―――コード。
ギアス能力者はその能力が高まった果てに、コード保持者からコードを受け継ぐ事が出来るようになる。そしてコード保持者は死ぬ事は無い。何故か? 根源の渦から流れ出た無数の塵は、やがて同じように根源へと戻っていく。だがコード保持者は戻る事が出来ない。死という概念をコードと言う名の堤防で覆ってしまったがゆえに。
しかし不死はコードの本質ではない。真の活用法はもっと、別にあるのではないだろうか。





 ルルーシュとレナードは、ゼロにより何処とも知れぬ一室に監禁されていた。
 といっても部屋は別である。
 ルルーシュに与えられたのは、それなりに上等な部屋で、もしこんな状況でなかったら日頃の疲れを癒すために寛いだでいただろう。無論、部屋から出る事は許されないし、ルームサービスなんて気の利いた物も用意されていないが。

「俺が、せめてC.C.程度には運動能力があれば…………」

 あの時。
 ゼロとナナリーにリディ・ルクレールがルルーシュ・ヴィ・ブリタニアとばれてしまった。頭脳面なら兎も角運動神経はからっきしのルルーシュだ。十秒も経たない内にゼロに取り押さえられ、レナードも捕らえられてしまった。
 あいつ一人ならば逃げられただろうが、自分という主君が捕まっている状態では逃げられなかった。

 ルルーシュが頭を捻っていると、扉が唐突に開いた。
 入ってきたのは黒衣の男、ゼロ。

『指紋称号、DNA、声紋、全てが皇帝ルルーシュと一致した』

「そうか? それで俺をどうする気だ。ゼロ」

 さて、どうでるか。
 せめて仮面がなければギアスを……無駄か。自分のギアスのことは間違いなく知られている。その詳細に到るまで。
 それにカレンにギアスが効かなかった以上、平行世界の自分であろうと一度掛けた相手に二度とギアスは使用出来ないのだろう。
 
 だが、ゼロのとった行動は意外なものだった。
 ゼロは仮面に手をやると、手馴れた動作でそれを取る。

「お前は…………スザク!」

 だが、仮面の下の素顔は、更に俺を驚かせるには十分すぎるようだった。
 枢木スザク。ユーファミアの騎士にして、日本で知り合った親友。

「久し振りだよ、捨て去った名前で呼ばれるのは。
話してもらうよ、何故君が生きているかを……」


 世界は可能性の数だけ、無限に存在する。
 だから何が起こっても可笑しくはないと思っていた。
 けど真実は自分の予想を遥かに超えているものなのだと、漸く俺は知った。

「信じられないな……」

「事実だよ」

 この世界の枢木スザクから聞かされた真実。
 それは余りにも認められないもので、悲惨なものだった。

 ゼロは俺だった。
 ゼロレクイエムによってスザクがそれを受け継ぐまで、ずっと。
 つまりユフィに虐殺命令を出させて殺したのも、シャーリーを殺したのも、全て俺自身がやってきた事だった。
 もしレナードなら、この世界の俺がやった事であって俺自身には関係ない。そう言うのかも知れない。それでも"俺"がやった事には代わりないのだ。

「それにしてもゼロレクイエム、か」

 悪逆皇帝ルルーシュが世界を征服し、全世界の憎しみを一身に集めた後、英雄ゼロがそれを殺す。それにより各国を交渉と言う一つのテーブルへと座らせる計画、か。

(あいつなら、世界征服したなら酒池肉林でも築こうぜ、とでも言うかもしれんな)

 その光景が簡単に想像出来てしまうから困る。
 ちなみに、あいつとは勿論レナードのことだ。

「着いたよ」

 スザクが扉の前で停止する。
 俺の閉じ込められていた場所とは随分と違う。無骨な鉄扉。中にいる者を決して逃さぬ牢獄。
 スザクが中へと入るのを見て、俺も慌てて従う。すると。

「レナードッ!」

「…………その声は、ルルーシュか?」

 自分と違ったのは部屋だけじゃなかった。
 レナードは全身を縛られ、自分の意思では足一つ満足に動かせないほど拘束されている。また目には目隠し用と思われる白い布のようなもので塞がれており、唯一自由に動かせるのは口だけといってよかった。

