俺がネギとして目を覚ました後、俺のことを担当してくれている医師によって3日の入院が告げられた。あの事件で負った傷は全身の至るところにあったようだが、ほとんどが擦り傷だったために既に治ってはいるのだが、目覚めてすぐに頭痛があったと言うと、一応経過を見ることになったのだ。
 まあ、あの頭痛は凍結されていた記憶が解凍されると同時に起こったものだから、この3日の間にまた頭痛に悩まされることは無いだろう。

 だが、俺にしてみればその3日は早く過ぎ去ってほしかった。魔法について教えてもらうという事もあるのだが、心配して見舞いに来るネカネさんの相手をするのに神経を磨り減らされたのだ。3日という時間の間に自分の能力をある程度確認できたから良かったのかもしれないが……いちいち鼻息を荒くしないでほしかった。

 まず第一に聞いたのは魔力制御についてだ。
 ネギの記憶では基礎魔法である『火よ灯れ』の練習をしていたようだが、ネカネさんの話を聞く限りではあまり良い訓練とは言えないようだ。
 そもそも、詠唱自体に『火』と明記されていることからも分かるように、下級ではあるが『火よ灯れ』は列記とした火系統魔法。人によって得意不得意な系統があるため、火系統が苦手な人にしてみれば『火よ灯れ』ができるようになるまで数ヵ月を要する人もいるようだ。

(確か、ネギは風・雷・光が得意だったような)

 だから原作を思い出しながらこの3系統の基礎──と言っても、三歳の子供を相手にネカネさんが難しい説明をしてくれるわけもないのだが──を学びつつ、魔法行使する際に重要となる魔力制御を極めることにした。

 まずは、昔アーニャに貰った初心者用の魔法ステッキ──二十センチくらいの白く細長い棒の先に星形の魔法発動体がついてるもの──で魔力の流れを感じとる練習をする。室内、それもベッドに横になった状態では風・雷系統魔法の使用は控えないといけない。よって、俺が選択する魔法は、

「プラクテ・ビギナル、光よ!」

 周囲に迷惑が掛からないようなものになる。
 ……と思っていたのも束の間、この考えがいかに浅はかなものであったか理解せざるを得ないことになってしまった。

「ぬあぁぁ!?目が、目があぁ!」

 気を付けなければ自滅するのが落ちになるため、そこら辺は注意しなければ。そこまで強烈な閃光ってわけでもなかったが、失明する可能性もあるなぁ……

 あと、これはネカネさんから聞いた話になるが……魔法は系統による強弱はあまり無いらしい。
 例えば、水と火。一般的に考えれば水の方が有利だと思うかもしれない。しかし、魔法は魔力を以て組まれた弾丸。それを射出する担い手の力量──魔力量、魔力密度、魔法陣の精密度など──によって優劣が決まるらしい。あれだ、燃え盛る炎にほんの少し水をかけた所で火の勢いは治まらないって感じだ。
 魔法を使えば真空状態ですら火が灯るのだから、自然の摂理……昔の偉人たちが考え出したたくさんの法則を無視しているようなものだ。

 ただ忘れちゃならんのが古来から日本に伝わる太陰道や五行と言ったものだ。
 これらは魔力ではなく『気』を用いる。"森羅万象全てのものに気は宿っている"という思想は自然の摂理に従っており、極めれば絶大な力を得られるだろう。その中でも太陰道は、これを極めることで敵の力を己のものにできるという、少々どころかかなり反則気味の力を発揮するのだが……魔法使いが多いこの地に、気を主体として戦闘する人が少ないのが残念だ。

 まあ、魔力と気の二つは互いに反発し合うため、どちらか片方の才能を伸ばしていくのだが普通だから仕方ないっちゃ仕方ないのだが。
 その反発しあう二つの力が、もし一つにする事ができたら?


