―――もしあなたが戦場にいらっしゃったなら、神など信じなくなりますよ。
戦場で神への祈りとは最後だ。
気候、状況、心理、あらゆる要因を計算し尽くした上で、最後の『運』を神へ祈る。
俺も無神論者という訳ではないが、本当の大一番の時に信じるのは神ではなく自分だ。
神に祈りを捧げるのは、全てをやり終えた後。




 アースガルズの艦内。
 ルルーシュは柄にも無く少しだけ緊張していた。

「ルルーシュ、今なら引き返せるぞ。
これを実行すれば、ブリタニアだけじゃない。世界がお前を狙う。
人生の全てが闘いに染まるだろう。それでも――――――」

「愚問だな、C.C.。
俺は止まる事は出来ない。失った命の為にも、より多くの血を流してみせる」

 ルルーシュは決然とそう言い放った。
 今まで多くの命を犠牲にしてきたものだ。
 掛け替えの無い友人を涙させたこともある。中が良かった異母兄を殺した事だって。
 だからこそ止まる事は許されない。少なくともゼロと黒の騎士団による世界の独裁など強者による弱者の虐げを否定するルルーシュには、断じて認められないことだ。だからこそ。

「俺は今日、世界に対して異議を唱える」



「シュナイゼル陛下」

 カノンがグレートブリタニアの玉座に座るシュナイゼルに対して言う。
 突然の来訪。
 アースガルズの参戦を予測していなかった訳ではないが、行動が速すぎる。
 これでも中華連邦周辺にアースガルズが来ないか警戒を強めていたのだ。
 予想では少なくとも後一日程は掛かったはず。ということは。

「やられたね。
どうやら、ルルーシュは最初から中華連邦に来るための準備をしていたようだ」

「こちらの動きが読まれていたと?」

「たぶん違うだろうねぇ。
きっとレナードをこの中華に派遣した時から準備を進めていたんじゃないかな。
来るべきクーデターの為に」

「星刻がクーデターを起こす事を知っていたというのです?」

「星刻とルルーシュは似たところもあるから、そうかもしれない。
だけど少し不味い。もし私がルルーシュならば…………。
カノン。現在アイルランドにいるディートハルトと急いで連絡をとってくれ」

「ディートハルトを?
まさかルルーシュ殿下は!」

「だろうね。私ならばそうする。
何より国際的にはアースガルズはただのテロリストでしかない。
彼らに必要なのは大義名分だよ」

 




 マーリンのコックピットでレナードは頭を抱えた。
 だが口元が緩んでいる。喜んでいるのだろう。この時、この場に居合わせることを。

「随分と遅かったな、ルルーシュ」

『主役は後になって来る者だろう?』

「そうだな」

 漆黒の戦艦アースガルズから多数のKMFが出撃する。
 ランスロット、パーシヴァル、モルドレッド、フローレンス、ロイヤルガード専用ヴィンセント、ガレス、そして漆黒の機体であるルルーシュ専用機オーディン。

 そうこの作戦の主役はレナードじゃあない。
 今こそ世界という裁判官の判決に異議を唱える時。

「俺は幸運だ。歴史が変わる場面に立ち会えるんだからな。ルルーシュ!」

『なんだ?』

「ぶちかませ」

『理解している』

 二人で暫し笑いあう。
 それは嘗てアリエスの離宮で悪戯を仕掛けた時と同じように。
 そう二人は世界を変える悪戯の仕掛け人なのだから。



 世界中の人々は突然の事態に混乱した。
 なにせ何時もと同じようにTVを眺めていたら、唐突に画面が切り替わったのだから。
 画面に映っているのは、一目で高貴な者の為のと分かる純白の衣装に身を包んだ黒髪の少年。
 端整な顔には、その年には似つかわしくない決然とした決意がある。

『世界中でこの放送を見ている皆様。
私が第九十九代皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアです』

 あらゆるTVに映ったその少年。
 街で、家で、ホテルで、携帯で、同時に驚きが支配する。

「ルルーシュ殿下って、確かクーデターを起こしたっていうあの?」

「閃光のマリアンヌ様の息子、だよなぁ」

「でも皇帝ってどういうことだよ。
新しい皇帝陛下はシュナイゼル様だろう」

「シッ! 聞こえない」

『先ず皆様に見てもらわなければならない真実があります』

 少年が合図をする。
 そしたら、映像にまた新たなるモノが浮かぶ。

「おい。これって……」

「シャルル陛下とシュナイゼル殿下だ。それにこいつって……」

「ゼロだ! ゼロがいる!」

 遺跡のような、祭壇のような場所にいるのは皇帝シャルルとシュナイゼル。
 そして見間違える筈の無い漆黒の男、ゼロ。
 やがてシュナイゼルが銃を取り出すと、皇帝シャルルに向かって発砲した。
 命中し崩れ落ちるシャルル。

