魔 法先生ネギま!

〜ある兄妹の乱入〜

26時間目 「嵐の修学旅行! そのじゅうろく」

 

 

 

 

 

 

救出の様子は、直下に来ていた御門兄妹からも確認できた。

「よし、このかは救い出せたみたいだな」
「第一目的は完了ですね。あとは・・・」
「ああ」

揃って、山のような大鬼神を見上げる。
これをこのまま放っておくわけにはいかない。

「手はあるが・・・・・・おとなしく喰らってくれるかどうか」
「はい。このかさんの魔力で召喚されたようですから、そのこのかさんが離れてしまった今、
 向こう側の制御に従うとは思えません。むしろ暴走の恐れがあります」
「むぅ」

どうしたものか。
打ち倒す手段があるにはあるのだが、避けられてしまっては意味が無い。

余力があるわけでもないし、確実に仕留めねば。

「せめて数秒、動かないでくれるといいんだがな」
「博打覚悟でやるしかありませんか・・・」

欲を言えば30秒・・・いや、10秒でも、動かないでいてくれれば。
それでこちらの準備も整い、その間に倒してしまえる。

しかし現状では、それは高望み。
一か八かの大勝負に賭けるしかないか。

「ならばその数秒、作ってやる」

「・・・え?」

唐突な声。
その声の主は、空中から降ってきた。

2人の後ろにスタッと着地した、彼女は・・・

「エヴァちゃん!?」
「エヴァンジェリンさん!?」

「フ」

妖しい笑みを浮かべる、エヴァンジェリン。

「ど、どうしてここに?」
「そんなことはどうでもいい。今はそれどころじゃあるまい?」
「・・・・・・」

魔力が封じられている彼女にとっては、危険な戦場であるはずなのに。
というか、どうやってこの場所を、状況を知ったのか。

御門兄妹には知る由も無かったが、エヴァの言うとおり、それどころではない。

「協力していただけるのはありがたいのですが、いったいどうやって?」
「まあ見ていろ」

環の問いに、ニィっと笑みを見せたエヴァ。

(茶々丸)

上空にいるはずの従者へ指示を送る。
エヴァが見上げた先には、巨大な銃を構えた茶々丸が浮かんでいた。

「お、茶々丸さんも」
「・・・あの銃、どこから持ってきたんですか」
「こんなこともあるかと思ってな。あらかじめ用意してきた」
「どんな事態を想定していたというんです・・・」

エヴァの答えに唖然とする環。
そういえば、と思い出す。

収まりきらないほどの大荷物があるとは思ったが、中身はアレだったのか。

「マスター。結界弾セットアップ」

上空では、大鬼神を指向した茶々丸が、静かに命令を待つ。

「さあ御門勇磨。手があるというなら、さっさとやれ。あまり持たん」
「わかった!」

「待ってください兄さん」

確かに早くしなければならないし、彼女の言い分でも、あまり長くは抑えられないのだろう。
エヴァの好意に甘え、力を溜めようとした勇磨だが、環から制止が。

「なんだ? 時間が無いぞ」
「私の力も使ってください。この一撃にすべてを注ぐべきです」
「・・・わかった」
「では・・・」

勇磨が差し出した手を握る環。
目を閉じて精神を集中。

「んっ・・・!」

自らの力を、兄へと分け与える。

「・・・・・・っ、はあ、はあ・・・」

終えると、黄金の輝きは失われ、がっくりと膝をついてしまった。
そのまま、苦しそうに肩を上下させる。

「バカ、無理しやがって」
「む、無理など・・・・・・はあ、はあ・・・・・・」
「いい、喋るな」

限界ギリギリまで力を送ったのだろう。
冷や汗までかき、青くなっている状況を見れば一目瞭然。

「すまん。おまえの力、ありがたく使わせてもらう! はあああっ!」

チャージに入る勇磨。
周囲の黄金の輝きが増し、噴き出る風が強烈になっていく。

(茶々丸、やれ)

(了解)

その様を見ていたエヴァは、強い風に煽られつつも、命令を発した。
頷いた茶々丸、一点の迷いも見せず、それを発射する。

 

ズシンッ!!