 ──コンコン──

 木製の戸をノックする音が室内に響く。
 いきなり病室にやって来ては我が物顔で淡々と業務をこなしていく看護師なら戸を叩く必要がない。もう少し若い人なら良かったんだが……ネカネさんやアーニャが来る時間帯ではないし、村人はほとんど石と言う名の闇の中。

「どうぞ」
「失礼するよ」

 入ってきたのは、知識としてはあるが今まで会ったことの無い初対面の男性。その人は、俺を一目見るなり柔らかい笑みを浮かべた。一瞬、俺──ネギ──を通して誰かを思い浮かべたようだが、それが誰なのかも大体想像がすくが!あえて気にしないで流そう。
 てか、なんでここにこの人がいるのか分からないから気にする余裕も無いんだが。

「初めまして、ネギ君。僕は高畑・T・タカミチ。タカミチって呼んでくれ」
「こちらこそ初めまして。ネギ・スプリングフィールドです」

 タカミチが目を見開く。
 どうせ、重ね合わせていた人物との性格が正反対だからだろう。強大な魔力を持っていても当の本人ナギが覚えていたのはたった5〜6個の魔法のみ。それも攻撃魔法に特化した、典型的な特攻馬鹿。さぞかし紅き翼の頭脳派は頭を抱えたことだろう。

 嗚呼、それと……さっき述べた魔力と気の反発だが、結論から言ってしまえば相対する二つを合成することは可能だ。
 これは通称『咸卦法』と呼ばれており、肉体の外部の陽の気"魔力"と、肉体の内部の陰の気"気"……陰陽二気が感応する現象で、普通では考えられない程の強大な力を得られる高難度技法だ。
 この技法を修得しているのが目の前にいるこの男性、高畑・T・タカミチだ。

 ……だからと言ってもあまり羨ましいとは思わない。それだけの価値があるとは言え、この技法を修得するのに数年は掛かると言われているし、実際この人も数年の歳月を掛けて修めている。
 それに、数段劣るが身体強化魔法はしっかり存在している。まぁ……先天的に魔法が使えない人等のためにあるよう感じだな。

 ……今は取り敢えず、子供っぽさを全面に出しといたほうが楽かな。

「タカミチは、魔法を使えるの?」
「え…っと、僕は魔法を使えないんだ。生まれつきでね」

 フフ、子供は無邪気なものよなぁ。時として子供は残酷だが悪気はないからね……項垂れてる感と言うか、ブランコに座ってやるせなさを醸し出してる会社員みたいだぞ、タカミチ。
 俺は8割悪気で構成したものを提供してやったが、大人なんだから頑張って堪えてね!

「でも、僕は気の扱いが得意なんだ。魔法は見せてあげられないけど、今度実演してあげるよ」

 嗚呼……必死に長所のアピールをし始めたよ。笑顔で頑張るなぁ、タカミチ君も。

「おっと、そろそろ時間だ。僕は帰るとするよ」
「うん、わかった。また今度ね」

 ……さて、奴は行ったか。どうせだったら今ここで気を見せてほしかったが、さすがに病室でそんなことをするほど常識無しでもないだろうし。
 それにしても、また一人か。暇なんだよなぁ……傷は良くなってるから寝る以外にすること無いし。大人しく魔法の練習でもするか。

「プラクテ・ビギナル、光よ」

 ある程度魔力の感覚を掴めてきたため、さっきより発光量が抑えられ目を覆う必要がなくなった。だが、それでもある程度までしか分かってないから、誰かが来るまでこれで魔力の運用方法でも確認しとこうかな。魔力量はできるだけ少なく、それでいて十全に効果を発揮できるようにしたい。
 例えば、最初マジックポイントを10必要としたメラミが、同じ威力のまま半分の魔力で繰り出すことができるようになったり、広範囲魔法の効果を一点に集中させることで威力を高めたりすることができるように。
 ……あと知ってるか?魔力って、実は視認できるんだよ。気はどういうものか分からないが、魔力はほんのりと白い輝き放っている。何か集中してたら見えるようになったんだが、皆もこんな風に見えてるんだろうか?
 制御できずに漏れ出てしまう魔力なんかがそれにあたる。一度魔力の感覚を覚えてしまえば、魔力を察知できるようになる。だから、魔力制御も何も知らない近衛木乃香の場所はすぐに見つかってしまうのだ。……明日菜と一緒の部屋に住まわせていたのは、魔法無効化能力で漏れ出る魔力を感知させないためだったのか?

