12歳ぐらいの少年少女が戦場に対して抱いている想いとは、大体の理想の中に英雄(ヒーロー)が出てきて敵を薙ぎ倒していくといった物語()だ。
 強大な力を蓄えた敵を、更に強大な力をその身に秘めた英雄が悪を討ち滅ぼす……起承転結さえ整っていれば簡単な物語となるものだが、どうしてもこんな物語を好きになることなどできそうもない。
 力が強大なだけ、その力を悪用しようとするもの、その力を忌避するもの等が現れてくるのが人間という生き物だから。

 生前、俺が生きていた時代には魔法なんてものはなく、火縄銃などの遠距離用の武器が出てくるまでは軍と軍が、本当の意味で"ぶつかり合って"いた。
 そこに超常的な物は存在しておらず、ひたすらに磨きあげた戦略・戦術、鍛え上げた己の武力、将軍から末端までに至るまで洗練された軍同士で戦っていたその時代を、全てとは言わないが、古より積み上げられてきたものが否定された気分になってしまうのだ。

 だからといって、この考えを誰かに押し付けようとは思わないし、英雄の息子である俺が、あまりおおっぴらに魔法を否定するような事を含む発言をするべきではない。……普通に生活しているだけのときに、敵を作るような行為を進んでするのは頂けないからな。

 俺にいじられて涙目になってる二人の可愛らしい姿を拝めただけでも……って、そうじゃない。いくら俺が見た目よりも大人びていると言え、俺の年齢は6歳。どんな論述をしたって子供の戯れ言になってしまうか、現実を直視しない正義の魔法使い(ぼんくら)どもによって排除されてしまうだろう。
 その筆頭は勿論MM元老院。まるで蛆虫のように延々と溢れる……まるっきり害虫なんだが。

 まあ、そんなこんなで二人の討論については適当に切り上げることにした。今ここで俺の考えを二人にさらけ出したところで、何かメリットがあるわけでもないし、面倒な話になっていくのが目に見えていた。

 それにしても、なんか頭の片隅に引っかかってることがあるんだよな……

「ああ、そうだ。今日ここに来たのはルヴィアさんに聞きたいことがあったからなんだ」
「聞きたいこと?なんですの?」
「あれから日数が経ったけど、そろそろあの二人の謹慎が解かれる頃じゃない?」
「え?……ああ、そうでしたわね。確か明日のはずですわ」
「ですよね……」

 数日前に校内で攻撃魔法を使い、ちょうどそのとき近くを歩いていた俺に天誅を喰らわされた残念な二人の男子生徒の謹慎解禁日が明日に迫っているのだ。
 校則として定められている約束ごとの中でも重い規則を破ってしまった二人だが、これと言って目立った被害は見受けられなかった──逆に、二人の男子生徒が酷い目に遭ったが──ため、退学にはならずにすんだのだが……問題は、その二人が登校してきたときにどんな行動をとるのかがわからないと言うことだ。
 『悪夢への誘い』を使ったのは俺だが、巧いこと隠れていた俺の姿を見つけることのできなかった男子生徒がそんなことを知っているわけもない。……だから、その原因はルヴィアのせいだと言いつけて突貫してくる可能性が高い。
 それから、許嫁という話もあったが、この一件でお怒りになられたルヴィアのお父様が破棄したそうだ。俺のことは全て伏せてもらっているため、目立ったこともなく事が済んでうれしい限りだ。
 それに、結婚という人生の中でも大きな転機となる場面の前に粗暴な男だと判明することができて、親としてはよかっただろう。

「ねぇ、何の話よ」
「そう言えば貴女には言ってませんでしたわね……ネギさん、彼女に話しても良いですか?」
「う〜ん……できたら、周りに人がいない所で紅茶でも飲みながら話さない?」
「ああ、それも良いですわね。遠坂さん、お話ししますので一緒にティーでもいかがです?」
「まぁ、別に良いけど……」

 さて、如何にして俺の話に触れさせないように、実力がばれないように話していけば良いのやら。



 ◇ ◇ ◇



「はあ?あの事件にあんたたちが関わってたの?」
「まあ、ルヴィアさんは関わったと言うより被害者なんですけどね」

 絡まれたら面倒だから俺の英雄譚(いじめ話)は飛ばして話したが、まさかルヴィアが中心人物だとは思ってなかったみたいだ。まず魔法を使ってきた相手をルヴィアが返り討ちにしたと説明すると、いくら自分が認める優等生でもそれは難しいのではないかと凛がいちゃもんを付けてきた。……いつもはおっちょこちょいなのに、何故そこで類稀な鋭さを発揮するんだ!?
 なので、その次に俺の頭の中で控えていた二番バッター"マートン"が打席に立った。
 本当は同じぐらいの実力で拮抗してたんだけど、『魔法の射手』がぶつかり合った直後に丁度近くにいた先生が駆け寄ってきたんだ……という説明をした。すると、どう解釈したか分からないが、凛はルヴィアの方を見てニヤニヤしていた。上手くマートンがレフト(ルヴィア)側に運び、タイムリーツーベースとなったわけだ。