 

大鬼神を中心に、巨大な結界が構成された。
スクナ自身も、グオオオ、と苦しそうに吠える。

「この質量相手では、10秒程度しか拘束できません。お急ぎを」

あまり持たないというのは、そういう意味だったのか。

「充分だ! サンキュー茶々丸さん。エヴァちゃんもな!」
「・・・フン」

でも、10秒あれば充分。
先にチャージを始めていたのでもう完了するし、数秒後にはすべてが終わっている。

笑みを向ける勇磨に、エヴァはぷいっと顔を背け。
苦笑した勇磨は。

「リョウメンスクナノカミ・・・。無念だろうが、倒させてもらう!」

左手に愛刀を持って、思い切り床を蹴り。
大鬼神の正面に達したところで

「無に還れっ! 御門真刀流、最終奥義・・・」

動けない大鬼神。
その目は、最後まで自分を見つめていたような気がした。

 

「封神ッ!!」

 

直後、大鬼神の巨体は、崩れるようにして消えていった。

 

 

 

 

 

 

「どうやら勝負あったみたいだな」
「あんたらの勝ちや」
「どうするねーちゃん?」

スクナが倒れたのを見届けた鬼たち。
これで終わりだとばかりに問いかける。

「こっちも助っ人なんでな。そっちが退くなら、戦る理由は無い」
「もー終わりアルかー。暴れ足りないアルね」

答える龍宮は微笑を浮かべる。
古菲のほうは、まだまだ物足りなそうではあるが、終わってくれるのならそれでいい。

「おまえはどうなんだ? 神鳴流剣士」

今度は龍宮が問いかける。

「そうですねー」

答えるのは月詠。

「お給料分は働きましたし、センパイと戦えへんかったのは残念ですけど、ウチも帰りますぅ〜」

刹那センパイによろしく〜と言い残し、月詠も笑顔で立ち去っていった。
鬼たちも、煙に巻かれながら消えていく。

 

 

「どうやら、上手くやったようでござるな」

楓たちも、スクナの消滅を確認した。
うむと頷く。

「ふんっ・・・」

その脇で、どうでもいいとばかりにふんぞり返っているのは小太郎。
危惧した夕映が言った。

「あの、楓さん。この子、どこかに縛り付けておいたりしなくてよいのですか?」

敵には違いない。
万が一のときのために、拘束しておかなくていいのか、ということだ。

「ム、バカにすんなよチビ助」

が、当の小太郎自身からこう言われた。

「1度負けを認めた以上、逃げへんわ。ネギや髪の長い姉ちゃんとの決着もつけてへんしな」

単純一途な子供の思考。
このあたりを悪の一味に利用された、と夕映は解釈する。

「それより夕映殿。皆の安否が気がかり・・・。行くでござるよ」
「は、はい」

 

 

 

 

 

 

祭壇。
スクナを倒した勇磨が着地。

「勇磨君!」
「勇磨さん!」

それと同時に、アスナとネギもやってきた。

「やったな。たいした力だ」
「・・・なぁに」

そう声をかけるエヴァに、勇磨は振り向いて。
ふっと黄金の輝きが消える。

「これくらい、朝飯前・・・で・・・・・・」
「勇磨?」
「・・・・・・」
「お、おい? うわっ!」

ニッと笑いかけた、そこまでは良かった。
その状態で固まり、糸を切られた操り人形の如く、突然崩れていったのだ。

隣にいたエヴァに覆い被さるような格好になってしまう。

「さすがに怒るぞ! ・・・っ! !? 貴様っ・・・」
「ひでえっ! 右半身が石化を・・・」

驚き戸惑ったエヴァだったが、すぐに勇磨の異変に気がついた。
ついでカモも気付き、悲鳴を上げる。

「あ、あれは・・・・・・さっきの・・・・・・」
「ネギ・・・」

ネギは愕然となった。
勇磨が石化の魔法を受けてしまった理由は、自分をかばったため。

「ぼ、僕のせいだ・・・・・・僕の・・・・・・僕のっ!」
「しっかりしなさいネギ!」
「・・・あ」

パチッと乾いた音。
錯乱しかけたネギを押し留めたのは、アスナの振り上げた手である。

「ここであんたが叫んで何になんのよ!
 そんな暇があったら、どうしたら勇磨君を助けられるか考えなさい!」
「そ、そうですね・・・・・・すみません」
「あ、謝ってないで、早く考えなさいよっ!」

