魔 法先生ネギま!

〜ある兄妹の乱入〜

外伝 ああっ影使いのお姉さまっ

 

 

 

 

 

 

「と、いうわけじゃ」
「はあ」

麻帆良学園、学長室。
近右衛門から呼び出され、話を聞いた勇磨は、生返事を返していた。

「契約外の仕事になってしまうが、手伝ってはもらえんかのう?」
「・・・つまり」

勇磨の隣に立っている環が、長かった話を短く纏めると、こうなる。

「ここ最近、学園周辺で異形の出現が相次いでいる。
 学園側も魔法先生や魔法生徒で対処しているが、なにぶん数が多く、手をこまねいているので・・・
 私たちも彼らに協力して、事件の解決を図るように。・・・とのお達しでしょうか?」

「うむ。早い話がそういうことじゃ」

頷く近右衛門。

たったこれだけのことなのに、説明に5分も10分もかかったのは何故だろう?
勇磨も環も、げんなりとしていた。

「君たちの仕事は木乃香の護衛じゃが、引き受けてはもらえんか?」
「生活のすべてをあなたに依存している以上、拒否権があるとは思えませんが?」
「ふぉっふぉっふぉ。じゃから、一応は尋ねておるではないか」

ここから放り出されてしまうと、衣食住、すべてを一気に失ってしまうことになる。
まったく生活できないというわけではなかろうが、そんな事態は、なるべく避けたいのが本音だ。

「で、どうかね?」
「わかりました」
「異形と聞いては、俺たちも黙ってはいられませんからね」
「おお、助かる」

異形の者。即ち、あやかしの類だ。
退魔士である自分たちにとってみても、看過できる問題ではない。

頷いて了承した。

「それで、俺たちはどうすれば?」
「うむ。独自に警戒してくれれば良い。原因が見つかれば1番じゃがの。
 他にも何人かが見回っていると思うが、話は付けておくから、
 何かが起こった際は、彼らと協力して事に当たってくれ」
「了解しました」

いったい何が起きているのか。
それを調べて、解決へと導くことが、新たに課せられた任務である。

 

 

 

 

日が落ちると、御門兄妹は早速、周囲の見回りへと出た。

学園周辺とのことだが、学園内は、結界があるおかげで心配いるまい。
問題は、結界外周よりも外側。
学園がかなりの広い敷地を持っているため、その面積もかなりのものとなる。

通常なら、調べて歩くだけでくたびれるこんな仕事も。

「じゃあ環。任せた」
「はい」

環が持つ特殊能力によって、一発で解決する。

「・・・・・・」

環は目を閉じると、精神を集中させ、自身の探知網を広げた。
周囲に妖怪や悪霊などがいると、存在を示す反応が出て、彼女には位置がわかってしまう。
そんな探知能力を有している。

その索敵範囲は、最大で、半径5キロにも及ぶ。
いくら麻帆良が広かろうが、それだけで探索が済ませられる。
無駄に歩き回る必要は無い。

今回の一件も、環のこの能力を随時使っていけば、即解決だと思ったのだ。

「どうだ?」
「・・・・・・ダメですね」

ところが。
問題は、そう簡単でもなかったようだ。

難しい顔で首を振る様子が、それを物語っている。

「どういうことだ? 反応が出なかったのか?」
「そういうわけでもないんです。
 ただ、強力な結界があるせいかもしれませんが、微弱な反応ばかりで・・・」
「ん?」
「ノイズも激しく、これらが、今回の事件に関係するのか、
 もともと周辺にいる浮遊霊や低級で無害なあやかしなのか、現状では判断がつきません」
「うーん、そうか」

と、いうことは、だ。
今日、今のところは、問題になるような異形は、出現していないということなのか。

排除命令が出ているくらいだから、人間に害意を持ったヤツラなのだろう。
そういった輩は、ほとんどの場合が、その悪意が探知網に引っかかる。
相応の反応が出ていないということは、ひとつの仮説を導いてくれる。

