【side:天化】

「まずは負荷を外した状態で力加減を覚える初歩の初歩から始めます」


オヤジやおふくろから衝撃的事実を明かされてから一夜明け、おふくろ完全監修の下、負荷無しで日常生活を送る為の俺っちの修行が始まった。

始まった訳なんだが、俺っちの前にあるのは何故か積み木なんさ。修行と積み木にどんな関係があるのか分からずにいる俺っちに、おふくろは懇切丁寧な説明をしてくれた。


「天化。今のあなたは完全に負荷を外した状態です。その状態のあなたが積み木を手に取れば、その膂力で簡単に積み木を握り潰してしまうことでしょう。積み木を潰さずに積んでいく。これが力加減を覚える初歩の初歩です」


成程、そういうことさ。そうと分かれば早速積み木を積んでいくさ。力を入れ過ぎず抜き過ぎず、適度な力加減で掴むことを意識し、俺っちは積み木を掴んだ。すると、俺っちが掴んだ積み木の表面に亀裂が入った。


「ありゃ?力を入れ過ぎたさ?」


思わずそんなことを呟き、監督役のおふくろに視線を向けると、おふくろは少し驚いた顔をしていた。そして、おふくろは頭を軽く押さえながら溜息を吐いたさ。


「念の為に超圧縮テクタイト製の積み木を用意したのは正解だったみたいね。一般的な積み木なら今頃粉々だわ」


超圧縮テクタイト?仙人界でいうところの高分子宝貝結晶や超硬化宝貝合金みたいなもんさ?……いや、前世のオヤジが宝貝結晶製の砂時計を破壊してたから、硬度的には宝貝結晶以上宝貝合金以下かもしんねぇ。

……いくら俺っちの力が前世のオヤジ以上でも、積み木を持った時は力加減をしてたんだ。流石に宝貝結晶以上の硬度ってのはねぇか。なにはともあれ、筋力制御って言えばいいのか?それがこんなに難しいとは予想外だったさ。

初歩の初歩で躓くって意味でも予想外だったが、本当の予想外は筋力制御を修得するのに6年という歳月を費やすことになることとは、この時の俺っちは思いもしてなかったさ。

正直、6年間も積み木を積んでは崩すって単調な作業や床掃除などを繰り返すのはキツイものがあって、前世の仙人界での修行が気楽だったと思えるほどだったさ。

 ってか、仙人骨と生体調整の相乗効果は身体能力の向上以外に考えてもいなかった形で俺っちに影響を与えていたことが、この6年という歳月の間で判明した。それは体の老化速度さ。現在、俺っちは12なんだけど、身体年齢は7歳なんさ。

オヤジ曰く、一般的な樹雷人は20歳前後――ま、ある一定年齢までは地球人と大して変わらない老化速度らしいさ。で、その年齢を越えた辺りから老化速度が極端に遅くなるそうさ。

それが俺っちの場合は6歳を越えた辺りから老化速度が徐々に低下。結果、6年経っても1年分しか年をとれなくなったみたいなんさ。おふくろ曰く、このままだと老化速度がどんどん低下していって、2、300年後でも見た目が14、5歳程度じゃないかって話さ。

正直、俺っちにとってはありがた迷惑以外の何もんでもねぇさ。子供の姿のままじゃ、どれだけ腕力があろうとリーチに差とかができちまうからな。まぁ、道行さんよりマシって言えばマシなんだけど……。

取り敢えず、俺っちの住んでる所の村人達に怪しまれないようにする為にも、おふくろが視覚情報を誤魔化す力場を俺っちの周辺に展開できる様にしてくれたから、何とか普通に生活は出来てるさ。

おっと!話が少し逸れたさ。兎に角、無事に筋力制御を終了したことで、俺っちの修行も次の段階に移行することになった。それはオヤジから武術の手解きを受けることと、おふくろから哲学士としてのノウハウを教わることさ。

武術に関しては、実戦方式の鍛錬をすることになってるさ。5歳の頃から樹雷式の武術の型を粗方教わってるから基本関係は問題ねぇさ。何より、オヤジも基本の型を知ってるだけで、実戦では我流で戦ってるって言ってたからな。俺っちが我流で戦っても問題ねぇって訳さ。