『皇帝陛下ァ!』

 悲痛な叫び。
 それは主君を目の前に殺されたレナードの、無念の叫びであった。

「これって、レナード・エニアグラム卿だよな。
ナイトオブツーの」

「だけどこれって…………おいおい! まさか」

『この映像を見てくれた皆様にはお分かり頂けたと思う。
先ず始めに、これは全て事実だ!
シュナイゼルは我が父シャルルを殺しただけに飽き足らず、全ての罪を私と皇帝に忠義を捧げたナイトオブラウンズに押し付け反逆者の烙印を押したのだ!』

「本当、なのか?」

「だけど確かにラウンズの半分以上が反乱っていうのも変かも」

「ラウンズだって反乱することだってあるだろう!
血の紋章事件を忘れたのか?」

「そうだよ。それにあんな映像、今の技術力ならば合成くらい簡単に出来る」

『さて、勘の良い方は既に理解しているでしょう。
こんな映像が、簡単に合成できることが』

 先程、合成くらい簡単に出来ると言った成年が思わず息を呑んだ。

『しかし今の技術で詳しく検証すれば、これが合成ではないと分かるでしょう。
それでも、これが絶対的な真実だと証明する方法はありませんが、ですが敢えて言います。
これは真実です。我が父シャルルはシュナイゼルの凶弾によって殺された!
私は父シャルルより皇帝へ指名された者として、私に付き従う同志達の代弁者として、全世界に対して異議を唱える!』



『全世界に対して異議を唱える!』

 アイルランドの執務室。
 渦中の人物の一人であるゼロは、その仮面を取りディスプレイを凝視していた。
 無論、この部屋に入れるのはゼロだけである。

 この放送を止めるべく、既にディートハルトを始めとした情報部には指示を出しているが、間に合うのか。無理かもしれない。
 彼の見る限り恐らくはこの計画はそう突発的なものではあるまい。
 全てこの時の為、逃亡してから行動らしい行動を最小限にしてこの計画の遂行を急いでいたのだろう。

 勿論、こんな放送一つで世界は変わらない。だがこれは一歩にはなる。
 千里の道も一歩からの言葉通り、一歩を踏み出さなければ物事は動き出さない。

『私は今此処に神聖ブリタニア帝国皇帝への就任を正式に宣言する!
また我々ブリタニアは超合衆国への参加を認めない』

 可笑しなものだ。
 ルルーシュにある国土はたかだか戦艦一隻に過ぎない。
 なのに、もう直ぐ世界征服を完了しようとしている連合に歯向かうか。

『だがそれは嘗てのブリタニアの復活を意味しない。歴史の針を戻す愚を私は冒さない!
私が創る新たなるブリタニアは、他国と協調し、真の意味で強者が弱者を虐げない正義ある国家である! そうあの超合衆国のように、平和の名の下にこの世全てを独裁せんと考える俗物とは違う!』

 独裁、か……。
 そうだな。その見地で言えば確かに自分は悪だろう。
 俗物、かもしれない。だが止まる事はない。失い続けてきた命の為にも。自分に付き従い死んでいった者達の為にも。

「やはり最後に立ちふさがるのは、呪われた王子か」

 既に映像はルルーシュの宣戦布告から、現在の中華連邦の現状と、大宦官に対する非難へと映っていた。しかも大宦官の一人高亥が人民を家畜扱いする証拠映像と共に。恐らくギアスで操られ喋らせているのだろう。



『シュナイゼル陛下! どうか我等を!』

 大宦官からの救援要請。
 それをシュナイゼルは興味なさそうに切った。

「しかし驚いたね。戦術が戦略を覆す場面は多く見てきたが……」

「ええ。アースガルズがこれ程とは正直恐れ入りましたわ」

 グレートブリタニアから見える戦場。
 そこでは一種の地獄が再現していた。

 大地を埋め尽くす中華連邦の精鋭。
 それを一方的に駆逐しているアースガルズのKMF達。

「シュナイゼル陛下。ここでルルーシュ殿下を?」

「いや此処は大人しく撤退しておこう。
悲しいけれど、今此処でアースガルズに勝利できる可能性は高くないよ。
それに此処で私が死ねば、超合衆国は崩壊する」

「仕方ありませんわね」

 グレートブリタニアが撤退していく。
 しかし今回は認めるしかない。

「初めてだな。ルルーシュに負けたのは」



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