「どうする?」
「疲れるから嫌なんですが、お仕事ですから、そうも言っていられません。
 力を使ったまま見回りを続けましょう。何かが出てくれば、すぐにわかります。
 即刻、駆けつけるようにすれば、問題なく駆逐できるでしょう」
「よし。じゃあそれでいこう。頼む」
「はい」

そんなわけで、結界外周の見回りへと入る。
その道中で、普通なら絶対に目にしない光景を見た。

うじゃうじゃうじゃうじゃ・・・

「・・・おい環」
「・・・はい」

前方から、何かが一斉に向かってくる。
彼らにとっては見慣れているもの。だが、一般人には、決して見ることが出来ないもの。

「あいつらは・・・」
「魑魅魍魎たちですね・・・」

様々な種類と見られる、日本古来からのあやかしたちだ。

「でも、みんなちっちゃくて、無害なヤツラじゃないか?」
「ええ、そのようです」

異形な姿こそしているものの、ひっそりと暮らしている者たちだ。
もちろん人間には無害である。

「なんだいったい・・・・・・おおっ!?」

前から向かってきた彼らは、その勢いを緩めることなく、勇磨たちの脇を通り抜けて行く。
その数ときたら、やはり尋常ではなかった。
足の踏み場を求めるのも困るほどの大軍。

「現れてる異形の者ってのは、こいつらのことなのか?」
「確かに無害とはいえ、これだけの大軍となると、お祓いの対象になってしまうのも無理ないですが・・・
 おそらくは違います。だったら、ここまでの大事にはなっていないはずです」
「そうだよな。あ、おい、待ってくれ」

重ねて言うが、ありえない事態。
普通なら、これだけ大量のあやかしが、これだけの大集団で移動することなど考えられない。
だから何かあるはずだと踏んで、あやかしたちに向かって声をかけた。

「・・・!!」

あやかしたちは、ビクッと身体を震わせ、総じて警戒態勢に入った。
いきなり声をかけられたのだから無理もない。力を持たない彼らにしてみれば、なおさらだ。

「ああ、いやいや、危害を加えようってワケじゃない。ただ話を聞かせてもらいたいだけだ」

「・・・・・・・・・」

誤解を解くように、やさしく話しかける。
無論、霊能力を持っていなければ、不可能なことである。

「わかるだろ? 俺たちも半分、君たちと同じさ」

「・・・・・・」

少し霊力を解放してやると、彼らにもそのことがわかったのだろう。
ザワザワざわめきつつではあったが、とりあえず、話を聞いてくれる態勢にはなった。

あやかしと話し合いを持つとき、自身の半分を構成している人外の血が、非常に役立つ。

「ありがとう。訊きたいことが――」

礼を言い、なぜこんなに大軍で移動しているのか、尋ねようとしたときだった。

『お待ちなさーい!!』

「・・・?」

「っ・・・!!」

向こうから、何かを追いかけているような女性の声が轟いた。
方向は、あやかしの連中が湧いて出てきた方向である。

何か関係があるのかという疑問を裏付けるように、
あやかしたちは一斉に身を震わせて。

ササッ

「あ、おい」
「な、なんですか?」

勇磨と環の後ろに、隠れるようにして集まってしまう。
呆気に取られていると

「逃がしませんよ! ・・・むっ?」
「誰かいますお姉様!」

先ほどの声を発した人物がやってきた。
人数は2人で、どちらも女性のようだ。

近くにある心許ない照明の明かりを頼りにするところでは、1人は長身で長い金髪の女性。
頭にナース帽のようなものを被った、つり目の、悪く言えば高飛車そうな感じを受ける。
もう1人は、左右で纏めた独特の髪形をした少女で、環と同じ麻帆良学園の制服を着ているようである。

