ギルバート・デュランダルのパナマ奇襲作戦で中破したストライクは月基地にて改修が施されていた。
 単に元の状態に戻すというのではなく、元の状態以上の力を持たせたことを鑑みれば改修よりも改造の方が正しいかもしれない。
 搭乗者であるミュラーの意見を採用しビームライフルのみならずアグニなどもカートリッジ式へと仕様変更された。また装甲もPS装甲からTPS装甲へ変更。これによりストライクの一番の弱点であった『エネルギー消費の多さ』は大幅に改善されることとなった。
 そしてもう一つストライクに新たなるパックが二つほど採用された。それがメビウス・ゼロなどのガンバレルをストライカーパックに改造したガンバレルパック、もう一つがエール、ランチャー・ソードの全パックの機能を併せ持つマルチプルアサルトストライカーパックである。
 このパックにはプラントの工学畑出身であるキャリーの技術力も大いに反映されており、またパナマで奪取したザフトの最新鋭機ゲイツのデータも一部流用されていて、連合軍の力を示す機体でありながら連合・ザフト・オーブの三つの技術が同梱した稀有なMSとなっていた。
 オーブの空を赤いエールで駆けるミュラーはマルチプルアサルトストライカーを装備したストライク――――パーフェクト・ストライクの調子を確かめながらMSを動かしていた。

(……エールストライカーに大気圏航空能力を与えたのは正解だったな。前よりずっと自由に動ける。おまけにパーフェクト・ストライク、三つのストライカーパックを換装したから総エネルギー量も増えている。これは良いMSだ)

 キャリーの仕事ぶりに顔を綻ばせると、オーブの地に降り立つ。
 パーフェクト・ストライクにとっての初陣がこのような戦いになってしまったのは残念だが、文句を言うよりも体を動かさねばならない。それと口も。
 ミュラーはアーク・エンジェルに通信回線を開いた。

「イアン、手筈通りオーブの軍施設をとにかく攻撃しろ。出来る限りMSの格納庫を狙えよ。……ただし民間施設には手を出すな。私も面倒な汚名を着たくはない」

『了解です』

 これでアーク・エンジェルは問題ないだろう。イアンなら後はなんとかしてくれるはずだ。MS運用でさえ面倒だというのに、アーク・エンジェルのことまでは面倒みきれない。
 厄介事は出来る限り部下に押し付けてしまうのがハンス・ミュラーという男のスタンスだった。

「さて、作戦開始だ。いくぞ三人とも!」

『はっ!』

 105ダガーと二機のロング・ダガーがストライクに続く。
 この奇襲作戦の肝は戦争の早期終結、ひいてはそのために敵の本丸を一気に落とすことが肝要となる。
 ここでいう敵の本丸というのは二つ。オーブ軍全体の指揮をとっている総司令部とオーブ首長の集まる議会だ。政治の頭と軍部の頭。この二つを抑えてしまえばオーブの動きを止めることができる。
 ミュラーたちは手筈通り総司令部を落とす係と議会を落とす係に別れた。
 総司令部へはフラガとナイン、議会へはミュラーとキャリーだ。階級と実力などを鑑みて決めたベストな人選だとミュラーは自負している。

『そこまでだ! ヤキンの悪魔ッ!』

『オーブはやらせんぞ!』

 ストライクの行く先を遮るようにオーブのMSが立ち塞がった。
 データで閲覧した情報によればオーブのMSの名前はM1アストレイ。カタログスペックならストライクには及ばないまでもダガー以上の性能をもつという。
 ビームサーベル、ビームライフル、シールドを標準装備しているのは単純故に強い。だがオーブ一国の技術力でこれほどのMSを作れるとも思えない。もしかしたらヘリオポリスでのプロジェクトG、あれに使われた連合の技術を一部盗み取っていたのかもしれない。
 M1アストレイ――――王道ではない、というネーミングも実に皮肉が効いている。
 だがどうでもいいことだ。

「悪いが、押し通る!」

 如何に性能がかろうとザフトの歴戦のパイロットたちと比べれば動きは緩慢だ。はっきりいって遅い。
 これまでザフトのエースたちと渡り歩いてきたミュラーとストライクの敵ではない。
 M1アストレイは全ての武装を器用に対艦刀シュベルトゲベールで破壊すると、そのままM1は置き去りに先へと進む。
 戦いが戦いなので気分はポリスマン。殺しではなく無力化を念頭に戦う。
 ストライクの進撃を止めるべく死角となった場所からM1アストレイが躍り出るが、

『……すまない』

 ミュラーが撃ち落とすよりも早く、キャリーのロング・ダガーが四肢を切断して無力化していた。
 自分たぎが征服者であり侵略者であることを誰よりも自覚しているキャリーは、敵を倒したというのにこちらが倒されたような苦渋に満ちていた。

(オーブ軍はただでさえ数が少ない。だからその戦力の大半は攻めてきた連合軍本体へ掛かりきりになっていて、肝心の中身の防衛戦力は疎かになっている。今が好機だ――――!)

