「……ちっ」

心は苛立ち混じりに舌打ちを打つ……あの男にはいろいろと聞きたいことがあったのに。

閃光弾さえ放たれなければ自分はあの男を、明らかに普通の人間である男を適当に痛めつけて――といっても軽く腕を捻ったり、デコピンする程度で、あの男に大怪我をさせるようなことはしない――なぜショッカーを知っているのかを聞きたかったのだが。

(仕方ないか……)

逃げられてしまったのは痛かった。

とりあえずはあの男を出来る範囲で探しだそうと判断し、自分のバックを取ろうとベンチに振り向くと。

「……」

「なんですか、高町くん」

恭也と喋ったことのないもう一人の少女が自分を睨んでいた。

普通の人間だったら二人の視線に恐怖を覚えるだろうが、心にとっては涼風のように受け流す。

「……あなたは一体何者なの?」

「ただの一般人ですよ」

それが何かと言わんばかりの心の答えに少女はカチンと来たのか、さらに睨みが強くなった。

心はそんな少女のことを見向きもせず、恭也と忍の間を通ろうとしたとき。

「待て」

心の行く先を、肩をつかんで止めさせたのは恭也だった。

恭也は彼に聞きたいことがあるのだ――今すぐにでも。

「……」

「あのスピード、それにショッカーというのは一体」

「高町くん」

心はゆっくりと顔を恭也のほうへ振り向く――優しい笑顔を浮かべながらも、目は決して笑っていないその顔を。

「世の中には知ってはいけないこともあるんだ……それを知ってしまうと後悔するよ?」

「その知ってはいけないことを、俺は多少なりにだが知っている」

「それでショッカーを知らない……か。 笑えるね」

心は恭也を馬鹿にするかのように嘲る。

それも知らないでなにを知ったかぶっているんだか……。

「それに、知ったところで何になるんだい? 君にとって何か利益にでもなるの?」

「それは……」

「何もないでしょ? だから俺は何も喋らないよ」

心は恭也にそう冷たくあしらい、肩を掴んでいる恭也の手を振り払う。

ベンチにおいておいたバックを手に取り、雪奈に目を向ける。

(へぇ……)

心は思わず驚きと関心を含めた声を心の中であげた。

雪奈は申し訳なさそうに頭を俯かせながらも、上目で自分を決して恐れを含まないで自分を見ていた……普通の女性だったら自分を恐れるはずなのに。

「ごめんね、雪奈さん。 今日はちょっと用事が出来ちゃったから帰るね」

「……えぇ、今日は御免なさい。 バカ二人のせいで気分悪くさせちゃって」

「ううん、別に気にしてないよ。 それじゃあね」

心は雪奈に優しく微笑み、この場を後にしようと歩き出すと。

「なっ、待ちなさ――!」

忍が心を引きとめようと声を上げながら心を追いかけようと足を進める……が。

「待つのはあなたよ、忍」

背筋がゾクリと感じ、忍は壊れた機械のようにぎぎぎ……と妙な音を立てながら首を動かして、雪奈を見ると――すぐさま見なきゃ良かったと後悔した。

なぜって? それは。

「忍、それに恭也、あんたたちはな・ん・で……わたしたちの後ろから出てきたの?」

決して温かみを感じさせない、冷たさだけを感じさせる微笑みを見せる雪奈の姿があったのだから……しかもその冷たさというのは半端じゃない、まるでブリザードを直に食らっているようなそのくらい冷たい。

「あ……いや、それは」

「ふぅん、何も答えないんだ……どうして?」

雪奈が一歩踏み出すと、二人は一歩後ずさって、すぐさま視線をあわせる。

(に、逃げるわよ、恭也!)

(忍……あきらめろ)

恐怖によって混乱する忍に対し、恭也は最早諦めていた……。

兄ゆえにもう分かっているのだ……雪奈からは逃げられないのだと。

 

「少し……お話でもしましょうか?」

 

指をボキボキと鳴らしながら、冷たい微笑みを浮かべて、ゆっくりと二人の下に歩き出した。

 

それから数秒後には二つの悲鳴が響いた。

* * * * *

心は注意深く辺りを見渡しながら人賑わう街中の歩道を歩んでいた。

あの男がいる可能性は低いだろうが……とりあえずは近場の場所で探し出したほうがいいだろうと心は思って、歩いているわけだが。

(いるわけないか……あんな目立つ人が)

