魔 法先生ネギま!

〜ある兄妹の乱入〜

外伝 悩める人魚姫

 

 

 

 

 

 

とある休日の出来事である。

「うーん、やっぱりたまには羽を伸ばさないとな」

麻帆良学園都市、街中を歩いている勇磨がいる。
滅多に外出はしないのだが、そこはやはり、たまには自由な空気を吸いたいものである。

なにより1番大きな理由は、部屋にいると環に監視されているようで、
束縛から逃れたいという思いからだ。

「とはいえ・・・」

浮かれていた気持ちから一変。
ズボンのポケットから財布を取り出し、中身を確認して、大きなため息をつく。

「ロクに何も出来ないのが、辛いところだ・・・」

環が全権を持っているため、万年、金欠病の勇磨。
もちろんお札なんてものが入っているわけが無く、小銭が僅かにあるのみである。

「俺の生命線は、この500円玉・・・」

唯一の救いは、500円硬貨があることか。
だがそれでも、無一文というわけではないだけで、出来ることはかなり限られる。

「どうするかなあ・・・」

出てきたはいいが、あらかじめ計画を立てていたわけではない。
先に述べた、金欠であることも悩みの種。

たったの数百円程度では、何か娯楽をするなどもってのほかである。
仮に出来たとしても、なけなしの全財産が一気にすっ飛ぶ。そんな事態は避けたい。
と、なると・・・

「やっぱ、たまにはどこかでお茶くらいしたいから、どこか喫茶店でも入ってお茶でもして、
 そのあとは、どこかの本屋で立ち読みかなあ」

今日は珍しく、環が午後を丸々解放してくれた。
夕食までに帰ればいいので、時間だけはたっぷりある。

500円あれば、コーヒー1杯くらいは飲めるだろう。
それからは、どこか適当な書店で、適当な雑誌でも立ち読みしていよう。

「何か面白い雑誌があればいいけど。・・・ん? あれは・・・」

喫茶店を探して、ブラブラ歩いていると、見覚えのある人物を見つけた。
オープンテラス型のカフェ、外に設営してある席に、長いポニーテール。

「大河内さん?」

そう。アキラである。

「1人でいるのは珍しいな。ん〜、なんか思いつめたような顔してるけど・・・」

いつも、まき絵や亜子あたりと一緒にいるイメージがある。
1人だけという姿を見るのは珍しかった。

頬杖をついているアキラは、その端正な顔立ちが沈んでいるように見える。
普段からあまり表情に出すタイプではないから、いっそう目立った。

「うーん、気になる・・・」

わりと近くまで来ているのに、自分に気付かないほど落ち込んでいると見た。
だがしかし、簡単に立ち入ってしまっていいものか。

これが男同士ならば、ある程度は気軽に声をかけられる。
だが、今回は相手が女性だし、クラスメイトというだけで、特別親しいわけでもない。

何か力になれるなら・・・とは思うが、難しい。

「む〜ん・・・」

勇磨は考えた末に。

「ええい、いったれ! しない後悔よりは、やってから後悔!」

突貫することに決定。
ちょうどお茶でもと思っていたところであり、一石二鳥だ。

彼自身、そんな性格が、数々のトラブルを招いているとは、露知らず。

「やあ、大河内さん」
「えっ・・・?」

歩み寄って声をかける。

「奇遇だね、こんなところで会うなんて」
「あ、や・・・・・・み、御門君? う、うん・・・」

突然の呼びかけに顔を上げたアキラは、大いに驚いたようだ。
案の定、勇磨の存在にすら気付いていなかったようで、言葉が上手く出てこない。
この様子には、勇磨のほうも驚いてしまった。

「ご、ごめん、そんなに驚くとは思わなかった」
「う、うん・・・」
「えーと、ここ、いいかな? お茶しようかと思っていたところなんで」
「え・・・!?」
「あ、いや・・・」

