「えぇー!? そんなおもし……ゲフンゲフン、大変なことになってたの!?」

「……あぁ」

教室にて月村 忍は悔しそうにそしてどこか信じられないと言った表情を浮かべながら叫びながら、フルーツサンドを咥えながら、机を叩く。

恭也は行儀が悪いと注意したかったが、忍に何を言っても無駄と判断し、無視を決め込む……というより忍はさっき面白そうと言おうとしたのではないかと思ったが、そんなことはどうでもいいと判断し、すぐに投げ捨てた。

「はー、あの雪の女王様がねー……見ていないから信じられないわ」

「だが事実だ。 俺もここにいるクラスメイトたちも全員が雪奈が真っ赤に染まったのを見た」

話の内容は恭也の妹であり、忍の親友である雪奈のことに関してだ。

高町 雪奈がどんな人間かを尋ねた場合、八割は『クールビューティ』という回答が返ってくるだろう。

如何なる場合でも冷静に対処し、大人顔負けの態度を取り、そしてモデル並みのボディを持ち、女性から見ても美しい美貌を持っている。

さらに勇気を振り絞って告白した男子生徒に「ごめんなさい」という一言で終わらせた……しかも、累計合わせて五十回以上は言ったよう。

しかも、男子生徒には一度もその綺麗な微笑みを見せたことがない……見せたことがあるのは女子生徒か赤星に高町家だけ――恭也は別として――なのだ。

そして、さらに凄いのはここからである。
バスケ部のエースに告白最中に急に抱きしめられそうになったとき、雪奈の見事な回し蹴りとかかと落としが炸裂し……エースは無惨な姿となった。

しかも、雪奈本人は「いきなり抱きつこうとしないで、変態」とのこと。

それを見たバスケ部の部員たち曰く「女王様だ……女王様」とのこと。

それが一気に広がり、『雪の女王様』と言われるようになったが、今日……その『雪の女王様』が照れたのだ。

照れさせたのは転校生で、さらにはその雪奈を気絶させたのだ……。

「いやー、ずっと寝てたから……全然気づかなかったわ。 くぅ、不覚!」

「いや、お前は寝てて正解だったな」

もしも忍が入ってきてしまったら、おそらくこの教室は混沌(カオス)に満ちてしまう……あらゆる意味で。

さらに言ってしまうと、心は雪奈を保健室に送ったあと、一限目の授業に行った質問会にて、クラスメイト全員に質問されまくったのだ……いや質問というより、賞讃していた。

「すげぇよ、北郷さん! あの雪の女王様をデレさせるだなんて!」

「あの雪奈さんの顔……あぁもう思い出すだけでも幸せになれちゃう! ありがと、北郷さん!」

「後でどうやったか、教えてください! 北郷さん……いや師匠!」

等など言わされて、心は戸惑いを隠すことが出来なかった。

……これを聞くぶんどれだけ雪奈がクールなのかよく分かったというより、どれだけお前はクールに生きているんだと恭也は思った。

「んぐんぐ、っと。 さぁて……早く帰って来ないかな、雪奈は」

からかう気満々といわんばかりに忍は手揉みし、ウキウキとした様子であたりを見渡し始める……ちなみに昼休み開始してから、まだ十分ぐらいしか経っていないので、まだまだ当分帰って来ない。

* * * * *

風芽丘学園の屋上……心はあたりを見渡し、そこに誰もいないことを確認し終えると、扉を半開けにしたのを完全に開けて、ササッと屋上に出た。

「大丈夫だよ、人いないから」

「……えぇ」

心は扉の向こうにいる彼女に声をかけると、扉はゆっくりと開かれ、すぐさま屋上に出ると同時に鍵を掛けた。

彼女――雪奈は髪をすくい持ち上げると、風が吹き、髪を靡かせる。

「……はぁ、生きた心地がしなかったわ」

「あはは、それは俺も同感かな」

ため息と同時に発せられた雪奈の台詞に、心は苦笑しながら同意する。

雪奈を保健室に送った後に心は教室に戻ったのだが、そこに待っていたのは心を尊敬する目と賞賛する言葉だったのだ。

……しかもそれは授業最中にでも止むことはなく、常に心の方に向いていて、賞賛の目を送っているのだ。

……まるでパンダのようだと心は思ったし、いまならパンダの気持ちが分かるような気がするとも思った。

「はあ……明日から学校に行くのが憂鬱だわ」

「……ゴメンね、俺のせいで」

「あなたのせいなんかじゃないわ、わたしが悪いのよ……情けなく倒れちゃったわたしがね」

雪奈は微笑みながら――もしも、ここに他の生徒が居たら、また驚愕な表情を浮かべるだろう――屋上のベンチに座り、食堂で買ったフルーツをサンドを取り出して、はむっと口の中に収める。

