魔 法先生ネギま!

〜ある兄妹の乱入〜

32時間目 「悪魔がやってきた! そのいち」

 

 

 

 

 

 

エヴァとの修行が本格的に始まったネギ。

例のエヴァの別荘で、茶々丸や以前からの従者チャチャゼロをも動員して、
3対1での超ハードなトレーニングをこなしている。

もちろん、現時点でのネギが敵うわけも無く、ズタボロにされる毎日が続く。
そんなわけだから・・・

「ただいま〜・・・」

日常生活にも影響が出てくる。
ネギは今日も、フラフラになりながら帰宅した。

「わ、スゴイ。べんきょーですかアスナさん」
「中間すぐだからね」
「が・・・がんばってください〜・・・・・・」

途中、アスナが机に向かっているのを見て、一声かけたものの。
おぼつかない足取りで、フラフラと、自らのスペースであるロフトへ上がるため、
階段へと手をかけるが。

「う〜ん・・・・・・ムニャムニャ・・・・・・」

その態勢のまま、船を漕ぎ出してしまった。
慌てて、このかが助けに入る。

「ネギのヤツ、大丈夫なの?」
「ま、まあ、ハードだからな」

当然、アスナは心配げに、一緒に帰ってきたカモに向かって尋ねる。
カモは言いにくそうにそう言うだけだ。

「ネギ君、寝たよ〜♪」

ネギをきちんと、布団へ寝かしつけたこのか。
そう言いながら、ハシゴから降りてくる。

「や〜、すごいハードな修行なんやね」
「でもさ、エヴァちゃんとこに行ってから、2、3時間しか経ってないのよ。
 あんなにフラフラになるもん?」

アスナの疑問はもっともだ。
いくらハードとはいえ、あんなになるものなんだろうか。

「や〜・・・・・・それだけハードなんやろな」
「ホレ、その、なんだ・・・・・・ハードだからな」

チラリと目を合わせ、再び言いにくそうにする、このかとカモ。

エヴァの別荘という秘密を知っている者にとっては、無理のないことなのだが。
無論、そのことを知らないアスナにしてみれば、疑問に思わざるを得なかった。

「怪しいわね。何か隠してないでしょうね」
「何も隠してねぇって」

アスナは、カモをつねりつつ問いただすが、カモも答えない。

矛先がカモにだけ向いたのは、より怪しかったのがカモの反応だということと、
このかがこういう、なんと言うか、微妙な反応をすることは珍しくないというか。

とにかく、アスナはこのときから、期するものがあったようで。

 

 

