第018話 サイレントメビウス編03 Titanic incident -chapter 2-


「あと…タイタニック号にこれたら後世でもわかってない謎を確かめたかったんですよ」

暖房の効いた前部大階段を下がりながらルイズが語りだす。
船長が起きる前の時間つぶしするようだ。

「謎?」

「私物関係以外でなんですが…後世でも断定できなくわかってない事です。
…まずは1つは判明しました」

「なにが判明?」

「タイタニックのマスト灯の数についてです。1つであったか、2つであったか…
残されてる設計図と生存者証言は食い違ってるんですよ。
それは解決して、マスト灯は2つ。この問題は妖魔に感謝はしてます。
学会に発表できそうですね」

と、Aデッキ階段室のソファーに座りながら画像を収めたデバイスをみせてくる。

「あとは衝突時や沈没時の話になるので少々長くなりますが……」

「謎っていったら聴きたいじゃないの…続けて」

「まずは正確な衝突時間です」

「えっ?あなたが話した23:40じゃないの?」

「実は生存した担当航海士が証言した船内時間は23:46なのですが、審問で23:40が採用されました」

「証言通りではないの?」

「まず、時間の話になりますが東側に船がいれば現地時間は早く、
西側にいれば現地時間は遅くなるのはまぁ大丈夫ですよね?」

「ええ…」

「それで現地時間の調整は当時は測量して現地を特定、それで船内時間を修正します。
測量が間違っていたら…スピードが間違っていたら…位置もずれて船内時間が間違っている事になります」

「なるほど…」

「それで他の船との無線のやりとりの記録なのですが、
この無線でニューヨークタイムが記録され、基準にもなり、
救難信号受信がNYT22:25、記録したマウント・テンプル号という船がいて、
カルパチアン号の時間になおすと現地時間12:15だそうです。
衝突から救難信号発信まで35分にはなりますが…ゆうちょすぎますよね…」

「避難決定判断にもう少し時間が短かった可能性があるの?」

「ま、そうですね。審問では遭難座標の無線から時間が23:40、つまり現地時間は船内時間より遅いと決定されました。

それと関連してもう1点の謎が加わります。
タイタニック号の船体は遭難信号の位置より東南東24km地点にあったのは何故か?ですね。

さっきのマウント・テンプル号が遭難信号の位置、北緯41.46西経50.14に来てもタイタニック号を発見できなく、
氷原の向こう側でカルパチア号が救助活動をしてると無線上で受信、
夜間の為に移動を断念し、朝方計測したところ西経50.09という計測がでました。

タイタニック号生き残り航海士とカルパチア号船長が遭難信号の座標は正しいと証言したのですが、
沈没船体は遭難信号座標の東南東24km地点に沈んでいる話です」

「つまり…衝突時間は23:50頃の可能性もあるわけね…」

「で、次に海底で発見されたタイタニック号はほぼ真北を向いていた謎もあります」

「北に船をむけていたから?」

「沈没前にその様な航路をとっていたら可能性ありますが、
東のイギリスから西のアメリカに向かって航行していて、タイタニック号が左旋回で右舷が氷山に衝突しましたよね?」

「ん〜たしかそうね」

「そうすると船首は南にむきます。北には向いてないので、沈没前にはに北には向きません」

「接触後に右旋回命令だしてなかった?」

「スクリューが後進しててもまだ船体は左旋回しつつ前にすすんでいました。
すぐには船は右には舵が効きません。
西向きに僅かに変わっただけでしょう…
それでエンジン停止命令で、停船しました」

「じゃあ…沈没で…では?」

「船首側は船体の形状を保ったままの軟着床だといわれてますので、方向が変わる程の衝撃や沈没の仕方はしてないはずです。
艦尾側は…艦内に残った空気や流入する海水で破壊されてになりますので着床に耐えられなかったようです」

「じゃあ北になるわけないわね。
あっ私からも質問していい?」

「はい。なんですか?」

「映画でジャックが手錠で拘束された警備員室は何処なの?」

「ジャックが拘束されたですか…まぁ…実際にいきましょう」

Eデッキに降り船首側3等エントランスへ向かう…すると、
「あら?…少し待って…何故パンツとシャツが?」

さっきは気がついてなかったが香津美が気がつき問いかけてくる。

「ああ、本来3等から1等へは人がたって入室制限をしています。
1等客やスタッフは通れるけど…ですね。ですがその彼も助かったのでしょう…
ですから、来てた制服は地上に、洗濯行きのシャツ、パンツが残された…ですね」

「そうなの…」

「で、この左の部屋が衛兵室で、拘束された警備員室と言われる部屋です。
中で寝てる筈なので入室はできませんが」

「この部屋だと…窓が無いけど…」

香津美らがたってるのはEデッキ階段を左、通路を左、区画分け扉を抜け左、すぐ左の部屋で、扉が面してるのは船首側3等エントランスになる。
船体の両舷からは中央部になる。

「ジャックが囚われている部屋が…警備員室としたらここなんですよ。
ただ窓から覗く事ができませんよね…
可能性としたら…」

衛兵室から左舷の3等通路を左に曲がって14m程右側の扉、
「この扉の奥が下士官諸室で可能性はあるのですが、中通路があり広い通路を右に逃げる描写にはなりません」

船尾側にすすんで次の扉は開け…

「こちらは下士官用の洗面所で左にトイレバスがあり、ちがいますよね」

「そうね…」

次の扉をあけると階段が左に下に続き、
「こちらはFデッキの雨具乾燥室に降りる階段ですので…」

次の扉は、
「この扉は中で使用中かもしれませんので、男性客室係用の洗面所とバスルームです。大便器が7の小が2、洗面器が14、バスが1ですね」

「違うけど、その便器はその数だけなの?」

「すべての客室係がここを使うわけでもなく、他にも何ヵ所かありますよ」

次の扉にすすむが開けずに、

「この部屋は寝てる人がいるかもなので開けませんが、
台所下働きと厨房プレート洗浄員の船室で、20名部屋です」

「そんなにベッドの数なかったわね」

次の扉も開けずに、

「この部屋はセカンドクラスの客室係の部屋で42名部屋になります」

「次の部屋こそは…」

「ここまで衛兵室から34mなので…
ここまでのいづれかが描写的には濃厚になります。
まずは浸水があって、部屋をでて通路を水位の少ない右に逃げる。
この上のDデッキ1等客室なら可能ですが…そこまで豪華ではなかったですよね?」