「最初は普通の牢屋に入れてたんだけどね。
次の日には脱走。警備用の無頼を強奪して、月下五機、無頼十機、暁四機が破壊された挙句、最後は基地司令を人質に脅迫をするものだから、流石に普通の対応をする訳にはいかなくなったんだよ」

「相変わらずだな、お前は。
しかしどうやって捕まえたんだ?」

「僕が出たよ。幾ら腕が良くても第四世代型の無頼。
第十世代KMFには到底敵わないから」

「パイロットの選定基準を高くしたほうがいいんじゃないか?
あんな、ひよっこ共より士官候補生のほうがよっぽどマシな動きをする」

 レナードが嫌味ったらしく言った。
 ただ、こいつも押しも押されぬナイトオブワン。KMFのプロフェッショナルだ。言ってる事は恐らく正しいのだろう。

「ゼロはあくまで記号であって独裁者ではない。日本の政治に口を挟む権限はないよ」

「それはそれは…………っておい。この声、まさか……!」

 スザクがレナードの目隠しをとった。
 露になる瞳が、ゼロの衣装を着込んだスザクを凝視していた。

「お互い情報を交換し合う必要がありそうだね。
手始めに、レナード・エニアグラム。君は誰、なんだい?」



「間に合って何よりです。」

 アースガルズの格納庫。
 主任は薄く微笑んだ。
 先程未確認の大量破壊兵器を放った漆黒の機体の名を、マーリン・アンブロジウスという。
 伝説的な魔法使いの名を完全に模倣したその機体は、かねてよりカムランと特派が開発しており、つい一週間前漸く完成した機体だ。
 
 本来ならルルーシュとレナード以外に、どう命じられようと専用機たるマーリンを譲る、なんて事をしない主任がマリアンヌへマーリンを譲ったのは、既にそれ以上の専用機が完成していたからに他ならない。

 そしてその機体を、主任はアイスランドの遺跡から此処に来る際に必ず立ち寄るであろう場所へと置いておいた。いつでも起動出来る状態で。

 結果はご覧の通り。
 漆黒の魔人は、深紅の羽を広げて戦場へと降臨した。

「だけどマーリン・アンブロジウスの複座式のコックピットが役立ったわね」

 マーリン・アンブロジウスは、余りにも複雑過ぎるシステムを搭載しているため、幾らレナード・エニアグラムであっても一人で操縦する事は困難だ。故にKMFとしては非常に珍しい複座式を採用していたのだが、それが結果的に一緒に行方を晦ませたルルーシュと同乗することを可能としたのだから、世の中どこがどう役に立つか分からない。

「健闘をお祈りします、閣下。
ご安心を。その機体は自信作ですから」

 新たなるマーリンは、全ての性能においてランスロット・アルビオンや紅蓮聖天八極式を上回ると確信している。
 なんといってもマーリン・アンブロジウスはランスロットと紅蓮と同じ第九世代ではなく、第十世代なのだから。だが…………。

「それでも、ゼロのガウェインに勝てるかどうか。
恐らくあれは、本当の意味で完成された第十世代KMF。
擬似的な意味での第十世代であるマーリンでは、難しい相手かもしれない」




「急ぎ、陣形を整えろッ!」

 ガウェインのコックピットで、ゼロはマシンガンの如き指示を飛ばしていた。
 なにもかもがイレギュラーだ。まさか最後の最後になって、あの二人が舞い戻るとは。どうやって異なる可能性世界から帰還したのか、あの兵器は一体なんなのか。それ等全ての思考をゼロは放棄した。

『ゼロ! 一体どうすればいいんだ!』

『あんな機体聞いてないぞ!』

『ゼロ様。あれはナイトオブツーのマーリン。
二人はいないのではなかったのですか!?』

『もし、あれがもう一発撃たれたら……』

『い、いやだ! こんな危険なの……なんだよ。相手は戦艦一隻じゃなかっったのか?』

 まったく、あんな訳の分からない兵器が出てきたのだ。混乱するなとは言わないが、完全に我を失うとは……。嘗て率いた者達は、どのような状況であろうと貪欲に勝機を探していたというのに。

(感傷か。私らしくもない……)