 ……答えが無いのにいくら考えても仕方ない。
 ならその話は脇に置いといて……目の前の事に集中しよう。まだ魔力制御が未熟なため、ステッキの先に適量だと思う魔力を集中させてもドライアイスが昇華するかのように無色の魔力が漏れ落ちていく。

「……熱血キャラは俺に合わないんだけどな」

 今はまだ良いとしても、これから行く先々に死亡フラグが立ってる英雄の息子だし、少しぐらいは努力しないとアカンだろうな。ま、時間はあるから焦らずじっくりと魔力制御から始めようかね。

 とりあえず『光よ』で魔力がどんなものかは把握できたし、今は魔法を唱えないで魔力だけステッキの先に集めてみようかな。……いや、ただ集めるだけだと漏れるのか。なら、より魔力を籠められるように圧縮?練る、とでも言おうか。
 魔力が一点に集まるように、その後でその魔力を圧縮して小さくなっていくよう練っていく。そして魔力の層が粗いところに魔力を塗り込む。ただひたすらこれだけを繰り返す。
 ……集中、集中、集中…………

 ──ビシッ……バキン!──

「ぬあっ!?」

 とっさに頭を後ろに引いてしまった。幸い、こっちに破片が飛んでくるなんてことはなかったが、持っていたステッキの先端部分、媒体となっている部分が……壊れてしまった。
 明らかに魔力を籠めすぎが原因だな。一体この媒体にどれだけの価値があったのかは分からんが、一つしか持ってないステッキを壊してしまった。……こりゃステッキくれたアーニャに怒られちまうな。

 そう言えば、ネギがお父上に渡された立派な杖はどうなってるんだろうか?『杖よ』とか唱えれば飛んできたりするのか?いや、原作だと杖の場所がわかってから呼んだか?
 ……この辺りに無いし、いきなり飛んできて窓とか壊すはめになりたくないからやめとくか。

「ネギ!さっきすごい魔力感じたんだけ、ど……」

 あ。

 ……てへ、見つかっちゃった。
 そんな感じで舌を出してお茶目な感じを装ってみたが、壊れてしまったステッキに視線を向けているアーニャに効果は無かったようだ……



 ◇ ◇ ◇



 壊れたステッキを見て変な誤解をしたアーニャの追求をのらりくらりとかわしていたら、今度はネカネさんが入ってきて大変なことになってしまった。
 倒れるわ泣くわ、どさくさに紛れてキスしようとしてくるわ。これは純粋な母性心からきているのか、はたまた何か別の感情が存在しているのか……耐えられッかな、俺?主に理性が。

 だが、俺はこの苦行を切り抜けた。あまり思い出したくないが、ダイジェストにしてお送りしよう。

・ネギがアーニャを(適当に)誉めた。
 アーニャの特殊技能"ツンデレ"が発動!常時独り言が紡がれ、視覚ではなく感覚に訴えてくる球面上の障壁が展開された。またの名を"お母さん、あれなに?シッ!見ちゃいけません!"だ。

・ネギの"上目遣い"!
 ネカネの精神にブレイクショット。クリティカルだ!
 真正面から攻撃を受けたネカネは、受け身を取ることも叶わずそのまま(鼻)血の海に沈むのだった……

・ネギの最終決戦奥義!"ナースコール"!
 予備動作も何もない攻撃は二人に絶大な効力を発揮!なす術も無く、二人は影も形も残さず消え去って(ナースに連れられていって)しまった。
 何があったのかと急いでやってきたらしい主治医が、病室で繰り広げられていた状況に苦笑ともひきつっているともとれる表情をしながら退散していったのには、心の中で小さく謝っておいた。



「嗚呼……暇だなぁ」

 懸命に仕事をしている人たちには罪悪感は沸いたが、少し前に起きた出来事など記憶の彼方に流してしまったよ。

 あ!
 ……ステッキが無いんだったな。あれが無いと魔力制御の練習もできないし……って、なんで俺はステッキを持っていることを前提に話を進めてるんだ?
 漫画で皆が当たり前のように媒体を使ってたからか?いや、それがこの世界では一般的なことなのか。もしかしたら、何かしらの媒体が無いと魔法を発動しづらいとか。……適当に試してみるか。