「何者ですかあなたたちは!」

金髪の女性のほうが、こちらを威嚇するような声を発してくる。

「そちらの妖怪どもを庇う気ですか? 邪魔立てすると承知しませんよ!」
「ま、待った待った!」
「いきなりやってきてなんですか、失礼な」

何か誤解があるらしい。
勇磨は慌てて誤解を解こうとし、環は露骨に、眉間にしわを寄せた。

「俺は御門勇磨。こっちは妹の環。
 学園長に頼まれて、異形が増えたことに対する調査をしてたところなんだ」
「なんですって? ミカド・・・? あなたたちが?」

とりあえず、話は通じたようでホッとする。

「なるほど・・・・・・それは失礼しました。
 私は高音=D=グッドマン。聖ウルスラ女子高校2年です。
 こちらは私のパートナーである佐倉愛衣」
「麻帆良学園中等部2年、佐倉愛衣です」

自己紹介である。
金髪の女性が高音、少女のほうが愛衣、というそうだ。

「私たちも、学園長から依頼を受けて、今回の一件を調べていたところです」
「ああ、そうなんすか」

そういえば学園長は、他にも何人か、見回りに出ていると言っていた。
そのうちの一組が、彼女たちだということなんだろう。

「それでそのー、こいつらを追っていたみたいですが、いったいどうし――」
「そ、そうでした! あなたたち、そこをおどきなさい!」
「よ、妖怪なんですよ!」

「はあ・・・」

勇磨は、後ろに隠れているあやかしたちを示しながら、どういう状況なのか尋ねようとするも。
途中で言葉を遮られ、一方的に怒鳴られ。愛衣からも促される。

何もわかってないなあと、勇磨も環も、大きくため息。

「なんですかその態度は!」
「あのですね。グッドマンさん・・・でしたっけ?」

憤る高音に対し、頭をポリポリ掻きながら、説明してやる。

「こいつらは確かに妖怪ですけど、どれも無力で無害なヤツばっかりですよ。
 西洋風に言えば、森の妖精だとか精霊だとか、そんな類のヤツラです。
 今回の一件とは無関係だと思いますよ?」
「な・・・!? そんなこと、どうして言い切れますか!」
「どうしてって言われても・・・」

そういうことなのだから、としか言いようが無い。
無論100%とは言い切れないが・・・

「なあ? 人間に害をなすつもりなんて無いよなあ?」

「〜っ、〜っ・・・!」

勇磨の問いに答えるように、様々な鳴き声を発するあやかしたち。
中には、なんの謂われも無く追いかけられたことで、ご立腹の者もいるようである。

「ほら」
「あなた、妖怪の言葉がわかるとでも!?」
「これでも霊能力者の端くれですんで」
「・・・・・・」

とても信じられたものではないが、霊能力者と言われてしまうと、勢いを削がれてしまう。
仮にも学園長が依頼した相手であるし、他にも、退魔士などのカテゴリーに属する魔法生徒も存在している。

信じざるを得ない状況だった。

「お、お姉様・・・」
「・・・わかりました。この場は退きます」

苦しげに頷く高音。
しかし、釘を刺していくことを忘れない。

「ただし! 彼らを見逃して何かが起こったときは、責任を取っていただきますよ」
「それはもちろん」
「・・・行きますよ愛衣!」
「あ、待ってお姉様! し、失礼しますっ」

言うだけ言って、高音はさっさと行ってしまう。
愛衣も、ペコっと頭を下げて、後を追いかけていった。

「ふぅ。なんだかなあ」
「無知な方が多すぎます。これだから、偏見がなくならないんです・・・」

やれやれと肩をすくめる勇磨。
怒りを露にして、同時に悲しみも顔に出す環。

妖怪を取り巻く環境は、いつの時代も厳しい。

「〜っ〜っ!」

「え? なに? 助けてくれてありがとうって? 当然のことをしたまでだよ」

彼女たちが去ると、あやかしたちはまた一斉に声を上げ始めた。
追われていたところを助けてくれたこと、誤解を解いてくれたことに対する、
感謝の念がすべてである。

「気をつけろよ? 今日はたまたま俺たちが通りかかったからいいものの、
 普段だったら絶対に祓われちゃってるぞ」

「〜っ〜っ」

頷いているあやかしもいるが、心外だとばかりに怒る者もいる。
やはり、濡れ衣で追いかけられていたのだろう。

「しかし、あなたたちにも多少の問題はありますよ?
 みんなでこんなに集まって、大勢で何をしていたんですか?」

「〜っ、〜っ!」

環の問いに対しては、上がるのは抗議の声ばかり。
どうやら、何か理由があるようだが。

「え? ふんふん・・・」

彼らは、貴重な証言をしてくれた。

 