「ええ…」

「この下のFデッキ…だと…閉じ込められていた頃に前部凹甲板に水が流れ込んでいたので、
水面の高さから考えて大食堂の前の防水区画FからGの3等客室係船室や1等階段横の両舷区画になります。
まず客室係室はベッド数が多く、扉でて階段なのでちがうのと、
階段右舷側は防水扉Fに阻まれてるのと、水が深い方向にいかなければならないので違う。

左舷側は3部屋あるのですが、2部屋は階段中央に通路が向かってます、残る部屋は扉でて左に走りますからちがいますね」

「どっかには無いの?」

「残念ながら…あちらは創作なので齟齬があるのでしょう…」

「そう…物語…なんですね」

「まぁ……そうですね」

…………

未だ香津美の部屋で同化中のカオル…

たしかタイタニック号の場合はと記憶を呼び起こす。
サイレントメビウスcase Titanicは…

まずはタイタニックの実際の造りとゲームの造りとは異なることがマニュアルに記載されているのを思い出した。

当時、資料に関しても殆ど無かったらしく、そういう面では困難を極めた。
架空の、実際の…で齟齬してる場合があるのかもしれない。

それでストーリーとしては、主人公はタイタニックの研究家の男性大学研究員で、
沈没直前の状態で復活したタイタニック号船内を、
香津美・リキュールと選択したAMPのメンバーの3人で探索をする。

様々なルートを通るがフラグは、
船長の許可証をもらう、
ウェンズディ博士を探しだす、
そして博士の子供達の案内の元でキーとなるオルゴールをゲットした事で、
ボスたる妖魔の元へとたどり着く…

ボスは原作2026年レベルにあわせてカテゴリー2の妖魔で、
石像に封印されてて、現代に蘇る為にタイタニック号の亡霊達を利用した…

香津美も妖魔側に精神が囚われ、妖魔が復活しようとした時、
オルゴールが鳴り響く…ママに会いたい一心で…
妖魔の力が一瞬弱まり、その隙に香津美は抜け出し、その時点で復活した妖魔と対決、
勝つも今度は主人公体内に分体が寄生していて…

という事がゲーム版のネタバレだ。
あと他に雑魚妖魔が色々な箇所で襲ってくる。
乗客の殆どは魂が時に囚われておんな行動、発言をループし、
時に囚われてないのがウェンズディ博士、その娘と息子だけであった。

ただいくつか疑問点はある…

まず狭い室内でグラビトンぶっぱなして船体構造に被害を与えないのか?という点だ。
変化して襲ってきたカテゴリー3クラスの雑魚妖魔に対して…

香津美の魔法はグロスポリナーで強化される前、カテゴリー2相対程度威力なので、まだわかる。

グラビトンは車載兵器の12.7mmガトリングガンのGAU-19やクレネードランチャーの直撃にも怯みはするが耐えきりそこまでの、カテゴリー2以上の対妖魔用に開発された特殊銃で、
全長60cm、高さ32cmのサブマシンガンサイズの銃から、荷重力弾をぶちかます。
弾は高速でスピンする電荷を帯びた高軌銃弾帯で、極心的な潮汐力で重力震を発生させ目標を内部から粉砕。
標的の体内で歪震波を発生させ時空を不安定にさせて妖魔の空間跳躍を防ぐ高威力銃だ。

その間にグラビトンを次々撃ち込めばカテゴリー2の殺害も可能。

試作品の弾は10cmの装甲材を10枚貫いて11枚目に着弾、装甲材自体を捻らせていた。
この試作品状態は流石に連射には赤熱化しキディでもっても熱さに耐えきれなく、
更には反動もサイボーグボディのキディだから撃てるようなもんであり、
他人が撃てるクラスにまで威力は低下させたのが量産型グラビトンだ。
着弾点で擬似的なブラックホールを発生させ、上下1.5m程を削り取る。
連射性能は2秒で3発、装弾数は15発で、
バッテリーごと弾倉を変える形だ。

何が言いたいかと言うとバズーカーや迫撃砲を船内の室内目標に同室内でぶちかますようなもんと思ってもらいたい。
グラビトンを妖魔にくっつけて撃つと自身もダメージですめばよいもんであり、
タイタニックは室内の広さに関しては余裕があるが、
喫水線から上のFデッキが+0.7m、6階層上のボートデッキが+17.7mで、割っても2.8m。
室内高に関しては通常の建物同様、2.4m平均、間の構造材内に配管等もあり巨大なビル並み構造の中の室内だ。
人間サイズの雑魚妖魔にグラビトンぶっぱなしてそれが外れれば…壁面や床面や天板に命中…という事といえよう。

タイタニックは氷山と衝突して浸水が防げなく沈んだと世間は思っているかもしれない。
そうではない。装甲がやわい部分を接触し開いた穴は一ヶ所のみ、
他は押されて押し込まれてリベットが長い箇所外れた為である。