相席でもいいか、と尋ねたところ、最初以上の驚きを見せるアキラ。
さすがの勇磨もたじろぎ、空気を読む。

「お、お邪魔かな? だったらいいんだ、他へ行くから。うん」
「・・・・・・」
「じゃ、じゃあね。また学校で」
「あ・・・」

返事が無いことを肯定だと判断。
ならばさっさと退散しようとした勇磨だったが、アキラが、惜しむような声を出したのだ。

「え、ええと?」
「・・・・・・」
「い、いいのかな?」
「(・・・コク)」

振り返る勇磨に、アキラは、少し顔を赤くしながらも頷いて。

「お茶・・・・・・するんでしょう?」

逆に、こう問い返す。

「確かにそうなんだけど、他の席に行ってもいいし・・・」
「・・・席、いっぱいみたいだよ」
「おわ、確かに満席」

アキラにだけ気を取られていたので気付かなかったが、この店、
店内店外ともに、なぜだか満席だった。

「なら、どっか他の店に・・・。ここじゃなきゃダメってわけでもないしさ」
「ここのコーヒーは美味しいから・・・」
「あーなるほど」

納得した。だからこんなに混んでいるのか。
よくよく見てみると、アキラの前にも、飲みかけのコーヒーが置かれている。
どうも、その筋では有名なお店らしい。

そうだというなら、是非とも味わってみたいが。

「ええと、本当にいいの?」
「・・・御門君がいいなら」
「じゃあ・・・・・・お言葉に甘えまして」

声をかけておいてなんだが、受け入れてもらえるとは思っていなかった。
内心ではビックリしつつ、椅子を引いて座る。

「ご注文はお決まりでしょうか?」
「ああ、ええと、アイスコーヒーひとつ」
「かしこまりました。少々お待ちください」

目ざとく気付いた店員が寄ってきて、注文を伝える。
待ち合わせか何かだと思われたのだろう。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

店員が去ると、沈黙の空間が出来上がる。

(き、気まずい・・・)

まだ知り合って日が浅いが、アキラが多弁な性格でないことは知っている。
しかも、相席を無理やり承諾させてしまったようなものでもあり、非常に微妙な空気が流れている。

(な、何か言わないとなあ)

そんな責任もあって、自分から話を振るしかあるまい。

「えと、いい天気だね」
「・・・そうだね」
「あはは・・・」
「・・・・・・」

再び、沈黙。

(何やってんだ俺! 今どきこんな会話、三流コントでもやらねーって!)

自分で自分に呆れる勇磨。
もっとマシなことは言えないものなのかと。

「お待たせいたしました」

そこに救いの神が光臨。
注文したコーヒーを、トレイに載せて店員が運んできた。

ほんの僅かな時間にせよ、空気が和むことには違いない。
軽く礼を言って、これ幸いと思いながら、ストローを差し込んで口に運んだ。

「・・・あ、本当に美味い」
「うん・・・」

自然と感想が口に出る。
アキラも頷いてくれた。

「御門君、ブラックなんだ・・・」
「ああ、うん。甘いものは苦手で」
「へえ・・・」

コーヒーのおかげで、少し会話できたと思いきや。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

みたび、沈黙。

(まずい・・・)

このままでは、どうにもまずい。
焦り始める勇磨だが、どうにもならない。本題に入れそうもない。

何かきっかけが掴めればいいのだが・・・

「・・・・・・ごめん」
「ふえっ?」

そんな折、なぜかアキラが謝ってきた。
不意を衝かれた上に、まさかと思っていた行動で、変な声を上げてしまう。

「私なんかといても、つまらないよね・・・」
「へっ? あ、あー、そんなことは・・・」
「いい・・・。自分が1番、よくわかってるから・・・」
「・・・・・・・・・」

アキラに言われたこともそうだが、他の意味で、ぶわっと嫌な汗が噴き出てくる。
そう。これではまるで・・・

(強引にナンパしたのはいいが、話が弾まない典型的な例なのでわ・・・!?)