ネギの泣き顔と、一瞬で引き締まった表情を見て、思わず見とれるアスナ。
照れ隠しに怒鳴って見せる。

「・・・・・・危険な状態です」

その間、刹那やこのか、龍宮と古菲、楓や夕映といったメンバーも集結。
勇磨の容態を診た茶々丸は、こう述べる。

「勇磨さんの魔法抵抗力が高すぎるため、石化の進行速度が極端に遅いのです。
 このままでは、首部分まで石化した時点で呼吸が出来ず、窒息してしまいます」

「そ、そんな・・・」

声を漏らしたのは環だ。

「私が万全な状態なら・・・・・・全力でのヒーリングで、こんな石化など・・・・・・う・・・・・・」
「立ち上がっちゃダメよ!」

勇磨にほとんどすべての力を分けてしまったため、今の環は並みの人間以下だ。
立ち上がる気力さえ無くて、兄の傍らで沈痛な面持ちを見せている。

「ぼっ、僕が治します! 元は僕のせいですから!」

代わって名乗りを上げるのはネギ。
自分の責任だからと、勇んで治療を施そうとしたが

「・・・ぅ」
「ネギ!」

勇磨に歩み寄ろうと、2歩3歩と歩いたところで体勢を崩した。
慌ててアスナに抱えられる。

「無理よ! あんたのほうが限界じゃない!」
「魔力切れだ・・・」

呆然と呟くカモ。
それに加え、ネギは治癒魔法が苦手だった。万全でも通じたかどうか・・・

環もダメ、ネギもダメとなると、残る可能性は。

「ど、どうにかならないのエヴァちゃん!」

エヴァしかいない。

「わっ・・・・・・わわ、私は・・・・・・」

しかし、エヴァ本人は、なぜだかオロオロしていた。
明らかに狼狽している。

「私は、治癒系の魔法は苦手なんだよ。それに、魔力は封じられたままだし・・・」
「そんなっ!」

頼りの綱も当てに出来そうにない。

「昼に着くっていう応援部隊なら治せるだろうが・・・・・・間に合わねえっ!」

アスナの肩にいるカモは、絶望的な声で叫んだ。
現状では、治す手段が無い・・・

「な、なんかこー、一発で魔力が回復する術とか、エヴァちゃんの封印を解く術とかないのっ!?」
「無茶言うな姐さん・・・」
「そうだ神楽坂明日菜。できるものなら、とっくにやっている!」

カモが呟き、苛立ちげなエヴァの叫び。
特にエヴァは、勇磨の苦しげな表情と自分の掌を交互に見て、悔しそうに叫んだ。
今ほど、封印された自分の力を欲し、呪いを恨んだことはない。

「こうなっては是非もなし・・・。私の生命を削ってでも、兄さんにヒーリングを・・・」
「わわわっ、ダメだって環!」

自分も自由が利かないはずなのに、環は勇磨にヒーリングをかけようとする。
それ即ち、命と引き換えにという意味で、慌てて止める。

「勇磨君が助かっても、あんたが死ぬんじゃ意味ないでしょーっ!」
「離してくださいっ! もうこれしかないんです!」
「やめてください環さん! 生命を削るというなら、僕がやります!
 僕がやらなきゃいけないんですっ!」
「ネギーッ! あんたも話をややこしくしないーっ!」