雪奈の言葉にほっと一安心した心は何気なく雪奈の隣に座ると。

「〜〜〜っつ!」

雪奈はすぐさま頬を真っ赤に染め、ザザッと心から離れる――が手すりもないベンチなので。

「きゃっ!」

ベンチから落ちてしまうわけだ。

「危ない!」

そんな雪奈を救うため心は腕を伸ばし、雪奈の手をつかむことができた心は雪奈をゆっくりと引っ張ってベンチの上に座らせる。

「っあ、ありがとう……」

「別にいいけど……本当に大丈夫なの? また顔が真っ赤になってるけど」

「だ、大丈夫よ」

心は心配げな瞳を雪奈に向けながら、ビニール袋の中から自分が買った御握りを取り出し、それを食べる。

雪奈は先ほど落としてしまいそうだったフルーツサンドを食べ、チラリと心のほうを見る。

黒を更に塗り潰したかのような漆黒の髪、同じ漆黒の目を除けば、至って普通の青年なのだが、自分はどうしてか彼のことが気になってしまう上に、さっきのように挙動不審になってしまう。

(もう、どうなっているのよ……)

さっきまでの自分にため息をつきたくなるが、心のいる前でそうするわけにはいかないので、それを抑えながら、再び食べ始める。

 

 

 

雪奈の悩みとなっている心はというと、ベンチの後ろ……つまりフェイスの向こう側を見ていた。

屋上からの光景を見ているわけではない、それよりももっと目に付く光景があるのだ。

(……)

風芽丘学園裏門にある路地裏の陰を用いって隠れている黒スーツやサングラスを身に纏った人物たちが、しかも男たちの会話も怪しい――普通の人間だったら聞こえもしないし、男たちの姿も見えはしないのだが、改造人間である心は視力は4.5ある上に聴覚は人間の三十倍は聞こえるのだ。

『……やれやれ、仕事と言えど暇なものだな』

『気を抜くな、この学園には御神の剣士がいるんだぞ。 いつ襲われても分からんぞ』

『ふん、俺たちがここにいることすら知らんのだ、神経を尖らせるな。 それに戦うことになったとしても、夜の一族と御神の剣士がいようがいまいか関係ないさ、こっちにはそれよりも勝る機械の化け物共がいるんだぞ』

(機械の化け物?)

『夜の一族』と『御神の剣士』の言葉は気になるが、心はそれよりももっと気になることがあった。

紡ぎだした会話の中で生まれたなかのひとつ、『機械の化け物』に心はピクリとまぶたを動かし、厳しい眼差しになる。

『それもそうだな……』

『さて、そろそろ交代だし……帰ろうぜ』

「っ!」

もう少し情報が欲しかった心は思わず軽い舌打ちをしてしまう……自分の足ならば、追いつくことができ、間に合うはずだが、自分は学生であり、しかもまだこの町の地の利を完全に得てはいないのだ。

今追ったとしても迷子になるのがオチだ……心は悔しそうに去っていく男たちの背中を見送ることしか出来なかった。

(……くそっ)

今後こういう場合が起こることが何度あるかもしれない、この町の地をよく知っておくべきかも知れない。

しかし、転校初日で自分はまだクラスメイトたちとはそんなに仲良くなっていない――憧れられてはいるが、そんなに喋っていない――し、殆んどの生徒は用事を作っているだろう。

……こうなれば自分の足を使うしかないと判断し、握りこぶしを作る。

「……本郷くん?」

「! な、なに?」

「そろそろ戻りましょう……本当は戻りたくないけど」

「あっ、う、うん。 そうだね……あっ」

ため息をついて教室に戻ろうとする雪奈の背中を見つめ、心はひらめいた。

もしかしたら断られるかもしれない……とりあえず誘ってみるだけ誘ってみようと決めて、心は雪奈に声をかける。

「ねぇ、雪奈さん」

「っな、な、なにかしら?」

なぜどもるのだろうと心は疑問に思ったが、すぐさまそれを捨てて、言葉を紡いだ。

「今日の放課後なんだけど、一緒に帰らない? 海鳴市を案内してもらいたいんだ」

* * * * *

「……ねぇ、恭也」

「お前が言わなくても大体は分かるが、一応なんだ?」

「……雪奈、どうしたの?」

二人はコソコソと今話題の高町 雪奈――これまた珍しく顔を真っ赤にしている少女のこと。

昼休み終了の鐘が鳴る十分前に心と雪奈はこの教室に戻ってきた。

別にそれだったら普通じゃないかと思われそうだが、相手はあの雪の女王様。

絶対にあの転校生と何かあったのだろうと忍は睨んでいる――だから。

「よしっ、恭也」

「……なんだ?」

「今日、雪奈を追跡するわよっ! 答えは聞いてない!」

「……はぁ」

恭也は盛大に疲れたような溜息を吐いた。

 

 

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