魔 法先生ネギま!

〜ある”姉”妹の乱入〜

6時間目 「前哨戦! その2」

 

 

 

 

 

 

AM6:40
JR大宮駅近郊

 

「新幹線・・・?」

ネギたち3人が新幹線に乗り込む様子を、遠巻きに見詰めていた人物がいた。
彼女は、とあるビルの屋上にてライフルを構え、そのスコープ越しに確認したのである。
双眼鏡でも使えばいいところを、わざわざ銃を持ち出している当たり、実に彼女らしい。

「乗ったのでござるか?」
「ああ。ネギ先生と一緒にだ」

そんな彼女に向かって尋ねるは、もう1人の長身な少女。
忍び装束、とでも言えばいいだろうか。
時代劇に出てくる忍者が着ているような服を着込んでいる。

「いったいどこに向かう気だ・・・?」

2人の会話を聞き、3人目の小柄な少女が、不機嫌そうに呟いた。
その手には竹刀袋が握られており、中身は竹刀ではなく、真剣である。

おわかりだろうが、龍宮真名、長瀬楓、桜咲刹那の3人だ。

「行き先はもちろんだが、さらに気になるのは、あの少年だ」
「ネギ坊主や環殿とも親しいようであるし、何者でござろうな」

目的地は無論のこと、ネギや環と一緒に新幹線に乗り込んだ、見慣れぬ少年の存在。
初めて目にしたのはもちろん、2人とは親しい間柄のようで、朗らかに談笑している様子が見えた。

どんな関係なのだろう?

彼女ら曰く謎の少年、勇磨にとって幸いだったのは、彼女たちが気づいたのが、
アスナと会った以降だということだ。
たまたま、アスナと別れた直後の姿を目撃した楓が、龍宮と刹那に連絡し、急遽、追ってきたのだ。

部屋から出るところを目撃されてしまっていたら、さらに疑惑は深まっていたことだろう。
『勇』と『環』が暮らしている部屋に、別人、しかも男子が来ているとなれば、当然である。
もっとも、これが無くとも、十二分に怪しまれているのだが。

「何者だろうと関係ない。私は、ヤツがお嬢様に仇名すのかどうか、それだけわかればいい」

刹那は1人、それだけが関心事だ。
そんな彼女にとって気がかりなのが、彼らが乗った新幹線が、『上り』だったこと。
即ち東京方面であり、おそらくは東京駅で乗り換えて、西へと向かうのだろう。

そう。『西』へ・・・

「・・・やはりヤツラは、そうなのか」

心当たりのある刹那にしてみれば、充分な証拠だった。

「待て刹那。もし彼らがおまえの言う”西の刺客”だったとしても、やはり解せん」
「ネギ坊主と一緒でござるからな。行動を共にするいうのは不可解でござる」
「・・・・・・」

しかしよくよく考えてみれば、龍宮や楓が言うように、ネギ同伴というのが引っかかる。
わざわざ真の身分を明かしたりはしないだろうし、本当にそうなら、魔法先生であるネギと
いちいち接触したりはしないであろう。

何も言い返せない刹那。

「いずれにせよ、私たちはこれ以上動きようが無い。帰るぞ」
「そうでござるな。学校もあることでござるし」
「・・・・・・」

彼らを乗せた新幹線が発車したのを見届けると、龍宮と楓は即座に撤収を始める。
が、刹那は、加速して行く新幹線を見つめたまま。

「刹那」

龍宮から声がかかる。

「そんなに気になるなら、学園長に訊いてみればいい。
 彼らはどこに向かったのか、目的はなんなのか、一緒にいた少年は誰なのか、とな」
「正体がなんであれ、あの学園長殿が、孫娘を害しようとする輩を抱えるわけがないでござるよ」
「・・・・・・そうだな」

楓もフォローに回り、言葉だけではあったが、刹那は同意して。
3人はその場から立ち去った。

 