 

 

 

翌日、放課後。

勇磨と環が、ある場所へと向かっていた。
夕べ、あやかしの証言で得られた情報が元である。

「しかし、盲点だったな。そんなところに古い祠があったとは」
「ええ。もう存在すら忘れられ、朽ち果てた祠が」

あやかしたちは、今は雑木林となっている場所に、
かつては”とある妖怪”を封印した祠があったことを話してくれた。

そして、長年風雨に晒され、管理する者もいなくなって久しいという祠は、
このほど、完全に崩壊してしまったのだとか。

祠が無くなってしまったことで、自ずと、そこに封印されていた者も解き放たれてしまう。
あやかしたちはそれを敏感に察知して、周囲の者たちで集まり、逃げる算段をしていたところで
高音たちに見つかった。

あとは、夕べのことに繋がる。

これは推測だが、異形の者が増えたという事件も、祠の崩壊に関係があるのだろう。
機敏に察知したあやかしたちが、我先にと逃げようとした影響なのではないかと、2人は見ている。

無力な者がほとんどだから、封印されていた妖怪が復活してきたら、身を守る術は無い。
普段は人目につかないところで、ひっそりと暮らしているものたちなのだから。

「だとしたら、まずいな。早急に何とかしないと」
「ええ。図書館で調べ物をしていて遅くなってしまいました。急ぎましょう」
「ああ」

封印されていたということは、悪いヤツだということだ。
急がなければならない。

「まあ、封印されていたのがあの本の通りなら、私たちには問題ありませんけどね」
「まあな。あとは時間だけだ。急ぐぞ」
「はい」

駆け足で向かう2人を、日没間近の西日が照らしている。

急を要するというのに、こんな時間になってしまった理由は、環が言ったとおり、
図書館に行って調べ物をしていたからである。

いきなり向かっても良かったのだが、そこは、少しでも予備知識があったほうが安心だ。
というわけで、今は無き祠について、何か記している文献は無いかと、本を漁っていたのだ。
幸い、江戸時代以前の地域の歴史を記した本に記載が見つかって、胸を撫で下ろした。

封印されていた者が、本当に本に書いてあったとおりだとすれば。
少なくとも、2人にとっては敵ではない。

しばらく駆けると、目標の雑木林が見えてきた。
躊躇なく立ち入ろうとするものの。

「この気配は・・・・・・まずい。もう動いているのか?」
「誰か先客がいるようですね・・・」

林の奥からは、特有の波動が感じられる。
慣れ親しんだ戦いの気配に、妖力・・・

「ちい。行くぞ環!」
「はいっ!」

おそらくは、誰か他の魔法先生か生徒だろうが・・・
特徴を知らないと危ういかもしれない。

2人は急いで、林の中へと分け入った。

 

 

 

 

「出ましたね! この影使い高音が、成敗してくれましょう!」
「がんばってお姉様!」

なんと、戦っていたのは高音と愛衣だった。
いち早く、”それ”の気配に気づいた彼女たちは、誰よりも早く現場へと急行し、
退治するべく行動を開始した。

黒衣の夜想曲!!

高音お得意の、影による使い魔を用いた攻撃。
幾重もの影の帯が、”それ”に向かって突進していく。

ズガァンッ!!