もはや混乱状態。
アスナが東奔西走する中、この騒ぎを沈めたのは

「お嬢様・・・」
「うん」

刹那に促され、前に出たこのかだった。

「あんな・・・たまちゃん・・・」
「・・・え?」

環に話しかける。

「ウチ・・・・・・ゆう君にチューしてもええ?」
「なっ・・・」

唐突で、意味不明もいいところだ。
もちろん環は憤慨した。

「何を言ってるんですかあなたは! こんなときに!」
「あわわ、ちゃうちゃう。あのほら、パ・・・パクテオーとかいうやつや」
「え・・・」

パクティオー。仮契約。

「みんな・・・・・・ウチ、せっちゃんにいろいろ聞きました。・・・ありがとう」

このかは皆を見回し、礼を述べ。

「今日は、こんなにたくさんのクラスのみんなに助けてもらって・・・
 ウチには、これくらいしかできひんから・・・」

刹那から話を聞いた。
魔法のことや、自分に秘められた力のことも、理解したということなのだろう。

「・・・そうか! 仮契約には、潜在能力を引き出す効果がある」
「ハイ。お嬢様がシネマ村で見せた、あの治癒能力なら・・・」

察したカモが言い、刹那は頷いた。
怪我をたちまちのうちに治し、呪法までをも跳ね返してしまう、このかの魔力能力なら。

「たまちゃん・・・」
「・・・・・・わかりました。それで兄さんが助かるというなら・・・・・・遺憾ですが許します」
「ありがとたまちゃん」

環としては、兄と他の女性とのキスシーンなど見たくもないが。
この際だ。仕方あるまい。

「ゆう君。しっかり・・・」

このかは勇磨の隣に腰を下ろし、包み込むように抱き起こして。

 

仮契約!!

 