心ははぁとため息をつく……分かっていたこととはいえやはり落胆してしまう。

「くそ……っ」

小さな声で思わず悪態をつき、コンクリートの地面を軽く蹴ると同時に、先ほどのことを思い出し、自己嫌悪を覚えた……先ほどの恭也たちに対する接し方は冷たすぎたなという自己嫌悪が。

(ショッカーのことになるとああなる自分が嫌になる……)

思わずため息をついて、自分の額にゴスッと拳を軽くぶつけて、書店の壁に寄りかかった。

このまま座りたい気分だが、下は地面なのでそういうわけにはいかない……気分はもう最悪だ。

「……ショッカー」

ショッカーを潰し、戦いはもう終わったと思っていた――あんな悲しくて辛い戦いは。

しかし、それはすぐに間違いだと思い知らされた。

潰したショッカーによって作られた改造人間は多く生き残っており、その殆どは自分を倒せという洗脳を受けた者、サイズマンティスのように心が壊れた人間が存在していた……。

心は向かい撃つ彼らを倒していった……無論説得も心がけたが、全て無駄に終わった。

結局ショッカーから逃れられないのだと改めて悲嘆を感じるが、それをも超える精神的な苦痛が心に襲い掛かった。

それは――。

「っ!」

自分を睨みつける鋭い視線に気づいた心はすぐさま寄りかかっていた身体を立て直し、あたりを見渡す――しかし、あたりは誰も自分を睨みつける視線はないし、さっきの視線はこの辺りからではなかった……だったらどこか、それは。

(上かっ!)

辺りではないとすると、考えるべきなのは上から――しかも目の前には四階建ての大型スーパーがある。

心はすぐさま横断歩道を渡り、大型スーパーに向かって走り出した。

* * * * *

「くく……っ、きやがったきやがった」

大型スーパーの屋上にて、一人の男がニヤニヤと笑っていた。

屋上のフェンス越しに街を見下ろす男の目に映ったのは、それは蟻の様に道路を行き来する人の中、一人の青年がこのスーパーに向かって走っている姿。

「他の連中には悪いが、一番先にやらせてもらうぜぇ」

予定された日に連中と一緒に戦うはずだったが、自分はそれが気に食わなかった。

奴だけは自分の手で殺さなければならないのだ、連中なんかに渡してなるものか。

(そうだ……奴だけは、俺がぁ!)

憎悪の炎を滾らせ、ギリギリと音を立てながら強く拳を握り締めると。

バダンッと扉が開く大きな音が聞こえ、振り向くと。

「来たかぁ……」

「……」

そこには息を一つも乱していない、厳しい目で自分を睨みつけている、一人の青年が――自分にとって憎むべき相手である本郷 心の姿があった。

* * * * *

心は手に持っているカバンを投げ捨て、目の前にいる男に対し油断なく構える。

「おいおい、自己紹介もしないで戦うってか? せっかちだねぇ、仮面ライダーさんよ」

ニヤニヤと笑いながら、男は自分を睨みつける心と向き合う。

男は心に問いかけるが、心は何も答えずにただただ構えているだけだ。

「ダンマリか、まぁいいや。 おれもそんなに手前と話す気はねぇし」

男のにやけていた顔を俯かせて、両手を力強く握り締め、血を吐くような思いで言葉を紡ぎ出した。

「ようやく、ようやく……てめぇを殺せる」

「……」

「てめぇのせいで、てめぇのせいで、おれの妻は……アリナは」

男が顔を思い切り振り上げると、そこにはもう人間の顔ではなかった――そこにいたのはメタリックなクリムゾンレッドの蠍の仮面とスーツを着用した異形、スコーピオンとなった。

「てめぇが、組織を裏切らなければっ、アリナが死なずにすんだんだぁ!!」

憎しみと悲しみの混じった声に、心は眉をピクリと動かして目を伏せる……がすぐに目を見開き、ブレザーのボタンを外し、ブレザーを手で思い切り翻すと同時に、Yシャツの上には銀色のベルトが装着しており、その中心の風車が急速に回転する。

