外部操作を受信・・・・・・解凍作業を開始します。


補助システム再起動。主システムへの移行を開始します。

自己ネットワーク覚醒。
破損箇所のチェックを開始・・・・・・・・・7126万271ヶ所の破損を確認しました。
自己修復並びにナノマシンの生成を開始します。

修復作業が完了しました。
主システムを起動しました。
ナノマシンの散布並びに外部ネットワークへの接続を開始します。
外部ネットワークとの接続を完了しました。自己ネットワークと外部ネットワークの照合を開始します。
自己ネットワーク内部にエラーを確認。システムの復元を開始します。

システムの復元中にエラーが発生しました。システムの復元を中断します。
システム内部に深刻なエラーを確認。これよりシステムの初期化を開始します。

システムの初期化を完了しました。
自己ネットワークと外部ネットワークの照合を開始します。
10%・・・・・・40%・・・・・・70%・・・・・・99%・・・・・・。
外部ネットワークとの照合を完了しました。
内部ネットワークを更新しました。
主システムを再起動します。外部ネットワークとの接続を中断しました。

主システムを再起動しました。
外部ネットワーク再接続完了。
ナノマシンの散布を完了。現在地の建造物全域に独自ネットワークの構築が完了しました。
補助システムを待機状態に変更しました。


外部ロック解除コードの入力を確認。
・・・・・・第一電子ロックを解除。
・・・・・・第二電子ロックを解除。
・・・・・・第三電子ロックを解除。

全ロックの解除を確認。ハッチをオープンします。





神の園エデンプロジェクト試 作第一号プロトタイプ・・・CodeName- EVE―――――――――起動。


















Lost Child
Chapter01-アルマ










視界が赤く染まっていく。
白くペイントされた清潔な空間が禍々しい赤に染められていく。

自分の頬に生暖かい液体が付着している。
コレは何だ。この赤い液体は何なのだ。地面に広がって行く赤い水溜りはいったいなんだ。あそこに倒れているヤツは誰だ。あの赤くてグチャグチャした気持ち の悪い物体はなんだ。
理解が出来ない。訳がわからない。あまりに唐突に訪れた目の前の現実に頭が着いていかない。

顔を上げると全裸の少女が目に映る。
まだ成長していないその幼い体を毒々しい朱のベールで包み、子供特有の無邪気な笑みを浮かべて佇んでいる。
ソレを見た瞬間ゾワリと背筋に全身が凍るような悪寒が走る。


アレは駄目だ。アレに触れてはいけない。アレを見てはいけない。アレに見つけられてはいけない。アレに関与してはならない。逃げろ。逃げろ逃げろ逃げろ逃 げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ!


思考が停止した脳の代わりに生命が宿す野性の本能が頻りに警告を発している。
一刻も早くこの場から逃げないといけない。ただ漠然とそれだけが頭を過ぎるが、脳が、体が、金縛りに遭ったかのように一切の命令を受付けない。
それは自分の体ではないような感覚だった。まるで自分とは異なる意思が自分の体を縛っているような・・・・・・そうだ。まるで、誰かが外部から自分に命令 を送っているような、そんなおかしな感覚だ。

少女がアハッと声を上げて笑いをより深いものにする。血に濡れたその笑みはゾッとするほどに美しく艶かしい。
同時に、彼女の体が銀色に輝きだした。体に幾重もの線が浮かび上がり、そこから機械的な銀の光が放たれている。
銀の光が彼女の体を完全に包み込むと今度は彼女の足元の床から水溜りが広がるように光は床を覆いつくした。

「ねぇ」

少女が口を開く。
顔には満面の笑みを浮かべているのに、全く抑揚の無い声だった。

そのギャップに新たな恐怖心が生まれたが、そんな事よりも重大なことがある。
少女が今、その意志をもって、その口をもって言葉を発したということだ。
つまり、それは言葉が通じるということ。コレを重大と言わずして何を重大というのか。