周囲に仮契約の光が満ちる。

「・・・ん・・・・・・」

勇磨の目が開く。
最初に捉えたのは、このかの姿だ。

「あー、このか・・・。無事だったんだ、よかった・・・」

歓喜に湧く一同。
もちろん、石化の跡など、もう微塵も残ってはいなかった。

「ゆう君っ!」
「うわっ、ちょっ・・・!?」
「よかった・・・・・・よかった〜〜〜」

勇磨に抱きつくこのか。
無論、彼は慌てる。

「治ったんやな〜〜〜」
「・・・? よ、よくわからないけど、は、離れてくれない?」
「ゆう君、ゆう君〜〜〜!」
「ちょっと、このかぁ!?」

女の子に抱きつかれて、慌てるのは当然。
わけがわからないのであれば当然だ。

驚き戸惑う勇磨の様子に、一同は笑いに包まれて。

「・・・・・・」

おもしろくなさそうに見つめていた環も

「・・・まあ、今だけは、見て見ぬフリをしておきます」

嫉妬よりも、兄が助かったという安堵感で、笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

激闘から一夜明け。
布団の中で目を覚ましたネギは、まず室外からの声を聞いた。

そっと様子を窺うと・・・

「従者から連絡が入った。すべて解決。主犯は後で引き渡すよ」
「何から何までありがとうございます、エヴァンジェリンさん」

エヴァと刹那。

「ネギ先生は、ぐっすりとお休みのようですね」
「まあ、ハードな一夜だったからね」
「それを兄さんが言ってしまってはおしまいかと」

それに、御門兄妹。
確かに環の言うとおり、1番の重篤者だった勇磨に言われてしまっては、形無しであろう。

刹那はくすっと微笑むと、荷物を纏め、敷地の外へと向かって歩き出す。

「やっぱり行くの?」
「せめて別れの挨拶くらい・・・」

「顔を見れば、辛くなりますから・・・」

背中にかかってきた声に、刹那はそう答える。
皆の前から去るつもりか。

「刹那さんっ!!」

「・・・!」

そのとき、様子を窺っていたネギは、勢いよく障子を開けて飛び出した。

「どこへ行っちゃうんですかっ。このかさんはどーするつもりなんですかっ!」
「い、一応、一族の掟ですから・・・。あの姿を見られた以上、仕方ないのです」

刹那の目には、涙が浮かんでいる。

「あとのことは、ネギ先生・・・・・・よろしくお願いしますっ!」
「ダメですよ刹那さん!」
「あ、ちょっ・・・」

走り去ろうとした刹那だったが、それより早く、ネギが飛びついた。
あーだこーだと言って引き止める。

「どうぞ」
「うむ」
「お、ども」
「ありがとうございます」

そんな騒ぎもどこ吹く風。
エヴァと御門兄妹は、茶々丸が淹れたお茶を優雅にすすっていたりする。

「若いっていいよなー・・・」
「イキナリ老け込まないでくださいマスター」
「700歳だもんな〜。イテッ。なぜ殴るエヴァちゃん?」
「貴様に言われると腹が立つ・・・」
「デリカシーが無いですよ兄さん」

そうこうしているうちに

「せっちゃんせっちゃん! 大変やーーーーっ!」
「大変よ刹那さーーーんっ!」

このかとアスナも乱入。

「なななっ・・・何事ですか!?」
「実は、旅館に飛ばした私たちの身代わりの紙型が、大暴れしてるらしいのよっ」
「えええーーーっ!?」

「おっ、ここにいたか桜咲!」
「ネギ坊主。ホテルへ急行するアルよ!」

驚いていると、朝倉やその他の面々も飛び出てきた。
変わらない様子で刹那を呼ぶ。

「ほら刹那。身代わりはおまえの専門だろ」
「せっちゃん、はよ〜〜〜〜♪」

「刹那さん・・・」
「・・・仕方、ないですね。ありがとうネギ先生・・・」

込み上げてくるものを抑えつつ。
刹那は、笑みを浮かべて頷いた。

 

 

 

 

その後、一行は旅館に帰って短い休息を取り。
詠春との待ち合わせ場所へと向かう。

以前、一時的にネギの父親、サウザントマスターが住んでいたという家。

なお、例によって図書館組の3人と、朝倉が一緒である。

「スクナの再封印は完了しました」

詠春は、図書館組の3人には聞こえないよう、小声で話す。

「うむご苦労、近衛詠春。面倒を押し付けて悪いな」
「いえ、こちらこそ」

エヴァから労われ、感謝するのはむしろこちらだ、と詠春は言う。

「長さん・・・。小太郎君は・・・」
「それほど重くはならないでしょうが、それなりの処罰があると思います」

心配そうに尋ねるネギ。
あのあと、関西呪術協会に身柄を預けられているが、やはりそうか。

「天ヶ崎千草についても。まあそのあたりは、私たちにお任せください」

「それよりも、問題はあの白髪の少年のほうでしょう」
「何かわかりましたか?」
「いえ、詳細は調査中です」

今度は御門兄妹が尋ねた。
あれほどの使い手を、野放しにしておくのはまずいのではないか。

「今のところ、彼が自ら名乗った名が『フェイト・アーウェルンクス』であることと・・・
 1ヶ月前に、イスタンブールの魔法協会から、日本へ研修として派遣されたということでしたが」

偽証の可能性が高い、と付け足す。
とどのつまり、詳しいことは何もわからない、ということである。

「ふん・・・」

あまり興味なさそうに鼻を鳴らすエヴァ。
しばらく歩くと、それらしい建物が見えてきた。

引き続き詠春の案内で、建物の内部へと入る。

小奇麗な建物内部。
おしゃれでモダンな印象を受け、3階までの吹き抜けとなっている壁の一面は、
びっしりと本で埋まっていた。

早速、図書館組の3人は目を輝かせて本を漁り始める。

「オイ、いいのかアレ」
「素人目には何の本だかわからないでしょう」

エヴァがそう尋ねたが、詠春は構わないという。
ただ、故人のものだから乱暴に扱わないように、とだけ注意した。

「長さん・・・。父さんのこと、聞いてもいいですか」
「ふむ、そうですね」

ネギから言われ、頷いた詠春は。
このかと刹那、アスナ、御門兄妹を呼び寄せて、サウザントマスターについて語った。

置いてあった写真立てに飾ってある1枚の写真。
15歳のナギと、その戦友たちを写したものだ。もちろん詠春もいる。

「父さん・・・」

誰だどれとか、カッコイイだとか外野が騒ぐ中、ネギは真剣に、写真の中の若い父親を見つめる。

「私はかつての大戦で、まだ少年だったナギと共に戦った戦友でした。
 そして、20年前に平和が戻ったとき、彼は既に英雄・・・サウザントマスターと呼ばれていたのです」