猛烈に嫌な予感。
周りにはなんと思われていることか、たまったものではない。

もちろんナンパなどではないのだが、本人はそう思っていても、周りはわからないだろう。
もしかしたら、別れ際のカップル、なんて印象をも与えてしまっているかもしれない。

(な、なんとかしないと・・・!)

ここは麻帆良学園都市。
もちろん、他の生徒や学生もいるはずだ。

こんなところを、ましてや、クラスの噂好きな連中に見られでもしたら・・・

今さらながら、自分のしでかしたことの重大性に気づく勇磨。
しかし、焦れば焦るほど、良い考えなんてものは浮かばない。

「え、えーと・・・・・・あのその・・・・・・」

何か話題は無いかと、あたふたしていると。

「・・・御門君」
「えっ? う、うん、なに?」

またしても、アキラのほうから先手を打たれてしまう。
ドキッとして聞き返す勇磨。

「どうして・・・・・・私なんかに声をかけたの?」
「え、ええと・・・」
「どうして、私なんかと相席しようと思ったの・・・?」
「・・・・・・」

答えに詰まってしまう質問ではあったが。
これは、逆にチャンスではないか。

なかなか言い出せず、きっかけを待っていたのだが、またとない機会ではないか。

「・・・実はね」

勇磨はひとつ息を吐き出すと、意を決して話し始める。
2人の前に置かれたコップ内、カランと、氷が音を立てた。

 

 

 

 

「大河内さんを見かけたのは、偶然だったんだけど・・・」
「・・・・・・」

勇磨の話を、アキラは、真剣な眼差しで聞く。

「なんかさ・・・・・・落ち込んでいるというか、悩んでいるように見えたからさ」
「私が・・・?」

そして、戸惑う。
自分では、そのようには思っていなかったようだ。

「・・・そんなふうに見えた?」
「まあね。わりと深刻そうに見えた」
「・・・・・・そう。そうかも、しれない・・・」

指摘され、認めるアキラ。
その顔は、驚くほど無表情である。

「続けるよ」

そんなアキラの様子を気にかけつつ、勇磨は先を続ける。

「だから、そのー・・・。余計なお世話だとも思ったんだけどさ。
 馬鹿で剣くらいしか取り得のない俺だけど、話を聞くことくらいは出来るかと思って、さ・・・」
「・・・・・・」
「あー・・・。この際だから言うね。俺なんかでよかったら、相談に乗るよ?」
「・・・・・・」

アキラは相変わらずの無表情。
視線も逸らしているが、勇磨は諦めずに、話を続けた。

「もちろん、無理にとは言わないけどね。でも、1人で抱えていても、何も良くならないと思うんだ。
 誰か信頼の置ける人に話してしまったほうが楽だし、1人で悩むよりは2人だよ。もしかしたら、
 何か解決策が見つかるかもしれない」
「・・・・・・」
「なんてね。ああ、肝心の、俺が『信頼の置ける』人物足りえないか。あはは、こりゃまた失礼」
「・・・・・・ふふっ」
「お?」

無言だったアキラ。
勇磨が最後、あまりにおどけて言うものだから、思わず吹き出す。

「そうそう、笑ってこう。人生は長いんだから、楽しまないとね。
 それに、女の子は笑ってたほうが、絶対にカワイイって」
「か、かわいい・・・?」
「一般論だけど。あ、大河内さんが例外だって言ってるんじゃないよ?
 むしろ、当てはまるっていうか、一般論のほうが霞むくらいだというか」
「・・・ウソばっかり。私なんかかわいくないよ・・・」
「いやいや」

謙遜するアキラではあるが。
贔屓目抜きで見ても、かなり上位だと思うのは、勇磨だけであろうか?