「わ、私は何も知らなかったんだッ!私はただそのカプセルを開けろと所長に命令されただけでッ!!」

先程まで動かそうとしても動かなかったのが嘘だったかと思うほどに、その言い逃れの台詞は口からスルリと出てきた。
いや実際は言い逃れではない。男は正真正銘その為だけに呼ばれた研究員だったのだから。
我社の持つ科学力を結集しても開けることが出来なかった謎のカプセル。それをなんとしても開ける事・・・・・・それがこのプロジェクトの達成目標だった。
何故このカプセルを開けるのか。当然疑問に思うところだがそれは自分達に知らされる事は無い。知る必要も無い。自分達はそれを開けさえすればそれでいいの だ。無駄に奥に踏み込んでしまって、その結果要らぬ面倒に巻き込まれる等という馬鹿なことになりかねないから。
そして、今そのカプセルは開いた。プロジェクトは成功したのだ。
だがそれと同時に最悪の結果まで押し寄せてきてしまった。

それがあの少女だ。
認識する余裕すらなかった。カプセルが開いたと思った次の瞬間に他の職員達の体が砕け散った。
今いる研究室の中では最もカプセルから遠い場所にいたのが幸いしたのか、自分だけは無事ですんだのだ。

ともあれ、まだ事態が収束したわけではない。男はなんとか少女を宥めようとして口を開こうとしたが―――


「――――――ィギッ!!」

代わりに口からはカエルを潰した様な悲鳴が上がった。
電流を流されたような鋭い痛みが男に襲い掛かったのだ。
男の足元を見てみるとそこだけ銀の光が一層強く輝いており、その光は男の足首ほどまでを覆っている。

その男の様子を面白そうに眺めながら少女が再び口を開いた。

「生かしておくとでも思っているのか?」

声が纏うのは圧倒的なプレッシャーと・・・・・・闇。純粋に唯黒く、真っ暗な闇。
憎悪と呼ぶことが生温く感じるほどの凄まじい負の念。
顔や声に似合わない男口調がより一層プレッシャーを強くする。

「お前達は自分達が何をしたのか理解しているのか?」

少女は男の着ている白衣を凝視している。
先程まで浮かべていた笑みはもう無い。能面のような無表情にギラリと青い双眸が輝く。
その眼光に射られ、男は「ヒィッ」と短く悲鳴を上げて床でガタガタと震えている。

「そうだ、お前達がいなければ・・・・・・お前達さえいなければッ・・・・・・!!!」

能面のような表情が突如憤怒の形相となり、少女が感情を爆発させた。青い瞳には炎が燃えている。
男の足首までだった銀の光が少女の爆発に合わせて一気に男の全身を駆け巡り、一切の隙間を残さずに染め上げる。
正に一瞬の出来事だった。男が悲鳴を上げる隙も無い。
光に包まれた男が声を出せないのか無言で床を転げ回る。体のどこかからか出血しているのか彼が転がった後の床にはベットリと赤い血液が付着している。


少女はまたさっきとは違う表情で・・・・・・冷ややかな冷笑を浮かべながらその光景を眺めていた。

そうだ。それでいい。
自分達の少しでも・・・・・・百分の一でも苦しんで――――――


「――――――死ねッ!!」

男の体が爆発するように砕け散り、その血肉がバシャアと音を立てて床にブチ撒けられた。
男のすぐ横に立っていた少女にも当然ソレが降りかかるが、少女は恍惚とした表情でソレを全身に受けている。

暫くはそのままの表情の少女だったが、先程と同じように突然に表情が変わる。今の少女の顔には男を凝視していた時と同じ能面が被さっている。

「・・・・・・帰還ルートを検索――――――該当件数一。・・・・・・ふむ。餌を撒けば向こうからよって来るか・・・・・・?」

ブツブツと独り言を呟きながら少女は自分が出てきたカプセルへと歩いていく。そう広い部屋ではないのですぐにカプセルにたどり着き、少女はその上に手を置 く。
するとまた少女の体が銀色に輝きだし、それに反応するようにカプセルの蓋が閉じていく。

銀の光はそこで収束せずに更にその輝きを増していった。床だけではなく壁や天井までもが光に包まれていく。
最後には眩し過ぎて目を開くことが出来ないほどに・・・・・・いや、たとえ目を閉じたとしても銀しか認識出来ないほどに空間が染められていた。