詠春の話に聞き入る一同。
アスナとこのかは、よくわかっていない様子である。

「天ヶ崎千草の両親も、その戦いで命を落としています。
 彼女の西洋魔術師への恨みと、今回の行動も、それが原因かもしれません」

確かに、彼女は西洋魔術師を強く疎んでいるようだった。
背景にはそんなことがあったのか。

「しかし・・・・・・彼は10年前、突然姿を消す・・・。彼の最後の足取り、
 彼がどうなったかを知る者はいません。ただし公式の記録では、1993年死亡・・・」

それ以上のことはわからない。
詠春はそう言って、ネギに謝った。

「結局、手がかり無しか。残念だったな兄貴」
「ううん、そんなことないよカモ君。
 父さんの部屋を見れただけでも、来た甲斐があったよ」

「ネギ君。実はこれなんだがね・・・」
「え?」

健気なネギに対し、詠春はそう言って、筒状に巻かれたものを差し出した。

 

 

 

 

いろいろあった修学旅行も最終日。
あとは新幹線に乗って帰るだけだ。

その車中。
あのうるさい3−Aが、ウソのように静かになっている。

引率の先生方も驚いているようだ。

「みなさん、眠ってしまったようですね」
「ん〜、そうみたいだな。ふあ・・・」

行きと同じく、隣り合った席の御門兄妹。
そう言う勇磨自身も、眠そうにあくびを漏らしている。

「それはそうと、兄さん」
「ん?」
「・・・心配したんですからね」
「あ〜」

何を指して言っているのか、一発でわかった。
ポリポリと頭を掻く勇磨。

「いやまあ、俺もだな、あそこまで酷いことになるとは・・・」
「本当に心配したんですよ」
「・・・悪かった」
「それに・・・・・・こ・・・・・・」
「こ?」

「このかさんと、キ・・・・・・キス・・・まで・・・・・・」

「は?」
「い、いえなんでも!」
「???」

小声でゴニョゴニョ。
ほのかに赤くなる環だったが、幸い、勇磨には聞き取れなかったようだ。

「と、とにかく、心配したんです!」
「だから悪かったって・・・。許してくれよ」
「ダメです、許しません」
「環ぃ〜」

なら、どうしたら許してくれるのか。
この妹は、1度ヘソを曲げると、ご機嫌を取るのが大変なのだ。

「大変な心配をかけた罰として、兄さんには、枕になってもらいます」
「へ? 枕?」
「はい、動かないでください」
「あ、ああ」
「・・・・・・では、失礼します」

「・・・お」

言うなり、環は、勇磨の肩に頭をもたれさせて、スッと脱力した。
完全に身体を預けてしまう格好となる。

「動かないでくださいよ」
「わかったわかった。好きにしてくれ」
「・・・はい」

頷くと、環はすぐに寝息を立て始めた。
その様子と、ここに至るまでの経緯に苦笑する。

(やれやれ・・・。素直じゃないんだからな)

甘えたいのなら、最初からそう言えばいいのに、と思うが。
そうは出来ないのが環であって、こういうところが環らしいといえば環らしい。

普段は言いたいことをズケズケ言うくせに、こういうときだけしおらしいというか、なんというか。

(とにかく大変だったが・・・・・・まあ、無事に済んでよかったよかった)

無事かどうかは、おおいに疑問符が付くところではあるが。
それでいいじゃないか。

(ふあ・・・・・・。俺も寝よう・・・)

 

