―――三十六計逃ぐるにしかず。
玉砕は良くない。
生産的ではないし、得るものといったら誇りだけ。
だが逃げれば、戦力を温存出来るし痛烈な逆襲を行うこともできる。







 そのKMFの名をオーディンという。
 特派のロイドとカムランの主任が共同で開発したルルーシュ専用機である。
 嘗てルルーシュ自身が強奪したガウェインを更に指揮官用に特化した機体とでもいうべきか。
 ドルイドシステムを使った絶対守護領域とあのナイトオブシックスのKMFモルドレッドにも匹敵するほどの砲撃性能を持ったKMFだ。
 唯一の欠点としては絶対守護領域の計算が相当の情報処理能力を持つルルーシュくらいしか満足に使えないことくらいだろう。

「ほう。自ら前線に……」

『王が動かなければ部下はついてこないだろう』

 二代目ゼロの問いかけに皮肉気に応じたルルーシュ。
 それをゼロは軽く笑って受けた。
 "王が動かなければ部下はついてこない"……それはルルーシュだけではなく、自らKMFを駆って戦っているゼロにも言えることだ。

「哲学だな。だが悪くない。
トップが最前線で戦うということ……全軍の士気を挙げるには効果的手法の一つだ。尤も」

 ガウェインが刀を構える。

「それを成し得る実力がなければ、ただの蛮勇だがね」

 ガウェインの刀をオーディンは絶対守護領域を展開し容易く受け止める。
 驚くゼロ。しかし幾らガウェインが力を込めようとバリアを突破することは出来ない。
 
 オーディンの絶対守護領域は指揮官であり皇子であるルルーシュを守る為に世界最高峰の防御力を備えている。これを突破するのはモルドレッドの四連ハドロン砲ですら不可能。
 出来るとしたらナイトオブワンのエクスカリバーくらいだ。
 ゼロのガウェイン・カスタムでは不可能。

『レナード、やれ』

『イエス、ユア・ハイネス!』

 マーリンがゼロのガウェインへスナイプハドロンを放つ。
 この位置だとルルーシュの乗るオーディンすら巻き込み兼ねないが、

「ちっ! ハドロン砲すら防げると、そういうことかっ!」

 ガウェインがオーディンから離れる。
 既に放たれていたスナイプハドロンがオーディンに直撃するが、無傷。
 だがゼロを襲う攻撃はそれだけではなかった。

『さぁこの顔に受けた借りを返して貰おうかァ!』

 咄嗟に刀で防ぐ。奔る衝撃。
 危ないところだった。
 あと数瞬遅れていたらパーシヴァルのルミナスコーンの直撃を受けていただろう。

「やる。だが……」

 そう、たった一機高性能のKMFが出てきたところで意味はない。
 既にEU軍の援軍が迫っている。
 幾らラウンズ級のパイロットが三人いようと圧倒的な物量と自分やカレンがいればアースガルズ側に勝利はない。

「やれやれラウンズ二人、しかも連携が取れているというのは少しだけやり難い」

 そこでふと空を見る。
 雨が降ってきた。黒い雲も浮かんでいる。

「暗雲か。しかし、それは相手も同じ。
吉と出るか凶と出るか」




「僕は……一体?」

 スザクが自分の意思を取り戻したのは、カレンの駆る紅蓮を蹴り飛ばして、一時的に"死の危険"から逃れた時だった。
 
『スザクッ!』

「カレン……!」

 再び迫ってきたカレンを見て、気を取り直すと距離をとる。
 白状すれば戦う事は避けたい相手だった。
 
『どうしたのよ、スザク!
アンタの力ってこの程度?』

 ギアスの呪縛下にないスザクは紅蓮の猛攻に押され始める。
 幾らスザクが純粋な技量においてカレンを僅かに上回ろうとも、スザク自信の戦意が乏しければ、その超人的な技量も発揮出来ない。

「僕は、一体……」

 なにをやってるんだ、こんな所で。
 自分は一体全体なんの為に戦っていたんだ。
 あの時に知った筈ではないか。
 
 嘗て自分の父、枢木ゲンブを殺せば日本とブリタニアとの戦争は避けられる。そう子供のような短絡的思考で父を殺した。だが結果は良くなるどころか最悪。
 日本とブリタニアは全面戦争に突入し、一ヶ月で日本は植民地となってしまった。
 だから間違ったやり方では良い結果は得られない、そう知った。

 しかし、カレンの言う通りだ。
 自分の否定した"間違ったやり方"が結果的には日本をブリタニアから独立させてしまった。
 
 そして一体、自分はなんなんだ。
 幾ら売国奴と呼ばれようと、自分は日本独立を目指していたのではないのか。
 なのに今自分のやっている事は、ブリタニアの植民地を増やす手助け……つまり、第二第三の日本を作り出しているだけ、日本の為だなんて口が裂けてもいえない。
 なら何故自分は……。そう思った時、ふと、ある言葉が浮かんだ。



――――――わたくしを好きになりなさい! その代わりわたくしは貴方を大好きになります!