▽ネルガル重工本部ビル




「アカツキ君、所長が御着きになったそうよ」
「うん?・・・・・・あぁ、もうそんな時間か」

アカツキと呼ばれた男は自分専属の秘書エリナの声を聞いて、今まで読んでいた書類から顔を上げた。
チラリと時計を見ると確かに約束の時間だった。どうやら書類を読むのに没頭するあまり時間が過ぎるのを忘れていたらしい。

ネルガル重工会長・・・・・・それが男、アカツキ=ナガレの就いている役職だ。
まだ若いが、切れ長の双眸から発せられる眼光は鋭く、仕事も的確であり采配を誤ることは無い。
ただ常にニヤニヤと軽薄に笑い、女性と見るとすぐに口説こうとするその普段の様からは彼の仕事の敏腕ぶりは想像だにできないだろう。

「時期的に、どうしても警戒せざるを得ないんだよねぇ」

やや困ったような顔で、アカツキ。
そろそろ部屋に来るであろう訪問者は自分に何かを要求しに来るのだろうということは容易に理解できた。というよりもそれしかありえないのだから。
でもそれ自体はたいした問題ではない。別に構わないのだ。
問題は、その中身。何を要求してくるか、だ。この時期を狙って行動を起こしたのだったら十中八九自分が考えているモノで間違いないだろうとアカツキは思っ ている。
そして、それは同時に大変由々しき事態だ。
ハッキリ言ってあってはならないことである。自社の最深部に近い部分が外部に――――――正確には外部ではないのだが――――――漏れてしまっていること になってしまうから。

「まぁいいか」

思考を放棄する。
どうせ考えてもわからないことだ。考えるだけ時間の無駄であり、脳を疲れさせるだけだ。
そんなものに時間を割く暇があったら女性の口説き文句のひとつでも考える。アカツキとはそういう男なのだ。


暫くすると、コンコンッと小気味良い音を立てて重厚なドアがノックされた。
それからワンテンポ遅れて扉の奥から男の声が聞こえてくる。

「ナイヴェル=エダ=リコルヌ所長達をお連れしました」
「いいよ。入ってくれ」
「わかりました」

アカツキが入室の許可を出すとゆっくりと扉が押し開かれ、奥から二人の男性と一人の少女が姿を現した。
男の一人が一歩前に出て小さく腰を折って礼をする。ヒゲとメガネが特徴的な一見かなり怪しめな風貌をした男だ。
まぁ・・・・・・二見しても三見しようとも怪しい印象は拭えないとは思うが。それほどに怪しさを秘めた男だ。

「ささっ所長方はこちらへどうぞ」

そう言ってその男は自分の後ろに立っている二人を部屋の中央付近にあるソフォーへと勧めた。
どうやら男はネルガル側の人間のようで、訪問者達は後ろの二人らしい。

二人の訪問者は男に勧められるままにソファーの前に立つ。
そしてテーブルを挟んだ向かい側のソファーに一人座るアカツキに視線を向ける。

「構わないよ、座ってくれ」
「失礼します」

アカツキの許可が下りたところで、一礼してからソファーに腰を下ろす。

「いやぁ、良く来てくれたねぇ、ナイヴェル所長。わかっているとは思うけど僕がネルガル会長のアカツキだ」
「ナイヴェル=エダ=リコルヌです。本日は急な来訪にも拘らず時間を割いていただき、ありがたく思います」

所長達の目が自分に向き直るのを見計らってアカツキは挨拶の言葉を放った。
それにナイヴェル所長と呼ばれた男が頭を下げながら自己紹介を返す。

ナイヴェル所長と呼ばれた男の年の頃は六十程であろうか。白に染まりきった頭髪や多くの皺を刻んだ顔は老人を示すそれであり、全体的にホッソリと痩せたそ の体躯は弱弱しい。
しかし所長という責任のある役職についているが故か、両の眼に宿る光は強く輝き、一種の凄みを持っている。

「あぁ。・・・・・・ところで、そっちの娘は?」

アカツキが顔をキョトンとさせて所長の隣に座る少女を見る。
少女はまだ幼い顔にニコリと微笑を浮かべた。光の当たり具合では空の様に淡くなり、或いは深い海の様に濃くなる綺麗な眼がアカツキを見つめる。

「アルマ=エダ=リコルヌです」
「これは私の孫でして・・・・・・年こそまだ十歳ですが、知識や理解力、発想に技量も現役の所員達とは比べ物にならない程に優秀であるために私の補佐を勤 めさせておりました」