船首から正面衝突したら…氷山に乗り上げ、そこまでの大惨事にはならなかったとの研究結果がある。

タイタニックは船底には二重装甲、船首には衝突用に銅による船首が構成され、
更には防水区画で浸水を防ぐ構造をしていた。
正面衝突には強い構造をとっていたのだ。
当時の設計思想でも正面衝突は他船でも同様の想定である。

ただ側面に関しては…当時の鋼板技術は現在より粗悪で、
船体はその程度鋼板を骨組に貼り付けた船殻構造という造りで、
更には溶接ではなくリベットで結合されている。到底強度はない。
……側面を押される場合は想定はしてなかったといえる。

現在の数万〜十数万総トンの大型豪華客船でも、外板は厚さ2cm程度の高張力鋼の船殻構造。
質量数千〜数万トンの氷山がタイタニック同様の角度で当たれば、
船体質量と氷山質量とスピードのミックスで耐えきれず穴が空く可能性がある。
第二次世界大戦時の軍艦とは設計がまったく違うのである。

何が言いたいの?には、グラビトンを放ち、妖魔を外した弾が船体側面に突き刺さり保ってられますか?という点だ。

先のGAU-19やクレネードランチャーをタイタニックの側面側にあてたら…わかりきった事だろう…

あとはそれに伴い艦内突入時にはグロスポリナーの活躍の場も限られよう。
特に振りかぶりの上段からの打ち込みは剣身部分だけでも約2m、香津美の身長も160cm近くはある。足すと容易に3.5m超、天井にぶち当たろう。
つまり室内では横切り、または槍のように扱うせざるえなく…

残される戦力は主力的戦力はAMPブラスター…
拳銃サイズの対妖魔銃であり、ノーマルポリスの拳銃では1発では効かないカテゴリー3に、
命中すれば消滅させられる銃だ。標準状態では装弾数は5発。
カートリッジ式でシャワーブレット等にも変更できる。

ノーマルポリスは物騒な世の中…制式採用は無く各自で好みの拳銃を申請し、自己責任で支給される方式をとっている。
ただ通常拳銃弾ではカテゴリー3でも中々消滅はしない。
通常弾ではサブマシンガンクラスがほしいところである。

あと他に那魅の若水や護符、護身刀、白の虎刀、
キディの肉体攻撃になろう…

また香津美の行動もだが、ロイの存在を忘れている様な行動がみうけられる。
だがキスしてくれなきゃ、主人公は死亡エンドになっただろう…

更には明らかに妖魔に囚われていた数が乗客全員と思われる数…生存者含めてであり、
ボス妖魔の説明だと事故時の死者の亡霊の筈なのに…の矛盾もあった。

夜会のダンスパーティの場面で香津美と主人公は着飾ってでるが、大人の女性1等客の死者は4人だけであり、
1人は老婆、1人は50歳他に妙齢は2人しか死亡してなく、つまり男性同士で踊らざるえない。

つまり事故による死者だけでなく、生き延びた人々もその場に居合わせた為に、
魂がタイタニック号に囚われていたと言えよう。

…最後の生存者はリアルでは2009年に97歳で没しており…
陸地で人生を全うした死者も搭乗させた亡霊船という意味なら…ありかもしれない。

…………

「あ〜…予想外の自体になっている?」

「はい…」

タイタニック号の最後の朝は騒然としている状態であった。

船長の許可証、いわゆるオールマイティーエリアパスを求めようとして、
朝起きた船長へ突撃しようとボートデッキに向かったら、この騒ぎになっていた。

「船長に会わせてくれ!私の妻と娘が居ないんだ!」

「申し訳ございません!ただいま此方でも行方不明問題を認識してまして…
対応会議中です!!」

三等客であったなら…まだ問題無いと切り捨てたのかもしれないが、何れも権力のある実業家達である。
無下にはできないが多数がつめかけている状態で、相手にしては対策もすすまないだろう。

「朝にさくっと原因の場所に行けると思ってたのですが…」

「少し時間がかかりそうね…」

流石に特例の様な形で通行すると…なんだね君たちが通れて私らが通れないのはなぜだ!!と、
暴動が起きそうな雰囲気でもある。

「ところで、ルイズさん、航海士さんに貰った通行許可証って、何処までの権限あるんです?」

「あっ、そうですね…そこまでみてませんでした…えっと…」

この者を船員同等の通行権限をあたえる。ただし預かり物のある区画、
船倉等は除く。

とかれていた。
「……多分…ルノーがある船倉や私物を預かっているバッケージルーム等は除く区画は行けそうですね」

「じゃあ、とめられてた箇所行けそう?Eデッキのジャガイモ庫横の」

「そうですね。行きましょう。
あっ、そうだ…船員の階段をつかいましょう」

「船員の階段?」

「ボートデッキから下へは前部1等大階段と後部の2等階段の他に、2ルートあるのです。
ブリッジ横から降りて前部凸甲板から前部船員室区画に降りる船員用前甲板階段、
あと船体中央部の機関士室横からの船員階段があります。
客室係りでない制服姿のコックさんや機関士らが堂々と大階段は使ってなく、これらの船員用階段で上下します」

「そんな階段あるんですか」

「前のは…この騒ぎで使えそうにないので、こちらですね」

3番煙突後ろの…
〔お客様、そちらは船員区画ですが〕
1等と2等デッキの間の機関士区画柵をあけて煙突の方にいこうとして呼び止められた。
一番最初に遭遇した午前3時頃の者とは違っている。
〔これで通れる?〕

〔拝見します…あっどうぞ〕

〔ありがとう〕

3番煙突後ろのドアをあけて船の右舷から左舷方向へ降りる直階段…
折れ曲がらずに目的階層まで真っ直ぐの階段の事。を下ってく。
まず船員階段はAデッキに降りると食器棚
がならんでいる。
「ラウンジデッキパントリールームで裏方部屋ですね〜」