「で、では、次のところを・・・・・・・・・四葉さん」

授業中でも、ネギの様子は変わらない。

「ネギ君、疲れてるってゆうかヤツれてない?」
「五月病か?」
「気の早い夏バテとかー」

あれだけ憔悴しきっていれば、生徒の間でも、自然と噂になる。
授業が終わり、戻る際も、フラフラ歩いて黒板や壁に頭をぶつけていくサマは、とても痛々しい。

「たった2、3時間の練習であんなになっちゃうなんて、絶対おかしいわよ。
 何やってるか、つきとめてやる」

夕べのことを踏まえ、そう決意したアスナ。
ネギを尾行しようとすると

「なるほど、エヴァンジェリンさんの修行ですか」
「わ?」

ひょいっと顔を覗かせる夕映。

「それであんなにヤツれてんだ」
「私との朝練でもフラフラで、気になってたアルよね〜」
「な、何よあんたたち」

そして、同様に朝倉と古菲。
あとは、のどかと刹那もいる。

魔法のことを知る面々が、ほとんど揃ってしまった。
なし崩し的に、全員で尾行を開始する。

「お、エヴァと落ち合ったアルよ」
「むむむ・・・」

昇降口でエヴァと落ち合ったネギ。
そのまま外へと出て行った。

「しかし毎日、2、3時間でヤツれて帰ってくるってのは、こりゃーアレかなー」
「ドレよ?」

朝倉の呟きに反応したアスナ。
聞き返すが、訊かないほうが良かったのかもしれない。

「いやーそりゃ、大きな声では言えないようなマル秘の・・・」
「コラコラー! 何考えてんのよっ!」

要は、ピンクな思考だった。
嫌な考えを振り払いつつ、大人数での、尾行になっていない尾行を続けると・・・

「え? あれは・・・」

ネギとエヴァは、さらに落ち合っていたと見られる人物と合流した。
人数は3人で、合流すると、一緒に郊外へ向けて歩いていく。

「勇磨君と、環・・・?」
「それと、お嬢様も・・・」

衝撃を受ける一同。
その3人というのがよく見知った顔の、勇磨、環、このかだったからだ。

「このか、知ってたの? 知ってて私に隠して・・・」
「お嬢様・・・」

特に、アスナと刹那の受けた衝撃は大きかった。
自分に隠し事をしていたということと、なにより、打ち明けてくれなかったということが悲しい。

「とにかく、後を追うアルよ!」

沈みそうになるところを、古菲の一言で持ち直して。
雨が降り出した中、尾行を続けると、彼らは、エヴァのログハウスへと入っていった。

「雨が降ったから、室内で修行ですか?」
「まさか。あんな狭いところで・・・」
「それに、勇磨さんや環さん、お嬢様が一緒だということも腑に落ちません」

ネギが疲れている謎を探るはずが、新たな疑問が出てきてしまった。

「他のみんなは付いてこないでしょうねっ」
「あたしの報道管制をナメんなよ」

濡れた地面でパシャパシャと音を立てながら、エヴァの家に接近。
中を確かめてみるが、誰もいないようだった。

「おかしいなー。確かに家に入ったのに」
「お風呂にもトイレにもいないアルよ」

思い切って中へと入ってみたが、結果は同じ。
人の気配すら感じられなかった。

「み、みなさん、こっちへ〜〜〜っ」

そこへ轟くのどかの声。
のどかがこれほどの声を上げるのも珍しく、急いで声がしたほうへ走る。

彼女に従ってみると、そこは階段を下りた先の地下室で。
数々の色々な人形が保管してある横を進む。

すると・・・

「何よコレ?」
「なんだと思います?」

例の、球体状の物体が置かれた一室へと、辿り着くのであった。

 

 

 

 

その頃・・・
たった今アスナたちが見ている、球体状の物体の中では・・・

「えうー・・・」

ハードなトレーニングで、ネギが今にも死にそうになっていた。
ぐで〜っと、地面に直接、寝そべってしまっている。

「だらしないぞぼーや。それで終わりか?」
「そ、そんなこと言われましても〜・・・」

腕を組みつつ、ネギを見下ろすエヴァ。
かなりのスパルタ振りを見せていた。

「普段通りでもきついのに、今日は環さんまでも一緒だったんですよっ」

やっとのことで起き上がり、憤慨するネギ。
そう。今日は通常の修行に加えて、さらなる苦行が待っていたのだった。

「すいません。加減はしたつもりなのですが」

環である。

「バカを言うな。加減なぞされてもらっては困るな」
「修行の妨げにならない程度で、という意味ですよ」
「ふん・・・」

エヴァが食って掛かるが、環は冷静にいなした。

どういうことかというと、ネギの修行に、環が付き合ったということになる。
エヴァから、魔法だけではなく、体力面でも強化を図ると聞かされて、
環も手伝うことになったというわけだ。

エヴァの依頼を、環がそう簡単に受け入れるはずが無い、とお思いになるだろう。
それはもちろんなのだが、こうなった経緯については、また後ほど説明する。

「起きろぼーや。まだ終わりではないぞ」
「えうー、少し休ませてくださいよ〜・・・」
「仕方ない。少し休憩だ」
「ありがとうございますぅ〜・・・」

エヴァはネギを急かすものの、この様子では無理かと判断。
呆気なく矛を収めた。

「しかしそうなると、私のほうがヒマになってしまうな」
「でしたら」

ここでは、ネギに稽古をつけるという用事以外には何も無いから、どう時間を潰そうかと悩むが。
意外な提案がなされた。

「今度は、私のほうに付き合ってはいただけませんか?」
「ほう? どういう意味かな?」

環からの提案だった。
ニヤリと、エヴァの口元が緩む。

「このところ、少し運動不足気味でしてね。
 この場所と、貴女が相手なら、派手に暴れても大丈夫かと思いまして」
「ほほう? それはつまり、私への挑戦状だと。そういうことかな?」
「あくまで、常識的な”試合”の範囲内、ということですが」
「よかろう」