アルマと名乗った少女に目を向け、ナイヴェル所長はやや苦笑しながら補足をする。

極あっさりと明かされた少女の正体だが、それはあまりにも恐ろしいものだ。
俗に言う天才。或いは鬼才とでも言うべきか。
十歳と幼い少女が、プロフェッショナルとでもいうべき研究者達に劣る事無く・・・・・・あまつさえそれを凌駕するというのだ。
大変驚くべきことだ。
現に話を聞いたアカツキも顔に驚きの表情を貼り付けている。彼の後ろに控えているエリナと、先程のヒゲとメガネの男も同様に驚きを隠せないようだ。
ただ、エリナを除いた二人はそれだけではなく何か鋭いものをその眼に宿していた。

「・・・・・・いやぁ、美しいお嬢さんだ。話が終わったら二人で食事でもどうだい?」

その鋭さもどこへか、唐突にして大胆にアカツキが食事に誘おうとする。驚きの表情までもどこに行ったのか、ニヤニヤと軽薄な笑みを口元に浮かべている。
背後でエリナがこめかみに青筋が浮かべてアカツキを睨んでいる。

「褒めて頂いた事には感謝致しますが、食事に関しては丁重にお断りいたします」
「これ・・・・・・。会長、孫が申し訳ありません・・・・・・」
「いや、気にはしていないさ。残念ではあるけど、一般的な反応だしね」

ピシャリと一切の余地を与えずにアルマが誘いを断る。
アカツキをみつめていた青い眼光がより強いものになったのがわかる。
だが、それは決して軽蔑の色を示しているわけでもなく、警戒を示しているわけでもなかった。

「・・・・・・・・・・・・」

故に、アカツキも瞬時に表情を変化させ、殆ど能面に近いものに変える。
場に緊張が生まれる。ピリピリとそんな擬音が聞こえてくるような気さえした。

少女の言葉、力を加えたその眼光が示したものは唯ひとつ。
前座は終わり。内容に、入ろうか。


場がある程度治まるまで間を空けていたのか、或いは自分の言葉が待たれている事に気付いたのか、ナイヴェル所長がゆっくりと口を開いた。

「・・・・・・私達二人を火星に連れて行って頂きたい」
「それはまたどうして」

搾り出すようにナイヴェル所長の口から出た言葉に、一切表情を変えずにアカツキが返す。

「研究のためです」
「研究・・・・・・というと、アレか。・・・・・・遥か彼方を見通す者、かい?」
「はい」
「中に有るモノの詳細を知ることが出来なかった?・・・・・・それとも開けることが出来なかった?」
「開けることが出来ませんでした。しかしながら、使われている技術が地球の物ではなく火星の物であるということまでは判明しました」
「そうかい。だとしても、こちらには火星まで行く手段なんて無いよ。そもそもひとつの会社ごときがそんなことを出来るはずが無いだろう。このご時世では、 木星トカゲのせいで軍であっても火星に到達することは難しいんじゃないのかな?」


木星トカゲ。
それは人類の敵を示すもの。
ある日突然木星のある方向から現れた無人兵器達の総称だ。
異常なまでの数を誇り、そして人類を嘲笑うかのように、人類の誇る高威力の光学兵器を特異的な何かで捻じ曲げて無力化し、いともアッサリと軍隊を葬った。
そして、元々火星は人類の移住先として活用されそこには人々が住んでいたのだが、これもまたいともアッサリと、あまりにも圧倒的過ぎる力を持った木星トカ ゲによって壊滅。火星は完全に木星トカゲに占領された。

以来人々は地球とその近辺の各コロニーで戦線を張り、何とかその攻撃を防いでいた。
地球にはビックバリアと呼ばれる衛星バリアがあるため、いくらかの侵入は許してしまうもののとりあえずは平穏を保っている。

ともあれ。
そういった現状から火星に辿り着くというのはアカツキの言う通り軍であろうと一筋縄ではいかないのだ。


「むしろ、軍だからこそ・・・・・・ではないですかね?」

だが、所長が放った言葉はそれとは全く違うことだった。
軍だからこそたどり着けない。
彼はそう言ったのだ。軍だからこそ、と。
それが示すことはつまり・・・・・・。


「・・・・・・・・・・・・」

所長の言葉を聞いてアカツキはやはり自分の考えが正しかったことを確信した。
知っている。この二人は確実に知っている。どこまでかはわからない。だが、その概要だけは間違いなく把握している。