 下らぬ思考を放棄する。
 幸いにして、自分には混乱を沈めるだけの力がある。

「慌てるなッ! 未だこちらの戦力は三万! 敵は僅か千人足らず。我々の優位は動かない!
安心しろ。私に従えば勝たせてやる」
 
 最初は滾る様に。最後はあやす様に。
 直ぐに超常の力がの影響か、自分の言葉が末端の兵士にまで伝染していく。
 よし。これで彼等は死をも恐れぬ兵士となった。

「藤堂。お前は五、七、十四、十八、三十、三十三の部隊を纏め右翼より攻撃を仕掛けろ。
そこを切り崩せば、アースガルズの戦力は分断される。
最後に私自らあの黒い機体を沈めれば、こちらの勝利だ」

 あの一発で二万の兵士を飲み込んだ弾頭が、あの黒い機体から放たれたのは間違いない。
 となると問題は、あれは一体何発あるのか、ということだ。
 一発なら問題はない。このまま押し切ればいいだけだ。が、二発三発、最悪無数にあるというのならば、より慎重に動かなければ成らない。どちらにせよ、撤退するというのは論外だ。

『その事なのだが……』

 藤堂が言い難そうに発言した。

「どうした?」

『この動き。敵は撤退しているのではないか?』

「!」

 モニターを確認する。
 アースガルズ周囲のKMFが、邪魔になるこちらのKMFを蹴散らし後退している。
 それをあの黒い機体やラウンズ達が援護していた。

「馬鹿な。此処で逃げてなんになる?
背を向けた敵ほど倒し易いものもないというのに。援軍の宛てがある。
違う。アイスランド総督府はこちらが完全に抑えてある。中華連邦は漸く国内が治まったばかり。
ならば誘い? あの兵器を確実に当てるための。少なくともこちらを一方的に殲滅できるだけの弾頭は持っていない。そこは恐らく確実だ」

 もしあの弾頭が無数にあるのならば、余計な策を弄したりする必要などない。
 ただただ、連射するだけ。それだけで我が軍は壊滅するだろう。
 それをしない、というのはあの弾頭は最悪でも三発。もしかしたら残弾0というのも有り得る。
 なら奴等の目的は……。

 そこで気付いた。
 モニターに映る周辺の地図。地形。進路。
 その全てがゼロに一つの答えを示していた。

「全軍! 急ぎアースガルズへ突撃を仕掛けろ!」

『どうしたんだ、ゼロ?』

「やられた……ルルーシュ、レナード。最初からこれが狙いかッ!
アイスランドの遺跡にいた時点で推測出来たろうに!」

 黒の騎士団全軍が形振り構わず突撃していく。
 しかし全ては遅かった。
 赤い、ギアスのヒカリがアースガルズを覆っていく。幸い突撃したKMFの中の何機かが、共にヒカリへ飲まれているが、あの程度の数では……。
 発動していく。そう、これは神根島での。

「思考エレベーター、移動する場所は、考えるまでもないか」

 突如として消失したアースガルズとその旗下のKMFたち。
 続いて起こる大爆発。あの分ではアイスランドの遺跡は木っ端微塵だろう。この地にある思考エレベーターはもう使えまい。
 混乱する自軍を呆然と眺め、無気力な脱力感に襲われて背を預けた。



 帝都ペンドラゴン。
 世界の中心といっていいその場所。
 その中でも、許可なき者が入れば問答無用で銃殺される聖域。皇族に名を連ねる者達が住まう地。その更なる中心。皇帝が全ての決済を執り行うペンドラゴン宮廷上空。
 有り得ては成らぬ神界が降臨した。

