触手宿主カリーニャ(Noah's Gate)
前編


泣きながら自室に戻るカリーニャを見かけてからというもの、僕はため息ばかりついていた。
「カリーニャは今日も泣いていたよ。何とかならないの?ノア」
「うざっ。私に言わないで、ガーナに直接言いなさいよお兄ちゃん(・・・・・)
ノアは見るからに嫌そうな顔をしてそう返答する。
「そうはいっても、僕が行くといろいろと問題が」
「そうね、頼りにならないお兄ちゃんは、捕らわれて逆にいい凌辱ネタとして使われているものね」
「……半分はノアのせいだと思うけど」
ムッとして反論する。
「ふーん、それならそれでいいけど。でも、(カリーニャ)の前後の処女を頂いて、あなたも役得だったでしょうに」
「怒るよ」
「ハイハイ、あなたが怒っても全然怖くないわよ。……まぁ、いいわ、明日カリーニャを連れてきなさい」
ノアはしばし沈黙した後、何やら楽しいことを思いついたように笑みを浮かべながそういった。
こういう顔をするノアは少し危険だ。
「……変なことしないよね」
「あなたが私に持ち掛けてきたんでしょうに。悪いようにはしないわよ。安心なさい」
そういわれて安心できた試しがないのだが、ここでノアの機嫌を損なうことも得策ではないので、しぶしぶ従うことにする。
「あ、言い忘れたわ。あの時の制服を着てくるように言っておきなさい」
「なんで、また……」
「久しぶりにあの恰好が見たいのよ。あなたもまんざらではなかったでしょう?」
……そりゃそうだけどさ。
確かに、制服を着たカリーニャは新鮮だった。長い銀髪をおろし、ちょっと大人びて見えた彼女はとても魅力的だった。
スカートの裾から覗く白い太ももはとてもまぶしかったことを覚えている。
そういえば、制服を着た彼女はとても積極的だった事までも思い出し、しばしぼーっとする。
「返事は?」
ノアに急に現実に引き戻され、「ああ」という生返事をしてしまう。ノアはひどくため息をつき、あきれた顔をしていた。

翌日、カリーニャのもとを訪れると、ノアのもとへと連れていく。
「さて、カリーニャ、ガーナのことなんだけど」
ノアはいきなり確信をついてくる。その事について僕が抗議すると、まどろっこしいのは嫌いなのよ。と相手にもしない。
「…で、このバカ王子が、カリーニャがかわいそうって泣きついてきたから、面倒だけど、一肌脱いであげようと思ったのよ」
かわいそうというところで、ピクリとカリーニャが反応したが、そこを気にもせずにノアは続ける。
「そもそも、ガーナは特殊なの。生粋の魔術師でありながら、白兵戦を得意とする剣士でもあるの。本来、相克から考えるとカリーニャが手を焼く相手じゃないのよ」
言われてみればそうだ。白兵戦を主とする属性「拳」は遠隔を得意とする属性「魔」に弱い。それはこの世の理だ。
無論、カリーニャは破世の玉宝による遠隔範囲攻撃を主とする魔術師であり、属性は「魔」。
特に古代精霊(エンシェント)たるカリーニャのポテンシャルは通常の魔術師以上でもある。
「だから、本来であれば、魔に弱いはずなのに。非戦闘では自身の魔術師としての才能が生きてくるのね。結構珍しいケースなのよ。」
ノアの分析を興味深く聞き入っている僕とカリーニャに、一つの小瓶を差し出してきた。
「なにこれ」
「属性変換薬」
「え?」
無表情でさらりととんでもないことをいうノアの言葉に僕とカリーニャは驚きの声を上げた。
まってくれ。そんな便利なものがあるなんて聞いてないぞ?
「まだ試作段階なんだけどね。これ、制服着たカリーニャが飲むと斬の資質に目覚めるのよ」
なんだそれは、そんなうまい話があってたまるか。一体、何を企んでんだ?
僕の心配をよそに、カリーニャが目を輝かせながら、ノアを絶賛している。こういうところは純粋すぎて不安になる。
「まぁ、これはこれで置いといて。今日はちゃんと制服着て来てくれたのね」
ノアは顎に手を当てて、カリーニャの周りをしげしげと見まわしている。
何をしているのか皆目見当もつかないが、きっと意味のある行動なのだろう。やおら「見つけた!」と叫ぶと、ノアは右手で何かをつまんだ。
……ように見えただけだった。
「なんだよ、何も持ってないじゃないか」
「ああ、あなたには見えないのね。いいわ、別に。それよりもカリーニャ」
そういって、ノアがカリーニャににじり寄る。
おどおどとするカリーニャをよそに、カリーニャの股の間に右足を滑り込ませる。
「え?えと、あ、主様ぁ……?」
懇願の声を上げるカリーニャ。
「二人っきりじゃないときは、主様ね……。まったく、よくできた妹よね。お兄ちゃん(・・・・・)?」
その言葉にカッと顔を赤く染めカリーニャはうつむいてしまう。
そんな表情にうっかりかわいいと思ってしまうあたり、自分はダメなお兄ちゃんです。ごめん。と心の中で謝る。