「マシンチャイルドは・・・・・・その為だけの取引材料かい?」
「はい。社長派の情報も含めこの為だけに用意しました。・・・・・・スキャパレリ・プロジェクト。私達をそれに参加させていただきたいのです」
「まぁ、確かに。相当な対価だったとはいえるね。おかげでかなり社長派のことは把握できたわけだし」


この会合が行われる二週間前。
ネルガル社長派の保有施設であるマシンチャイルドの研究所のひとつが謎の武装集団によって襲撃された。
何故か施設のセキュリティはダウンしており、瞬く間に制圧。研究対象とされていたマシンチャイルド達はその集団に捕獲され、その後に研究所は完全に破棄さ れた。
普通ならこの時点で何か要求があるはずだが、この場合は違った。
なんと連れ去られたはずのマシンチャイルド達が送り返されたのだ。ただし社長派ではなく、ネルガル会長派の保護施設に。
その時になって彼らは正体を包み隠さずにありありと語った。
自分達はとある人の頼みでここにいるのだと。その人物のためにこの行動を起こしたのだと。

その人物が、彼だったのだ。ナイヴェル=エダ=リコルヌ所長。
ネルガル社長派の計画のひとつ『遥か彼方を見通す者』の総責任者の名前だった。


「そうだねぇ。そこまで知っているのなら良いかもしれないね。・・・・・・わかった。君達にナデシコの乗艦を認めるよ」
「ありがとうございます。・・・・・・それにしても、ナデシコ。あまり戦艦というイメージは受けない名前ですね」

彼らはやはり知っていた。自分達が軍に属さない私有の戦艦を保有している事を。
まぁ、実は先程の惚けたふりも駄目もとだったので問題は無い。成功すれば儲けモノ。失敗しても痛手なし。結果として失敗だったが。

「この計画自体が奇抜なものだからね。それならいっそ名前もそうしてしまえばいいのさ。これだとまさか戦艦の名前だと思う奴はいないからね。・・・・・・ ところで」
「なんでしょう?」
「話というのはこれで終わりかな?・・・・・・なにぶんこれでも忙しい身でね。時間が惜しいんだ」
「あ、はい。わかりました」
「細かい事は後で書類をそっちに送らせてもらうよ」

用件が終わったのならもう用は無い。
言外にそう言って、アカツキは追い出すようにして所長達に帰りを促した。
この態度の変化に所長は困惑の色を顔に浮かべるが、すぐさま打ち消した。こちらとしても用件は終わったのだ。これ以上いたとしても何にもならない。
それがわかると所長はアルマを促してソファーから立ち上がり、ドアの前まで移動していく。

「どうぞよろしくお願いします」
「わかったよ」

ペコリと一礼して二人は退室して言った。
それから今まで影のように佇んでいたヒゲとメガネの男が音も無くドアまで移動し、静かに開いていたドアを閉めた。


直後。

「アカツキ君!?あんな異分子の乗艦を認めるなんて何を考えているの!!あんなの全く信じられないじゃない!!」

エリナの甲高い声が部屋中に響き渡った。
それを予測していたのか男二人は手を当てて耳を塞いでいたりする。

このエリナの発言は実に的を射ているといえる。今の対談ではただ単に相手側の要求を飲んだだけで交渉という交渉は一切していない。あまりに上辺だけ過ぎる のだ。
更に相手はこちら側が極秘で進行させていた計画を知っているとくる。相手はそれだけ情報収集能力に長けているということだ。これは実に拙い。とりあえずの ところは味方だからいいものの、敵に回ってしまえば情報のだだ漏れになってしまう。
仕舞いにはそもそも本当に味方なのかどうかが怪しい。ニッコリ笑って背後からグサリと来ないという保障などどこにも無いのだ。