「なっ! あれってアースガルズ! 如何して此処に!」

「ゼロがアイスランドで追い詰めたんじゃなかっったのか」

「それに一緒に飛んでいるKMF。
あれってナイトオブツー、ナイトオブシックス、ナイトオブテン、ナイトオブトゥエルプ。なんだよ。ラウンズの博覧会か」

 皇族、大貴族、高級軍人、政治家。
 その全てが夜空に溶け込みながらも、その威容を誇示するアースガルズに目を奪われる。
 
「長かった……」

 マーリン・アンブロジウスのコックピット。
 レナードは厳かに呟いた。

「逆賊の汚名を着せられ、国を追われてより約一年。
積み重ねた地位は、主君殺しの汚名で奪われ、汚された」

「それも終わる。この時から。
都合が良い物だ。ゼロは遠く離れたアイスランド。
シュナイゼルは日本。邪魔者は全ていない」

「「だから」」

 合衆国ブリタニア。
 その穢れた名を破壊する時がきたのだ。





【ガウェイン・ロイヤリティー】
搭乗者:二代目ゼロ
形式番号:CG-000
分類:第十世代KMF
製造:超合衆国
生産形態:ゼロ専用機
全高:7m
全備重量 13t
推進機関:ランドスピナー
関:エナジーウィング
『特殊装備』
絶対守護領域
情報解析システム
高性能AI
『武装』
エクスカリバー×1

≪詳細≫
二代目ゼロが、ラクシャータやブリタニアの技術者全てを投入して製造させた彼の専用機である。
関には特派の技術士官セシルが考案したエナジーウィングを採用しており、作中でも最高のスピードがある。またラクシャータの開発した絶対守護領域はモルドレッドのシュタルクハドロンを始めとして、エクスカリバーを除いた現行のあらゆる兵器をストップする防御力があり、かつこの機体唯一の武装たるエクスカリバーには、どのような防御すら突破する破壊力を秘めている。
上記のことで理解してくれたとは思うが、正に史上最強の機体。
エナジーウィングのスピード、絶対守護領域の鉄壁さにより、半ば強制的に近接戦闘にならざるをえなくなってしまう。そしてゼロと近接戦闘で同等の力を持つパイロットは存在しない。
第十世代型は性能だけではなく、高性能の電脳戦能力を主眼におかれているので、AIによる自動制御でパイロットに卓越した情報処理能力がなくても扱える、第十世代型KMF唯一の完成形。


【パーシヴァル・クライレント】
搭乗者:ルキアーノ・ブラッドリー
形式番号:RZA-10JA
分類:ナイトオブラウンズ専用KMF
製造:アースガルズ
生産形態:ナイトオブテン専用機
全高:5.5m
全備重量 9.14t
推進機関:ランドスピナー
関:エナジーウィング
『武装』
4連クロー
ミサイルシールド
ハドロン砲×2
スラッシュハーケン×3
≪詳細≫
元々第八世代相当のKMFであるパーシヴァルに、突貫工事で無理矢理エナジーウィングを追加した機体。ただ余りに強引に搭載してしまった為、操縦性が著しく悪くなっている。故にラウンズでも扱える者は限られている。
エナジーウィングによるスピードと元々の異常までの突破力が合わさり、かなり凶悪な機体と化しているが、やはり突貫工事による間に合わせなので、ランスロット・アルビオンと比べると性能はやや下。


【マーリン・アンブロジウス】
搭乗者:レナード・エニアグラム
形式番号:RZA-000LC
分類:第十世代型KMF
製造:アースガルズ
生産形態:ナイトオブワン専用機
全高:7.7m
全備重量 9.99t
推進機関:ランドスピナー
関:エナジーウィング
『特殊装備』
ブレイズルミナス
ドルイドシステム
超強化型ファクトスフィアU
TAS(Transparent armor system)
『武装』
内蔵式対人機銃×1
MVS×2
スラッシュハーケン×8
スーパーヴァリス×1
スナイプハドロンU×1
フレイヤ×0

≪詳細≫
ナイトオブワン、レナード・エニアグラム卿の為にカムランと特派が共同開発したKMF。
世代的には第十世代であるが、一人では第九世代と同じ性能しか発揮出来ないので、謂わば第十世代の試作型とでもいうべき存在。
嘗てのマーリンは狙撃能力以外はヴィンセントと殆ど変わらぬ性能であったが、本機はエナジーウィングによる圧倒的スピード、スーパーヴァリスによる圧倒的火力を備えている。他TAS、ドルイドシステムなどアースガルズが有する最新技術の殆どが使われているといっていい。
また従来の狙撃性能も遥かに強化されており、最大射程距離はなんと100km。
ただ余りにも武装を詰め込みすぎたせいで、完全に性能を発揮させる為に初期のガウェインと同じように複座型のコックピットが採用されている。余談だが平行世界から極秘裏に持ち込んだフレイヤは一発。既に使ってしまった為、フレイヤはもう使用不可能。



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