魔 法先生ネギま!

〜ある兄妹の乱入〜

外伝 トラブルトラベル 3話目B

 

 

 

 

 

 

「ところで・・・」
「おお、復活が早いな」

まだ事態の収拾がつかない最中、勇磨がむっくりと起き上がった。
色合いこそまだ薄い(笑)ものの、支障が無いほどには回復したらしい。

「元より打たれ強さには自信があってね。
 それに、誰かさんのおかげで、日々レベルアップしているのさ・・・」
「・・・まあ、誰とは言わんがな」

遠くを見つめるような勇磨に、エヴァもあえて口にしたりはしない。
決して、双子の片割れの、髪の長いお方だとは・・・

「錬磨、玉美姉。父さんと母さんは?」
「琢磨? 琢磨ならきのう、出かけてったわよ。仕事みたい」
「お母さんは買い物に行ったよ」

琢磨というのは、勇磨たちの父親の名前。
言うまでも無く、御門流の先代だ。

家督は勇磨に譲ったが、引退したわけではなく、現役の退魔士として活躍している。
地方まで出かけて行って、何日か家を空けることもあるのだ。

「もうすぐ帰ってくるんじゃないかな?」
「そうか」

「ただいま〜」

玄関のほうから女性の声。
言っている側から、らしい。

「あ、帰ってきた」

すっくと立ち上がった錬磨は、玄関へと駆けていった。
まだまだ甘えたい盛りか。

「ただいま〜。・・・あら?」

程なく、話に出た人物がやってきた。
流れるような金髪を持つ、雅な雰囲気を感じさせる美女である。

「勇磨、帰ってたの?」
「ああ、うん。ただいま」
「おかえりなさい。そして、お客様かしら?」

「失礼している、ご母堂」
「まあまあ、ご母堂だなんて」

彼女はまず勇磨の姿を認めると、そのように言葉を交わして。
続けてエヴァの姿を確認した。

エヴァはかしこまった物言いで応対し、勇磨の母もあらあらと微笑む。

「玉美ねぇっ、玉美ねぇっ」
「・・・?」

彼女の後ろから、錬磨が何やら、玉美を手招き。
首を傾げる玉美だったが、席を立った。

「なによぅ?」
「気を利かせようねっ」
「??? わ、ちょっ、引っ張らないでよぅ!?」

錬磨は玉美を引き込むようにして引っ張ると、そのまま去っていった。
しかし去り際、勇磨に向かってサインを送る。

(がんばれっ!)

やはり、勘違いしたままのようだ。

(やれやれあいつは・・・・・・マセガキめっ!)

はあっ、とため息の勇磨である。
兎にも角にも、部屋には勇磨とエヴァ、そして勇磨の母親だけとなった。

「あらあら。どうしたのかしらあの子たちは?」
「さあ、どうしたんだろうねぇ・・・」

この母親は、いつもぽや〜んとしているが、今このときもそうだった。
苦笑を通り越して、ため息しか出てこない。

「えーと、私も退散したほうがいい?」
「いや、まあ・・・・・・座ってよ」
「いいの? お邪魔じゃないかしら?」
「いいから座って。その・・・・・・大事な話があるから」
「大事な話?」

ある決意を固めて、勇磨は母親に座るように促した。

今回、まったくの偶然とはいえ、こうして元の世界に帰れたわけだ。
しかし、向こうに環を残してきたままであるし、このまま滞在し続けるというわけにもいかない。
また戻らねばならない。

せっかくの機会だから、すべてを話しておこうと思った。
事の始まりから、終わりがいつになるか、わからないことまで・・・

「まあまあ、何かしら。楽しみだわ」

複雑な勇磨の心境を知ってか知らずか。
彼女は、笑みを浮かべながら、2人の対面に、ロングスカートの裾を気にしながら腰を下ろす。
座り方は綺麗な正座であり、座る拍子に、長い金色の髪が、ふわりとなびいた。

「あ、自己紹介してなかったわね。勇磨の母、玉藻と申します」
「エヴァンジェリン=A・K=マクダウェルだ、ご母堂」

玉藻が名乗ると、エヴァも名乗り返す。

「エヴァンジェリンさん・・・。外国の方?」
「ああ」
「そうなの。長いから、エヴァさん、って呼ばせてもらってもいいかしら」
「構わない。勇磨からもそう呼ばれているしな。ちゃん付けだが」
「あらあら、そうなの」
「人が嫌だと言っても、聞かないヤツだ」
「まあまあ。勇磨、人が嫌がることをしたらだめでしょ」
「あ、あはは」