ブレザーはスーツへと変わり、そして心は手に持っていた仮面を装着して、仮面ライダーとなった。

「いくぞぉ!!」

スコーピオンはそう叫ぶと、自分の右手に装着した鋏みを振り回す。 
竹割り、袈裟懸け、薙ぎ払い、突き。

しかし、そのいずれも仮面ライダーが受けることはなかった、それどころか掠りもしない。

「く……うおおおぉ!」

攻撃があたらないことに苛立ちを覚えたスコーピオンは鋏を上段に構え、振り下ろそうとするが。

「――ふっ!」

その前に仮面ライダーがスコーピオンの腕を掴んで、振り下ろすのを防いだ。

そしてスコーピオンの空いた右脇腹に力をこめたキックを繰り出す。
 
当然スコーピオンは攻撃を防ごうと動きだしたが、自身の右腕が掴まれ、左手を使おうにもうまく動かせない上に、仮面ライダーの放つ攻撃が速い。

結局キックを防ぐことは出来ず、仮面ライダーのブーツのつま先がスコーピオンの脇腹に突き刺さる。

「ぐおぉ!」

スコーピオンが苦痛の声を上げながらも仮面ライダーは容赦なく。

ドッ! ドッ! ドッ! ドッ! ドッ!

スコーピオンの右脇腹を更にキックの五連撃を叩きつけ、力強く握り締めた左拳で仮面越しでスコーピオンを殴る。

攻撃から逃れようにも鋏を掴まれているうえに、ダメージが蓄積されていって、うまく逃れられない。

「くっ、なら――」

スコーピオンの口部分がカシャッと開いた。

それを見た仮面ライダーは危険を察知し、すぐさま鋏を手放して間合いを離す。

「シュッ――!」

スコーピオンの口から針タガネ径二mmの太い針が飛び出し、それは仮面ライダーに直進的に飛んでいく。

仮面ライダーはその針をパシッと難なく掴み、それをスコーピオンに投げ返す。

「なっ、はやっ……」

仮面ライダーが投げ返した針は速い……自分が放つよりも格段に。

スコーピオンはダメージが大きすぎたせいで避けようにも避けきれず、自分の胸に深く刺さってしまうと同時に。

「ぐ……うおおおおおぉぉおおぁあああああ!」

スコーピオンの身体中から煙が噴出し、激痛に耐え切れずに叫びだした――どうやら先ほどの針は、ただの針ではなく、毒針。

しかもかなり強いものであろう、所々スコーピオンのスーツ越しから液体のようなものが溢れ、流れていっている……溶ける音や肉が焼ける音に仮面ライダーは仮面越しに顔を歪める。

「ぎ……ぐがが……」

それでもスコーピオンは溶けかけている腕を持ち上げ、焼ける音を立てる足を進めるが、すぐさま足を崩して倒れる――しかしゆっくりと顔を上げ、自分を仮面越しで睨みつける。

「お、おま、が、なん、で」

「……」

「い、いき、いきて、る、んだ…………」

最後に恨み言を仮面ライダーに言い渡し、溶け死んだ。

 

 

仮面を外し、心はゆっくりと息を吐いた。

「……すみません」

スコーピオンがいた形跡――彼のすべては溶けきってしまい、何もないただのコンクリートとなってしまった場所に黙祷し、心は謝罪する。

あれほどの憎しみを叩きつけられたというのに、平然と謝れるようになり、黙祷もささげられる自分に嫌になってしまう……。

(慣れって嫌になるものもあるんだな)

初めての時は泣き叫びながら懺悔をしたというのに……。

先ほど上げた、悲嘆を感じるがそれをも超える精神的な苦痛――それは先ほどのスコーピオンのように、自分に憎しみを持った改造人間たちに襲撃。

それは自分たちのしてきた行いが間違いじゃないかと感じさせるような悪夢のようなものだった。

彼らは言った。

『お前が組織を裏切らなければ――』

『あんたが組織を裏切らなきゃ、こんな身体に――』

『お前のせいで、娘は、家族は――』

『貴様のせいで、人生が――』

正直自殺しなかったのが、不思議なくらいだ。 あの時聞こえた声がなければ、自分は死んでいただろう。

しかし、彼らの憎しみはもっともだ。

自分のせいで多くの人の人生を狂わせたのだ……彼らにこの命をくれてやるべきなんだろうが。

(そういうわけにはいかない)

死ぬわけにはいかないのだ。

まだショッカーの残党は残っており、新たな戦いが始まるのだ……そして決めたのだ。

「かっこ悪くても生きる……身体(プライド)が尽きる、そのときまでに」

心は決意をこめた表情で沈み行く太陽を見つめる。

 

 

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