エヴァの口元がさらに緩む。
そういえば、環と戦ったことは無い。

「良い機会だ。貴様にも、私の強さを思い知らせてやる!」

”あく”の一面を前面に押し出して。
エヴァは魔力を解放し、空中へと飛び上がる。

「こちらとしても、ちょっとフラストレーションが溜まっていましてね。
 この機会に発散させてもらいますよっ!」

エヴァが相手ならば、それはもう、充分に解放されるだろう。
環も本気を出して、黄金のオーラをまとう。

リク・ラク・ラ・ラック・ライラック。来れ虚空の雷、薙ぎ払え! 雷の斧!!

いきなり、それなりに威力のある雷魔法だ。
巨大なイカズチが環へと落ちる。

「・・・・・・」

が、環は微動だにせず。
静かに、腰に下げていた刀を抜いた。

すると、どうしたことか。

ドォンッ!!

「なに?」

それまで、一直線に環を狙っていた雷が、まるで捻じ曲げられたかのように寸前で軌道を変え、
脇に逸れてしまったのだ。

「貴様、何をした?」
「私は何もしていませんよ。してくれたのは、この・・・」

環は、スッと、手にしている刀を示す。

「”名刀・小狐丸”です」
「こぎつねまる・・・?」

エヴァは聞いたことが無かった。
どうやら、古い日本刀のようであるが・・・

長さは、太刀としては少し短い。
脇差程度だろうか。

「軽く説明しますと、その昔、とある名工とお稲荷様の化身とが協力したつくった作といわれ、
 時の九条家当主が、雷に撃たれそうになったのを救ったそうです」
「なるほど、避雷の効果があるということか」
「一言で言ってしまえば、そうなりますね」
「稲荷とは、フン。縁があるとでも言う気か?」
「それはどうでしょうね、私にもわかりませんが。
 なんにせよ、これで、雷系の魔法は、私には通じませんよ」
「フンっ」

環が浮かべた挑発的な笑みに、エヴァも、同じ笑みを返した。

「雷系が効かないからといって、私の力は、いささかも削がれたりはせぬわ!」
「それはそれは。楽しませていただきましょう」
「その減らず口が、いつまで聞けるのか楽しみだ!」

 

 

「あーあー、2人とも熱くなっちゃって」

その様子は、離れた場所にいる勇磨にも、存分に確認できた。
環の金色のオーラや、エヴァが放った氷魔法の残滓などが良く見える。

「・・・俺も、あっちのほうがいいなー」

暴れている2人を、羨ましそうに見つめる勇磨。
その理由は、彼の前のテーブルに広げられている、1冊の本にあった。

「うぅ、終わらねえよー」

数学、と書かれている。
要は問題集である。

中間テストが近いので、それに備えてのテスト勉強だ。
環が、エヴァと共にネギの修行を見ることになったことも、このことによる。

ここでの1日が、外の世界での1時間にしか相当しないという説明を聞かされ、
最初に、「兄さんのテスト勉強用にここを使わせてもらえませんか?」と頼んだのは環だった。
普通に勉強しても、それでは追いつかないであろうと。

交換条件として、ネギの面倒を見ることになったのである。

「よくわかんねーし、量はあるし・・・・・・うぅ、地獄だー」

環から出されている課題は、あと十数ページに及ぶ。
この数日間、余計に1日を過ごしている上に、増えた時間がこうも勉強漬けでは、
いい加減イヤになってくるというものだった。