知人の前で、母親に叱られるということが恥ずかしくて。
勇磨は笑うしかなかった。

伝説の大妖を前にしても、エヴァの振る舞いはまるで変わらない。
感じるものはあるはずだが、真祖としての面目躍如だろう。

「環は一緒じゃないの? 姿が見えないけれど」
「うん、まあ・・・。あいつは、急な仕事が入ってね。1人で充分だって言うもんだから」
「あらそう。珍しいこともあったものね」

あの子は、昔から勇磨にベッタリだから。
いつまでたっても、お兄ちゃん離れできないのよね〜。

苦笑を交えながら、玉藻が語ったこと。

(あいつのそれは、そんな程度では済まないと思うがな・・・)

同意しつつも、もっと度を越えているのではないかと、エヴァはいぶかしんだ。

「ごめんなさい、蛇足だったわね。それで、お話って?」
「うん。実は・・・」

勇磨はすべてを説明した。
包み隠さず、自分の身に起こったことを、みんな話した。

「・・・ってな具合になっててね」
「そう」
「ごめん、さっき言ったことはウソだ。環はまだ”向こう”にいる。
 俺たちは偶然、事故でたまたま、戻ってこられたに過ぎないんだ」
「そう」

話を聞く間、玉藻は余計なことは言わないとばかり、相槌だけを打って。
頷くばかりだった。

「それで・・・・・・・・・これからのことなんだけど」
「あちらの世界に戻る、というのでしょう?」
「・・・さすがにバレたか」
「バレバレです」

ここで初めて、自分の意見を挟んだ。
すました顔で言ってのける。

「あなたは私の息子なのよ? なんでも丸分かりです」
「ははは、そっか」

さらに得意げな顔になるものだから、笑わずにはいられなかった。

「いい・・・・・かな?」
「いいも悪いもありません」

勇磨が許可を求めると、表情が険しくなった。
ビシッと、しっかりしろとばかりに、口調も険しくなる。

「あなたももう子供じゃないんだから、自分の進む道は自分で決めなさい。
 そして、自分で選んだことに責任を持ちなさい」

久しぶりに聞くお説教は、ズシンと心に響いて。
なぜだか、うれしかった。

「いいわね? 絶対に、安易な考えで決めたり、途中で投げ出したりしてはダメよ?」
「うん、わかった」

だから、晴れ晴れとした顔で、頷くことが出来る。
もはや迷いなど無い。

「エヴァさん」
「なにかな?」

玉藻はエヴァに向き直り、頼み込む。

「こんなことを頼むのは気が引けるのだけれど、勇磨のこと、お願いするわね。
 この子はこう見えて、すごく寂しがりやだから」
「ちょっ、母さん・・・」
「ああ、そうだな」
「エヴァちゃんまで・・・」

勇磨の言葉は無視されるらしい。
エヴァはクックと笑いながら。

「こちらの世界に来たばかりの頃、私には強引に迫ったくらいだからな」
「うぉいっ! その発言は誤解の余地が――」

「ダメじゃない勇磨。きちんと合意の上でやらないと」

「ナンの話をしておるかナンの!? というか、きっちり誤解してるんじゃない母さん!」

やはり無視される勇磨。
ツッコミばかりで、息がはあはあと切れている。

母も母で、見事に乗ってくれなくてもいいのに。
いや、この人は天然だから、本気で言っているのかもしれないが。

「なに呼吸を乱してるんだ、おまえは」
「誰のせいだよ!? はあはあ・・・」
「クックック」

さらにツッコむものだから、呼吸の限界。
エヴァはなおもおかしそうに笑う。

「だがまあ、任せておけ」
「ええ、貴女なら安心だわ。今のやり取りを見てもね♪」

笑顔で承知するエヴァ。
この笑みの意味は、のちのち、判明する。

「その代わり、ひとつ、質問に答えてもらってもいいか?」
「なにかしら?」

エヴァの質問とは?

「異種族間での恋愛とは、どういうものだ? 許されるものだと思うか?
 また、幸せになれると思うか?」
「あら・・・」

玉藻は目をパチクリ。
あらまあと、勇磨とエヴァを交互に見て。

勇磨が頷くのを見ると、降参した。

「エヴァさん、みっつに増えてるわよ」
「それはすまない。だが、答えて欲しい」
「わかったわ。あなたも、人間ではないのね」
「うむ」
「順番に答えましょう」

和やかな空気の中、応答は返される。

「まず最初の質問。違う種族だろうが、同じ種族だろうが、恋は恋でしょ?
 まったく同じものだと思うわよ」
「ふむ・・・」
「で、ふたつめね。同じ恋愛なのだから、許すも許されるも無いと思うの。
 確かに種族の壁は大きいけれど、それに勝るだけの大きな愛があれば、
 まったく問題は無いと思うわよ。要は、気持ち次第ということね」
「うむ・・・」