先程の直階段の左から右舷側に回り込むと、更に下る直階段がある。連続的直階段を下がり…
Bデッキは簡単な倉庫の様な形になっていた。
「えっと…設計図だと何にもない部屋の筈ですから…荷物置き場に利用してるのでしょうか?」

Cデッキは…
「メイドパントリールームですね。1等客室部の部屋への提供用の」

Dデッキまで連続的直階段で降りると…
「ファーストクラス食堂パントリーです」

見慣れない顔に食堂員が注視するが、上の階段から降りてきた以上、関係者なのだろうと、声はかけてはこない。
ボートデッキからの階段はここまでで、大食堂厨房内を移動し、セカンドクラスパントリーの左舷側に移動。
そこから船尾方向への直階段を下がり、Eデッキのジャガイモ庫横に出る。
直階段の踊り場がEデッキレベルだ。

検問は通路側なのでスルーできた。

直階段を更に降りFデッキは折り返し踊り場だけで…その造りだと厳密には屈折階段にはなるが…
更に降りてくとGデッキの倉庫区画にでる。降りてきた正面は船首方向にむく。
「この区画は食料庫が多いですね。まずは左手にアイスクリーム庫」
右側に機械が鎮座しているがまだ説明はしてない。

「裏手に氷庫があって」

「この右側のは?」

「アイスクリームマシンです。
それで…この通路を直進で…右側レストラン用の肉、鶏肉の冷蔵室、
次に魚、次の部屋がベーコンハム、
次の部屋が野菜、次の部屋がフルーツ、次の部屋がミルクとバター、次は氷庫…
いずれもレストラン用のですね。
突き当たりが梱包食料品類倉庫です」

次々説明してるがタービンエンジンルーム沿いに回って突き当たりまできた。

「戻って…階段からみて通路を右に曲がって…
右側の扉が手前側から卵、ミルクとバター、フルーツ、
左側が送迎用フルーツと花、ベーコンハムとチーズの各冷蔵庫です」

「さっきレストラン用のミルクとバターとかあったじゃない。それとは違うの?」

「こちらは作業する前の素の状態で保存され、あちらは出荷待ちの巨大冷蔵庫状態と言ったらよいでしょうか…
Dデッキのこの時代の調理場をみたからわかるでしょうけど、コークスをつかってますので大熱気で冷す箇所がすくないんですよ。
なのでアイス等は調理場を通過してパントリーで仕上げに入る形ですね。
ですので別の箇所に巨大冷蔵室が必要です」

「でも別の階層って…」

「あとは騒音ですね…やっぱり」

「ああ…そうね…」

「では先にいきます。通路を左まがって…野菜、解凍室で、解凍室内奥に魚、羊、鶏肉や猟肉の冷凍室があります。
この区画はここまでですね」

「由貴?」

「……この下のほうです」

「では戻りましょう」

この倉庫区画はこの階層の3等客室区画には直接いけない作りでドアもない。
先の階段の後ろ側に降りる階段があり…オーロップデッキ…日本語名最下層甲板へと…おり、

「まず左手がワインとスピリッツ貯蔵庫ですね。
で正面のは防水扉で常時はしまっていますが荷物用リフトになります。
上の階で説明忘れてましたね…倉庫区画からDデッキまでのリフトです」