 魔法発動体が無い事を確認し、力を抜いて右腕を前に伸ばす。人差し指だけを真っ直ぐ伸ばし、その爪の先に魔力を集めていく。

「スゥ……」

 大気に漂っている自然な魔力。それを、酸素を取り込むように収集していく。自身が持っている魔力タンクの栓をゆっくりと開いていく。ほんのりと淡い光を放っていた指先が、圧縮したことでより濃くなった魔力によって、強い光を放ち始めた。
 以前には成し得なかった現象に、集中している頭の片隅にぼんやりと幻想的だと思った。

 どれくらい集中していたのか、どれだけの魔力が人差し指に集まったのか……そんなことはどうでもよくなっていた。ただただ目の前の事象に集中し、見惚れていた。
 その時、つい吐息が漏れてしまった。
 それが偶然なのか必然なのか……漏れた吐息が指に掛かった瞬間、指先に集まり凝縮されていた魔力が霧散した。

「…………は?」

 渦巻いていたと言っても過言ではない魔力が、突拍子も無く消え失せてしまった。

「うわっ!?」

 こんなことって有り得るんだろうかと呆然としていると、いきなり目の前が真っ白に輝き始め、つい両目を閉じてしまった。そのままじっとしていたのだが、何も起きない。一体何が起きたのかを確かめるべく、ゆっくりと瞼を持ち上げようとしたその時、

「初めましてだニャ、マスター」
「…………ん?」

 女の子っぽい声が聞こえてきた。マスターという言葉に呆けながら目を開けると、目の前には可愛らしい猫の姿が。

「く、か、可愛い……!」
「ほんとかニャ!んみゅ、嬉しいニャ!」

 前足で目を擦ってる姿、良いッ!

 ……いや、すべてを忘れてこの猫と戯れても良いんだが、その前に確かめられるものはしっかりと確かめておこう。

「君は?」
「僕はマスターの魔力で創られた精霊なんだニャ。一応僕に名前はあるけど、マスターにつけてほしいニャ」

 魔力で創られた精霊?
 ……あれ?俺、精霊召喚魔法とか使ってないし、魔法陣も描いてないんだけど。そもそも、魔力だけで創られた存在ってのはこの世界に存在するのか?

「名前か……ちなみに、どんな名前なんだ?」
「ケット・シーだニャ」

 ……ん?

 …………んん!?

「えっと……何ができるんだ?」
「得意なのはキャットレインだニャ。他にはケアルとかサンダガとかかニャ」

 完全にFFだ!!
 混じってんのか!?二つの世界は交わってんのかっ!?
 やめてくれよ……ここもかなり面倒な世界観に熱血戦闘ルートだらけだけど、それにFFの世界観が混じったら血と涙の比率が倍プッシュじゃねえか。

「安心するニャ。この世界は『魔法先生ネギま!』を基本骨子として成り立ってるニャ。だから、他の物語が介入してくることは無いんだニャ」
「……心を読まれた感じがするのは置いとくとしよう。どうしてそう言い切れるんだい?」
「えっと……この紙を見ると良いニャ」

『拝啓──管理人です。
 この世界は独立した平行世界です。
 知識・新たな概念の提起・行動などは自由にしてくれても構いません。
 忙しいので後は勝手にしても構いませんが、できるだけ波瀾万丈な人生を歩んでください。
 幸運を祈る暇も無いので事前に付与しておきました。特別プライス今だけEX!』

 ……あれ?何か軽くね?

「つまり、マスターの吐息で魔法が成立したのは管理人の報告も兼ねてあるからなんだニャ。偶然でもあるし、必然でもあったんだニャ」

 考えるという行為が疎ましく思えてきた。もうなんかどうでも良くなってきちゃったなぁ……無理無理むリム……

「……君の名前はリムにしよう。理由は聞くな」
「ありがとうだニャ!これからもよろしくニャ!」

 ふふふ……その純粋な瞳が俺の心に深く突き刺さってくるよ。



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