「ウチも地獄や〜」

そんな勇磨の声に同調するように、側にいるこのかも声を上げた。

「魔法教えてくれるって言ったのに、エヴァちゃん、ウチに瞑想ばっかりやらすんよ〜」

座禅を組んでいたこのかは、もうイヤだと言わんばかり、体勢を崩した。

「来る日も来る日も瞑想ばっかり〜。一歩も動けへんし。だいたい、瞑想ってよーわからへん〜」

なんといっても、このかは魔法初心者。
いきなり実践に入るわけにもいかず、まずは精神力を鍛えるために、初歩の瞑想をやらせていたのだが。

このかは我慢の限界らしい。

「お互い、師匠が厳しいと苦労するよな・・・」
「まったくや〜・・・」

2人揃って、ため息ばかり。
勇磨の勉学の師匠とは、言うまでも無く、環である。

「うぅぅ、わからん・・・。あいつが戻ってくるまでに終わらせないと、
 また課題が増えるというのに・・・!」

勇磨は頭を抱えた。
もちろん、最初に説明は受けているが、出来ないものは出来なかった。

「ゆう君」
「・・・このか?」

いつのまにやら、このかがすぐ隣に来ていた。
このかは、勇磨が悪戦苦闘している問題集を覗き込むと。

「どこがわからへんの?」
「え? えと、この問題なんだけど」
「あー、これはなー」

解説を始める。

「こうして、こうするといいんよー。ほら解けた♪」
「おおっ」

勇磨から声が上がった。
わかりやすい説明だったし、なにより、口調が、雰囲気がやさしい。

妹のそれとは、まるで違っていた。

「なんだそうだったのか。簡単じゃないか」
「数学なんてそんなものやよ〜。1回納得しちゃえば、次からは楽になるんや♪」
「うんうん。今の説明で良くわかった。これは価値観が変わるな〜」

さっきまで苦労していたのがウソのよう。
このかに言われたとおりにやってみると、驚くほど簡単に解くことが出来た。

練習問題も、すらすらと消化していく。

「・・・んぐ」

しかし、それも僅かな時間の出来事だった。
次の例題になると、勇磨の手が止まる。

「あ、それはなー」

勇磨が詰まるたび、このかは丁寧に解説する。
その甲斐あって、本日の課題分を、勇磨は終えることが出来た。

「終わったーーーー!!」
「よかったなゆう君♪」

両手を挙げて喜ぶ勇磨。
このかもうれしそうである。

「このかは教えるの上手いな〜。将来は先生?」
「ん〜、どうやろ? まだそこまでは考えてへんな〜」
「そっか。でも、教え方が上手いってことは、それだけよく理解してるってことだからね。
 頭いいんだな〜、すごいなこのか」
「や、や、そんなことあらへんよ〜」

絶賛されて、このかは恥ずかしそうに赤くなる。

「ちなみに、テストの順位とかって訊いてもいい?」
「ウチの? ウチはだいたい、いつも100番くらいやよ」
「何人中?」
「えっと、確か、学年全体で700人くらいおったんかなー」

「ななひゃくにんちゅう・・・・・・ひゃくばん・・・・・・」

思わず片言になってしまう勇磨。
次元が違った。

「神の領域だ・・・。そうか、このかってトップクラスなんだ・・・」
「だから全然そんなことあらへんってー。いんちょとか、ハカセとかに比べたら全然〜」

不思議なことに、学年トップクラスと、学年最下層とが入り混じっているのが3−A。
若干、平均以下のほうが多く、いつも学年最下位なのは有名だった。

その代表格が、アスナなどの通称バカレンジャーである。

「そういえば、瞑想してなくていいの?」
「う・・・。でも、上手く出来ないんやもん」
「はは、わかるわかる。出来ないものは出来ないよね」
「そやな〜♪」

和気藹々と、話の花が咲く。
時間が経つのも忘れて、わいわい騒ぐ。

そんなところに、環とエヴァが戻ってきたら・・・

「随分と楽しそうじゃありませんか。ねえ兄さん###」
「貴様ら、何のためにここに来ていると思っている###」

「げっ」
「あわっ」

戻ってきたら・・・

「お仕置き」
「決定だな」

「ぎゃぴっ!?」
「やーん、許してー!」

 