 

 

 

同時刻・・・
京都、某山中

 

「どうするんや!」
「・・・・・・」

静かな森の中に、突如として、女の金きり声が轟いた。
よく見てみると、肩を出すというかなり色っぽい着こなしで着物を着用し、メガネをかけた黒髪の女性が、
ネギと同じくらいの年頃であろう、白髪で学生服を来た少年に向けて、怒鳴ったようだ。

「なんや、こっちに来るのはまだ先やと思っとったのに、
 先兵なのか偵察なのかわからへんが、魔法使いを含む奴らがもう向こうを発ったみたいやないか!」
「・・・・・・」

女性に怒鳴られても、少年のほうは無言で、ビクともしない。

「まだ準備が整っておらへん! しかも、肝心の”お姫様”が来ないと、
 ウチらの計画も水の泡やないか! どうするんや!」

どうやら彼女たちは、麻帆良側の動向を早くも掴んでいるようだ。
無言でいる少年が食い入るように見つめている、地面に広がった水溜りには、
なぜか走っている新幹線が映っている。

魔力による投影だろうか。
原理などは不明だが、麻帆良側に先手を打たれたことは、明らかにまずい。

「こない早く動かれるなんて、正直、予想外やったわ・・・」
「・・・・・・」
「〜っ・・・。どうするんや! なんとか言いなはれ!」
「・・・・・・」

ヒステリックに叫ぶ女性。
少年は依然として無言のままだが、ゆっくり彼女のほうへ振り返り、視線を送ると。

「大丈夫。僕に任せておいて」

表情ひとつ変えず。
いや、最初から無表情のまま、そう言い放った。

 

 

 

 

AM8:31
麻帆良学園、女子中等部3−A教室

 

「今日はネギ先生が出張なので、私が代わりに出席を取りま〜す」
「えー!」

教壇に立ったしずなに対し、生徒一同からブーイングが上がった。

「出張〜? ネギ君、何も言ってなかったよ!」
「ええ。ゆうべ、急に決まってしまったのよ」
「そんな〜」
「お仕事が早く済めば、今日中には帰ってこられると思うわ」
「ああ、今日1日、ネギ先生にお会い出来ないなんて・・・!」

悲鳴の上がる3−A。
ネギの人気の高さを窺える一幕だ。

「じゃあ、出席を取るわね〜」

しずなが出席を取り始める。
その裏で。

「ゆうちゃんとたまちゃんも、今日はお休みなん?」
「ああ、うん」

このかが2人の不在に気づき、声を上げた。
頷くアスナ。

今朝方、環から伝えられたことを、思い出しながら簡潔に話す。

「なんかね、もう1人、弟さんがいたみたいでさ。
 その弟さんが暮らしてる先方から呼ばれたとかで、今朝早く出かけてったわよ」
「そうなんか。でも、なんでアスナが知ってるんや?」
「バイトの帰りにばったり会ってね。少し話したの」
「ふうん。そんな朝早くだったんやね」
「ええ。なんか随分急いでたみたいだけど、そんなに遠くなのかしらね。
 ・・・って、いっけない!」

ここでアスナは、肝心なことを、肝心な人物へ伝えていないことに気づいた。
すぐに手を挙げながら立ち上がる。

「しずな先生っ!」
「あら、なに?」
「今日、御門さんたちは、ええと・・・・・・ご家庭の事情で休むって言ってました!」
「あら、そうなの。御門さんたち・・・・・・ほんと、いないわね。わかったわ」

しずなはわざとらしく、彼女たちの姿を捜すが、これはもちろん演技である。
きのうのうちから知っている。だが、まさか本当のことを話すわけにもいくまい。

役目を果たし、ホッとした表情で座り直すアスナを見ながら、しずなは出席簿に公欠の印を付けた。

(なるほど、そういうことか)

このアスナとこのかの会話が聞こえていた、いや、意識して聞いていた人物が3人いる。
今朝方、大宮駅近くまで出向いている3人である。

(彼は弟さんか。理由も一応は筋が通っている。しかし・・・)

(なぜネギ坊主が付き添う必要があるのでござる? 保護者ということでござるか?)