命中。
立て続けに命中弾が出る。

「フフフ! 他愛も無い」
「さすがお姉様!」

”それ”は煙の中に消えた。
リアクションも起こさず、勝利を確信する高音。

だが・・・
彼女たちが微塵も気付いていない、真の脅威が、迫りつつある。

高音に襲いかかろうと・・・

「今のは幻だっ!」

「・・・え?」

寸でのところでかけられた大声。
彼女たちに視線の先には、息を切らした勇磨の姿。

本体・・は、君の後ろに――!」

「え・・・?」

言われ、振り返った高音の目に映ったもの。

『グギャアアアアアアア!!!』

「っ・・・!!」

それは、今まさに自分に飛び掛ろうとしている、巨大な獣の姿だった。
ちょうど逆光になってしまったのでよくはわからないが、明らかに飛び出た前足が、
鋭利な刃物以上だと思われる爪が、自分に向けて振りかぶられている。

「・・・・・・」

「お姉様ぁっ!!」
「くっ・・・!」

勇磨による警告も、少し遅かった。
もはや高音に回避できるだけの余裕も時間も無く、愛衣からは悲鳴が上がる。

次の瞬間――

ズバッ!!

「ぐっ・・・」
「あ・・・」

服が切り裂かれ、鮮血が舞った。
しかし、それは高音のものではなく。

「間に合った。・・・大丈夫?」
「あ、あなた・・・」

咄嗟に庇いに入った勇磨だ。

彼は獣と高音の間に割って入ると、高音を抱き上げて庇った。
結果、獣に見せることになった背中を切り裂かれ、血が流れたというわけだ。

「よかった、無事みたいだね。ぐ・・・」
「わ、私を庇って・・・」

勇磨は笑みを浮かべているが、明らかに苦痛を耐えている顔だ。
無理もない。あれだけの鍵爪で引き裂かれては、痛いどころの話ではあるまい。

「あなたこそ――!」
「環ー! あとは頼んだ〜!」

大丈夫か、と尋ねきる前に、勇磨は再び大声を発した。

「はい」

視線の先には、静かに佇む環がいる。
内面は、強い怒りに支配された状態で。

「やってくれましたね・・・」

そんな彼女が、鋭い視線を向ける相手。

『グルルル・・・!』

牙をむき出しにし、手足の爪を伸ばした、狐の化け物。
体長は2メートル以上はあるだろうか。

いわゆる妖狐というヤツだが、環に睨まれても、一歩も怯まない。

「おとなしく再封印されるというなら、痛い目を見なくて済みますよ」

『ギャアッ!!』

もう説明するまでも無かろうが、ここにあった祠に封印されていたのが、この妖狐である。
妖狐は、環の提案をはねつけるように、絶叫を上げて見せた。

「そう・・・・・・そうですか・・・・・・」

プチリと、環の中で何かが切れる。

「兄さんを傷つけたばかりか・・・・・・たかが”三尾”の分際で、この私に歯向かうというのですね・・・・・・」

『・・・グル?』

この妖狐の尻尾は、3本だった。
一般に、尻尾の数が増えれば増えるほど、力も増すというのが妖狐。

この時点で妖狐はすでに、自分が犯したミスに気付き始めたようだった。
環から漏れ始めた強大な霊力に、怯えだしている。

「良い度胸です。後悔しなさいッ!!」

 

ドォンッ!!

 

『・・・!!』

力を解放。
周囲に、黄金の輝きが溢れ、生じた突風が木々を揺らす。

「感じますか? 感じるでしょう? 唯一無二、絶対の力を・・・」

『・・・・・・・・・』

途端に無言になり、ガクガク震え出した妖狐。
今の、黄金化し、毛が逆立つ勢いの環を見れば、それだけで怖気づいてしまいそうなものだが、
もちろんそれだけではない。

環の力の源が、3本尻尾である自分とは、大きくかけ離れた、絶対に敵うはずの無いものだと気付いたからだ。

「怖がることはありません・・・。
 同族のよしみです。一瞬で済ませてあげます。なーに、痛みさえ感じませんよ。フフフ・・・」

『・・・・・・・・・』

不敵に微笑んだ環は、妖狐の返答を待たずに。

「滅しなさい!」

問答無用で、無へと還した。

 