ただ、俺っちの全力に耐えられる武器がこの地球にある訳も無く、また銀河系で一般的に流通している武器も試したんだが、それらも俺っちの全力には耐えられなかったんさ。だから、オヤジは俺っちの全力に耐えられる武器を手に入れる為現在家を留守にしてる。

オヤジが所持してる武器は2種類。1つは俺っちが前世で使用してた宝貝『莫邪の宝剣』と似た光の刃を形成する『飛燈』のキーを兼ねた光剣。もう1つは八柄って惑星で採掘されるヒールゼンS(スーパー)って鉱物で鍛えられた六角の棍さ。

俺っちは皇家の樹と契約してないから光剣を兼ねたキーを所持できねぇ。だから、オヤジはヒールゼンS製の武器を調達しに行ってくれたんさ。オヤジ曰く、筋力制御修得祝いらしい。

武器の種類や形状といった要望を聞いてくれたんで、前世のオヤジが使ってた『飛刀』と同じ形状で頼んだ。大きさは現時点での俺っちの身長の倍以上になるけど……。銘に関しても、できれば前世で天然道士でもあった弟の名―――『天祥』と名付けて貰えるように頼んださ。

哲学士のことに関しても、おふくろが態々銀河アカデミーに最新の教材を貰いに行ってくれたさ。おふくろから哲学士が作ったものをいくつか見せて貰ったんだが、哲学士の技術があれば『宝貝』を再現できると俺っちは思ってるさ。

いや、再現じゃねぇ。俺っちは仙人骨が無くても扱える宝貝を作りたいと思ったんさ。幸いにも崑崙・金鰲問わず、粗方の宝貝の製造方法は頭ん中に叩き込まれてるからな。

戦闘において使い勝手のいい宝貝は腐るほどある。オヤジから聞いた話では、この地球にも妖怪が存在するらしいし。あって困るもんでもねぇしな。ぶっちゃけ、個人的な事情な訳なんだが、そんなこんなで哲学士としてのノウハウも教わることになったんさ。

なにはともあれ、筋力制御を修得して大した間も空けずに、俺っちは新しい修行に精を出すことが確定したんさ。ちなみに、大した間ってのはオヤジとおふくろがいない間を指す。その間、俺っちは現在のちっこい体での戦闘方法を試行錯誤してたさ。
そして、オヤジとおふくろが家を留守にして1ヵ月後。オヤジ達は特注武器やら哲学史の教材やらを手にして帰って来た。……ん?1ヵ月って結構な間じゃねぇかって?俺っち達の寿命は数千年単位だからな、それからすれば1ヵ月なんて大した間じゃねぇさ。

取り敢えず、オヤジ達が帰ってきたことで俺っちの全力に耐えられる武器が手に入ることもあり、真っ先に行われるのは実戦方式の武術の鍛錬だと俺っちは思ってたさ。

しかし、実際にはそうならず、おふくろに腕を掴まれて研究室に引きずり込まれた。普段のおふくろからは考えられないほど強引な行動だったこともあり、俺っちは混乱しつつもおふくろの行動を問い掛けた。


「お、おふくろ!帰って来て早々、一体どうしたんさ!?」
「天化。あなたは皇家の樹はおろか自分の宇宙船すら持っていないでしょ?宇宙に行ってる間に面白いもの見つけて来たから、それを解析してあなたの宇宙船を造ります。手伝いなさい」


………いやいや。哲学士としてまともな知識すらない状態でいきなり宇宙船造りの助手をしろって、無茶振りにも程があるさ。崑崙山や金鰲島、崑崙山2、蓬莱島も宝貝扱いなのか、俺っちに建造知識はあるが、それでも無茶振りには違いねぇさ。


取り敢えず、哲学士モードに移行したおふくろに逆らうのは無理、無謀、無茶であることをオヤジから聞かされていたことと、筋力制御の修行の時に身をもって体験していたこともあり、俺っちは早々におふくろの言うことに従うことにしたんさ。

それじゃあ、ここでおふくろが唐突に俺っちの宇宙船を造るとか言い出したのか。それを造船描写を省く代わりにしておくさ。と言っても、俺っちもオヤジから聞いた話をそのままするだけなんだけど。