ルイズらは右に曲がって…
「この左側はタバコ倉庫で、右側にドライフルーツ庫、シャンパン庫、乾き物庫とつづいて、
左側のこの扉はミネラルウォーター貯蔵庫です」

「海水からつくるのでは?」

「少し味は劣りますので…1等船客には味がなのでしょう…
で、次の左の扉がワーキングスペースの部屋で…」

正面の扉を開け中に入っていき、

「量が多いその他倉庫になりまして、右手奥にタバコ倉庫ですね。
左に曲がって…右側は鍵がかかってますね」

「なんの部屋?」

「冷凍貨物室で輸送中預かりの部屋になります。防水扉1区画がそのへやですね。
で、この左手が空瓶倉庫、その先が解凍室で解凍室の奥が牛肉冷凍庫になります」

「ここです!ここにあります!」

由貴が唐突に反応…

「よし…入るわよ」

香津美は手にブラスターもちながら入ると…

「あれで……す?」

片隅に高さ30cmも満たない異物、石像が鎮座している。

「えっと……これなの?今回の原因は」

「私の感じではびんびんなのですが…拍子抜けですね…」

部屋一杯にあると思えたのが、こんなちんまりとした石像…
流石に肩の力を抜いてしまったようだ。

「カテゴリー3に満たないんじゃないの?」

「……おかしいなぁ…」

「とりあえず…原因を排除するから、脱出ルートの確認と、レビア達に話さないとね」

触ってはいけない、3分後に脱出準備が完了する等の打ち合わせをし…

「ブラスターで破壊できるんじゃないの?由貴」

「えっ?私ですか?」

「そっ!由貴、やってみなさい」

「は、はい」

由貴がブラスターを構えて…

「えいっ!」

弾は石像に命中し…ひびがはいり…割れていく…

「……なんにもおきないわね?」

タイタニックの崩壊を推測して脱出ダッッシュしようと身構えてたのだが…
原型を保ったままだった。

「そうですね…??」

「由貴」

「ええと…より強く嫌な感じが新たに別の方向から感じてます。
明確に方向わかる位です」

「別の方向から?壊した石像からでなく?」

「はい」

「ちょっと待ってね…レビア」

……

龍脈を理解した妖魔が陰気の収集の為に設置したのでは?の推測にたっし、
石像破壊し続ければ原因にたどり着くかもになった為に引き続き艦内捜索にあたる。

「それで由貴、次は?」

「この前の方向から感じます」

由貴が船首側やや上向きに指をさしている。

「前というと…?」

ルイズは方向と角度をみて…

「えっと…まずはタービンエンジンの区画で…蒸気がパイプを通っている中か…
その先がレプシロエンジンの中空か、ピストン内ですね…あとはボイラーの排煙煙突内とか…」

「そんなところに石像ないわよね…」

「さぁ?私にきかれても…」

「距離は?」

「わかりません」

「……なら船首側に行ってみるしかないわね」

「ですね」

「Eデッキ中央あたりで方向たしかめましょう。
さすがに煤煙の中を探したくはないわね…」

……

Eデッキの3番煙突左舷側辺りにきて、

「前ですね」

由貴が明確に指をさしている。

「正直ピストンの中に石像が存在してるや、中空を探せならどうしようかと…」

「1番煙突内の可能性もまだ否定できませんよ?煤煙にまみれて」

「……いやぁぁぁ、違うっていってよね?由貴!」

「私にいわれても…」

「さっ場所特定するわよ!!」

そのまま通路を進み…船首側3等エントランスにでて、由貴が指さす方向は、

「えっ?まだ前?」

「そうですね」

「この先は男子トイレなんですが…」
3等階段の裏手は男子トイレであり、今入っていった男性がいる。
頻繁に3等客が使用している様で、
「と、トイレの先よ」

「ああ……ですよね。確かめましょう」
右舷側にすすむと船首側へと通路が続いている。

「この左手の壁は?」

「これは船倉への搬入用ハッチの壁ですね」

「ハッチの壁?」

「タイタニックは荷物も取り扱っていて預かった荷物をクレーンにて最下層のタンクトップや最下層甲板、
その中間のロアーオーロップデッキ…日本語だと最下層甲板の下で変な呼び方になるんですよね…
に、荷物を搬入します。その穴に落ちない為の壁ですね。
一応、木の板をひいて蓋をしますが、下に支えるものもないため強度的にでしたし、
ずれて落ちたら大惨事ですからね」

甲板部には板の他に白いテント生地をハッチにかけて縛り、雨水侵入防止する程度である。

「タンクトップは?」

「日本語的には…なんでしょ?
船用語なので…船底内底ですかね…?」

「で、船で荷物の取り扱いしてるんですか?」

「この時代の物流の中心は船ですから」

「へえ…物流の中心は船だったんですか…」

「この後も…大破壊がおきるまでですね…」

今でこそ無人船を送って到達率8割、有人船では到達率2割をきるといわれ、
地下チューブトレインによる無人走行列車が物流の中心となる。
もちろん航空機もながれの中心ではあるが…
低速な船程妖魔の格好な餌食の元でもある。

右舷3等階段横を過ぎて突き当たり近辺で、
「由貴」

「あっちです」

指先は左舷船首側、前を西としたら南西方向をさしていた。角度はほぼ水平…

「男子トイレでなく良かったです。トリマー船室のようですね…
ですと…Eデッキからは行けませんのでこちらです」

ルイズの案内の元、3等階段をあがってD デッキ3等オープンスペースに上がり…

「ところでトリマーってなんの仕事なの?」

「この時代の船は注水排水機構が未発達でしたので、
水バラストと荷物でバランスをとっていた荷役トリマーという仕事でした。
専門職でもあり、ジャックさんがトリマーとしてやとわれてましたよ」

「え?あのジャック様?」

「別人ですよ。ただ映画の後花を手向けられはじめたのはきいてますね」

Cデッキの前部凸甲板にでて、すぐ裏手、船首側の船員扉を…
〔お客様、こちらー〕

〔はい、これ〕
と見せながら入ってく。

「この区画は船員食堂ですね。Eデッキは客室部の船員区画が集中してますが、甲板員や火夫等がここに集中してますね。
機関士はE、Fのエンジンルーム横になります」

軽く案内しながら左手2番目のドアを開き、船首方向に降りる直階段をDデッキにつく。
甲板員船室、火夫船室が2つと、シャワーやトイレがある。

階段降りてすぐ右手の螺旋階段を…

〔姉ちゃん困るよ、こっちは上り専用だ〕

〔ごめんなさいね〕

もう1つ右舷側の螺旋階段を降りていく。
この船員用螺旋階段はポール状の鉄製踊り場なしで、
小スペースの角度によっては下まで覗ける。
Eデッキに降り…

「この区画にはトリマー船室が3部屋あります。仕事中、仕事前準備中や睡眠、睡眠中や仕事開け…3交代制で24時間はたらいてるわけです。個室ではなく集団で寝ていて、寝てたら厄介なのですが…」