 既にストライクのメインカメラはオーブの議会を捉えていた。
 議会の中から一際大きい獅子の如きプレッシャーを感じる。あれこそがオーブの獅子と渾名されるウズミ・ナラ・アスハで間違いないだろう。

『させるかぁぁぁあああああああ!!』

 だが流石に議会の周りだけあって、防御網は厚い。四方八方からM1アストレイが襲い掛かってくる。
 けれど議会に流れ弾が飛ぶことを警戒して、ビームライフルを撃っては来ない。これはミュラーにとっても好都合だった。
 
「峰打ちに留めようと思ったが、面倒だ。ここは切り捨て御免!」

 敵がビームサーベルしか使わないと言うのなら、こちらは容赦なくビームを使わせて貰う。
 ミュラーの正確な射撃はM1アストレイが近付くよりも早くコックピットを貫いた。ダイレクトでコックピットを貫くため爆発はしない。議会への被害もゼロだ。
 
「キャリー、援護任せる」

 そして包囲網の一角を突破するとエールのバーニアを最大に吹かせて地面を滑る。
 実のところチェックはかけている。ここでビームの一発でも撃てばアスハ前代表を殺害するのは簡単だ。だが相手はオーブの獅子と言われたほど豪胆な人物である。 
 あまりオーブ国民から恨みを買いたくないので首長殺しになるのは御免。かといって生け捕りも困難。画面越しでしか見た事ないがアスハ代表というのは銃を突きつけられたら両手を上げるのではなく、逆に銃に喰らいつくタイプ。
 ならば――――

「そら!」

 議会を視界に捉えると、そこの窓へ指を突っ込む。そしてストライクの指から暴徒鎮圧用の催眠ガスを発射した。
 中にいた首長たちは一瞬驚いたような顔をしていたが、最新の催眠ガスの前に為す術もなく一人また一人と意識を失っていった。
 さらにミュラーがこれ見よがしにビームライフルの銃口を首長たちに向けると、M1アストレイたちは一斉に動くのを止めた。



 ミュラーから議会制圧の連絡が届いたころ、ナインは軍司令部へと辿りつく直前だった。
 ソキウスシリーズの一体であるナインにはナチュラルに危害を加えられないという精神ブロックがかかっている。その制限をナチュラルを守るためにナチュラルの抵抗力を一時的に奪うだけ、と言い聞かせることにより抑えつけているため、ナインは敵であろうとオーブ兵士を殺すことはできない。
 なのでキャリーから習った敵の武装だけを奪い戦闘不能に追い込むという戦い方でM1アストレイを『大破』させながら、遂に軍司令部の敷地内に辿り着く。
 そして――――本当に撃つことは出来ないが――――ビームライフルの銃口を司令部のビルへ向けた。
 
「こちらは地球連合軍第四十七独立部隊アークエンジェル所属、ナイン・ソキウス少尉です。既にホムラ代表、ウズミ前代表以下首長たちの身柄は拘束しました。これ以上、無駄な犠牲を出さない為にも投降を」

 教科書通りの降伏勧告をしてからナインは待つ。
 ナインが誰よりも信望する大佐のように人の感情を感じる能力はないのだが、それでも司令部の混乱は伝わってきた。恐らくは議会が抑えられたのが本当か情報を得ようとしているのだろう。
 やがて暫くするとナインのロング・ダガーにオーブ軍司令部から通信が入った。
 ナインはきっと降伏を受領する通信だろうと思い回線を開き、驚愕した。

『ナイン……! ナイン・ソキウスか、お前!』

「そ、んな……! 馬鹿、な」

 普段から無表情なナインだったが今度ばかりは驚きを露わにする。
 忘れるはずがない。獅子のような黄金の髪。髪と同じ金色の瞳。

「なんでカガリが、そんなところに……」

 思ってたよりも早い、そして余りにも予想外の再会だった。



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