まず、オヤジとおふくろは『飛燈』で一緒に出かけたんさ。そして、最初に八柄に立ち寄ってヒールゼンSの採掘と、刀匠探しをしたらしいさ。オヤジの馬鹿力からヒールゼンSの採掘は容易だったらしく、刀匠も採掘場から然程離れていない村にいたそうさ。

で、鉱物と刀匠はすぐに見つかったものの、肝心の武器はすぐにできる訳でもなく、形状などの注文を済ませると、造ってる間に銀河アカデミーに立ち寄って、俺っちが使う教材や実験器具を集めたをしようってことになったらしい。

アカデミーと八柄は距離的に結構離れてるらしく、丁度いいって話しになったそうさ。そして、アカデミーでの用事も済ませ、八柄に向かう途中でことは起こった。

オヤジ達の乗った『飛燈』が宇宙海賊に襲われたんさ。襲ってきた奴らはそこそこに名の知れてる奴らしく、1人は魎呼って名前で、魎皇鬼って宇宙船に乗ってたらしいさ。

そして、オヤジ達を襲ったのはその魎呼と魎皇鬼だけでなく、銀河系永久指名手配犯である神我人って奴も一緒だったらしいさ。

結果だけ述べるならオヤジの圧勝。もう5000年以上前のカビの生えた伝説だが、オヤジは樹雷星でも武神と謳われる程の闘士だったらしいさ。


「だははは!そんじょそこらの宇宙海賊なんかに後れを取るほど、俺はまだ堕ち潰れてねぇっての」


これが魎呼&魎皇鬼、神我人を撤退させたオヤジの発言さ。で、この時の戦闘で魎皇鬼の船体の一部と、魎呼って奴が耳にしていた宝玉を手に入れたらしく、魎皇鬼の能力を目にしたおふくろは、哲学士として魎皇鬼と同等の船を造りたくなったらしい。

というか、これまでの流れから察するに宇宙船の建造が終了すると、今度は宝玉の量産とか手伝わされそうと思うのは俺っちだけか?いや、人生そんんあに甘い訳ねぇさ。

まぁ、地球に戻って来るまでの間におふくろは『飛燈』の中にあるおふくろの研究室で、魎皇鬼の欠片と宝玉の分析を簡単にしたらしいが、その話を聞いた限りじゃ宝玉は皇家の樹から得られる程ではないものの、高エネルギー体の結晶らしいので、俺っちとしても宝貝製造に使える気がしてるんだけどな。

なにはともあれ、暫くはおふくろの助手に徹することになりそうさ。まぁ、退屈とは無縁の生活で楽しいっちゃあ楽しいけどな。

【side out】







あとがき

前回の投稿から2ヵ月振りの投稿です。お待たせして本当にすみませんでした。

いや、もう毎日が暑くって夏バテモードに移行した私は執筆速度が減速。しかも、編集とか繰り返してる内に結局投稿が8月末になっちゃいました。
(まぁ、夏バテの原因は猛暑だけでなく仕事のきつさも原因なんですが……)

取り敢えず、8月中に登校できただけ、御の字っだと思って頂けると嬉しいです。
(総文字数はプロローグより少ないけど……)

なにはともあれ、今回の話でタイトルの理由が判明しましたね。そう!眷皇鬼誕生フラグです。ちなみに飛虎達が回収してきた宝玉はレプリカの方です。(←念の為)

暫くの間は天化視点が続きそう。私的には早くぬら孫と絡ませたい!(まぁ、ぬら孫本編は外伝でちゃんとしたものを書くつもりですが……。取り敢えず、天化が関わる話を早く書きたい。でも話の流れ的に早く書けない……)

ちなみに、天化の年齢は阿重霞より1歳年上と設定してたりします。つまり、今回の魎呼や神我人の話は砂沙美が誕生した年にあった出来事となります。(←ぶっちゃけ、どうでもいい裏設定)

兎に角、次話更新も頑張りますが、また時間が掛かるかもしれません。読者の皆様は気長に見守ってくれると嬉しいです。それでは、またいずれ。



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