 このように説明は真実と嘘を織り交ぜて語るのが鉄則だ!お兄さんとの約束だぞ!……お坊ちゃまの方があってるか。

「で、謹慎云々の話はその二人のことだったのね」
「そうです」
「ふ〜ん……それは分かったけどさ、ならアンタとルヴィアの馴れ初めはなんなのよ」
「は……?」

 おうふ……まさか、そこを突いてくるとは!あまり人と関わろうとしてないから馴れ初め云々を聞いてくるという事までには至らなかったゼ……友達何人できるかなぁ。

「それに、さっきも同じこと聞いたけど、アンタはどれぐらいの実力なのよ。私のことをバカにしてくれたぐらいなんだから周りの連中よりもできるんでしょうねぇ!」

 ぐぬ……表面上はポーカーフェイスを保ってるけどいつまでもつだろうか。ここわさり気無く変化球で勝負だ!俺は抑えで"藤川球児"をリリーフ、絶妙なところに落としどころを見つけるSFF!
 ※SFFとは、Split-finger Fastballの略であり、フォークよりも速い球速で小さく落ちる球種のことだ。

「まぁ、人によって魔法の得意な属性が違いますし、攻撃魔法が得意な人がいれば回復や支援系の魔法が得意な人だっています。ところで、凛さんはどんな魔法を好んで使うんですか?もしかしてさっき話に出ていた『魔法の射手』が得意なんですか?」
「な、アンタはいつから話を聞いてたのよ……って、そうじゃない!今話してるのは私の得意な魔法じゃなくてアンタの実力よ!」

 な……良いところに落としたと思ったら、意外にも食いついてきた。これで、一二塁間を抜けられてランナー一塁。なら、ここは変化球じゃなくて直球、火の玉ストレートで勝負!

「……実は、その事件には僕も関わっているんですよ」
「ネギさん!?」
「……へぇ」

 あの時、一応周りの人に黙っておくようにと言っておいたためルヴィアが驚きの表情を浮かべた。そこでそんな表情されると此方としては困るんだが……あぁ、ほら、隣にいる凛が貴女の顔を見て何かを考えていますよ。
 恐らく、これはネギもどこかで一枚噛んでやがる!とか考えてるんだ。

「もしかして、その時アンタが魔法を使ったから、今こうしてルヴィアに呼称付けで呼ばれてるわけ?」
「……頭の回転が速くないですか?まぁ、その通りだから何も言えませんが」

 嗚呼、ツーランホームランだ……一点差で勝ってたのに、これじゃ逆転負けになってしまう。どこか、どこかで点数を稼げる所はないだろうか!
 どうにかして話を切り上げられる場所を考えていると、秘密を知ることができて嬉しいのだろう。憎たらしいほどのドヤ顔を浮かべた凛が尋ねてくる。それでいて絵になるのだから腹立たしい。

「それでぇ、実際アンタが得意な魔法はなんなのよ。その時使った魔法でも良いわよ?ルヴィアが認めた程のものだったら私でも認めると思うし」
「いや……あの魔法は簡単に人に使えるものじゃないんですけど」
「なんでよ」
「だって、あの時使ったのは幻覚系の魔法ですから」
「……あ〜」

 何となく分かってくれた模様。6歳が使う幻覚魔法なんか!とか言われたら掛かってみますかと俺から勧めてみようかと思ったんだが、そんなことが無くてよかった。俺とて誰彼構わず『悪夢への誘い』を使いたいとは思わないからな。

「そう言えば、そろそろ良い時間ですし、もう行きませんか?」
「あら、もうそんな時間?もっとアンタに聞きたいことはあったんだけどなぁ……」
「まぁ、これぐらいの時間であればここにいる間はいつでも取れると思いますわ。ですから、その時また一緒に紅茶を飲みましょう、ネギさん」
「うん、そう」

 "だね"と続けようとした俺の言葉は途中で途切れ、何かが耳の横を音を立てながら通り過ぎていった気がした。直前まですぐ傍で楽しく話をしていた二人の姿が遠ざかっていく。……否、俺の体が二人がいた場所から勢いよく離れていっている。
 すぐ異変に気づいた二人は俺の近くに寄って来たが、俺の姿を見た二人の顔色は血の気が引いたように蒼くなっていく。大きく口を開いて何かを叫んでいるような、はたまた話しかけてきているような気がするが、その音も次第に遠くに離れていく。二人が俺に近づけば近づくほど……俺の意識も遠くなっていく。
 精一杯動かそうとした頭は、しかしゆっくりと、少ししか動かなかったが、俺は視界の隅で何か赤いものを見つけた。俺を中心にして次第に大きく広がっていく。そこに芸術的な鱗片は一つもなく、面白さも何もない……それが自分の血だと気付いたのは、意識が真っ暗闇に覆われてしまう前だった。



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