 

こんな騒ぎになっているところへ、追って来たアスナたちは迷い込んだのである。

 

 

 

 

 

 

エヴァの別荘は、さすがというかなんと言うか。
時間の経過と共に、夕日が落ち、月が出て、夜になった。

それでも、”ここ”での1日は外での1時間にしかならないので、
実際は20分程度しか経っていないというのだから、余計に不思議な気持ちになってくる。

皆が寝静まっている中、1人、目を覚ましたアスナ。
起き出してみると、なにやら物音が聞こえる。

「雷の斧!!」

ネギが修行している音だった。
憲法の足の運びや体捌き、エヴァに習ったばかりの魔法を練習している。

「さすが兄貴! 2、3ヶ月はかかるって言われたのに、この調子ならすぐだぜ!」
「ダメだよ。威力も低いし、無詠唱魔法の射手も全然出てないし・・・」

褒め称えるカモに対し、ネギは納得していないようだ。
この中は通常空間より魔力が満ちていて、出しやすいという事情もある。

「さーすが魔法先生」
「アスナさん!」

一部始終を見ていたアスナは、拍手をしながら歩み寄る。

「でもひとこと言わせてももらうと、がんばりすぎて身体壊しちゃ何にもなんないのよ〜〜〜」
「うぐぐ、ゴ、ゴメンナサイィー。今日はみんなと遊んじゃったので、その分を・・・」
「休んで遊ぶのも修行のうち! がんばりすぎなのっ」

と思ったら、いきなりネギを締め上げる。
大いに同意できるところではあるが、やはり彼女、ネギの保護者という立場がしっくり来る。

「あの、アスナさん」
「えっ、何?」

その後、他愛の無い会話を交わすことしばし。
ネギのほうから話を持ちかけた。
真剣で重みのある表情と口調に、アスナは思わずビックリする。

「お話しておいたほうがいいと思うんです。パートナー・・・・のアスナさんには」
「べ、別にいいけど。・・・・・・何の話?」
「僕ががんばる理由・・・」

 

 

「ちょ、ちょっと、こんなんで本当に、アンタの記憶を体験できるの?」
「ハイ。このほうが話すより簡単ですから」

ネギが言うには。
膝立ちで向かい合い、額をくっつけて呪文を唱えると、術者の記憶を覗くことが出来るらしいのだ。
だから今、アスナはそういう体勢になっているわけだが。

(おでこくらいでなに動揺してんだろ・・・)

最近ちょっとオカシイ・・・
自覚のあるアスナである。

「いいですか?」
「いいわよ」
「では・・・」

ネギが呪文を唱え、彼の記憶の中へと入る・・・

 

 

 

 

子供の頃のネギ。今でも充分子供だが・・・・・・より幼い。
小学校に上がる前といった頃合だ。

ここでアスナは初めて、ネギの姉ネカネの姿を見る。
確かにちょっと自分に似ていると思いつつ。

続けて登場する、幼馴染だというアーニャ。
彼女から練習用の魔法の杖をもらい、立ち寄った喫茶店で、父親の悪口を聞かされ飛び出して行ってしまう。
そして、姉たちとの一時の再開も終わり。

ネカネは学生で、たまの休みにしか会えなかったそうだ。
知り合いの家の離れを借りて、広い部屋でのほとんど1人暮らし状態。

「ピンチになったら現れる〜♪ どこからともなく現れる〜♪」

小さいネギはそんな歌を口ずさみながら、なにやら絵を描いている。
どうやら父親のようだ。

(ホントに、お父さんのことが好きなのね)

