タカミチに気の実演をしてもらったネギです。いやぁ……生で咸卦法を見れるとは思ってなかったが、あれは凄いわ。魔法を、力の一端をかじっているものだからこそ分かる凄さってもんだな。
 魔法世界で起きた大戦でジャック・ラカンが生身で艦隊を落としまくったのも、こういった力が在ったからなんだろうと染々感じたよ。

 あの後は俺ができると言った魔法を少し披露したら褒められて嬉恥ずかしく思ったり……まぁ、お陰で暇をもて余したりすることが無くなりそうだし、その点は感謝しておこう。
 で、タカミチは俺を家まで送り届けた後、少しばかりネカネさんと話を交え、仕事があると言って帰ってしまった。


 ……タカミチィィ!あんたが帰ったら誰が俺の貞操を守るんだよぉ!子供の腕力で逃げられないんだから、肉体強化魔法でも使って本気で逃げるぞぉぉぉおおお!!


 すまん、かなり取り乱した。改めて考えてみれば俺はまだ6歳。いくらなんでも致してしまうには早すぎるってこった。ハハハ!
 ……ホントに大丈夫かなぁ?


「ネェェギィィィィィ!」
「(げっ……)アーニャ、久し振り!」
「ねぇ、ネギ。なんか違和感あったんだけど…」
「え?気のせいじゃない?」
「そお?なら良いんだけど」

 なんだってんだ!アーニャはνタイプだったのか!?
 それにしても、今ここでアーニャがやって来るとは……ただの幼馴染みとして来てくれているならまだしも、ここにおわすはピンクの妖精。今の俺の状態を簡単に言い表すなら『前門の虎、後門の狼』だな。
 更に言えば、狙われているのは前門なのか後門なのか……さすがにそこまでわからない。理解したくもないが。

 間に挟まれた俺は葱みたいな野野菜の如く食われてしまう位地に居るんだろうか?……はぁ、公的に死亡となっている我が父上が羨ましいわ。美人な妻と愛の逃避行だろぅ?

 男として!一男子として!
 我が父上はリア充だと面向かって声を荒げてやりたいわ!


「どうしたの?急に黙りこんじゃって」
「……前よりもアーニャが可愛くなってて驚いちゃったんだ」
「ば、いきなりそんなこと言うんじゃないわよ、馬鹿ネギっ!」

 ……と、口ではそんな事を言ってても顔は真っ赤ですよ、アーニャさん。良かった、この切り返しにアーニャの意識を逸らすことはできたようだ……って、ネカネさん?怖いから微妙に黒いオーラを垂れ流さないでくれないかな?間に俺がいるから直撃を食らってるんだが。

 ……あれ?俺の腕をがっしり掴んで、って、え?

「ねぇ、ネギ?私は?」

 般若一歩手前の顔を寄せつつ、笑顔で問いかけてくる。その言動からして俺に何を言わせんとしているのかは分かるが、それは俺みたいな子供にするものじゃない。

「ど、どうしたの?ネカネさん」
「……ネギ、これからは私のことはお姉ちゃんって呼びなさい。良いわね?」
「え?そ、そんないきなり」
「良いわね?」
「う、うん、分かったよ……お、お姉ちゃん」

 ちょーー怖ぇぇ!!
 なまじネカネさんの考えを理解できてしまう分、余計精神的ダメージを負っているような気がする。てか、本当にこんな人をお姉ちゃんなんて呼んで良いのか?
 ……とてもじゃないが、俺には付いていけない精神だな。

 ちょ、ネカネさん……お姉ちゃんって呼んだだけでどんだけクネクネしてるんすか?端から見たらただの変態だということに気付けないんだろうか。アーニャはアーニャでぶつぶつ呟いてるし……
 お願いだ、タカミチィ!仕事なんてどうせ『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』関連だろ!?そんなんどうでも良いから戻って来てくれぇぇぇぇ!!



 ◇ ◇ ◇



「クション!……なんだ、誰か僕のことでも噂してるのかな?」

 その頃、仕事をこなしていたタカミチは、何処かからか飛んできた何かを感じ取り、くしゃみをしていた。

「喰らえぇぇ!雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)!!」
「おっと……」

 瞬間、タカミチが立っていた場所を魔力の奔流が通りすぎていく。その直線上にあるもの全てを飲み込んでいくその様は、まさに暴風そのものである。

 魔法が過ぎ去り、舞い上がった土埃で遮られていた視界は次第に晴れていく。そこに、標的として定めたタカミチの姿は無く、無惨にも抉り取られた地面が見えるだけだった。

「やったか……!」

 男は、自分の実力に自信を持っていた。
 だからこそ、申し分の無い威力を持つ『雷の暴風』を直撃させることができたと思い、その思いが緊張の糸を緩めてしまった。
 魔法は使えないが、その身で魔法を堪えることができる咸卦法を修得しているタカミチの姿がどこにも見あたらないにも関わらず。

「まだまだ修業不足だね」
「なっ!?」

──ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグ直伝

 七条大槍無音拳(しちじょうたいそうむおんけん)──

 一条だけでも先ほどの『雷の暴風』の威力を越えるのではないかという拳圧が、一瞬にして七条打ち出された。
 常時展開されている魔法障壁に加え、咄嗟に展開した幾重にも連なった対物理障壁は、しかし、その全てが打ち貫かれた。