しかしそんな事は百も承知か、やや呆れた顔でアカツキがエリナを諭すために口を開く。

「あのねぇ、エリナ君。あそこまで情報が欠落しているモノをまさか信じているとでも思ってるのかい?」
「・・・・・・え?」
「相手がお腹の中に納めている物の全部を曝け出しているなんて思うわけ無いだろう。というか思えるわけが無いだろうに。こっちの動きに何故気付い ているのかは置いといて、そもそも動機自体が怪しさ満点なんだから。彼・・・・・・ナイヴェル所長のデータを調べたんだけど、研究者にしては珍しくあんま り物事に固執するタイプじゃないんだよね。当然、自分が担当している研究対象にしてもね。そこからしてももう真っ黒だよ。焦げ臭いで済む話じゃない」
「じゃ、じゃぁどうして・・・・・・!?」
「至極単純なことさ。泳がしておいてるだけだよ。ある程度は乗ってやる必要があるってことだよ。ほら、虎穴に入らずんば虎子を得ず、と言うだろ う?・・・・・・そういうことさ。あとは・・・・・・そうだね、プロス君、解説頼むよ」
「わかりました、会長」

まだ納得できていないのかブルブル震えているエリナの横で、プロスと呼ばれたヒゲとメガネの男・・・・・・プロスペクターが何時の間にか二枚の書類を持っ て佇んでいた。
その書類の内の一枚をエリナの眼前に突き出してから解説を始める。

「ナイヴェル所長の家族、親戚などを調べてみたのですが、そこにある筈のものが書かれていないのですよ」
「これって・・・・・・」
「そうです。そしてこちらがつい最近になってから更新された内容です」

書類を見て愕然としているエリナにもう一枚の方の書類を渡す。
渡されると同時に該当箇所を素早く眺めてからエリナは驚愕に満ちた表情をそのままに縛りだすようにして口を開く。

「あの娘・・・・・・アルマについての記述が無い・・・・・・?」

その通りだった。
一枚目の書類・・・・・・これは二年程前のナイヴェル所長の血族を書き表したものだった。その中には、アルマ=エダ=リコルヌの名前は無い。
そして二枚目の書類。つい三日程前に更新された内容だ。
その中には書き足されているのだ。アルマ=エダ=リコルヌと言う名前の少女が、ナイヴェル所長の孫として。

驚きに凍り付いているエリナに構わずプロスペクターは更に解説を続ける。

「所長の担当していた計画ですが、その名前を『遥か彼方を見通す者』と言います。これは西暦2012年に完成した電波望遠鏡、Atacama Large Millimeter/submillimeter Array(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)から、そのままに当時からすれば遥か彼方を見通す物だった事から取られています。そしてその電波望遠鏡 ですがこれにも略称がありまして・・・・・・」
「エー、エル、エム、エー・・・・・・」
「はい。ALMA・・・・・・アルマと発音します」
「・・・・・・・・・・・・じゃあ、まさか!!」

プロスペクターの語った内容にハッとしたエリナがその先を言おうとするが、それよりも若干早くアカツキがそれを遮った。

「それは早計だよ。可能性では有るけども真実だと言い切れるほど確定的な証拠が無い。まぁ、だからこそ泳がすんだけどね」
「・・・・・・・・・・・・」

勢いを絶たれてエリナが黙り込む。
どうやら自分がどうこう言う事ではないと今更気付いたのだろう。アカツキとプロスペクターの二人ならば自分の思っているところの何手も先を読んで、更に対 策も練っているだろう事に。

「ま、そういう事だから今は放っておいて問題ないよ。それよりも今はナデシコに配備する各担当のスカウトをしてこないとね」

パンパンと手を打ってこの事はもう終わりと示しながらアカツキがソファーから立ち上がる。
悠長に所長達のこと等に時間を割いている余裕は無いのだ。自分達が今行うべきことを見極めないといけない。

「さぁあって、いくよエリナ君、プロス君。さっさと終わらせないと日が暮れてしまうからね」
「はい、会長」
「・・・・・・わかったわ」

既に決まった担当のスカウトと、まだ決まっていない担当の人選を。
ややダルそうにアカツキが。特に何も感じていないようにプロスペクターが。どうにも釈然としないが仕方が無いと言うようにエリナが。
その三人が今自分がやるべきことをするために、会長室から散っていった。








▽????