アスナでなくとも、誰にでもわかるような、子供ながらの純粋な思い。

死んだと聞かされた父親。
あの歌通りに、自分が危なくなれば助けに来てくれるのではないか。
ネギはそう思い、いろいろな無茶をやった。

「ネ、ネギが溺れたって本当ですか!」
「ああネカネ、大丈夫だよ。40度の熱を出してブッ倒れてるがね」

真冬の湖に飛び込んで、危うく溺死しそうになった。
他にも、自分ほどもある大きな犬に悪戯したり、木の上から飛び降りたり。

「・・・もう、どうしてこんなこと」
「だって、ピンチになったら、お父さんが来てくれるって思って・・・」
「・・・! バカ、ネギ。もうこんなことしないで・・・・・・お願いよ」
「ごめんなさいお姉ちゃん。もうしないから・・・・・・泣かないで・・・・・・」

寝ているネギを抱き締めて、ネカネは号泣する。

(・・・・・・・・・)

見守っているアスナの心境はいかがなものであっただろうか。
彼女は無言だった。

そして、こんな騒がしくも平穏な日々は、突然の終焉を迎えた。

ある日、遊びに出ていたネギが、姉が来る日だと思い出して、急いで村に帰ったところ。
村は・・・

燃 え 盛 る 火 炎 で 覆 わ れ て い た。

空前絶後の大火事か。
姉やおじの姿を捜して、危険を顧みず、村の中へと入っていくネギ。
そんな彼の目にしたものもまた、衝撃的だったのだ。

杖を掲げた村の皆が、揃いも揃って、石と化している。

(こ、これって、修学旅行のときと同じ・・・!)

意識せずとも脳裏に浮かぶ、あのときの光景。
さらには、周囲に現れる異形の者たち。

「僕があんなこと言ったから・・・・・・あんなこと思ったから・・・・・・」

小さいネギは自責の念に駆られ、恐怖にも打ちひしがれ、その場から動けない。
やがて、ある悪魔の拳が、勢いよくネギへと振り下ろされた。

(ネギーーーーーッ!!!)

アスナの絶叫も虚しく、小ネギはやられてしまったかと思いきや。

ネギを守るように立ちはだかる、1人の人物。
彼は、悪魔の拳を平然と受け止めると、なにやら呪文を唱え、いとも簡単に倒してしまった。
それだけでなく、周りにいる多数の悪魔たちも、拳や蹴りまで駆使して、あっという間に殲滅したのである。

最後に残った悪魔によって攻撃されかかるが、咄嗟に助けに入った、父親の悪口を言っていたスタン老と、
姉のネカネによって救われる。が、代償に、スタンは完全に石化してしまい、ネカネも足を石にされてしまった。

「すまない・・・。来るのが遅すぎた」
「・・・・・・」

そんなネギの前に、例の人物が立つ。
ネギはアーニャからもらった杖を振りかざし、対抗するように彼と対峙する。

「・・・お姉ちゃんを、守っているつもりか?」

彼はそう言って、一歩一歩、ゆっくりとネギへと歩み寄る。
身を硬くするネギであったが

「大きくなったな」

感じたのは、頭の上から髪越しに感じる、大きな掌。
頭を撫でられたのだ、と理解できるまでに、数秒の時間を要した。

「この杖をやろう。俺の形見だ」
「・・・・・・お・・・父さん・・・・・・?」

今度は瞬間的に悟った。
この人こそ、自分の父親なのだと。

「ハハハ、重すぎたか」

渡された杖は、まだ幼いネギには大きすぎ。
悪戦苦闘している間に、ネカネを助けたことを伝えられ、彼の身体は宙に浮く。

「ワリぃな、おまえには何もしてやれなくて」
「・・・お父さん?」

空に浮かんだ父親の姿は、どんどんと離れていき。

「こんなこと言えた義理じゃねえが・・・・・・元気に育て。幸せにな!」

そんなことを言い残し、完全に消えてしまった。
もちろんネギも追いかけたが、無論、追いつけるはずもなく。

 

「お父さあーーーーーん!!!」

 

 

 

 

(ネギ・・・)

