「ふむ……もう少し右か」

朝日が少し昇ったという時間帯に、この高町家の長男である恭也は庭先で盆栽の手入れをしていた。
……若者が盆栽をやっていると言う姿は、普通ならば違和感を感じるはずなのだが、恭也だけにはそれを感じられない、いや感じるなどの問題どころか、似合いすぎる。

恭也は高校生――一年留年しているが――にしては落ち着いた物腰なため、年相応に見られない所以なのか違和感を感じられないし、趣味が盆栽いじりと釣りというためか、違和感をまったく感じさせない。

若者としてそれはどうかと思われるが、恭也にとってはどうでもいことなんだろう。

寧ろ本人にとってはこちらのほうが心地よいのだろう……。

「むぅ、こんなところに枝が……すぐさま切除しなければ」

微妙なところに生えている枝に恭也は慎重に盆栽に鋏をいれ、チョキンと切り落とす。

「ふむ、中々の出来だな」

綺麗に切りそろえることが出来た恭也は満足げに息を吐きながら、腰を曲げすぎたせいで固まってしまった身体を上半身を伸ばすことで解しながら、腰をトントンと軽く叩く。

「……相変わらず爺くさい奴だな」

「む?」

そんな恭也に呆れたようにかけたのは、恭也にとっては数知れない友人、赤星の声だった。

何時の間に庭に入ったのだろうと思いながら、身体を振り向かせると。

「!?」

戸惑いと驚愕のため、目を見開かせてしまった。

赤星がここにいることで出したのではない、それは問題外だ。
寧ろ自分が戸惑いと驚愕を出している原因というのは。

「やぁ、おはよう、高町君」

赤星の後ろに、昨日険悪なまま別れてしまった本郷心がいたのだから、驚愕するのは無理というもの。

「…………あぁ」

昨日あんなことをしでかした恭也にとっては気まずいとしかいいようがなかった。

「驚いたよ、まさかここが君の家だったなんて」

不審な目で睨みつけたにも関わらずに、至って変わらぬまま笑顔で自分に接してくれる心。

そんな彼に恭也は思わず目を瞠るが、ふと心の言葉が気になった。

「? それってどういう意味だ、本郷さん?」

赤星も恭也と同じことを思ったのか、彼よりも先に心に訪ねる。

そう、先ほどの心の言葉はまるで一度ここに来たかのような言葉だったのだ。

「っん、実はね俺って一度ここを通ったことがあるんだ。 そのとき、一度高町君や雪奈さんに会ったんだけど……」

「なに?」

心の言葉に思わず耳を疑う恭也。

自分が家路に帰っている最中、心とは一切会っていないはず――というより学校以外で会った覚えもない。

それでは一体何処で会ったのか?

恭也は軽く首を傾げながら思い出そうとするが、まったく思い出せない……一体自分はどこで心と会ったのだろうかと考えると。

「あー!」

突然の大声によってそれはさえぎられた。

大声に驚いてしまった三人は思わず、そこに顔を向けると。

「なのはじゃないか、いったいどう――」

縁側にはボサボサの髪のまま呆然として立っている、なのはの姿に恭也は驚きつつも怒気を孕ませた声で言う。

年頃の娘が他人にそのような姿を見せるとは恥ずかしく且つ失礼なのかを言おうと恭也が口を開こうとするとき、

「心さん!!」

恭也の言葉には取り次ぐ暇もなく、なのはは縁側から庭へと飛び出し、心の元へと駆け寄って勢いよく心の腹部に抱きついた。

(うごっ……っ!)

この場に居る恭也と赤星は心の中で心に合掌した。

その理由は、なのはの勢いのついた抱きつきによって、彼女の頭が心の腹部に強烈な衝撃は奔った――しかも丁度上方中央の部分、所謂みぞおちであり人体急所にジャストヒットしてしまったからだ。

これにはいくら心でもさすがに痛みを感じないはずもなく、悶絶してしまいそうな痛みが心に襲い掛かった。

痛みのあまり、思わず呻き声を出してしまいそうになってしまったが、それは心の中で呻いた。
もしも呻いてしまったら、なのはが罪悪感を抱いてしまうし、傷ついてしまうので、外に出すのを耐えることができたし、