その後、見回りに行った教師の話では、兄妹仲良く、寄り添って眠っている姿があったそうだ。

 

 

 

 

27時間目へ続く

 

 

 

 

 

 

 

 

<あとがき>

よーやく修学旅行編が終わったー。
で、お気付きでしょうが、勇磨とこのかの仮契約について一言・・・

すべて原作の流れどおりにするのもおもしろくないですし、
何か変化をと思ってこうしました。

仮契約は本来、「対象者の潜在能力を引き出す」効果があるということですが、
ここでは、「双方の能力を引き出す」ということにしておいてください。

あの場合、ネギと仮契約する必要は無いわけですし、このかも魔法使いであるわけですし。
このか自体の治癒能力を開花できればいいと思い。
どのみち、勇磨の負った石化は、あの時点から3分以上前のことだと思うので、
ネギと仮契約しても、このかのアーティファクトでは治せないだろうなー、と思ったわけです。
原作では、ネギとの仮契約で直接作用したようなので、それとも違うだろうなーと。

そしてなにより、勇磨をこのかと仮契約させることで、今後のお話に変化をもたらせるために・・・
さらに能力を引き出すために、ネギと改めて仮契約するのもいいかもしれませんね、このか。

独自の解釈ですが、ご了承くださいませ。

 

 

以下、Web拍手返信です。
拍手していただいている皆様、本当にありがとうございます!

>いつも楽しみです

毎回読んでいただいているようで、まことにありがとうございます。
今後もこう仰っていただけるように精進します。

>ものすっごくたのしくみさせていただきましたぁ^−^
>つづき頑張って書いてください!応援してます!

そう仰っていただければ幸いでございます。
がんばって続きを書きます!

>本家本元ともども楽しみにしてます

どうもありがとうございます!
両方読んでいただけているとは感激の極みですよ。がんばりますね♪



感想

はぁ、やるんじゃないかとは思っていたが……。

見事にやってくれましたね。

勇磨の阿呆、またおいしい所を持っていきおったな。

ネギでさえ、とどめは私に譲ったのに、止めを刺しつつこのかと仮契約か。

せめて前フリでもあればいいものを、突然だから理解が追いつかんわ。

いえ、前フリまでしていたのでは作品内容を大幅に 変更せねばならず、辛いところでしょうから仕方ないのでしょう。

今回は出番があっただけでも喜ぶべきかと。

出番……#!?

茶々丸、お前よくそんな事が言えるな。

はぁ何か不満でも?

だでさえ出番を削られてまともに出ることもできないのに、お前に命令しただけか私は!?


仕方のないことなのでは、実際アレをとめる手段が マスターにあったとは思えませんし。

催眠術で動きを封じるとか、吸血能力による魔力補充という方法もあるわ!

それに、あの晩は月も出ていたから少しは封印も弱まっているはずだしな。

そこまでして、出番がほしいとは……マスターおか わいそう。

えーい、メイドロボが主人を哀れむな!!

まったく、どうしてお前はこう……。

あまり気にしないことです。

はぁ、仕方あるまい。

感想だったな、何を言えばいいのか……。

勇磨の必殺技、せっかく舞台を整えたのだからもう少しインパクトがほしかったな。

剣を振り下ろしたシーンの描写が殆どないから派手さにかける。

私の魔法と比べてみればよくわかるはずだ。

しかし、それだけすんなりと勝てたとも考えられま す。

そういってしまえば終わりだが、二人分の妖力を合わせた奥義なのだしな。

封印術だから派手じゃないというのは違うぞ?

といいますと?

結界弾ですら、撃った後魔方陣が浮かび上がるエフェクトがあるだろ?

せっかくの必殺技だ、曼荼羅くらい現れても罰は当たらんよ。

それは、マスターが古い世代の人間というだけで は?

ほほぅ、どうしてそう思うのだ?(怒)

お約束が好き……。

貴様を一度分解整備してやらねばならんな、

やったことがないから二度と戻せないと思うがまあ気にするな(笑顔)


いえ、結構です。


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