ふと我に返ると、自分が涙していることに気付く。
ネギから声をかけられたことでビックリし、慌てて拭き取った。

その後はどうなったのかというと。

ネギとネカネは3日後に救助され、ウェールズの山奥にある魔法使いの村へと移住。
それからの5年間は、ひたすら勉学の日々だったそうだ。

あの日のことが怖くて、なぜだかスゴイ勢いで勉強に打ち込むようになってました、とはネギの弁。

ただもう1度、父親に会いたくて。
自分を助けてくれた、立派な魔法使いだった父親に会いたくて。

(でも僕は今でも、ときどき思うんです。
 あの出来事は、『ピンチになったらお父さんが助けに来てくれる』なんて思った、
 僕への天罰だったんじゃないかって・・・)

(え・・・・・・なっ?」

これには驚いたなんてものでは済まされない。
心で思ったことが、そのまま声になってしまったことでも明らかだ。

「なに言ってんのよ、そんなことあるわけないじゃん!!」

魔法も中座された。
思わず目の前のネギの肩を掴み、大声で言う。

「今の話に、あんたのせいだったところなんかひとつも無いわ!
 大丈夫、お父さんにだってちゃんと会える! だって生きてたんだから!」
「ア、アスナさん・・・」

少なくとも、死んだはずの父親が生きていたことは確かである。
死人が息子を助けに来られるはずが無い。

「うんうん」

「・・・ん? うわっ!!?」

唐突に、ありえない相槌を打たれ、振り返ってみるとあらビックリ。
泣き顔の面々が勢揃いしていたのだ。

「うぅ、ネギ君にそんな過去が・・・」
「ネギせんせー・・・」

ハンカチを取り出して目元を拭っている朝倉。
すでに大号泣状態ののどか。その他にも、夕映や、このかや、刹那や古菲でさえも。
エヴァや御門兄妹はさすがに泣いてはいないが、目を閉じて腕を組み、
思いを噛み締めているようである。

彼らは、なにやらやっていることに気付いたエヴァにより、たまたま起き出してきたのどかのアーティファクトの
力を使って、脇からこっそりと覗き見ていたというわけだ。

「き、き、聞いてたんですか皆さん!?」
「ネギ君! 及ばずながら、私もネギ君のお父さん捜しに協力するよ!」
「ウチもー!」
「ワタシも協力するアルよー!」

もう大混乱。
ネギはエヴァに助けを求めるが

「いや・・・・・・まあ、私も協力してやらんこともないが」
「えーっ! 師匠ーーー!?」

エヴァの場合も、特殊な事情があるわけで。
とにもかくにも、事態の収拾は不可能になった。

「ほいじゃ、ネギ君のお父さんが見つかることを願ってぇー、もういっちょカンパーイ♪」

そして、再び始める宴。

すでにこの時点で、不吉な足音が近づいて来ていることに、気付く者はまだいない。

 

 

 

 

33時間目へ続く

 

 

 

 

 

 

 

 

<あとがき>

長らくお待たせいたしました! 更新再開します。

今回は、ストーキングアスナたちバージョン。(笑)
後半は原作通りですね。
普段はエロバカをノリで行くネギまの、ダークで重い一面です。

タイトルの割りに、まだ例の悪魔のあの字も出てないですが・・・いや、チラッとは出てるのか。
まあ、おわかりですよね。これからですこれから。

・・・今回は、何話くらいで収まるかなー。(汗)

 

突然ですが、今、非常に迷っております。
というのも、原作ではヘルマン編の後、麻帆良祭に入りますが、このSSでもそういう流れでいいのかと・・・

麻帆良祭は原作が現在進行中ですし、とんでもない事態になっているようです。
私は単行本派なので、リアルタイムで確認することが出来ません。
なので、このまま原作通りに進めるべきなのかどうか、迷っております。

皆様のお考えをお聞かせ願えれば幸いです。
案としましては、

1:このまま原作通りの流れで麻帆良祭へ突入
2:麻帆良祭へは入らず(作中の秋へ回すなどの処置)、原作が一息ついて私が確認できるまで、オリジナル展開でごまかす
3:その他

とりあえず考え付くのはこんなところです。

1が1番いいんでしょうが、話の最後までの流れが見えないと、どうしようもないということがありますし。
2を選んでも、ネタも何も無いというのが現状ですが・・・

皆様の妙策をお聞かせください。
些細なことでも結構なので、Web拍手やメールなどで、お気軽にお願いします。m(_ _)m

 

以下、Web拍手返信です。
拍手していただいている皆様、本当にありがとうございます!