 

 

 

その一部始終を見ていた周りの者たち。

「あ、あわわ・・・」

驚きのあまり、尻餅をついている愛衣。
いきなりでは刺激が強すぎたようだ。

「ふぅ、終わったか」
「あ、あなたたちは、いったい・・・」

安堵の息をつく勇磨と、呆気に取られている高音。
特に高音だ。

気になることを言っていなかったか?
あの妖狐と”同族”だとかなんとか・・・

「あなたたちは、まさか・・・」
「シーッ」
「・・・・・・」
「一切他言無用。それに、俺たちは味方ですから。ね?」
「は、はい・・・」

ニッと微笑まれて、思わず敬語で頷いてしまう高音。
年下のはずの勇磨(実年齢は同じ)だが、なぜだか、はいと言ってしまう説得力というか、
大きさを感じた。

「・・・は!?」

そして、ハタと気付く。

「あ、あなた怪我は!?」
「おー、そういえば」
「見せなさい! ああ、いつまで抱き上げているつもりですか!!」
「ご、ごめん」

高音はお姫様抱っこ状態だった。
顔を赤くさせつつ怒鳴ると、勇磨は慌てて彼女を下ろす。

「怪我を見せて! 治療しますから!」
「出来るの?」
「治癒魔法くらい使えます! 馬鹿にしないで!」
「す、すんません」

すぐさま治療を始める高音。
その胸中に由来するものは、何か。

(こんな怪我を負ってまで、私を助けて・・・)

治療しつつ、なんだか身体が熱くなってくるのを感じる。
なぜだか動悸も激しく・・・

こ、これは、もしや・・・

(そんなことっ・・・・・・この私がっ・・・・・・!)

そう思うのだが、身体が言うことを聞いてくれない。
ますます悪化するばかりで。

「あのー。まだですか?」
「あ・・・! も、もういいですよ!」
「すいません、助かりました」
「い、いいえ・・・」

声をかけられていなければ、心臓発作で倒れていたんじゃないかと思うほど。
危うく助かったが、動悸はまだ収まらない。

「こ、これで恩を売っただなどと思わないことね!」
「は、はあ」
「確かに、助けていただいたことに感謝はしていますが・・・・・・
 これっきりです! 治療したことで返しましたし、いいですね!?」
「は、はい」

自分でもおかしいと思うくらいの調子で、一気にまくし立てた。

「愛衣!」
「は、はい!?」
「なにボ〜ッとしているの! 行くわよ!」
「お姉様! あ、その、お姉様を助けていただいてありがとうございました。
 それでは私もこれで! お姉様〜待ってくださ〜い!」

唐突に愛衣を呼ぶと、自分だけスタスタと立ち去って行く。
愛衣は律儀に頭を下げ、高音の後を追っていった。

「・・・なにあれ?」

あれが、乙女特有の照れ隠しによる行動だったであろうことに気付かない、
鈍感な男が1人残された。

「・・・・・・に・い・さ・ん?」
「うひっ。た、環・・・」

いや、もう1人いた。
地獄の底から響いてきたような低い声だったので、ビクッとする勇磨である。

「高音さんに治療してもらったようで。私の出番は無いようですね」
「あ、そ、そうだな。いやあ、環もおつかれ〜。あは、あははは」

長年一緒にいる間柄だから、環の機嫌が悪いことはよくわかる。
理由までは不明だが、ごまかすように笑いを浮かべてみても、どうにもならない。

「退治が上手くいって、兄さんの怪我も出血ほどはひどくなかったようで安心しましたが。
 もっと、上手いやりようがあったのではないですか?」
「そ、そうかもしれないけど・・・・・・あのときはあれが精一杯で・・・・・・」
「そうですか」