「がぁぁっ!?」

 断末魔に似た叫びが周囲に響き渡る。
 そして、虚しく響いた叫びも途絶え、タカミチの頬を静寂の風が撫でていった。

「ふぅ……ここにはもう、残党は残ってないかな」

 一人(・・)辺りを見渡したタカミチは、もう敵はいなくなっただろうと思い、踵を返して去っていく。

 後に残ったのは、荒れ果て崩れ落ちた建物だけだった。



 ◇ ◇ ◇



「はぁ……ようやく離れられたよ」
「災難だったニャ、マスター」
「ホントだよ」

 虎と狼から無事解放されたネギです。
 一時はどうなることやらと思ったが、二人の意識を現実世界に無理矢理連れ戻すことで事なきを得た。……もしこの生活が続くのなら、ストレスによる弊害でまた病院のお世話になってしまうことになるやもしれん。まだ6歳なのに。

 まぁ、今は自分の部屋にいるからある程度羽目を外せるし、リムがいるから話し相手にも困らない。ファントムには素材集めやら情報収集をやらせている。あとは原作に出てきたあのオコジョのできることを知ることができたら知ってほしいというところだ。
 原作の流れに乗って奴を雇うことで、何も知らない一般人を巻き込ませる……なんて事にはしたくないし、何よりさせられているという感じが否めないのでする気にならない。あの学園長(ぬらりひょん)の思惑に乗せられるぐらいなら立派な魔法使いなんかにゃならん!……いや、面倒だしなりたいとも思わんが。

「取り敢えずネカネさんが突撃を敢行してくる前に幻術と結界を張っとこうかな」

 さすがに夜這ゲフンゲフン……寝込みに襲ってくるなんてのはしないと思うが、一応念には念を入れておかないと、目が覚めたら後の祭りで「責任、取ってね」なんて言われないようにしておかないと。
 あの様子だと、そんなバカなと笑って済ませられないから困るんだよな。

「これでよし……どう、リム。この術式の何処かに綻びとか無いかな」
「大丈夫だと思うニャ。これニャら、よほどのことがニャい限り破られることはニャいニャ。ただ……」
「ただ?」
「マスターはえげつニャいニャ」

 ハハハ!何を仰るやら。寝込みを襲おうと考えなければ良いのだよ、考えなければね!

 つい出来心で、昔見た空飛ぶ黒いGがわらわらと出てくる幻術にしてしまっただけで、別に実害が有るわけでもないし。まぁ、魔法学校で上位に食い込んでるネカネさんがこの稚拙な魔法に掛かったら、それはそれで俺は笑笑(わらわら)とネカネさんを観察しているが。

「マスター……笑顔が黒いニャ」
「おっと、気を付けないと」

 これで日頃の鬱憤が晴らせるなら良いってもんよ!……後が恐いけど、まぁ、なんとかなるかな?俺ってばまだ6歳だから、そんなことできないって言えばいいよな!今回ばかりはそうしても許されるよな!

 幻術は今説明した通りだが、あと二つ予備で魔法を使っている。一つは防音結界。さすがに叫ばれたら近隣迷惑になるからこれは必須だ。ちなみに、俺の中にやらないという選択肢は存在していない!
 もう一つは、もしもネカネさんに幻術を破られたときの対処用術式だ。幻術を破るにはどうしても魔力を使うわけで……その時の魔力に反応して『眠りの霧(ネブラ・ヒュプノーティカ)』が発動するよう幻術に組み込んでおいたのだ。

「……もうすることないし、寝るか」

 取り敢えずこれで今日一日を乗り越えられるだろうと判断し、そのまま就寝することにした。



 ◇ ◇ ◇



「良い?静かに入るのよ」
「大丈夫です」

 扉の前で動いている影が二つ。片方は綺麗なブロンドの髪をそよがせ、もう一方は燃え盛るように真っ赤な髪を纏っている。

 二つの影は極力物音をたてないように気を付けながら歩を進め、彼女たちにとっていとおしくて堪らないと感じている少年が眠っている部屋の前までたどり着いた。

「良い?私は左側で、アーニャちゃんは右側だからね」
「はい!」

 もちろん、ネギはこんな話は知らないし、聞かせようとも思っていないため、小声で話されている。

 そもそも、何故アーニャがこの家にいるかと言えば、ネカネに勉強を教えてもらうことを名目に二人でネギの寝込みを襲いたいと考えているからである。そんな二人の間には、"抜け駆け禁止同盟"が組まれている。

「それじゃぁ……行くわよ」
「うん」

 (邪な方向で)意を決した二人は、その瞳に炎を灯して進むのであった!


 そして二人は静かに開けた扉の隙間に体を滑り込ませるような形で部屋へと侵入した。その際、妙な(・・)違和感を感じたネカネであったが、すぐ目の前に獲物(ネギ)が眠っているということもあり、意識はネギに固定されていた。……ネギが幻術なんて仕掛けるだなんて思ってないのも大きな理由だろう。

 ──ピト

「……え?」

 何かが二人の肩に落ちてきたような感覚がした。いきなりのことに二人は驚き、その何かを恐る恐る確認しようと首を回して──背筋に氷を入れられた感覚に囚われた。何せ、目の前には黒光りするGが、活発に蜂の巣の中を動き回ってる働き蜂の数ほど蠢いているんだから。



「キャアァァァアアアアァア!!?」
「イヤアァァアァアアァァア!!?」



 ……………………

 …………

 ……翌朝、二つの屍がネギの部屋に転がっていましたとさ。

「あれ……なんでアーニャまでこんな所に?」

 ネギは二人が目を覚ますまで首を傾げていたが、その事をアーニャに尋ねても満足できる答えが返ってこず、始終唸っていたそうな。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.