>せめて肉体だけでもっ!(ってオイオイ

すわっ!? ど、どういう意味でせう・・・?
短絡的思考はいけませんよ!(爆)

>勇磨モテモテ〜ww

まあ、主人公の宿命かとww
でも積極的に考えてる(今のところ)のは、この3人くらいでしょうから(それでも充分すぎ爆)
これ以上は増えないでしょう。たぶん・・・

>このかがパートナー候補・・・いいですねぇ・・・

いいですよねぇ・・・(爆)
彼女がパートナーだったら幸せだろうなぁ。

>このままだと修羅場フラグたっちゃうかな?

修羅場は勘弁してもらいたいところなんですけど・・・
この調子ではそうでしょうね。
早いところなんとかする必要がありますが、当の勇磨がアレですから・・・(汗)

>勇磨くんモテモテですな!でもこういう展開大好きです。続き待ってます^^

お待たせしました!
モテモテ展開は賛否両論あるでしょうが、そう仰っていただけて少し安心です。
でもまあ、エヴァはまだ漠然とした想いでしょうし、環は妹ですからね。
そう考えると、今のところは、やはりこのかがリードしているのかもしれません。

>よかったです

ありがとうございます! お待たせしてしまい、申し訳ありません。
今後もそう言っていただけるよう、精一杯がんばります。

>おもしろかったーーーーーーーーーーーーぐろは。

>もっとおおおおおおおお読ませろーーーーーー

これは同じ方でしょうか?
ど、どうもすみません。ちょっと中断期間に入ってました。再開します。

>だああああああああああああ

ああああ、相当にお待ちいただいているようでごめんなさい・・・
先行き不透明ですが、なんとか再開しました。

>続きを早く

すいませんです・・・
本日、再開にこぎつけました。


感想

今回は流石に後半ネギも出てきていたな。

勇磨の勉強嫌いも大概にという感じはあるが……。

そうでしょうか?

あれは、ああいう個性というものでしょう。

むしろ、頭がいい勇磨様の方が問題です。

むー、そう言われればそうかもしれん。

それで今後どうなるか昭和様がお困りの様子です ね。

まあ、仕方ない事ではあるな。

ならば逆に我々が勇磨達の世界に行くのも面白いかもしれんがな。

なんなら学園物のアニメや漫画は多い、ネタはそこかしこに転がっているとは思うが。

マスター、それを言い過ぎると勇磨様たちは他のアニメや漫画のキャラと親しくし始めますよ?

ぐぬぬぬぬ……。

たらしの傾向があるのは定めのようなものとはいえ、やはり腹が立つ!

では、こういうのはどうでしょう。

マスターが勇磨様の世界へ赴き悪逆非道の限りを尽 くすのです。

ふむ、それで?

勇磨様に倒されてハッピーエンドです。

どこがハッピーエンドだ!!

あ、忘れておりましたが、連絡事項があるのです。

ロボットのお前が忘れていた事を思い出すのか大いに疑問だが何だ?

駄作家が限界に来たため、感想は今後つけられない との事です。

何ぃ!?

一体どういうことだ!?

以前、毎日3つ以上の感想をつける状態が続き、 UPに三時間以上かかるのが普通になって代理感想制を始めたのですが。

最近代理を頼む人がおらず、結局集中してきてまた同じ現状に戻りつつあるためです。

それなら、全ての感想を取りやめるしか手が無いと半泣きで言っておりました。

駄作家のくせにやる気と根性でなんとかならんのか!?

本人は気力が尽きたと言っておりました。

くそ! 生意気な。締めてやる!

YES、マスター
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