―――祖父ガンジーはいつもこう語っていました。我々人間は、どこへ行こうとも人々の心に、平和と非暴力の種を、蒔き続けることに命を捧げなければならない。
世界に平和あれと祈りを捧げるのは、たぶん人として正しいのだろう。多くの力なき民衆が望むのは平和であり平穏だ。超合衆国が勝つにしろ、アースガルズが逆転するにしろ、やがて世界は戦乱を終えるだろう。平和は全ての人間が望む者だ。
しかし、平和を望まない、戦争を望む者はどうすればいい? 戦場でしか生きられない戦士は戦争がなくなればどう生きればいい。
だから俺達は願う。永久に続く戦争を。叶わない望みだと知りながら願わずにはいられない。




 その日。
 黒の騎士団の統合幕僚長である藤堂はゼロの執務室を訪れていた。
 彼にはどうしてもゼロに問い質せねばならないことがあった。それ故の訪問である。

『それで、藤堂。私に用、とは?』

「単刀直入に言う。ゼロ、お前は一体何を望んでいる? 何を目指している?」

『…………それは嘗て答えた筈だったが?』

 確かに、そうだ。
 藤堂本人もしかとこの耳で聞いた。
 ゼロの願い、世界平和を。だが、それは。

「はっきり言おう、ゼロ。
超合衆国が今やっているのは、嘗てのブリタニアと何も変わらない。
確かにお前の言う事には一理ある。幾ら一時的に平和が訪れたとしても、やがて次の戦乱は起きるのは間違いないだろう。
それを防ぐ為に世界を超合衆国の下一つにする…………理屈では分かるが、それとて恒久的平和など到底不可能だ。力で強引に従わせた統一国家など容易く崩れる、容易く崩壊する。
そんな事が分からない訳ではないだろう?」

『…………………………』

 事実、恒久的平和など不可能だと藤堂は考えている。
 桐原も言った事であるが、そのような世界は歴史上一度たりとも存在したことはない。
 
 それに利己的な事だが、藤堂としても既に日本解放という目的を果たしている為、これ以上戦う事に意義を見出せなかった。
 忘れてはならない事だが、藤堂は元々黒の騎士団ではなく日本解放戦線の所属だ。そして解放戦線の目的はその名が示す通り日本解放。それは既に成し遂げられている。ゼロによって。

 今までは日本解放という功績も恩もあるし、能力を認めていたのでゼロの行動に異を唱えることはしなかった。けれど流石にブリタニアと超合衆国なるものを作り上げ、世界を統一しようなどというのは黙認できないほどの重大事である。

『そうだな。もしかしたら、私は馬鹿なのだろう。
届かない夢と知りながらも、強引に手を伸ばしているのだから。
そして、だからこそ君には、私の本当の目的を、ウォーレクイエムについて明かそう』

「ウォー、レクイエム?」

 そしてゼロは語りだした。
 彼の真実を、その計画を。
 全てを聞き終わると藤堂の口から漏れたのは……

「馬鹿な、……そんな事が……」

 純粋な驚愕だった。
 余りにも突飛な計画に、真実に、藤堂は我を忘れそうになる。

『証拠は示した。
だからこそ、私は一つ君に頼みたい事がある。
君にしか頼めない事だ』

「頼み、だと。私に? それは一体……」

『ああ、そう難しい事じゃあない。君はもしも―――――――――――』








 アースガルズは現在海底を進んでいた。目的地は日本の第二の都市大阪。
 何故、彼等がそんな場所に向かうのか?
 理由は酷く簡単なものだった。

「念のためもう一度だけ確認するぞ。
お前達の仲間であるギアスユーザーのアリスとダルクというのは信用できるのか?」

「はい。何度か交わした手紙の中でもアリスとダルクがナナリー皇女殿下と…………その、仲良くさせて頂いていたと書かれていましたし、二人の元上官として彼女達は"信頼"できます」

 サンチアはそう断言する。
 ルルーシュはその端整な眉をピクリとだけ動かした。

「そうか」

 ルルーシュが合衆国日本の大阪に向かったのは他でもない。サンチアとルクレティアから報告があったからだ。彼女達の元チームメイトでナナリーの護衛としてついていたアリスとダルクからナナリーの居場所を知らせる連絡があったということを。
 
 内容は至極単純。
 ナナリーがシュナイゼルの手中に捕らえられてからも、独自にナナリーの居場所を探し続けてきた二人はどうにかしてナナリーを発見。が、ナナリーが捕らえられている場所には幾らギアスユーザーである二人でもそう簡単に手は出せない。だからこそ二人は嘗ての伝手を使いサンチアとルクレティアに連絡。アースガルズに助けを求めたのだ。
 
 そうなると、三度の飯よりもナナリーの笑顔が好きなルルーシュだ。
 休暇に出ていたラウンズとスザクを早急に帰還させると、そのままアースガルズを発信。大阪へと向かったのだ。

「陛下、後数十分ほどで日本です」

「マーリンは?」

「既に発進済みです」

 セシルからの報告を聞きルルーシュは息を整える。
 今回の作戦だけは絶対に失敗は許されない。例えクーデターが失敗したとしても、この作戦だけは失敗できない。

「オーディンを準備させろ。私も出る」

「陛下自ら!? 危険、ではないでしょうか……」

「指揮ならばオーディンからでも出来る。元々その為にあるKMFだからな。」

 それに、だ。
 オーディンは特派とカムランが合同で開発しただけあってかなりの高性能機だ。鉄壁のバリアシステムは勿論だが、砲撃性能だってモルドレッドに劣るものじゃあない。
 遊ばせておくには惜しい戦力だ。