「そうなの?」

「かれらは力仕事部門ですからね…例えばクタクタに寝てる集団を騒ぎでおこしたら…」

「ああ、かなり顰蹙ものよね…」

左舷側のトリマー船室のドアを開けると…
「仕事時間の様ですね…室内さがしま」

「ここです!!」

由貴が指さす先は船員ベッドであった。シーツが被っている様になっており、
中に何かが隠れている様子である。

「探す手間がない…」

「多分石像あると思うから、シーツごしでも触れないようにね」

「は〜い」

シーツを剥ぐとベッドに隠れていたのは全長60cm程の石像…

「先程よりかはでかいですね」

レビアに無線で声をかけて…
ブラスターで破壊、破片となる。

「先程より強い気を感じてます」

「ええ…私でもわかるくらいね」

「いよいよ原因でしょうか?」

「みてみなきゃ…わからないわね…それにね…」

ベッドの上の破片が消えていく…

「この世にない物質でつくられた石像らしいし…」

「それで…どちらに感じてるのですか?」

二人が指した方向は船尾方向、ただし角度的に上向きであり…

「Dの船首側付近からからBデッキでしょうか?」

「とりあえず上にいきましょう」

Cデッキの前部凸甲板にでて、香津美の視線は船尾側を見ていた。

「Cデッキレベルですね。ここからは…1回Eデッキにさがるしかありませんね」

降りて先程のエントランス脇の…
〔こちらは1等区画になるので通行禁止だ〕

3等客とみなして高圧的に止めてくる船員がいた。

〔はい、これ〕

〔ん?なんだ?……し、失礼しましたお客様〕
とわざわざ扉を開けてくれた。

「やっぱりチェックは厳しいですね〜」

「そうね…」

Cデッキの前部大階段から香津美らはスイートルーム区画を船尾側に進んでいく。

船尾側に進んだところでドアに阻まれた。鍵がかかっている。

「まだ奥です?」

「ええ」

「2等区画ですと…」

横のドクターに声をかけて許可証を見せて鍵をあけてもらった。帰るときは別デッキのチェックポイントを使用してくださいとの事だ。
普段は閉まっているのだろう。

「ううう、さむ」

コートをだしてないルイズが寒さにふるえる。
風よけの窓はあるがここは室外になる。
「はやく入りましょう」

2等Cデッキエントランスに入って一息、香津美の目線は船尾方向をむいていて、
すぐ左手のドアに入ると、図書室だ。

2等客が優雅に読書をしていて、香津美は後方にすすみ、右舷船尾側の壁に1m20cm程の石像は鎮座しているのを見つける。

「こんなに堂々と…」

「回りの人は何も思ってないのでしょうか?」

〔失礼、ちょっとお尋ねしたいのですが…〕

〔何でしょうか?お嬢さん〕

〔あの石像はいつ頃からありました?〕

〔石像ですか…?……ただの壁ですが…〕

〔えっ…?ありませんか?1m20cm程の不気味な〕

〔からかっちゃいけませんよ。何もありませんが?〕

〔そうですか…ありがとうございます〕

「……どうやらタイタニックの乗客の目にはうつらないみたいですね」

「器物損壊とは言われないから好都合ね」

「ただ…問題は…」

回りを見渡すと優雅に静かに読書しているものが9名程、船員はいないが…

「ここでブラスター放つと騒ぎになりそうだし、魔法も音たつからね…」

「なら植木かなんかでぱかーんと」

「由貴、目立つわよ」

「傍目からは何もない箇所に向かって行動してますからね〜」

「え〜っと…」

『香津美、今何処?』

「あ、レビアちょうど良かった」

『そう?ねえルイズさん、2等から1等に抜けられる道ない?』

「あ〜…これか、1等船客証明するものがないと止められますね…それか、Dデッキ厨房をつかうか…」

「レビア、丁度良いわ、Cデッキ2等図書室まで来て。那魅がひつようなの」

『了解』

……

レビア達と合流して那魅が認識阻害の結界を張る。

「いいですよ。香津美さん」

の声とともにブラスターを放ち…
数発うちこむと石像が割れ…

「きゃ」

「これは…」

「いよいよラスボスですね〜」

「ラスボスって…ゲームじゃないんだし…
確かにその位の気の強さがありそうだけど…」

「それでどちらに?」

感じた3人とも船尾側の床面をさしている。

「えっ?船首側タンクトップでなく…?」

「船尾側です」

「船倉案内したかったのに……
では2等後部階段から降りていきますね」

結界解除し、図書室後方の扉をあけると2等後部エントランスだ。
こちらも階段室同様、椅子などが置いてある。
階段さがると2等大食堂入口がみえるDデッキ、
左右は2等客室が並び、下に更にさがる。

Eデッキに下がってきて…

「まだ下です?」

「そうね…まだ下ね」

階段さがりF、Gデッキにつく。

「えっと…」

「さっきより近づいたけど…まだ下ね…」
香津美達はまだ真下方向をみている。

「となると…冷凍貨物庫かメインシャフト区画ですかね?」

「メインシャフト区画って…」

「タンクトップの船尾側です。
冷凍貨物庫は鍵かかってるので、先にメインシャフト区画へ確認しに行きましょう」

……

香津美ら一行はEデッキまで上がってくる。
「なぁ、先生、下なんだろう?降りるのになぜ上がるんだい?」

「タンクトップに降りるには1回Eデッキにあがって機関士居住区からエンジン区画にはいるか、
Cデッキに上がって船首側の火夫船室区画から下がるしかありません。
他のは非常用扉なので基本内側から施錠されてます」

「めんどっちいつくりなんだな〜」

「客船ですからね。うろつかれると困りますで限定はされてるんですよ。
特にボイラールームは石炭取り扱いで爆発の危険もありますから…」

機関士居住区の階段をFデッキレベルまで下がり、
通用ドアを開けると目の前に巨大なエンジンのピストン部、円筒形の筒が目に入り、
ドアの中に入るとエンジン全容が見えてくる。

「でっけ〜〜〜」

「倒置竪型式蒸気機関の1種で、4クランク3段膨張式往復機関、いまではレプシロエンジンとよばれてます!!」

かなりの大音量でその為に解説者もでかくなる。

「もう今の時代には無くなってますが、当時はほぼ最強エンジンと言えましょう!!
1920年代にタービンエンジンのギアード・エンジンが採用されるまではこの様な巨大なエンジンが必要でした!!」

防水壁に阻まれ他のボイラーやタービンエンジンは視認はできないが、
円筒形の筒が前後に向かって4つ、奥側にも4つ並んでいる。
防水区画1つまるごとエンジンルームに使っている。

「このエンジンは!!24基のスコッチボイラーと5基の補助スコッチボイラーから送られてきた蒸気で動き、
また反転も可能な、最大13,500kwの出力!!
タイタニックの3つあるスクリューの左右担当して、この2つのエンジンで推力をうみだします!!」

