とある魔術の未元物質
SCHOOL133 ロシアへ


―――あらゆる宗教は道徳をその前提とする。
宗教は道徳的意味でも重要だ。人は宗教を知る事で道徳を知る。
隣人を愛せよ、などというのは最もポピュラーな道徳だろう。
だが稀に道徳や博愛のベクトルが捻じ曲がった者がいる。











 ロシア軍には正式要員がゼロの空白の部隊が存在する。
 プライベーティア――――――軍隊経験者から、暴れたい者をネットで募集されて組織される一種の傭兵。 軍規に縛られず、短期で稼げるので一定の人気があるが、それ以上に傭兵の質こそがこの組織の問題点だ。プライベーティアに参加した兵士達が何か問題を起こしても書類上では政治犯収容所に送られることになっているが、 実際には自分達の祖国に帰らされているだけで特に処罰が与えられることもない。それを知っているからこそプライベーティアに参加する者は絶えないし、捕虜殺害や虐殺などの蛮行も平然と行う。
 彼らの共通点は「一方的に人殺しをしたい」のただ一点のみであり、祖国を守りたいだとか、民衆を守るだとかいう崇高な義務感のようなものは一切もってはいないのだ。
 最低最悪の軍隊。そんな言葉がピッタリと当て嵌まる。
 ロシアの大地の上を飛ぶこの輸送機には、そんなプライベーティアに応募した軍人崩れのゴロツキ達が来たるべき殺戮を夢想しながら戦場へと運ばれていた。
 
「なぁ、指揮官さんよ」

 元軍人にしては微かな雅のある男が、プライベーティアの指揮官に声を掛けた。
 幾ら最低最悪の軍隊といっても指揮官が居なければ軍隊というものは軍隊として機能しない。プライベーティアにも指揮官の役割を担う者は当然ながら存在した。

「どうした? なにか質問かね?」

「興味心さ。俺達のようなゴロツキを集めて何処と戦争するつもりだ? 学園都市? それともイギリス?」

「そうだな。それもあるが……隣国のエリザリーナ独立国同盟も含まれるだろうな」

「ほう」

「あの国はロシアにとって目の上のたんこぶ。喉元に刺さった針のような国だ。イギリスや学園都市を潰すついでにエリザリーナ独立国同盟を併合しようと考えるだろうよ、お偉いさん方はな」

「ぎゃはははははははっは! あの国って国家元首だかが女なんだろう? 写真で見たけど結構な美人だったぜェーーーーー! 滅茶苦茶細ェけどよォ! ついでに俺のアレで貫通しちまうのも悪くねェよなァ!」

 指揮官との会話を聞いていたプライベーティアの男が下品に笑うと、他の者もそれに続いた。 
 しかし彼等は気付いていない。その言葉は彼等の死刑執行にGOサインを押してしまうものであってことを。

「そうかよ。――――――――じゃあ、死んでもいいな?」

「は? なに、を――――――――」

 指揮官の男は何が起きたのかも分からない内に、身体の縦半分を消し飛ばされていた。そしてそのままの表情でドサッと倒れる。

「戦争はイイ。遠慮する必要がねえもんな」

 ギロリと男は――――――垣根帝督は輸送機に乗っていたプライベーティア達を睨んだ。

「う、うぉおおおわああああああああああああ!! テメエ、何者なんだよ畜生ォ!」

「垣根帝督だ」

 プライベーティアの輸送機が真っ二つに裂ける。これから大好きな戦場で好き勝手に殺しを楽しむ予定だった兵士達がバラバラと輸送機から振り落とされていく。
 そんな中、白翼を羽ばたかせた垣根だけが平然としていた。
 『未元物質(ダークマター)』を操る事で真っ二つになった輸送機を『掌握』すると、そのままプライベーティアの基地目掛けて放り投げた。
 基地にいた者達は一瞬目を疑っただろう。自分達の頭上に突然縦半分がない輸送機が落ちてきたのだから。

「能力を制限する必要がねえっていうのは良いよな。学園都市で糞共に使われてた時は出来る限り目立たねえように気を遣う必要があったからよ。俺の能力は派手だし、少し本気を出すと街がなくなっちまうんだよな」

 誰に言うでもなく呟やく。
 そして白翼を羽ばたかせ、突然の災難に混乱している基地へと突撃していった。
 逸早く垣根の存在に気付いた基地の兵士達が半狂乱になりながら銃を乱射してくるが、その全てを『未元物質』と魔術を駆使して叩き落としていく。
 兵士達の奮闘など無意味。
 学園都市の科学力をもってしても殺し切れぬ怪物を、たかがロシア軍の兵器如きが殺せる筈がない。
 
「うわぁああああああああ! 化け物だ、化け物が来たぞぉおおおおおおおおお!」

「畜生が、どうなってんだ! 俺達の相手は独立国同盟の雑魚共じゃねえのかぁあああああああああああああああああ!?」

 逃げ惑う兵士達に容赦なく垣根は烈風攻撃を浴びせる。
 本来、垣根帝督は自分の障害に成り得ない弱者は見逃す――――妙な度量のある男の筈だった。だが、そのタガは外れている。
 相手がプライベーティアという腐った連中ということもあるだろう。だがそれ以上にインデックスがいないというのが大きい。インデックスという少女は、変な話だが垣根帝督にとって『首輪』なのだ。
 傍にいる限り垣根帝督という怪物をギリギリで光の側に引き留めることが出来る。ただその少女はフィアンマによって覚めない眠りにつかされている。その事が垣根のタガを外していた。

「俺からのレッスン第一、完全犯罪のやり方。痕跡すら丸ごと消滅させりゃ、誰が犯人なのか暴きようもねえ。要はミサイルか何かで全部消滅させりゃいいんだよ。こんな風にな」

 超能力と魔術の融合―――――言うなれば超魔術とでもいうべきものが、垣根の掌で生まれる。赤とも黒とも判別のできない野球ボールサイズのエネルギーの塊が垣根の手から放たれる。
 野球ボールのようなエネルギーは垣根の制御を離れた途端、巨岩の如き大きさへと変わった。
 何もかもが消滅していく。人間が、兵器が、基地が。そこに基地があったという存在の痕跡を消滅させていった。
 全てがなくなった平野で一人、垣根が頭をポリポリと掻く

「まぁ、エリザリーナへの手土産にはなったのか? コレで」

 しかし幾ら雑魚を殺しても仕方ない。
 サーシャ・クロイッツェフ。フィアンマは彼女を目的にしているという。
 なんとしてもフィアンマより早くサーシャを抑えなくてはならない。
 
「ワシリーサとメルアドを交換してたのが変な所で役に立ちやがった。本当、どうかしてるぜ」
 
 ワシリーサの話によると、サーシャはエリザリーナ独立国同盟に匿われていると言う。
 どうやら自分の旅は奇妙な縁を生み出していたようだ。




後書き

久しぶりに垣根が登場しました。次はエリザリーナ登場するかも。
しかし一度引っ越しするとにじファンで見てた人が今も見てくれているかどうか不安になったりします。



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