逆だ。
 スザクとは違い寧ろ積極的にコックピットを狙う。
 機械的に、どこまでも残酷に、命を刈り取っていく。
 その姿が、行動が、どこか恐ろしいと、ルルーシュは感じる。

 そして、数分もすれば生き残っているのは味方だけとなっていた。

『ルルーシュ殿下』

 レナードから通信が入った。

「なんだ?」

『敵の殲滅完了しました。
また、サンチア、ルクレティア両名からも殲滅を完了したと』

「そうか。ご苦労だった。帰還してくれ」

『イエス、ユア・ハイネス』

 さっきまでの戦闘と同じように、機械的に、レナードは答えた。
 そしてレナードとサンチア、ルクレティアが帰還した後、ルルーシュも粗方の仕事を終え自分の部屋に戻ると。

「おかえり、ルルーシュ」

「…………お前らは何をしている?」

 何故かピザを食べながらインディアンポーカーをするレナードとC.C.がいた。
 ルルーシュは、なんだか悩んでいるのが馬鹿らしく思い、深く溜息をついた。


 



【マーリン】
搭乗者:レナード・エニアグラム
形式番号:RZA-002X
分類:ナイトオブラウンズ専用KMF
製造:ブリタニア
生産形態:ナイトオブツー専用機
全高:4.4m
全備重量 7.77t
推進機関:ランドスピナー
関:フロートシステム
『特殊装備』
簡易型ドルイドシステム
超強化型ファクトスフィア
TAS(Transparent armor system)
『武装』
内蔵式対人機銃×1
MVS×2
スラッシュハーケン×4
ヴァリス×1
スナイプハドロン×1

≪詳細≫
世界最強の狙撃手ナイトオブツーの為だけに開発された専用KMF。
基本カラーはカスタムグロースターと同じ黒と赤。
狙撃能力に重視をおいた機体で、ガウェインのものを簡略化したドルイドシステムと最高峰のファクトスフィアにより、最大射程距離は他のどのKMFをも寄せ付けないほど。
ただし、本機に搭載された狙撃システムは、搭乗者の狙撃能力に大きく左右されるため、他のラウンズが搭乗したとしても、性能の半分も発揮出来ない。

最大の特徴はTASと呼ばれる光学迷彩システム。
姿を完全に不可視状態にしレーダーをも無力化するステルス性を誇る
だが反面エナジー消費が非情に激しく、通常時の三十五倍もの消費量。
また不可視状態にはせずに、レーダーだけを無効化するように設定する事も可能。その場合のエナジー消費は不可視状態の時よりも格段に少なくなる。
全体的に真っ向勝負よりかは、奇襲や暗殺に適した機体。

名前の由来は伝説的な魔術師であるマーリン。
アーサー王伝説において居なくてはならない重要なキャラクターで、アーサーの軍師であり助言者であった存在。



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