そうこうしている間に、ノアは右手をそのままカリーニャの秘所に滑り込ませた。
「ひゃうっ」
指先が膣内に侵入する感覚に、カリーニャは声を上げる。
「うん、これで仕込みはおしまい。濡れてないからあんまり楽しくはなかったわね。もっとする?」
全力で顔を左右に振り否定するカリーニャ。
「ノア、なんだったの、今のは……?」
「ナ・イ・ショ。そのほうが楽しいでしょうし。お守りみたいなものよ」
ノアの行動は僕とカリーニャの想像を超えていて、何が何やらよくわからなかった。

 * * *

カリーニャが奴隷部屋に呼ばれたのはその数日後だった。
ガーナに呼ばれたカリーニャは制服に身を包み、属性変換薬をスカートのスリット状のポケットに忍ばせた。これは好機であると、カリーニャは感じていた。
「ふぅん、未来の装束、制服っていうのかい?なかなか悪くないもんだねぇ」
自分のお気に入りのおもちゃの楽しみ方を考えている、あの嫌な笑みをたたえながら、品定めをするようにカリーニャを眺め、ガーナはそう言い放つ。

ガーナの視姦に耐えながらも、カリーニャは属性変換薬を使うタイミングを計っていた。
だが、ガーナはそんなことでそわそわしているカリーニャを見逃すほどお人よしでもない。
「なんか企んでるね?」
そんな言葉をガーナが発すると、カリーニャの肩がピクリと反応する。
「素直だねぇ、あんたみたいにかわいくて素直な娘は本当にいじめがいがあるよ」
そういって、ガーナはカリーニャの頬を手でなぞる。そして、ポケットの中の小瓶に気づくと、手を突っ込んで取り出した。
「なにさ、この小瓶……、まぁまさか私を毒殺ってわけでもなさそうだけど」
「だ……だめ!!」
カリーニャは必至で奪い返そうとするが、ガーナはひらひらとよけるだけだ。
「ま、よくわからないものは、捨てるに限るね」
そういうと、小瓶を床に落とした。
パリン。と音を立てて小瓶は割れ、内容物の液体が床にしみこみ、揮発する。カリーニャの「あああ」という絶望の声が奴隷部屋に響いた。

正直、ガーナにはこの小瓶がなんだかわかっていなかったが、毒ではない。という確証だけはあった。
もし通常の毒であれば、自分がこの娘に飲ませないとも限らないし、リスクは極めて高い。
もし揮発性の毒であればわが身(カリーニャ)にも危険が降りかかる。
そのため、毒ではない何かになるが、これをこの場で割ってしまえば、とりあえずカリーニャは何らかの反応を示すはずだ。とそういう目論見があった。
割った後も、自身に何の変化がないことからも、特に気にはしなかったが、カリーニャの様子がおかしいことに気づいた。