「こんな、無口で無愛想な女、かわいくないでしょう・・・?」
「そんなことないって。俺が保証する!」
「・・・・・・・・・」
「あ、いや・・・」

断言してしまう勇磨である。
あまりにはっきり言われてしまい、アキラの目は点になった。

「や、やっぱり俺なんかが言っても説得力ないな、うん。失礼しました」
「・・・・・・ふふふ」

1度ならず2度までも、おどけてみせる勇磨。
アキラは再び吹き出していた。

「そうそう、その笑顔その笑顔。かわいいよ」
「も、もう・・・・・おだてても何も出ないから・・・・・・」

顔を赤くし、照れながらはにかむアキラ。
勇磨も諸兄も、それでいいんだと思うところであろう。

「・・・・・・も、いいかな」
「え?」

そんなアキラが、ポツリと呟く。

「私の悩み。・・・聞いてもらおうかな」
「お、オーケーオーケー。俺でよければ何でも聞くよ。バッチコーイッ」
「ふふふ・・・」

もはや堪えきれないとばかりに、アキラは笑って。
悩んでいた理由を話してくれた。

それによると。

「スランプ?」
「うん・・・」

部活における、極度の不振。
このところ、タイムがまったく出ないんだそうだ。

アキラが水泳部のエースであることは、周知の事実。
勇磨も先日、部活見学に行った際に、実際に一緒に泳いでみて、その実力は肌で感じている。
だからこそ、周囲の期待も大きい。

「いろいろ試してはみてるんだけど・・・・・・ダメで・・・・・・。
 コーチとかには、たるんでる、実が入ってないからだとか怒られちゃうし・・・・・・
 私は真剣にやってるんだけど・・・・・・」

「・・・そうか」

期待の大きさは、裏を返せばプレッシャーとなる。

なんだかんだいっても、まだ中学3年生なのだ。
精神的な負担は計り知れない。

「どうしたら・・・・・・いいかな・・・・・・?」
「そうだねぇ」

う〜んと考え込む勇磨。

こんな折、自分が体育会系の人間でよかったと感じる。
無論、ジャンルは違うにせよ、根本的な部分では同じだと思うからだ。

「よくわかるよ、その気持ち。なんせ実感してるからね」
「実感って・・・。御門君、何かスポーツでも・・・?」
「剣道、とはまた少し違うんだけどね。大河内さんには言ってなかったっけ。
 実家が剣術道場でね。俺もやってるんだけど」
「・・・そうなんだ」

アキラには初耳なこと。
聞いたと同時に、気付くこともあった。

「あ、だから・・・・・・竹刀を入れる袋を持ち歩いてるの? 桜咲さんと同じ・・・」
「そうそう。なんかさ、もう身体の一部分みたいな気持ちになっちゃってね」
「・・・うん、わかる」

実際には、いつ現れるかわからない、刺客への対処に携帯しているものだが。
少なからず、そういった気持ちがあることも事実である。

水泳部のアキラに例えると、キャップやゴーグル、といった感じだろうか。
深く同意するアキラだ。

「始めてしばらくは、順調に上達するんだけどね。
 ある一定のレベルまで達すると、そこを境に、なんというか、足踏みしたりするんだよね」
「うん」
「で、そこでどうするかが、今後を左右してしまうわけだ。
 超えられれば、ひと回りもふた回りも成長し、超えられなければ、そこで終わってしまう」
「・・・うん」
「まあ幸いにして、自分で言うのもなんだけど、俺は超えられたから、今こうしてここにいるわけだけど」

「御門君」

アキラの目の色が変わった。

同じような体験をし、乗り越えたという勇磨の実体験。
今まさにスランプの真っ只中にいる彼女にとって、彼の経験談は生きる教科書なのだ。

「お願い、教えて。そのとき、あなたがどうしたのか・・・。
 どうやって壁を乗り越えたのか、教えて」
「もちろん」

快く頷く勇磨だが。

「でも、その前に」
「え?」

もったいぶってみる。

「ひとつ、質問するよ」
「う、うん」
「大河内さんは、どうして水泳をやってるのかな?」
「え・・・!」

このときアキラは、ガツーンと、鈍器で頭を殴られたかのような衝撃を受けた。
思いも寄らない質問だったばかりか、考えたことすら無かったからだ。

「そ、それは・・・」
「うん、どうして?」
「・・・・・・・・・」

考えたこと自体が無いから、答えなど出てくるわけが無い。
アキラは俯いて黙り込んでしまった。

「タイムを伸ばしたいから? タイムを伸ばして、みんなに褒めてもらいたいから?
 転じて、名誉を得たいからかな? 国体とかオリンピックに出られれば、有名になれるからね」
「ち、違う・・・・・・そんなんじゃ・・・・・・」
「じゃあ、どうしてなのかな?」
「・・・・・・・・・」