「…………ははっ、こんにちわ、そして、おはよう、なのはちゃん」

顔を若干青くしながらも、顔をなのはに向きながら笑みを浮かべると、なのははそれに返すように太陽な輝きを見せる笑顔を浮かべた。

「はい、おはようございます! ……あれ? でもどうして心さんがここに?」

「うん? あぁ実はね、赤星君が一緒に朝食って言っていたんだけど、どうしてか……」

心は困ったようにだけども問いかけるような視線を赤星に向ける。

そんな視線に赤星は「大丈夫、高町がなんとかしてくれますから」と答える。
無論それに反論するのは、恭也だ。

「なっ、あかぼ――」

「別にいいだろ? 借りの二つ目、使わせてもらうぜ」

文句を言おうとした――唐突の言葉に対してだけ――恭也だが、赤星は意地の悪い笑みを浮かべながら言葉をつむいだ。

そんな赤星の言葉に恭也は「うっ……」とうめき声を出すだけでなく、固まってしまう。

赤星の言う『借り』というのは、文字通り恭也が赤星に借していること――主に宿題や勉強が多い。

万年居眠りな恭也は赤星に勉強を教えてもらうだけでなく、宿題も見せてもらうこともある……まさか妹の雪奈に助けを求めることなど兄の威厳にかけてできるわけがない。

……兄の威厳云々等を言うが、ぶっちゃけ雪奈は恭也には何も教えないし、宿題を見せてくれないので自分の力で何とかするしかないのだが。

そんなことが数多くあるため、恭也は赤星に借りを作りまくっているのである……。

『?』

そんな恭也たちの内部事情など知らない心となのはは話に付いていけず、疑問を持つが、とりあえずは置いておこうと思って、お互い彼らから視線を外した。

そのとき、ハッと心は気づいた――自分の服が汗まみれで、臭っているかもしれないと。

「なのはちゃん、ちょっと離れたほうがいいよ。 汗臭いでしょ?」

「うにゃ? 心さん、もしかして汗掻いたまま、家に来たの?」

「うん、だから――」

離れたほうがいいよと、心が言う前に。

「駄目じゃないですか!」

「え?」

なのはに怒鳴られてしまった。
唐突の出来事に、心は目が点になって呆然とする。

「もう汗掻いたままじゃあ、駄目じゃないですか! 風でも引いたらどうするんですか!」

「え……でもまだ春だし、そんなに寒くは」

「それでも駄目ですっ!」

「え、あ、はい。 ごめんなさい」

怒涛の勢いで自分を責めるなのはに折れたのか、心は素直に謝る。
しかし、なのはの勢いは止まることなく、ガシッと言わんばかりの力強さで心の手をつかんだ。

「ほらっ、朝ごはんを食べる前に、シャワーを浴びてきてくださいっ!」

いつの間にか、この家で朝食を食べることになっていることに、思わず目を瞠る心。

「え!? でも、迷惑になる――」

「いいから! ほら、案内しますから!」

なのはは有無を言わさずに、言葉を濁す心を引きずっていった。


赤星との争いに敗北した恭也は、そんな光景を横目に見ていた恭也は(やはり、なのははかあさんの子だな)と複雑な気持ちになる。

普通ならば嬉しい気持ちになるのだが、母親が母親だからだ。

母の高町桃子は心優しいのだが、その反面あらゆる意味で気が抜けない相手故に恐ろしい相手だからだ。

母の心優しいところを似ていってくれるのは良いが、反面部分は似ないで欲しい。

恭也は心からそう思った。

* * * * *

シャワーからお湯が幅広く撒かれ、それを自身の身体を浴びさせる。

熱さに思わずビクッと身体を震わせてしまうが、熱さに慣れてしまえばそうはならなくなり、シャワーのお湯を浴び続ける。

「ふぅ」

心地よいお湯にほっと一息つき、湯気によって曇ってしまった鏡を手で拭った。

「……また大きくなったわね」

自身の身体のある部分を見て、思わずため息をついてしまう。

これ以上大きくなっては困るというのに……。

「それに肩がこるのよね、困ったものだわ」

もう一度、けれどもさっきよりも憂鬱が籠もったため息をついて、その部分を救い上げるかのように持つと。


突然、ガラッと横開きにドアが開き。


「ここが……うにゃ?」

「…………へ?」

「……」

三者三様の反応をそれぞれした――しかし表情は一緒で、全員はポカンと呆けた顔をしていた。

だが、それは一瞬だけ。

シャワーを浴びて、ある部分――Dカップに近くなった胸を掬い上げるかのように持っている長女の高町 雪奈が、なのはの隣にいた心の姿を確認すると、顔が急激に真っ赤になっていき。