エンジン本体は台座からの高さは11.7mとビル4階ちょいの高さで、
長さ18.9m、配管部分なしの台座幅が6.3m。
ピストン部の円筒形の筒だけでも、一番でかい低圧型のは高さ2.7m横幅2.88mと…人がまるごと入ってしまう。
ピストン下部から出ているピストンロッドが5.4m下のスクリューシャフトに回転する力を与えている。

元は1780年代の発明家ワットが開発した竪型蒸気機関、シリンダが下、ピストンロッドが上にあったのを19世紀に逆にしたらどうか?
と開発され以後はこれが主流になった。
倒置竪型式は据付けや修理が容易で、運転による部品の消耗も比較的少く、ストロークを大きくでき、大出力を得られるようになった。

そしてシングルシリンダーエンジンが主流だったが、
ジョン・エルダーというイギリス人技術者が、二段膨張式の蒸気機関を発明。
実用に耐えるものを完成して船舶に応用した。
1853年に特許をとり、さらに1874年になると、A.C.カークによって実用的な三段膨張式機関が完成、
その後19世紀末には、四段膨張式機関も製作された。
成熟された巨大な膨張式機関といえていた。

「ボイラーから送られてきた蒸気は!!まず船首側から2番目の高圧シリンダーに送られます!!
次に3番目の中圧シリンダー!!最後に1番目と4番目の低圧シリンダー!!
合計3回このエンジンで仕事します!!」

タラップを2階層分下がり、回り込んで中央側蒸気配管の下側を通って、タラップを下がる。

機関部員に注意されるが、許可証をみせて、
船尾方向に向かう。
配管も防水壁に接続され、次の区画へと繋がっている。

防水扉をくぐると…

こちらもエンジンルームで、

「こちらは!!当時の最新型の蒸気タービンエンジンルームです!!
中央シャフトを担当します!!」

「発電機につかっているようなのだろ?!」

「それよりも旧式で!直噴式、減速ギアなしの初期型といってよいでしょう!!
このタービンエンジンは反転機能がなく!!
高速回転しかできません!!」

蒸気タービンは古くは18世紀ワットの時代に試作はされ開発発想があった。
だが、高速回転したがる機関でワット曰く暫く蒸気タービンの時代は来ないだろう。
と笑って事実その通りだった。

1880年代になって蒸気タービンが工業用として実用化され、
パーソンズが船舶用蒸気タービンの祖といえてた。
1894年にパーソンズ・マリーン・スティーム・タービン社を創立し蒸気タービンの船舶用の利用を目的として開発し始め、実験船タービニア号を建造した。
全長30m程の鋼鉄製実験船3本のスクリューを持ち、3台のタービンを接続、2400馬力であった。
最初シャフトには1つのスクリューをつけてたが、高速回転しすぎてスピードがのらず、スクリューをシャフトに3つつける事で対応、
1897年6月、ヴィクトリア女王の在位60年に当り、記念の大観艦式に無断参加の殴り込みで、
34.5ktの高速をだして警備の高速艇を振り回した。自身が伯爵だったのでおとがめは無しになり…
イギリス海軍はパーソンズにタービン船を発注、蒸気タービン駆逐艦2隻が完成したが、船体強度不足で沈没。
3年の研究をへて全艦タービンエンジン化、
1905年戦艦ドレッドノートもタービンエンジンで発注した。

一方商船にはタービン号のお披露目後に民間の船会社や造船会社と共同研究し始め、1901年に550tの遊覧船を建造し、
それが初となった。

商船用に搭載されまだ10年、最新鋭技術でもある。

「高速回転できればいいんじゃないの?!!」

「水中では早すぎるんです!!
シャフト回転数が、毎分40回転くらいが最適で!!
この蒸気タービンはレプシロエンジンが全速だしてると、毎分170回転してしまいます!!
なのでスクリューを小さくしてなるだけ水を掴む様にしています!!」

タービン本体は長さ9m×幅約7m×高さ2.7mと案外小柄だが、
レプシロエンジンから送られてくる蒸気と、
あたって回るタービンの音が煩く、
また復水器の音も煩い。
なのでこの部屋でも大声出さざるえない。

奥には防水扉が中央より若干右舷にあり、その先は発電用エンジン区画になる。
パイプの下を右舷側にすすみコンバーター下の通路を通り、防水扉に向かったところで…
香津美らの視線は上方、最下層甲板の方を見上げた。

「鍵のかかっている冷凍貨物室で確定ですね!!」

「の、ようですね!!」

『ここうるさいから通信で喋ればよいじゃない』

『ああ、そうですね〜』

『それで船長と交渉して…というけど、どうやるの?』

『交渉は私に任せてもらえませんか?』

『どうやって?』

『未来知識で信じさせます。ブリッジに向かいましょう』

……

ブリッジ付近にくると、

〔あっ、あなた方は…〕

〔こんにちは、ムーディーさん。船長さんいます?〕

〔居ますが…なに用で?〕

〔この不可解な行方不明者大量発生についてご説明いたします。で…どうです?〕

〔わ、わかりました。伺ってきます!!〕

……

船長室応接室へと案内された。
応接室内にはスミス船長、設計者アンドリューズ、ワイルド航海士長がいる。
ルイズは後世に残っている記録でなんべんも見た顔だった。

〔はじめまして、お嬢さん方…私はー〕

〔エドワード・ジョン・スミス船長1850年1月27日イギリス、ストーク・オン・トレント生まれ、
1912年4月15日死亡〕

〔はっ?〕

〔あなたはトーマス・アンドリューズさん。
オリンピッククラスの設計者、1873年2月7日アイルランド州コンバー生まれ、
1912年4月15日死亡〕

〔始めての挨拶でキツイジョークだね…〕

〔あなたはヘンリー・ティングル・ワイルド航海士長、
1872年9月21日イギリス、リバプール近くのワルトン生まれ、
1912年4月15日死亡〕

〔お嬢さん、その…明日死亡といってるがなんなのだね?〕

〔このタイタニック号が沈没して、皆さま方が死亡する日です〕

〔はぁぁ?馬鹿なタイタニックは沈むという事かね!?〕

〔はい。そして行方不明者、船主のジョン・ブルース・イズメイ氏や密航者含め771名は生存したためにタイタニック号に囚われず、
あなた方は死亡した為に2026年、Tokyo上空に亡霊船としてよみがえったわけです〕