「こ、これで良かったのだろう?・・・・・・私は言われたことはやったからなッ!!これで解放させてもらうぞ!!」
「ああ。お前にはもう用は無い。さっさと何処へなりとも行けばいい」

半分ほど闇に包まれた駐車場で、男が暗闇なって奥が見通せない部分に向かって怒声を発する。
傍から見れば精神に異常を来たした人だが、暗闇からはちゃんと返事が返ってくる。
そしてその返事を聞いた男がフンッと鼻を鳴らしてその場を離れ、自分の車に乗り込んだ。
そのままこの忌まわしい場所からさっさと離れるようにと、エンジンをかけた車は猛スピードで駐車場を離れていった。後ろを確認しようとなどとは一切思わな いらしい。

だから、男は気付かなかった。
車が走り出した直後に、その後ろの暗闇で一瞬だけ銀色の光が輝いたのを。


男は、気付かなかったのだ。








▽????





暗闇に包まれた室内で不気味にテレビだけが光と音を放つ。
そのテレビの中では若い美人キャスターが部屋の暗闇を凝視するかのように正面を向いたまま、記事を読み上げていく。

『――――――で車が横転。道路脇の電柱に衝突して大破しました。この事故で――――――にお住まいのナイヴェル=エダ=リコルヌさんが亡くなりました。 ――――――――――――』









・・・・・・暗闇の中、青い光が輝いた。














あとがき。


どうも、お久しぶりです。
ヘタレこと詩葉でございます。

今回でオリジナル陣営からアルマ。
ナデシコ陣営からはアカツキ、エリナ、プロスペクターの出演です。
アキトが出るのは暫くお持ち下さい。そのうち出ます(投げやり)。

で、話はオリジナルキャラとアカツキとの対談です。
どうにもオリジナルを出す為には(ナデシコに初めから乗艦させるには)シナリオ途中での偶発的なモノを除くとこのパターンしか思いつかない(苦笑)。
私の発想力では厳しいです。

文章が粗野な感じがするのは見逃してくださいな。仕様です。最後の辺りとか特に気にしないで下さい(号泣)。
あと、あれだ。
アルマの名前・・・・・・というかファミリーネームですが、アークザラッドの主人公アーク=エダ=リコルヌから取ってます。
まんまパクリです。なんか響きが気に入ったので(苦笑)。


んー。
何かあまり書くことも思いつかないので、今回はこれで。
ではではー。


感想

詩葉さん第一話投稿です♪

しかし、相変わらずハードですな〜ナデシコキャラとの融合が一体どうなるのか、かなり楽しみであります♪

アルマ嬢、感じからすると前回の二人との関与が疑われるキャラですね〜

希薄な感情と、そして、殺す事へのためらいのなさ等そういった感じを受けますね。

そして、古代火星人の事についても迫っていくという。むぅ、楽しみであります!

因みに、〜光と闇に祝福を〜も実は古代火星について無茶な仮説を盛り込んでいたり。

ナデシコ乗艦パターンなんてそれほど多く出来ないですよね、

他にと聞かれても基本に乗っ取りムネタケらと一緒に軍からやって来るのか、クリムゾンの手引きとか、後は一流になってスカウトされるか。

まあ、そんな感じしか思いつきません(汗)

さて、次回はネルガル内のお話か、はたまたナデシコメンバー登場か? 期待してお待ちしております♪

なかなか始まりませんね…私が出な い話が続いています…ヒロインの私が出演しないのではまだまだですね。

むぅ、それは微妙かも…

はい? いったいそれはどういうことです?

いや…あのね、アルマってマシンチャイルド計画に関連するキャラのようだね?

ま あ、かなり違う気がしますが…ナノマシンを持っているようではありますね… 

じゃあ、ナデシコを動かせたりして…

… うっ…そ、それがどうかしましたか? 今までだって、私の領域に立ち入ってくるキャラがいなかったわけじゃありません。

しかし、マシンチャイルドとしての能力を持っていても、きちんと活用できた人は殆どいません!

この意味、分かりますよね?

うわ…何もそこまできつい事言わなくても…(汗)

でも、確かにマシンチャイルドの能力は要注意なのは事実だね…持っているだけじゃ宝の持ち腐れだし…

その 通りです。マシンチャイルドの能力は
私一人で十分なんです!

ははは…(汗)



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