(もっともらしい話ではあるが・・・
 そうだというのなら、姉はどこに行ったのだ? 家庭の事情というなら、どうして一緒に行かない?
 そもそも、今はどこにいるんだ?)

学校を休んでまで出かけた理由は、それなりに納得できた。
あの少年が、環の弟だということも、現状では受け入れざるを得ない。

とはいえ・・・

環がでっち上げて、アスナに説明した『姉は先に出た』という状況を知らない。
さらには、大宮まで行った彼女たちならわかる、ネギが同行したという他の誰もが知らない事実。

疑惑を打ち消してくれるどころか、さらに増長させる結果になってしまったのだった。

 

 

 

 

AM9:35
JR京都駅

 

『京都〜、京都〜』

ネギらを乗せた新幹線のぞみ号が、京都駅のホームに入線した。
到着を告げるアナウンスが流れる中、一般の乗客に混ざって、彼らも降りてくる。

「いやー、着きましたねー京都!」
「兄貴、気持ちはわかるけどよ、あんまりはしゃぐのはまずいんじゃないか?」
「そうですよ」

憧れの京都にやってきたとあって、ネギはいささか浮かれ気味のようだ。
なので、彼の肩に乗っている白い生物、オコジョのカモミールと、環から注意されてしまう。

「私たちは仕事で来ているんですよ。それに、ここは完全な敵地です。
 道中こそ何も無かったとはいえ、これからもそうだとは限りません。
 むしろ、何かがあると踏むべきです。ご自重なさいますよう」

「あう、すいません・・・」

きつく叱られて、シュンとなってしまうネギ。
年齢からして無理も無いが、車中でも、高速鉄道に乗るのは初めてだという彼は、
幼い子供のように、窓を流れて行く景色に夢中になっていたのだ。

「まあまあ、これから気をつければいいわけだし、そんな目くじら立てるなよ」

庇うようにして、勇磨が言う。

「気にするなネギ先生。これから期待してるから」
「ありがとうございます勇磨さん」
「勇磨の兄さんは話がわかるな」

ぺこっと頭を下げるネギ。カモも好意的だ。
一方で、環は、兄さんは甘いなどと、ぶつぶつ呟いていた。

「ところでカモ君。君も、あんまり喋らないほうがいいんじゃない?」

勇磨の視線が、ネギの肩、カモに向く。

「バレたら、驚かれるどころじゃ済まないぞ。
 かく言う俺たちだって、信じられない思いだったんだから」
「あー、そうだな」

これも車中にて、こっそり紹介された勇磨と環は、喋るオコジョという存在に、
腰を抜かしそうになると言うと大げさだが、それほど驚いたのだ。
一般人に気付かれてしまっては、何かとかまずい。

「だが、信じられないっていったら、兄さんのほうもだぜ」
「え?」
「まさか、あの『勇』姉さんが『勇磨』の兄さんで、男だってんだからさあ」
「あー・・・」

思わぬ反撃。
ニンマリ笑いながら言うカモに、何も言い返せなくなる。

「ちっこいけどかわいかったぜ。もったいねえ」
「ちっこいは余計だよ。しかも、何がもったいないんだ」
「本当に女だったらなあ、って話さ。さぞかしモテただろうよ、くくく」
「やめてくれよ・・・」