〔そんなふざけた事ないだろ!!〕

〔行方不明者を密告者は除きすべて当てたら信じていただけますか?
すべては生存者として記録として残ってますので〕

〔む、むう……〕

〔お嬢さん方は何が目的なのかね?〕

〔タイタニック号が亡霊としてよみがえった原因に彼女達…後ろの制服姿の人達ですが、AMPが追っている妖魔が関与していると思われます。
私は協力者の民間の研究員で、本来タイタニック号に関して研究しています。
原因の箇所は特定しましたが、船尾最下層甲板の冷凍貨物室の為に船長さんの許可と鍵を必要としています。
それだけです〕

〔許可と鍵か……行方不明者を当てたらといったな?〕

〔はい〕

〔航海士長、捜索リストを貰ってきてくれ〕

〔はっ!〕

〔お嬢さん方、その2026年といったよね?〕

〔ええ〕

〔タイタニックは何故沈んだ?私の設計したタイタニック号は不沈性に自信があったのだが…〕

〔タイタニックは氷山を避けようとして、正面からではなく船体右舷側が接触します〕

〔側面側をか?〕

〔はい。こう…〕

手で船を表し、置いてあった灰皿を氷山に例えて、ぶつかった場面を再現する。

〔この接触により、キールから約4m程の高さ、水面から一枚下の外板、
FPから第6区画の石炭庫までの範囲に6箇所の破口が、
具体的には防水第1区画に1箇所、第2と第3区画に3箇所、第3と第4区画に長さ4.5m、
第5と第6区画に長さ10mの破口が生じて浸水し始めました。
破口の合計面積は約1.17平方メートルで、浸水は7t/secの流入速度で始まります〕

〔連続6区画かね…流石に無理だな〕

〔そうですね…それで20隻の救命ボートで退艦しますが空席が目立ち、また最後の2隻の折り畳み式AとDですが、
うまく出す前に…〕

〔それが生存者約770名の理由か…〕

〔はい〕

〔他の船は救助に来てくれなかったのかね?〕

〔無理だよ船長、もって3時間、早くて2時間だ。
よっぽど近くにいる船でない限り間に合わないよ〕

〔カリフォルニアン号が15km程の距離にいましたが無線士が睡眠中、また航海士も気がつかず助けに来ませんでした。
助けに1番手にきたのがカルパチア号で、沈没から約2時間後の出来事です。
その間に氷の海に浮かんでいた生存者は次々とこと切れ…〕

〔それで…私の最後はどう伝わっている?〕

〔生存者の証言で最後の時間あたりになりますが、
救命胴衣きる事なく、一等喫煙室の絵画を見つめていた…との事です。
タイタニック号が沈まなく…今後の光景を思い浮かべていたのでしょう〕

〔私らしいな…〕

〔私は?〕

〔操舵室に向かった…という証言がありますが…すみません〕

〔…タイタニック号と運命をともにしただろうな…〕

〔それで他のオリンピッククラスはどうなった?〕

〔まず、建造中だった3番艦ー〕

他のオリンピッククラスの事を説明したところで、ワイルド航海士長が戻ってきた。
アンドリューズさんは退出し倉庫に向かう前によってくれと言付けられ、
行方不明者の答えあわせが始まる…

……

夜21時…

AMP面々は答えあわせの間に仮眠をとり、
アンドリューズさんから託された資料を受け取り、
船内無制限許可証をもらい、鍵をかりて、最下層甲板の冷凍貨物室の分厚い扉をあける。
あけると…鎮座している石像が目にはいる。
「まがまがしい気があの石像に」

「嫌な感じがします」

「本来、狭い約6m×約8mの部屋で、冷凍室で荷物があるはずなのですか…」

本来冷凍貨物室は3つの部屋に別れ中央にハッチがある作りなのだが、
船の側面壁が見え明らかに異常であった。

「あれを破壊すればタイタニック号事件は解決かもな」

「流石にブラスターじゃあ、もう無理そうね」
石像は2m40cm、胴回りも1mはありそうでブラスターの弾がたりるかどうかだろう。
「香津美破壊できる?」

「……魔法で破壊はできそうだけど…」

「けど?」

「下手したら船殻ぶち抜いて即水没よ?」

「あっ…」

「崩落のおそれもあるし…」

「なら、グロスポリナーで包丁の様に切るは?」

「由貴、魔力つかわずのグロスポリナーで石像は勘弁してほしいわね。
魔力使うと船殻ごと切りそうだし」

「グラビトンは…」

「これも怖いわね…万が一最後でなかったらどうするの?」

「じゃ、ここは1つキディ様の出番か」

右拳を左手のひらに当ててならし前にすすむ。
「俺の拳でぶちぬいてやんよ」

「頑張ってキディさん」

「任せたわ」

「おうよ」

へっへっへっと笑いながら…

左前足を大きく出し身体を捻って右腕を石像にむかって…

「キディ!!!」
今にも打ち込もうとしていたキディの身体に向かって突如現れた妖魔の拳が襲いかかる。
打ち込み体勢をとっていたキディはかわせられなくー



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