名誉欲。
それは否定するアキラであるが、どうしても、その後が続かない。

「なんで、わざわざ辛い練習を繰り返してまで、
 コーチなんかに怒られてまで、速く泳ごうとするの?」
「・・・・・・・・・」

答えは、出ない。

「難しいみたいだね。質問を変えよう」

ここで質問を変える。

さらに思い悩む格好になってしまったアキラを見ているのは辛いが、
これに答えられないようでは、スランプを乗り越えることなど出来ないのだ。
今は心を鬼にする。

「大河内さんは、どうして、水泳を始めたの?」
「・・・!」

2度目の衝撃だった。
そんなことは忘れていた。水泳を始めた理由なんて・・・

(そうだ・・・・・私、どうして、水泳を始めたの・・・・・・?)

幼い頃のことを思い返す。

初めて水に触れた、あの日のこと。
初めて、浮き輪無しに足の立たない場所に行った、あの恐怖感。
初めて、25メートルプールを泳ぎきった、あの達成感と喜び。

(私が、水泳を始めた理由は・・・・・・)

なにより、あの水を掻き分ける爽快感。
あの、水と一体化しているような、不思議な感覚・・・

(そう。そうだ・・・・・・水泳が、『楽しい』から・・・・・・)

ここまでタイムが伸びてきたことの代償に、忘れていたこと。
いや、あえて考えないようにしていたことに、気付いた。改めて実感した。

「答え、聞くまでもないかな?」
「うん」

表情で答えが出たことを悟った勇磨。
そう尋ねると、アキラは力強く頷いて見せた。

「人間、結局は、考え方次第ってことだね」

勇磨も笑顔で応じる。

「辛い何かをするには、それを上回る何かが無いと、結局はどうにもならないものさ。
 周りから言われて何かやるとか、義務感を糧にしても、ある程度以上の成果は得られてこない。
 よく忘れがちだけど早い話、それに打ち込めるだけの、興味や楽しさが必要だってことだよ」
「うん」

頷くアキラの顔には、生気が満ち溢れている。
先ほどまでの姿がウソのようだ。

「訊いてもいい?」
「なに?」
「御門君は、何を思って、スランプから抜け出したの?」
「ソレを訊くか」
「聞いてみたい。だめ?」
「はいはい」

ここまで言ったんだから、とせがむアキラに、断りきれなかった。
なし崩し的にではあったが、自身の体験を述べる。

「環のことかなあ」
「たまき? あ、妹さんのこと?」
「そ、あいつのこと」
「どうして?」
「あーまあ、詳しい話は省くけれども」
「ずるい」
「聞く耳持ちません」

笑ってごまかす。
まあ、アキラのほうも笑っているので、お互い様だ。

「ある時期を境に、あいつにまったく勝てなくなっちゃったわけ。試合は元より稽古でも」
「へえ・・・・・・すごいね」
「すごいというか、まあすごいんだけど、ちょっとずるくもあってね。
 だから、あいつには絶対に負けるものかって。
 それまではただ漠然と、親がやってたからってだけで剣を振るってた」

詳しくはないが、理解するには充分。

「以降は、きちんと剣を振るう理由が出来た。
 兄貴が妹に負けちゃ恥ずかしいし、兄貴なんだから、いざというとき、妹を守ってやらなきゃいけないとも思ったし。
 ただそれだけの話だよ」
「そう・・・。いい話だけど、なんか・・・・・・期待はずれ。ふふ」
「笑うなよー」

