―――逃げた者はもう一度戦える。
人はよく『逃げる』という事を悪いものと、臆病な行動と考えている。
だが決してそうじゃない。
例えば戦場で『最後の一兵まで戦う』というのは確かに勇敢に思えるだろう。しかし全滅してしまった軍は再起を図ることすら出来ない。つまりそこで本当に終わり。次はない。
だが逃げていれば。
臆病者と罵られるかもしれない。それでも、次はある。









「………………!!」

 ルルーシュがアースガルズのブリッジで歯噛みする。
 ゼロが援軍として来るなんて想定外どころじゃない。
 完全なるイレギュラーだ。


「ルルーシュ殿下! 敵の飛行型、かなりの性能です!
我が軍のヴィンセント・ウォードの損害率5%!」

(ちっ! あの機体、月下じゃあないな。
ラクシャータの奴め、既に新型の量産機を製造していたのか。
ゲフィオンディスターバー対策は既に出来てはいるが…………)

 黒の騎士団のKMFの中でも目立つ紅の機体を見る。
 もし自分の知りえる情報が変わっていなかったら、あの機体にはカレンが乗っているはず。
 しかも前に見た紅蓮と経常が変わっている。
 つまりルルーシュの持つ情報はアテにならない確立も高い。
 ならば……

「ランスロットは紅蓮を破壊しろ! あいつの突破力は邪魔だ!」

『い、イエス、ユア・ハイネス!』

 通信越しに聞こえるスザクの声。
 明らかに驚きが感じられた。
 だがやって貰うしかない。
 紅蓮が強化されたかもしれないとはいえ、スザクには何度も紅蓮と戦い抑えたという実績がある。
 そしてもう一つ気になるのは……

(あれはガウェイン、なのか?
フロートが飛翔滑走翼になっているのはいいとして、あの巨大な廻転刃刀……。
接近戦型に改良したのか。
いや、そんな事より本当に偽者自らが前線へ?
ならば、最優先で落とすべきなのは!)

「レナード!
ナイトオブテンとゼロの騎乗するガウェインを落とせ!
指揮官を潰せばこちらの勝利だっ!」

『イエス、ユア・ハイネス!』

「しかし、皮肉だな」

「はっ?」

 メインオペレーターのセシルが怪訝そうに首をかしげた。

「いや、ただブリテンの危機に"アヴァロン"に乗った救援がやって来て、ましてやそのブリテンを攻め落とそうとしているのは"ランスロット"と"マーリン"そして"パーシヴァル"だ。
これでアーサー王でもいたら完璧だな」

 なんにしても、だ。
 今自分が優先すべきなのは…………。
 
 ルルーシュは、脳裏に一瞬、王の名を与えられた猫を思い浮かべた。




「ゼロ、如何してこんな場所に……」

 スザクは驚きで、パイロットとしては致命的なミス。動きを止めていた。
 しかしその混乱から次の一声で立ち直る。

『ランスロットは紅蓮を破壊しろ! あいつの突破力は邪魔だ!』

「!」

 親友から下された非情な命令にスザクが我に帰る。

「い、イエス、ユア・ハイネス!」

 戦うしかない。
 軍人は命令に従わなくてはいけない。
 自分で定めたルールがスザクを戦場へと連れ戻した。

 紅蓮もどうやら自分をヤレという命令をされていたらしい。
 真っ直ぐにこちらに突っ込んでくる。

『スザクッ!』

「やっぱり、カレンかっ!」

 やっぱり紅蓮のパイロットはカレンだった。
 形状が違っていたから、もしかしたら違うかもしれないという淡い期待はあっさりと砕かれる。
 だが戦わなければ……。

『アンタは知ってたわけ?』

「何がだい」

『ルルーシュがブリタニアの皇子だったっていうことよ!』

「ああ、知ってた」

『!』

 息を呑む声が通信越しに聞こえる。

「カレン。君も聞いた事があるだろう。
日本がまだブリタニアと戦争をする前、ブリタニアから二人の皇子と皇女が留学に来たって」

『それが、ルルーシュとナナリーってわけ!?』

「そうだ。そして二人が留学した先は、当時の日本国首相。つまり僕の父の所だった」

『成る程ねえ。七年前からの親友ってそういうこと』

 七年前。
 つまり日本がブリタニアに負けて植民地になった年。

「………………」

『だから、ブリタニアの味方をしてるってわけ?
日本を裏切って』

「えっ……?」

『だってそうじゃない!
スザク、別にアンタのやり方を全部否定したりはしない。
中から変えるっていうのも、私は御免だけど一つの手段だとは思うわよ。
ええ。手段は違うけど目指す先は同じだって思ってた。
だけどね、もう日本はブリタニアから独立してんのよ!!』

「!」

『なのに如何してアンタはそっちにいるのよ!
スザク、あんた日本人でしょ!』

「いや、俺は……」

『ルルーシュとナナリーのため?
まさかあのお人形の皇女のためとか言うんじゃないでしょうね』

「違う、僕は……!」

 油断した、その瞬間だった。
 紅蓮の右腕から極太の閃光が飛ぶ。
 輻射波動、遠距離で使えるようになっていたのか。
 体が動かない。

「避け、きれない……?」

 それは間違っていた。
 確かに並みのパイロットならば直ぐそこまで迫った輻射波動砲を避けることなんて不可能だ。
 しかし当然ながら、スザクは並みを軽く超越していた。
 故に間に合う、だが――――――。

(そうか。これが償いなのか)