心からヘコむ勇磨。
少しずつではあるが、女装生活に慣れていっている自分が恨めしい。

「ま、人込みにいる間は無理だな。しばらく自重するとすっか」

カモはとりあえず満足したのか、そう言って自重に入った。
以後、周りに人通りが無くなるまで、喋らなくなる。

「無駄話はそれくらいで。ところでネギ先生」
「はい?」

勇磨とカモによる会話が終わると、コホンと咳払いし、環がネギに尋ねる。

「学園長からの親書、しっかり持ってますね?」
「はい、ここに――」
「出さなくても結構です」

背広の内ポケットの中に、それはある。
思わず外に出そうとするネギだが、止められた。

「所在が確かならば充分。下手に表に出すと、その瞬間に狙われます。
 敵が狙ってくるとすれば、ピンポイントでの親書の奪取。それ以外には無いでしょうから。
 落としたりしないでくださいね」
「そ、そうか・・・。はい、しっかり持ってます!」

背広のうちポケットに手を突っ込んだままのネギは、改めて『危険で重要な任務』だということを認識し、
絶対に落とさない、西の長に渡すまでは離さないぞと、決意を新たにした。

「でもよ環。そんな一瞬で奪えるものか?」
「警戒しておいて損はありません。特に、どんな能力者がいるかもわからないので当然です」
「そんなもんか」
「相変わらず、楽観主義ですね兄さんは・・・」

すぐにハッとなるネギとは対照的に、自分の兄は、のほほんというか、のんびりというか・・・
ため息をつく環だ。

「・・・とにかく」

再び咳払いし、改めて皆に注意を促し、引き締める。

「連中もバカではないでしょうから、私たちがやってきたのはすでにわかっているはず。
 ここからが勝負ですよ。がんばりましょう」
「はいっ!」
「おう」

環の意図通り、覇気の満ち溢れた顔で頷くネギ。
100%期待した通りではないにせよ、勇磨も気合を入れ直す。

「それでは、行きましょうか」
「渡された地図によると・・・・・こっちですね!」
「待ちなよネギ先生。迷子になっても知らないぞ〜」
「僕はそんなに子供じゃないですよ〜!」
「やれやれ・・・」

だからこれは、遠足でもピクニックでもないというのに。
どうしても緩んでしまいがちな空気にうんざりしつつ、環も、
ネギと兄の後を追った。

 

 

 

 

同時刻
京都、某山中

 

「・・・ッチ」

水溜りに映る光景に、女は思わず舌打ちした。
そして、怒声を少年へ向ける。

「コラ新入り! あんたが任せておけって言うから、任せておいたら、
 ただで乗り込まれてしもうたやないか!」

「・・・・・・」

少年は、なおも反応しない。

「いったいどうする気や! このままじゃ、本山に行かれてしまうのも時間の問題――」

怒りに任せて、女はさらに言葉を続けるが、途中で止めざるを得なかった。
なぜなら、振り返られた少年に見つめられ、底知れない何かを感じたからである。

「・・・・・・」
「な、なんや・・・・・・なんかあるなら、言うてみい!」

思わずたじろぐ女だったが、それで黙るような性格でもない。
すぐに言い返す。

「大丈夫」

少年は、再び一言だけ。

「僕に、任せておいて」

先ほどと同じことを、再び口に出した。

 

 

 

 

7時間目へ続く

 

 

 

 

 

 

 

 

<あとがき>

原作よりも早い京都。
しかも、少数精鋭で乗り込みました。

はてさて、どうなりますことやら。

 

以下、Web拍手返信です。
拍手していただいている皆様、本当にありがとうございます!

 

>珍しい展開なので期待しております

期待していただきうれしい限りであります。
裏切らないようにしないと・・・(汗)

>弟といわれても全く疑問をもたれない勇磨に同情。

まだまだ精神的に子供ですからね。
最大の要因は、環との身長差でしょうけど。

>原作と離れた展開にはGJ!「姉」妹らしさをだしていけばいいと思います。

「姉」らしさ、かあ・・・
勇磨にソレを期待するのは酷というもの・・・(ナニ

>頑張ってくださいね。楽しみにしています!

感謝の極みです。
あくまで前哨戦なので、そう派手なことにはならないでしょうが、がんばります。

 

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