眉間に掌を当て、苦悶の表情を浮かべているカリーニャを見て、ガーナはぎょっとした。
「おい、カリーニャ、あんた、これ誰からもらった?」
カリーニャが、その場にへたり込み、苦痛に顔をゆがめ、両手で頭を覆いながら、声を上げる。
「あ…ああ…痛い。痛い。ノ…ア…ノアか…ら」
なんてこった。とガーナは思った。ノアの持物なら何が起きるかわかったものではない。
自分が意図して与える苦痛はある程度、快楽を含めてコントロールをしているという自負がガーナにはあった。
そもそも、快楽を魔力に変換するノアの元で好き勝手できるのも、自分の凌辱行為が相手の快楽に結果的に結びつくことから黙認されていることを言われずとも理解していた。
とりあえず、人を。と思い出口に向う。
しかし、扉を開けようとするガーナを後ろから呼び止める声があった。

「ガーナ、どこに行くつもりなの?」
その落ち着いた声に、ガーナは手が止まった。
振り向くと、異様な雰囲気をまとったカリーニャが立っている。
「は。なんだい。頭痛は仮病かい?随分迫真の演技だったじゃないか。コロッと騙されちまったよ」
ガーナはそういうとやや警戒しながらドアを背にする。直感が今のこの女はヤバイと言っている。
ガーナの頬を冷や汗が伝う。
「そんなことないわ。でも。いつもの通り楽しいことしましょう?私も、もうこんなになっちゃったの」
そういうと、カリーニャは少しだけスカートの裾を持ち上げた。
真っ白な太ももの内側をキラキラと透明の液体が伝っているのが見えた。
違う、これはカリーニャではない。誰だ。この女は?ガーナの疑惑が確信に変わり、振り向きざまにドアを開けようと試みた。が。
次の瞬間、胴と首に、何か蛇のようなものが巻き付き、強力な力でドアから引きはがされた。
引っ張られたその反動で、背中から床に倒れこみ、仰向けでカリーニャを見上げる形となった。
そして、驚愕した。
「なんだい、そのおもちゃは……」
「うふ。私のかわいい仔たち。素敵でしょう?」
昏く笑うその顔のもと、カリーニャの股間からは無数の触手がうごめき出ていた。
下着は無残に千切れ、その付け根からは愛液とも、触手の粘液とも区別がつかない透明の汁が滴っている。
一本の太い触手がカリーニャの右手にするりと入り込み、愛おしそうにカリーニャが頬ずりをしながら、そう言う。
「ねぇ、楽しみましょう?ガーナ」
その言葉を発する唇は、まるで、女陰のようにぬらぬらと淫靡な光を放っていた。

ガーナがあおむけの体制から側転し、うつぶせになった瞬間、カリーニャの触手はガーナの両手と胴、両足に絡みつき、行動を制限する。
カリーニャはガーナに近づくと、「いい格好ね」とつぶやいて、顔を地面に押し付けた。

闇落ちと言われる古代精霊(エンシェント)のもう一つの顔。カリーニャはまさにその状況であった。
ガーナにとっての不幸中の幸いは、これが戦闘状態になかった。ということくらいだろう。
戦闘となった場合、この触手宿主たるカリーニャに対し、ガーナはなす術がない。現に、生殺与奪の権を握っているのはカリーニャなのだ。
しかし、カリーニャはこの状況下でも、自分を殺すつもりはないようだ。もし殺すつもりならばとっくに殺されているはずだ。
幾本もの触手にからめ取られ、身動きができない状況でも、ガーナは妙に冷静だった。
(さて、この状況を打破した後、どうしてくれようかしらねぇ)
そんなことを考えていたためか、自然と笑みがこぼれていた。

その表情を見て、カリーニャは冷ややかに告げた。
「いつまでそんな表情ができるのかしら?楽しみだわ」
「さぁね。あんた、次第じゃないのかい?これから、あたいを───むぐっ」
ガーナの言葉を遮るように、口に一本の触手がねじ込まれたのだった。



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