話を聞いたアキラは、きょとんとした顔になって。
次の瞬間には吹き出していた。

「だ、だって、妹さんに負けたくないなんて、すごく単純な理由だから・・・」
「悪かったなー。難しく考えるより、簡単な理由のほうがいいんだよ。
 なんやかんや言うより、気持ちの持ち方というか、そういうもの次第なんだからー」
「そうだね。ごめん」
「まったくー。相談に乗ってあげたのに、そのお返しがコレかね?」
「ふふふ、ごめん」

柔らかい、アキラの微笑み。雰囲気。
もはや、アキラのことを「かわいくない」などと評する輩はいないだろう。

いつのまにやら、壁のようなものは消え失せて。
ごく普通に談笑している2人。

「私もがんばらなきゃ」

そう言って、アキラは立ち上がる。

「どこかへ行くの?」
「ん・・・・・・プール。なんだか泳ぎたくなっちゃって・・・」
「そっか」
「不思議だよね・・・。ついさっきまでは、水に入るのも嫌だったのに」
「それが、”乗り越えた”って証拠さ」
「うん」

頷くアキラは、先ほど店員が置いていった伝票を手に取った。
自分のと、勇磨のもの、2枚。

「あ、それ・・・」
「相談に乗ってもらったお礼」
「あー、申し訳ないね。半ば言わせたようなものだったのに」
「とんでもないよ。おかげで助かったし・・・。ありがとう御門君。
 お礼がコーヒー1杯なんて、安すぎるかもしれないけど・・・」
「いやいや。
 万年、金欠病の俺にしてみれば、充分な対価だよ。いやあ、ゴチになります」
「ふふふ・・・」

例のテレビ番組の如く、勇磨がポーズを取りつつそのままに言うので、アキラはまた笑う。
もうすっかり、彼のペースに乗せられてしまっているようだ。

「それじゃ、私はこれで・・・」
「ああ、がんばって。それからもうひとつ」
「え?」

ペースに乗せられていても、不意打ちを食うことはある。
その良い例になった。

「俺のことは、名前で呼んでくれて構わないよ」
「え・・・」
「はい、練習。3、2、1・・・」
「・・・・・・。ゆ・・・・・・ゆうま・・・・・・くん・・・?」
「おーけい。ささ、がんばってね」
「う、うん・・・・・・。それじゃ!」

気の毒なくらい、真っ赤になってしまったアキラは。
逃げるようにして走り去っていった。

「はは」

笑顔で見送る勇磨は。

「赤くなっちゃって、やっぱりかわいいなあ」

などと、暢気にのたまっていた。

 

 

 

 

以降、アキラのタイムは、再び順調に伸びるようになったという。

 

 

 

 

終わり

 

 

 

 

 

 

 

 

<あとがき>

アキラ分補充っ!

こんなものでいかがです・・・?

 

以下、Web拍手返信です。
拍手していただいている皆様、本当にありがとうございます!

 

>度々見させてもらってます。原作の方では学園祭が終了したので、そろそろこちらの方を学園祭編に……。

まだ2つ、いや3つか。3つしかやってないYo!(オイ)
まだまだやりたいお話があるんですYo!(マテヤ)
というか、原作はリアルタイムで見てないんで・・・・・・せめてコミックが出るまでは待ってください。

>ちょっと気になったのですが、さよのポルターガイストは細かい作業などはできないんでしょうか?

ん〜、どうなんでしょうね?
原作だと、血文字が浮かんだり、やり過ぎて誤解されたりと、細かなコントロールは・・・?
まあ訓練次第でしょうか。

>ご存知かはわかりませんが「レンタルマギカ」の黒羽みたいな感じですが

いや、知らないです。ちょいと調べてみると・・・
そういう小説があるんですか。似ているキャラがいるんですかね・・・?

>いつも心待ちにしています。がんばってください。

感謝の言葉もございません。
力の限りがんばります!

>いいねー

よかったですか? ありがとうございます。
これからもがんばりたいと思います。

 

 

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