「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!」

滅多に悲鳴を上げない彼女が、家全体に響き渡るような悲鳴を上げた。

* * * * *

「し、失礼いたしましたぁ!」

「ご、ごめんね! 雪奈お姉ちゃん!」

雪奈の濡れた身体や健康的な色気を感じ見た心と姉のあられもない姿を見たなのは、二人は雪奈と同じように顔を真っ赤にしながら、浴室から慌てて廊下に出る。

「はわ、はわわわわっ」

「…………っ」

片方は頭の中が混乱しているのか両頬に手をやって頭を振るい、もう片方は額に手をやって壁に身を任せるといった、それぞれの反応を示す。

自分を落ち着かせようとしているため、お互い自分のことで精一杯なため、何も言えない状況が続くと……。

「どぉりゃー!」

「!?」

気合の入った叫び声が突然聞こえ、反応した心はすぐさま伏せた。

その直前、先ほどまで壁に寄りかかっていた体があった場所に、短髪の青髪少女が飛び蹴り――両足を使っての蹴りを放っている姿があった。

「ちくしょ……って、なのちゃん!?」

「はわっ……ってふにゃ!?」

対象がいなくなったことにより、その隣にいたなのは――混乱してたために聞こえなかった――に放たれると思いきや。

「っ!」

その前に、心が反応した。

心はなのはに蹴りがぶつかるその直前に、両手を伸ばし、短髪の青髪少女の両脚を掴むことに成功した。

「ふぅ……よかった」

なのはに当たらなかったことに安心した心は一息つくと。

「どおりゃああああ、死ねぇ、変態!」

「でぇえええええい!?」

一難去ってまた一難。

今度は緑髪の少女が自分に向かって拳を振りかぶっている姿があった。

驚愕しながらも、心は躊躇いもせず両手で持った青髪少女を。

「せぇぇぇい!」

「はぉあ!?」

「どわわわぁぁぁぁぁぁぁあああ!?」

「にゃああああああ! 晶ちゃーん!?」

まるで武器を扱うかの様に、上段から下段へと振り下ろしを行ったのだ!

心の突拍子もない行動に、驚きのあまり目を見開く緑髪の少女と、何とも色気のない悲鳴をあげる青髪の少女――城島晶に、驚愕の声をあげまくるなのは。

「晶!」

緑髪の少女、(ふぉん)蓮飛(れんふぇい)――レンは振りかぶる拳を止め、青髪の少女を受け止めようと両手を頭上に構えるが。

心は武器(あきら)は少女の鼻先寸前で止め――ることができなかった。

(しまっ……)

心が踏み込んだとき微妙に足がずれてしまい、そして力んでしまったために、上手く寸止めができなかったのだ。

それがとある悲劇を生むことになる。

二人の少女が禁断の、女の子同士のキスを行っていると言う光景を――しかもチュッと軽いリップ音が辺りに響かせての。

「あっ……」 「……にゃっ?」

心となのはは呆けた声を出してしまった……。



ちなみになぜこのようなことになったかを説明しよう。

まず両手を頭上に上げて晶を助けようとしているレンが傍から見れば落ちているかのように晶を助けようとする。

しかし、先ほど心がずれてしまったために、両手は空しく空振ってしまった故にレンは微妙にずれてしまった晶を助けることができなかった。

そしてその代償に、キスをしてしまったということだ。








『――――! おええぇぇぇぇぇええ!』

晶は力が抜けている心の両手からすぐさま抜け出し、レンと背中合わせになるかのようにして、お互い吐き気を催していた。

心となのはは先ほどの光景が衝撃的過ぎて、ただただ二人を見ることしか出来なった。

「ふぅ……ってなに!? レンと晶、どうしちゃったの!?」

ようやく頬を赤くした雪奈が出てきて――心を見てさらに赤く染まったが、それは二人の吐き気を催す光景によって、すぐさま収まった。

流石の《雪の女王》という異名を持つ雪奈でも驚愕し、原因を知っているだろう心となのはに尋ねる。

「え、えぇっと……」

「な、なんといえばいいんでしょ……」

心となのははお互い顔を見合わせ、口ごもってしまう。

原因は間違いなく心――例え事故だとしても――ではあるが、先に攻撃を仕掛けたのは彼女らであり、心はただそれを返り討ちにした挙句にキスをさせてしまいました等……。

(どうやって、説明すればいいんだろう……)

ごもっともな意見である――最初のほうは簡単に説明は出来るが、後半のほうになると説明しづらい。

流石に混沌すぎて、且つどうやって説明すればいいのだろうと、心は思わず頭を抱えてしまった。




後書き

ようやく就職活動や単位収集も終えて、自由になりました。
これから社会人ですが、小説執筆はやめません。
遅くなってしまい、大変申し訳ございません。



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