ジロリと睨まれてしまい、もはや愛想笑いすら浮かべることが出来なくなる。

「何はともあれ、制服を1着、ダメにしたことに違いはありませんね?」
「え? あ・・・」

右肩から背中にかけて、大きく裂けている上着。
しかも、べっとりと血が付いている。
もう使い物にならないであろうことは、一目瞭然である。

「罰として、兄さんは今日の夕飯は抜きです」
「ええええ!?」
「文句は受け付けません。制服とてタダではないのですよ。
 ダメにした服代と考えてくださいね。安いものでしょう?」
「そんな〜! あ、おい環! 待ってくれよ〜!」

環が不機嫌な理由に気付かない限り、夕飯にはありつけないものと思われる。
鈍感男は、どこまでいっても鈍感・・・

 

 

 

 

一方で、立ち去っていった高音と愛衣は・・・

「御門勇磨さんかぁ・・・」

高音の後ろを歩く愛衣。
思い出すかのように呟く。

「なんか、ちょっとカッコよかったですよね」

ミーハー気質な彼女。
ピンチのヒロインを助ける王子様、というイメージが、すでに湧いているようである。

「・・・・・・愛衣」
「ひゃっ、ひゃい!?」

立ち止まった高音が、たしなめるような低い声を出す。
そして、愛衣のほうに振り返った顔は・・・

「忘れなさいね?###」

笑みを浮かべているものの、怒っているという・・・
非常に恐ろしい様相を呈していた。

「特にっ! 私が彼に助けられたということ・・・
 彼に抱きっ・・・・・・だっ・・・・・・抱き上げられたなどということはっ!」
「はっ、はははははいーお姉様っ!」

恐怖に駆られていた愛衣は気付かなかったが。
そう言う高音の顔は、真っ赤だったとか。

 

 

 

 

終わり

 

 

 

 

 

 

 

 

<あとがき>

ウルスラのお姉さまも落ちる!?

彼女はきつそうな性格してますけど、惚れっぽいんだと思うわけですよ。
しかも、同時に年下趣味だと見た!
10歳のネギに、しかも戦いの最中で、思わず「・・・ぽっ」ってして しまったくらいですからね!
「責任とってくださーいっ!」とまで言ってますし。パートナーの愛衣も年下だ!

実年齢はたぶん勇磨と同じだと思うわけですが、中3だと信じきってますからね。
条件は満たしていると。

 

これにてストック終了。
ネタ・・・・・・何かネタはないか・・・・・・(爆)

 

以下、Web拍手返信です。
拍手していただいている皆様、本当にありがとうございます!

 

>やっぱり良いです!ハーレム街道まっしぐらな勇磨、どこまで行くのかそれとも堕ちるのか楽しみです!!

さあ、どこまで堕ちてもらいましょうか!(堕ちるのかw
とりあえず、3−A制覇を目指します!(嘘

>久しぶりに投稿されたのでやけにテンションが上がりながら読んでしましました・・・執筆頑張って下さい!!

お待ちいただいているようで、大変恐縮であります。
ただ、ネタのほうが・・・。期待はしすぎずにお待ちください・・・(汗)

>あやかもハーレムの礎になるのですか! by烙印

なるかも、しれない・・・・・・
今のところは、恋愛というよりは、親愛の情でしょうけどね。

>目指せ撃墜王!!

どこまで落とせるか、乞うご期待!(爆)

>がばしょ!!

ありがとうございます、がむばります!

>ついに、あやかも!?この調子でどんどんハーレムの輪を広げて欲しいですねー。あとあやかの弟は流産で…

もう少し広がる、と思います。
げ、流産だったんですか!? 小さいうちに亡くなったものだとばかり・・・

>・・・な、なんと。のどかと合わせて鉄壁の双璧の片割れをなしているあやかまで落とすとは・・・
>勇磨はもはや誰にも止められないのかもしれんね。。。
>でも、乗馬部イベント以来、正直期待していたので最高だZE!!

まだ恋というまでは発展していない模様ですが、フラグは立ちましたね。
この先どうなることやら・・・(汗)

 

 

押して頂けると作者の励みになりますm(__)m



昭 和さんへの感想はこちらの方に

掲示板でも歓迎です♪



戻 る

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.