「そうか。そうだったんだ……」

 漸く理解出来た。
 難しく考える必要なんてない。
 簡単な、本当に簡単なことだったんだ。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 雄叫びと共にランスロットの剣が振り下ろされる。
 紅蓮がそれを受けるが、嘗てない力の篭った剣撃に弾き飛ばされそうになった。

「僕はユフィが好きだ!」

『はっ?』

 通信からカレンの驚いたような声が聞こえてきた。
 呆れているのかもしれない。

「ああ、そうだ。俺の中でとっくに一番大事なモノは変わってたんだ」

『アンタ、日本よりあのお人形皇女を選ぶってわけ?』

「そう、かもしれない。だけど、そうはさせない。
今の僕は確かに君から見て単なる売国奴で裏切り者かもしれないよ。だけど」

 違うのだ。
 例え日本が解放されたとして、他の植民地はどうだ。
 依然として虐げられたまま。世界は日本一つが変わった以外には全く変化していない。
 だからこそ誰かが変えなくてはならないのだ。
 それはただ戦争をして独立を目指すことよりも大変だろう。自分の一生を掛けても不可能かもしれない。しかし諦めたらそれで終わりだ。

 そして今の自分には、同じようにそれを目指す人たちがいる。
 主君であるユーフェミアは勿論、ルルーシュだってブリタニアの植民地支配には反対している。ナナリーだってそうだ。
 主君の夢を全力で助ける。それが騎士としての在り様だろう。

「そして僕でも分かる事実。それは僕がここで手を抜けばルルーシュが死ぬということだ!
だから僕は君を倒す! そう、俺は」

―――――――――死なないで! 生きていて!

 その命令、確かに受け取ったよ。
 だからこそ俺は、

「イエス、ユア・ハイネス!」

『急に動きがッ!』
 
 紅蓮の右足が吹っ飛ばされた。
 そのままランスロットが紅蓮の間合いに入り込み横から蹴りを喰らわせる。

『はじけろ、スザク!』

「断る! 俺は生きるッ!」

 



『ルルーシュ!』

「分かっている」

 レナードからの通信。
 内容は分かっていた。
 前方から接近してくる数多の影。EUの援軍が到来したのだ。
 軽く見てアースガルズの戦力の数十倍はある。
 
「如何に精鋭中の精鋭だろうと、あの数で襲い掛かられたら一溜まりもないな。
ましてや虎の子のラウンズ二人はゼロ一人に抑えられ、スザクは紅蓮にかかりきり。絶体絶命か」

 退却も不可能だろう。
 逃げ出したところで、それを敵が見逃してくれるはずがない。
 アースガルズの主砲であるハドロン砲を使えば一時的に敵の動きを止められるかもしれないが、主砲を放つには如何してもブレイズルミナスを解除しなければならない。
 そしてこの状況でそんなことをすれば、敵の攻撃の良い的になるだけだ。

「これで生き残ったら奇跡だな。…………無論、奇跡は起こすものであって起きるものではないが」

 ルルーシュはオーディンを操り、銀のロッドのようなものを掴んだ。
 そしてそれをEU軍が展開している、上空へと放り投げる。



 事態にいち早く気付いたのはゼロだった。
 彼はこの戦況、そして位置など全ての情報を整理し推理すると答えを出す。

「不味い! 全軍輻射波動障壁を展開しろ!
EU軍にも警戒を!」

『ゼロ、なにを!?』

「説明は後だ! 早くしろッ!」

『わ、分かりました!』

 黒の騎士団にはそう命令したが、恐らくEUは間に合わないだろう。
 もし自分の推理が正しいならば……。

「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。流石は"初代ゼロ"とでも言うべきか……。
この知略、そして綿密さ、そして切り札を常にとっておく強かさ」

 その時であった。
 オーディンの投げたロッドが導くかのように天空から雷が落ちた。
 人口の電力と比べるのすらおこがましい程のエネルギーがロッドへと集まり、拡散した。
 それは真下にいるEU軍のKMFや航空機、黒の騎士団のKMFすら巻き込んでいく。

『ゼロ! アースガルズが撤退していきます!』

「アヴァロンの損傷率は?」

『ブレイズルミナスのお陰で直撃は免れましたが、動力機関に異常がみられます』

「追えるか?」

『……無理をすれば。ですが途中で動力機関が壊れ停止する可能性もあります。
安全を考えれば一度修理する必要があるかと』

「……仕方ないな。今日は痛み分けということにしておこうか」

 既にアースガルズは海中に潜っていた。
 通常の潜水艦に搭載されてある武装ではアースガルズのルミナスは突破出来ない。
 ガウェイン・カスタムは水中行動は出来ないし、唯一水上行動が可能でルミナスを突破可能な武装を持つアヴァロンも動けないとなると、今回は諦めるしかないだろう。

「また近いうちに会おうか、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
ふふふ。今度は敵としてかな、それとも――――――――」




 アースガルズの艦内。
 格納庫では戦闘を終えたばかりのKMFの改修作業が行われていた。

「しかし、どうして撤退したんだァ?
あの調子なら雷でズタボロになったEU軍をぶち殺せたかもしれないっていうのに?」

 ルキアーノがレナードに問うた。

「それは短絡的な思考だぞ。
確かにルルーシュ……殿下が温存していた策で一時的にEUの動きは停止した。
だけど時間が経てば回復するし、なによりも黒の騎士団の戦力の要である紅蓮とガウェインは無傷だったからな。
あの場で欲を出したら、確実にやられていたよ」

「そういうものなのか?」

「そういうものなんだ。
引き際を間違えなかったルルーシュに感謝だな」

 しかしレナードにはそれよりも気になる事が一つあった。
 それはゼロの正体である。
 今まではひっ捕らえた後に仮面を剥がせばいいとくらいにしか考えていなかったが、今回の戦いはそれを改めさせた。
 
 自分はラウンズの一人だ。
 そしてルキアーノも性格はアレだが腕は確かな男。
 その二人が連携して一人の敵すら倒せない…………これは異常だ。
 性能は向こうが上だったが、そんなことは言い訳にすらならない。
 性能差を含めたとしても二対一のこちらが有利なはずだったのだ。
 しかし結果として、こちらは圧倒された。
 たった一機のKMFに。

「本当に誰なんだ、ゼロは。
もしかしたらビスマルクのおっさんよりも――――――――」

 ゼロの正体は一体誰なのか?
 多くの人々が抱いた疑問。答えるものは無論、誰もいない。



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