「おい、ルルーシュ」

「なんだC.C.」

「今回は私もヴィンセントで出る」

「お前が? いいのか」

「お前の生きる理由なんだろう?」

「…………感謝しておこう」

 C.C.と共にKMFの格納庫へと向かう。
 なんとしても、この作戦だけは成功しなくてはならない。そう絶対に、だ。




 アースガルズが戦闘に入る少し前。
 ナイトオブワン、レナード・エニアグラムは愛機であるマーリンと共に、一足先に出撃していた。
 謂わばルルーシュとアースガルズは陽動である。アースガルズが派手に戦っている間にマーリンはナナリーを救出する。アリスとダルクというのも戦いが起きればこちらに呼応するだろう。
 
 ルルーシュがギアスを使い潜入するという案も考えたがそれは却下となった。
 なにせ相手が無知ならば兎も角、シュナイゼル側もギアスの存在とルルーシュがギアス能力者だということは恐らく気付いている。
 だからナナリーを捕らえている者達もギアスは十分警戒し対策しているだろう。そもそもにおいてルルーシュのギアスなどサングラス一つで無力化出来るのだし。 

 だがこの作戦にも問題はある。
 第一TASは圧倒的なステルス性を誇るが、その分エナジーの消費が激しすぎる。
 幾らナナリーを救出できても、帰りのエナジーがなくなってしまえば待っているのは敗北だ。
 それを覆すためにマーリンはちょっとした手を使っていた。なんということはない。予備のエナジーを手に持って運ぶ。これだけである。
 これだけで丸丸一回分のエナジーをTASだけに消費出来る。なんとも単純だが、有効な手段でもあった。

 既にマーリンのファクトスフィアはナナリーが捕らえられているであろう場所を捕らえていた。
 シュナイゼルの計らいか、中々に洒落た屋敷だった。皇族が住むにしては些か貧相ではあるが、普通の大富豪からしたら贅沢すぎるほどの邸宅である。周りは木々に囲まれていて周囲に人家はない。
 
 まだ近付きすぎはしない。
 完全ではないものの、TASセンサーは配備されている。故に接近し過ぎず状況を伺う。
 そして轟音。やかましい爆発音がマーリンに届く。

「始まったか」

 レナードがそう呟いた。
 この音、アースガルズが攻撃を始めたのだろう。
 するとどうだろう。屋敷の周囲にある木々……正確には木々がある大地が割れると中からKMFが飛び出してくる。どれもがヴィンセント・ウォード以上の第七世代KMF。成る程、それなりにシュナイゼルにとってナナリーは重用な存在だったということか。

 この奇襲は恐らくシュナイゼルにとってもイレギュラーだろう。
 なにせアリスとダルクからの報告が初めてのナナリーについての情報だったのである。シュナイゼルの隠蔽はほぼ完璧だった。ただしアースガルズに対しては。
 
 レナードはアリスとダルクというのはデータでしか知らない。
 顔は写真で拝見した事があるが――――――将来は中々の美女になるだろう―――――――話したことは一度もない。故に彼女達を信用している訳ではない。
 だが彼女達の仲間であるサンチアとルクレティアは戦友として信頼している。だからこの報告も信用した。
 その内ルクレティアは自分に好意を抱いているようだが、その辺りはもしブリタニアを取り戻す事が出来たのならば考えるとする。今は恋愛に呆けている場合じゃない。"遊び"なら兎も角として恋愛なんてしている暇はない。といっても自分がルクレティアの思いに正しく応える事は不可能だろう。なにせレナード自身ルクレティアを性欲の対象として見る事が出来ても、恋愛対象としては見る事が出来ないのだから。良くて側室、悪くて愛人だろう。
 
 ちなみに言えば、彼は貴族なので一人の女性を生涯愛することを美徳とする考えがそもそも存在しない。民主主義国家の人間は首を傾げるかもしれないが、文化の違いというのはそういうものだ。全く同一の文化など、それこそ同じ国内の中くらいにしか存在しない。そもそも専制国家の人間に民主国家の文化で物を図るほうが間違いだろう。

「いや、そんな事はどうでもいい」

 状況を確認する。
 どうやら、かなりの部隊がアースガルズの迎撃へと向かったようだ。
 そろそろ屋敷にも動きがあるだろう。
 此処に居る監視の兵士達はそれなりの練度があるようだが相手が悪い。
 アースガルズは一隻で小国一つを落とせるほどの戦力を内包した最強の戦艦だ。
 ちょっとばかし練度のあるKMF部隊など蟻の群れにも等しい。

「ナナリー、か」

 思い出す。
 嘗て想いに応えられなかった少女を。
 思い起こせば自分は女の為に戦った事が一度たりともなかった。
 六年前に恋焦がれた女性は自分の目の前であっさり死んだし、欧州戦線で出会った女は、自らの手で殺害した。命令だからと、軍人だからと、女と言うものを置き去りにしてきた自分に漸く廻ってきた戦いだ。精々、気張るとしよう。

「時間だな」

 そろそろ良いだろう。
 マーリンの奇襲を察知されないように、アースガルズにはキューエルが搭乗しているヴィンセントを改造した見た目だけはマーリンのKMFがある。
 敵の目がアースガルズに向けられているその隙を付く。戦力は出払った。今こそが好機。
 
 瞬間、予め予定していた通りに合図の通信が入った。
 これを待っていたのだ。
 幾らマーリンで突っ込んだ所でナナリーを人質にとられては意味が無い。
 故に潜入しているギアスユーザー二人がナナリーの身柄を確保してからでなければ突撃出来なかった。そして今、ナナリーの身柄を確保したと、合図された。ならレナードが執るべき行動は一つのみ。

「レナード・エニアグラム、出撃する」



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