満足なのか、不満なのか。
エヴァの返事は片言。

「最後に、みっつめだけれど・・・。
 幸せの定義は人それぞれだから、一概には言えないけれど。
 少なくとも私は、素敵な旦那様に出会えて、可愛い子供たちにも恵まれて・・・・・・幸せだわ。
 ものすごく幸せ」

「・・・そうか」

大きく頷くエヴァ。
しばらく何かを考え込むように無言だったが、俯いた視線が上がったときには、
表情が明るくなっていた。

「エヴァさん。貴女の考えていることは大体わかるけれど、がんばりなさい。
 種族が違おうがなんだろうが、幸せになる権利は誰にでもあるものだし、
 その権利は何者にも奪われない。だから、ね?」
「そうだな」

「・・・え? え・・・?」

母親とエヴァ。
2人の横目での視線が勇磨へと向いて、当の本人は、オロオロするばかりである。

「・・・ふぅ」
「これですものね」

「な、なんなんだ?」

勇磨の反応にため息のエヴァと玉藻。
首を傾げるしかない勇磨。

「まあとにかく、がんばるしかないということだな」
「ええ。今度会うときは、孫の顔を見られるかしら?」
「ふふ、そうだな、考慮しておこう」
「ふふふ♪」

「ま、孫!?」

わけがわからないばがらも、不穏な単語に勇磨はビックリする。
知らぬは当人ばかりなり。

 

 

 

 

その日は、御門邸で一泊し。
翌日早く、玉美や錬磨が起き出してくる前に、元の世界に帰ることになった。

もっとも、アメノムラクモノツルギを上手く扱い、上手く制御できるかどうかは、
まったくの未知数なのだが。

「じゃあ、母さん・・・。またいってくるよ」
「ええ、いってらっしゃい」

笑顔で、別れを告げる。
とはいえ、永遠の別れなどでは、決してない。

「勇磨。ここはあなたの家なのだから、いつでも帰ってらっしゃい。
 少なくとも、往復できる手段が、あなたにはあるということでしょう?」
「まあね。ものすごく確率は低いけど」
「がんばって、あなたの役割をしっかり果たしなさい」
「ああ」

力強く。勢いよく頷く。

「環にも、こっちのことは心配しないで、元気にやりなさいって伝えてね」
「うん。父さんにもよろしく」
「上手く言っておくわ。エヴァさん」
「なんだ?」

玉藻の優しい視線がエヴァへ。
エヴァも穏やかな表情で応じる。

「ファイト♪」
「任せておけ」

なんのことかは、当人のみが知る。
ゆうべ、玉藻がエヴァを誘って一緒の部屋で寝た2人だから、秘密の話があったのかもしれない。

「では・・・。アデアット!」

アーティファクト召喚。
思い切り振るう。

 

斬ッ!!

 

奇跡的に一発で成功。
出来た割れ目に勇磨とエヴァは飲み込まれ、閉じた後、玉藻の目には誰も映らなかった。

「孫の顔、本気で期待しちゃおうかしら。ふふふ♪」

 

 

 

 

 

 

後日談

なんとか帰還を果たしたあと、エヴァが環に、自慢顔に言い放ったことがある。

「残念だったな妹!」

なんのことかと、きょとんとする環に向かって。

「私は貴様らの母親に認めてもらった。勇磨をよろしくね、とのことだ。はっはっは!」

文字通り自慢げに言い放つ。
言い終えると、そのときは満足したのか、のっしのっしと去っていった。

「・・・・・・兄さん?」
「あー、その〜・・・」

ポカーンとした様子で、去って行くエヴァの姿を眺めていた環。
やがて、油の切れた機械のように、ギギギと勇磨のほうへ顔を向けて。

「ど、どういうことなんですか兄さん!?」
「いや、あのね・・・・・・まず落ち着こう。ね?」
「これが落ち着いていられますかッ!!」
「ギャースッ!!」

そのあとは、阿鼻叫喚の地獄絵図だったとか・・・

 

 

 

 

終わり

 

 

 

 

 

 

 

 

<あとがき>

Bパターンも完結!

これは親公認になるのか?
エヴァの攻勢が強まりそうな予感です!

 

以下、Web拍手返信です。
拍手していただいている皆様、本当にありがとうございます!

 

>自分もハーレム派なのですが、無理そうならできればこのかに出番を!!

さらにハーレム派が増殖中・・・!
無理・・・とはならないでしょうが、外伝でこのかの出番は・・・?
が、がんばります!

>更新おめでとうございます。私もハーレムに一票で

ハーレム派の勢いはバケモノか!w
もはや回避不能のところまで追い詰められているようです。

>さっちゃんに、出番ぉぉぉぉ

さっちゃんとは、まさか四葉五月?
旦那ぁ、それはさすがに無理な相談ですぜ・・・


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