 受け入れるしかない。
 そうだ。あの時にこうして裁かれるべきだったのだ。実の父親を殺した時に。
 だからこれは当然の結末。

――――間違ったやり方に価値はない。
 そう思いブリタニア軍に入り戦ってきた。
 ユフィと出会い騎士に任じられて。日本を変える為の第一歩を漸く踏み出そうとして、躓いた。余りにも簡単に。
 そして自分の否定した男"ゼロ"はあんなにも簡単に日本を……。
 逆に今の自分はなんだ。
 日本を解放するどころか、植民地を増やす手伝いをしている。

―――――――――生きろっ!
 それは嘗て一人の少年から下された命令、願い。

「俺は、生きる!」

 ランスロットが動きを取り戻し輻射波動砲を避けた。
 そしてお返しとばかりにMVSを振るう。

『スザクっ!』

「うるさい! 俺は生きなきゃいけないんだァーーーーーーーーーッ!」





「たっく。化物か、こいつは!」

 ルキアーノが前に立ち、それを自分が援護する。
 シンプルかつ最強の連携、士官学校時代も勿論のこと、ラウンズになってから行った模擬戦でも勝てる者はナイトオブワンを置いていなかった。
 それが破られようとしている。たった一人に。

『どうした? 天下のラウンズとはその程度かね。
円卓の騎士の名が泣くぞ!』

「ほざけ! ルキアーノ仕掛けるぞっ!」

『ああ。その命を飛び散らせろォ!』

 戦術は先程と変わらない。
 ルキアーノのパーシヴァルの四連クローが高速回転。
 ブレイズルミナスに覆われたルミナスコーンへと変化を遂げる。

『またそれか。学習能力のない』

 対してゼロのガウェインは、前に見たギャラハッドのエクスカリバー並みのサイズの刀でそれを受ける。ガウェインに握られた刀がまるで命を吹き込まれたかのように動く。
 柔軟な動きがパーシヴァルのルミナスコーンを弾き、返す刀でパーシヴァルを真横から真っ二つにせんとばかりに襲いかかる。

「させるかよ!」

 ヴァリスを連射。
 パーシヴァルとガウェインの間を狙った弾丸は、計算通りガウェインの刀を止め、後方へと下がらせる事に成功した。そして、

「今だ!」

『分かってる! さぁ命を飛び散らせろォ!』

 確かにガウェインはかなり改良されていた。
 スピードだって結構なものだし、パワーに関して言えばナイトオブワン専用機であるギャラハッドにも匹敵する。そしてパイロットの技量も凄まじい。
 だがパーシヴァルの過剰なまでの突破力を舐めたのが運のつきだ。

『ふん。先程の言は撤回しよう。しかしこの程度では』

 ルミナスコーンを、腕から展開されたバリアが防いだ。
 まだ武装を残していたというのは素直に感嘆するが、

「これで」

『チェックだァ!』

 そう、これこそが狙い。
 ガウェインは今、パーシヴァルの攻撃を防いだことで、僅かな油断が生まれている。
 その油断こそ、パーシヴァルが隠し武装であるヘッドハーケンを使う絶好の好機。

『だが甘いッ!』

 ガウェインがヘッドハーケンを防いだだけならまだ驚かなかった。
 しかし驚くべき事に、ガウェインは防ぐどころか高速で飛ぶハーケンをシールドを使い弾くと掴んで見せた。
 そしてそのままハーケンを力任せに引っ張り、パーシヴァルの頭部に強烈なアッパーを喰らわせた。

「ルキアーノ!」

『グゥゥウゥゥ! この猿がァ! よくもこの私のパーシヴァルにィ!』

「……それだけ叫べれば問題なさそうだな」

 ホッとしたのも束の間。
 パーシヴァルを突き飛ばしたガウェインが、他の一切を無視して離脱する。
 一体どこへ? その答えは直ぐに見つかった。
 ガウェインの向かう先、そこには……

「アースガルズがッ!」

『フフフ、何時までも君達に構っているほど時間に余裕もないのでね。
早々に決着をつけさせて貰うとしよう』

「不味い、ルルーシュ!」

 ガウェインの肩からハドロン砲が飛ぶ。
 目標は勿論、アースガルズのブリッジ。
 ハドロン砲の赤黒い光は真っ直ぐにアースガルズへと飛び、巨大な煙を上げた。

『………………ムッ?』

 そう煙を上げただけだった。
 やがて煙が消え、そこから何の損傷も受けていないアースガルズと、ガウェインと同じ黒と金を基調としたKMFが一機。

『お初お目に掛かる、ゼロ』

 黒いKMFから聞こえてきたのは紛れもないルルーシュの声。
 どこか楽しむようにすら感じられる口調でルルーシュが言う。

「さて始めようか、黒の騎士団。
命を賭けたゲームを」

 黒いKMFのコックピット内でルルーシュは静かに呟いた。






【ガウェイン・カスタム】
搭乗者:二代目ゼロ
形式番号:IFX-V000
分類:第八世代相当KMF
製造:ブリタニア&合衆国日本
生産形態:ゼロ専用機
全高:6.57m
全備重量 15t
推進機関:ランドスピナー
関:飛翔滑走翼
『特殊装備』
ハドロン砲
指揮官特化型ドルイドシステム
『武装』
内蔵式対人機銃×1
大型廻転刃刀×1

≪詳細≫
嘗て神根島でルルーシュによって強奪されたガウェインを、黒の騎士団の技術者ラクシャータが、近接戦闘用に発展改良した機体。
パイロットの安全を半ば度外視して極端に性能のみを追求した結果、現行最強の性能を得るに到るが、そのせいで操縦性が最悪となっており、並みのパイロットでは掛かるGに耐えることすら不可能というラクシャータ曰く"欠陥機"。



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